スライド 1

「技術の社会影響評価(テクノロジー・アセ
スメント:TA)」の意義と制度化の必要性:
欧米日の経験から学ぶ
2008年10月10日(金)
鈴木達治郎
(財)電力中央研究所社会経済研究所 研究参事
東京大学公共政策大学院客員教授(兼務)
社会技術研究開発事業 研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」
研究開発プロジェクト「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会へ
の定着」 代表者
[email protected]
1
目 次
• テクノロジー・アセスメント(TA)とは?
– 起源から最新動向までの変遷
– 活動内容の整理・分類
• TAの制度化・TA機関の分析と意義
– 米議会技術評価局(OTA)
– 欧州のTA機関
• 日本におけるTA活動と制度化にむけて
–
–
–
–
欧米との類似点、相違点は何か
なぜTAとその制度化が必要か
TA機関としての条件は?
制度化に向けての試案
2
要旨
• TAは「技術評価」ではなく「技術の社会影響評価」であるので、
基本的に政治的・社会的プロセスである。
• TAの活動は、当初の「早期警告」から、「構築的(同時進
行)」、さらに「市民参加」へと大きく変化・多様化している。
• 制度化は議会TA機関が中心であるが、米国では廃止になっ
た影響が出て活動が分散化、欧州では各国の政治社会状
況に応じて、多様な制度化のもとでTAは定着している。
• 日本では、断片的なTA的活動が多く、成果が上がっていな
い。制度化も出来ていない。
• 科学技術と社会の関係をより建設的なものにするためには、
TA活動を知的社会基盤として根付かせ、定常的なものにす
る「制度化」が不可欠であり、具体化にむけて活動を始める
ことが必要である
3
第3期科学技術基本計画
• 科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への
責任ある取組(第4章1)
• 国民の科学技術への主体的な参加の促進(第4章
4)
• 具体的な取り組みとしては、「科学技術に対する社
会・国民の関心と理解を得るために、各府省が十分
な取組を行うことが重要であるが、総合科学技術会
議としてもこうした取組を促進する。特に、政策目標
の達成状況の把握及び発信、科学技術に関する情
報発信と国民との窓口機能の拡充、国民の科学技
術への参加の促進を図る。」(第5章2(3))
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RISTEX公募研究プロジェクトの目的
• 21世紀型の先進技術に適した新しいTAの手法を開
発する.
– 研究開発段階からのTA手法
– 技術の革新的発展に起因する社会影響の不確実性に対応できるTA
(不連続な影響と幅広い社会影響)
– 社会の価値観の多様化に対応できるTA手法
• それを社会に定着させるための制度論的提言を行う.
– 縦割りの既存の規制や行政システムへの接続を考える.
– 企業、業界等、民間レベルでも利用可能なTAを構築する.
– 国際的連携のもとにTAを進める.
5
TAとは?
- TA活動の変遷と整理 –
6
TA:定義と起源(1)
• 1966 E.Daddalio議員報告
– 「科学技術が社会に与える影響について『早期警告』を与える機能が
必要」
– 67年、議会に技術評価局(OTA)設立を提案
– 背景にSST論争(行政府に対する不信)
– 1972年の法案成立まで、理事会から非議員を外したり、機関の権限
が拡大しないようにするなど専門家や議員による法案修正が続いた
• TAの定義: 「早期警告」と「可能性提示」
“..identifying the potentials of applied research and technology and promoting ways
and means to accomplish their transfer into practical use, and identifying the
undesirable by-products and side-effects of such applied research and
technology…in order that appropriate steps may be taken to eliminate or minimize
them…”
(OTA Bill introduced by E. Daddalio, 1967)
7
TA:定義と起源(2)
-議会TA機関の機能
• 米国OTA法(1972)
1. 技術および技術開発プログラムのもたらす
現在及び将来の影響を明らかにする
2. 可能な限り、「因果関係」を明らかにする
3. 目的を達成する代替技術、手段を提示
4. 代替技術・手段による影響を比較
5. 分析結果を議会に提示
6. 更なる調査・研究が必要な分野を提示し、
