Page 1 政治参加と投票行動 ー島根県における高い投票率をめぐってー

政治参加と投票行動
島根県における高い投票率をめぐって
川 政 樹
岡栄市・山田政治の両氏によってなされた政治意識と投票行動に関する ること、そして支持しうる命題を補強して問題解明の糸口を探ることを
このような研究としては、昭和三〇年半ばから四〇年代終りにかけて山 ら支持しうるものと支持しえないものを整理し今後の研究方向を設定す
関する研究は常にこの問題意識によって推進されてきたといってよい。 のため、本稿は先行者の調査研究を再検討することから始めて、そこか
投票率を記録し、かつ維持し続けているのであろうか。島根県の選挙に う問題意識を受け継いで、あらためてこの問題を検討しようと思う。そ
一位というめざましい成績を上げている。なぜ島根県はこのように高い そこで我々は、なぜ島根県は高い投票率を記録し続けているのかとい
を記録している。特に最近の約二〇年間は、国政レベルの選挙では常に いるように思われる。
る。本稿末尾の付表から分るように、島根県は戦後一貫して高い投票率 の問題に立ち向かう時、なお解明されていない事柄がいくつか残されて
島根県は、選挙における参加の度合い、すなわち投票率の高い県であ とする試みであった。現在これらの調査研究を読み返してあらためて先
への参加である。 究は、島根県の高い投票率の原因をその時代的状況に即して解明しよう
れたものはいうまでもなく選挙であり、選挙は最も多数の人々が参加す 昭和五〇年代後半に中村宏氏による島根の保守政治集団の研究、および
︵2︶
る政治活動である。それだけに我々にとって最も身近でかつ重要な政治 松江市長選挙の氏投票率をめぐる研究が公にされている。これらの諸研
て成り立っている。政治参加の形態は多様であるが、その最も制度化さ 資料を提供するものとなっている。さらに両氏の研究の後を受け継いで、
民主主義の政治制度は、可能なかぎり多数の人々の政治参加を予定し この数々の調査は、島根県における政治意識と投票行動に関する貴重な
その後は今日にいたるまでこれに類する調査は行れていない。それゆえ、
は じ め に 各地での政治意識と投票行動についての調査に基づいたものであるが、
中
一連の調査研究がまず思い浮かぶ。両氏の共同研究は、数回に及ぶ県下 目的とする。そのためには多様な調査による資料の入手を待たねばなら
︵1︶
島根大学教育学部紀要︵人文。社会科学一第二十三巻−第一号 一頁∫一九頁 平成元年七月
1
2
図1 投票参加に影響を与える要因群
政治参加と投票行動︵中川︶
中立的態度
政治的関与
政治的関心
政治的有力感
政治的義務感
政治的信頼
参加のコスト感覚
地域愛着度
投票参加
党派的態度
政党支持
組織加入
非政治的組織
後援会
属性
性 別
年 令
学 歴
所 得
職 業
居住地域
選挙の状況
選挙の競争度
同時(同日)選挙
雨の影響
アナウンスメント効果
ないが、さし当って本稿では既得の資料をもとに論を進めることにする。
最後に、本稿で投票参加11投票率の問題を考える分析枠組を示してお
︵3︶
く。図1はその分析枠組を表わしたものである。ここで説明されるべき
﹁目的変数﹂は投票参加である。﹁基本的な説明変数﹂は、﹁有権者の杜
会的属性﹂であり、図のように六つの要因が挙げられる。投票参加と杜
会的属性の問の﹁媒介変数﹂としては、﹁政治的関与﹂と﹁組織加入﹂が
考えられる。前者に含まれる要因のうち、政治的有カ感は、選挙や自分
の行動の影響力に対する評価に関する要因である。参加のコスト感覚は、
無風選挙、悪条件、多忙、体調が悪い時でも投票に行くことにかかるコ
ストの比較考量に関する要因である。また、投票率に大きな影響を与え
る要因として、選挙の競争度、同時︵同日︶選挙か否か、気象条件など
の選挙をめぐる状況を考慮に入れる必要がある。
さらに、選挙におけるアナウンスメント効果やバツファー・プレイヤ
ーの存在も投票率に影響を与える要因である。﹁アナウンスメント効果と
は、マスメディアによる選挙結果の予測報道が、有権者の投票行動に何
︵4︶
らかの影響を与えること﹂をいう。また、﹁バツファー・プレイヤーとは、
基本的に自民党政権を望むが、政局は与野党の伯伸状態がよいと考え、
与野党の伯伸状態︵バツファー︶を考慮に入れて投票を行う有権者のこ
とである。これらの要因も分析の枠組に組み込まれるべきものである。
︵5︶
しかし、選挙をめぐる状況やアナウンスメント効果、バツファi・プレ
イヤーなどは、これまでの島根県における投票行動の研究ではほとんど
取り上げられていなかった要因である。これらの諸要因の考察は綿密な
調査を待たねばならず、現在のところ不可能である。したがって、以下
の考察では、とくに﹁杜会的属性﹂、﹁政治的関与﹂そして﹁組織加入﹂
3
に含まれる要因を検討の対象とする。
山田政治﹃政治意識と選挙行動の実態−島根県仁多町、六日市町の場合1﹄
公明選挙連盟、昭和四八年。
山岡栄一・山田政治﹃島根県における政治意識と投票行動﹄島根県選挙管理
ものである。
中村宏﹁地域政治の構造と動態−島根の保守政治集団の考察を中心にー﹂﹃島
号。
中村宏﹁低投票率の人口統計学的考察H・o﹂﹃選挙﹄一九八二年九・一〇月
︵2︶ 中村宏﹁島根の政治文化﹂﹃山陰文化研究紀要﹄第二二号、一九八二年。
委員会、昭和三五年。
大法学﹄第二六巻第ニニニ号、昭和五八年。
︵1︶ 山岡栄一氏と山田政治氏の手による業績のうち、本稿で参照したのは、次の
山岡栄一・山田政治﹃島根県における政治意識と投票行動︵続︶﹄島根県選挙
されたものに手を加えた。また、綿貫譲治他﹃日本人の選挙行動﹄東京大学出
︵3︶ この分析枠組は、蒲島郁夫﹃政治参加﹄東京大学出版会、一九八八年、に示
山田政治﹁島根県山間部農村の政治意識﹂﹃山陰文化研究紀要﹄第一号、昭和
版会、一九八六年。堀江湛・梅村光弘編﹃投票行動と政治意識﹄慶応通信、昭
管理委員会、昭和三六年。
三六年。
和六一年。などを参考にした。
︵4︶ 蒲島 前掲書 一七一頁。
山岡栄丁山田政治﹃政治意識と地方選挙の問題点﹄島根県選挙管理委員会、
昭和三八年。
︵5︶ 蒲島 前掲書 一七一頁。
前述の目的から、我々はまず山岡③山田両氏による調査結果の報告と
一、政治意識と投票行動の研究
山田政治﹁選挙にあらわれた政治意識−島根県の場合﹂日本政治学会編﹃政
治意識の理論と調査﹄年報政治学、岩波書店、一九六五年。
山岡栄一・山田政治﹃島根県における農村部住民の投票行動﹄公明選挙連盟、
