第10回 情報デザイン(2) 情報の収集と整理 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 [email protected] 1-1. 調査の目的 • 調査:ある目的や視点に従って十分な情報を 集めること. – これまでの経緯を知るための調査 – 現状を把握するための調査 – 現状を把握し,改善のヒントを得るための調査. 形成的調査.教育における形成的評価. – 仮説を検証するための調査.検証調査. 参考:教育評価の類型 • 梶田叡一『教育評価[第2版]』(有斐閣)による, 教育評価の基本的性格の分類(p.4~) – 実態把握:問題となる領域あるいは側面に関してで きるだけ多くの情報を集める. – 測定:学習者の諸特性を何らかの次元上において数 値的に表示する.標準学力テストなど. – 評価:特定の教育目標あるいは教授・学習目標群 を,それぞれの学習者がどのように達成しているか 表示する.到達度評価. – 査定:学習者の現状について,何らかの基準に基づ き,その価値を表示する.資格認定など. 調査の目的 • データに基づいた(情報)デザイン – 業務分析(定義はテキスト参照)を行い,ユーザ の要求に合ったシステムをデザインする. – 製品やサービスの品質や顧客満足を調査し,改 善につなげる. – 新たな顧客価値(定義はテキスト参照)を発見す る.満たされていないニーズを見つけ,新製品や サービスの企画に結びつける. 1-2. 調査の基本的な手順 1. 2. 3. 4. 5. 6. 目的の設定 調査手法の決定 調査の計画と準備 調査の実施 得られた情報の整理・分析 調査結果の表現と共有 目的の設定 • 調査は問題解決のために行うもの.何を知り たいのかをよく考える.できるだけ限定的で, 直接的・具体的な目的を設定する. – 例:首都圏の中学生がバスや電車を利用する上 で,どのような不満を感じているかを知りたい. • 目的設定のための情報が足りないときには, 事前調査を行う. – 文献調査,専門家のアドバイス,予備的な観察 • 調査対象者(母集団)が何かを明確にする. – 年齢や所得に基づいたセグメント • 無作為抽出による調査がよく用いられるが, 手間はかかる.調査の目的によっては,有意 抽出の方が有益な情報が得られるかもしれ ない. – 例:問題としていることがらについて,知識と関心 のある人から意見を集める. • 明確な仮説がある場合には,それの検証を 調査の目的に含めてよい. – 無理に仮説を立てる必要はない.どのような調査 を行えば,何が明らかになるかを考えればよい. 参考:岡田猛(1998)「仮説」をめぐるいくつかの仮説 丸 野俊一(編著)心理学の中の論争[1] 認知心理学におけ る論争 ナカニシヤ出版 • だれのための調査なのかを考える. – 調査結果を誰に報告するのか? 誰に提案を行 うのか? 調査の計画と準備 • 問いを明確にする.(明確な仮説がなくてもよ い) • 調査から,その問いへの回答が得られるかど うか,検討する. – インタビュー調査や調査票調査での,質問項目 の検討. – 1人あたりの調査に要する時間や,質問の量の 検討. – 記録方法の検討. • どのように参加者を集めるか,リクルーティン グの方法を検討する. • 個人情報を扱う調査など,参加者の人権や 倫理に関する問題のある調査では,イン フォームド・コンセントが必要になる.そのた めの文書や手続き方法を定めておく. – 倫理委員会による審査が必要な場合もある. 調査票の作成における留意点 • 調査票の作成では,質問文の作成にいくつ かの注意点がある.たとえば, – 回答を誘導しない – 個人的な質問と社会的な質問とを区別する – ダブルバーレル項目は用いない – キャリーオーバー効果に注意 – フェイスシートは最後に 参考:豊田秀樹『調査法講義』朝倉書店 第4章 調査結果の表現と共有 • 集められた情報を分析し,調査の目的に照ら して,得られた知見を整理する. • 調査から得られた知見,それに基づく提案を まとめ,報告すべき相手と共有する. 2-1. 調査手法の選択 • 自分でデータを取るのか,資料に基づく調査 を行うのか. • 質問項目の吟味.定量調査か定性調査か. – 定量調査:数量化されたデータを収集する.