インターネット上の著作権、肖像 権に関する問題について 小学校・中学校からの情報発信 関西大学法学部 栗 田 隆 取り上げる設例 • 設例1 あるクラスで、生徒の作品を学校または市の教育 委員会の管理するWebサーバーに掲載することにした。 • 設例2 あるクラスで、運動会や遠足の写真をWebサー バーに掲載することにした。 • 設例3 クラスの記念写真をWebに掲載したところ、それが 他のサイトに無断で掲載されていた。やめさせることはでき るか。やめさせるためには、どうしたらよいか。 • 設例4 生徒の学校生活における個人情報(学年・氏名・顔 写真・成績など)が他のサイトにまとめて掲載されていた。や めさせるためには、どうしたらよいか。 著作物(2条1項1号) • 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文 芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 • 創作性があればよく、作品の上手・下手は問わない。 • アイデアそのものは著作物にあたらない。 • 事実やデータも著作物にあたらない。しかし、写真 は著作物になりうる • 工業製品の意匠も著作物にならない。 著作者( 2条1項2号) • 著作物を創作する者をいう。 • 生徒も著作者になりうる。 • 先生が生徒を指導して作品を作らせた場合 に、誰が著作者かは、指導の程度に従う。こ こでは、先生が生徒の自主性を尊重して指導 していることを前提にし、生徒が著作者であ るとする。 著作者の推定(第14条 ) • 著作物の原作品に、又は著作物の公衆への 提供若しくは提示の際に、 • その氏名若しくは名称(実名)等が著作者名 として通常の方法により表示されている者は、 • その著作物の著作者と推定する。 職務上作成する著作物の著作者(15条) • 法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業 務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラ ムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作 の名義の下に公表するものの著作者は、その作成 の時における契約、勤務規則その他に別段の定め がない限り、その法人等とする。 • 先生がホームページを作成して、教育委員会等の 管理するサーバーに掲載した場合に、そのホーム ページは、職務上作成したものになるのか? • 誰の名において、誰の責任において公表するもの か? 自動公衆送信としてのWeb センター 各学校 リクエスト アップロード クライアント サーバー 先生 送信可能 化 公衆 自動公衆送信 自動公衆送信としてのWeb • 公衆送信 公衆によって直接受信されることを目 的として無線通信又は有線電気通信の送信を行う ことをいう。 • 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求め に応じ自動的に行うものをいう。(放送・有線放送は 除かれる) • 送信可能化 公衆の用に供されている電気通信 回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信 用記録媒体に情報を記録することなどをいう。 著作者の権利(17条以下) • 著作者人格権 公表権 氏名表示権 同一性保持権 • 著作権 複製権 公衆送信権等 など 公表権(18条) • 著作者は、その著作物でまだ公表されていな いものを公衆に提供し、又は提示する権利を 有する。 • 公表するか否かの決定権は、生徒(親権者) が有する。 氏名表示権(19条) • 著作者は、その著作物の原作品に、又はそ の著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、 その実名若しくは変名を著作者名として表示 し、又は著作者名を表示しないこととする権利 を有する。 • 生徒の作品をWebに掲載する場合に、生徒 が希望すれば、匿名にする。但し、実在の他 人と誤解されるような変名は許されない。 同一性保持権(20条) • 著作者は、その著作物及びその題号の同一 性を保持する権利を有し、その意に反してこ れらの変更、切除その他の改変を受けないも のとする。 • 学校教育の中での指導は許されるが、指導 により修正されたものを公表するか否かは生 徒が決める。 複製権(21条) • 著作者は、その著作物を複製する権利を専 有する。 公衆送信権等 (23条) • 著作者は、その著作物について、公衆送信 (自動公衆送信の場合にあっては、送信可能 化を含む。)を行う権利を専有する 著作権の制限 • Webあるいは学校教育と関係のありそうなもの 私的使用のための複製(30条) 引用(32条) 学校教育番組の放送等(34条) 学校その他の教育機関における複製(35条) 公開の美術の著作物等の利用(46条) • 制限規定に基づき利用した場合に守るべきこと 出所の明示(48条) 私的使用のための複製(30条) • 著作権の目的となっている著作物は、個人的に又 は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内にお いて使用することを目的とするときは、次に掲げる 場合を除き、その使用する者が複製することができ る。 • 会社の用務のために自分で使用する分を自分で複製するこ とがこれに含まれるかについては見解は分かれており、許さ れないとする議論が強くなっている。 • しかし、授業関係のページを作ることについて30条の規定の 適用があるとすれば、サーバーにアップロードする前の試行 錯誤の段階では、この規定による複製が許される。 • アップロードの段階では、この規定による複製は許されない。 引用(32条)-その1 • 公表された著作物は、引用して利用することができ る。この場合において、その引用は、公正な慣行に 合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その 他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの でなければならない。 • イラストも批評あるいは説明のために引用すること ができる。しかし、飾りのために使用することは、32 条の引用の中には入らないと解すべきであろう。 引用(32条)-その2 • 国又は地方公共団体の機関が一般に周知させるこ とを目的として作成し、その著作の名義の下に公表 する広報資料、調査統計資料、報告書その他これ らに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑 誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、 これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りで ない。 • Webへの転載は、本来は、刊行物への転載には入 らない。しかし、この規定の類推適用により認められ てもよいであろう。 学校教育番組の放送等(34条) • 公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認 められる限度において、学校教育に関する法令の 定める教育課程の基準に準拠した学校向けの放送 番組又は有線放送番組において放送し、又は有線 放送し、及び当該放送番組用又は有線放送番組用 の教材に掲載することができる。 • Webは、自動公衆送信であり、放送には該当しない ( 2条1項8号と9号の4に注意)。 学校その他の教育機関 における複製(35条) • 学校その他の教育機関において教育を担任する者 は、その授業の過程における使用に供することを目 的とする場合には、必要と認められる限度において、 公表された著作物を複製することができる。ただし、 当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部 数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害す ることとなる場合は、この限りでない。 • 公衆に送信されるWebはこれに該当しない。しかし、 授業に参加する生徒のみが閲覧できる状態になっ ている場合には、35条に該当しうる。 公開の美術の著作物等の利用(46条) • 美術の著作物でその原作品が街路、公園その他一般公衆 に開放されている屋外の場所に恒常的に設置されているも の又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの 方法によるかを問わず、利用することができる。 1 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に 提供する場合 2 建築の著作物を建築により増製し、又はその増製物 の譲渡により公衆に提供する場合 3 前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置す るために複製する場合 4 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製 し、又はその複製物を販売する場合 • Webに原作品の写真を掲載することは、許される。しかし、 公開の場所に展示されているのが複製物である場合には、 注意が必要。 出所の明示(48条) • 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その 複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明 示しなければならない。 1 第32条、第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含 む。)、第37条第1項若しくは第3項、第42条又は第47条の規定により著作 物を複製する場合 2 第34条第1項、第37条の2、第39条第1項又は第40条第1項若しく は第2項の規定により著作物を利用する場合 3 第32条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場 合又は第35条、第36条第1項、第38条第1項、第41条若しくは第46条の 規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行が あるとき。 (2) 前項の出所の明示に当たっては、これに伴い著作者名が明らかに なる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物に つき表示されている著作者名を示さなければならない。 保護期間の原則(51条) • 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。 • 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、 著作者の死後50年を経過するまでの間、存続する。 • たとえば、尾形光琳の絵は、自由に複製してWebに 掲載することができる。 • 美術全集に掲載されている1枚の絵をスキャナーで 読み取って掲載することも許される。美術全集の製 作のために写真撮影が必要となるが、原画を忠実 に再現することに技術が必要であるとしても、その 写真に創作性があるとはいえないと考えられている。 著作物の利用の許諾(63条) • 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許 諾することができる。 • 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法 及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作 物を利用することができる。 • 教師が生徒の作品をWebに掲載するには、著作者 である生徒の許諾が必要である。生徒が未成年者 の場合には親権者の同意が必要である。 