川井班班会議はじめのスライド

くすりとリスク
池田正行
日本内科学会認定内科専門医
米国内科学会会員
医薬品医療機器総合機構(PMDA)
新薬審査第二部
(スライド作成協力:PMDA 新薬審査第二部 青谷裕文氏)
リスクコミュニケーション
国試の前に,そして後にも
試験を勝ち抜き
現場で如何に生き残るか?
あなたのエンドポイント
代用エンドポイント:国試合格
ハードエンドポイント:食っていくこと
薬剤師とリスクコミュニケーション
ーサバイバルゲームの必須アイテムー
読売新聞, 2005.12.15
静岡県伊豆の国市の県立高校1年生の女子生徒(16)
が母親(47)に劇物のタリウムを摂取させて殺害しようと
したとされる事件で、三島署など は女子生徒にタリウム
を販売した同市、薬局経営の薬剤師(65)を毒劇物取締
法違反の疑いで静岡地検沼津支部に書類送検した。
調べによると薬剤師は, 生徒に対し,4月にも劇物のア
ンチモン化合物500gを,8月と9月の2回、 タリウムを各
25g販売疑い。 女子生徒は「化学部の実験に使う」な
どと説明していたという。同法は18歳未満への毒劇物
販売を禁じている.
この新聞記事から何を考えるか?
ーある内資系製薬会社の入社試験からー
• なぜ薬剤師はタリウムを売ったのか?
• 薬剤師はどうすべきだったのか?
• 事故の再発を防ぐにはどうしたらよいのか?
コミュニケーションに関係する数々の罠
•65歳の男性薬剤師と16歳の女子高校生
•化学部に属し、薬物の知識が豊富だった。
•「化学部の実験で使う」と使途を説明し、名前と住所を書面
に記入して注文
•「前にも(劇物を)買いに来た者です」と落ち着いて話した
•女子生徒は4月にも、劇物「ビス」を同じ薬局で大量購入。
•タリウムなど劇物を購入するには、「毒物及び劇物譲受書」
に購入する者の名前、職業、住所の記入が求められている。
•しかし,身分証明書の提示は義務づけていない。
•ブログの中で、「眩しいほどに晴れ、酢酸タリウムが届きまし
た。薬局のおじさんは、医薬用外劇物の表示に気付かず」
なぜ,今リスクコミュニケーションなのか?
• 患者さんを守る
• 健康志向,リスク回避志向の高まり
• 医療事故に対して
–国民の厳しい目
–安易な刑事罰適用傾向
• 医療人が自己防衛する必要性
薬とは何か?
化学物質
情報
+
薬
=
それぞれにリスクが内在
PMDA 青谷裕文氏
薬の開発過程
ーリスクを発見の継続的な努力ー
•
•
•
•
発見・創薬
In vitroの検討
動物実験(非臨床試験)
臨床試験
薬理・薬物動態・毒性
– 第Ⅰ相 健康人に使ってみる!!初めてヒトに使う!
– 第Ⅱ相 有効性・安全性の瀬踏み、用法・用量の探索
– 第Ⅲ相 最後の試練、既存薬とのガチンコ対決
• 臨床経験の蓄積、副作用報告、製造販売後調査、第Ⅳ相試験
PMDA 青谷裕文氏
薬の生涯
•
•
•
•
発見、創出=受胎
開発・創薬=妊娠
審査・承認=誕生!(ここまでに、流産もある)
現役生活=薬は育つ!(育薬)
(製造販売後調査、第Ⅳ相試験、副作用報告、臨床経験の蓄積)
• 役割を終えて消えゆく=大往生
PMDA 青谷裕文氏
(事故死もあり)
第Ⅰ相試験の惨劇
•
2006年3月13日、ロンドン郊外にあるノースウィック・パーク病院
•
ドイツの製薬企業TeGenero社が開発した「TG1412」第I相試験。
•
TG1412はモノクローナル抗体で、慢性関節リウマチや白血病向けの抗炎症薬と
して開発された。
•
臨床試験に参加していた健康ボランティア8人のうち、この薬を投与された6人全
員が投与直後から苦しみ始め、病棟は地獄の様な状況になった。残りの2人はプ
ラセボを投与されていたので問題なかった。6人は多臓器不全という病名で集中
治療室で治療を受けているが、うち2人はかなり重篤で、顔が3倍にも腫れ上が
り、「エレファントマンのようになった」というガールフレンドの言葉とともに英国の
すべての新聞の1面に載った。
【英国医療事情 号外】臨床試験の安全性:治験薬TG1412による重篤な副反応について 森 臨太郎
PMDA 青谷裕文氏
薬とは何か?
