第5章 会社の機関 No.1(指定教科書p92~106)

企業法Ⅰ講義資料 No.04
会社の機関
No.1
1. 会社の機関総説
2. 株主総会
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
意義
権限
招集手続
議事
株主の議決権
決議
決議の瑕疵
テキスト参照ページ:117~166p
1
Ⅰ
会社の機関
総説
1 機関の意義と機関の分化
会社は社団法人であり、自ら権利義務の主体と
なるが、自然人と異なり会社自体が意思決定な
いし行為をすることができない。そのため、会
社の組織において一定の地位にある者の意思決
定・行為をもって、法律上、会社の意思決定・
行為として取り扱う必要がある
→自らの意思決定・行為が法律上、会社の意思決
定・行為と認められる地位にある自然人または
自然人の会議体を会社の機関と呼ぶ
2
機関の分化:会社法
• 株式会社においては、多様に機関が分化し、
相互の抑制と均衡により経営の健全性確保が
図られる
• 会社法は、大会社か否か、株式譲渡制限の有無、
取締役会設置の有無、会計監査人の有無等によ
り機関設計の柔軟化を図る
• 有限会社を株式会社に取り込んだことで、有限会
社型の機関構成が株式会社の基本形とされた
※全ての株式会社に共通して必要的機関とされる
のは、株主総会と取締役のみとなる
3
機関の分化
1. 株主総会:会社の規模、株主数、株主相互間
の信頼関係の強さ、あるいは個々の株主の経営
能力や経営への意欲の高さが、会社によって
区々であり、一般論として株主自らが機関として
の地位に就くことは適当でない。
⇒株主は株主総会の構成員として会社の意思決
定に参画するにすぎないものとした。(特定の種
類の株主のみが種類株主総会を構成すること
もある)
4
機関の分化
2. 会社の経営活動(業務執行)は、原則として、
株主であることを前提としない経営の専門家であ
る「取締役」に委ねることとした→所有と経
営の分離(326Ⅰ)
※昭和25年商法改正により取締役会制度が導
入され、3名以上の取締役が「取締役会=業
務執行の意思決定機関」を構成し、その中か
ら「代表取締役=代表機関」が選定されるこ
ととなった
※会社法上、取締役会設置会社では、従来の
規制が維持(331Ⅳ、362Ⅲ:委員会設置会社
を除く)
5
取締役会設置会社と不設置会社の違い
• 取締役会設置会社
•
1. 株主総会は、会社法に規 1.
定する事項および定款で
定めた事項に限り、決議
できる(295Ⅱ)
2. 公開会社の場合、取締
役の資格を株主に限定 2.
できない(331Ⅱ)
3. 監査役設置義務(ただし公
取締役会不設置会社
株主総会は、会社法に規
定する事項のほか、株式
会社の組織、運営、管理
その他一切の事項につい
て決議できる(295Ⅰ)
非公開会社の場合(取締
役会設置会社でも)、取締役
の資格を株主に限定でき
る(所有と経営の一致:331
開会社でなく、会計参与を設
Ⅱ)
置する場合は不要:327Ⅱ)
3. 委員会設置不可(327Ⅰ
4. 委員会設置可
6
③)
機関の分化(株主総会・取締役以外の機関)
3. 株主に代わって会社の経営が適切に行われるよう監
査・監督する機関:「監査役」(取締役会設置会社
と会計監査人設置会社で義務)・「監査役会」(取
締役会設置会社は任意、公開大会社は義務)
4. 業務執行者と協力して計算書類等の作成を行う:
「会計参与」(公認会計士・監査法人・税理士・税
理士法人):全ての株式会社で任意に設置可
5. 専門的会計監査機関として計算書類等の監査を行う
「会計監査人」(公認会計士・監査法人)(大会社
では義務、大会社以外では任意)
6. この他、臨時の調査機関として「検査役」(総会ま
たは裁判所により選任される)
7
機関の分化:委員会設置会社
7. 資本の規模にかかわらず取締役会・会計監査
人を設置する会社は、「委員会」(監査委員会、
指名委員会、報酬委員会)を設置することがで
きる(327Ⅰ③・Ⅴ)
1. 委員会設置会社は監査役・監査役会を設置できな
い(327Ⅳ)
2. 各委員会は3名以上の取締役で構成され、委員の
過半数は社外取締役でなければならない(400Ⅰ~
Ⅲ)
3. 取締役会決議で「執行役」を選任し、その中から取
締役会決議で「代表執行役」を選定する(402Ⅰ・Ⅱ、
8
420):代表取締役は存在しない
Ⅱ
株主総会
1 意義:
「株主の総意により会社の意思決定を行う会議
体としての株式会社の必要機関」(株式会社の
最高機関)