山田政治﹃政治意識と選挙行動の実態−島根県農村部の場ム㌣−﹄公明選挙連
分析を要約的に把握することから始めることにする。両氏は、昭和三四
昭和四〇年。
盟、昭和四二年。
年から昭和四八年までの問に、島根県選挙管理委員会および現在の明る
い選挙推進協会の前身である公明選挙連盟の委託を受けて、県下各地で
山岡栄一﹃政治意識と選挙行動の実態−山陽と山陰の比較1﹄公明選挙連盟、
昭和四三年。
一連の調査を行っている。
調査は、委託者の次のような問題提起を受けて開始された。﹁本県は、
山岡栄一﹃政治意識と選挙行動の実態−島根県過疎地域の場ム㌣1﹄公明選挙
連盟、昭和四四年。
:・⋮常に投票率優秀県の云統を保持しているのであるが、その内容とな
る投票の質 選挙民の政治意識−はどのような実態であろうか。﹂すなわ
︵1︶
山田政治﹃政治意識と選挙行動の実態−松江市調査 ﹄公明選挙連盟、昭和
四四年。
政治参加と投票行動︵中川︶
いる。このような農村部の高い値は如何なる要因によるものであろうか。
い値を示しており、農山漁村の多い島根県もまた高い投票率を記録して
うか。我国では都市部と農村部の投票率を比較した場合、常に後者が高
ち、高い投票率︵投票の量︶は高い政治意識︵投票の質一の反映であろ
識面と行動面における独立性が希薄になってゆく。﹂このような関係は
的依存の関係すら生れてくる。⋮⋮経済的白立性のないところには、意
治による財政援助を通じて、経済的依存の関係のみならず、政治的意識
体の乏しい財政は、国または県の政治への依存度を強め、上級段階の政
として政治や行政を規定している。﹁後進県﹂島根において、﹁地方白治
政治参加と投票行動︵中川︶
ここには高い投票率が同じく高い政治意識の反映とはいえないのではな
住民の意識や行動にも反映し、﹁住民の意識と行動の独立性﹂を容易に奪
秘かな疑いが存在していた。はたして調査の結果は、このような疑いを
さらにこれに村落共同体の拘束が加わる。共同体内部では、住民の経
いとってしまうのである。
︵3︶
いか。塑言すれば量は質を伴っていないのではないか、という委託者の
明確な資料をもって実証することになった。政治意識と投票率との関係
済的格差が住民意識の上に影を落して政治意識に大きな断層を生み出す
伝統的政治的無関心をもたらし、政治意識の高揚を妨げている要因は
の無関心とは明確に区別されねばならない。
的︶無関心に分類されるものである。この点で都市部に典型的な近代型
の判断を持たず、それゆえ政治に関心を示さないという伝統型︵前近代
伝統的な村落共同体の生活習慣やしきたりの中に埋没して政治への自ら
定的関心﹂や﹁無関心﹂を示す人が多く、﹁一般に政治に対する積極的関
︵2︶
心がうすく政治的無関心が支配的である。﹂ここにいう政治的無関心は、
関心が﹁あまりない﹂あるいは﹁少しもない﹂と答えて政治に対して﹁否
れる。﹁政治意識の中心点となる政治への関心度﹂については、政治への
島根県民の﹁政治意識と投票行動の実態﹂は、次のように特徴づけら
興味深い。以下その論理を辿ってみる。
か。これが第一の眼目である。政治的関心が低いにもかかわらず投票率
この政治的無関心と高い投票率とはいかなる関係にあるのであろう
ゆえ、﹁生活と政治との問の断層が大きく﹂、政治は一般住民の生活とは
︵5︶
﹁異なった次元﹂にあるものと考えられているのである。
ことによって、政治との接触を自ら断ち政治との距離を拡大する。それ
ができないでいる。住民は政治を村落内の有力者など他人まかせにする
とはおえら方にまかせる﹂という﹁伝統的政治意識の枠﹂を越えること
同質性が強要され﹂、﹁村の有力者とつながる地盤票とちがった政党や政
︵4︶
策を支持することは、タブーの如く忌み嫌われる﹂。このような環境のも
また漁村においても、﹁漁村特有の部落共同体意識が強く、意識の共同性、
層住民の多くが﹁貧困と無智の悪循環﹂の中で無関心を助長させてゆく。
一方、前近代的な共同体的拘束がこれを強化する。山村においては、下
何であろうか。それはまず第一に島根県の経済的﹁後進性﹂に求められ
とでは、住民の多くが政治を﹁上からの支配﹂であると考え、﹁政治のこ
る。﹁経済の後進性に制約された意識の後進性﹂が、政治意識の高揚を妨
げるというのである。経済の後進性は個々の住民の意識に隈らず、大枠
が高いという事実から、﹁島根県における高い投票率は、必ずしも十分な
︵6︶
政治意識を前提としたものではない﹂。政治的無関心層は、政治に無関心
するものであり、調査結果はそれを島根県において実証したものとして
について我国の当時の通説的見解は、両者の間に相関関係を認めないと
4
に大きな役割を果している。
るメカニズムが働いており、多量の無関心層の存在が投票率を高めるの
心層が投票行動へと強制される。そこには無関心層を投票所に駆り立て
である。素朴な義務感で投票に行く人々も多いが、相当量の政治的無関
であるが、こぞって投票に参加し、それが高い投票率となって表れるの
大都市選挙区の投票率が低下傾向を示すなかで相対的に高くなったこと
れ以後の調査研究では、全国的な投票率の比較から、島根県の投票率は
らにとどまるものではないことを正しく指摘しておかねばならない。そ
でここではとり上げないことにする。しかし、両氏の調査研究は、これ
の主題と直接合致しない問題であり、我々の問題設定はすでに示したの
て人々は集団的圧力に容易に反応し、他律的な意志決定を行って同調投
最後の一人まで投票所へと駆り立てる。他方、強い共同体的拘束によっ
次的人問関係が支配的である村落構造の中で、有力者による選挙運動は
である。村落の政治経済的支配体制のもとで、また霊8−け◎−霊8の第一
目である。投票を強制する最大の契機は、地域の有力者による選挙運動
す影響についてもその分析が忘れられていない。
また両氏において、年齢、居住年数などの社会的属性が投票行動に及ぼ
的なからみ合い﹂によってもたらされていることが明らかにされている。
票所数の増設、棄権防止運動、在宅投票制などの制度要因などの﹁効果
島根県の高い投票率は杜会的動員と同調などの心理的要因のほかに、投
が、大都市選挙区においては消減ないし欠如してきたのである。そして、
もまた明確に論証されている。島根県において投票率を高めている要因
︵10︶
票へと走る。その結果、﹁出かせぎ、転出、精神薄弱、高齢などの理由を
これらの研究を踏まえた上で我々にとって重要と考えられる問題は、
そこに働くメカニズムとはいかなるものであろうか。これが第二の眼
除き、投票日に地元にいた人々は、全部といってもよいほど投票に出か
