【第5回】意匠法専門特論 吉備国際大学大学院 (通信制)知的財産学研究科 担当講師 生駒 正文 授業計画: 本講義では、「意匠権の効力の制限」のテーマにつ いて取り扱う。具体的には、(1)他人の権利との関係 による制限(意26条)として、(a)他人の登録意匠の 利用、(b)他人の商標権との抵触、(c)他人の著作 権との抵触、について、判例を通じて学習する。 また、(2)他人の実施権による制限として、(a)専用 実施権による制限、(b)先使用権による制限につい て、判例を通じて学習する。 教科書: 牛木理一著『現代産業選書 意匠権侵害 ―理論と実際―』(経済産業調査会、2003年)82~ 91頁、255~264頁、674~677頁 参考書: 茶園成樹編『意匠法』(有斐閣、2013年) 1. はじめに 意匠権者は、業として登録意匠およびこれに類似 する意匠の実施をする権利を専有する(意23条)。 これを意匠権の独占的効力という。特許権、実用新 案権および商標権と異なり、意匠権はその保護を充 分にするため、登録意匠と同一の範囲のみならず、 類似の範囲にまでその効力が及ぶ。 登録意匠とは、意匠登録(意20条1項)を受けてい る意匠であり(意2条2項)、意匠とは、物品(物品の 部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれら の結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの をいう(意2条1項)。 また、意匠権者は、自己の意匠権を侵害する者又 は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停 止又は予防を請求することができる(意37条1項)。 これを意匠権の排他的効力という。 侵害は、第三者による意匠権の実施であり、これを 直接侵害という。 「実施」とは、意匠に係る物品を製造し、使用し、 譲渡し、貸し渡し、輸出し、もしくは輸入し、又はその 譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのため の展示を含む。)をする行為をいう(意2条3項)。 直接侵害以外に侵害とみなす行為(間接侵害) がある。侵害とみなす行為は、業として、登録意匠 又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ 用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等 の申出をする行為は、当該意匠権又は専用実施権 を侵害するものとみなす(意38条)。 当侵害する行為も、意匠権の排他的効力の対象と して、意匠権者から排除請求され、損害賠償請求さ れる。 意匠権者又は専用実施権者は、侵害する者等に 対し、その侵害の停止又は予防請求するに際し、 侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供 した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為 を請求することができる(意37条2項)。 意匠権侵害訴訟において問題となる意匠権の効 力は、上記意匠につき設定登録を受けた意匠権者 が登録意匠と同一又は類似する意匠を実施する者 に対し、意匠権の排他的効力の及ぶ範囲であるそ の独占的効力の範囲および間接侵害行為である。 2. 意匠権の効力の制限 意匠権の効力が及ばず、又は制限される場合とし て、差止請求や損害賠償請求を行う典型的な意匠 権侵害訴訟においては、侵害者の抗弁として機能さ れることになる。意匠権者の意匠権の効力が及ばず、 又は制限される場合は次のとおりである。 ① 権利制限規定(意36条)の制限 次の実施または物には、公益上の理由から、意匠 権の効力は及ばない (意36条が準用する特69条1項、2項)。 1)試験又は研究のためにする意匠の実施 2)単に日本国内を通過するにすぎない船舶若しく は航空機又はこれらに使用する機械、器具装置 その他の物 3)意匠出願の時から日本国内にある物 ② 他人との関係に由来する制限 1)利用関係・抵触による制限(意26条) 意匠法は、先願主義(9条)のもと、独占的排他 的効力たる意匠権(23条)を付与する。 しかし、他人の登録意匠や特許発明等との間に利 用関係を生じたり、先後願が判断されない特許権 等との間に抵触関係が生じる。 