必要に応じて自らも実施
8
TAの特徴
•
•
•
•
評価の対象は技術自体だけではなくその社会的影響
したがって評価は基本的に政治的・社会的プロセス
技術専門家だけでは不十分:学際的アプローチが必要
不確実性及び価値の多様性を考慮に入れることが不
可欠
• 政策提言ではなく、意思決定を支援するための選択肢
の提示とその比較が成果
→ 「技術評価」という訳はやめること
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TAの定義
• テクノロジーアセスメント(TA)とは、従来
の研究開発・イノベーションシステムや
法制度に準拠することが困難な先進技
術に対し、その技術発展の早い段階で
将来の様々な社会的影響を予期するこ
とで、技術や社会のあり方についての問
題提起や意思決定を支援する制度や活
動を指す。
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ジレンマ ー 予測不能性、経路依存性、政治性
• コリングリッジ (Collingrdige 1980)
– 技術の影響はそれが広く発展・普及するまで十分に予測できない
(情報の問題)
– だが、発展した技術は社会に定着しているので制御が難しい
(力の問題、経路依存性)
• エルスマ (Jelsma 1995)
– 「危険があるかもしれないという理由でできないことがあるが、
何もしなければその懸念が証明されるかどうか分からない」
• ファン・アイントホーフェン (van Eijntohoven 1997)
– TAは単なる科学的活動ではなく、「客観的」「中立的」情報を提供しない(cf. 科学
と政治の境界作業、科学と社会の共生産)
– TAは意思決定者が望ましいと思う選択であれば利用される
→ TAはその活動と利用の二重の意味で政治的
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TAの手法、制度としての課題
• 手法としての課題
–
–
–
–
どの技術が評価の対象となるべきか
社会影響はどの範囲まで対象とすべきか
定量化や予測が難しい影響をどう評価するのか
どの範囲の利害関係者・市民に参加してもらうのか
• 制度としての課題
–
–
–
–
誰(どういう機関)が実施するのか
独立性、中立性、信頼性をどう担保するのか
資金は誰が提供すべきか
最終的に政策決定にどう反映させるのか
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TA活動の変遷
•
1970年代:事前評価(早期警告)
– 背景:公害・環境・社会問題、巨大技術開発(ex.SST)の失敗
– 特定技術の社会への影響を(導入以前に)評価
– 悪影響の排除または最小化に重点
•
1980年代:構築的TA
– 背景:欧州において産業振興への科学技術の役割を高めようとする
動き。一方で、チャレンジャー・チェルノブイリ事故など科学技術リス
クへの関心
– 技術導入以前の開発段階から同時進行で評価
– 技術開発のもたらす利益の最大化に重点
•
1990年代;参加型TA
– 背景:倫理的問題、科学技術への理解や関心の衰退、GMO問題な
どリスク・コミュニケーションの重要性への認知高まる
– 技術評価に非専門家の意見を導入
– 技術と社会の関係を広く捉える
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構築的TAと参加型TA
• 構築的TA
– 早い段階から技術的影響を予期し、くり返し点検と調整を
繰り返すことで技術を《構築》する
– TAを通じて利害関係者が互いの見方を学習し、技術と社
会の双方について知見を深めることでTAを《構築》する
• 参加型TA
– プロセスを透明性の高いものにし、市民の間での議論や
社会学習を進める目的で、世界各国で実施されている
– 市民を参加させることは、彼らのローカル・ナレッジが有
用である(実質的)、民主主義として望ましい(規範的)、
意思決定過程を円滑にする(道具的)といった意義がある
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新しい概念の登場
古典的TA
新しいTA
科学の支配的役割
研究者と利用者の等しい役割(対話)
TAの可能性に高い期待
TAに控えめな期待
TAは単独の組織でおこなう
TAのための複数のプラットフォーム
問題定義にあまり注意せず
問題定義によく注意を払う
技術的解決策に焦点
可能な解決策を組み合わせる
TAの成果:研究報告
TAの成果:研究と議論
TA情報の道具的利用
TA情報の概念的利用
TAの結果は意思決定に編入する
TAは意思決定への触媒として
自律的なものとしての技術
人の創造物としての技術
Smits, Leyten & Hertog (1995), Remmen (1995)