次のような事柄である。両氏によって論じられたような状況は、その後
といわれている。だが、両氏の調査研究には、政治意識が低いという場
係で当時県内の公明選挙運動関係者を中心に各界に大きな反響を呼んだ
治意識と投票行動の乖離を鋭く指摘したことによって、選挙啓発との関
政治意識が低いがゆえに投票率が高いという一見逆説的な結論は、政
なのである。
大量の無関心層と共同体的拘束の存在が先のメカニズムを働かせる条件
両氏によって論証されたような投票率を高める要因やメカニズムの働き
ある﹂と率直に語っている。我々にとってもこの点が問題なのである。
分析して、﹁しかしこの問題についての答はずいぶんと変わったもので
和四八年の調査報告のなかで、政治への関心を問う質問に対する回答を
民の意識が急速に変りつつあることが数々報告されている。山田氏は昭
意識されており、昭和四〇年以降の調査研究では、農山漁村において住
化の波をかぶる中で著しく変化していった。このことは両氏においても
︵7︶
合、政治意識とは何か、その高低はどのようにして測定しうるのか、と
は次第に力を失い消減していったと考えられるにもかかわらず、その後
﹁後進的﹂農山漁村が遅ればせながら高度成長の恩恵を受け、また過疎
けることになる。﹂こうして、村落の有力者による社会的動員と住民の過
︵8︶
度の杜会的同調こそ、高い投票率を生み出す原因であると指摘される。
いう問題が未解決のまま残された。それゆえ、第三回目の調査ではこの
もなお島根県は高い投票率を誇っている。この状況は当分変わりそうに
︵u︶
問題の解明が試みられている。これは大変興味深い問題であるが、本稿
政治参加と投票行動︵中川︶
︵9︶
5
ない。それゆえ、この問題を究明するために、 我々はいくつかの分析作
察の対象としてその解明に力を注いだ政治意識の問題は、もはや守備範
る点で、前二者との違いが際立ってくる。中村氏において、前二者が考
政 治 参 加 と 投 票 行 動 ︵ 中 川 ︶
業を準備しなければならないと思われる。
高い投票率を説明するための杜会的属性として用いられる要因は、年
囲外にある。
山岡・山田﹃島根県における政治意識と投票行動﹄序。
齢と居住地域であり、これに限定される。ここで、これら人口統計学的
山岡・山田 前掲書 七一頁。
山岡・山田 前掲書 二一頁。
に低いが、加齢効果が働き、年とともに政治や選挙への関心が高まって
投票率の統計では、一.般に若年層は、選挙への関心および投票率がとも
村の人口規模︶の三つに具体化されて、検討が加えられている。年齢別
︵デモグラフィツクな一要因は、年齢構成、居住年数、都市規模︵市町
山岡・山田 前掲書 三三頁。
ゆく。そして投票率も中高年齢層で上昇を記録する。居住年数と投票率
町村の人口規模︶と投票率では、都市規模が小さいほど投票率は高くな
山岡・山田﹃島根県における政治意識と投票行動︵続︶﹄三六頁。
六頁。また、山田﹁選挙にあらわれた政治意識−島根県の場合﹂一八八5一九
る。これら三つの要因は、都市規模の小さいところほど、そこに住む人々
との関係については、居住年数が長い人ほど投票率は高い。都市規模︵市
三頁は、この状況をリアルに描き出している。
の居住年数は長く、また年齢構成は高いという関係にある。このような
山岡・山田﹃島根県における農村部住民の投票行動﹄一頁。
山田﹃政治意識と選挙行動の実態−島根県仁多町、六日市町の場合1﹄二二
的な傾向である。それゆえ、島根県は﹁年齢構成が高く居住年数が長く
次に検討されなければならないのは、中村宏氏の研究である。中村氏
挿入する。それは﹁人のつながりの連鎖﹂である。ここで﹁人のつなが
のであろうか。中村氏は、三つの要因と高投票率の間に一つの説明項を
頁。
市町村の人口規模は全国最小である⋮⋮。こうしたデモグラフィツクな
︵1︶
特色が島根の高投票率の重要な説明変数である。﹂
右の三つの要因の存在するところで投票率が高いことは、確かに各種
の研究は、山岡⑧山田両氏によってなされた社会的属性と投票行動の関
り﹂とは、﹁いわゆる血縁であるとか地縁であるとか人脈であるとか﹂、
の統計が証言している。それでは、なぜこれらの要因が投票率を高める
係についての調査研究を多くの面で継承するものとなっている。しかし、
日常の﹁面接的な︵歓8叶Oま8な︶人問関係とつき合い﹂を基礎に形
二、社会的属性と投票行動について
条件の合致するところでは、選挙において投票率が高いというのが一般
山岡・山田﹃政治意識と地方選挙の問題点﹄第二章。
山岡。山田﹃島根県における政治意識と投票行動﹄三六⊥二七頁、五一s五
山岡・山田 前掲書 四一頁。
山岡・山田 前掲書 七一頁。
87654321
9
10
11
彼の研究は、島根県の高い投票率の理由を社会的属性から説明せんとす
6
ところで、投票依頼は、依頼者と被依頼者の関係が対等な場合よりも、
票を多くし投票率を高くしていく﹂との推論が引き出される。
なわち固定化を図ってゆく。ここから、﹁人のつながりの連鎖﹂が﹁固定
的な︵パツシブ一人々への働きかけ︵投票依頼︶を行い、票の組織化す
がりの連鎖﹂を辿って、政治的に積極的な一アクティブ︶行為者が消極
長く市町村の人口規模の小さい﹂ところで容易に形成される。﹁人のつな
成される関係をいう。﹁人のつながり﹂は、﹁年齢構成が高く居住年数が
におしなべていえることではないか、というのがそれである。現在の中
に今一つは、先の説明図式は島根県以外のいわゆる地方と呼ばれる地域
る影響が考察される必要があるのではないか、というものである。さら
く。その一つは、前述のように政治意識に含まれる要因の投票率に与え
我々は二つの点でなお説明されるべきことが残されているとの感じを抱
高い投票率を生み出す原因を分析したものとして説得的である。しかし、
業仮説に基づいているとはいえ、一般に承認された確実な事実によって、
み出すメカニズムを解き明かすことを試みた。この研究はいくつかの作
︵2︶
上下関係にある場合において、より効果的である。この上下関係にある
央対地方の関係の中で、地方の中央への依存は多くの面で強まりこそす
︵4︶
︵3︶
人問関係のうち、両者がパターナリズム的な保護・服従の関係で結ばれ
れ弱まることは予想しえない。だとすれば、他府県との比較研究が必要
中村﹁地方政治の構造と動態﹂二五頁。
残されている。
となるであろうと考えられる。これらの点の解明はなお手つかずのまま
ている場合、恩顧関係、すなわちパトロンークライエント関係︵寝R旨−
︵5︶
