インスリン スライディングスケール 2007年11月16日 研修医勉強会 ①インスリン治療の導入 1型糖尿病 2型糖尿病 妊娠・授乳時の血糖正常化(食事療法でのコントロール不良) 高血糖性昏睡 重症感染症、外傷、外科手術 重篤な肝障害・腎障害 経口血糖降下剤無効例、副作用で使用できない例 ブドウ糖毒性解除を目的とする場合 著明な高血糖、ケトーシス、極端なやせなど高度のインスリン不足 高カロリー輸液実施時 ステロイド誘発性糖尿病 インスリン ・保存法 原則4度の冷蔵庫で保存 一度凍結したインスリン製剤は使用できない 開封したインスリンアナログ製剤は28日を超えて使用しない 室温(25度)でも数ヶ月間は特に問題ない ・インスリン注射部位と吸収を規定する因子 吸収速度 注射部位 腹壁>上腕>大腿 注射穿入深度 筋肉>皮下>皮内 運動 亢進 局所マッサージ 亢進 局所温度 高温>低温 喫煙 遅延 微小血管症 亢進 インスリン濃度 40単位/ml>100単位/ml インスリン投与量 少量>大量 ②インスリン製剤の作用動態 作用発現時間 最大作用発現時間 作用持続時間 15分 0.5-1.5時間 3-5時間 30分 1-3時間 8時間 0.5-1時間 2-8時間 18-24時間 1-2時間 4-8時間 18-24時間 1.5時間 24時間 ②インスリン製剤の作用動態 ・基礎分泌補充 食事の前や夜間就寝中など血糖が低いときでも微 量のインスリン分泌は持続 →肝臓からの糖新生が過剰にならない 基礎分泌の補充;持続型・中間型のインスリン ・追加分泌の補充 食事摂取による血糖上昇、インスリン分泌 →インスリンの作用でブドウ糖は速やかに肝臓や抹 消の組織に取り込まれる 追加分泌の補充;速効型・超速攻型インスリン ③インスリン投与量の調節法 ③-1.後ろ向き調節;Retrospective ・血糖の動きを振りかえって量を決める。 ・通常血糖が比較的安定している時は、2-3日 の血糖の動きを見てから高すぎ、あるいは低 すぎる時間帯に効いている責任インスリン量を 調節。 ③インスリン投与量の調節法 ③-2.前向き調節;Prospective スライディングスケール ・インスリン必要量を予測 ・測定した血糖値によりその時点で注射するインスリン量を 決める ・特にシックデイでインスリン必要量が増えたときはどれくら い増やしたらよいのか予測がつかず、また急を要するこ とが多い ・血糖を頻繁に測定し、それに応じて速効型インスリンを追加 ・朝の血糖値を下げるために眠前の中間型を2-4単位皮 下注する。 ・目標;朝の血糖値が120mg/dl ③インスリン投与量の調節法 ③-2.スライディングスケール(持続静脈注射の例) 患者の意識状態が悪くなるほど血糖値が高いとき(ショック状態やアシドーシスのときなど)は毛細 血管が収縮しているためインスリン皮下注射では吸収されにくい。 血糖値(mg/dl) インスリン量 80以下 インスリン停止し、2時間後再検、医師に報告 80~200 現状維持 201~300 4U早送りし、持続注射はそのまま継続、2時間後再検 301~350 4U早送りし、持続は0.5U/時間増加、2時間後再検 351~400 6U早送りし、持続は0.5U/時増加、2時間後再検 401以上 医師に報告 (聖路加国際病院内科作成スライディングスケールを引用) ・速効型インスリンは0.1U/kg/時間から、開始する。 ・速効型インスリンは生理食塩水に混注し、1U/mlの濃度で使用。 ・目標血糖値;150~200mg/dl ・インスリン投与ラインは側管をつなげない。(もし側管からのワンショットなどを行うと、瞬 間的に大量投与されてしまう⇒低血糖になるおそれあり) ③インスリン投与量の調節法 ③-2.スライディングスケール(間欠的投与の例) ショック等に陥っていない、高血糖の場合 SSA SSB 血糖値(mg/dl) 速効型インスリン(皮下注) 80以下 低血糖処置 81~100 0単位 0単位 101~150 0単位 0単位 151~200 0単位 2単位 201~250 2単位 4単位 251~300 4単位 6単位 301~350 6単位 8単位 351~400 8単位 10単位 400以上 医師に報告 NDP (National Demonstration Project on TQM for Health =「医療のTQM実証プロジェクト」)より引用 ・原則としてSSAから開始。