• 昭和25年改正以前は会社に関するすべての事項
を決定できたため万能機関とよばれたが、取締
役会制度導入により会社の基礎的事項のみ決定
できることとなった
• 取締役会を設置しない会社においては、万能機
関性が復活した(万能かつ最高の機関)
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2
株主総会の権限①
• 会社法および定款に定められた事項に限り決定
する権限(取締役会設置会社:295Ⅱ)
• 会社の基礎に根本的変動を生じる事項(定款変
更、営業譲渡、資本減少、合併、会社分割、株
式交換、株式移転、解散など)
• 役員および会計監査人の選任・解任
• 取締役の濫用のおそれの多い事項(取締役の報
酬など)
• 株主の重要な利害に直接かかわる事項(計算書
類の承認、剰余金の分配、株式併合、募集株式
の有利発行など)
• その他、定款で定めた事項
10
2
株主総会の権限②
• 公開会社かどうかによって、株主総会の決議事項
と取締役会の決議事項に分かれる事項もある
例:募集株式の発行における募集事項の決定
・非公開会社:原則として株主総会(199Ⅱ)
・公開会社:有利発行を除き取締役会(201Ⅰ)
• 株主総会の法定決議事項であるが、定款の定め
によって取締役会の決議事項にできる旨が定めら
れている場合もある
・非公開の取締役会設置会社における株主割当て
による募集株式の発行(202Ⅲ②)など
11
会社はどこまで定款で株主総会
の権限とすることができるか?
•
前述のような別段の定めがある場合を除き、法定の
株主総会決議事項を株主総会以外の機関に委任する
ことは許されないが(295Ⅲ)、逆は基本的にどの
ような事項でも定款で委任できると解されている。
1.代表取締役の選定・解職
2.業務執行一般(重要なものに限る)
※第三者、とくに会社債権者の利益に対する配慮
が必要
→支配株主の責任
12
3
株主総会の招集
(株主総会は常置の機関ではなく、必要に応じ
て招集される会議体)
(1)招集権者(原則):
• 取締役会不設置会社では、取締役が招集する
(296Ⅲ):取締役が2人以上ある場合は、招集事
項の決定を各取締役に委任することはできず、取
締役の過半数をもって決定し(348Ⅱ・Ⅲ③)、代表
取締役または会社を代表する者が定めてあれば
その者が招集する(349Ⅰ)
• 取締役会設置会社では、取締役会による招集事
項の決定に基づき(298Ⅳ)、代表取締役が招集す
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る(349Ⅳ)
(1)株主総会の招集権者
• 例外1:少数株主による招集請求(297)→6ヶ
月前から引き続き総株主の議決権の3%以上を
有する株主は、取締役に対し、総会の目的事項
(当該株主が議決権を行使できる事項に限る)
および招集の理由を示して、総会の招集を請求
でき、その後適切な招集手続がとられなければ
(297Ⅳ①・②)、裁判所の許可を得て自ら招
集できる
• 「6ヶ月前から」の要件は、定款で短縮可能
(非公開会社では不要):297Ⅰ・Ⅱ
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(1)株主総会の招集権者
• 例外2:裁判所の命令による招集
(307Ⅰ①、359Ⅰ①)
→少数株主権による監督是正権に関連し
て、裁判所が必要と認めた場合
– 総会検査役の報告に対し、株主総会をやり
直す必要があると認める時
– 業務財産検査役の報告に対して、必要があ
ると認める時(取締役等の解任など)
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(2)定時総会と臨時総会
①定時総会(296Ⅰ):毎事業年度終了後一
定の時期に招集される:通常、基準日との
関係で(124Ⅱ)、決算日後3ヶ月以内に開催
される
⇒計算書類の報告・承認→決算で確定した剰余
金の分配方法などを決める(438・439) 、その他
必要に応じて取締役、監査役の選任、退任する
取締役らへの退職慰労金贈呈の承認などを行う
②臨時総会(296Ⅱ):必要に応じて随時招
集される
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(3)招集事項の決定
• 株主総会の招集者は、所定の事項を定めなけれ
ばならない(298Ⅰ①~④その他法務省令で定め
る事項)
• 取締役会設置会社の場合は、取締役会決議によ
