日本航空撤退による 地方航空路の利便性変化に関する 実証分析 国際基督教大学 教養学部4年 砂田 健揚 自己紹介 • 氏名 砂田 健揚 • 所属 国際基督教大学教養学部国際関係学科 経済学専攻 八代尚宏ゼミ • 趣味 鉄道、航空マニア • →都市経済、交通経済方面に強い興味 • 寡占理論=初の東大講義聴講 • 自宅 龍岡門から徒歩30秒 自己紹介 本日報告の研究が、 経済学研究科の院試提出論文になります。 報告の流れ • • • • • • 研究の概要 問題意識から、研究テーマに至るまでの過程 使用した理論モデル 定式化の説明 実証分析 結果 研究の概要 • 問題意識; 日本航空の経営危機は日本経済にどのよう な影響を及ぼすのか • 研究の目的; 日本航空経営縮小に伴う特定路線の廃止が 航空サービス利用者にもたらす損失額の導 出 研究の概要 • 研究で行ったこと; (1)航空旅客の主観的時間価値を効用最大 化問題を定式化して導出し、数値化する(理 論パート)。 (2)導出された時間価値をもとに、日本航空 の路線縮小によって利用者が被る厚生損失 の金額を定量的に分析する(実証パート)。 問題意識;研究テーマに至るまで 2009年秋 日本航空の経営危機がメディアを賑わせる その殆どが年金に注目 →…しかし、年金問題がどうにかなれば日本航空の問題 はすべて解決するのか?疑問。 年金はあくまで社内の問題。社会的な影響の大きさ? 研究テーマに至るまで(2) • 日本航空の経営縮小計画 • 早期退職募集、老朽機材退役、路線規模の縮 小…etc. • 路線規模の縮小? • 廃止対象路線の旅客は損失を被る • メディアでの言及少ない →一般に影響小さいと認識されている? 2010年度廃止対象 31路線 研究テーマに至るまで(3) • 実際、損失の値はいくらになるのか? →既往研究(当然ながら)なし • 自分の(特に数学的な意味での)能力でハン ドル可能なメソッドを考える必要 →交通に関する分析で一般に用いられる離散 選択が使用不可、等々 分析の手法検討 〜費用便益分析の応用〜 • 問題点1; 厚生損失の値をどのようにして測るか? →基礎的な費用便益分析の考え方によれば、当 該路線利用客の厚生損失額を測ればよいはず。 つまり、現在その路線が就航していることが旅客 にもたらす便益を測れればよい。 分析の手法検討 〜代表的個人〜 • 問題点2; 消費者が航空サービスから得る効用? 人それぞれ、定式化困難 しかし、どのようなタイプの個人に対しても便 益をもたらすような特徴は存在するはず。 →時間短縮効果 分析の手法検討 〜厚生損失額の定式化〜 • 個人が航空サービス消費から得る効用が時 間短縮効果に帰結すると仮定 • すると、厚生の変化は簡単な式で表せる。 • 路線あたり厚生変化額 =代替交通機関との所要時間差×(1人1単位 当たり)時間節約価値×旅客数+α 分析の手法検討 〜簡単な計算式〜 所要時間差×時間価値×旅客数 • 問題点3; ...簡単すぎる。 所要時間差→時刻表から 時間価値 →通常、平均賃金(時給)を使う 旅客数 →統計データあり ただの代入計算。 分析の手法検討 〜時間価値の検証〜 所要時間差×時間価値×旅客数 時間価値は本当に平均賃金でよいか? 普通に考えると、賃金が高いほど航空需要量大。 →賃金と需要の内生性 節約時間価値 • 賃金水準をそのまま使用することなく、個人 の時間短縮に対する評価を定量化する方 法? • DeSerpa(1971) →節約時間価値の概念を提唱 DeSerpaの定式化 • それぞれの財には、価格以外に時間に関す る属性が存在 つまり、財を消費するのに時間がかかる。 • 各個人はお金と時間を持ち、それらを各財の 消費に配分する。 DeSerpaの定式化(2) • 予算制約と時間制約を含む効用最大化問題 • 効用関数; はi財の消費量、 はi財 必要な時間。 単位の消費に DeSerpaの定式化(3) • 制約条件; • 予算制約に加え、時間制約が2本。 • は、各財1単位消費に必要な最小時間。 • これらの条件の下で、効用最大化問題を解く。 DeSerpaの定式化(4) • 効用最大化問題は、 である。 DeSerpaの定式化(5) • ラグランジェ関数を定義 • このとき、その個人のi財消費に関する時間 節約価値は、 で表される。 DeSerpaの定式化(6) • なぜ節約時間価値は ? • i財消費時間短縮の限界効用を所得の限界 効用で除している。 →Roy’s Identityと同じ原理 DeSerpaモデルを使用した研究 • 河野・森杉(2000) 比較静学により、買い物目的の交通時間価 値変動の符号、程度を検証 • 森川・姜・祖父江・倉内(2002) 自動車移動における個人属性別の時間価値 を、旅行時間の関数として導出 等々、日常的な近距離交通においてアンケー ト等の個票データを用いた研究が多い DeSerpaモデルによる定式化 消費者の効用関数を とする。ここで、 =合成財消費量 =航空サービス消費量 =余暇時間 =航空サービス1単位消費当たり所要時間 である。 