くすりはリスク(佐久間 昭)
薬の開発・承認申請とは?
申請資料と履歴書の共通点
•情報開示と説明責任
•宣伝パンフレットではない
•都合の悪い情報も開示
•疑問に対する説明
•希望理由
•転職の理由
副作用と有害事象
開発企業の気持ち
• 有害事象は少なくあってほしい
• 副作用も少なくあってほしい
• 因果関係は否定してほしい
No bad news is bad news
光あるところに影がある
ベネフィットがあるところ、必ずリスクがある
Why not share the bad news ?
because it comes out sooner or later.
新薬審査における
リスクコミュニケーション
悪い知らせをどう伝えるか
リスクを伝えることの難しさ
トラブルの責任をとりたくない
利害関係:攻撃を受ける
不確実性:リスクはしばしばあいまい
情報自体の不確実性:有害事象?副作
用?
受け手によって受け止め方が違う
判断が変わっていく:あの時は・・・
それでも伝えなくてはならない
承認申請資料におけるリスクマネジメント
結局は必ず明らかになる
事態が悪化する前なら冷静な対応
可能早目の対策,被害の拡大を防ぐ
より効果的な対策:システムの欠陥を修正
スケープゴートの防止
世の中に出た薬の安全性=危険性
•薬害
•副作用
•医療事故
PMDA 青谷裕文氏
薬害
主な薬害事件
1961 サリドマイド事件
安全な睡眠薬→胎児奇形
1964 スモン事件
安全な整腸剤→重篤な神経障害
1975 クロロキン事件
抗マラリア薬→クロロキン網膜症
1988 薬害エイズ事件
血友病治療薬→AIDS感染
1991 MMR事件
新三種混合予防接種→髄膜炎
1992 陣痛促進剤被害
分娩の促進→子宮破裂、胎児仮死
1993 ソリブジン事件
帯状疱疹治療薬→抗がん剤併用で死亡
1996 CJD(薬害ヤコブ病)
脳硬膜移植→重篤な中枢神経障害
PMDA 青谷裕文氏
ソリブジン事件
• 1993年 9月、日本商事から帯状疱疹(帯状ヘルペス)の治療
薬として発売された新薬ソリブジンとフルオロウラシル系抗ガ
ン剤の併用で、発売1カ月で15人の死者が発生した。
• インサイダー取引:この報道より前に、同社の役員、社員、医
師までもが大量に自社株を売り抜けた.
• データ隠し:動物実験における死亡例の多発,臨床試験で の
併用者に死者(3人)、承認申請資料では明示されず。
• 添付文書には、併用に注意,相互作用は記載されていた。
• 15人の死者のうち4人が同じ病院の薬剤部からフルオロウラ
シル系の抗ガン剤とソリブジンとを投与されていた。
PMDA 青谷裕文氏
ソリブジン事件での落とし穴
• 併用(相互作用)により発生する副作用
• 抗ガン剤と皮膚病薬という別領域の薬の併用
• 開発企業による意図的な情報の操作・隠蔽
• 添付文書等による注意喚起が弱かったこと
PMDA 青谷裕文氏
ソリブジン事件
どうすれば防げたか?
開発過程
危険を検出できるデータはあった。
臭いものにはフタの意識が、科学的・合理的・倫理
的判断を歪めた?
