東アジア鉄鋼業の分業関係と普通 鋼電炉メーカーの競争戦略 Steel & Steel社創立2周年記念セミナー「鉄鋼産 業の環境変化と電炉メーカーの生存戦略」 (2005年12月22日。於:ソウル) 東北大学大学院経済学研究科 川端望 [email protected] 2015/9/30 1 Ⅰ 報告の課題 東アジア鉄鋼業における国・地域別と企業 形態別の分業関係を明らかにする 各国・地域の独特の状況に対応して、電炉 メーカーがとっている競争戦略の特徴と展 望を述べる 2015/9/30 2 Ⅱ 東アジア鉄鋼業の分業関係と 電炉メーカー 2015/9/30 3 東アジアの鉄鋼需要(1) 350000 300000 250000 日本 韓国 台湾 中国 アセアン6計 1000t 200000 150000 100000 50000 04 20 03 20 02 20 01 20 00 20 99 19 98 19 97 19 96 19 19 95 0 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 2015/9/30 4 東アジアの鉄鋼需要(2) 日本 韓国 台湾 アセアン6計 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 90000 80000 70000 60000 1000t 50000 40000 30000 20000 10000 0 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 2015/9/30 5 東アジア諸国・地域の鉄鋼生産と需給 関係(2003年) 銑鉄生 産 粗鋼生産 熱間圧 延鋼材 生産(A) 鋼材輸出 (B) 鋼材輸入 (C) 鋼材見 掛消費 推計 (D)=(A)(B)+(C) 輸出/ 生産 (B)/(A) 輸入/ 見掛消 費 (C)/(D) 日本 82,091 110,511 100,504 30,364 2,968 73,108 30.2% 4.1% 韓国 27,314 46,310 48,381 13,355 10,850 45,876 27.6% 23.7% 台湾 10,260 18,832 25,398 9,049 3,933 20,282 35.6% 19.4% 中国 213,670 222,340 241,080 6,960 37,170 271,290 2.9% 13.7% インドネシア 1,171 2,042 3,719 948 1,918 4,689 25.5% 40.9% マレーシア 1,600 3,960 4,563 1,757 3,355 6,161 38.5% 54.5% タイ 0 3,572 7,498 1,632 5,143 11,009 21.8% 46.7% フィリピン 0 500 1,770 0 1,822 3,592 0.0% 50.7% シンガポール 0 561 599 660 2,910 2,848 110.3% 102.2% 200 544 2,389 8 2,655 5,037 0.3% 52.7% ベトナム 2015/9/30Steel Statistical Yearbook, 『中国鋼鉄統計』などから作成。川端[2005]45頁参照。 6 出所:SEAISI, 東アジア諸国・地域の鉄鋼設備・技術 大型設備基数 (2002-3年) 大 型 高 炉 製鋼法別比率(%)(200 3年) 工程別年間生産能力(1000トン/年)(2002-3年) 大型 転炉 大型 HSM 製銑 製鋼 熱間圧延 製銑/ 製鋼 製鋼/ 熱延 転炉 平炉・ その 他の 炉 電炉 日本 32 51 15 84,385 120,535 N.A. 70.0% N.A. 73.6 26.4 0.0 韓国 8 8 6 26,130 49,375 52,070 52.9% 94.8% 55.2 44.8 0.0 台湾 4 6 4 8,389 17,678 29,614 47.5% 59.7% 57.2 42.8 