宇宙科学最前線 第1回

鹿児島大学/愛媛大学
宇宙電波天文学特論
第6回
分子輝線と分子雲
半田利弘
鹿児島大学 大学院理工学研究科 物理・宇宙専攻
Mellinger
星間ガスの物理状態
ガスの種類
典型的温度
典型的密度
主な天体
分子ガス
20K
>100個cm-3
分子雲
1個cm-3
WNM, CNM
中性原子ガス 100K
電離ガス
6000-10000K 100個cm-3
HII領域
電離ガス
106K
コロナガス
<0.01個cm-3
重力収縮
Mellinger
分子雲
▶ 星間分子ガス雲のこと
■
■
水素分子を主成分とする星間ガスの集積部
星間ガスで、最も高密度な成分
▶ 周囲のガスと圧力平衡にない
■
■
自己重力が効いている
自己重力>ガス圧 なので、自己収縮中?
Mellinger
分子雲のプローブ(1)
▶ 水素分子H2
■
■
■
対称2原子分子なのでm=0
電気双極子放射をしない!
回転遷移では電波放射がほぼ0
▶ 次に多い分子はなに? 答:CO
■
■
存在比abundanceが未知数
CO/H2~10-4
Mellinger
分子雲のプローブ(2)
▶ COの問題点
■
▶
柱密度が高すぎるとサチってしまう
12C16Oの同位体分子
■
13CO,
C18O
▶ 他の分子としては
■
CS, HCO+, HCNなど
Mellinger
分子輝線:回転遷移
▶ 2原子分子
▶ 異種原子だと電子を引きつける力が異なる
■
C=2.55, O=3.44 ポーリングの電気陰性度
▶ 原子の質量が異なる
■
C=12, O=16
▶ 電子分布中心が重心と異なる
■
■
電気双極子モーメント
回転による電荷振動→ 電磁波放射
C
O
Mellinger
回転軸:質量中心
2原子分子の回転遷移(1)
▶ モデル化:電気双極子モーメントの回転
■
■
■
■
回転量子数 J
エネルギー準位 EJ=hBJ(J+1)
許容遷移 DJ=±1のみ、
輝線周波数 nJ+1,J=EJ+1-EJ=2B(J+1)
64𝜋4 𝑛3
2
AJ+1,J =
|
m
|
J+1,J
3ℎ𝑐 3
64𝜋4 𝑛3 𝐽+1
2
=
m
3ℎ𝑐 3 2𝐽+3
Mellinger
2原子分子の回転遷移(2)
▶ 吸収係数
kn =
𝑐2
𝐽+1 2
m
8𝜋𝜈2 2𝐽+1
nJ 1−𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑒𝑥 j (n)
▶ LTEを仮定して全分子数を推定すると
nJ =n gJ
𝑒
−𝐸𝐽 /𝑘𝑇𝑒𝑥
▶ 分配関数:Q=S(2J+1) 𝑒
=∫(2J+1) 𝑒
𝑄
−𝐸𝐽 /𝑘𝑇𝑒𝑥
−ℎ𝐵𝐽(𝐽+1)/𝑘𝑇𝑒𝑥
kTex
dJ =
hB
Mellinger
2原子分子の回転遷移(3)
▶ 吸収係数
8𝜋3 𝐵𝜈
kn =3𝑘𝑇 𝑐
𝑒𝑥
(J+1)m2
n exp
ℎ𝐵𝐽(𝐽+1)
−
𝑘𝑇𝑒𝑥
1 − 𝑒𝑥𝑝
ℎ𝜈
−
𝑘𝑇𝑒𝑥
j (n)
▶ 励起温度が視線上で一定なら
tn =N
4𝜋3 𝜈 2 𝜇 2
3𝑘𝑇𝑒𝑥 𝑐
exp
ℎ𝜈𝐽
−
2𝑘𝑇𝑒𝑥
1 − 𝑒𝑥𝑝
 ここで、hn=2hB(J+1)を使った
ℎ𝜈
−
𝑘𝑇𝑒𝑥
j (n)
Mellinger
2原子分子の回転遷移(4)
𝜈
𝑐
▶ ドップラー効果換算のdn = dvを使うと
tn =N
■
N=
4𝜋3 𝜈 2 𝜇 2
3𝑘𝑇𝑒𝑥 Dv
exp
ℎ𝜈𝐽
−
2𝑘𝑇𝑒𝑥
1 − 𝑒𝑥𝑝
ℎ𝜈
−
𝑘𝑇𝑒𝑥
Nについて逆に解くと
3𝑘𝑇𝑒𝑥 Dv
tn 4𝜋3𝜈2 𝜇2
exp
ℎ𝜈𝐽
2𝑘𝑇𝑒𝑥
1 − 𝑒𝑥𝑝
ℎ𝜈
−
𝑘𝑇𝑒𝑥
−1
Mellinger
2原子分子の回転遷移(5)
▶ ここからは非線形なので、ちと面倒
ℎ𝜈
RJ近似不可
𝑘
=5.5 [K]~Tex=20 [K](COの場合)
 R-J換算温度を使う
J(T)=
ℎ𝜈
1
𝑘 𝑒 ℎ𝜈/𝑘𝑇 −1
宇宙背景放射が無視できない
▶ 輝線強度 DTn=[J(Tex)-J(TBG)](1-𝑒 −𝜏𝜈 )
▶ ここからtnを求めて、代入するとNが得られる
N13CO(1-0)[cm-2]=2.5×1014t13CO Tex Dv[K km s-1]
 13CO(1-0)輝線の場合
Mellinger
−1
1−exp − 𝑇5.29
[𝐾]
𝑒𝑥
分子雲中の分子輝線
▶ 衝突励起
■
分子同士の衝突励起と輝線放射で平衡状態
▶ 2準位モデル
dn1=n2 A21-n1B12I+n2B21I-n1C12+n2C21