よい薬を安全に届けよう、ではなく
よい薬でたくさん儲けよう??
承認審査
データの隠蔽に気づけなかったか?
死亡例の検討は十分であったか?
臨床現場
併用注意に関する情報収集は十分か?
薬剤併用に対するケアは十分か?
PMDA 青谷裕文氏
ソリブジン事件
あるべきシナリオ
開発過程
動物実験で併用に関する危険を検出。
あるいは、臨床試験で、併用例における骨髄障害
の発生を早期に検知して、死亡に至る前に危険を
検出し、以後は、臨床試験においても併用禁忌と
する。
承認審査
正確な開発データに基づいて、併用に関する重大
な注意(禁忌)とその徹底的な周知を条件に承認。
あるいは、危険性が大きすぎると判断して、非承
認?。
臨床現場
抗ガン剤との併用に関して、徹底的な注意を払い
ながら、単剤では優秀な抗ウイルス薬として処方。
患者さんも、企業もみんな幸せ。
PMDA 青谷裕文氏
同床異夢(企業 vs 患者・医療者)
良い薬
患者・医療者
しあわせ
PMDA 青谷裕文氏
企業
社会貢献
企業の社会的意義
企業の存続
利潤の追求
患者のしあわせ
PMDA 青谷裕文氏
PMDA 青谷裕文氏
有害事象(AE:Adverse Event)
薬を使用した人(患者・ユーザー)に生じた、
あらゆる
好ましくない
医療上のできごと
1.
2.
3.
4.
–
–
–
徴候(臨床検査値の異常を含む)
症状
病気
薬との因果関係の有無は問わない
PMDA 青谷裕文氏
薬物有害反応(ADR:Adverse Drug Reaction)
(薬事法上の「副作用」)
1. 有害事象のうち、
2. 薬との因果関係が否定できなかったもの
すなわち
1.
2.
3.
4.
5.
薬を使用した人(患者・ユーザー)に生じた、
あらゆる
好ましくない
医療上のできごとで、
薬との因果関係が否定できなかったもの
PMDA 青谷裕文氏
(薬学上の? )副作用
•
意図した作用(主作用)でない薬の作用
すなわち
•
•
•
•
•
薬を使用した人(患者・ユーザー)に生じた、
あらゆる
好ましくない
医療上のできごとで、 ある
薬との因果関係が否定できなかったもの
中には、主作用より役に立つものも...
PMDA 青谷裕文氏
主作用と副作用
アスピリン(アセチルサリチル酸)
• 解熱・鎮痛作用
• 抗凝固作用・抗血小板作用->血栓症治療薬
バイアグラ(クエン酸シルデナフィル)
• 狭心症治療ー>無効
• 勃起作用->勃起不全治療薬
プロペシア(フィナステリド)
• 前立腺肥大症治療薬
• 多毛->男性型脱毛症の進行遅延
PMDA 青谷裕文氏
副作用
今日議論する
つまり、困った副作用
• 意図した作用でないが、
経験あるいは薬効薬理から、
予想できるもの・予想外のもの(想定内・想定外?)
• 意図した作用だが、程度が予想外
強すぎるもの・弱すぎるもの
すなわち、
種類、程度が意図したものと違う薬の困った作用
• 許容できるものもあれば、できないものもある...
(有効性とのバランス、あるいは重篤度で)
PMDA 青谷裕文氏
ある癌の特効薬のお話
• ある種類の癌の特効薬である。
• この種類の癌は、平均余命6ヶ月である。
(他の治療法は無く、最短1ヶ月で死亡、最長でも1年を越える生存例は無い、
とする)
• 使用すれば、50%の患者が直ちに全治する。
• ただし、残りの50%の患者は直ちに死亡する。
• この癌以外の癌、あるいは健康人に使用すると、全例
直ちに死亡する。
• この癌との診断が正しい確率は90%である。
PMDA 青谷裕文氏
究極の選択
そのとき、あなたはどうするか?