2)他人の実施権による制限 ・専用実施権が設定された場合 ・許諾による通常実施権 ・法定通常実施権が設定された場合 ・裁定による通常実施権が設定された場合 3)再審により回復した制限 無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回 復したときは、意匠権の効力は、当該審決が確定し た後再審の請求の登録前に善意に輸入しまたは日 本国内において製造しもしくは取得した当該登録意 匠またはこれに類似する意匠に係る物品には、及ば ない(意55条1項)。 ③ 無効の抗弁(意41条、特104条の3) 意匠権侵害訴訟において、当該意匠権が意匠登 録無効審判により無効にされるべきものと認められ る時は、意匠権者は、相手方に対しその権利を行使 することができない。 本講義では、(1)他人の権利との関係による制限 (意匠法26条)として、(a)他人の登録意匠の利用、 (b)他人の商標権との抵触、(c)他人の著作権との 抵触、について、判例を通じて学習する。また、他人 の実施権による制限として、(a)専用実施権による 制限、(b)先使用権による制限について、判例を通 じて学習する。 3. 他人の権利との関係による制限(意26条) 先にのべた如く、意匠法は、先願主義(9条)のも と、独占的排他的効力たる意匠権(23条)を付与 する。しかし、他人の登録意匠や特許発明等との 間に利用関係を生じたり、先後願が判断されない 特許権等との間に抵触関係が生じる。 そこで、意匠法は、利用・抵触関係に先願優位の 原則のもとに調整し、先願権利者の保護を図るべ く、26条を規定している。著作権では、その発生の 目的を基準としている。 そこで、26条1項・2項を示すと、次のとおりである。 先 意匠権者 願 後 願 登録意匠 これに類似する意匠 特許発明 登録実用新案 (その) ・登録意匠(1項前段) ・これに類似する意匠 (2項前段) 特許権 実用新案権 商標権 著作権 (その意匠権のうち) ・登録意匠に係る部分 (1項後段) ・登録意匠に類似する意匠 に係る部分(2項後段) 意匠権 ・登録意匠に類似する意匠 に係る部分(2項後段) 利用 実施不可 抵触 ♦利用関係の諸説 1)先願の発明考案、創作の全部を後願が包含す る場合はもちろん、その主要部を包含することで 足りる。 2)後願は先願の改良拡大したものである。 3)後願は先願の全部を「そっくり」利用したもので ある。 ♦ 通説 1)先願の他人の権利内容とそっくり後願の権利内 容に取り入れていること、 2)後願の権利を実施すると先願の権利の全部を実 施すること、 3)2)の逆がないこと、である。 26条1項・2項の「利用」の関係で、「登録意匠又は これに類似する意匠が、他人の登録意匠若しくはこ れに類似する意匠を利用する」場合とは、次のよう な場合が想定される(牛木『前掲書』83頁)。 (他人の意匠) (自己の意匠) 形状 形状 形状+模様 形状+模様 形状+模様+色彩 形状+模様+色彩 26条1項・2項の具体的利用の態様は次のとおりである。 対立する権利の 関係 先 願 後 願 (ⅰ)商品の意匠 その部品を含む完成品 完成品と物品は物品非類似 9条の先願、3条1項では 処理できない。 (ⅱ)部分意匠 その部分を含む完成品 又は部品の意匠 方法、対象異なり双方とも 適法に登録 (ⅲ)組物の意匠の 構成品 その構成品を含む組物 の意匠 完成品と物品は物品非類似 9条の先願、3条1項では 処理できない。 (ⅳ)形状のみの 意匠 その形状と模様等の結 合意匠 (ア)原則 利用関係成立 上記1)~3)の要件 満たす。 ① 意匠/意匠 対立する権利の関係 ②意匠/特許、実用新案 ③意匠/商標、著作物 先 願 後 願 特許、実用新案 ex. ex. 規定せず 意匠 そういう事態がないということ ではなく一般解釈に任せると いう意 ♦ 抵触関係とは、2つの権利に重複する部分の存在 で、いずれの権利を実施しても他方の権利を全部実 施することになる関係である。 そこで、次に具体的な抵触関係の態様をあげると、 次のとおりである。 ・他人の著作権との抵触 ・意匠権相互→先願意匠権と後願意匠権に係る部 分との規定なし 先後願関係(意9条)で処理→過誤登録→無効審判 請求(意48条) ・先願意匠権と後願意匠権の類似部分のみ抵触 (意26条2項) 先後願の判断の対象でなく、両者適法に成立する。 ・他人の特許権、実用新案権との抵触 ・他人の商標権との抵触 ♦これら利用・抵触する場合の効果としては、後願 意匠権者は、業として実施不可(意26条1項・2項) であり、実施許諾や裁定通常実施権等が考えられ る。すなわち、次のとおりである。 ①意匠、特許、実用―意匠 利用抵触 ①実施許諾 ②裁定通常実施権 ②商標(専用権、商25条)-意匠 抵触 ①使用許諾 ②裁定なし ③商標(禁止権、商37条1号)―意匠 抵触 ①実施不可、使用許諾できないため ④著作―意匠 抵触 ①利用許諾 ②裁定なし (1)他人の登録意匠の利用 意匠の利用については、「学習机事件」(大阪地裁 昭46年12月22日判決、無体集3巻2号414頁)が基本 的な考え方を判示しているのでこれを基に説明して いく(牛木『前掲書』83頁を引用し解説)。