DeSerpaモデルによる定式化(2) 消費者が直面する制約は3つで、 予算制約; 移動時間の上限制約; 移動時間の下限制約; である。ただし、 =航空サービス単価 =代表的個人の所得 =可処分時間 =航空サービス1単位当たり所要時間の下限値 である。 DeSerpaモデルによる定式化(3) • 以上の条件の下での効用最大化問題は、 である。 DeSerpaモデルによる定式化(4) • ラグランジェ関数は以下のようになる。 • DeSerpa元モデルと同様に、節約時間価値は である。 節約時間価値関数 • これを解くことにより、節約時間価値 を得る。 • 節約時間価値は、θ及び合成財消費量の増 加関数である。 実証分析 • 前項の節約時間価値関数に航空旅客に関す るデータを代入し、節約時間価値を求める。 • 右辺において未知の値はβとθ。これらの値を 導出すると、節約時間価値が導出できる。 実証分析(2) • データについて • 航空産業に特化した統計データとして使用可 能なもの=国交省航空輸送統計調査のみ →本分析に適用可能なものは路線別需要量 のみ • 他データは一般的なものを使用する(賃金、 余暇時間)か、自分で作る(運賃、航空所要 時間)必要性。 実証分析(3) • 予算制約がBindingであることから、1−βは所 得に占める航空サービス支出額比率にかな り近い(厳密には多少違う)と考えられる。 • データより与えられる航空サービス支出額比 率は0.000203である。これを1−βの値として採 用すると、 を得る。 実証分析(4) • 導出されたβ及び与えられているデータより、 効用最大化問題の一階条件式を用いてθの 値を推計する。 • 一階条件式を整理することで、回帰式 を得る。 実証分析(5) • 推計表 実証分析(6) • 推計した結果、 を得た。 実証分析(7) • 導出されたβ、θの値を節約時間価値関数に 代入することで、平均的航空旅客の節約時間 価値が求められる。 • 平均的な航空旅客の節約時間価値はおよそ 1939円/時。 実証分析(8) • 1939円は高いのか安いのか? データより与えられる平均時給は、1745円。 →若干高いだけ。 しかし、ここでの1939円は24時間を均等にな らしたもの。平均賃金は働いている7時間のみ のデータ。 →/時の意味が異なる可能性 実証分析(9) • ここまでの結論; 導出された主観的時間価値は単純に24時間 平均したとしても、平均時給をやや上回る。 →航空旅客の主観的時間価値は確かに時給 よりも高い。 • 次に、この値を使用し、全路線について厚生 損失額を計算する。 実証分析(10) • 厚生損失額の導出式 • 先ほどの、「所要時間差×時間価値×旅客 数」及び「運賃差×旅客数」の合計。 →つまり、実際の費用と機会費用の合計額。 • ここまでくると、単純な代入計算。 →導出は容易 実証分析(11) • 日本航空が撤退を発表、または既に撤退し た52路線について足し合わせる。 • すると、旅客の厚生損失額はおよそ -105億3650万円 となった。 • 損失額がマイナス →撤退によって旅客は得をしている??? 実証分析(12) • 損失の最も大きな路線 1 中部ー新千歳 24億4300万円 2 伊丹ー松山 14億1190万円 3 伊丹ー福岡 12億1080万円 • 損失の最も小さな路線 1 神戸ー新千歳 -72億200万円 2 神戸ー那覇 -44億9700万円 3 中部ー花巻 -15億9500万円 実証分析(13) • 新規航空会社の参入などによって、一部の 路線では厚生が上昇する。 • 多くの路線で厚生が少しずつ下落する効果と 、一部の路線で厚生が大幅に上昇する効果 が相殺し、後者の値が大きく出ている。 →JAL撤退は新規航空会社参入を促進し、全 体的には利用者の厚生を引き上げた。 • 参入のない地方路線の損失額は? 実証分析(14) • これらの効果を仮に取り除いてみる(厚生が 上昇する路線を落としてみる)と、旅客の厚生 損失はおよそ 96億7700万円 となった。 実証分析(15) • 平均賃金(1745円)を節約時間価値として採 用した場合の厚生損失はおよそ57億3500 万円であった。 • 40億円程度の差 →大きいか、小さいか? まとめ • この研究から得られたこと; • 航空旅客の主観的時間価値は平均賃金より高い。 このため、厚生損失の算出に平均賃金をそのまま 用いると過小評価になる可能性がある。 • 一部路線において他航空会社の参入による厚生の 大幅な上昇が観察される。トータルでは参入による 厚生上昇が損失を上回るため、必ずしも利用者は 損失を被る、とは言えない。 • しかしその内訳を見ると、地方路線の旅客について は看過できない額の損失が発生しており、路線間の 不平等が問題になる可能性は残る。 ご清聴ありがとうございました。
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