n=n1+n2
全分子数は一定
▶ 定常状態dn1=0として解けばよい
Mellinger
n2
C12 C21
B21 B12 A21
n1
極限状況を考える
▶ 衝突項が無視できる場合(C12= C21 =0)
I=
■
𝐴21
𝐵21
𝑛1 𝐵12
𝑛2 𝐵21
−1
−1
アインシュタイン係数の関係を導いた式と同じ
▶ 放射項が無視できる場合( A12= B12= B21 =0 )
■
■
■
n2/n1=C12/C21
衝突が十分に頻繁なのでTkで熱平衡
Tk:運動温度kinetic temperature
n2/n1=C12/C21=(g2/g1)exp[-(hn)/(kTk)]
これと、アインシュタイン係数の関係式を使うと…
Mellinger
係数の整理
▶ 得られる関係式
𝑛2
𝑛1
■
■
=
𝑐2
𝑔2 2ℎ𝜈3
𝑔1
IA21+C21 𝑒 −ℎ𝜈/(𝑘𝑇𝑘)
𝑐2
𝐴21 1+
𝐼
2ℎ𝜈3
IをTrで表す(プランク関数で形式的に書く)
n2/n1 をTexで表す(ボルツマン分布で形式的に)
▶ 以上から…
𝑒
ℎ𝜈
−𝑘𝑇
+𝐶21
𝑒𝑥
=
𝐴21
𝑒 −ℎ𝜈/(𝑘𝑇𝑟 ) −1
Mellinger
+
𝐶21 𝑒 −ℎ𝜈/(𝑘𝑇𝑘 )
𝐴21 𝑒 −ℎ𝜈/(𝑘𝑇𝑟 )
/{A21 exp(hn/kTr)/[exp(hn/kTr)-1]+C21}
exp(hn/kTr)-1]+C21}
極限での状況
 前ページで得られた式
exp[-(hn)/(kTex)]=[A21/{exp(-hn/kTr)-1}+C21exp(-hn/kTk)
/{A21 exp(hn/kTr)/[exp(hn/kTr)-1]+C21}
■
放射優勢の場合(A21≫C21)
Tex→Tr
■
衝突優勢の場合( A21 ≪ C21 )
Tex→Tk
■
弱放射近似(I=0)
n2/n1=[n2/n1]Bol (A21/C21 +1)-1
 [n2/n1]Bol:Tkでのボルツマン分布
Mellinger
臨界密度(1)
▶ 古典的衝突モデル:C21
C21 =n(H2)s <v>
▶ n2/n1が十分に大きくないと輝線が見えない
■
■
n2/n1=[n2/n1]Bol (A21/C21 +1)-1
なので、A21<C21が1つの目安
n(H2)>A21/(s <v>)=n(H2)crit :臨界密度
▶ よくある誤解
■
“A係数が大きいほど輝線が強い”わけではない
Mellinger
臨界密度(2)
▶ CO(J=1-0)の場合
■
■
■
A10=7.203×10-8 s-1, s ~10-15 cm2
Tk~20Kだとすると、< v>~0.5 km s-1
代入すると n(H2)crit, CO(1-0)~103 cm-3 :臨界密度
▶ CO(J=4-3)の場合
■
■
A43=(n43/n10)3 A10=6.4×10-6 s-1なので、
n(H2)crit, CO(4-3)~105 cm-3
Mellinger
臨界密度(3)
▶ 調べたい密度で輝線を使い分ける
■
high density tracer
HCN, HCO+
 CO(4-3), CO(3-2)
 NH3
 CS,
▶ 分子ガスがあっても輝線が出ないことがある
■
■
very less dense gas存在の可能性
baryonic dark matter候補=dark gas
Mellinger
多輝線観測(1)
▶ LTE近似
■
■
■
全てのレベルでTexが等しい
輝線強度の相対値:t の違いだと考える
TB=Tex (1-e-t)
t≫1の輝線と、 t ≪1の輝線で比較
TB,thick=Tex, TB,thin=Text,
▶ 強度比から光学的厚さ→柱密度
▶ 光学的に厚い輝線の強度→励起温度
Mellinger
多輝線観測(2)
▶ 多準位(Dj=±1だけの場合:2原子分子)
dnj=nj+1Aj+1,j-njBj, j+1Ij+1,j+nj+1Bj+1,jIj+1,j-njCj,j+1 +nj+1Cj+1,j
■
n=Snj
全分子数は一定
定常状態dnj=0として解けばよい
▶ 放射Ij+1,jの変化:2準位モデルにならって
en = (hn )/(4p) j(n) nj Aj+1,j
kn = (hn )/(4p) j(n) (nj Bj,j+1-nj+1 Bj+1,j)
▶ 放射強度の変化 dIn=(en –kn In)dx
■
輝線放射領域の巨視的構造による
Mellinger