講義の予定 はじめて学ぶ建物と火災 第1章 建物火災に対する安全 第2章 火災は意外と多い ー 火災の実態 第3章 ものが燃える ー 火災の現象 第4章 火災の被害を小さくするために 第5章 火・煙から人をまもる ー 避難安全 第6章 火災の拡大を防ぐ ー 延焼防止 第7章 火災に耐える建物をつくる 教科書と参考書 第5章 火・煙から人を守る -火災時の避難安全- 5-1 5-2 5-3 5-4 5-5 5-6 人を安全に避難させる 人の動きを知る 煙の怖さを知る 煙の動きを知る 煙を制御する 避難安全性能を確かめる 5-1 人を安全に避難させる ・火災時の建物利用者の避難対策: 建物を計画する上で最優先することの一つ, 火災時の実効性を重視させる ・避難計画: 建物内のどこで火災が発生しても, 人々が安全な場所に避難できる ・安全区画: 出火した部屋と防煙的に区画された廊下 や部屋,第1次と第2次の安全区画がある 建物の安全区画 避難安全性能の条件 5-1-2 避難経路の計画 ・2方向避難の確保: 建物利用者が居る場所から安全な場所に 至る経路を独立に2つ確保 ・避難経路の連続性と明快性: 「居室→廊下→階段」など連続性と明快性を 持たせて,避難中に迷わなくさせる ・特別避難階段: 火や煙に安全性の高い階段で,廊下との 間に付室やバルコニーがある階段 2方向避難の例 避難階段の例 特別避難階段の例 5-1-3 脱出手段の計画 ・避難器具: 避難はしご,避難タラップ,救助袋, 緩降機,避難橋,避難ロープ,すべり台 など ・緩降機: 体重や降下高さに関わらず自重で一定 の速度で降下し,着地のショックも無い 避難器具の例 5-2 人の動きを知る ・避難者心理: 非常時には,避難者が興奮状態となり 本能あるいは感情的に行動する ・日常動線志向型: 日頃から使い慣れた経路や階段を 使って逃げようとする ・帰巣性(きそうせい): 入ってきた経路を戻って逃げようとする 5-2-1 避難者の特性と心理 ・向光性: 明るい方向を目指して逃げようとする ・危険回避性: 火災や煙など危険現象からできるだけ 遠ざかるように逃げようとする ・追従性: 避難先頭者や多くの人が逃げる方向 に逃げようとする 火災時の避難者の危険性 建物の用途と在館者の状態 5-2-2 在館者の密度と速さ ・建物利用者の歩行速度: 一般的に 1.0~1.3(m/s) 程度だが, 群集密度の増加で減少 ・階段の水平投影の歩行速度: 0.5(m/s) 程度 ← 階段の寸法に影響 ・出入り口などの滞留解消時間: 出入り口の幅1m当り1.5人/秒 ← この値を流動係数という 非難時の 群集による 流れ特性 在館者の密度 群集密度と歩行速度 群集での 出口通過 速度 (1m幅) 5-2-3 災害弱者への配慮 ・災害弱者: 避難能力が十分でなく逃げ遅れる可能性 がある人 → 高齢者・乳幼児・障害者 ・水平避難方式: 階段移動が困難な人を同じ階で火煙 の伝播から守られた区画へ移動 ・外気に開放されたバルコニー: 災害弱者の一時待機用スペースに利用 人の 行動能力 の比較 災害弱者 健常者 階段室での避難者の滞留 水平避難方式の概念 バルコニー への避難 5-3 煙の怖さを知る ・火災の死因: ① 放火自殺,② 火傷(やけど) ③ 一酸化炭素中毒や窒息 ・一酸化炭素ガス: CO 炭素を含んだ物質の不完全燃焼時に 発生する気体,無色無臭 ・COガス中毒:肺に入るとヘモグロビンと 強く結合するので,酸素不足になる 火災による死因別死者数 ● ● ● ● ● ● 一酸化炭素濃度と人体ダメージ 5-3-2 煙中での視覚 ・減光係数Cs(1/m): 煙の濃度を表す指標,大きくなると 見透かし距離が低下する ・Cs = 1.0 :ほとんど前が見えない状態 ・Cs = 0.5 :手探り状態 ・Cs = 10 :暗闇状態 減光係数と見透かし距離 減光係数と見透かし距離 