O−−8ζ①−註旨︶が成立する。山岡・山田両氏が指摘したように、経済的
﹁後進﹂地域の行政への依存、あるいは中央に対する地方の依存の関係
は、今日でもその構造は基本的には変っていない。このような状況のも
とでの恩顧関係の主要な形態は、行政を中心として形成されるものであ
る。この恩顧関係の存在するところでは、強い政治的圧力が働き、票の
組織化あるいは固定化が促進される。組織された票、固定化された票が
多いということは、﹁多くの有権者が、いつもきまって投票したい、ある
いはせざるをえない戻補者を持っている﹂ことを意味し、彼らを投票所
に向かわせることになる。こうして、行政への依存度の高い島根の社会
︵ 6 ︶
には強い行政恩顧関係が形成されており、票の組織化、固定化を押し進
め、そのことが選挙の際に投票率を高めるという論理が成立する。
中村 前掲論文 二四∫二五頁。
中村 前掲論文 二七頁。
中村 前掲論文 二五頁。
中村 前掲論文 三五5五六頁。﹁島根の政治文化﹂六一∫六三頁。
中村﹁地域政治の構造と動態﹂二四頁。
これまで検討してきたことから、我々の今後の研究にとって重要と思
三、年齢と投票参加
の形成←固定票の増加←高い投票率という図式の中に、行政恩顧関係を
われる問題を整理し、その究明の糸口を探ることが、本節の課題である。
このように、中村氏は、人口統計学的要因←﹁人のつながりの連鎖﹂
654321
利用して活動する﹁政治的アクティブ﹂を介在させて、高い投票率を生
政治参加と投票行動︵中川︶
7
職業・居住地域は、各種調査において調査書のフェイスシートとして常
を指摘している。社会的属性として挙げられる性別・年齢・学歴・所得・
先行者たちはいずれも杜会的属性が投票参加に及ぼす影響の大きいこと
が参考になる。
てゆくことにするが、これについてはすでにとり上げた諸氏の調査研究
確である。それゆえここでは特に性別、年齢、居住地域について検討し
向が妥当するのではないかとの推測がなされるのみで、このことは不明
政治参加と投票行動︵中川︶
に調査対象となっており、研究も多い。この三つの要因について我国の
は、末尾の付表からも分かるとおり、そう大きなものではない。昭和三
まず性別についてみると、島根県において性差が投票率に及ぼす影響
ればなるほど投票率は低下する。所得と投票率の関係は、収入の高くな
〇年代以降男女別の投票率はかなり接近しており、性別による投票率の
一般的傾向を挙げると次のようになる。学歴っまり教育の程度が高くな
るに従って上昇するが、最も高い層の投票率は低い。また職業との関係
格差はほとんど無いといってよい。男女差が僅少であることは、島根県
このパターンは都市部、農村部を問わず変らない。この図からなぜ二〇
投票率は、二〇代から五〇歳頃まで上昇し続け、六〇代で減少し始める。
挙の時期や背景が異っているにもかかわらず、一定の傾向が表れている。
議院議員総選挙の年齢階層別投票率を示したものである。それぞれの選
両者問に相当な関係のあることが実証されている。図2は過去三回の衆
年齢と投票率の関係についてはこれまで多くの研究がなされており、
である。
投票率が男性のそれを上まわる現象が表れていることが付表から分るの
っているが、島根県においてはすでに昭和三〇年代の中頃から、女性の
の第三二回衆議院議員総選挙以降、女性の投票率が男性のそれを上まわ
︵1︶
のは婦人の投票であると言えそうである。﹂全国的に見れば、昭和四四年
初から高かったことに大きい原因がある。⋮⋮投票率を大きく左右する
ね上位にあるのは、男女差の少ないこと、換言すれば女性の投票率が最
では農林漁業者、商工自営業者、管理職の投票率は高いが、地域差によ
(各選挙後の自治省選挙部発表資料より作成)
の投票率を高めた一つの原因となっていると考えられている。山岡氏は、
∫ l l l l l l ∫ 1 ∫ 1
って大きく規定されている。ところが、島根県における投票参加と社会
24 29 34 39 44 49 54 59 64 69
昭和三六年に全国の男女別投票率を比較して次のように論じている。﹁男
1 ’’’ll’11’11’ 11’ 111 1I’ lI ■I ・1
20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70
的属性の関係についての研究を見ると、学歴・所得・職業と投票率に関
l 1I 1I 1l ll l 11;^1, I
・ ・ ・・ ・1 11 11 11 1■. 1 .・・ .・ .
70
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:メ :lll’、11’ l 1 1 1・ノ1第ア回1111
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■
80
、一庁’1』’・■u
女差の最も少ないのは島根であるが、そこでの投票率が八回を通じて概
図
1 1 ,1 1 1 Il l l l:::ll . : l1 11:: 1・ l 11 1
90
(単位:%)
10O
2
衆議院議員総選挙年齢階層別投票率
する分析は少ない。島根県において実証的データの不足から、全国的傾
8
9
第38回衆議院議員選挙に棄権した理由
3
図
● ●
..・・
・・.・.・
⋮.
と補
の足候 6
者不な 25
補報当し
候情適な
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面か2
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選関な17
にがっ
挙心か兇
た
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トり
倒か18
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髪
118頁より作図。
出所:明るい選挙推進協会『第38回衆議院議員総選挙,第14回参議院議員通常選挙の実態』昭和61年10月
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17 :
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60歳代
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者
ち
∵
政治参加と投票行動︵中川︶
の不5.