り決定しなければならない(298Ⅳ)
• 招集地に関する制限が廃止(旧商233参照):株主
総会の場所(1号)を柔軟に決定できる
• 企業規模に関係なく、書面投票・電子投票を採用
することができる(3号、4号):無議決権株主を除く
株主数1000人以上(大会社に限らない)の場合、
書面投票が義務付けられる(298Ⅱ本文、Ⅲ) 17
(4)招集手続
①招集通知の発送(299Ⅰ):株主の議決権行使
の機会を保障するため→議決権のない株主には
発送する必要なし(原則:会日の2週間前ま
で)⇒当該総会において議決権を有する株主全
員の同意があれば、書面投票・電子投票を採用
する場合を除き招集手続を省略できる(300)
・書面投票または電子投票を採用する場合を除
き、非公開会社では会日の1週間前までに発送
すればよい
・上記の期間は、取締役会不設置会社であれば
さらに定款で短縮できる
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(4)招集手続
②書面または電磁的方法による通知:招集通知
は、口頭や電話等でも良いが、取締役会設置会
社の場合および書面投票または電子投票を採用
した場合は、所定の事項(開催日時、場所、議
題等)を記載した書面の送付によってなされる。
ただし、個別の株主の承諾があれば電磁的方法
による通知も可:299Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
※取締役会設置会社の定時総会の場合、招集通
知に際して、計算書類、事業報告、監査報告書が
株主に提供される(437)
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(4)招集手続
③書面投票制度を採用する会社では、株主総会
参考書類・議決権行使書面も交付される(301)
④電子投票制度を採用する会社では、株主総会
参考書類も交付される(302)(議決権行使書面
に記載すべき事項は電磁的方法で提供(3項)
:電磁的方法による通知に同意した株主に対し
ては、③④の書面に記載すべき事項の電磁的
方法による提供も可(ただし、株主からの請
求があれば書面の交付を要す)
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招集手続の瑕疵
• 招集手続に瑕疵があった場合(一部の株主に招
集通知が送付されなかった等)は、原則として
総会決議取消事由(831Ⅰ①)となるが、株主
全員が開催に同意し、異議なく出席し決議がな
された場合は、決議は有効に成立する(全員出
席総会)
• 取締役会設置会社の株主総会は、招集通知に記
載された会議の目的事項以外の事項を決議するこ
とはできない(309Ⅴ)。ただし、議長の選出、株主
総会に提出された資料を調査する者の選任(316・
398Ⅱ参照)等の会議運営に関する事項のほか、
延期・続行については、招集通知に記載がなくても
21
決議できる(317)
4
議事(総会の運営)
(1)議題および議案
• 「議題と議案」:会議の目的とすべき一定の事項を議題と
いい、議題の内容を議案という
①通常は取締役(会)が決定・提案する
②株主にも議題および議案の提案権が認められ
ている(株主提案権)
「議題提案権」:303条
⇒取締役会不設置会社では単独株主権(Ⅰ)
⇒取締役会設置会社では少数株主権(Ⅱ)
• 当該株主が議決権を行使できる事項に関する議
22
題に限る
議案提出権:304
• 株主総会の場で、株主総会の議題に対して議案
を提出する権利(議案提出権)
• 全ての株式会社において単独株主権
• ただし、当該議案が法令もしくは定款に違反す
る場合、または実質的に同一の議案が過去に提
出され、総株主の議決権の10%以上の賛成を得
られなかった日から3年を経過していない場合
は、当該議案の提出は認められない
• 当該株主が議決権を行使することができない議
題については、議案を提出することはできない
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事前議案提出権(議案の要領の通知請
求)(305)
• 総会の8週間前までに、取締役に対して請求しなけ
ればならない(書面での請求であることは義務付け
られない)(従来6週間前とされていたものが、14年
改正で8週間とされた:会社側の準備のため)
• 会社法では、「8週間前」という行使期限を定款で
短縮することができる:会社側から定款変更の提
案がなされることはあまり考えられない