煙の刺激と見透かし距離 5-3-3 煙中での行動 ・人が動揺する煙濃度: 減光係数 Cs = 0.1(1/m)以上 ・煙濃度と思考力: 減光係数の増加に伴って思考力は低下する しかし,記憶力はあまり変化しない ・煙濃度と歩行速度: 刺激性の強い煙は目を刺激し,視野を狭くする ので,歩行速度は急に遅くなる 心理的動揺と減光係数 思考力・記憶力と減光係数 歩行速度と減光係数 0.5 5-4 煙の動きを知る ・火災プルーム: 着火した可燃物の真上に形成される燃焼熱 による上昇気流 ・火源上の構成:着火可燃物から, 連続火炎域→間歇火炎域→プルーム域 ・煙層の天井からの降下速度: 火源の大きさ,火災室の広さや高さで, 予測することが可能 火源での温度の高さ分布 煙層降下のモデル 煙層降下の実験結果 5-4-2 天井を流れる煙 ・天井流: 着火可燃物の上昇気流は天井衝突後に 天井面に沿って,同心円状に拡がる ・開口部からの煙の流出量: 空間圧力差分布の中性帯高さより上方から 煙は流出する ・廊下天井面の煙の伝播速度: 一般的に 0.5~1.0(m/s) ← 歩行速度より遅い 火源での天井流 圧力の中性帯高さ 排出 給気 天井近傍の温度分布 廊下での煙伝播 5-4-3 竪穴を上昇する煙 ・煙突効果: 空間内では温度が高い気体が浮力で 上方へ移動し排出する現象 ←建物通気 ・竪穴空間の煙の伝播速度: 煙突効果により 3~5(m/s) 程度 ← 水平伝播より5倍も速い 煙が階段室に流入した時の 上層階への煙伝播 煙突効果と開口の大きさ 高層建物の煙突効果 5-5 煙を制御する (1)煙制御の方法: ・防煙:他空間への煙の流出を防ぐ ・排煙:煙を外へ排出する (2)煙制御の基本概念: ①区画化(防煙区画) ②排煙(外部へ) ③遮煙(圧力差の利用) ④蓄煙(建物内に溜める) ⑤希釈 煙制御の方法 5-5-2 区画化 ・防煙区画する面積: 床面積500㎡以内ごとを防煙壁で区画 ・防煙壁: 不燃材で造られ(覆われ)た間仕切壁 または天井から50 cm以上垂れ下がった垂壁 ・排煙口:外気または排煙風道に直結 防煙区画の各部から30 m 以内毎に ・排煙風道:120㎥/分以上の能力の排煙機 防煙壁の構造 防煙垂壁 間仕切壁 ガラススクリーンでも良い 排煙設備の構造 排煙口 5-5-3 排煙 ・煙の方式: 自然排煙方式(煙の浮力を利用) 機械排煙方式(排煙機を利用) ・給気口: 効率よく外部へ排煙するためには, 部屋の下部に設けることが重要 ・機械排煙方式: ダクト方式(排煙ダクト), 天井裏チャンバー方式,壁付排煙口方式 自然排煙方式 浮力を利用 給気口 機械排煙方式 排煙機のダクト 給気口 排煙 方式 の概念 5-5-4 遮煙 ・遮煙の考え方: 避難経路や消防活動拠点などの空間を 機械的に加圧給気して圧力差で排煙する ・遮煙の欠点: ①加圧された空間から火災室へ新鮮空気 が供給されるので火勢を増すことがある ②加圧した空間に面する扉面に圧力が 作用して扉が開けにくくなる 加圧システムによる遮煙 機械的 に排煙 機械的に 加圧給気 加圧した空間に面する扉の圧力 第6章 火災の拡大を防ぐ -建物内での延焼防止- 6-1 火災が延焼拡大する危険 6-2 火災はどのように延焼拡大するか 6-3 延焼拡大を防ぐには 6-4 具体的な延焼拡大防止対策 6-1 火災が延焼拡大する危険 ・室内火災: 室内の家具,衣料や寝具などの可燃物に 着火 → 拡大 → フラッシュオーバー ・建物火災: 室内全体に拡大した火災が壁,床,扉等 を越えて隣接室や上階に延焼 ・人命の危険: 避難通路や階段に煙や熱気が流入する と避難不可能 → 消防隊の救助を待つ ・建物自体の損害: 内装材の焼失や煙汚損,構造体の変形 などで,火災後の修復は長期化する ・建物の機能停止: 公共施設なら公的サービス,生産ライン 工場なら生産活動が不可能に ・建物の修復期間: 