他 明5
そ
代の青年層と六五歳以上の老年層の投票率が低いのだろうか、という疑
問が生ずる。その回答は分析枠組の中で媒介変数として設定した政治的
関与と組織加入の面から説明されうる。年齢と政治的関与との関係では、
﹁1政治的関心は、男性の場合四〇代まで年齢とともに上昇するが、そ
れ以降ゆるやかに低下していく。女性の場合五〇代まで同じレベルに止
まるが、それ以降急激に低下する。⋮⋮2投票義務感は六〇代まで年齢
とともに上昇を続ける。⋮⋮3地域愛着感と政党支持は、男女とも年齢
とともに上昇し、七〇歳を超えても低下しない。政治関与と投票参加度
に高い相関があるとすると、七〇歳以上の有権者の投票率の低下は、政
党支持や地域愛着感の衰えではなくて政治的関心と投票義務感の低下に
一因があるといえよう。﹂逆に青年層の低投票率の原因は、政治的関心、
︵2︶
投票義務感、地域愛着感そして政党支持がいずれも低いことに求められ
るであろう。
さらに、青年層と老年層のそれぞれに特有な理由も認められる。図3
は、昭和六一年の衆議院議員総選挙に棄権した理由を二〇歳代と六〇歳
代について調べたものである。二〇歳代では﹁用があったから﹂と﹁面
倒だから﹂という理由の割合が多いことが、六〇歳代では﹁病気だった
から﹂が最大の理由になっていることが注目に値する。両年代とも参加
のコスト感覚が高くなっており、二〇歳代では生活の多目的性が、六〇
歳代では健康上の理由がコスト感覚を高めていることが分る。さらに残
りの理由はともに政治的関与の度合が低いために上ってくるものが多い
ところから、両世代ともに政治的関与の度合が低いことが、氏投票率の
原因となっているものと判断される。組織加入との関係では、青年層と
老年層の投票率が低い理由の一つに、この年齢層の組織加入率が低いこ
10
35∼39
7.9
8.9
40∼44
6.2
7.5
45∼49
6.3
6.8
50∼54
7.5
6.5
55∼59
7.3
5.8
60∼64
6.2
4.5
政治参加と投票行動︵中川︶
7.5
11 ,1 1 1I1 ・1 1. 1 11 1
1 11 1I l1 ・ 1II l 1
1・
11
11I
1l
1I
1
1
1111I
IllI1
11 1I ・1 11・ 11 ・I l1
11・・ I1 ■. l I1 ・1 I
1 ‘■11 11 11 11 11 1
(昭和60年国勢調査)
11 11 1I 1, 1I l■ 1﹄ 1
11・・1111
1..1‘l11 1・111・1111
6.8
1・11111■ ・.1I11・・
6.5
30∼34
11lI■■lI1
70
とが指摘されている。
以上のような全国的傾向が示す年齢と投票率の関係は、島根県におけ
るそれと一致するであろうか。また年齢という属性は島根県の高投票率
に何らかの影響を及ぼしているであろうか。この問題を考察するに当っ
ては、まず全国の隼齢構成と島根県のそれとを比較した場合にみられる
後者の特徴を押さえておかねばならない。表1は全国と島根県との年齢
構成の比較である。この表から分るように島根県は、全国に比して若年
齢層の比率が低く高年齢層特に六五歳以上の年齢層のそれが著しく高
い。このパターンは、過疎化、出生率の低下傾向が始まった三〇年代中
半からみられたが、高齢化が近年著しく強まっている。この年齢構成の
特徴に着目して島根県の投票率を検討してみよう。島根県の年齢別投票
率については公表された確定的な数字は見当らない。しかし、中村氏は、
昭和五五年の第三六回衆議院議員総選挙後の県選挙管理委員会の標準地
︵3︶
域抽出集計の数字を次のように報告している。コ一〇∫二四︵六〇・六︶、
から二四歳までの年齢層を、カツコ内は投票率の百分比を表わす 引
大きく上まわり、特に全国的傾向からすると大きく投票率が下るとされ
と重ね合わせたものが図4である。二〇代前半の若年層の投票率こそ全
ることができる。この数字を図2の第三六回総選挙の投票率を示す曲線
用者︶。この数字によって、島根県における年齢別投票率の傾向を伺い知
︵九二一五︶、七〇∫︵八九⑧九︶、計八五二二%﹂︵二〇∫二四は二〇歳
七⑧六︶、五五∫五九︵九三⑧五︶、六〇∫六四︵九四・六︶、六五s六九
四︶、四〇s四四︵九一・六︶、四五∫四九︵八九ニニ︶、五〇∫五四︵八
二五∫二九︵七七二二︶、三〇s三四︵八一・○︶、三五s三九︵八四・
国平均値と変らないものの、それ以上の各年齢層の投票率は全国平均を
1 1 1 1
1 1 1
25∼29
− ■ ,
50
44 49 54 59 64 69
6.8
5.6
0∼19
国
全
島根県
歳
10.3
15.3
65∼
60
^^ (1■一 ^( ’、1■’ ’( ’F .■一( F.1一 ^( ^F F,(
20 25 30 35
40 45 50 55 60 65 70
1 1 1 1
28.9
4.4
80
24 29 34 39
26.5
20∼24
90
、1T■I』』・ ■リノ
(単位:%)
100
(単位:%)
年齢別構成
1
表
第36回衆議院議員総選挙年齢別投票率
4
図
くなっている。ここから確認しうることは、島根県が高い投票率を記録
ている七〇歳以上の有権者の投票率は、全国平均値より約二〇%程度高
しよう。
る高い投票率の原因の一つとなっていることを確認して先に進むことに
老年層の高投票率および人口構成比における数の多さが、島根県におけ
山岡・山田﹃島根県における政治意識と投票行動︵続︶﹄ 四八頁。
している理由としては、若年層を除いて全般的に投票率が高いというこ
とのほかに二つの理由が存在するということである。その第一は、本来
投票率が低いとされてる若年層と老年層のうち、二〇代前半の層は全国
平均値と変らないが、表1に示したようにその年代は人口構成比で、全
国平均を下まわって人数が少ないため、投票率の統計に大きな影響を及
ぼしていないということである。第二は、全国的傾向と異なって、老年
層の投票率が非常に高く、島根県の年齢階層別の比較でもそれ以下のい
くつかの年齢層を上まわっているということ、しかもこの年齢層の人口
蒲島﹃政治参加﹄一二一頁。
中村﹁島根の政治文化﹂五七頁。
﹃新成人政治意識調査﹄島根県明るい選挙推進協議会 昭和六〇年三月。
投票日に多少の用事があろうとも面倒がらず投票所に駆けっける人達で
お年寄りは、健康面では元気いっぱい、政治や選挙に大いに関心を持ち、
棄権の理由一図3︶から逆に推論して、やや誇張していえば、島根県の
高い投票率の理由は一体なぜであろうか。すでに論じた六〇代の人々の
総じて全国的傾向と同様に政治的関与の度合は低い。しかし、老年層の
政治的関心や投票義務感は低く、逆に投票参加のコスト感覚は高いなど
若年層に関していえば、新成人の政治意識調査にも表れているように、
票率を押し上げるに大きな役割をはたしているということである。
