尿定性検査(検尿の基礎より臨床的意義を探る)

「データーの見かた・読みかた」
〜ちょっと苦手をやっつけろ!〜
尿試験紙法を中心に
独立行政法人 国立病院機構
嬉野医療センター 臨床検査科
中島 哲也 白石幸恵
平成25年10月27日(日)佐賀県医療センター
好生館 多目的ホール
はじめに
• 尿定性検査は日常診療や学校健診および集
団検診など広く用いられている。また、近年
特定健診などでも尿蛋白・糖などが採用され
ている。
• 2004年に「蛋白・ブドウ糖・潜血」に(1+)につ
いての定性表示の統一化が図られた。
• 近年蛋白濃度とクレアチニン比の補正により
偽陽性・陰性の軽減化や1日蛋白量の推測な
どができるようになった。
試験紙の概要
• 簡単で迅速性も兼ね緊急・ルーチン検査にも
適用できる優れた検査法の一つである。
• 病的反応と生理的反応と物理的反応が混在
し今一歩臨床には再現性・正確性・特異性に
欠ける点は免れない。
試験紙の取り扱い方
• よく攪拌し、遠心処理していない室温保存の尿で、
採取後2時間以内の尿を用いる
• 試験紙は尿中に浸した後、手早く引き上げる
• 試験紙の端を採尿器の縁に軽く当てながら移動さ
せて過剰の尿を取り除くか、吸収濾紙上に試験紙
の端をおいて吸収除去する
• メーカーが指定する時間を測定する
• 試験紙を試験項目に相当する比色部分に隣接させ、
肉眼で判定する
• 検査項目ごとの感度、特異性、阻害物質について
は熟知しておく
試験紙の影響の要因
1)着色尿
2)pHの影響
3)薬剤
薬剤による着色尿の影響
試験紙へのかぶりによる影響
薬剤による化学的干渉の影響
偽陽性・陰性、異常発色
4)細菌
5)手技
6)その他(見落とし・見逃し)
相互干渉の影響
影響を与える項目
影響を受ける項目
影響の受け方
蛋白
pH
酸性側
糖
潜血
高値
白血球
蛋白
高値
ウロビリノーゲン 蛋白
低値
比重
低値
ケトン体
用手法の注意点
• 着色(高度血尿・ビリルビン尿)などでは試験
紙全体の影響を考える
• 異常発色は必ず気を配る
• 試験紙に浸す時間やタイミングおよび判定時
間は納書に準ずる
pH
• 尿のpHが8.0以上、あるいは4.5以下なることは生
理的にはない
• 適切な化学的検査を行うための対応策を決める重
要な情報源の一つ
• 代謝性アシドーシスにもかかわらずアルカリ尿を呈
する疾患は腎尿細管アシドーシスの特徴
• 結石形成歴のある患者の尿のpHの監視など
時に薬物量療法または治療薬などの強アルカリ性薬剤
尿蛋白質
• 1)蛋白誤差法ではpH指示薬を使用しているため
pH8以上のアルカリ尿で偽陽性になることが多い。
試験紙のクエン酸緩衝能を超えるような場合にお
こる。(試験紙を尿に浸すとpH3になるよう調整さ
れているため、尿に浸す時間が長かったり、高度
のアルカリ尿の場合、試験紙部分のpH3が保てな
くなる)
• 2)高比重尿でも偽陽性になることがある。これは
高比重尿は高濃度の塩類を含むことが多くそれが、
pHのクエン酸緩衝能を上回ることによるもの。
蛋白
• 試験紙の中で最も偽陽性(アルカリ尿、高度
緩衝尿、着色尿)が多い項目である
• 尿の濃縮度の影響(偽陰性・偽陽性)が大い
に左右される項目である
ここが一番偽陽性が多い
感度領域(±)の信頼性が低
い
尿蛋白質の確認法
• スルホサリチル酸法(感度5〜10mg/dl)
20%スルホサリチル酸溶液を用い試験管2
本に酸性透明な尿を各3mlづつとり、一方の試
験管にスルホサリチル酸液を1滴ずつ滴下し、
他方の試験管を対照として、黒色の背景で白
濁を生ずるかを検査する。(ー)は7〜8滴加え
ても混濁が起こらない。
アルカリ性尿のときは、尿5mlに3%酢酸1〜2
滴加えて弱酸性にしてから検査する
尿クレアチン補正の意義
