韓国における少年矯正処遇制度

「刑政」、2009 年、121 巻 3 号(26-37 頁)掲載論文
韓国における少年矯正処遇制度
崔
Ⅰ
鍾 植(九州大学大学院法学研究院)
はじめに
一九五八年少年法を制定して以来韓国における非行少年に対する処遇制度は、少年法上
の保護処分と刑事処分に分かれて施行されている。しかしこれらの処遇制度が本格的で充
実に運用されたのは、一九八八年行われた第三次少年法改正からであるといえる。この少
年法の改正によって保護観察などの社会内処遇が多様化・活性化されはじめたためである。
このように韓国における非行少年に対する処遇制度は、少年法の変化に伴って発展しつつ
あるが、最近は、少年犯罪の数は減少傾向にあるものの、少年の再犯率はなかなか落ちて
こないという状況を踏まえて外見よりは処遇の内容及び質の改善に力を入れようとしてい
る。本文では、韓国において非行少年に対する処遇制度について保護処分と刑事処分とに
分けて、紙面関係上、その概要だけをご紹介したい。
Ⅱ
少年保護処分の現状
1 施設外処分
(1)第 1 号処分
第一号処分は、保護者または保護者の代わりに少年を保護することができる者
に監護を委託することである(少年法第三二条第一項一号)。その期間は 六ヶ月であり、
六月の範囲において一回に限りその期間を延長することができる。ただし、判事は、必
要な場合には、いつでも決定をもって、その委託を終了させることができる。保護者の
代わりに少年を監護することができる者とは、篤志家その他ボランティアなど保護者に
代わることができる者である(一種の代理家庭)。少年の保護者は、受託者に対してその
監護に関する費用の全部または一部を支給しなければならないが、但し保護者が負担す
る能力のない場合には、少年法院がこれを支給することができる。第一号処分の最近五
年間(二〇〇三年~二〇〇七年)の運用状況をみると、少年法院で処理した全体人員の
中で、平均約一七%の割合を占めている1。最近漸増傾向にあることが特徴である。
(2)第 2 号処分と第 3 号処分
第二号処分とは受講命令であり(少年法第三二条第一項二号)、第三号処分とは社
会奉仕命令である(同三号)。この二つの処分は、元々他の処分への付加処分となっていた
1
が、二〇〇七年一二月行われた少年法改正 2 によって独立処分となった。 社会奉仕命令
(Community Service Order)と受講命令制度(Attendance Centre Order)は、一九八八年
一二月三一日公布されて一九八九年七月一日から施行された改正少年法で保護処分の
活性化方策の一つとして初めて導入された。受講命令は、十二歳以上の少年が対象であ
り、一〇〇時間を超過することができない。また、社会奉仕命令は、一四歳以上の少年
が対象となり、二〇〇時間を越えることができない。この二つの処分は同時に命令する
こともできるが、さらに第一号、第四号、第五号処分と併合することもできる。社会奉
仕命令と受講命令は保護観察官がこれを執行する3。
最近五年間(二〇〇三年〜二〇〇七年)の運用は、社会奉仕命令は年平均五五六一名、
受講命令は年平均約二九一〇名として社会奉仕命令は減少傾向にあったが、受講命令は
漸増傾向である4。一方、二〇〇七年一二月の少年法改正以降である二〇〇八年の状況5
をみると、二号と三号のそれぞれの単独処分が一三〇名、一八一名であり、併合処分は、
一・二号が九七二名、一・三号が二二七名、一・二・四号が三五三五名、一・二・五号
が八七四名、一・二・三・四号が七六五名、一・二・三・五号が一五七六名、一・三・
四号が一九六〇名、一・三・五号が一八三八名であった。
(3)第 4 号処分と第 5 号処分
第四号処分は、一年間保護観察官の短期保護観察を受けさせることであり、第
五号処分は、二年間長期で保護観察を受けさせる処分である(少年法第三二条第一項四
号・五号)
。 第五号処分については、保護観察官の申し込みによって少年法院判事が一
年の範囲内で一回に限ってその期間を延長することができる。また短期保護観察処分は
第一号処分・第二号処分・第三号処分・第六号処分と併合することができ、長期保護観
察処分の場合も同じであるが、それに付け加えて第八号処分(一ヶ月以内の少年院送致