→有限会社的株式会社もあることから定款で短縮
できることを明確にした
• 招集通知等により株主に通知されるので、議決
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権を有する全株主の目に触れるメリットがある
取締役会設置会社における株主提案権
の行使要件(303Ⅱ・Ⅲ、305Ⅰ・Ⅱ)
• 6ヶ月前から引き続き総株主の議決権の1%以上
または300個以上の議決権を有する株主に認め
られる(ただし、総会の決議事項でないものは議題として提
案できない)
• 6ヶ月前、1%、300個等は、定款で引き下げる
ことができる
• 公開会社でない取締役会設置会社の場合、6ヶ月
前からの継続保有は要件とされない
• 株主総会の開催日の時点で6ヶ月経過すればよ
いのか、提案権行使の時点で6ヶ月保有し続けて
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いることが必要なのかについて争いがある。
※株主提案権を会社が無視した
場合の効果
• 議題追加権を無視した場合:
総会の目的となっていない以上招集
手続の違法といえず損害賠償ができ
るのみ
• 議案提出権を無視した場合:
決議取消事由となる
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(2)議長の役割
• 株主総会の議事を主宰(総会の秩序維持と議事
の整理、秩序を乱す者を退場させる)する(315)
• 定款で定めない場合は総会ごとに株主総会が
選任する→通常、定款で社長が議長を務め、社長に
事故あるときは他の取締役が所定の順序で担当する
よう定められている
⇒少数株主の請求により招集された総会
(297Ⅳ)には定款の定めは適用されず総会で
選任されると解されている
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(3)説明義務
• 取締役、会計参与、監査役および執行役は、特
定の事項につき株主がした質問に対し、必要な
説明しなければならない(314本文)
※説明を拒否できる場合(説明拒否事由):
①質問が会議の目的事項と関係がない場合
(電力会社における原子力発電の安全性)
②説明することにより株主共同の利益が害さ
れるとき(企業秘密の開示要求)
③ その他正当な理由がある場合として法務省
令で定める場合
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・説明義務違反は、決議取消原因となる
(4)総会検査役の選任請求権
• 株式会社または総株主の議決権の1%以上(定
款で引下げ可能)に当たる株式を有する株主は、
総会招集の手続、決議の方法等に瑕疵がないか
調査させるため、総会に先立ち、裁判所に対し、
「検査役」の選任を請求できる(306Ⅰ)(少数
株主権、会社側にも認められた)
⇒総会を中立の第三者に監視させることで運営の適正
化をはかり、証拠を保全し、紛争を防止するため
• 裁判所は、申立てを不適法却下する場合を除き、
検査役(弁護士等)を選任しなければならない
(306Ⅲ)
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(4)総会検査役の選任請求権
• 取締役会不設置会社:総会決議の目的を定める
必要がないので、株主総会で決議できる事項の
すべてについて議決権を行使できない株主を除
いて請求できる(306Ⅰ)
• 取締役会設置会社:当該株主総会の目的事項の
全部について議決権を行使できない株主を除い
て請求できる(306Ⅱ)
• 公開会社である取締役会設置会社:上記の他、
6ヶ月(定款で短縮可能)前から引き続き当該
会社の株式を保有していること、という要件が
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加えられる(306Ⅱ)
(4)総会検査役の選任請求権
• 検査役は、調査結果を裁判所に報告するとともに、
株式会社(少数株主が検査役選任の申立てをした
場合は株式会社および当該少数株主)に対し、調
査報告書の写しを交付し、または調査結果に関す
る電磁的記録の提供をしなければならない
(306Ⅴ・Ⅶ)
• 裁判所は、必要があると認めるときは、取締役に
対し、一定の期間内に株主総会を招集すること、
または検査役の調査結果を株主に通知することを
命じなければならない(307Ⅰ):必要と認める場合