(こんな薬の開発がそもそも可能か?という点は問わないものとする)
1.
2.
3.
4.
5.
6.
あなたがこの癌と診断されたら?
あなたの家族がこの癌と診断されたら?
この癌と診断された患者さんから相談を受けたら?
あなたがPMDAの審査専門員で、この薬の審査担当だったら?
この薬を作った企業に勤めていて、この薬の開発担当だったら?
あなたが薬学研究者だったら?
•
•
ある種類の癌の特効薬である。
この種類の癌は、平均余命6ヶ月である。
(他の治療法は無く、最短1ヶ月で死亡、最長でも1年を越える生存例は無い、とする)
PMDA 青谷裕文氏
•
•
•
•
使用すれば、50%の患者が直ちに全治する。
ただし、残りの50%の患者は直ちに死亡する。
この癌以外の癌、あるいは健康人に使用すると、全例直ちに死
亡する。
この癌との診断が正しい確率は90%である。
究極の選択
なにをするべきだろうか?
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
薬を改良する。
死亡する群の延命治療法を開発する。
反応性の違いを事前に知る診断法を開発する。
この癌の別の治療法を開発する。
この癌の診断法の精度をあげる。
この癌の予防法を開発する。
この薬を薬事承認する・しない?
•
•
ある種類の癌の特効薬である。
この種類の癌は、平均余命6ヶ月である。
(他の治療法は無く、最短1ヶ月で死亡、最長でも1年を越える生存例は無い、とする)
PMDA 青谷裕文氏
•
•
•
•
使用すれば、50%の患者が直ちに全治する。
ただし、残りの50%の患者は直ちに死亡する。
この癌以外の癌、あるいは健康人に使用すると、全例直ちに死
亡する。
この癌との診断が正しい確率は90%である。
イレッサ(ゲフィチニブ)
手術不能又は再発した非小細胞肺癌に対する経口の分子標的薬の一種。製造・販売元:アストラゼネカ株式会社
•効果:本剤250mg/日の投与で
日本人:奏効率27.5%、病勢進行までの期間の中央値114日
外国人 :奏効率 9.6%、病勢進行までの期間の中央値 57日
(「イレッサ錠250」の添付文書 第9版より)
延命効果
第III相臨床試験で生存期間の延長は認められなかった。但し、東洋人及び喫煙歴のない患者には延命効果が
あることが示唆された。(試験期間は2003年7月15日~2004年8月2日。海外28ヶ国、1692例。日本は不参加)
•副作用
急性肺障害、間質性肺炎で死に至ることがある。また、下痢、発疹などが起こることが多い。
•「薬害」に関する議論
間質性肺炎を中心とした副作用死が多発したことに対して、「薬害」であるとして、危険な医薬品を製造・販売し
たとしてアストラゼネカの責任を問う論や、承認を行った厚生労働省の責任を問う論がある。また、承認取消や
使用制限を行うべきだという論もある。(2004年12月28日までの厚生労働省の集計によると、約86,800人の患
者に対して、588人が死亡している。)その一方、十分に注意して投与すれば他の抗癌剤と比較しても危険は少
なく、他抗癌剤が無効の場合でも劇的な効を奏することがあり、欠くことのできない重要なものであるという論も
ある。また、ある程度の危険性があったとしても、他に治療方法が無い場合にはリスクに関するインフォームド・コ
ンセントを十分に行った上で使わざるを得ないといった論がある。
フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)より一部改変
PMDA 青谷裕文氏
白黒では決められない薬の価値
百薬の長か中毒か?