受けているのではないか、と考えるからである。
てゆこう。なぜなら、我々は、その逆相関関係がこれらの要因に影響を
織加入の度合といった分析枠組に位置づけられた要因を媒介にして探っ
率が高いという関係が、いかなる原因によるものかを、政治的関与や組
は都市規模と投票率の逆相関関係、すなわち都市規模が小さいほど投票
投票率が大都市のそれよりも常に高いことを証明している。そこで、我々
規模が投票率に及ぼす影響については、多くの資料が一致して小都市の
次に居住地域1−都市規模と投票参加の関係をとり上げてみよう。都市
四、居住地域と投票参加
あるということになるのだが、このようにいってよいであろうか。これ
ての簡単な事実を確認しておこう。図5はそれぞれ都市規模と居住およ
その前提として、まず都市規模と住居および居住年数との関係につい
し当って先に指摘したように、本来投票率を低下させる若年層の人口構
居住地域の都市規模の問題を検討する必要がある。そこで、我々は、さ
くなる。このような関係は投票行動に大きく影響を与えていると思われ
さくなるほど二戸建の自分の家に住む人が多くなり、また居住年数も長
び居住年数の関係を示したものである。図が示すように、都市規模が小
︵4︶
を検証するためには、投票率に大きな影響を与える他の属性要因である
構成比は全国平均値よりも格段に高く、約一五%を占めているため、投
4321
成比における数の少なさと、同様に投票率を低下させるといわれている
政治参加と投票行動︵中川︶
u
12
図
O.2
2.3
一
’
■
0.2
1.6
自分のマンション
ユ1.7
2.5
.0
’’
0.8
’
;’
一
一
■
2
0.2
20年以上
(生まれてから
2.5
46.3
54.9
ずっと)
’’’1
7.0
、1
!・’・,㌘・・。’・。‘I ’
公団等の賃貸住宅
公営住宅
4.8
’■
%’’’
22,5
一
7’.5
14.6 、/
民間の賃貸住宅
O.2
19
’ 一
コー0
7.2
綿1■‘C55
0.4
2
() 居住年数
23
02
04
その他
勤め先の給与住宅
居
65.0
64.9
‘1’
!
86.9
84.7
10年以上
22.2
75.9
\
、
■
24.0
、
自分の家(一戸建)
、
48.8
、
ユ8.7
\
3年以上
一・
14.0
6
社会 的
性
●
都 市規模 易叩
投 票率
の住一85
80
宅 2
間貸一
民賃一
一1ー
ブ86
!
/
88.7
20年以上(生まれて
からずっと) 95.1
95.4
94.0
91.2
%0
自分の家
(一戸建)
2
() 居住年数・都市規模別投票率
10
%o0
1
1
() 住居・都市規模別投票率
90
80
96.7
89,591・2/う3,295,2
88.レ!一g1,1 91,4
/187−6
雌ふ以上舳
/
/78.2
/
70
70
70,2
72・8 73,3
71.4
65.1
3年未満
60
60
町村
人ロー0万
未満の市
人ロー0万
以上の市
50
u大都市
町村
人ロー0万
出所:蒲島前掲書147頁
未満の市
人ロー0万
以上の市
u大都市
50
5.9
町村
■ ・
人ロー0万
4.4
未満の市
人ロー0万
I ・
ユ0.5
’’
7.1
以上の市
u大都市
一 一
142頁
図
90
10.1
町村
未満の市
人ロー0万
人ローO万
前 掲書
以上の市
u犬都市
出所:蒲島
一 一
u.9
、一
3年未満
■ 一
ユ8.8
21.3
政治参加と投票行動︵中川︶
1
() 住
社会的属性と都市規模
5
13
前掲書145頁
都市規模
8.2
19.7
●
7.5
7.5
7.8
■
6.O
6.3
7.4
6.9
3.8
5,1
15.9
17.1
20.6
11
1.1
2.1
3,2
27.4
21.4
14.9
17.7
12.1
●
182.8
167.1
︵6︶
愛着度がいずれも高くなり、ひいては投票への参加度も高くなるのであ
る。都市規模が小さいほど、このような減少が顕著になってくるといっ
てよいであろう。
また組織加入についても、表2のように都市規模が小さいほど加入率
は高くなる。一見非政治的組織と思われるものも、そこに加入すること
によって会員相互の交流の中で、どの組織にも加わっていない人に比べ
て政治的刺激を受けることが多い。また選挙の際、組織が会員を投票参
加に導くことも多い。都市規模の小さいところほど組織が有権者を包括
する度合が強くなり、それが投票率を高めると考えられるのである。
このような一般命題は島根県にも妥当し、投票率圭局めるに寄与して
いるであろうか。居住地域11都市規模と投票率の関係は概ね島根県にも
︵7︶
当てはまると考えられる。この問題については中村氏の詳細な研究が回
答を用意している。それによれば、島根県は居住年数についてみると全
国平均に比べてかなり長い。また市町村規模一人口規模︶は全国最小で
あり、都市部と農村部との対比でいえば、典型的な農村部であるという
ことになる。このような地域では、多様な組織が、有権者の大半を二重
三重に包括していることはつとに論じられている。それゆえ、全国的傾
また居住年数が長くなるほど投票率が高い。なぜこのような相関関係が
6から明らかである。概ね二ロダ建の自分の家に住む人ほど投票率が高く、
る。それは、都市規模別投票率と住屠および居住年数の関係を示した図
きりに報道される昨今であるが、不思議なことに全国的に専業農家が微
︵8︶
増している。県の統計によると島根県も同様である。それは、耕地面積
帯を多く抱える県であることに注目することができる。農業の不振がし
さらに観点を変えていうと、島根県が農村県と分類されるように農村地
向について述べたように選挙の際に組織が及ぼす影響も強まってくる。
生じるのであろうか。それは、右のような社会的属性が政治的関与や組
を増やし、経営基盤を強化して農産物自由化に対抗しうる農家の育成を
政治参加と投票行動︵中川︶
織加入の度合を高める結果であると考えられる。同一地域で二ロダ建の自
その他
図るという政策によるものであろうか。事実は、兼業農家の働き手が、
趣味・同好会
158.1
138.2
複数回答(計)
O9
55
45
”
3.7
●
分の家に長く住む人は、政治的義務感、政治有力感、政治的信頼、地域
出所:蒲島
17,6
●
非加入(D K含む)
20.1
宗教団体
19,7
17.4
商工業団体
83
12.4
労働組合
64,0
15.1
農林漁業団体
72.1
11.3
P T A
66.9
町内・自治・区会
60.7
婦人会・青年団
囲丁 村
人口10万
未満の市
人口10万
以上の市
11大都市
組織のタイプ
%)
(
表2 都市規模別組織加入の実態
14
政治参加と投票行動︵中川︶