焼失面積が大きいほど損傷が激しく修復 や機能回復まで長くかかる 6-2 火災はどのように延焼拡大するか ・木造住宅: 火災発生後短時間で,壁や上階の床が 燃え抜け,隣接室や上階に延焼 ・RC造(鉄筋コンクリート造)の床: 材料は燃えることはないが,床厚が薄い と熱が伝導し上階の可燃物に着火 ・S造(鉄骨造)の壁パネルや床パネル: 軽量鉄骨下地が熱変形して,パネルに 隙間が生じ,火炎や煙が噴出 鉄骨造の壁・床パネルからの延焼 隙間 隙間 隙間 6-2-2 扉等などを通して延焼拡大する ・鋼製扉の変形: 扉が熱膨張で変形して,枠との間に隙間 が生じ,火炎が噴出 ・鋼製扉の放射熱: 火災室が高温になると鋼板は赤熱し, 反対側の放射熱や熱気流で着火する ・防火扉やシャッターの閉鎖障害: 防火扉や防火シャッターが故障や不適切 な使用で閉鎖しなかった(直下の物品等) 扉の熱気流や放射熱からの延焼 防火シャッターが閉鎖しなかった例 6-2-3 配管・ダクト等の貫通部から延焼 ・区画貫通部: 防火区画を構成する壁や床を配管, ダクト,電線などが貫通する部分 ・壁や床を貫通する可燃物: 塩化ビニル製の配管やダクト, 電線の被覆材や絶縁材(ポリエチレン製) ・貫通孔との隙間: 可燃材を耐火充填材で被覆し,隙間は モルタル等で充填して延焼を防ぐ 外壁と床の隙間からの延焼の例 床の配管貫通部から延焼した例 6-2-4 竪穴を介して延焼拡大する ・竪穴: 階段室,エレベーターシャフト,吹抜け, パイプスペース,ダクトスペース等 ・煙突効果: 下階の火災の煙や熱気が竪穴に流入する と浮力のため激しい上昇気流になる ・竪穴上部階への延焼: 竪穴で大きな圧力分布が生じ,上部階には 強い正圧が作用して煙が上階へ噴出 6-2-4 竪穴を介して延焼拡大する ・竪穴内温度と開口面積: わずかな開口でも竪穴内温度が上昇 すれば多量の煙が噴出, 下部の開口が大きいと速度が更に増す ・空調ダクトによる延焼: ダクトスペースに煙が流入し,上部階 の空調機から煙が噴出(千日ビル火災) 火災室内の圧力分布 上部には強い 正圧が作用し 煙が噴出 竪穴における煙突効果 煙突効果: 下階から,火災の煙や 熱気が竪穴に流入する ↓ 浮力のため激しい 上昇気流になる エレベータシャフトによる漏煙 竪穴内温度とガス流出温度 千日ビル火災の概要 1972年5月 22時頃 3階の電気工事で 起こった火災の煙と有毒ガスが,階段, エスカレータ,エレベータシャフト等を経て, 約10分で7階まで上昇,118人が死亡 千日ビル火災 出火階 エスカレータ 工事の火災 階段 エレベータシャフト 千日ビル火災 7階での被害者 竪穴内の 煙の流出 6-2-5 建物外部から延焼する ・板ガラス: 耐火性は乏しく,200℃近くになると破損 ← 防火ガラスは網入りとする ・開口部からの上階延焼: 板ガラスが破損し火炎が外部へ噴出して, 放射熱などで上階に延焼 ・スパンドレル: 上下階の窓と窓の間の壁,または,それに 使われるアルミやステンレスの金属板 開口部からの噴出火炎 開口部からの噴出火炎 ベランダと階段室の延焼例 6-3 延焼拡大を防ぐには 6-3-1建物に応じた対策が必要 ・防火壁の設置: 床面積1000㎡以上の木造建築物は防火壁 で区画(屋根や外壁から50cm以上突出) ・隔壁の設置: 木造の長屋や共同住宅の界などは小屋裏 や天井裏に達する隔壁を設置 木造建物の防火壁 ・耐火構造物: 主要構造を耐火構造とした建物で,延焼 範囲(1階:3m,2階:5m)には防火ガラス ・耐火構造: RC造やレンガ造など,柱・梁・床・耐力壁 の構造部材が耐火性能を持つ ・耐火性能: 通常の火災の終了まで構造耐力上支障が ある変形・溶融・破壊等はしない ・準耐火構造物: 主要構造が準耐火構造の建物+防火ガラス 隣接建物による延焼範囲 防火ガラスは網入り板ガラスが一般的 6-3-2 一定の床面積で区画 ・面積区画: 