第 11 章 3次元回転群とそのリー代数 - So-net

第 11 章
11.1
3次元回転群とそのリー代数
SO(3)のリー代数
10.4 節でリー代数を定義したが、以下にその定義を再録する。なお、多くの教科
書に従って本章以降は、 exp(t A) の代わりに exp(t X) と書くこととする。
定義 10.4.1
exp(t X)
となる X
Gをn次の線型リー群とすると、任意の実数tに対して
G
gl (n, C) の全体をGのリー代数(またはリー環)という。
例えば、 exp(t X) がn次の特殊直交群 SO(n) の元であれば、それに対応する X の集
合をリー代数 so(n) という。 so(n) の場合は(10.4.4a)式より、 t X X 0 および
Tr X 0 となる。次に、 exp(t X) がn次の特殊ユニタリー群 SU (n) の元であれば、そ
れに対応する X の集合をリー代数 su (n) という。 su (n) の場合は(10.4.9)式より、
X
X 0 および Tr X 0 となる。
先ず、三次元回転群 SO(3) のリー代数 so(3) を考える。図 9.3.1 において、X-軸、
Y-軸、および Z-軸方向の単位ベクトルをそれぞれ e 1 、 e 2 、および e 3 と記載すること
とした。説明の都合上本章では、X-軸、Y-軸、および Z-軸を第1軸、第2軸、およ
び第3軸と呼ぶこととする。ベクトルxを第1軸、第2軸、および第3軸から見た
回転前の座標を x1 , x 2 , x3 とし、回転後の座標を x1 ' , x 2 ' , x3 ' とする。
x1 , x 2 , x3 と x1 ' , x 2 ' , x3 ' との関係は、(9.3.2)式を用いて次のようになる。
x1 '
x1
x2 '
x3 '
R x2
x3
(9.3.2) = (11.1.1)
ここで、変換行列Rは(9.3.3)式を用いて表される。
第3軸を回転軸とする角度θの回転を R 3 ( ) と書くと、(2.3.10)式より
x1 '
x2 '
x3 '
x1
R 3 ( ) x2 , R 3 ( )
x3
cos
sin
0
sin
0
cos
0
0
1
(11.1.2)
となる。リー代数 so(3) を求めるために
R3 ( )
exp( X 3 )
(11.1.3)
となるような3x3行列 X3 を求めてみよう。
(11.1.3)式の左辺をθで展開すると、次式が得られる。
R3 ( )
cos
sin
0
1 0 0
0
sin
0
cos
0
0
1
0 1 0
0 0 1
1
0
1 0
0
0
0
0
(11.1.3)式の右辺をθで展開すると、次式が得られる。
1
(11.1.4)
exp( X 3 )
E
X3
(11.1.5)
となるので、無限小変換 X3 としては次式が得られる。
0
X3
1 0
1
0
0
0
0
0
(11.1.6)
上式で得られた X3 が(11.1.3)式を満足しているかを調べてみよう。 X3 に関して
は、次式が成立することを計算することができる。
1 0 0
X3
2n
X3
2n 1
1
n
0 1 0 , n 1, 2, 3,
0 0 0
(11.1.7a)
n
1 X 3 , n 1, 2, 3,
(11.1.7b)
従って、(11.1.3)式の右辺は次のようになる。
2n
exp( X 3 )
n 0
X3
2n !
2n 1
X3
2n 1 !
n 0
1 0 0
n
1 2n
0 1 0
2n !
0 0 0
n 0
1 0 0
cos
0 1 0
0 0 0
n 0
0
sin
cos
sin
0
sin
0
cos
0
0
1
0
n 2n 1
1
1
2n 1 !