定年退職後ふたたび農業に従事することになり、専業野家として統計上
表れてくるのである。いわば高齢の農業者であるが、このような人々は、
少なくとも政治や選挙に関心があり、面倒がらず投票に出かける人達で
ような高齢者は、健康面で元気いっぱいであるかどうかは定かでないが、
倒がらずに投票所に駆けつける人達ではないか、と論じた。右に述べた
政治や選挙に大いに関心を持ち、投票日には多少の用事があろうとも面
るはずである。先に、島根県のお年寄りは、健康面では元気いっぱい、
証明する資料は無いが、このような人の数の多い所では、投票率は高ま
密な人間関係の中で政治的関与を低下させない高齢者であろう。それを
メンバーとして活動することで社会との接点を持ち続け、しかも農村の
治的関与を低下させてゆく高齢者と異って、生産に従事し多様な組織の
居住地域に関しては、島根県の場合も全国的傾向が妥当するのではない
が、島根県の投票率圭目同める大きな原因の一つであると思われる。また
著しく高い投票率とこの年齢層の人口構成比に占める割合の大きいこと
のうち、年齢が及ぼす影響に関しては、高齢者層の全国平均値に比して
は、限られた範囲の検証にとどまらざるをえなかった。取り上げた要因
究が少ないことからv投票率の高低を規定すると考えられる要因の検討
究明することを試みた。この問題に関する島根県における最近の調査研
る研究の成果をもとに、あらためて島根県における高い投票率の原因を
られる諸研究を把握し、そこから得られた知見と最近の政治参加に関す
これまで島根県における投票参加の問題を考察するうえで重要と考え
おわりに
あることは確かである。島根県における高い投票率の達成には、このよ
かとの推論に辿りついた。しかし、その他の社会的属性の検討は今後の
都市において仕事を離れることによって社会との接点を失い、急速に政
うな人々の力が預っていることは想像に難くないのである。
調査研究に待たねばならない。
ところが、我々が抱えている大きな問題は、政治的関与と組織加入と
氏が政治意識の測定を課題とされたように、これらの媒介変数に含まれ
山岡・山田﹃島根県における政治意識と投票行動︵続︶﹄四八頁。
蒲島 前掲書 八頁。
る諸要因を調査研究を通して測定していくことが重要な課題として残さ
いう媒介変数が投票率に及ぼす影響の大小の問題である。山岡・山田両
中村﹁島根の政治文化﹂五七頁。
れていると思われる。なぜなら、我々は社会的属性とともにこれらの諸
中村﹁低投票率の人口統計額的考察H﹂﹃選挙﹄一九八二年九月、一−二一頁。
蒲島﹃政治参加﹄一四九頁。
の積み重ねが必要とされるであろう。以上のように考えるならば、問題
よびバツファープレーヤーの及ぼす効果が加わる。これもまた調査研究
るからである。さらに、これらに選挙の状況、アナウンスメント効果お
要因が投票率の高低にかなりの影響を及ぼすのではないかと推測してい
島根県﹃昭和六一年島根県統計書﹄島根県統計事務所、昭和六二年。
五頁。
島根県明るい選挙推進協議会﹃新成人政治意識調査﹄ 昭和六〇年、三−一
蒲島郁夫﹁棄権の研究︵1︶﹂﹃選挙﹄一九八七年一一月、七頁。
54321
876
15
を解明するには余りにもデータが不足しており、島根県の高い投票率の
原因については解明されていないことが多いのである。これらの課題を
今後取り扱われるべき主題として設定し他日を期すことにしたい。
︵一九八九年四月一〇日︶
政治参加と投票行動︵中川︶
轡恕榊員刈鞘脈悼漏(荘三)
::::::●.・1::::::・・:..
八七七五、二八五四
八五:=/、
八九=一七
八六二二一一七一一八
八七六四四二’ 一
八七七六、九四
七○
八五:一一’○八
八一七
八四五
九七○
九六一
九六○一L一/、
九:一
九九七一一○
九五九
九四:一
九八五二、一一﹂ノ、
九五九
九四=一
九八五三、一○
九○一
八六○
八四六
八=一七
八六四一一
八一九
八○=一
八五九○八
八八六一
八四四七
:・・・・:.・’・:・:: 八一六八
八六○○
:・’■.・.........・.・::・・:・:.・・.
議嚢
●111::⋮:::::::::⋮二:●..
1:1⋮:1:1::●●.・●.・■
..■・.・●●.・.・●..●●・...・.■・...・..・.・・:■.・:.○.・:・︸:■
■’7^
九七一一、一九二
八七九四、七○
七五七六、九五
九八七九一
七五四
八○七
九ニニ︼
八七七
九=一七
九○二
・・:⋮二;⋮111:⋮::・:●●・:・・::.・.・..・.......・.......■
:::1:ミ=:11:1:11::ミ淳:::・.・.・......・.・.・.
111:::
...・.......::::享⋮:⋮⋮:・・!・.■・・・.....■
八八七一四六
八七八
八八二
七六六七、八九
1:1111姜:11⋮:⋮二⋮ 八七○
八七八
八七○三六四
七六二一﹁○六
八七○三、七五
七六七八五九
八七四七三六
七七九二:一一
八二一一一
七五八
投 票 率 一%︶
参衆昭議昭議和院和院二議三議八員○員、 、︵ ︵四通二総三襲三選四挙七挙︶ ︶
衆昭議和院二議八員’︵四総、︳選九挙︶
県霜教毛夏δ具三委員
市昭町型村毛教・育︳委○員・会五委員
衆昭議和院二議七員’︵一総9選一誉
県昭型議工■、’会四、一議二○員
県昭和二六’知四二二○事
市昭和町≡村!、議円会;議二員
市昭型天町占二村ご二長
一二位
一二位
二位
一二位
一位
一位
一位
一位
県霜教云墓二呈、亥︳委○員
参昭議和院二議五員’︵六通’常四選挙︶
一位
一位
衆昭議和院二議四員’︵一総、︳選一三挙︶
県霜教;育三委︳員9会五委員
市昭和町三村﹁議四人二広二議○員
衆県昭議昭竺嚢竺議二員二、 、瓜︵ 云四総四、 、︳選一議 一一 一五挙○︶員
参昭議和院二議二員’︵四通’常二選○挙︶
市昭和;町﹁四・村五長
県昭和二二’知四、五事
選挙の種類
一二位
四位
投全票思率位
出所:島根県選挙管理委員会『選挙の記録』昭和62年12月.一部修正。
一一 一位位
三 九位位
:111養
1::::::11111:き::■.・:....................・●.・.・.・
.・
醸嚢萎璽男 匿⋮≡1111女[ニコ計 囲囲囲全国⋮⋮⋮⋮1峯111 .・ .・. ・: 拳111萎く ㍗ 、 :> .. .・ ‘ .・ .・’ .・. : .・ :・: :︸ ’、 ::: ま 茸 :::
胃
付表1 島根県の投票率
’・::二::::.・.:::::::::..三二:・:.・..,’:’・::・
:・::::●:・:
.・::⋮:::::::⋮:⋮:::・:・:﹀:・:
11:・・.・...・・...■・.■・.・
111111111葦:︸:︸・:・:・:・:・
:::1::⋮・・、■■●●●1●
⋮:⋮:⋮::・.:二::::::::::.・.