大阪地裁 は、先ず、本件登録意匠と被告意匠との類否判断 をし、次のように判示している。 本件登録意匠 被告意匠 本件登録意匠・被告意匠を「全体的に対比観察す ると、本件登録意匠は単なる机の意匠であるのに 対し、被告意匠は机に書架を結合して1個の物品と なした学習机の意匠であって、両者の意匠に係る物 品は同一性がなく、被告意匠は単なる机のみの意 匠とは異なる審美観を惹き起こせしめるものと認め られるから、意匠全体を比較すれば両者は非類似 であるといわねばならない」と判示。 裁判所は、両意匠は類似しないと判断した後、原 告が主張する利用関係、意26条にいう趣旨は次の ように判示した。本判決は、「意匠の利用とは、ある 意匠がその構成要素中に他の登録意匠又はこれに 類似する意匠の要部を、その特徴を破壊することな く、他の構成要素と区別し得る態様において包含し、 この部分と他の構成要素との結果により全体として は他の登録意匠とは非類似の一個の意匠をなして いるが、この意匠を実施すると必然的に他の登録意 匠を実施する関係にある場合をいうものと解するの が相当である。」 1)意匠の全部を包含し、2)特徴を破壊することなく 他の要素と区別しうる態様での包含が意26条の趣 旨と判断した。 そして、意匠の利用関係が成立する態様をのべれ ば次の二つとなる。 「その一は、意匠に係る物品 が、異なる場合であり、A物品につき他人の登録意 匠がある場合に、これと同一または類似の意匠を 現したA物品を部品とする、B物品の意匠を実施す るときである。その二は、意匠に係る物品が同一で ある場合であり、他人の登録意匠にさらに、形状、 模様、色彩を結合して全体として別個の意匠を創作 したときである。 右のいずれの場合であっても、意匠中に他人の 登録意匠の全部が、その特徴が破壊されること なく、他の部分と区別し得る態様において存在す ることを要し、これが混然一体となって可否区別し 得ないときは、利用関係の成立は否定される。」 以上のような見地に立ってこの事件の両意匠を 観察したところ、被告意匠の学習机は机部分と書 架部分との結合から成るもので、しかもこの両部分 は区別し得るものであるから、被告意匠の机部分が 本件登録意匠と類似すると認められる以上、被告は 原告の登録意匠と類似の意匠を現した机を部品とす る学習机の意匠を実施することに帰するので、利用 関係が成立するとした(牛木『前掲書』85頁)。 そして、豆乳仕上機事件(名古屋地裁昭59年3月29日 判決(棄却)、無体集16巻1号199頁)も、「豆乳仕上 機」の登録意匠に対して、「意匠の利用とは、ある意 匠がその構成要素中に他の登録意匠またはこれに 類似する意匠の全部をその特徴を破壊することなく、 他の構成要素と区別しうる態様において包含し、この 部分と他の構成要素との結合により全体として旗の 登録意匠とは非類似の一個の意匠をなしているがこ の意匠を実施すると必然的に他の登録意匠を実施す る関係にあるものと解するのが相当であり、 したがって、また意匠の利用関係が成立するために は意匠中に他人の登録意匠がその特徴を破壊され ることなく、他の部分と区別しうる態様において存在 することを要し、もしこれが混合一体となって彼此区 別できないときは利用関係の成立は否定されると解 するのが相当である」とし「一次濾過筒装置部分の 意匠が本件登録意匠に類似しているとしても、(中略) 一次濾過筒装置部分は外観上、二次濾過筒装置部 分と一体化してイ号意匠をつくっているうえ一次濾過 筒装置部分は二次濾過筒装置部分と混然一体とな り、彼此区別できない形状でもってイ号装置を構成し ていると認められるから、イ号意匠は本件登録意匠 を利用したものということはできない。」と判示した。 つまり、登録意匠の不完全利用では、意匠法26条 にいう意匠の利用関係には当たらないと判決した のであるが、特許発明の場合であっても、両部分が 混然一体となって区別できない全体の形態にあって は、不完全利用とはいえても完全利用でない限り、 規定の適用はないと判示した。 このような意匠における類似と利用との関係は、 著作物における複製と翻案との関係に似ている から、被告意匠のような不完全利用の場合には、 著作物の翻案の論理で考えるならば、肯認でき る答えが可能となるのではなかろうか (牛木『前掲書』87頁)。 (2)他人の商標権との抵触 商標権と意匠権が同時に成立する可能性がある。 意匠と商標とはその保護法益が異なることから審査 においては互いの存在は原則として考慮されない (例外的に5条2号)。