処分)とも併合することができる。
保護観察処分に伴う付加処分としては、三ヶ月以内の期間を決めて「保護少年等の処
遇に関する法律」(旧少年院法)による代替教育または少年の相談・善導・教化と関わ
った団体や施設における相談・教育を受けることを同時に命じることができる。また、
一年以内の期間を定めて夜間等特定の時間代の外出を制限する命令を遵守事項として
付け加えることができる。さらに、家庭の状況等を斟酌し必要であると認めたときには、
保護者に対して少年院・少年分類審査院または保護観察所等において行われる少年を保
護するための特別教育を受けることを命じることもできる。
保護観察所は保護観察、社会奉仕命令、受講命令及び更生保護に関する実施と事務を
管掌し、その他、条件付起訴猶予された少年の善導、犯罪予防委員に対する教育訓練及
び業務指導と犯罪予防活動などの保護観察に関わる諸般業務を執行する機関として法
務部長官所属である(保護観察法第一四条、第一五条)。二〇〇九年現在、全国十六箇所
の保護観察所と三九箇所の保護観察支所、五箇所の保護観察審査委員会があり、保護観
2
察職員は定員が九七一名(二〇〇七年現在)である6。
保護観察処分は、少年法上の保護処分の中で最も重要な社会内処遇として位置つけら
れている7。実際の処分效果においても第一号処分の中、志願保護者監護委託処分に次
ぐ効果があるという調査結果がある8。少年法院での保護観察処分率は、最近の五年間
(二〇〇三年〜二〇〇七年)、平均して四号処分と五号処分ともに約二八%の割合であり、
人数としては一万三千名から一万七千名の中でほぼ横ばいの状況にある9。その他、二
〇〇八年度の併合処分の状況をみると、一・四号処分は六二五九名、四・六号処分は一
三七名であり、一・五号処分は二五九九名、五・六号処分は一四二名、五・八号処分は
四〇八名であった10。
2 施設内処分
(1)第 6 号処分
第六号処分とは、児童福祉法上の児童福祉施設その他少年保護施設に監護を委
託することである(少年法第三二条第一項六号)。児童福祉法上の児童福祉施設とは、保
護者がいないとか保護者から離脱された児童、または保護者が児童を虐待する場合など、
その保護者が児童を養育することが不適当であり、または養育する能力がない場合の一
八歳未満の児童を保護する福祉施設である。その他、少年保護施設とは、児童福祉法上
の児童福祉施設として登録できなかった民間団体が運営する保護施設である。第六号処
分の委託期間は六ヶ月であり、六月の範囲で一回に限ってその期間を延長することがで
きる。
≪表 1≫
受託施設における教育プログラム
入所期間別
プログラム内容
入所当日
委託法院から身柄引き受け、被服類・身の回り品支給及び個人所持品領置、部屋指定
オリエンテーション(施設内での生活全般及びプログラム別内容紹介、家庭通信文発
入所2~3日
送、職業訓練班編成、自己報告調査書作成)、担当社会福祉士編成、基礎学歴テスト(評
価後学習・特別活動編成)、院長との挨拶及び対話時間、指導神父相談
入所3~7日
機能教育・職業訓練班授業参観、治療共同体地位別セミナー参加、学習教育、特別活
動のプログラム参加
入所生活
治療共同体プログラム教育参加、個人相談及び集団相談参加、職業訓練参加(国家技
共通教育
術検定及び試験:年4回)、学習教育参加(国家学歴検定試験準備:4月、8月の2回)、
特別人性教育参加、宗教教育参加、生活指導プログラム参加、修練活動参加
入所2箇月
担当社会福祉士及び職業訓練教師によって定期外出及び外泊審査後決定
入所4箇月
定期外出及び外泊実施
労働庁進路探索プログラム参加(進路設定、個人適性検査、履歴書作成、面接体験、
入所5箇月
修了証取得)、外部ボランティア体験プログラム参加、指導神父退院相談(保護者同
伴)、無縁故少年及び就業希望少年に対して就業斡旋
3
入所6箇月
退院教育実施、無縁故及び要保護少年の場合、自立支援プログラム実施、インターネ
ット活用法教育、カウンセリング
長期教育共通
職業教育・学習教育・人性開発教育、カウンセリングプログラム・治療共同体プログ
適用プログラム
ラム参加、心性純化プログラム・薬物乱用予防プログラム参加、宗教教育プログラム・