誤ったイメージ
正しい理解
清水の舞台から飛び降りる
PMDA 青谷裕文氏
清水寺による古文書調査
清水の舞台から飛び降りる
•
背景:清水の舞台の高さは13メートル 。江戸時代に庶民の間で観音信仰が広まり、清水観音に命
を託し、飛び降りて助かれば願い事がかない、死んでも成仏できるという信仰から、飛び降り事件が
続いた 。明治五(1872)年、政府が飛び降り禁止令を出し、下火になったという。
•
目的:ことわざがなぜ生まれ、現実はどうだったのかを検討する
•
方法:清水寺塔頭の成就院が記録した文書「成就院日記」から、飛び降り事件に関する記述を抜き
出してまとめた後ろ向き調査
•
対象:江戸前期・元禄七(1694)年から幕末の元治元(1864)年のうち、記録が残っている148年
分の記録
•
結果:
1.
飛び降り事件は未遂も含め234件が発生した。年間平均は1.6件。記録のない時期も発生率
が同じと仮定すると、江戸時代全体では424件と推定される。
2.
男女比は7対3、
3.
年齢12歳~80歳代。10代、20代が約73パーセントを占めた。
4.
生存率は85.4パーセント。10代、20代に限れば
90パーセントを超す。60歳以上では6人全員が死亡している。
5.
京都の人が最も多いが、東は現在の福島や新潟、西は山口や
愛媛にまで及んでいる。
6.
生存者の願い事がかなったか、死亡者が成仏したかは不明である。
PMDA 青谷裕文氏
清水寺による古文書調査
ゼロリスク探求症候群
• ゼロリスク神話(リスクが無いと思いこむこと)
人間は、ある確率以下のリスクは無視して暮
らしている。
• ゼロリスク神話は平穏な日常生活に必要
• 何らかの理由でわずかなリスクを意識した場
合、科学的確率論とゼロリスク神話は軋轢を
生じる。→ゼロリスク探求症候群
許容できるリスクとは?
100万人に一人が死ぬリスク
–
–
–
–
–
–
–
–
650kmの航空機飛行
100kmの自動車旅行
紙巻きタバコ3/4本の喫煙
ロッククライミングを1.5分間続ける
60歳の人間が20分間過ごす
経口避妊薬を2.5週間飲む
ワインをボトル半分飲む
10ミリレムの放射線被曝
PMDA 青谷裕文氏
Pochin EE:
The acceptance of risk,
Brit.Med.Bull.1975:31;184-90
ゼロリスク探求症候群
ー自覚症状の欠如ー
リスクバランス欠如が引き起こす
社会問題を理解できない病気
• ハンセン病患者の隔離
• HIV患者,肝炎患者への差別
• BSE問題
薬と医療事故
•
•
•
•
•
•
•
薬の取り違え
別の患者さんへの投与
処方量の誤り(過量投与など)
投与経路の誤り(内服薬を静注!など)
患者さんの服薬の誤り(量、投与経路など)
小児が誤って服薬すること
内服の自己判断中止による禁断症状など
PMDA 青谷裕文氏
薬剤師と医療訴訟リスクの増加
•
•
•
•
•
医療訴訟自体の増加
医薬分業の広がり
代替調剤の普及
診療環境の複雑化
高リスク薬剤の増加
–リウマチ治療のための生物製剤
–分子標的抗がん剤
K大病院の事例(公開事故調査報告書より)
•
関節リウマチ(RA)でK大病院免疫・膠原病内科に通院中の患者さんが、下血を主訴に同
病院消化器内科に入院された。その際外来診療時から投薬されていたRAの治療メトトレキ
セートが誤って過量に投与され、骨髄抑制、肺炎を併発して死亡。
•
過量投与の経緯
免疫・膠原病内科外来での処方(1ヶ月分)は以下の通りであった。
『リウマトレックス(1カプセル2mg)、1日3カプセル、分3x4日分』
しかし実際には、患者さんと外来主治医の間では「リウマトレックス1日3カプセルを、週1回
のみ決まった曜日に服用する」ことについてお互いに了解がなされた上で上記の処方がおこ
なわれていた。
消化器内科に入院した際、担当となった病棟研修医は、家族が持参した外来で処方された薬
剤の与薬に際して、保険薬局で発行された「お薬説明書」を参考にしながら、上記の外来の
処方オーダーに基づいて、文字通りの処方を行った。
その結果、5日間(11回)連続して本剤が投与され、所期量の7倍の投与が行われる結果と
なった。
参考:添付文書上の用法・用量:
本剤1カプセル(メトトレキサートとして2mg)を初日から2日目にかけて12時間間隔で3回経口投
与し、残りの5日間は休薬する。これを1週間ごとに繰り返す。
K大病院の事例
どうしたら防げただろうか?
