フランスと欧州統合 ー「拘束」か「機会」か?ー

関西大学/法学部学術講演会
欧州統合とフランス-
「政策の失敗」による推進?
吉田 徹 [email protected]
北海道大学公共政策大学院(HOPS)
1. 問題の再定位
はじめに
「外交的資源」としてのヨーロッパは本当か?
(S.Hoffman,1993)
内政と外交とのリンケージに焦点
「内政・外政の<政策の失敗>に対する解決として、
欧州統合という政治的企図を利用するアクターの
戦略」
⇒「統合の先導役」ではなく「政策の失敗の補完」を行う構造の
摘出・・・21世紀における「停滞」?
2. 「統合理論との接合」
➣「経済的リベラリズム」の系譜
-「新機能主義(neo-functionalism)」
P.Schmitter 「経済的技術者」
E.Haas 「スピルオーバー」
➣「経済的リアリズム」の系譜
- 「政府間主義(intergovermentalism)」
A.S.Milward 「国民国家の救済」
A.Moravscik 「商業的利益」
➣「政治的リベラリズム」
K.Deutch 「安全保障共同体」
➣Where is the “Political Realism”?
3.「フランスと欧州統合過程」再論
➣ 「躁鬱」としての欧州統合(R.Frank,2003)
-影響力希求と主権喪失の危惧のサイクル
「しばしば自分を孤立させるヨーロッパの危機の当初に、フランス人はヨー
ロッパの『再発進』に参加し、あるいは大いに貢献しようとする」
➣「機会/拘束」のサイクル(Cole&Drake,2000)
-国益の機会 ←→ 拘束の道具としての欧州統合
⇒EDC否決(54年)⇒「フーシェ・プラン」(62年)⇒スネーク離脱(74年)⇒EMS創
設(79年)⇒「一国社会主義」(81年)⇒SEA(86年) ⇒ ……ブレーキとアクセ
ルの相互反復
➣「統合の揺らぎ」の説明可能性
→加盟国における「デモクラシー」の編成のあり方と規範的理念との関係(V.A
Schmidt)
ドイツ: 「埋もれたアイデンティティ」
英 国: 「議会主権」VS「経済的利益」
4.政策の失敗-植民地問題(1)
➣「フランス共同体(Union Française)」の問題
→50年代半欧州統合の本格的推進(「欧州合衆国のための行動委員会」/
「共同市場設立構想」)
→海外領土と欧州共同体との「共存」の模索・・・「帝国」か「欧州統合」か?
➣計画庁/省庁間委員会/G.ドフェール:フランス共同体と欧州統合のリン
ケージ
➣「ユーラフリック(Eurafrique)」構想
-「ヨーロッパの6カ国と海外領土の間で共同市場を目指すよりも共同市場加
盟国と海外領土の連合を目指すことが適切」(「フランス代表団の宣言,1956
年)
→特恵関税・農業保護・共同体支援制度の実現
-モレ首相「アフリカとの協力は欧州が得たかつてないチャンスであり、共同市
場の経済的次元でこれが基礎付けられた後に二つの大陸による連合は、
世界的な勢力の均衡によって重要な政治的・経済的次元を持つようになる」
(1957年)
4.政策の失敗-植民地問題(2)
➣1958年アルジェリア危機と仏共同体の崩壊
→ド・ゴールの登場と新生ユーラフリック構想
英米仏のトロイカ体制の模索と大西洋同盟構想の失敗
→ユーラフリック、ヨーロッパ、世界政策の「3つのサークル」
→独仏機軸の完成による新たな欧州統合
➣「植民地問題」と欧州統合
①植民地に対する管理政策
②欧州統合の中でのフランスの影響力拡大
③対米・対ソに対する第三勢力形成
④文明化・近代化の使命
5.政策の失敗-社会主義(1)
➣1981年ミッテラン大統領、社共政権の誕生
「資本主義システムの代替策」としての社会主義
→有効需要管理策と国有化
→スタグフレーションの発生、財政赤字、フラン安
➣「82年と83年にグローバル化は存在した」(J.ドロール)
→EMS(欧州通貨制度)からの離脱圧力
➣「欧州建設と社会正義という二つの野心の間で揺れ動いた」(F.ミッテラン)
5.政策の失敗-社会主義(2)
➣1984年前期EC議長国
→「ヨーロッパの再興」:英還付金問題、新規加盟、人・モノの自由移動、ソー
シャル・ヨーロッパ、EMS制度の強化
「乳製品、ワイン、魚、予算といった問題から離れて共同体の未来について話
合う時代を迎えた」(H.ヴェドリーヌ)
➣「フランスの独立と欧州の建設が相互補完的になるような方法」(F.ミッテラ
ン)
→80年代前半のコミットメントが1992年TEUへと結実
➣「社会主義」と欧州統合
①「責任回避」戦略の貫徹
②社会党政治の覇権
③「前方への逃避(flucht nach vorn)」
6.政策の失敗-ドイツ統一(1)
➣東西ドイツ統一、ソ連ブロックの消滅、米国の覇権
→89年11月コール首相の「10項目提案」
→オーデル・ナイセ国境線問題の危惧
➣欧州統合の進展と表裏一体のプロセス
→「脅威の再生」の回避・・・ドイツの「囲い込み」
「ドイツという現象を無力化する制度的防壁」の構築(E.Guigou)
➣欧州委員会・議会の権限強化、閣僚理事会意思決定の範囲拡大、
社会憲章策定、EBRD創設、EMUの早期具体化
6.政策の失敗-ドイツ統一(2)
➣ドイツ統一に対する出口戦略としての「欧州の創出」
cf.「欧州国家連合」構想
→「ドイツ国民が自由な自主的決定を通じて統一できる欧州における和平
の状態の強化を模索する(略)欧州統合のパースペクティブのもとに展開さ
れなければならない」(ストラスブール欧州理事会)
➣「ドイツ統一」と欧州統合
①「1913年への回帰」の回避
②統一プロセスの制御
③ポスト冷戦構造における「欧州協調」シナリオの優先
7.おわりに
➣内政・外政における<政策の失敗>を欧州統合の次元へと<プロジェクション
>する構造・・・「Fiction/Myth」としての欧州統合
→植民地問題:海外領土維持と国際社会の地位
→社会主義:国内改革アジェンダを欧州次元へと棚上げ
→ドイツ統一:欧州統合への枠内への封じ込め
➣「経済力」でも「恒久平和」でもない政治によって生じるリアリズム・・・「希望」
による「権力体」
➣アクターの<合理的行動>が欧州統合という<非合理的>な政治的構想を支
持する
➣「歴史の終焉」時代におけるQuo Vadis Europa?