生活指導プログラム・美術治療教育・教育セミナー・躾教育参加
短期教育プログ
ラム
進路探索プログラム・ボランティア活動プログラム・修練活動・キャンピング活動参
加
※ 出典:孝光院(カトリック施設)サイト(http://www.hyokwang.or.kr/intro/program.html)
現在韓国には、全国にわずか一〇箇所あまりの受託施設があるだけである。 この中、
半数程度が児童福祉施設として指定されており、児童福祉施設として登録されることが
できなかった残りは少年保護施設である。このような状況から少年法院で第六号処分を
決める件数も極めて少ない。現在、少年法院での第六号処分率は、最近五年間(二〇〇
三年〜二〇〇七年)、平均で約一.九%程度に過ぎない11。一方、二〇〇八年の併合処
分の状況を見ると、四・六号が一三七名、五・六号が一四二名であった12。
≪表 2≫
受託施設における週間時間割
曜日
月
火
水
木
金
土
日
時間
起床及び点呼、洗面
06:30-07:30
08 時起床
07:30-08:30
朝食及び部屋の片付け
朝食及び部
08:30-09:00
Pre Morning Meeting
屋の片付け
09:00-09:50
月曜朝会
Morning Meeting
外部特講
10:50-12:20
B、パソコ
座談会
集団教育
教育セミ
薬物
地位別セ
ナー
予防
ミナー
特別活動
入浴及び
自由時間
(音楽、伝
専攻別
験、機能士
機能教育
統サムル、
機能教育
教理・ミサ
剣道、会
(10:30-
話)
12:00)
昼食及び休憩
13:30-15:00
専攻別機能教育
整備
溶接
機能
相談
教育
溶接
個別相談、
溶接
整備
自
検 機
専攻別
美術治療
機能
相談
由
定 能
機能教育
出会いの
教育
整備
時
試 士
入浴及び
体育
間
験
自由時間
時間
体育
17:00-18:00
ン、検定試
専攻別
12:20-13:30
15:00-17:00
学習 A、学習
正規
10:00-10:50
09 時から
役割セミナー、役割遂行
会議
役割セミナ
ー、役割遂行
洗面及び夕食
18:00-19:00
4
週間反省
19:00-21:00
自由時間(個人時間)、TV 視聴、外部電話
21:00-22:00
人員点検及び患者把握、Evening Meeting
日記作成、就寝
22:00-
※ 出典:孝光院サイト(http://www.hyokwang.or.kr/intro/program.html)
(2)第 7 号処分
第七号処分とは、病院・療養所または「保護少年などの処遇に関する法律」によ
る少年医療保護施設に委託することである(少年法第三二条第一項七号)。疾病のある非
行少年を治療するために病院や療養所または医療少年院に委託する処分としてその手
続は概ね第六号処分と同じである。委託期間は六ヶ月であり、六月の範囲で 一回に限
ってその期間を延長することができる。現在医療少年院の機能を行っている少年院は一
箇所しかない。二〇〇七年までの第七号処分の運用状況は、疾病がある非行少年の治療
のために委託することができる病院や療養所などがきちんと整備されていなかったた
め、少年法院でもほとんど活用していなかった。少年法院での処分実績は、最近五年間
(二〇〇三年〜二〇〇七年)に四二名に過ぎなかったが13、二〇〇八年には四二〇名と
して急増した14。急増した理由は、医療少年院が新しくできたためである。
(3)第 8 号処分
第八号処分は、一箇月以内の少年院送致処分である(少年法第三二条第一項 8
号)。対象少年としては、施設内処遇の経験がない者の中で非行歴はないが再犯危険性
が高い場合や危険性は低いが起訴猶予または社会内処遇を受けた非行歴が二~三回あ
る場合、社会内処遇と施設内処遇間の連携によって少年にショックを与える必要がある
場合、保護者の希望があった場合、相談調査時教育態度が非常に不良した場合、保護観
察期間中遵守事項に違反したり軽微な非行を繰り返した場合である。二〇〇八年六月二
二日から施行して以来同年度末までの運用状況を見ると、単独処分は六名であり、五号
処分(長期保護観察処分)との併合処分が四〇八名であった15。現在第八号処分を行っ
