明治大学情報科学センター編 人間と情報 情報化社会を生き抜くために(3) 1 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 目次 第3章 情報の操作と合理化 1. 誤解を利用する 2. マスメディアにおける情報操作 3. 広告に現れる情報操作 4. サブリミナル広告 5. 現代は洗脳社会 6. 私たちの記憶 7. 目撃証言は作られる 8. 合理化 -気づかない心の動き 9. 認知的不協和 10. 心の安定を求めて 11. 心の社会 12. 物語の役割 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 2 第3章 情報の操作と合理化 3 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 誤解を利用する 情報の意味を見通すには状況や文脈を背景とする 意図を推し量る必要がある →情報の送り手に関する知識の総動員が必要 情報の誤解を逆に利用することがある 情報の操作 情報の送り手が情報の提示形式を工夫し、 受け手に特定の行動をとらせようと意図するもの 情報の合理化 情報の受け手が自分に都合の良いように解釈 4 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. マスメディアにおける情報操作 カンフー映画:ジャッキーチェンの妙技 一連のアクションの収録にどれだけの時間を要したか? 1カットごとに数十回のNGが繰り返されている 我々は妙技が演出と心のどこかで知っている テレビのバラエティー番組 人気の芸能人が司会者の誘いでテンポよく語る 意外な芸能人がユーモアやウィットにたけていると感心 番組の進行は放送作家によって細部まで台本がある 芸能人はそのせりふを自分が思いついたように語る あとで「放送作家」の存在をしり「やらせ」と憤慨する →視聴率維持には「演出」の存在を気づかせないこと 情報の送り手(番組制作者)は受け手(視聴者)の誤解を 予想して情報提示の方法を工夫し、視聴率の維持などの 5 意図を達成している=情報操作の一例 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 広告に現れる情報操作 広告: (作り手の意図が意識されないのが望ましい) マスメディアにおいて情報操作が典型的に現れる 広告スポンサー マスメディアの機能を経済的に支える 消費者の購買活動操作の手段としてマスメディアを積極的に利用 テレビCM:商品の購買促進が最終的な主目的 タイアップ広告: (雑誌にもある) 番組制作者が広告スポンサーと組んで番組の内容に広告の要素 を入れ、広告効果を向上させる ドラマの盛り上がったシーンで俳優が食べる食べ物 主人公の女優が身に付けているもの(流行を狙って開発した商品) 記事広告: (雑誌・新聞) スポンサー自身が記事の形で広告を作成する 「○○スポーツ店では開店10周年記念セールを開催中」 客観的報道を装って広告内容の信憑性をあげる 6 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. サブリミナル広告 情報操作のより衝撃的な例 映画・テレビ放送:1秒間に数十コマの静止画を連続投影 この中に1コマのみ他とまったくかわった画像を挿入 挿入されたコマの画像は意識的にはわからない 心の中に潜在的な印象は残る アメリカの映画館でコーラとポップコーンのカットを挿入 休憩時間中のコーラとポップコーンの売上が上がった (商品を買わせる強制力はないが、広告としての一定効果はある) サブリミナルカットの仕組み:意識と潜在意識の情報的分離 サブリミナル情報は潜在意識のレベルでとらえられる (意識レベルには伝達されない) 商品に出会ったとき潜在意識が情報を意識にもたらす 「知っている」=既知感、「好ましい」=近親感 「商品の情報が自己の内部から込み上げてきた」錯覚7 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 印刷物のサブリミナル広告 雑誌やポスター:社会的タブーに関するモチーフ 女性器に似せてクリームを描きこんだケーキの広告 男性器に似せて水滴を描きこんだウィスキーの広告 デスマスクなどの死を連想させる画像 SEX、KILL、DEADなどの文字を広告に埋め込む 意識と潜在意識の情報的分離 社会的タブーといわれるものを目の当たりにしたとき、 「見てはいけない」という「心理的な抑圧の機構」が働く 広告情報自体は失われる→「広告は見なかった」ことになる 実際の商品にであったとき、 「知っている」=既知感、「好ましい」=近親感 「商品の情報が自己の内部から込み上げてきた」錯覚 ★情報操作が自由や責任の観念に重大な脅威を及ぼし得 ることの典型事例 8 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 現代は洗脳社会 • 巧妙な情報操作:受けての行動を直接的に指示しない (自律した人間は直接的支持に従うべきでないと思う) 「必然的に気づかせる仕掛け」になっている • 意思決定にかかわる偏った情報を提供し、最終的な決 定は情報の受け手に任せる • • 商品イメージを繰り返し強調し商品のよさは解説しない 高級洋装専門店で商品のレイアウトを工夫し、最新流行が 自然と客に理解されるようにする • 「洗脳」と呼べる強力な結果をもたらす 「勧誘に従って行動した」と自覚すれば従うのをやめられる 「自分の意志」で自己決定すると変更が困難 行動基準の変更は「自己否定」の恐怖につながる ★「自律的に行動する主体であれ」という暗黙のおきてが 9 「逆説的に」洗脳を許すことになる All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 私たちの記憶 •情報操作に対抗:記憶の特徴についての理解が必要 サブリミナル広告:商品情報が広告によって提示された ことが記憶から失われていないと効果がない •記憶:コンピュータの記憶のように確実なものではない ★現実の問題に対応可能な程度に柔軟 ある程度忘れられるので変化する現実に首尾よく対応 文明の発達→多くの事実の確実な記憶が必要となる 文明社会の要請に見合う進化が人間に期待できない •記憶は古くからの人間の生活にちょうどよいくらいに 「限界があり」、「不確実」 ★記憶能力と文明社会の要請との齟齬に起因する問題 10 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 目撃証言は作られる 記憶の修飾 • 交通事故の映画の実験(実際の内容と記憶の内容) 「車が激突したときどのくらいのスピードで走っていたか」 「車がぶつかったとき・・・」 「車のガラスは割れて飛び散っていましたか」 「激突」したのだからスピードも出ていたしガラスも割れていて当然 であろう→「記憶の修飾」 •講義中の「サクラ」による事件を起こして学生に目撃 (もみ合いからピストルが暴発し教授が撃たれる) 学生の報告内容はまちまち、実際には起こらなかったことも報告、 確信をもっているものも事実と食い違う・・・ 日常的でない事態:興奮した心理状態、記憶が維持困難 記憶を振り返ると、推測によってありそうな内容に脚色される ★目撃証言だけの立件→冤罪の危険 確信があっても記憶を多少なりとも疑う余地を残しておく必要 11 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 合理化 -気づかない心の動き •合理化:情報の受け手が情報の内容を自分に都合が よいように解釈する 積極的心の動き •「後催眠暗示」:催眠から覚醒しても持続する暗示 •「催眠からさめても私が手をたたくとあなたは立ち上が って窓を開けます」 -「なぜ窓をあけたのか」 -「暑いから」「部屋の空気がよどんでいる気がした」 被験者は暗示の内容について自覚していない 意識と潜在意識の情報的分離 意識:自分が窓空けの行動をとったことは知っている それが潜在意識に植え付けられた暗示とはしらない 自分の行動の理由をしらないという事態に直面し、当惑 12 して「それらしい理由」を作り出す All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 認知的不協和 • 合理化:都合のよいものをつくりだすだけでなく 記憶を作り変えてしまう場合が存在 • フェスティンガー「不当な報酬」の実験 • つらい仕事:不当な安い報酬→楽だった 妥当な高い報酬→つらかった 「退屈で面倒な仕事」と「仕事に見合わない報酬をもらった」記憶 が不快な緊張状態をもたらす→解消 報酬額の記憶(外的事実)は変更できないので退屈で面倒だった という内的印象が変更される • 面白い仕事:妥当な安い報酬→面白かった 不当な高い報酬→たいへんだった 「仕事が面白い」という印象が高い報酬に相応しい「大変な仕事」 という印象に変更される • 入会儀礼効果: 団体への入会は困難なほど、活動内容が楽しいと感じる 13 • 報酬付の勉強:あれだけもらえるのだから勉強はつらいものだ All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 心の安定を求めて •合理化の仕組み:イソップのキツネの「酸っぱいブドウ」 悔しさのあまりの負け惜しみか? 広く人間の心に備わっている基本機能でもある •将来を予測し、事前に対処する行動 •エールリッヒの新車購入者の調査: 新車を購入したばかりの人はその商品に関する広告を多く見て ライバル商品の広告を見ない 買わなかった商品は買った物より悪いものでなければならない 買ったばかりの商品の広告を見て積極的に安心を得ようとする 合理化:情報にまつわる誤解を生む 情報操作に利用されるスキを提供する ★しかし合理化の仕組みを否定的に捉えるべきではない 人間の心の安定化に重要な役割をしめている 14 人間=「理由付けをするサル」、合理化の存在の自覚 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 心の社会 •合理化を認める: 自分の心の中に自分でも知りえない部分があると認める 我々は自分の心の動きの大部分を知らない 自己:互いに十分知り合えない多くの機の部分から構成 •マービン・ミンスキー 「心の社会」 ある問題を解こうとしていたらあきて眠くなってしまった ライバル教授がその問題を解きかかっていると想像 ライバル意識でしばらくの間、問題をときつづける 問題を解くという機能部分が眠りの機能部分に邪魔される ライバル意識を刺激する物語を作成する 怒りの機能部分を起動することで眠りの機能部分を排斥 -問題を解く機能部分では眠りの機能部分を排斥不可 -物語を作成しないと怒りの機能部分は起動できない ★意識している部分:数々の機能部分の調整役 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 15 物語の役割-巧妙な物語が心の安定性を維持- •心の社会の「政策」=「物語」 昨日の自分と今日の自分は同じ自分であるという一貫性 自分はこうした人間であるという自己像 →自分自身で作り上げた物語に依存している 我々は「自分自身についての歴史作家」 •自分自身、自分の物語の虚構性に気づいている 広告であると認識していても広告の効果がある 虚構とわかっても、あえて「物語」として受け入れる •外界に対処する物語が破壊=自己の喪失 ・物語は頑強な構造が必要 ・外界に適応する柔軟性 ★「信頼の二重構造」をつくる 信頼おける存在を中心に/信頼のおけない存在を周縁に 物語の維持に不都合な事柄は暫定的に周縁に押しやり 中心の秩序を一時的に守る ・「あなた、おかしな服着てるわね」 16 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo.
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