テス トのような連続的な変量や,対象者がどのカテゴ リ(性別や学歴など)に属するかを測定する. – 定性調査:直接には数量化されていないデータ (定性データ)を収集する.言語データなど. • 定量調査の代表は,数値を記入する回答欄 や選択肢を設けたアンケート調査. – 自由記述は定性調査のデータとなる. • 多くの参加者からデータを得ることができる. • グラフによるデータの図示や統計的処理が容 易.比較調査や検証調査に向いている. • 定性調査に比べれば,得られる情報は限定 的. • 定性調査の代表は,インタビュー調査や,自 由記述を重視したアンケート調査. • 対象者についての詳細な情報を得ることがで きる. • 状況に応じて問いを変えたり,多様なデータ 分析を試行錯誤できる. • データ収集にも分析にも手間と時間がかか る.多くの人からデータを集めることは難し い. 調査の規模や手法の選択 • 調査の目的,要求される精度,時間的な制約 や予算を考慮して,調査の規模や手法を選 択する. – 調査の最終段階で,信頼性の高い結果が必要な ときには,入念にデータを集めるフォーマルな調 査を行う. – 調査の予備的段階や,精度を多少犠牲にできる 場合には,インフォーマルな調査を行う. 2-2. 代表的な調査手法 • 文献調査:雑誌や書籍,学術論文,白書や報告 書などの資料から情報を得る. • インタビュー(面接)調査:調査協力者と対面して 調査を行う. – 構造的インタビュー:あらかじめ準備した質問の流れ に沿う.対象者が複数の場合には,全体の傾向や個 人差の検討が可能. – 非構造的インタビュー:相手の語りによって柔軟にす すめる.「その人にとっての真実」を明らかにする. – 折衷的な半構造的インタビュー • アンケート(調査票)調査:統一された調査票 を使って調査を実施する. – 調査票の配布方法は,郵送,留置(置いてきて回 収),集合(集まってもらう)など.近年はインター ネット調査も可能. – 意見に「程度」があるものは,Yes / No でなく,リッ カート法で回答してもらうとよい.(次のスライド) • その他,観察,実験,参与観察,フィールド ワーク,日記法,などの方法がある. リッカート法での評定の例 選択肢は等間隔.自分の感覚に最も近いところを選ぶ. 1 2 3 4 5 6 ま っ た く そ う 思 わ な い そ う 思 わ な い あ ま り そ う 思 わ な い や や そ う 思 う そ う 思 う 非 常 に そ う 思 う 3-1. 情報の分析手法 • 定性データの分析 – 要素化:データを要素に分割する.要素となるの は,1回の発話,ひとつの文,など. – グループ化:それぞれの要素をグループに分類 し,ラベルをつける.あらかじめ用意したコーディ ング基準を用いるか,要素をまとめてからラベル をつける(参考:KJ法). – 構造化:何らかの構造の中にグループを位置づ ける.グループ間の関係をとらえる. • 定量データの分析 – データを入力する.データクリーニングを行う(回 答が不完全な回答者の除外など).欠損値の扱 いを決めておく(なぜ欠損したかの検討も必要). – データを視覚化する.クロス集計表などの表,ヒ ストグラムなどの図を作成する. – 平均や分散など,データを記述する統計量を計 算する. – 推定,検定,多変量解析など,推測統計学の手 法を適用する. 3-2. 調査結果の表現と活用 • 目的,方法,結果,考察という構成が基本. – 方法は,調査報告を読んだ人が調査を再現でき るように書く. – 事実(結果)とその解釈(考察)を分ける. – 最初に要約,最後に結論をつけることも多い. – 重要な結果は表やグラフにする. – 提案にも図表を利用し,「一目でわかる」ようにす る. ペルソナとシナリオ • 調査で示された典型的な調査対象者の特徴 を表現する. – ペルソナ:名前や趣味,性格や生活の様子など, 詳細に想定して記述された,架空のユーザ像. 誰のためのデザインなのかを明確化する.参考: 棚橋弘季(2008)ペルソナ作ってそれからどうするの? ソフトバンククリエイティブ – シナリオ:人々の活動や思考,感情の流れを物 語のように描いたもの.
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