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TA活動の整理
専門家
問題像提示
意思決定支援
ステークホルダー
市民参加
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TAの手法
専門家
• 形態学的分析
• インパクト分析
• トレンド外挿
• 関連樹木法
• デルファイ
• チェックリスト
• シナリオライティング
• モデリング
• 専門家審議/ヒアリング
• シミュレーション
問題像提示
意思決定支援
ステークホルダー
• フォーカスグループ
• コンセンサス会議
• シナリオワークショップ
• 市民陪審
• 多基準マッピング
• 芸術的手法(演劇・展示)
市民参加
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TA活動の整理
専門家
英POST, ドイツITA、など
によるナノテクノロジー報告
問題像提示
OTA報告書「不確実性時代
の原子力」(1982)
英王立協会「ナノテクノロ
ジー報告書」(2004)
意思決定支援
ステークホルダー
ラテナウ研究所「ナノテク
(統合技術)の未来ビジョン」
市民参加
スイス・コンセンサス会
議「電力の将来」
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TA制度化・TA機関の分析と意義
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米国OTAとそれ以降(1)
• 行政府に対する議会の技術評価、政策支援として、重要な役
割を果たす。
– 報告書のみならず、OTAと議会スタッフ間のコミュニケーションによる
情報共有・支援活動が重要
– スタッフが中心となり調査研究を行うが、外部の助言委員会を活用。
委員の選定・構成は慎重になされ、合宿などで委員同士の活発な議
論が促進された
• 「TA手法」というのはないが、問題に応じたアプローチを取り、
あらゆる利害関係者からの視点が公平に盛り込む手続きが
あった
• 政党中立性を制度で担保:民主党主導であったが、理事会
(TAB)は党・院のバランスが公平になるように構成
– しかし、SDI構想に関する報告書に代表されるような党派間対立も顕
在化
• 共和党議会になって、財政削減の対象として1995年に廃止
– 189名の常勤スタッフ(1995年度)、約2,200万ドル(1980-95年平均)
– 復活の動きは常にある(予算復活すればよい)が、実現していない 20
米国OTAとそれ以降(2)
• TA的活動は定着化しており、多種の機関で継続されて
いる。
– 全米科学アカデミー(NAS)、議会調査局(CRS), 会計検査院
(GAO)など多数の政府機関
– 大学、シンクタンク、NGOも多数存在
• しかし、活動が断片化・多様化し、包括的TAが減少。
独立性、中立性も担保できない状況
– 党派性の強いTA、主張型(advocacy)TA, etc....
• 個別事例で制度化を担保:研究開発法でELSI研究を
義務付け
– ヒトゲノム計画時には議会決定によりDOEやNIHのプロジェ
クト予算の3-5%をELSIに充当していた
– ナノテクのELSI予算は約4億円(2008)
• TA専門機関がないため、人材育成が難しい
21
欧州における議会TA
• 70年代:国際レベルの議論の影響(OTAの設立,OECD会
議)により,一部で議論が開始.しかし,米国とは社会法制度
(特に,行政と議会の関係)のあり方が異なることや,OTAの
目的や手法が不透明であったことに対する批判等により,
policy transferは生じず,欧州でのTA活動は低調だった
• 1980年代:科学技術による社会や環境への影響が強まり,
特に経済停滞・低雇用を脱する方策としての技術(のポジ
ティブな側面)への期待から,欧州版TAの議論が開始→欧
州・各国レベルで議会TA機関の設立が相次ぐ,EPTAのネッ
トワークも形成される
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英国議会科学技術室(POST)
• 設立:サッチャーは意義を認めたが予算を付けたがらなかっ
たため,1989年議員の呼びかけによる議会科学技術情報
基金(PSTIF)からの寄附により議会外に時限的なプロジェク
トとして設置,96年に議会内に移設,01年に常設機関に
• 組織:POSTボード(理事会)は,14名(下院10名,上院4名)
非議員の有識者(科学者)で構成.事務局(ディレクター1名,
専門研究者6名他,博士課程の学生など外部人材を4〜5名
活用)
• クライアント:議会
• 調査課題:理事会が決める場合もあるが、POSTから提案す
ることもある
• 活動:①タイムリーなPOST NOTEの作成(政府省庁やNGO
など利害関係者に話を聞き、バランスのとれた4ページ程度
の報告書にまとめたもの).これよりも長いレポートも作成.