0
1
0
1 0
0
0
1 0
0
0
0
0
0 0 0
0 0 0
0 0 1
0 0 0
0
0
0 0 0
0 0 1
(11.1.8)
上式により、 X3 が(11.1.3)式を満足していることが証明できた。
同様にして、第1軸を回転軸とする角度θの回転を R 1 ( ) と書き、第2軸を回転
軸とする角度θの回転を R 2 ( ) と書くと、次式が成立する。
R1 ( )
R2( )
exp( X1 ), X1
exp( X 2 ), X 2
0 0
0
0 0
0 1
1
0
0
0 1
(11.1.9a)
0 0 0
1 0 0
(11.1.9b)
上式が成立することは、(11.1.4)式と同様にして R 1 ( ) と R 2 ( ) をθで展開すると、
2
1
R1 ( )
0
0
1 0 0
0 0
0
sin
cos
0 1 0
0 0 1
0 0
0 1
1
0
cos
0 sin
1 0 0
0
0
sin
1
0
0 cos
0 1 0
0 0 1
0 0 0
1 0 0
0 cos
0 sin
R2( )
(11.1.10a)
0 1
(11.1.10b)
となることにより理解できる。
問題 11.1.1
(11.1.9a)式および(11.1.9b)式が成立することを証明せよ。
リー代数 so(3) では、(10.4.4a)式より t X X 0 および Tr X 0 となる必要がある。
このような X の一般形は実数のパラメーター 1 , 2 , 3 を用いて次式のようになる。
0
X
3
3
2
0
2
(11.1.12)
1
0
1
従って、「リー代数 so(n) の総ての元 X は X i (i 1, 2, 3) を基底とする一次結合で表
される」ことが次式を見れば了解できる。
3
X
1
X1
2
X2
3
X3
i
Xi
(11.1.13)
i 1
上式より、無限小変換 Xi が与えられたとき SO(3) の任意の元は3ケのパラメーター
3
1,
2,
3
によって exp
i
X i と与えられる。 Xi は3次元回転を生成するので、群
i 1
SO(3) の生成子と呼ばれている。 Xi に対しては、次の交換関係が成立することが容
易に確かめられる。
X1 , X 2
問題 11.1.2
X3 ,
X 2 , X3
X1 ,
X 3 , X1
X2
(11.1.14)
(11.1.14)式を証明せよ。
上の記載を拡張して、リー代数の一般的な定義を次のように述べることができる。
定義 11.1.1 線形リー群の元である行列の独立成分をnとすると、nケの実数パラ
メーター i (i 1, , n) に対応してnケの独立な無限小変換 Xi がある。これら Xi の張
るベクトル空間を線形リー群のリー代数(またはリー環)と呼ぶ。またnをリー代
数の次元と呼ぶ。
なお、 Xi の張るベクトルの一般形は
n
i
X i で与えられる。
i 1
11.2
SU(2)の表現
本節では、2次元特殊ユニタリー群 SU (2) の色々な性質を解説する。表 10.1.1 か
ら、 SU (2) の元Uは次の条件を満たすことが必要である。
U U
E n , det U 1
(11.2.1)
3
(11.2.1)式の条件を満たす行列 U の一般形は次式のようになる。
U
2
,
ここで、
と
1
(11.2.2)
は複素数で、それらの複素共役を
と
と書く。
(11.2.2)式で与えられた U が(11.2.1)式の条件を満たすことを示せ。
問題 11.2.1
(11.2.2)式において、 xi (i 1,2,3,4) を実数とすると
と
は次式で表される。
x4
i x3
(11.2.3a)
x2
i x1
(11.2.3b)
2
そうすると、
x12
x 22
1 の条件は次式で表される。
x32
x 42
1
(11.2.4)
xi (i 1,2,3,4) を使うと U は次式で表すことができる。
x 4 i x3
x 2 i x1
U
x2
x4
i x1
i x3
i x1 σ 1
i x2 σ 2
i x3 σ 3
x4 σ 4
(11.2.5)
ここで、 σ i (i 1,2,3) は次式で定義されるパウリ行列で、 σ 4 は単位行列Eである。
σ1
0 1
, σ2
1 0
0
i
i
, σ3
0
1
0
0
, σ4
1
1 0
0 1
(11.2.6)
(11.2.6)式を用いると、次のようなパウリ行列の性質が確かめられる。
(a) σ 1
2
σ2
2
(b) σ 1 σ 2
σ3
σ 2 σ1
2
E
(11.2.9a)
i σ3, σ2 σ3
σ3 σ2
i σ , σ 3 σ1
σ1 σ 3
iσ2
(11.2.9b)
(c) σ 1 σ 2 σ 3
(d) det σ 1
問題 11.2.2
iE
det σ 2
(11.2.9c)
det σ 3
1
(11.2.9d)
(11.2.9)式で与えられたパウリ行列の性質を証明せよ。
また、 ( σ 1 , σ 2 , σ 3 ) を3次元ベクトルにように σ と書くと、3次元ベクトル
a
( a1 , a 2 , a 3 ) との成分ごとの積の和を通常のベクトルの内積のように
σ, a
σ 1a1
σ 2 a2
σ 3 a3
(11.2.10)
と表すことができる。
パウリ行列の性質(b)より、
パウリ行列の交換子積は次のようになる。
3
σ j ,σk
2i
jk
σ
(11.2.11)
1
ここで、 A, B
jk
sgn
AB BA であり、
1
jk
は次式で定義される定数である。
2 3
(11.2.12)
j k
4
具体的に、
の値は次のようになる。
jk
12 3
2 31
31 2
2 13
13 2
3 21
11 2
12 1
2 11
問題 11.2.3
1
(11.2.13a)
1
(11.2.13b)
0, etc.