• 外来医が正確に処方オーダーを書いていれば?
• 入院時に薬剤師による服薬指導が行われていれ
ば?
(救急外来からの入院であったため服薬指導は行われなかった。)
• 病棟研修医が本剤の通常用法を知っていれば?
• 上級医が処方をチェックしていれば?
• 入院処方に関してチェックシステムが機能していれ
ば?
PMDA 青谷裕文氏
医療事故対策の大前提 その1
To err is
human.
(人間は誤りを犯すものである。)
PMDA 青谷裕文氏
医療事故対策の大前提 その2
Murphyの法則
“Everything that can possibly go wrong will
go wrong.”「うまく行かなくなりうるものは何
でも、うまく行かなくなる。」
米国オハイオ州デイトンのアメリカ合衆国空軍ライトフィールド基地内のライト航空研究所に勤
務していたエンジニアのEdward Aloysius Murphy Jr.大尉の名前を採ったとされる。
PMDA 青谷裕文氏
だから...必要となる考え方
•フェイルセーフ(fail safe)
なんらかの装置、システムが誤動作した場合、安全側に制御すること、またはそ
うなるような設計手法。
信号機は、故障した場合赤信号になるように設計されている。
•フールプルーフ(fool proof)
知識をもたない者が誤った使い方をしても事故にならないようにする仕組み
乳幼児が医薬品の蓋を開けて中身を飲み込むのを防ぐため、特定のボタンを押しながら回さないと
開かない蓋が考案された
•冗長デザイン(redundancy design)
システムの一部分が壊れたり機能しなくても、全体として安全を確保するシステ
ムデザイン
複数の人間がチェックする、複数のステップや部署で確認するなど
PMDA 青谷裕文氏
Media Relations &
Public Relations
医療の外の世界とのコミュニケーション
説明責任を果たしつつ
水戸黄門サイクルからの脱却から,
Media Literacyへ
あなたとリスク,私とリスク
•
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•
•
•
•
•
薬を開発するリスク
薬のリスク
誤って処方箋を書くリスク
誤って調剤するリスク
患者さんへ誤って説明をするリスク
患者さんが説明を誤解するリスク
患者さんが症状を誤解するリスク
医療事故の
人気の秘密
白衣の悪代官
をこらしめる
水戸黄門ごっこ
ー医療事故スキャンダル人気の秘
密ー
• 勧善懲悪
–国民が水戸黄門,悪代官は医者
• 視聴率が稼げる
• 制作費いらず
• 何回繰り返しても飽きない
何百回も繰り返される秘密
•
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•
•
•
•
自分が水戸黄門気取り
悪人を懲らしめていい気持ちになる
いい気持ちになっただけで満足する
自分の頭で考えなくなる
原因も対策も考えなくなる
また悪人が出てくる
白黒では決められない薬の価値
百薬の長か中毒か?
誤ったイメージ
正しい理解
医療事故があるなら報道事故も
•
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イレッサの例
批判精神のなさ
吟味能力のなさ
“専門家ではない”で逃げられるのか?
– “警察発表”そのままだったら新聞は要らない
対立構造を解く
市民
企業
メディア
行政
対立構造、Zero-sumゲームの解消
→Win/Win Approaches
売手善し、買手善し、世間善し
世界一の日本のシステムの数々
• 国民皆保険制度
• 地震・火山噴火情報
• 交通(自動車,鉄道運行)
• 郵便・宅配便
日本の薬学はキセル乗車
臨床現場
キセルの写真
基礎研究
Nature, Scienceと現場をつなぐ仕事=PMDAにも薬剤師を !!