②議会の特別委員会に対する助言や議員に対するセミナー
の開催
23
欧州議会科学技術オプション評価局
(STOA)
• 設立:1987年,エネルギー技術委員会の時限的なプロジェク
トとしてスタート.88年に議会の研究総局に移設.2004年の
STOA改革に伴い,域内政策総局(DG Internal Policy)の
DGA(経済・科学政策)に移設.
• 組織:①政治的意思決定を行うSTOAパネル(15名の議員)
②パネルの会議運営を行うSTOA Bureau,③実務運営を行
うSTOAチームから構成,事務局スタッフは正規・契約職員、
加盟国からの派遣職員等々を含めて5-8人
• クライアント:欧州議会の各委員会
• 調査課題:各委員会を通じてSTOAに依頼
• 活動: STOA規則において規定( ①議会の委員会に科学的
に中立な研究・情報と選択肢を提供する,②政治家,科学コ
ミュニティー,社会的機関が議論するフォーラムの企画),
EPTAのネットワークに加盟しているTA機関等を活用して,
外部受注によりTA活動を行っている
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ラテナウ研究所(Rathenau Institute)
• 設立:1986年ラテナウの前身NOTAが教育科学省の行政決
定によりオランダ王立科学アカデミー(KNAW)に設置.94年
にラテナウに改名
• 組織:ボード(理事会)は7名の有識者・業界関係者で構成.
ラテナウは,コミュニケーション部局、TA部局、科学システム
( SciSA)部局、事務局からなる.スタッフ.予算ともに近年
急増(40-50名)
• クライアント:クライアントはオランダ議会および欧州議会(政
府に対しても報告),財源は教育科学省
• 活動:①政治家への情報提供、②社会の意見形成への働き
かけを目的として,TAとSciSAを実施→政策サイクルの中で
問題認識と政策形成の部分に重点を置いている.議論の
ファシリテーターになることと、独立性と自由度を保つことに
注意を払う
• ラテナウにおけるTAの変化:①プロダクト→プロセス(92年か
ら),②SciSAの追加(04年から)
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フランス議会科学技術評価局(OPECST )
• 設立:83年両院で設立に関する議会法案を採択.議会内部
(議員代表部)に設置
• 組織:Officeの構成16人のメンバー(両院から8人ずつ.政党
の比率に応じた配置).Bureau:毎年議長,副議長,4人の
secretaries,他欧州TA機関との窓口の代表1名を選出
• クライアント:議会
• 目的:議会の意思決定を透明化するための科学技術に関す
る選択肢の情報提供を目的として,情報収集,研究・評価活
動を実施する
• 活動:OPECSTのメンバーがラポターとして報告書を作成.
意思決定に関わる議員自らがTAをしているという点で,政策
提言に直結しているとされる.
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TA機関の一覧(まとめ)
UK POST
OPECST
ラテナウ
STOA
設立
年
1989年,01年から常設
機関に
1983年
1986年にNOTAとして設
立.92年に改名
1987年
設置
場所
初期の段階は,議会外.
その後,96年に議会内
に設置される
議会内部(議員代表部)
王立科学アカデミー
(KNAW)内
現在域内政策総局(DG
Internal Policy)の
DGA(経済・科学政策)
組織
議会のボード(下院10名, Officeの構成16人のメン
上院4名の計14名)が
バー(両院から8人ずつ.
POSTの監督
政党の比率に応じた配
置).Bureau:毎年議長,
副議長,4人の
secretaries,他欧州TA
機関との窓口の代表1名
を選出
現在のボード:7名
(KNAW),Advisory
Council of Government
Policy,文部科学省が任
命.①コミュニケーション
部局, ②TA部局, ③科学
システム部局,④事務局
①政治的意思決定は,
「STOAパネル」15名の
議員から構成.パネルの
運営は「STOA bureau」.
実務運営を行うのは,
STOAチーム
職員
9名(研究員6名)
目的
議会の委員会に科学技
術に関する助言を行う.