• 尿中蛋白やアルブミン濃度は濃縮や希釈に
よって異なる
尿中クレアチン濃度での補正が必要
クレアチニンは筋肉中に存在するクレアチンの終末代謝産物で尿中の排出されるクレア
チニンの絶対量水分や食餌に関係なくほぼ一定である
クレアチン補正の意義
蛋白/クレアチン比により尿の濃縮や希釈の
影響が無く腎疾患のスクリーニングが可能
尿の濃縮による偽陽性の減少
尿の希釈による偽陰性の減少
蛋白/クレアチン比により1日蛋白量の推定が
可能
『尿ブドウ糖』
食餌性糖尿・持続性一
過性糖尿・糖尿病・二
次性糖尿・腎性糖尿
偽陽性
相互干渉
偽陰性
高比重尿・アスコルビ
ン酸
『潜血』
腎疾患・尿路疾患・全身
性疾患
偽陽性
相互干渉・高度の蛋白
および細菌尿
偽陰性
高比重尿・高タンパク
尿・アスコルビン酸・亜
硝酸塩の存在
潜血反応と沈渣赤血球の剥離
尿潜血反応
陰性
尿
沈
渣
赤
血
球
陰性
陽性
陽性
尿が古い、高・低比重尿、
ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿、
過酸化水素の混入、細菌の増
殖、高度蛋白尿・細菌尿、精液
の多量混入、見落とし
尿中赤血球の病的増加
試験紙の劣化、高比重
尿、アスコルビン酸含有
尿、尿の攪拌の不十分、
多量の粘液成分混入、
誤認
白血球反応と沈渣白血球の剥離
尿白血球反応
陰性
尿
沈
渣
白
血
球
崩壊した白血球の存在(尿が古
い、高アルカリ性尿)、見落とし
陰性
陽性
陽性
試験紙の劣化、高比重
尿、着色尿、高蛋白尿、
抗生物質、エステラーゼ
を持たない白血球の増
加、誤認
尿中白血球の病的増加(膿尿あ
り)
亜硝酸塩と沈渣白血球の剥離
尿白血球反応
陰性
亜
硝
酸
塩
高比重尿・細菌尿の放置・膀胱
貯留の短い尿、嘔吐・飢餓・硝
酸塩の少ない食事、無昌性塩類
崩壊顆粒成分の誤認
陰性
陽性
陽性
薬物、白血球の見落とし、
『亜硝酸塩』
『白血球』
亜硝酸塩の存在
上部尿路感染・下部尿路感
染・全身性疾患
偽陽性
細菌繁殖
偽陰性
偽陽性
貯留時間の短い尿・亜硝
酸塩能のない菌
外陰部の汚れ・ホルムア
ルデヒドの混入
偽陰性
高タンパク尿・高比重尿
注意点
白血球反応
• 一般的に大腸菌、プロテウス
属、エンテロバクター属、
クレブシエラ属など
・膣分泌物が試料に混入した場
合、白血球エステラーゼ反応は
たびたび偽陽性となる
硝酸塩反応
• 硝酸塩還元能を有する
感染性微生物であるこ
とで、尿排尿間隔が4
時間以上あること
• 検出可能となる量の硝
酸塩を含む食餌が摂取
・高濃度の蛋白、糖および高比
される必要がる
重尿が感度を低下させ、偽陰性
結果をもたらすことがある
『ケトン体』
糖質利用障害
糖質摂取障害
偽陽性
薬剤
偽陰性
薬剤
尿中ケトン体検査時には注意する
『ビリルビン』
各種黄疸
偽陽性
薬剤
偽陰性
放置検体・薬剤
ビリルビンの光に対する感受性は温度
によって異なる
尿中ビリルビン
• 1)薬剤の代謝産物が着色する場合
尿の色調がビリルビン試験紙の陽性の呈色
を隠蔽するため、判定不能
・2)試験紙成分と反応して試験紙の呈色に影響
を与える場合
一般にジアゾニウム塩がフェノール類、芳香族
アミンなどの電子供与記を持った芳香感環と反応
してアゾ化合物を生じるため。
色調に関係なく偽陽性が時々みられる
ビリルビンの確認法
1)イクトテスト錠剤法
尿ビリルビンをマットに吸着させてのち、錠剤
を上に置いて水を加えると炭酸ガスを発生して、
その中のジアゾ反応試薬との混合が起こり、こ
れがマットに流下して呈色する。
【酸化法】
硝酸・亜硝酸(Gmelin)、ヨウ素、トリクロロ酢酸
ビリルビン偽陽性
• 薬剤: オスラック、ハイペン
消炎・鎮痛薬として処方される。ボルタレンなど
に比べ比較的胃腸障害が少ないため全科にわ
たり処方されている。
