「地域文化における参加型アプローチの具体的手法」 ~長浜市を事例として~ Keyword : 文化参加 / コミュニティ活力 / ネットワーク / ソーシャルキャピタル 慶応義塾大学政策・メディア研究科 修士2年 岡田康宏 1.研究の概要と意義 研究の概要 本研究は地域文化に対する従来の保存型/ 消費型にかわ る新しい「参加型アプローチ」の提示を目的とし、長浜市の コミュニティ活力の形成過程をフィールドワークをとおして調 査分析する。 さらに、長浜と他の事例を比較、また共通要素を抽出し、そ の参加型アプローチを具体的手法として抽出する 研究の意義 長浜と他の事例との比較から抽出した「参加型」アプローチ を、他の地域、またはまちづくりの市民団体に適用可能な具 体的手法の形で提示する 1-1.研究の流れと進捗状況 研究の流れ アウトプット 進捗状況 工程 1 長浜の事例を調査分析 保存型・消費型との比較 類型化 コミュニティ活力形成 フィールドワーク 要因としての「市民の 文献調査 文化参加」という要素 抽出 比較・類型化 2 ケアセンター成瀬の事例と パットナムのイタリア南北 の事例と、長浜を比較 他種の市民参加と比 較し「文化参加」によ るコミュニティへの効 果の独自性を抽出 進捗 済 済 済 文献調査 済 比較 半 3 他事例と長浜を比較、共通 文化参加型アプロー 定性調査文献調査 点を抽出 チの具体的手法の抽 比較・共通点抽出 出 手法抽出 一部 4 1/2/3から保存型・消費型に 従来型に代わる地域 代わる新モデル提示 文化へのアプローチ Flow1-3のまとめ 未 モデル抽出 未 一部 未 2.定義 「地域文化」の定義 地域の土地や人に長い年月を経て蓄積された精神・技・歴史、 またそれらを含む人間の営み、行事、工芸品、建造物 (言い伝え、風習、祭り、芸能、伝統工芸、職人、伝統的建造物、遺跡など) *E・タイラー 「文化あるいは文明とは‥社会の成員としての人間によって獲得された知識、 信条、芸術、法、道徳、慣習や、他のいろいろな能力や気質(habits)を含む複 雑な総体である」 *リチャード・ドーキンス 「文化遺伝子(ミーム)」:人間の特異性として、人間には「文化といううスープ がある。人間の文化(習慣・様式・知恵・言語など)は非遺伝的方法によって 受け継がれていく。ミームが繁殖する際には、広い意味で模倣と呼びうる過 程を媒介として、脳から脳へ渡り歩くのである *Edward Burnett Tylor, ”Primitive Culture” *リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」 3. 従来型アプローチ 行政 ・博物館/ 文化ホールなどの施設中心の政策 ・建造物や史跡を文化財/ 国宝に指定し保存/ 復元 ・地域振興補助金 文化保存型 そのままの状態でとっておく =制限/除外 - 条例/法による建造物の保存 - 文化財・国宝指定 - 景観保存のための高さ制限 市民の意思反映が低い 閉鎖的 文化の多様性の画一化 消費型 使ってなくする - 文化芸術への経済的補助 - 文化イベント - 文化ホール建設 コストが高い(税金/企業の儲け) 一過性 効果に継続性がない 4.調査事例 滋賀県長浜市 街に残っていた築およそ100年の旧銀行の建物保存のため、地元中小商工 業者が中心となり出資を行い、市と共同で第3セクター(株)黒壁を設立。 ガラス事業を中心に、レストランや空店舗不動産業など事業を拡大し、売上 は年間約8億円に及ぶ。黒壁の展開に伴い、中心市街地の整備も進み、街 には年間200万人の人が訪れる。 - まちづくり/ 中心市街地活性化の先進的モデル 長浜市のまちづくりに関する先行研究 - 中央市街地活性化モデルとしての第三セクター黒壁の手法分析 - 経営学視点からの第三セクター黒壁の経営分析 - 歴史的町並活用事例としての長浜商店街の紹介 *(株)黒壁 会社概要 5.調査手法 参与観察 長浜市の任意団体(NPO法人格取得申請中)「まちづくり役場」 の活動に自ら参加しながら観察 - 黒壁・行政を含む様々な市民活動団体の情報 - 文献にはでてこない人々の会話や態度からの情報 定性調査 インタビュー調査(市民団体/黒壁/市職員/議員/商工会議所 商店街/市民ボランティアなど) 視察向け講演会の聴講 文献調査 長浜市統計書/ 市民アンケート/ 市民活動事例集 他 6. 