現在約45名
議会の意思決定を透明
化するための科学技術
に関する選択肢の情報
提供を目的として,情報
収集,研究・評価活動を
実施する
①政治家への情報提供
②社会の意見形成への
働きかけ,主要な二つの
任務①TAと,②Science
System Assessment
(SciSA)
5-8名
①議会の委員会に独立
で質の高い科学的に中
立な研究と情報,選択肢
の提供.②議論の場の
企画
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欧州TA機関に関する考察
• OTAに比べて小規模(予算・スタッフ)だが、ネットワークを活
用して効果的な活動を実施
• 意思決定の直接的な支援よりも,問題認識やアジェンダセッ
ティングに比重がある
• TA機関によっては,市民など幅広い関係者とのコミュニケー
ションやネットワークを重視する新たなタイプも出現
• 時限的なプロジェクトとして開始→生き残りのために,OTAタ
イプの導入ではなく各国の状況に適応したTAが発展.この
ため,欧州TA機関は各国の社会的文化的制度的要因を繁
栄した多様なバリエーションが存在する
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日本におけるTAの制度化に向けて
29
TA的な活動の流れ
1970
1980
議員への
個別折衝
システム
マネジメント
訪米調査
1990
プロジェクト評
価
1977-78
調査団
科技庁事例研究
予備調査
1969
1971-78
1982-84
1988
1994 1995-1999
科学技術
「研究評価のための指針」 基本法 大綱的指針
1986
1995 1997
1988
工技院事例研究
1970
1971-84
技術フォーサイト
1974-90
NISTEP→
1976
1981
70年代の 産業技術開発長期 80年代の通産
政策ビジョン
通商政策 戦略策定研究会
(1974-77)
1991
日本産業技術振興協会
1975
科技庁→
1971
科学技術と 科学技術評価
政策の会
会議(仮称)
『テクノロジーと人間福祉』
八人委員会
技術予測
調査
国際技術戦略
研究会
CELSS研究会
未来工研
産技審答申
2000
1980
1986
1991
90年代の通産
政策ビジョン
1990
1996
2000
21世紀経済産業
政策の課題と展望
30
2000
TA的な活動例
専門家
• 2100年エネルギー技術
ビジョン
• 機関内生命倫理委員会
問題像提示
意思決定支援
ステークホルダー
• 原子力委員会市民参加懇談会
• 遺伝子組み換え作物についての
コンセンサス会議(北海道)
市民参加
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日本の「TA的」活動の特徴
• 活動・手法
– 工学的アプローチにとらわれた手法の偏重(「技術評価」
という訳の弊害)
– 「代替案評価」「多様なステークホルダーの関与」が欠如
– 一方、技術フォーサイト手法はパイオニア的存在となった
• 制度・機関
– 縦割り型行政は予測・評価活動を好み、手法的発展も手
伝って予測・評価の制度化が進む
– 議会では国家的技術開発プロジェクトや国際技術戦略と
してTAに関心を抱くが、抵抗が強く議会TA機関の設立は
叶わず
– 産業界も高い関心を示したが、TA専門機関の設置には
いたらなかった
– 独立性・中立性を担保する制度はない(技術開発機関が
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実施することが多かった)
TA手続きの移転
「選択肢提示」がぬけている・・
マイター社
通産省
① アセスメント実施
範囲の規定
① 技術概要の把握
② 重要技術の記述
③ 社会の状態の
展開
② インパクトの抽出
④ インパクト分野の
明確化
⑤ 予備的インパクト
分析
⑥ 可能なアクション・
オプションの明確化
⑦ 最終的インパクト
分析
③ インパクトの整理
・分析
④ 対応策の検討
⑤ 総合評価
33
なぜ日本でTAは定着しなかったのか
• 1970年代の試み
– 「官僚統制」を嫌った企業は自主的にTAを始めたが、環
境問題など各企業で対応できるものではなかった
– トータルシステムという概念により省庁ではプロジェクト単
位での活動になり、技術的発展の不確実性や代替案、幅
広い社会的影響の考慮がないまま予測・評価との区別が
できなくなった
• 1980年代の試み
– 一部の国会議員が大規模技術開発プロジェクトの効率性
の問題からTAに関心を持ったが、同時期になされた研究
評価が制度化されたことで納得した
• 1990年代以降の試み
– 議会TA機関の設立について、国会議員が立法能力がな
く関心も薄かったことに加え、国会図書館も消極的、大学