0.0 中国 29 32 18+ 262,410 263,810 260,510 99.5% 101.3% 82.4 17.6 0.0 インドネシ ア 0 0 1 3,030 5,600 7,470 54.1% 75.0% 0.0 100.0 0.0 マレーシ ア 0 0 1 1,850 7,250 6,920 25.5% 104.8% 0.0 100.0 0.0 タイ 0 0 3 0 6,800 13,650 0.0% 49.8% 0.0 100.0 0.0 フィリピン 0 0 1 0 1,700 4,900 0.0% 34.7% 0.0 84.9 15.1 シンガ ポール 0 0 0 0 600 900 0.0% 66.7% 0.0 100.0 0.0 ベトナム 0 0 0 130 500 4,510 26.0% 11.1% 0.0 100.0 0.0 2015/9/30 出所:各種資料より作成。川端[2005]46頁参照。 7 東アジア鉄鋼業のグループ化 Ⅰ 銑鋼一貫体制による生産が中心 日本、韓国、台湾、中国 Ⅱ 銑鋼一貫体制未確立 インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シ ンガポール、ベトナム ※北朝鮮は情報不足により除外 2015/9/30 8 電気炉の推定生産能力と稼働率 生産能力 粗鋼生産高 稼働率 市場拡大している 日本 39,111 29,156 74.5% 韓国、中国の稼働 率は高い。 日本は景気回復 に応じてやや高い。 台湾と、アセアン の主要部分は高く ない 韓国 24,595 20,728 84.3% 台湾 15,500 8,053 52.0% 中国 48,870 39,058 79.9% インドネシア 5,600 2,042 36.5% マレーシア 7,250 3,960 54.6% タイ 6,800 3,572 52.5% フィリピン 1,700 500 29.4% シンガポール 600 561 93.5% ベトナム 500 544 108.8% 注:2003年の数値 2015/9/30 出所:各種統計より川端作成。 9 Ⅲ 各国・地域電炉メーカーの競争戦略 2015/9/30 10 日本における企業類型別製品別生産シェア 出所:普通鋼電炉工業会ホームページ。 2015/9/30 11 日本:普通鋼電炉業の競争と協調 業界協調による構造改善 高炉系電炉企業+独立系企業 1975-88年:不況カルテルによる、法的承認のもとで の業界レベルの設備調整 以後:業界の自主調整。合併や共同会社による事業 再編や破綻企業の再生。 協調を拒否する一部の独立系企業 積極的設備投資 価格切り下げ→シェア拡大→低コスト実現→価格切り 下げの積極的行動 2015/9/30 12 1990年代H形鋼市場での競争(1) 高炉・高炉系電炉--協調的 数量調整 新日鉄、NKK、トーア・スチール、 ダイワ・スチール等 不況期に減産・価格維持 トーア・スチール(現 JFE条鋼)鹿島製鉄所 の大型形鋼圧延機。 同社記念誌より。 独立系電炉--価格競争 東京製鉄、大和工業 不況期に価格切り下げ、シェア拡大 2015/9/30 13 1990年代H形鋼市場での競争(2) H形鋼の生産シェア 2001年まで協調的価 1995年度 東京製鉄 格維持が効かず、値 崩れ。双方疲弊。 キョウエイ製鉄(住金 系) NKK トーア・スチール破綻 など、高炉系電炉の経 営困難に 東京製鉄は9年連続 赤字に耐える 以後価格急騰:東京 製鉄の地位確立 新日鉄 ダイワスチール(川鉄 系) その他 2004年 新日鉄 東京製鉄 住金スチール(旧キョウエ イ) JFEスチール(旧NKK) ヤマトスチール その他 2015/9/30 出所:日経産業新聞編『市場占有率』各号より作成。 14 鋼板市場への進出 東京製鉄の鋼板生産 汎用品の低コスト生産、低価格化を武器に進出 2004年の国内ホットコイル生産は、高炉メーカー5 社がなお96.4%を占める。 ホットコイル消費が横ばいの中での東鉄VS高炉の 市場争奪戦。 