31
は、双方を命じる
(5)議事録(318)
• 総会では議事録の作成が義務付けられる(Ⅰ)
①記載事項:議事の経過の要領と議事の結果→
議長と出席取締役が署名(電磁的記録による作成
も認められる)
②議事録の備置:本店に10年間、謄本を支店に
5年間→株主・会社債権者は閲覧・謄写を求め
ることができる(Ⅱ~Ⅳ)
③親会社社員(株式会社に限らない)の子会社
の総会議事録の閲覧・謄写権(Ⅴ):親会社株
主の権利行使のため必要なときに裁判所の許可
が必要(単独株主権)
32
5
株主の議決権
(1)議決権の数
①一株一議決権の原則:「株主は、一株
につき一個の議決権を有する」(308Ⅰ
本文)
※資本多数決制度
→株式会社の本質である株主平等原則か
ら導かれる
⇒例外は法律で定められた場合にのみ認
められる
(議決権制限株式・単元未満株式等)
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②一株一議決権の例外
① 単元未満株:単元株制度採用会社は、一単元
一議決権と修正されるため(308Ⅰ但書)
② 自己株式:保有自己株式については議決権が
停止する(308Ⅱ)⇒支配の公正
③ 相互保有(308Ⅰ括弧書き):資本の空洞化
を防ぎ、会社支配の公正を確保するため(次
頁参照):実質支配基準の導入
④ 議決権制限株式:株主総会決議事項の全部ま
たは一部について議決権がない種類の株式
(議決権制限株式)については、当該決議事
項について議決権が認められない⇒種類株式
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制度(108Ⅰ③)
株式の相互保有と議決権の停止
D会社(Bの
親会社
①B単独で、またはB
とCで併せてA会社の
A会社 総株主の議決権の
B会社
25%以上を有している
※AがBの子会社である場合
も当然含まれる
②この場合、A会社が
BおよびD会社の株式
を持っていたとしても、
A会社はその株式に
ついては議決権を持た
ない
資本の空洞化防止
会社支配の公正
C会社(Bの子会社)
35
②一株一議決権の例外
⑤ 定款で議決権について株主ごとに異なる取扱いを行う
旨を定めた場合:定款で、株主ごとに、議決権の数や議
決権を行使することができる事項について別段の定めを
することができる(109Ⅱ):非公開会社のみ
⑥ その他:議決権行使の基準日後に、新株予約権の行
使・転換権の行使などにより発行された株式につい
ては、その総会においては議決権を行使できない
(124Ⅰ)⇒総会において議決権を行使しうる株主を確定さ
せる必要があるため
→ただし、株式会社は、そのような者の全部または一部
につき議決権を行使できる旨を定めることができる:この
場合、基準日における株主名簿上の株主(基準日株主)
36
の権利を害してはならない(同Ⅳ)
(2)議決権の行使
• 通常は、会議体の一般原則に基づき議決権を
行使する
※特殊な行使方法(株主側の事情に配慮)
① 議決権の不統一行使(313):2個以上の議
決権を有する株主は、これを統一せずに行使
できる(1項)
⇒株主名簿上の株主と実質株主が異なる場合に実質
株主の意思を議決権行使に反映させるため(株式信
託、投資信託、従業員持株会)
→取締役会設置会社の場合、会日の3日前までに不
統一行使する旨を理由とともに通知しなければなら
37
ない(2項)
※特殊な議決権行使方法
②代理行使(310):株主は代理人によって議
決権を行使することができる
・株主の総会出席権を保障するため強行規定と
される(定款等で排除したり要件を加重したり
できない)
→株主または代理人は、代理権を証する書面=
「委任状」を会社に差し出さなければならな
い(電磁的方法でも良い:会社の承諾を要す)
・代理権の授与は総会ごとにしなければならない
(Ⅱ)
・一人の株主が出席させる代理人の数を制限す
ることができる(Ⅴ)
38
議決権の代理行使
• 会社は委任状を本店に備え置き、株主の閲覧に
供さなければならない(310Ⅵ・Ⅶ)
• 定足数の確保のために委任状は役立つが、白紙
委任状を集めることで取締役の会社支配維持の
目的に利用されることがある⇒委任状勧誘規則
(金商194に基づく規則)による規制をうける
• 取締役提出の議案に対し反対の提案を行う株主
も他の株主から委任状を集めることができる。
経営陣と対立株主との委任状勧誘合戦をプロキ
シー・ファイトと呼ぶ
39
論点
※代理人の資格を株主に限定する定款規定の有
効性(新司法試験のサンプル問題)