ている少年院は、男子少年院二箇所と女子少年院一箇所がある。
(4)第 9 処分
第九号処分とは短期少年院送致処分としてその期間は六箇月を超えることが
できない(少年法第三二条第一項九号、第五項)。対象少年としては、非行歴はないが
非行内容が重大で動機が計画的であり、共犯関係において主導的に介入した場合、習慣
的に固着された潜在非行があって保護者がこれを改善させる保護能力が足りなかった
場合、再犯危険性が非常に高い場合である。また、保護処分以上の非行歴がありながら
非行内容が重大であったり、犯行動機が計画であったりした場合、共犯関係で積極的に
参加した場合、再犯危険性が高い場合、心理的に問題があり、保護環境と保護者の保護
5
意志が弱い場合である。この他に、保護観察期間中に再非行を繰り返したり、重大な遵
守事項違反があったりした場合、不良交友関係からの断絶または保護者の虐待からの保
護が必要になった場合、学業連携などの理由から保護者または本人が希望した場合であ
る。現在、第九号処分を行っている少年院は全体一〇箇所16の内、六箇所である。最
近五年間(二〇〇三年~二〇〇七年)の運用状況を見ると、平均約三.七%の処分率を見
せている17。
(5)第 10 号処分
第一〇号処分は長期少年院送致処分としてその期間は、二年を超えることがで
きない(少年法第三二条第一項一〇号)。対象少年は次のようである。非行歴はないが殺
人・致死、強盗、強姦等非常に重大な非行を故意に犯した場合、同種の非行で起訴猶予
または社会内処遇を三回以上受けるなど特定非行が習慣的に固着した場合、保護観察期
間中重大な再非行を犯したり、保護観察処分後六箇月以内に再非行を犯した場合、心理
的に問題があり保護環境と保護者の保護意志が非常に弱い場合、不良交友関係から断絶
または保護者の虐待から長期間保護が必要な場合、保護者または本人が保護能力、学業
連携、職業訓練等を理由に希望した場合、学業連携または自立のための職業訓練が必要
な場合などである。第一〇号処分を行っている少年院は一〇箇所の内、九箇所である。
最近五年間(二〇〇三年~二〇〇七年)の運用状況を見ると、処分率は平均三.五%とし
て第九号処分と類似している18。
≪表 3≫
区 分
少年院の種別及び教育内容
学校名
設立日
開校日
処分
教育内容
種類
一般
人文系
ゴボン中高校
1942 年
2009 年
9 号・
中高校教科教育・職業能力開発訓練(製菓
学校
学校
(ソウル少年院)
4 月 20 日
3月2日
10 号
製パン・写真映像)・保護者教育
邑内情報通信学校
1945 年 11
2000 年
9 号・
人性教育・パソコン・検
(大邱少年院)
月 21 日
8 月 31 日
10 号
定試験・職業能力開発訓
分類審査・相
練(調理)
談調査・検事
ソンチョン情報
1967 年
2000 年
中学校教科教育・パソコ
決定前調査・
情報
通信学校
3 月 25 日
9月6日
ン・検定試験
委託少年人性
特
通信
(全州少年院)
性
学校
新村情報通信学校
1966 年
2000 年 9
(春川少年院)
4 月 16 日
月4日
化
10 号
学
校
教育・代替教
9 号・
人性教育・パソコン・検
育・保護者教
定試験・職業能力開発訓
育・青少年心
練(ヘアデザイン)
理相談
ハンギル情報通信
1987 年 11
2000 年
人性教育・パソコン・検
学校(済州少年院)
月9日
8 月 30 日
定試験
オリュン情報産業
1947 年
2000 年
6
10 号
職業能力開発訓練(車整備・自動化溶接・
学校(釜山少年院)
1 月 18 日
8 月 31 日
製菓製パン・ヘアデザイン)・分類審査・
委託少年人性教育、保護者教育
情報
ゴリョン情報産業
1946 年 11
2000 年
産業
学校(光州少年院)
月7日
9月6日
10 号
職業能力開発訓練(車整備・自動化溶接・
重装備・建築環境設備)・分類審査、委託
学校
少年人性教育、保護者教育
ジョンシム女子情
1963 年
2000 年
9号・
中学校教科教育・職業能力開発訓練(美
報産業学校
7月2日
8 月 30 日
10 号
容・皮膚美容・事務自動化)・保護者教育
大山学校
1982 年 10
2003 年