当院では、整形外科、リウマチ内科等で頻繁に
遭遇する。
尿中アセトン体
1)薬剤の代謝産物による着色尿のた
め試験紙の判定が困難
2)薬剤が試薬成分と反応して呈色す
る
試験紙が強酸性や強アルカリ性に
緩衝されていることにより。pHの変動で
着色する薬剤が影響をあたえる場合
試験紙の反応系に関わる試薬成分
と反応して影響を及ぼす場合
ケトン体偽陽性反応
• 一般名:ブシラミン
• 商品名:リマシル
(慢性関節リュウマチなど)
尿に浸すと直後に発色しその後退色することが
ある。
某試験紙を使うと、発色直後でピンク色(普通
は青紫色でゆっくりと反応するが、まれにアセト
ン体が多いと速攻性のものもある)呈してその
後退色していく場合がある
黄疸の鑑別
種類
発生機序
尿中
血中
ビリルビン
ウロビリノー
ゲン
直接ビリルビ
ン
間接ビリルビン
溶血 生成過
性黄 剰
疸
-
4+
-
2+
肝細 排泄障
胞性 害
黄疸
2+
3+また +
は変動
+
完全閉塞性
黄疸
3+
2+
-
変動
1+
1+
不完全閉塞
性黄疸
摂取障
害
3+
2+
定性検査の見方・考え方
•
•
•
•
•
•
•
•
比重→
PH→
蛋白→
糖→
ウロビリノゲン→
潜血反応→
白血球反応→
亜硝酸塩反応→
高か低
酸か中かアルカリ
(−)か低濃度か高濃度
(−)か高濃度
正常か高いか
(−)か陽性か高度濃度陽性
(−)か陽性
(−)か陽性
定性と鏡検とのコラボレーションによって正確さが増す
まとめ
• 定性検査においては、生理的変動も加味され、最も
偽陽性・陰性が影響をうけることで仕方がないもの
と一部把握されているが、補助検査の導入など取り
入れ、誤報告防止に努めなければならない。
• これからは現代病などの特定健診などにも必要とさ
れているので、技師個人のスキルアップ(臨床病理
学的な把握など)し報告しなければならない。
個人の意識の向上
赤血球と円柱の判定について
円柱の過程
硝子円柱
3個以上で細胞円柱
2000ではろう様過程のものはろう様円柱
だが、2010では混合円柱で表現する
ろう様円柱+顆粒円柱
ろう様円柱(切れ込み状)
ろう様円柱(ねじれ状)
ロウ様円柱
脂肪円柱
細胞成分円柱
ロウ(イクラ状)ろう様円柱
大食円柱(マクロファージ)
脂肪円柱(OFB1個でも)
上皮円柱
混合円柱
顆粒成分は顆粒状
以前は移行型はろう様円柱
顆粒円柱とろう様円柱
以前は移行型はろう様円柱
顆粒円柱とろう様円柱
顆粒成分は微細
顆粒状
ろう様円柱
イクラ状
ねじれ状
切れ込み状
大食細胞円柱
無染色において、生細胞では灰白色から灰白色調
を呈し、細胞表面構造は綿菓子状で、辺縁構造は
不明瞭な鋸歯状を示す。死細胞では黄色調を呈し、
円形、類円形を示すことが多い。S染色での染色性
は、生細胞では不良であり、死細胞では細胞質が
青紫色から濃赤紫色調の染め出されることが一般
的である。また、円柱内で大食細胞が3個以上の
脂肪顆粒を含有している場合は卵円形脂肪体とみ
なし、脂肪円柱に分類する。大食細胞円柱は活動
性のネフローゼ症候群、高度の尿細管障害、腎不
全、骨髄腫腎などで認められる。
マクロファージ円柱
フィブリン円柱
フィブリン円柱は線維質成分が詰まった円柱で
ある。一般的に線維質成分はS染色で不染性を
示す。S染色で淡いピンク色や青色の染るもの
も認められるため、判定には十分注意する。S
染色に対してまったくの不染性ではなく、ほとん
ど染まらない円柱、あるいは染色不良な円柱と
いえる。判定困難な場合アザン染色を行い確
認する。繊維質成分はアザン染色で赤染する。
フィブリン円柱は、高度な蛋白尿を伴った糖尿
病性腎症などでみられることが多い
最後に
1)まずは尿の色、混濁、粘稠度は必ず確認
2)臨床状態と会わない時は偽陽性.陰性を考
える
3)確認検査を施行