分析 コミュニティ活力 地域文化 市民の文化参加 市民ネットワークの 創出・強化 歴 城 秀吉 史 瓢箪 自 然 梅 長浜城再建運動 - 出世祭り 秀吉博覧会市民ボランティア 愛瓢会(瓢箪) 盆梅展 神 寺 馬酔木展 大通寺を守る会 祭りへの参加 祭り保存会 観光ガイド-文化塾 神社 行 祭 事 しゃぎり 景 観 町並 ガラス 工 芸 ちりめん 黒壁 アートイン長浜 市街地町並整備 着物園遊会-着物集い 経済的効果 社会的効果 波及的ネットワーク 黒壁 プラチナプラザ 感響フリーマーケット まちづくり役場 -全国からの視察 -ほとんどの市民団体と -交流がある 博物館都市構想 7. 分析結果 黒壁以外に市民が長年にわたり文化参加してきた 祭り / 文化イベント / 保存会 / 観光ボランタリーガイド など 文化参加によって市民ネットワークは創出・強化され、さらに波及 的ネットワークをうみだす - 秀吉博覧会に参加した市民ボランティアスタッフ → まちづくり事業、環境対策事業、福祉対策事業 - 着物園遊会 → 着物の集い - 観光ボランタリーガイド → 文化塾 - 祭りを維持したい → 中心市街地活性化の必要性 → 黒壁 - 城再建のための寄付運動 → 黒壁の前社長に 効果 経済的 社会的 文化的 来街者増加 小売業売上増加 市民ネットワーク 環境/ 福祉対策 地域社会関心度UP 地域全体の文化維持 全国の人との交流 新しい文化注入 文化関心UP 8. 文化参加型アプローチ 長浜のコミュニティ活力の形成は、黒壁からはじまったもの、また黒 壁の経営手法によるものといわれていたが、実は形成要因の大きな 要素のひとつに、長年の市民による文化参加(Cultural Engagement)の蓄積という要素が存在していた *「ソーシャルキャピタル」 文化参加型 市民が文化活動に参加する - 歴史的建造物/町並の活用 - 文化イベント - 保存会、守る会 人と人との関係性を創出・強化する 参加=オープン=意思反映 コミュニティ活力(社会/経済的効果)の 波及的創出 人との交わりによる多様性の拡大 市民の参加による継続性の維持 動態的活用による波及的効果 *Robert D. Putnam “Making Democracy Works” 9. 分析② 具体的手法の抽出 地域文化 市民の文化参加 市民ネットワークの 創出・強化 コミュニティ活力 市民が文化参加するための手法 - - - - 文化イベントの実行委員会制 行政と市民のバランス(制度/ 補助金/ 参加機会のオープンネス 史跡・建造物の動態的活用 ネットワークの力をコミュニティ活力につなげる手法 - - - - 市民出資の会社設立 - 交流/情報交換の場 新たな継続的イベントの創出 - 地域問題(環境・福祉など)に対する事業 外部刺激(視察・大学など)の存在 10. 比較事例 ・YOSAKOIソーラン祭(新文化創出+市民の文化参加) 高知のよさこい祭りをヒントに札幌の学生達が仲間と始めた祭り 市民参加:第一回 10チーム1000人 / 第八回 330チーム 3万人 観客2百万人 道内137市町村 道外11都県 学生から始まり、商店街、行政、さらには道外の人々とのネットワーク ・大倉山商店街(新文化創出+市民の文化参加) 全長240メートルに渡る歩道をセットバックし、店舗をギリシャ風のデザインに 改造・統一した 総工費 23億円 1988/11完成 最初の数年は各店舗、売上倍増 → 今は閑散としている 11.従来型アプローチ+「文化参加」 ・真鶴町の「美の条例」(文化保存型+市民参加) C.アレキサンダーのパターンランゲージの手法に倣い、町にある美を、場所、 材料、コミュニティなどの8つの基準と69のキーワードで定義 町民参加:町民によるまち探検に基づくキーワード制定 500人に及ぶ住民説明会参加 ⇔行政からのトップダウン的な条例による景観保護(マスタープランなど) ・遠野市民センター(経済消費型+市民参加) 遠野物語や遠野に伝わる民話を素材とした手づくりの舞台 市民参加:市民有志や市民センター職員で構成される制作委員会 毎回400人以上の市民が制作に参加 これを機に市民の間には様々な文化活動が育っていった *「都市化とボランタリー・アソシエーションの実態に関する社会学的研究 *「美の条例」 五十嵐敬喜 学芸出版社 1996 12.研究のオリジナリティ ・長浜市のコミュニティの活力は黒壁の活動によって形成され た(先行研究) 長浜のコミュニティ活力の形成要因として、黒壁ではなく、 長年の「市民の文化参加」をひとつの大きな要素として抽 出する ・長年の文化的蓄積の有無が市民参加の有無につながる (Putnam のPath Dependence) 長浜を他事例と比較しながら、「参加型アプローチ」を具体 的手法として抽出することで、文化のPath Dependenceに 関わらず、他地域に適用できる
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