・.・::1:>1:11⋮⋮:111111::・:・⋮二⋮:1111111::::
111⋮:⋮:⋮:.・・⋮.・..9..・.主:・・・
:::1⋮:主:﹀:::・:・:・’‡.・.
11⋮111:ミ:事1::111111:・.・..・...・.・
●●●・:
1:1111:11:・.11⋮::::::::ミ.o.:ン:::・:.じ
1l:::::⋮11:三::1,:1
11:.・●
八六三七四○九二
八四一○
八二七
八七五一一一四
八四八一
八五四五
一一←ノ、
九八四、九四六六
九一一一一
八七六三八ハ五
八四○
八九==一
八六五八七二七二
八七○一
八四七○
八七﹂﹂ニノ、一五五一一一
八五五八
八七五七
七五○八七七九五
六七四二一
八七一四四四九五○八八
九二=ご一一
二四八
六七七
四七
九八五七四七○三
八七九九四三八
八九○八
九○八九
八七九八、五二六五
八八七○
九○互二
七二五○
六九九五
七五=一八
八七五六、⊥!、一
八二一八二
八七六二
七ハ八三、八二
七六五一
⊥/、=一’五
八四’
六○
六五四六
一一⊥!、一L/、
九八一=一一九六六
九:一一二○
一一二八
九八二六、五四三○
九二八二
八七七七、七二四
八六七八
八八七四
投 票 率 ︵%一
参昭議和院四議○員’︵七通’常四選挙︶
一位
一位
一位
衆昭議和院三議八員’︵一総て選二誉一
市昭和二町八、四・村:一○長
県昭租議二八’会四、︳議七員
一位
県昭租二八’知四、一七事
参昭議和院三議七員’︵七通’常一選挙︶
一位
投全票躍率位
一二位
一位
六位
一位
一位
五位
衆昭議和院三議五員’︵一総二選二挙○︶
参昭議和院三議四員’︵六通’常二選挙︶
市市昭昭和和町一 一二町二村四四’ ’議円村円会一 一二二議○○長員
県昭租議二四’会四、︳議ゴニ員
県昭和二四’知四、一一一二事
参昭議和院三議三員’︵七補’欠六選挙︶
衆昭議和院三議三員’︵五総、︳選一二挙︶
参昭議和院三議一員’︵七通’常八選挙︶
参昭議和院三院○議’員一︵一補’欠一選一挙
市昭和町三村○’議円人︳亥二議○員
市昭和三町9円村二一○長
県県昭昭租租議一 一一 一○○’知’会四四、 、︳︳議一 一一 一一 一一 一事員
選挙の種類
卜H
轡漢称貝刈鞘臨仁漏(吾三)
.・’
島根県の投票率
付表2
◎◎H
・:・...●●●
:・:●..●・.●●::::::::::・・.1享::
萎萎妻
・・.・●.・.・・:・:::二:::::シ:二::ン::..・.
八六五八、一四六九
八五六○
八四六五
八七七三八四八五
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八 八六
一 一八
島根県の投票率
付表3
l1 八︵七竺二
歯浬鮒員刈鞘鵬仁轟(廿三)
参昭議和院五議二員’︵七通’常一選○挙︶
一位
一位
一位
衆昭議和院五議一員’︵一総一r選五挙︶
市昭和町五村○’議四人二亥一議七員
市昭和五町9円村二七長
昭県碧議9瓜四亥’議二二員
一位
一位
参昭議和院四議九員’︵七通’常七選挙︶
一位
県昭和五○’知四、一一二事
衆昭議和院四議七員’︵一総一r選一挙○︶
一位
一位
参昭議和院四議六員’︵六通’常二選七挙︶
市昭和町聖1村ノ、議円会二議五員
市昭和聖町/ミ四・村二五長
昭県理議!、人本四、議二員
一位
一位
県昭和四六’知四、二事
衆昭議和院四議四員’︵一総一二選二挙七︶
一位
投全酋国ポ順率位
二位
四位
六位
参昭議和院四議三員’︵七通’常七選挙︶
市昭和町聖村﹁議四人二亥一議八員
市昭和四町﹁四・村二八長
昭県萬議r人亥四、︳議五員
県昭和聖﹁知円王事
衆選召議 和院挙四議 二員の ’ 一蕊種二選 一類九挙 ︶
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八七二五
八六五七
八六一七、六九三四
八一一二五
八九五
七五五七三○七○
七五五六
八七七五五七七一○五
五○四
九六八九四八○、四五七五○四七四
八六九三八三、、三四六三七五
八二一九○
八二六七
八六==一一一一二一四一
八:一一
八二六九
八七七四五五九四
八八○○
八七二
八七七四六五七
八六八八五八七八、二○○四○四二
衆参昭議昭議和院和院六議六議一員一員、 、︵ ︵七総七通二選二常ハハ選挙挙︶ ︶
衆昭議和院五議八員’︵一総一r選一挙八︶
市参昭議町和院村五議八員議’︵A六通酉’常議≡選ハ挙員︶
県市昭召昭聖議翌町聖八八八、∠﹂、 、あ四四四・・村・議︳︳一 一 一○四四員長
県昭和五八’知四、︼○事
参昭議和院五議五員’︵六通’常二選二挙︶
衆衆昭議昭議和院和院五議五議四員五員、 、︵ ︵一総六総9選二選 一七挙二挙︶ ︶
市昭和町五村四’議四八二本ご議一員
市町村長
一位
二位
二位
一位
一位
一 一位位
一 一位位
投全茜国不順率位
轡恕鮒員刈鞘触仁漏(仔三)
八五五○
七八○四○六九一三五
九○九一
九七五七七五九八
八八九九
八六六九六二四四
九九四七、三○五五
八六八八四四六七、、一○一一二八二○
八=︵ ︼%一。\一ノ■、
八四五六
県県選召昭昭挙碧翌議碧 四四四の’知’会’ 四四四種’’’ 八八議二類 二 事員
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1:.・.::::・:二⋮1⋮11.・
票1111率1
一一 一一位位
島根県の投票率
付表4