人もあまり協力的でなかった
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TAが必要となっている背景
• 第三期科学技術基本計画のフォロー
– 第4章1「科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組」
– でも現実には具体的取り組みが進んでいない
• 政治主導の政策立案へ:支援が必要
– 国家技術戦略:海洋、宇宙など科学技術に関連する基本計画への貢献
– 二大政党制・ねじれ国会にあって政党としての科学技術戦略
• 最近の科学技術をめぐる問題:TA的活動の限界
–
–
–
–
医療:従来的TA制度と問題点
食品:安全性以外の経済・社会・倫理・文化的な側面に対する評価の不在
エネルギー:地球温暖化、太陽光発電、バイオマス燃料、コンビニ営業など
ナノテク:多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のリスク
35
例1:医療
従来のTA的制度と問題点
• 診療報酬制度における経済評価
-費用対効果の議論に終始。医療資源の配分決定の争いの場で
あり、倫理的、社会的妥当性の評価が十分か。
• 審議会(先端技術に関する法的倫理社会的検討)
-省庁横断的議論の不在
-議題の設定方法の適切さ「総合科学技術会議生命倫理部会は
何年経っても胚」との批判
• 立法府としての国会:臓器移植法(1994)
-議員立法の脆弱さ(社会情勢に左右、法制局頼みの立法技術)
-議論の継続性「15歳以下の臓器移植の議論は立法後実質的
には放置」
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例2:食品
• 食品分野における科学技術の役割は増している
– 農薬・食品添加物・動物用医薬品・食品照射
– GM食品、健康食品,ナノテクノロジー応用食品,クローン牛
• 食品の社会的影響も大きいが,これまで十分に包括的な評価がなされ
てきただろうか.
– 遺伝子組換え食品の社会的・倫理的議論、便益の評価の欠如
– 健康食品が個々人の食生活バランス・ライフスタイル,日本の食行動・食習
慣・食文化,食産業等に及ぼす影響の評価は?
– 持続可能な水産業、エネルギーと農業の関係などの評価?
• 食品安全委員会による科学的安全性の評価(毒性評価・安全性評価)
はなされているが、包括的社会影響評価は行われていない
– 安全性に関しては食品安全委員会の専門家により十分な評価
– 経済的(企業の経済活動上のコストの問題など),社会的(食料自給率の問題,
食育や食べ方),倫理的(動物福祉),文化的な要素といった広範な考慮事項
の評価はなされていない.
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例3:エネルギー
• 定量的技術シナリオの乱立:
– 地球温暖化対策のための計画、戦略、ビジョン、ロードマップ
– 数字上の辻褄はあっているが、社会面も含めた総合的評価は考慮されてい
ない
TA課題例
• 太陽光発電(新エネルギー)政策
– アクターの見解の相違は大きく、RPS制度や分散型電力供給システムのあり
方を巡って将来の深刻な対立を招きかねない
– 衝突が顕在しておらず、TA的活動も不在であるため早い段階から事態に対
処することができていない
• バイオマス燃料の促進政策
– バイオマス燃料のもたらす社会、経済、環境に与える影響評価が不十分なま
ま目標設定
• 省エネルギー政策
– HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入とそのもたらす影響
– コンビニの24時間営業中止:地球温暖化への貢献はどれほどか?地方の小
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売店、地域雇用、深夜犯罪、社会人の生活スタイルへの影響
例4:多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のリスク
• MWCNTの毒性研究の成果が公表された
– 2008年2月、国立医薬品食品衛生研究所がマウス腹腔中皮へ
のMWCNTの高用量投与実験で中皮腫を確認したと発表
– 同時期、東京都健康安全研究センターもラットでの中皮腫確認
を公表
• 東京都は厚労省へ安全対策推進を要求。厚労省、環境
省が検討会を設置
• 研究結果の重大性についての科学・技術的判断の違い
– メディア、政府、産業界、NGOなどで異なった解釈
• 科学的検討による問題点の整理と社会的対応について
の選択肢提示が必要
39
TAの現代的意義と制度化の必要性
─知的基盤の社会化
• 時宜性と安定性によって短期的・長期的な社会的意義を確
立できる