7 号・8
医療・リハビリ教育・8 号処分者教育・分
(大徳少年院)
月 21 日
8 月 20 日
号・9
類審査、相談調査、検事決定前調査・委託
号・10
少年人性教育・代替教育・保護者教育・青
号
少年心理相談
人性教育・8 号処分者教育
(安養女子少年院)
医療リハビリ
人性教育
清州女子少年院
2009 年
2009 年
8 号・
7月1日
7月1日
9号
※ 出典:法務部サイト(http://www.jschool.go.kr/HP/TJSC/jsc_40/jsc_4040/jsc_404010.jsp)
Ⅲ
1
少年刑事処分の現状
条件付起訴猶予制度による検事段階でのダイバージョン
条件付起訴猶予とは、検事が犯罪予防志願奉仕委員19の善導または少年の善導・
教育と関わった団体・施設における相談・教育・活動等を受けさせることを条件として、
少年被疑事件に対する公訴を提起しないことができる制度である(少年法第四九条の
三)。この制度は、一九七八年光州地方検察庁において初めて導入されて以来、一九八
一年からは全国検察庁に広がって行われてきたものとして、二〇〇七年一二月の少年法
改正によって法律的根拠が設けられた。現在検事段階での代表的なダイバージョンであ
るといえる。犯罪予防志願奉仕委員以外に善導・教育と関わった団体・施設としては、
少年院と青少年非行予防センター20がある。最近五年間(二〇〇三年~二〇〇七年)の
運用状況をみると、年平均五七六九名であり、漸増傾向にある21。年齢別としては、
一五歳から一七歳までの少年の割合が全体の七〇%を超えている。年長少年より中間少
年のほうが多いことは、後者の方が改善可能性が高いと判断されているためであると考
えられる。
2 第1審刑事法院における判決現況
表 5 は、最近五年間の少年刑事公判事件に対する第一審刑事法院における判決現況
である。定期刑、不定期刑、執行猶予はすべて漸減している。執行猶予の場合は、保護
観察または社会奉仕・受講を同時に命じることができる。「その他」には、無罪や少年
7
法院送致などが含まれているが、少年法院送致がほとんどを占めている。つまり、検事
が先議権を行使する段階から起訴ではなく、少年法院へ直接送致しなければならなかっ
たはずの犯罪少年が、起訴されて刑事法院から再び少年法院に回されていることである。
起訴される少年は身柄拘留の場合が多いことを考えれば、このような手続の遅延から伴
われる非教育性の問題が大きい。
≪表 4≫少年刑事公判事件に対する第1審裁判現況
区分
計
死刑
無期
定期刑
不定期刑
執行猶予
罰金
その他
年度
2003 年
5,961(100%)
0
0
26(0.4)
1,266(21.2)
2,014(33.8)
472(7.9)
2,183(36.6)
2004 年
5,212(100%)
0
1(0.0)
25(0.5)
956(18.3)
1,795(34.4)
503(9.7)
1,932(37.1)
2005 年
4,296(100%)
0
0
18(0.4)
659(15.3)
1,223(28.5)
420(9.8)
1,976(46.0)
2006 年
3,543(100%)
0
0
18(0.5)
624(17.6)
934(26.3)
367(10.4)
1,600(45.2)
2007 年
4,151(100%)
0
1(0.0)
10(0.2)
671(16.2)
1,129(27.2)
362(8.7)
1,978(47.7)
※出典:法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、二五七面。
3 少年矯導所の現況
懲役刑と禁錮刑が言い渡された少年に対しては、少年矯導所(日本の少年刑務所に
あたる)に収容することが原則であり、一般矯導所に収容する場合にも特別に分界した
場所に収容する。一般矯導所内の特別に分界した場所において刑を執行する場合は、残
刑期が六月未満の場合、余罪がある場合、患者の場合など特別な事情があると認める場
合として六月を超えない期間に限る。少年矯導所は、過去天安と金泉の二箇所があった
が、二〇〇四年一二月三一日付で後者が二〇歳から二五歳未満初犯の青年受刑者を収容