SSA、SSBにてもコントロールが困難と判 断された場合独自にインスリン投与量を指示する。 ・高血糖が続く場合はインスリン投与量を増量する。 ③インスリン投与量の調節法 インスリンとその降下を 反映する血糖値の関係 (責任インスリン) 測定時間 責任インスリン 朝食前 就寝前・持続型 朝食後 朝食前(超)速効型 昼食前 *朝食前血糖値上昇に注意 夜注射した中間型インスリンの作用のピ ークが3-4時頃にきて、その後徐々に効果 が減弱、血糖が不安定になる。 ・暁現象(Dawn phenomenon) 夜間の成長ホルモンなどの分泌により、明け方3-4時頃から インスリン必要量が増える。 ・ソモジー効果(Somogyi effect) 夜間インスリン量が増えないと、次第に血糖が上昇。反跳性の 高血糖で、低血糖の後に拮抗ホルモンの影響で血糖上昇。 →夜食、就寝前の中間型を減量 昼食後 昼食前(超)速効型 夕食前 夕食後 夕食前(超)速効型 就寝前 深夜 就寝前中間・持続型 ③インスリン投与量の調節法 ・インスリンの追加や減量は2-3日間同じ傾向を示した場 合に行い、1回につき1時点のみ、2-4単位の修正に留 める。 ・血糖コントロールがつき、1日に必要なインスリンの単位 数が大体わかったら、その総量の2/3を朝に、1/3を夕 食前に振り分けて持続型インスリンの2回打ちにする。 ・理想は朝前に持続型:レギュラーインスリンが7:3の割 合でっ混合されたインスリンを使い、夕前に持続型:レ ギュラーインスリンが5:5の割合で混合されたインスリ ンを使用する。 ・その後、朝の血糖値が高かったら夕のインスリンを増量、 夕の血糖値が高かったら朝のインスリン量をそれぞれ 増量して血糖コントロールをはかる。 ④スライディングスケールの注意点 血糖が低いと投与インスリン量が少なくなり、 その後血糖上昇を来す。 血糖が高いと投与インスリン量が多くなり、そ の後血糖低下を来す。 血糖コントロールが不安定になる!! ・長期間スライディング(皮下注)を使用しない。2回打ちも しくは3回うちに変更する。 ・専門家にコンサルトをする。 血糖降下をはかる前に眼科受診を!! 血糖降下と網膜症進展の危険性 累積期間 HbA1値降下の割合 1% 2% 3% 3ヶ月 1.70 2.83 4.52 6ヶ月 1.46 2.01 3.12 9ヶ月 1.29 1.82 2.68 12ヶ月 1.12 1.37 2.05 船津英陽:日本医師会雑誌(平成2年1 1月5日号):158,1990より 注)ある期間内におけるHbA1値降下による網膜症進展の危険度を示 す。1年間という短期間でみる限り、血糖降下をはかることによる網膜 症進展の危険性は、3ヶ月間にHbA1値を3%降下させた場合には、約 4.5倍の危険性があるが、12ヶ月間に1%降下とかなりゆっくり低下さ せた場合には、その危険性は1.1倍と低い。それだけ、血糖降下が緩 徐なほど網膜症進展の危険性が少ないといえるが、長期的にみた場合 には、高血糖は明らかに網膜症を進展させる方向に働くのだから、Hb A1値で2%/6ヶ月ぐらいの割合で血糖降下を行うのが網膜症進展を 防ぐ上で望ましい仕方だといえる。 浅羽Dr.からの補足 ・血糖値250mg/dl以上ではインスリン抵抗性があったり、インスリン感受 性が低下している場合がある。 ・例えば、朝のインスリン投与量は昼前の血糖値を見てインスリン量を決め るのがよい。 ・インスリン投与量はころころ変えない。 ・インスリンを使うことによりインスリン抵抗性が改善され、血糖値が下がると きが出てくる。 ⇒予測してインスリン投与量を減らす。 目安は血糖値250mg/dl以下 ・血糖値が400mg/dlであった人が30分で200mg/dlに低下したら、交感 神経の働きにより低血糖症状が引き起こされることがある。 ・血糖値250mg/dl以上では白血球の貪食能が低下する。 ⇒周術期の血糖値は250mg/dl以下が理想。
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