– 科学技術進歩が加速。社会制度の対応が遅れ気味。
– 技術の進歩や不測の事態にも対応できる社会基盤が必要
• 科学技術ガバナンスそのものに関するメタレベルの知的資
源の確保
– 科学と政策に通じた人材育成、様々なアクターとのネットワーク作り・
コミュニケーション能力の養成、TAの実践知の蓄積、海外TA機関と
の連携
– これまでは評価・予測研究、政策研究などの学術的発展や知見の蓄
積が促進されてこなかった
– 制度化されないと、これまでの日本における取り組みのようにTAとい
う概念や活動が発散して曖昧になるおそれがある(手法に走る)
40
TAの現代的意義と制度化の必要性─
多様なアクターによる多様な価値の調整
• 常に多様な価値観を反映しつつ、現実的な選択肢を
提示・比較する社会的機能の確保
– 審議会形式では問題設定がすでに規定され、参加者も制限されるため、
多様な価値観の反映に限界
– 評価や予測はリスクや不確実性を扱うが、そうしたリスクや不確実性の
見方(フレーミング)そのものが人によって違う状況を扱えない
– 選択肢の提示と比較が政策議論や技術評価で最も欠如している点
• 自律的・中立的組織として見なされている機関の欠如
– 各アクターとのつながりやバランスが見えるように制度化することで自
律性や中立性が外形的に保証される
41
TA機関として重要な条件
アカウンタビリティ
→信頼性
独立性
組織的自律性、政治的中立性/超
党派性
品質
学際性、科学的信頼性、社会的
公平性、プロセスの公平性・透明性、
議論の質
コミュニケーション 口頭・文書プレゼンテーション能力、
メディア対応(知名度)、モデレーター
能力
能力
実現可能性
政策志向性
→権威
適正規模
支出の抑制、政治的リスクの回避、
柔軟性、即応性
ネットワーク
情報収集、現実認識、結果の普及、
個人的信用、外部資源の活用
時宜性
政策決定者のニーズへの対応、
社会的なニュースへの対応
政策決定への
リンク
組織的または制度的
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Adapted from Bütschi et al. (2004), Suzuki (2008)
日本においてTA制度が定着するために配慮す
べきこと─実務的な問題
• 既存の政策決定システムの支援(補完的役割)
– 既存のシステムと齟齬をおこさない制度的担保が重要
– 行政機関・審議会(規制政策やビジョン作成)の支援
– 国会における審議(法案、プロジェクト評価)などへの支援
• 手法よりプロセス重視の運営
– アジェンダの設定・助言委員会の委員選定プロセスの改善と透明性確保
– 科学技術者も市民も参加する仕組み
• 先端技術の社会導入・普及にTAが貢献することへの理解
– 「TAは技術開発を阻害する」先入観の排除
• 社会からの信頼を確保する制度的担保
– 特定の立場に偏らない(中立・独立性)機関、活動の担保
– 自律できる財源の確保
– 適切な予算規模と柔軟な組織運営
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日本においてTA制度が定着するために配慮す
べきこと─主体の問題
• クライアントは誰か?
• スポンサーは誰か?
• 運営主体は誰か?
• 実施主体は誰か?
• 人材はどう確保するか?
→日本の政治・社会情勢にあった活動と制度
化が必要
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日本におけるTA機関のあり方(案)
OTA型(科学技術評
価会議)
POST型
ラテナウ型
クライアント
議会委員会
議会委員会
議会・政府
スポンサー
議会
議会
文科省
(+経産省)
運営主体
(理事会)
議員
議員
+外部有識者
有識者・業界関係者
設置場所
議会
(国会図書館)
議院調査局
(国会図書館)
学術会議
実施主体
スタッフ(多)
スタッフ(少)
+外部研究者
スタッフ(やや少)
特長
専門性の高さ、
議員ニーズ対応
議員への啓蒙、
政策課題発見
参加型、
社会的インパクト
課題
立法化、組織的規模
成果の質、立ち上げ方
権限の分散、
政策的インパクト
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参考資料
46
米ELSI予算は約4億円程度
source: M.C. Roco, “The Changing Face of NanotechnologyThe Changing Face of Nanotechnology”,
National Science Foundation (NSF) and U.S. National Nanotechnology initiative (NNI) INC4, Tokyo, April 15, 2008 47