このような場合、権利者が同一 人であればよいが、別人のときは権利の衝突が生 じる。 例 万年筆のクリップに新規な形状・模様を施した ものに意匠登録がされたものと、同様の図形が万 年筆の商標として登録されたものとは、それぞれ全 く別個の権利ではあるが、一方を権利行使すると 他方の権利を侵害する関係となってしまう。 そこで、かかる場合は、先願優位の原則に基づい て権利関係を調整することとしたのである(意26条、 商29条)。なお、商29条に「その使用の態様により」 とあるのは、万年筆の商標をクリップに刻印するよう な使用態様の場合には意匠権との抵触が生ずるが、 当該商標を万年筆の包装や広告に使用するような 場合には抵触関係を生じないことを意味する。 なお、意匠法において商標権との抵触関係を規定し た趣旨は、意匠の構成要素として他人の商標が含ま れている場合、その意匠の実施による需要者間に出 所の混同が生じ先願権利者の利益を害することにな る。そこで、法は、両権利に抵触が生ずるためには、 意匠に係る物品が他人の登録商標の指定商品と同 一又は類似であること、他人の商標が当該意匠の中 で自他商品識別力、出所表示を機能する識別標識と して表示されていることが必要である。 そこで、識別標識として表示されているか否かに関 しては、「POPEYEアンダーシャツ事件」(大阪地裁昭 51年2月29日判決(棄却)、無体例集8巻1号102頁) を次にあげる。 「乙、丙各標章の現実の使用態様は、右各標章をい ずれもアンダーシャツの胸部中央殆んど全面にわた り大きく、彩色のうえ表現したものである。これはもっ ぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である 『面白い感じ』、『楽しい感じ』、『可愛いい感じ』などに ひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目 的として表示されているものであり、 一般顧客は右の効果のゆえに買い求めるものと認 められ、右の表示をその表示が附された商品の製 造源あるいは出所を知りあるいは確認する『目じる し』と判断するとは解せられない。 これに対し、『本来の商標』即ち、商品の識別標識 としての商標は、広告、宣伝的機能、保証的機能を も発揮するが、『本来の商標』の性質からいって、え り吊りネーム、吊り札、包装袋等に表示されるのが 通常である。『本来の商標』がシャツ等商品の胸部 など目立つ位置に附されることがあるが、それが 『本来の商標』として使用される限り、世界的著名商 標であっても商品の全面や背部を掩うように大きく表 示されることはないのが現状である。」とのべて商標 権の侵害を認めなかった。 これによれば、形式的には登録商標の使用に該 当するようなものであっても、その使用態様からみ て、自他商品識別機能よりも、視覚的・美的機能の ほうが勝っているというような場合には、当該商標 権の効力が制限されるということになる。しかし、 上記事件のように、登録商標を構成する意匠・デ ザインの二機能のうち、いずれを優先させるかは 非常に微妙な問題を含んでいる。 (3)他人の著作権との抵触について ① 意匠権を登録によって取得したとしても、その意 匠の出願日前に発表されていた美術の著作物(例 えば漫画キャラクターの絵)を利用して物品の形態 を創作した場合は、先に発生している著作権の著作 権者の許諾がなければ、登録意匠又はこれに類似 する意匠を実施することはできない(意26条)。 ② 同日の場合、いずれも実施可。 ③ 著作権法には調整規定なし。 博多人形事件(長崎地裁佐世保支部昭48年2月7日 決定(認容)無体裁集5巻1号18頁)では、意匠法の 保護対象となる量産品の人形が、著作権法によって 保護された事件である。「著作権法の対象となる著 作物とは、思想または感情を創作的に表現したもの でなければならないが、本件人形「赤とんぼ」は、同 一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表 現したものであって、 検甲一号証によればその姿勢、表情、着衣の絵 柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を 認めることができ、美術工芸的価値としての美術 性も備わっているものと考えられる。 また美術作品が、量産されて産業上利用されること を目的として製作され、現に量産されたということの みを理由としてその著作物性を否定すべきいわれ はない。