酸洗鋼板、亜鉛めっき鋼板への品種拡大 中国への輸出 愛知県田原市に工場用地を取得し、自動車用鋼板 工場建設計画を発表 2015/9/30 15 構造改善はどれだけ進んだか(1) 稼働率は1994年以後60%未満。能力削減進まず。 2003年以後、新基準の能力でようやく75%前後に。 日本の電炉生産能力・生産高・基数 60000 50000 40000 100.00% 40.00% 生産能力(千トン左 目盛) 生産能力(新基準) (同上) 生産高(同上) 20.00% 稼働率(右目盛り) 80.00% 60.00% 30000 20000 10000 0 0.00% 1994 1996 1998 2000 2002 2004 暦年 2015/9/30 出所:『鉄鋼統計要覧』日本鉄鋼連盟、各年版より作成。 16 構造改善はどれだけ進んだか(2) 普通鋼電炉は2003年37社、62基、総容量 4647トン/回。 うち32基(51.6%)、2117トン(45.6%)は 1980年以前に設置。 7割の会社は電炉1基のみ保有。 2015/9/30 17 中国:電炉の低い地位 電炉比率が17.6%と低く、競争力が弱い 電力不足 スクラップの蓄積不足 条鋼類を中小型高炉メーカーが生産 重点一貫企業55社中、粗鋼年産300万トン以上は18 社のみで、粗鋼生産の52.5%のみ。 薄スラブ連鋳も高炉メーカーが導入 7社14基のうち、電炉メーカーは広州鋼鉄のみ 2015/9/30 18 中国の鉄源としての銑鉄 電炉メーカーの銑鉄使用 自社で高炉併設 単純製銑企業からの購入 粗鋼生産トン当たり鉄源構成(キロ。2003年) スクラップ 銑鉄 中国 784.09 300.3 日本 1024.9 28.78 出所:『中国鋼鉄統計』、『鉄鋼統計要覧』より作成。川端[2005]68頁参 照。 2015/9/30 19 銑鉄生産の拡大 中国で2003年に新規稼働した高炉の内 容積階層別基数 中国全土に高炉が321基 存在。うち大型は24基。 cf.日本は32基で大型 のみ 中小型が短工期で建設さ れる 内容積(立 方米) 内容積計 新規稼働 高炉数 3000以上 1 3200 2000-3000 4 8700 1000-2000 6 9019 炉容 総工費 工期 500-1000 4 3000 4,300㎥ 100億元 2年 500未満 58 21217 宣北(河北) 480㎥ 1.8億元 6ケ月 計l 73 45136 南通(江蘇) 380㎥ 1.1億元 8ケ月 北秦(山西) 2015/9/30 316㎥ 0.6億元 1年 宝山No.4(上海) 出所(上)日本鉄鋼連盟資料、(左)み ずほコーポレート銀行資料より。 20 小型高炉の淘汰と企業成長 (下)山西安泰集団の新高炉。450立方 ㍍×2基。以前は34×2、125×1だった。 コークス炉もビーハイブ式から機械式に 転換している。 (上)操業状態に問題があり、環境を 汚染している小高炉(山西省嵐県)。 内容積100立方㍍以下。このような高 炉が2000年代初頭まで多かった。 2015/9/30 21 中国鉄鋼産業政策と電炉 2005年7月発表 設備・技術の高度化 電気炉は公称容量70トン以上とする。 省エネ対応・煙塵回収義務づけ。 産業集約 単純製銑企業、小型製鉄所の淘汰と大型企 業への集中 電炉の役割拡大は規定されていない 2015/9/30 22 タイ・マレーシア:途上国における鋼板市場 への進出 最小効率 規模(年 産) 推定投資 額 300万トン 40億ドル 以上 電炉・薄ス 100万トン ラブCC・コ ンパクト ホット 3億3000 万ドル以 上 単圧ホット 100万トン 3億ドル以 上 鋼板市場拡大と投資 のジレンマ 単圧ホット→半製品調 達問題 高炉一貫→資金と市 場確保問題 代替的選択肢として の電炉・薄スラブ連続 鋳造機 2015/9/30 高炉一貫 23 タイ・マレーシアの電炉メーカーによ る薄板生産 薄スラブ連鋳or中厚スラブ連鋳による薄板生産 タイの銑鉄・還元鉄プロジェクトはアジア通貨危 機で挫折。