耐火構造物:床面積1500㎡以内ごとを区画 準耐火構造物: 500㎡~ 1500㎡ごとを区画 ・部屋の用途による防火区画: 火気を使用する部屋,貴重品を収蔵する部屋 ・高層区画: はしご車が届かない11階以上の階が対象 内装と下地が不燃材料:500㎡以内ごと 準不燃材料:200㎡以内ごとを区画 6-3-2 鉛直方向などの延焼を防止 ・竪穴区画: 竪穴(階段室,吹抜け,パイプスペース, ダクトスペース等)を他の部分と区画 ・層間区画: 出火階から上階への延焼を防止するため の区画 → 床と外壁を耐火構造化 ・異種用途区画: 不特定多数の人が利用する建物は, 建物の用途ごとに区画 建物の防火区画の例 建物の防火区画の例 建物の防火区画の例 防火防煙シャッターによる区画 随時閉鎖式 防火シャッ ター 特定防火設備による区画 随時閉鎖式 防火扉 遮煙性能のある扉による区画 防火エレベータ扉 エレベーターホールによる区画 随時閉鎖式 防火扉 エスカレーターの竪穴区画 層間区画のスパンドレル 6-3-3 建物の延焼拡大防止設計法 ① 防火区画の計画: 建物の用途や使用状況等から,どの位置 で延焼を防止するかを決定 ② 区画部材の構造を計画: 床と壁,扉とシャッター,貫通する配管類 やケーブルの部分 ③区画部材の標準火災加熱時間の算定: 防火区画内の火災の継続時間から算定 6-3-3 建物の延焼拡大防止設計法 ④ 区画部材の保有耐火時間の算定: 数値計算や耐火試験から ⑤ 区画部材の保有耐火時間が, 等価火災継続時間以上であることを確認 ⑥ 建物の外部からの火災により建物が 延焼しないことを確認 延焼拡大防止設計法 吹き抜け内での出火 吹抜け隣接室内での出火 防火区画の要求性能 6-4-2 床や壁に要求される性能 ・非損傷性: 鉛直荷重を支持する床や耐力壁は,火災時 も変形,溶融,破壊せず荷重を支持する ・遮熱性: 火災室と反対側の表面に接触している 可燃物の着火を防止する → 最高160℃ ・遮炎性: 火炎が外部に噴出しないように,外壁を 貫通する亀裂などを生じさせない 6-4-3 床や壁の遮熱性の評価方法 ・耐火試験:床や壁を試験体として試験炉 に用いて,非損傷性,遮熱性や遮炎性を評価 ・標準加熱温度曲線:フラッシュオーバー後を 模擬,30分842℃,60分945℃,180分1110℃ ・非損傷性の評価: 試験体の主要な各部が長期許容応力度を 作用させてもひび割れしない ・遮熱性の評価: 試験体の裏側温度が可燃物燃焼温度以下 標準加熱温度曲線 防火床と防火壁 防火壁の実験 6-4-3 開口部材の種類 ・防火扉: 鋼板製が多いが,鋼板枠かアルミ合金枠に 網入りガラスか耐熱ガラスでもOK ・防火シャッター: 鋼板製が多いが,セラミックを用いた クロスシャッターが出現 ・水膜式延焼防止装置: 避難経路に高圧で水を放出して水膜を形成 して延焼を防止する 耐熱ガラスを用いた防火扉 防火シャッターのスラット形状 水膜式延焼防止装置 円筒状の防火区画 トンネル状の防火区画 6-4-3 開口部材に要求される性能 ・ 開口部の遮炎性: 火災時に開口部材が高熱により変形 して,枠との隙間に火炎が噴出を防ぐ ・遮炎性の耐火試験: 壁と同じ耐火試験で,反対側に10秒 以上の火炎噴出がないかを確認 鋼製シャッターの放熱量 防火スクリーンシャッター 6-4-7 区画貫通部の種類と性能 ・区画貫通部の可燃材: 塩化ビニル製の配管やダクト,電線の被覆材 や絶縁材 ・貫通孔との隙間: 可燃材を耐火充填材で被覆し, 隙間はモルタル等で充填して延焼を防ぐ ・防火ダンパー: 冷暖房設備や換気用のダクト(風洞)の 貫通孔付近に設置,高温で閉鎖 床を配管が貫通する例 ケーブルが床を貫通する例 配管の防火区画貫通部の例 ケーブルの区画貫通部の例 防火ダンパーの例 建物の火災拡大防止対策 建物の火災拡大防止対策
© Copyright 2024 ExpyDoc