更に、本件人形が一方で意匠法の保護の 対象として意匠登録が可能であるからといっても、 もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題 であって、両者の重畳的存在を認め得ると解すべき であるから、意匠登録の可能性をもって著作権法の 保護の対象から除外すべき理由とすることはできな い。 したがって、本件人形は著作権にいう美術工芸品と して保護されるべきである。」 カリフォルニアTシャツ事件(東京地裁昭56年4月20 日判決、無体裁集13巻1号432頁)も、意匠権となる 量産品であるTシャツに表された模様が、著作権法 によって保護された事案である。 「証人Oの証言により、本件原画と同様にOにより制 作され原告によりTシャツに模様として印刷された図案 の原画と認められる検甲7号証(以下、この原画を「原 画甲」という。)によれば、原画甲は、上部に「go For It」の文字を配し、左下方に花の模様を、 中心にサーファーのスピード感あふれる波乗りの姿 を描いたもので、全体として十分躍動感を感じさせる 図案であり、思想又は感情を創作的に表現したもの であって、客観的、外形的にみて、Tシャツに模様とし て印刷するという実用目的のために美の表現におい て実質的制約を受けることなく、専ら美の表現を追求 して制作されたものと認められる。したがって、原画 甲は、前記三に説示したところにより、純粋美術とし ての絵画と同視しうるものと認められ、著作権法上 の美術の著作物に該当するということができる。」 4.他人の実施権による制限 (1)専用実施権による制限 専用実施権とは、登録意匠及びこれに類似する意匠 の実施を専有する権利である。 専用実施権者は設定行為で定めた範囲において、 業としてその登録意匠又はこれに類似する意匠を 独占的に実施し得るのであり(27条2項)、専用実施 権を設定した範囲において意匠権者の権利も制限 される(23条ただし書)。 専用実施権者は意匠権者とほぼ同等の地位を有す ることとなる。基本的には特許法77条と同旨の規定 であるが意匠法に特有な関連意匠の意匠権との関 係について独自の規定がある。 (専用実施権) 27条 ① 意匠権者は、その意匠権について専用実施権 を設定することができる。ただし、本意匠又は関連 意匠の意匠権についての専用実施権は、本意匠及 びすべての関連意匠の意匠権について、同一の者 に対して同時に設定する場合に限り、設定すること ができる。 ② 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内にお いて、業としてその登録意匠又はこれに類似する意 匠の実施をする権利を専有する。 ③ 本意匠の意匠権が第44条第4項の規定より消滅 したとき、無効にすべき旨の審決が確定したとき、又 は放棄されたときは、当該本意匠に係る関連意匠の 意匠権についての専用実施権は、すべての関連意 匠の意匠権について同一の者に対して同時に設定 する場合に限り、設定することができる。 ④ 特許法第77条第3項から第5項まで(移転等)、 第97条第2項(放棄)並びに第98条第1項第2号及び 第2項(登録の効果)の規定は、専用実施権に準用 する。 本意匠、関連意匠の意匠権には重複する部分が 存在するため、専用実施権の設定には特に制約が 付けられている。重複する物権的権利の発生を防止 するためである。 (2)先使用権による制限 先使用の法定通常実施権による意匠もしくはこれ に類似する意匠の創作をし、または意匠登録出願 にかかる意匠を知らないでその意匠もしくはこれに 類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠登 録出願の際、現に本国内においてその意匠又はこ れに類似する意匠の実施である業をしてる者、 またはこれに類似する意匠の実施である事業をして いる者は、その実施または準備をしている意匠およ び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出 願にかかる意匠権について通常実施権を有する (意29条)。 この先使用権が認められるためには、1)意匠登録 出願に係る意匠・類似する意匠を自らが創作又は その者から知得した意匠に係る実施であること、 →善意の実施であること、2)意匠・類似する意匠の 実施又は事業の準備が意匠登録出願の際に現に なされているものであること、3)その事業又は事業 の準備が日本国内でなされていることが必要であ る。 その範囲は、現に実施又は準備の意匠及び事業目 的範囲内に限られる。この先使用権は、出願前の善 意実施者のその者の意匠の実施を保護するために 認められた権利である。
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