再度計画中。 国 製鋼方式 熱延 冷延 主要スタッ フ Mega Steel マレーシア 電炉・薄スラブ連 鋳 250万トン 140万トン (建設中) 不明 G-Steel タイ 電炉・中厚スラブ 連鋳 150万トン なし 元POSCO NSM タイ 電炉・薄スラブ連 鋳 150万トン なし 元Hylsa等 出所:各種資料より。 2015/9/30 24 タイにおける薄板生産の階層的分 業 高級品(自動車車体・家電外板等) 日・韓製母材→日系企業による圧延・加工 中級品(屋根・壁材・ボンベ・自動車構造部 品等) 豪・伯製母材→日・豪系と地場系による圧延・ 加工 低級品(一般用途鋼板、一般用途鋼管) 国産(電炉)・露製母材→地場系企業 最近、G-Steelは一部冷延原板に進出成功25 2015/9/30 ベトナム:条鋼生産の確立過程 線材・棒鋼単圧メーカーが中心 製鋼能力50万・条鋼圧延能力451万 大量のビレット輸入 国有企業(VSC)・外資企業・私有企業によ る電炉投資競争 建設中の国有企業 電炉・圧延ミル(ビ レット50万トン、条 鋼30万トン予定) 2015/9/30 26 Ⅳ 普通鋼電炉メーカーの発展方向 2015/9/30 27 経済発展と電炉メーカーの競争戦略 経済開発進 展度 中進・先進国 国内鋼材需 要 1000万トン超 条鋼・鋼板の 構成 条鋼+鋼板 主要企業類型 国内需 要 例 成熟 日本 拡大 韓国 高炉一貫 途上国 500-1000万ト 条鋼+鋼板 ン 電炉/鋼板単 圧 拡大 タイ・マレー シア 途上国 500万トン前 後まで 電炉/条鋼単 圧 拡大 ベトナム 条鋼中心 単純に類型化できない国・地域もある(中国な ど) 2015/9/30 28 日本と韓国の違い 日本と韓国の電炉メーカーがとりうる競争戦略 高炉メーカーとの関係 電炉企業どうしの関係 日本 市場が 成熟し ている ○棲み分け ○低価格で市場奪取 ○協調的調整 ○競争による淘汰 韓国 市場が 拡大し ている ○棲み分け ○低価格で市場奪取 ○自ら高炉一貫化 ○競争が基本 2015/9/30 29 タイ、マレーシアとベトナムの違い タイ、マレーシア、ベトナムの生産構造と電炉メーカーがとりうる競争戦略 国内総需要 と構成 条鋼類生産 タイ、マ 500万トン超、 電炉・圧延。安定生 レーシア 鋼板類拡大 産から多様化へ。 ベトナム 500万トン前 後まで、条 鋼類中心 2015/9/30 鋼板類生産 単純圧延または電炉・薄 スラブ方式 単純圧延から電炉・ 母材輸入・単純圧延 圧延へ。安定生産が 課題。 30 電炉・薄スラブ方式の可能性 市場条件との関係 ○市場の成熟した先進国 ○鋼板市場はあるが高炉建設可能なほどではない途上 国 △市場の拡大する中・先進国では高炉建設との比較にな る 製品高度化の課題 高級品製造は困難 安定操業の課題 鉄源調達の課題 2015/9/30 31 今後の市場問題 中国における条鋼類、ホットコイル、厚板の過剰 能力形成 銑鉄・半製品輸出抑制→製品輸出強化 2005年1-9月の中国品種カテゴリー別需給関係 生産 輸出 見掛消 費 輸入 輸出-輸入 条鋼類 139,539 5,700 1,340 135,179 4,360 鋼板類 104,080 6,830 17,440 114,690 -10,610 鋼管類 18,736 620 820 18,936 -200 出所:中国国家統計局、税関総署の数値を日本鉄鋼連盟が整理したもの。 2015/9/30 32 主要参考文献(日本語) 川端望[2005]『東アジア鉄鋼業の構造と ダイナミズム』ミネルヴァ書房。 電炉業構造改善促進協会[2004]『普通鋼 電炉業の現状と構造改善の進展:その新 たな課題と展望』。 米倉誠一郎[1993]「不況カルテルとアウト サイダー」『年報近代日本研究』第15号、 山川出版社。 2015/9/30 33
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