(11.2.13c)
(11.2.11)式を証明せよ。
次に、スピン回転の生成子 s j を次式で定義する。
1
σj
2
sj
定義 11.2.1
(11.2.14)
(11.2.14)式の定義と(11.2.11)式の関係を用いると、次式が得られる。
3
s j ,sk
i
jk
s
(11.2.15)
1
解説[Ⅰ]の2章において、3次元回転の生成子 j x , j y , j z を次のように定義した。
jx
i y
jy
i z
jz
i x
z
z
x
x
(2.2.13b)
z
y
y
(2.2.13a)
y
i
x
(2.2.11)
j x , j y , j z の間には、次の交換関係が成立する。
[ jx , j y ]
i jz , [ j y , jz ]
i jx , [ jz , jx ]
i jy
(2.2.14)
(11.2.15)式の交換関係は、(2.2.14)式の交換関係と全く同じである。ここに、
SO(3) と SU (2) との接点が見えてくる。
次の例題で、パウリ行列と重要な性質を学習しよう。
例題 11.2.1 2x2複素行列のつくる四次元複素ベクトル空間において、パウリの
行列 σ i (i 1,2,3) と σ 4 は1次独立な直交基底を作っている。
証明
1次独立性は
c1σ 1
の解が c1
c2 σ 2
c2
左辺 c1
c3σ 3
c3
c4 σ 4
c4
0 1
1 0
0
(2.2.15)
0 となることを示せばよい。(2.2.15)式の左辺は
0
i
c2
i
0
c3
1
0
0
1
c4
となるので、左辺がゼロ行列になるためには c1
c3 c 4
c1 ic 2
1 0
0 1
c2
c3
c4
c1 ic 2
c3 c 4
(2.2.16)
0 でなければならない。
2x2行列の作るベクトルにおける内積 ( A, B) は次式で定義されている。
2
定義 11.2.2
( A, B )
ai j bi j
(2.2.17)
i, j 1
5
(2.2.17)式の内積の定義を用いると、次式が得られる。
(σ , σ )
2
,
,
1, 2, 3, 4
(2.2.18)
(2.2.18)式より、 σ i (i 1,2,3) と σ 4 の直交性が証明された。証明終
なお、(2.2.18)式の右辺には係数2が付いている。従って、 σ i (i 1,2,3) と σ 4 は規
格直交とは言えない。(11.2.14)式のスピン行列を用いると、規格直交性を持つ。
例題 11.2.1 より、任意の2x2複素行列 A は次のように展開できる。
4
A
a σ
(2.2.19)
1
σ と(2.2.19)式の左辺との内積を取ると、次式が得られる。
2
(σ , A)
2
i j ai j
i, j 1
上式で、
ji
2
j i ai j
(σ A) j
i, j 1
Tr (σ A)
(2.2.20)
j 1
は σ の ji-要素を表した。 σ と(2.2.19)式の右辺との内積を取ると、次
式が得られる。
4
4
σ ,
4
aσ
1
a (σ , σ )
1
a 2
2a
(2.2.21)
1
(2.2.20)式と(2.2.21)式より、展開係数 a が次式のように求めることができる。
a
1
Tr (σ A)
2
(2.2.22)
(2.2.22)式の両辺の複素共役を取ると、次式が得られる。
a
1
Tr (σ A)
2
1
Tr (σ A)
2
1
Tr ( A σ
2
)
1
Tr (σ A )
2
(2.2.23)
(2.2.22)式と(2.2.23)式より、 a は一般に複素数であることが分かる。
特別な場合として、 A がエルミート行列だとすると A
a
1
Tr (σ A )
2
1
Tr (σ A)
2
A となる。この場合
a
となるので、 a は実数となる。これは、2x2エルミート行列の全体が四次元実ベ
クトル空間を作ることに対応している。
更に、 A が TrA
a4
1
Tr (σ 4 A)
2
0 のエルミート行列の場合は、(2.2.22)式より次式が得られる。
1
Tr (E A)
2
1
Tr ( A)
2
0
上式より、この場合は a4 は恒等的にゼロになることを示している。従って、トレー