未成年者の行為能力(民法4条) • 未成年者カ法律行為ヲ為スニハ其法定代理 人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但単ニ権利ヲ得又 ハ義務ヲ免ルヘキ行為ハ此限ニ在ラス • 法定代理人は、通常は、親権者。 許諾の取り方 • 個別許諾方式 個々の作品ごとに、書面で 許諾をとる。 • 一般的許諾方式 1年度ごとに、その年度 に生徒が制作する作品について、特に反対 の申し出があるまで利用できる旨の包括的な 許諾を得ておく。 許諾を取る際の注意 • 許諾書面の管理は面倒な仕事である。 – 紛失しないようにすればよいことであるが、実際に はそれが面倒な仕事である。生徒の作品をあまり 長期に公開することは考えないほうがよいであろう。 • 生徒の人格は、発展していく。 – 生徒の作品が実名入りで長期にわたり掲載されて いることは、問題を起こしやすい。実名の場合には、 掲載期間を1年程度に限定したほうがよい。 – 許諾を撤回する権利を認めるべきである。 差止請求権(112条) • 著作者、著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、 その著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接 権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対 し、その侵害の停止又は予防を請求することができ る。 • 生徒が他人の著作権を侵害するような作品を制作 し、それを先生がWebに掲載した場合には、その他 人は先生に対して掲載の停止を求めることができる。 不法行為(民法709条) • 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタ ル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責 ニ任ス • 生徒の作品が他人の著作権を侵害している ことを知りながら先生がWebに掲載すると、 損害賠償義務が生ずる。過失により知らな かった場合にも、同様である。どこまで注意す べきかは、難しい問題である。 肖像権 • 個人の私生活上の自由として,人は,みだりに自己 の容貌ないし姿態を撮影され,これを公表されない 人格的利益(いわゆる肖像権)を有し,これは,法的 に保護される権利であり,その侵害について民事上 不法行為が成立し,損害賠償の対象となる。東京地 方裁判所平成14年5月28日民事第28部判決(平成 12年(ワ)第18782号) • 根拠となるのは、憲法13条の幸福追求権 設例1 あるクラスで、生徒の作品を学校また は市の教育委員会の管理するWebサーバーに 掲載することにした。 • 作品をWebサーバーに掲載することは、著作権法 上どのように位置づけられるのか。 • 著作者である生徒は、作品についてどのような権利 を有するのか。 • 教員がその作品をWebサーバーに掲載するために は、著作者の許諾が必要か。 • 著作者が未成年者の場合に、親の同意も必要か。 • 生徒の作品が他人の作品の模倣であった場合に、 どのような問題が生ずるか。 設例2 あるクラスで、運動会や遠足の写真を Webサーバーに掲載することにした。 • その写真について著作権法上の権利を有するのは 誰か。 • 写真に写っている生徒は、その写真についてどのよ うな権利を有するのか。 • 写真に学校関係者以外の人の姿が写っていた場合 に、その写真をそのまま掲載することができるか。 • 写真に生徒と共に他人の美術作品も一緒に写って いた場合、その美術作品も一緒に掲載してよいか。 • ページを楽しいものにするために他人にイラストを 挿入したいが、これは許されるか。 設例3 クラスの記念写真をWebに掲載したと ころ、それが他のサイトに無断で掲載されていた。 やめさせることはできるか。やめさせるためには、 どうしたらよいか。 • 個々の先生ないし著作権者が対応すべきか、 それとも教育委員会が対応すべきか。 • 著作権侵害の問題と捉えれば、写真の著作 者は誰かが重要となる。 設例4 生徒の学校生活における個人情報 (学年・氏名・顔写真・成績など)が他のサイトに まとめて掲載されていた。やめさせるためには、 どうしたらよいか。 • これは、個々の先生ではなく、教育委員会が 対応すべき問題であろう。 プロバイダー責任法 第4条(発信者情報の開示請求等) (1) 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利 を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当すると きに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信 設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役 務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保 有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その 他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省 令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することが できる。 1 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の 権利が侵害されたことが明らかであるとき。 2 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠 償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情 報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
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