・上場企業の多くが総会屋(株主以外の第三
者)による総会のかく乱防止のために設けて
いるが、株主の議決権行使機会確保の要請と
衝突する
⇒一応合理的理由に基づく制限として有効と
しつつ、制限の範囲を限定:百選41事件参照
弥永リーガルマインド(10版)p.128等参照
40
※特殊な議決権行使方法
③書面投票・電子投票(311、312)
・議決権行使のための参考となる書類(参考書
類)、および議案ごとに賛否を記載する欄が設
けられている議決権行使書面を招集通知に添付
し、総会に出席しない株主はこの書面によって
議決権を行使できるという制度
・書面ではなく、Webページやeメールなど電磁
的方法によることもできる(電子投票)
・すべての株式会社が、この制度を任意に採用す
ることができるが、議決権を有する株主の数が
1000人以上の会社では、原則として、この制度
の採用が義務付けられる(298Ⅱ)
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(3)株主総会決議の省略および株主
総会への報告の省略
• 書面投票が行われる場合にも株主総会は開催しなければ
ならず、書面投票または電子投票のみによる決議は原則
として認められない
• ただし、ある議題に関して取締役または株主から提案が
あった場合に、その議題につき議決権を行使できる全て
の株主が、書面または電磁的記録によって当該議案に同
意(賛成)したときは、物理的に総会が開かれていなくとも、
当該提案を可決する総会の決議があったものとみなされ
る(319)
• 株主総会に報告すべき事項についても、取締役が、株主
全員に対して報告事項を通知した場合において、株主全
員がその事項を株主総会に報告することを要しないことに
つき書面または電磁的記録により同意したときは、当該事
項の株主総会への報告があったものとみなされる(320)
42
6
決議
• 普通決議(309Ⅰ):法令・定款に別段の定め
がない場合は普通決議
・定足数:議決権を行使することができる株主の
議決権の過半数を有する株主の出席
・決議要件:出席株主の議決権の過半数
⇒定款により定足数を緩和ないし廃止できるが、
取締役、会計参与および監査役の選任ならびに
取締役・会計参与の解任については、定足数を
総株主の議決権の3分の1未満にすることはで
きない(341)
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特別決議(309Ⅱ)
• 重要事項について要求される
・定足数:原則として議決権を行使することがで
きる株主の議決権の過半数を有する株主の出席
・決議要件:その議決権の3分の2以上に当たる
多数決(定款で加重可能)
⇒定足数について定款で別段の定めをおく場合
も総株主の議決権の3分の1未満にすることは
できない
※定款変更をはじめ会社存立の基礎に変動を生
じる事項や、株主の利益に重要な影響を与える
事項、取締役・監査役らの責任制限などについ
て要求される(309Ⅱ列挙)
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特殊の決議①(309Ⅲ)
• 頭数多数決と資本多数決の併用
・その発行する全部の株式の内容として、譲渡制
限の定めを設ける定款変更決議、ならびに合併、
株式交換、株式移転により公開会社の株主に譲
渡制限株式が交付される場合の合併契約等を承
認する株主総会決議(783Ⅰ、804Ⅰ)
• ⇒当該株主総会において議決権を行使することが
できる株主の半数以上(定款で加重可)でかつ当
該株主の議決権の3分の2以上(定款で加重可)に
当たる多数決で成立(定足数でなく決議要件と
して株主の半数以上の賛成が必要)
45
特殊の決議②(309Ⅳ)
• 頭数多数決と資本多数決の併用
・公開会社でない株式会社が、剰余金の配当、残
余財産の分配または株主総会の議決権について
株主ごとに異なる取扱を行う旨(人的属性に基づく
差別的取り扱い)の定款の定めについての定款変
更の決議(109Ⅱ)
• ⇒総株主の半数以上(定款で加重可)でかつ総株
主の議決権の4分の3以上(定款で加重可)に当
たる多数決で成立
46
総株主の同意
• 役員、会計監査人、発起人等の責任の免除(55・
120Ⅴ・424・462Ⅲ・464Ⅱ・465Ⅱ)
• 株主が持分会社の社員になる場合:すなわち組織
変更(776)、組織再編の対価が持分等であるとき
の吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社による