スがゼロの2x2エルミート行列の全体が三次元実ベクトル空間を形成することに
対応している。
6
11.3
SU(2)行列と三次元実ベクトルの回転
前節の最後に、「トレースがゼロの2x2エルミート行列の全体が三次元実ベク
ト ル 空 間 を 形 成 す る こ と に 対 応 し て い る 」 こ と を 説 明 し た 。 三 次 元 直 交 座標
x1 , x 2 , x3 から、次の行列を用意する。
X
x3
x1 ix 2
x1
ix 2
x3
(11.3.1)
この行列 X は、トレースがゼロの2x2エルミート行列 X
を使うと、行列 X は次式で表される。
X x1 σ 1
x2 σ 2
X である。パウリ行列
x3 σ 3
(11.3.2)
また、 X の行列式は次のようになる。
det X
( x1
2
x2
2
2
x3 )
(11.3.3)
上式より、 X の行列式は三次元回転で不変な内積(原点からの距離の2乗)で表さ
れることが分かる。
この行列 X に対して、 SU (2) 行列 U によるユニタリー変換を考える。
X' U X U
(11.3.4)
上式を用いると、 X' には次のような性質があることが分かる。
( X' )
(U X U )
UX U
Tr X' Tr( U X U )
UXU
Tr( X U U)
Tr X
X'
(11.3.5a)
0
(11.3.5b)
上式より、 X' もまたトレースがゼロの2x2エルミート行列である。
従って、行列 X' も行列 X と同様に次のように表すことができる。
X'
x3 '
x1 ' ix 2 '
x1 ' ix 2 '
x3 '
(11.3.6)
上式を用いると、 X' の行列式は次のようになる。
det X'
( x1 ' 2
x2 ' 2
x3 ' 2 )
(11.3.7)
一方、
( det U )(det X)(det U 1 )
det X' det(U X U )
det X
(11.3.8)
なので、ユニタリー変換 U は原点からの距離の2乗を不変に保つことが分かった。
x1 ' 2
x2 ' 2
x3 ' 2
x1
2
x2
2
x3
2
(11.3.9)
これは、三次元空間の直交変換と同じ性質である。
そこで、三次元の回転行列 R と SU (2) 行列 U の働きを比べてみよう。まず、回転
行列 R (1) によりベクトルxをx’に写す。この操作を、次式で表わす。
x' R (1) x
(11.3.10)
ここで、下付き添字(1)は「第1回目の回転を施す」の意味である。第2回目以
降の回転も、 R ( 2) などと記載する。
7
さらに、 R ( 2) で回転して、x’をx”に写す。
x" R ( 2 ) x'
(11.3.11)
そうすると、x”とxは回転 R (3)
x" R ( 2 ) x' R ( 2) R (1) x
R ( 2) R (1) で結ばれている。
R ( 3) x
(11.3.12)
ここで、 x
X, x' X' と対応させると、(11.3.10)式に対応して(11.3.4)式型
の変換を考えることができる。
X' U (1) X U (1)
次に、 x"
(11.3.13)
X" と対応させると、
X" U ( 2) X' U ( 2 )
(11.3.14)
となる。(11.3.14)式に(11.3.13)式を代入すると、次式が得られる。
X" U ( 2 ) U (1) X U (1) U ( 2)
上式で、 U ( 3)
U ( 2 ) U (1) X U ( 2 ) U (1)
U ( 3) X U ( 3 )
(11.3.15)
U ( 2) U (1) である。
(11.3.12)式と(11.3.15)式を比較すると、2回続けて行ったベクトルの回転で現
れる変換行列のかたちが、 R ( )
U ( ) , ( 1, 2, 3) の対応のもとで同じかたちになっ
ていることが分かる。このことを、 SO(3) 行列 R と SU (2) 行列 U はその積に関して
準同型であると呼ぶ。
三次元の回転行列 R で、直交座標系の各座標軸まわりの回転を復習してみよう。
(11.1.2)式より、第3軸を回転軸とする角度θの回転を R 3 ( ) と書くと、
x1 '
