8.建築防火設計 -防火設計の考え方• 火災からの被害を軽減するための設計 ↓ • 煙制御や耐火設計あるいは避難計画と いった理論を踏まえつつ,種々の防火 対策を組み合わせて, • 火災から人命や財産,機能の保全をは かりうるように,建築物を設計すること a. 防火設計のあり方 • 法規は最低限の基準を定めている <形式的に満足するだけでは不十分> ↓ • 個々の建築物の特性に応じて, • また法規に依存するばかりでなく, • 創造的かつ合理的に設計することが重要 • 防火設計は,ややもすると後追い的になりがち • 防災設備などの設置でお茶をにごすと ↓ • 信頼性や経済性に欠ける防火設計になる. • <建築物の企画あるいは基本設計の段階から, 同時並行的に防火設計にとりかかる必要性> 建築・都 市的対 策 設備・消防 的対策 -防火設計の考え方- まず第1に • 設計から施工,維持,使用までの各段 階で防火対策の具体化をはかる. • 防火性能を,施工で実現し, • 維持管理で保全し, • 使用で機能させる 一貫性が求められる(図8.1). 第2に, • 敷地計画,平面断面計画,内装計画, 設備計画,構造計画の各局面で, • それぞれの相互関係に留意し,防火対 策の具体化をはかる. <住々にして,平面断面計画における対 応がおろそかにされがちなので注意> 第3は, • 物理化学現象としての燃焼に対する対策 + • 人為社会現象としての人間に対する対策 ↓有機的に組み合わせて • 防火設計の総合化をはかる. 第4は, • 火災現象の各段階における防火対策 の総合化 • 出火防止,火元拡大防止,隣家拡大 防止,市街地拡大防止など • 火災進展のフェイズに応じた対策の 総合化 • フェイズ:Phase[feiz] n. (変化・発達の)段階, 期間;形勢,相;面,(問題・現象の)側面,方面 (aspect) 諸対策の総合的な体系(システム) 出火そのものを防止するというサブシステム 不幸にも出火した場合のサブシステム A.「火の用心」については,人間の警戒心という精神 •B.「可燃物の制限・不燃化」の対策は最も経済的で, C「早期感知」という対策は,それに続くD.E. どのルートで表される対策の組合せが,最少の努力(人命を 力には限界がある. 別とすれば,「経費」)で,最大の効果を上げる確率が高いか とくに身近な衣類や日用品の防炎化・難燃化は有効. F.への必須要件である. を求めるのが「最適の防火設計」に近づく道. • D.のうち「消火」については「スプリンクラー」の ような自動消火設備が最も有効とされているが, やや高価である. • E.のうち「防火」については「シャッター」よりは 「防火扉」が,「防火扉」よりは「防火壁」が有効 である • F.については通報,伝達,避難という対策がい ずれも人間的要素が関与しており,とくに避難 については,人間の心理的要素が大きく影響す る 出火防止対策 • ソフトな対策:「火の用心」という言葉に代表さ れる管理や保守点検, • ハードな対策:着火物の不燃化など • 出火防止対策を火源,着火物,経過という火 災原因の以下の三要素に対応させて整理. • i) 火源対策 • ii) 着火物対策 • iii) 経過対策 2) 室内拡大防止 • 着火源となる ・家具や建具などの不燃化や防炎化, ・内装の不燃化や難燃化 • 天井や壁上部に用いられる材料の燃焼性がフ ラッシュオーバーを大きく左右するので,天井など の不燃化は特に優先されなければならない. • そのほか,可燃物の分散化をはかること. 3) 建物内拡大防止 • 消火,遅延,局限の三つの方法 • 消火は消火設備などで早期に火災の鎮圧を はかるもの. • 遅延は,内装の不燃化や可燃物の減量化に より,急激な燃焼を抑えるもの. • 局限は,区画の設定により,火災の拡大を阻 止するもの. i) 区画の種類: 防火区画および防煙区画は,次の4つ 面積区画,層間区画,竪穴区画,異種用途区画 面積区画は,一定の床面積以内ごとに防火区画を施し,広範 囲に火災が広がるのを防ぐもの.主に水平方向の延焼を防止 層間区画 や竪穴区 画が主に 鉛直方向 の延焼を 防止するた めのもの ii) 区画の構成要素: 周壁部を構成する耐火壁や不燃壁, 開口部を構成する防火戸や防煙扉, 貫通部を構成する充填材など の3つに大別される. • RC構造のような湿式構法では,比較的簡 単に遮断性のある区画を形成できるが, • 鉄骨構造のような乾式構法では,納まりの 部分やジョイント部分にすき間ができやすく, その部分をロックウールなどで充填する措 置が必要. iii) 扉など開口部からの延焼防止: • 出入口などの開口部の区画には防火戸が 用いられる. 特定防火設備 防火設備 • 防火戸は,要求耐火時間の違いにより甲 種防火戸と乙種防火戸に分けられる. • 甲種防火戸は耐火1時間,乙種防火戸は 耐火30分の遮炎性をもつことが要求される 20• この性能を満足する限りにおいて,必ずし も鉄製である必要はなく,木製のものやガ ラス入りのものでもよい 。 • 防火戸:閉鎖形式による区分 防火扉 防火引戸 防火シャッター 遮煙性が期待される部分に設 置する場合には,遮煙措置を講 じた防煙シャッターなど特別な仕 様のもの. • 防火シャッターは,裏面側への 輻射熱伝達の危険がある,閉鎖 障害の危険性がとくに高い, シャッターにつけられたくぐり戸 が避難障害をもたらす,といった 問題点を有するため,そのむや みな乱用を避ける. • 防火戸はその閉鎖の信頼性を高める点から, 常閉が基本とされる. • ただし,人の出入りが頻繁な場所などでは, 常閉だと逆に楔などによる閉鎖障害が生じか ねないため,煙感知器などに連動する自動 閉鎖機構をつけることを条件に,常開のもの が認められている. iv) ダクトなど貫通部からの延焼防止: 防火ダンパー:煙または熱 を感知して自動的に閉鎖し, 火熱と煙を遮断するもの. (厚さ1.5mm以上の鉄板 製) 熱によって閉鎖するものを フアイヤーダンパー(FD), 煙によって閉鎖するものを スモークダンパー(FSD)と いう.FSDについては当然 遮煙性が要求される. • パイプ類が区間貫通する部分では,管路と壁体とのす き間をモルタルなどを用いて充填するとともに,貫通部 の前後1mにわたって鉄板や耐火被覆材などで覆って, 貫通部周辺が延焼経路とならないように対処する v) 窓から上階への延焼防止: ①スパンドレル(腰壁)や庇あるいはバルコニー などにより,外壁の層間区画を形成する, ② 散水設備をほどこす,あるいは 網入りガラスとする,さらには 防火扉を設置する などにより,窓面の防護をはかることが考えら れる.このうち,スパンドレルについては90cm, 庇・バルコニーについては50cmを確保すること が法的に要求されている. スパンドレル 4)類焼防止 • 隣家からの延焼を防止するためには, ①必要な安全隣棟間隔を確保する, ②開口部や可燃性壁面の防護をはかる ことが必要である. • 安全隣棟間隔というのは,2棟の建物が相対 して建ち,その一方から出火した場合に他方 が類焼しないための隣棟間の間隔をいう. •この安全隣棟間隔dは,図8.8に示され るような h=pd2 (pはパラメーター)という 式で表される等温度曲線を考えることによ り,求められる. 建築基準法で定める「延焼のおそれのある部分」 左図は, ①上述の式から求めた値 (斜線) ②建築基準法で定める「延 焼のおそれのある部分」 (一点鎖線) を比較したもの 法令上の危険範囲は科学的 に計算して求めた値より緩くなっ ているので,法令を満足するだ けでは不十分である. ii) 防災設備の計画: • 防災設備については,その設備やシステムの 有効性や信頼性を考えることがポイント. • この設備の信頼性には, 設備そのものの作動信頼性と 人間が関わる操作信頼性や管理信頼性 があり特に,後者の人間との関係で信頼性を 考えることが大切. • 維持管理や機器操作がどの程度期待できる かを考えて,設備の選択や設置が望まれる. 5) 構造計画 • 火災により建築構造そのものが破壊され ないために,また火災の拡大などにつなが る不都合な変形や脱落が生じないために, 構造面からの検討も必要となる. • この構造面からの検討は耐火設計といわ れ,柱,はり,壁,床などの主要構造部に, 耐火構造として必要な性能が付与されて いるかどうかを,応力計算により評価する のである(第6章参照). a. 住宅 住宅は, ① 小区画の居室や住戸が連続している. ② 火気や可燃物が多い. ③ 就寝状態で利用される. ④ 乳幼児や高齢者など多様な人々が利用 する. 大量の可燃物ということでは,住宅には少な くとも30kg/m2前後の可燃物が収納 また,多様な人々の利用ということでは,3割 以上の住宅に高齢者が居住 2) 防火設計上の要点 • i) 初期拡大の防止: • 自動消火装置や過熱防止装置のついた安全 性の高い火気器具の普及をはかることは出火 防止につながる. • また,熱源として電気を用いる,あるいは集中 冷暖房システムを採用することにより,裸火の 使用を抑制することも出火防止に役立つ. • 設備的あるいはエネルギー的対策に加えて, 住宅内の整理整頓をはかることにより,出 火につながるミスや接触が起きないようにす る空間的な対策も,出火防止には有効. ↓ • 住宅の設計段階で収納スペースを十分に確 保して,物が乱雑に放置されないように計画 することが大切. • 対応能力に欠ける高 齢者などの安全を確 保するには,初期消 火性能の向上をはか ることが期待され, • これからは住宅にお いても積極的にスプリ ンクラーの設置をは かっていくことが望ま れる. • 対応能力に欠ける高齢者などの安全を確 保するには,初期消火性能の向上をはかる ことが期待され,これからは住宅においても スプリンクラーの設置を積極的にはかって いくことが求められよう. ii) 全館拡大の防止: 住宅における拡大防止策の基本 内装の不燃化や防炎化により火災拡大の 遅延をはかるとともに, 防火構造あるいは耐火構造の壁により隣 家あるいは隣室への拡大防止をはかる 高層住宅になると,強風の影響やドラフト 効果などによって,窓からの噴出火災によ る上階への延焼の危険が増すと考えられ るが,バルコニーや庇などによって窓から の延焼防止をはかる. iii)安全避難の確保: • 住宅火災における死亡原因の大半は「逃 げ遅れ」によるもの ↓ • 住宅用の煙感知器の設置が義務化 • 一方、逃げ遅れた場合における安全な経 路を確保しておくことも大切で,窓側に避 難経路としてのバルコニーの設置に努め る必要がある.
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