吸収合併契約・株式交換契約の承認(783Ⅱ)、お
よび新設合併設立会社が持分会社である場合の
新設合併契約の承認(804Ⅱ)
• その発行する株式全部を取得条項付株式にする
定款変更をする場合、特定の株主からの自己株式
取得について、株主に売主追加請求権を認めない
旨の定款変更をする場合(73Ⅲ・110・164Ⅱ) 47
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決議の瑕疵
(1)総説
株主総会の招集・運営・決議が法令・定款に違
反するなどその効力を否定すべき瑕疵を帯びる
とき、当該瑕疵により不利益を受ける株主の利
益保護と、形式的に成立した決議を前提に積み
重ねられた法律関係の利害関係者の法的安定性
(取引の安全)の保護との調和を図る必要があ
る。会社法は、株主総会に何らかの瑕疵がある
場合の決議の効果を、その瑕疵の程度や性質に
応じて、決議取消、決議無効、決議不存在の三つ
に分類し、それぞれにつき取消の訴え、無効・不存
在確認の訴えを定めている。
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(2)決議取消の訴
• 比較的軽微な瑕疵⇒訴えによってのみ主張でき
る
①取消原因:a)招集手続または決議方法が法令
または定款に違反、または著しく不公正である
とき、b)決議内容の定款違反、c)特別利害関係
人の議決権行使により著しく不当な決議がなさ
れたとき(831Ⅰ)
②提訴権者:株主、取締役、監査役設置会社の監
査役、執行役および清算人のみが、会社を被告と
して提起できる(831Ⅰ柱書、834⑰)
③提訴期間:決議後3ヶ月以内
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(2)決議取消の訴え
④判決の効力:取消判決が確定してはじめて決議
は無効となる(形成訴訟)
⇒判決の効力は第三者にも及ぶ(対世効)、決
議時に遡って無効となる(遡及効)
※取締役選任決議が取り消された場合、当該取締役が
代表取締役として取消前に行った行為については、無
効となるが、不実登記の効力(908Ⅱ)、表見代表制度
(354・421)や民法の表見代理の規定の適用ないし類推
適用により取引の安全を図るべき
⑤裁量棄却(831Ⅱ):招集手続または決議方法
の法令定款違反が重大でなく、決議に影響を及
ぼさないと認めるとき→裁判所は請求を棄却で
きる
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(2)決議取消の訴え
⑥担保提供命令(836) :取締役・監査役・執行
役・清算人以外の株主が原告となるとき、会社
(被告)が株主の悪意を疎明すれば、裁判所は相
当の担保の提供を命じることができる
※ 決議取消の訴えに限らず、会社の組織に関す
る訴えであって、株主または設立時株主が提起す
ることができるもの全般について認められた→設
立無効の訴え、決議不存在・無効確認の訴え等
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(3)決議無効確認の訴え
• 重大な瑕疵⇒訴えによらなくても主張できる
①無効原因:株主有限責任、株主平等原則などに
違反する決議、違法配当を承認する決議等決議
内容が法令に違反する場合⇒当然無効
②提訴権者等:無効はいつでも、誰でも、どんな
方法でも主張できるが、対世効による法律関係
の画一的処理の要請から決議無効確認の訴えを
制度化(830Ⅱ・838) ⇒確認の利益があればよ
い(提訴権者・提訴期間に制限はない)
③判決の効力:取消の訴え同様第三者に及ぶ(対
世効)
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(4)決議不存在確認の訴え
①不存在:総会が開催されていないのに議事録だ
けが存在する場合、招集ないし決議方法の瑕疵
が著しく、法律上株主総会が開催されたとは評
価できない場合
②提訴権者等:無効確認の訴えと同様(830Ⅰ)
③判決の効力:対世効
※取締役会設置会社において平取締役が取締役会の決議
なしに招集した場合や、招集通知を故意に一部の(経営
陣に反対する派の)株主に発送されないときなどは、決議
不存在と解すべきである。
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考えてみよう!