x1
x2 '
x3 '
R 3 ( ) x2 , R 3 ( )
x3
cos
sin
0
sin
0
cos
0
0
1
(11.1.2)=(11.3.16)
となる。上式において、次のように書き換える。
x
x1
i x2
(11.3.17)
そうすると、(11.3.16)式の回転は次式で表すことができる。
x ' x1 ' i x 2 ' (cos
i sin ) x1
i(cos
i sin ) x 2
exp( i ) x
x3 ' x 3
(11.3.18a)
(11.3.18b)
(11.3.18a,b)式を再現するような SU (2) 行列によるユニタリー変換 U 3 ( ) を求め
ると、次式が得られる。
U3 ( )
exp( i / 2)
0
0
exp(i / 2)
(11.3.19)
実際、(11.3.19) 式を用いて(11.3.4)式の右辺を計算すると次式が得られる。
U3 ( ) X U3 ( )
exp( i / 2)
0
0
exp(i / 2)
8
x3
x
x
x3
exp(i / 2)
0
0
exp( i / 2)
x3
exp(i ) x
exp( i ) x
x3
x3 '
x '
x '
x3 '
X'
(11.3.20)
(11.3.20)式は、(11.3.18a,b)式を満足している。
なお、(11.3.19)式の右辺は σ 3 を用いて次のように書き直すことができる。
U3 ( )
例題 11.3.1
exp
i /2
0
0
i /2
行列 U j ( )
exp
1
2 0
i
exp( i σ j / 2), ( j
0
1
exp( i σ 3 / 2)
(11.3.21)
1, 2, 3) は SU (2) 行列であり、j-軸まわ
りの角度θの回転を与える。
証明
行列 i σ j ( j
1, 2, 3) はトレースがゼロの反エルミート行列であるので、定義
10.4.1 より U j ( ) は SU (2) 行列であることが分かる。 U 3 ( ) が第3軸を回転軸とす
る角度θの回転を表すことは、上で証明した。次に、 U 2 ( ) が第2軸を回転軸とす
る角度θの回転を表すことを証明しよう。 U 2 ( ) は次のように変形できる。
cos
U2 ( )
exp( i σ 2 / 2)
sin
sin
2
cos
2
2
(11.3.22)
2
上式を用いて U 2 ( ) X U 2 ( ) を計算すると、次のようになる。
cos
U2 ( ) X U2 ( )
sin
sin x1 cos x 2
cos x1 sin x3 i x 2
sin
2
cos
2
x3
x
2
x
x3
2
cos x1 sin x3 i x 2
sin x1 cos x 2
cos
2
sin
2
sin
cos
2
2
x3 '
x1 ' i x 2 '
x1 ' i x 2 '
x3 '
(11.3.23)
(11.3.23)式を用いて、各成分ごとに比べると次式がえられる。
x1 '
x2 '
x3 '
cos x1
sin x3
cos
0 sin
x1
0
sin
1
0
0 cos
x2
x3
x2
sin x1
cos x3
(11.3.24)
上式は、第2軸を回転軸とする角度θの回転を再現している。同様にして
cos
U1 ( )
exp( i σ 1 / 2)
i sin
2
i sin
cos
2
2
(11.3.25)
2
は第1軸を回転軸とする角度θの回転を表すことが証明できる。証明終
例題 11.3.1 より、次式が得られる。
Uj( )
cos σ 4
2
i sin σ j , ( j
2
1, 2, 3 )
9
(11.3.26)
問題 11.3.1 (11.3.25)式の U1 ( ) が第1軸を回転軸とする角度θの回転を表すこと
を証明せよ。
問題 11.3.2
(11.3.26)式を証明せよ。
例題 11.3.1 より、 U j ( ) がリー群 SU (2) の元であることが分かる。その指数関数
の肩にある σ j / 2 i, ( j
1, 2, 3) は、(11.2.11)式より次の交換関係を満足しているこ
とを示すことができる。
1
1
σ1 , σ 2
2i
2i
1
σ3,
2i