する金泉矯導所として変わった。したがって、現在少年矯導所は天安少年矯導所の一箇
所しかない。表 6 を見ると、少年受刑者の数は最近大きく減少してきたが、二〇〇七年
度に再び急増している。その原因やこれからの動向が注目される。罪名別にも二〇〇七
年度には、特に性犯罪と強盗、殺人の凶悪犯罪が倍以上増えている点が目立っている。
≪表 6≫
年度
少年受刑者の罪名別現況(2003 年~2007 年)
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
罪名
計
1,476(100%)
641(100%)
427(100%)
356(100%)
657(100%)
269(18.2)
174(27.1)
115(26.9)
109(30.6)
156(23.7)
詐欺・横領
51(3.5)
7(1.1)
6(1.4)
3(0.8)
15(2.3)
暴力・傷害
167(11.3)
64(10.0)
31(7.3)
22(6.2)
10(1.5)
性犯罪(強姦等)
221(15.0)
115(17.9)
92(21.5)
70(19.7)
116(17.7)
強盗
439(29.7)
184(28.7)
111(26.0)
83(23.3)
192(29.2)
殺人
165(11.2)
50(7.8)
41(9.6)
34(9.6)
88(13.4)
窃盗
8
過失犯
41(2.8)
15(2.3)
7(1.6)
8(2.2)
15(2.3)
その他
123(8.3)
32(5.0)
24(5.6)
27(7.6)
65(9.9)
※出典:法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、三二四面。
少年矯導所においては、学科教育、職業教育、生活指導、教化活動が行われる。まず、
学科教育については、受刑者等教育規則(法務部令第四〇一号)によってハングル解読及
び文章能力や基礎数理能力のない者を対象とした初等基礎班、初等学校にあたる初等科、
中学校にあたる中等科、高等学校にあたる高等科の過程を設けて学科教育を行っている。
その他にも学歴検定試験班を組んで運用しており、天安中央高等学校敷設の放送通信高
等学校を設置し運用している。
≪表 7≫
区分
年度
少年受刑者の学科教育現況(2003 年~2007 年)
初・中・高等科
放送通信高等学校
検定試験合格
大学入学
天安
金泉
天安
金泉
天安
金泉
天安
金泉
2003 年
41
17
19
18
45
21
4
5
2004 年
40
65
135
120
31
25
4
5
2005 年
20
73
35
3
2006 年
39
33
46
2
2007 年
36
42
14
0
※出典:法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、三二八面。
職業訓練については、自動車整備、電気溶接、建築配管、製菓製パン、マイクロロボ
ット、アニメーション等、一一個の職種の訓練を行い、機能士資格の取得を目標にして
いる。
≪表 8≫少年受刑者の職業訓練現況(2003 年~2007 年)
区分
年度
計
天安少年矯導所
金泉少年矯導所
訓練人員
機能士取得
訓練人員
機能士取得
訓練人員
機能士取得
2003 年
283
291
197
192
86
99
2004 年
219
202
155
136
64
66
2005 年
152
160
152
160
2006 年
92
86
92
86
2007 年
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※出典:法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、三二九面。
生活指導については、少年受刑者の健全な生活姿勢を整え、自己改善意志を高め、社
会生活に必要な様々な知識や情報を提供することによって社会復帰を促進させるため
に生活指導教育を行っている。具体的には、新入者に対する収容生活案内及び生活指導、
9
退所一箇月前の釈放予定者に対する精神教育を行っている。
教化教育については、少年受刑者の意識を改善させ情緒を純化させるために多様な個