• 説明拒否事由がないにもかかわらず、株
主からの質問に対して回答せず、決議を
行い、会社側提案どおりに可決された場
合の決議の効力はどうなるか?
• 書面投票による賛否の記載を会社が無視
した場合の決議の効力はどうなるか?
⇒決議方法の法令違反により決議取消事由にな
る(831Ⅰ①)
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参考判例:<LEX/DB28050846>
8 種類株主総会:(1)権限
• 種類株主総会:種類株主による総会をいう(2⑭)
– 種類株式発行会社では、その発行するある種類の株式の株主
(種類株主)による総会の決議を行うべき場合がある。
• 種類株主総会は、会社法に規定する事項および定款に定
めた事項に限り、決議することができる(321)
• 種類株主総会のみによって一定の事項が決まる場合もあ
る(108Ⅰ⑨・347参照)
• ある種類の株主の利益に重大な影響を及ぼす可能性が
あると類型的に認められる事項について、会社法は、種
類株主総会決議を要求する(199Ⅳ・200Ⅳ・238Ⅳ・
738Ⅲ・795Ⅳ・804Ⅲ参照)
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8 種類株主総会:(1)権限
• 322条1項列挙事項については、それがある種類
の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある
ときには、当該種類の株式の種類株主を構成員と
する種類株主総会の決議がなければ、その効力を
生じないものとされる(322Ⅰ):決議要件は特別決
議(324Ⅱ)
• 種類株式の内容として、上記の場合に種類株主総
会決議を要しない旨の定めを定款に置くこともでき
る(322Ⅱ・Ⅳ)→反対株主に株式買取請求権が発
生する可能性あり(116Ⅰ③)
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8 種類株主総会:(1)権限
• 拒否権付株式(いわゆる黄金株)(108Ⅰ⑧)が
発行されているときは、定款で当該拒否権付株
式の株主の種類株主総会決議が必要とされて
いる事項については、その事項を決定するのに
必要な株主総会または取締役会決議のほか、
当該拒否権付株式の株主の種類株主総会決議
がなければ効力を生じない(323)
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8 種類株主総会: (2)決議
• 種類株主総会の招集、議事、決議の瑕疵に
ついては、株主総会に関する規定が準用さ
れる(325)
• 種類株主総会の決議方法も、株主総会決
議と同じく、普通決議、特別決議およびそれ
以外の方法による決議に分かれる
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8 種類株主総会: (2)決議
• 特別決議事項(324Ⅱ)
① ある種類の株式を全部取得条項付種類株式にするため
の定款変更
② 譲渡制限(種類)株式を新株発行(または自己株式の処
分)する場合の募集事項の決定
③ 譲渡制限(種類)株式を目的とする新株予約権を発行す
る場合の募集事項の決定
④ (1)に述べた会社法322条1項の決議
⑤ 種類株主総会によって選任された監査役の解任、および
⑥ 吸収合併消滅会社株主に吸収合併存続会社株式を交
付する場合の吸収合併存続会社の種類株主総会決議
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等(794Ⅳ)
8 種類株主総会: (2)決議
• 特殊の決議
• ある種類の株式を譲渡制限(種類)株式に
するための定款変更等(111Ⅱ・783Ⅲ・
804Ⅲ):(324Ⅲ。要件をさらに厳格化する
ことができる)→頭数多数決の併用
• 種類株主全員の同意が必要な事項(99・
322Ⅳ)
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