別及び集団教化活動を行っている。具体的には、宗教指導、カウンセリング、誕生日の
祝い会、保護者座談会、社会参観、ボランティア体験、体育大会、音楽会、漢字教育、
情報化教育、外国語教育などがある。天安少年矯導所においては、忠義少年団という団
体を組んで教育活動、奉仕活動、野外活動などの集団活動を行っている。
Ⅳ 今後の課題
最近韓国における非行少年に対する矯正処遇制度には様々な変化が齎されている。全
体的に見れば、検察官先議の下で少年犯罪に対して厳しく対応しようとしてきた従来の
刑事処分重視の傾向が、最近の刑事処分の減少からも分かるように若干緩和していくの
ではないかという側面も見られる。しかし、まだ改善しなければならないところも少な
くはない。今後の課題としては、少年保護処分制度において少年院の拡充と多様化、第八
号処分(一箇月の少年院送致処分)と保護観察処分との併合処分の廃止、社会奉仕命令や受講
命令を実施できる施設拡充や機関の多様化、保護観察制度の充実化、そして刑事処分と関
連しては、検事の先議権行使の緻密化のための方策樹立と少年法院への送致拡大、少年矯
導所からの出所者に対する更生支援の拡大及び充実化などが上げられる。
1
法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、二五四面。
第八次少年法改正の詳細については、拙稿、「韓国少年法改正の動向と課題」、季刊社会安全、七四号、二
〇〇九年一〇月、一九頁参照。
3
社会奉仕や受講の具体的な内容については、拙稿、
「韓国における社会内処遇制度の現状と課題」
、更生保
護制度改革のゆくえ、二〇〇七年、三〇三~三一〇面参照。
4
法務研修院、犯罪白書、二〇〇八年版、二五五面。
5
大法院、司法年鑑(http://www.scourt.go.kr/justicesta/JusticestaListAction.work?gubun=10)
。
6
韓国における保護観察制度の詳しい内容については、拙稿、
「韓国における社会内処遇制度の現状と課題」
、
更生保護制度改革のゆくえ、二〇〇七年、二九一~三〇三面参照。
7
李潤鎬、少年保護処分의 効果分析、韓国刑事政策研究院、一九九一年、九七面。
8
李潤鎬、上掲書、七二面。
9
法務研修院、前掲書、二五四面。
10
大法院、司法年鑑(http://www.scourt.go.kr/justicesta/JusticestaListAction.work?gubun=10)
。
11
法務研修院、前掲書、二五四面。
12
大法院、司法年鑑(http://www.scourt.go.kr/justicesta/JusticestaListAction.work?gubun=10)
。
13
法務研修院、前掲書、二五四面。
14
大法院、司法年鑑(http://www.scourt.go.kr/justicesta/JusticestaListAction.work?gubun=10)
。
15
大法院、司法年鑑(http://www.scourt.go.kr/justicesta/JusticestaListAction.work?gubun=10)
。
16
二〇〇八年一二月末現在、少年院の全体職員(少年分類審査院を含む)は、七六〇名として、教育と監護
を担当する保護職公務員が五三六名(教員資格証所持者一四一名)、別定職公務員である職業訓練教師が二
〇名、医療を担当する医師・看護師が三二名、その他機能職公務員が一五三名、電算・建築職が三名であ
る(保健・福祉家族部、二〇〇九年版児童・青少年白書、三六六面)
。
17
法務研修院、前掲書、二五四面。
18
法務研修院、前掲書、二五四面。
19
犯罪予防志願奉仕委員は日本の保護司の機能と類似しており、その任期は二年として法務部長官が委嘱
する名誉職である。現在、約一八〇〇〇名の犯罪予防自願奉仕委員が委嘱されている。
20
学校不適応学生、起訴猶予対象者、代替教育命令対象者等に対する非行予防教育機関(法務部所属)
2
10
21
法務研修院、前掲書、二二〇面。
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