1
1
σ2 , σ3
2i
2i
1
σ1 ,
2i
1
1
σ 3 , σ1
2i
2i
1
σ2
2i
(11.3.27)
(11.3.27)式は(11.1.14)式と同じ交換関係を示しているので、「 σ j / 2 i, ( j
1, 2, 3)
は su (2) のリー代数を満足している」ことが分かる。
以上の結果より、任意の三次元回転をオイラー角で表した(2.4.7)式
exp( i
R( , , )
j Z ) exp( i
jY ) exp
i
jZ
(2.4.7)=(11.3.28)
に対応する SU (2) 行列は次式で表されることが分かる。
U( , , )
例題 11.3.2
U 3 ( )U 2 ( )U 3 ( )
(11.3.29)
(11.3.28)式の右辺を計算して
U( , , )
(11.3.30)
を求めると、 , , , が SU (2) の条件
,
2
,
2
1
(11.3.31)
を満たすことを示せ。
証明
(11.3.29)式の右辺に、(11.3.19)式と(11.3.22)式を代入すると、
U( , , )
exp( i (
exp(i (
cos
exp( i / 2)
0
2
0
exp(i / 2) sin
2
) / 2) cos
) / 2) sin
exp( i (
2
exp(i (
2
sin
cos
exp( i / 2)
0
0
exp(i / 2)
2
) / 2) sin
) / 2) cos
2
2
(11.3.32)
2
となる。(なお、(11.3.32)式の最後の項は多くのリー代数の教科書に記載されてい
る。しかし、文献[5]の p.129 には少し違う数式が記載されている。この相違は、文
献[5]における三次元回転とオイラー角の記述手法が他の多くの教科書と違う所が原
因である。この分野ではこのような教科書上の記述手法に相違があり、学生が勉強
する時に混乱をまねいている。)
(11.3.32)式の結果より、
exp(i (
) / 2) cos
と
と
2
2
とを計算してみよう。
(11.3.33a)
2
10
exp(i (
2
2
) / 2) sin
cos 2
2
(11.3.33b)
2
sin 2
2
1
(11.3.33c)
上式より、(11.3.32) 式の結果は(11.3.31)式の条件を満足していることが分かる。
証明終
11.4
SO(3)と SU(2)との関係
前節では三次元の回転を表す行列として、 SO(3) 行列 R と SU (2) 行列 U の働きを
調べた。第 j-軸 ( j 1, 2, 3 ) まわりの回転に対応する SU (2) 行列 U j ( ) は角度θについ
ては例題 11.3.1 に示すように、θ/2 のかたちで依存している。これは SO(3) 行列
R j ( ) のθ依存性とは対照的である。 R j ( ) に
2 を代入すると、(11.3.16)式の
例から分かるように元に戻って単位行列になる。
1 0 0
R j (2 )
0 1 0
0 0 1
一方、 U j ( ) に
U j (2 )
(11.4.1)
2 を代入すると、(11.3.26)式から
cos σ 4
i sin σ j
1
0
0
1
(11.4.2)
となる。(11.4.2)式の最後の項は、(-1)x(単位行列)となっており、
(11.4.1)式の右辺のような単位行列になっていない。
(11.4.2)式の行列は SU (2) では重要なので、次式のように K と名前を付ける。
K
1
0
0
1
(11.4.3)
U j ( ) において、さらに 2 回転すると
U j (2 )U j (2 )
U j (4 )
1 0
0 1
(11.4.4)
となり単位行列を得る。従って、 U j ( ) において角度 (
Uj(
2 )
U j (2 )U j ( )
KUj( )
Uj( )
2 ) の回転を行うと、
(11.4.5)
が成り立っている。
SO(3) の R j ( ), (0
2 ) による三次元ベクトルxの回転を考えた場合、
(11.3.10)式より次式のように変換される。
x' R j ( ) x
(11.4.6)
これに対応する SU (2) のユニタリー変換に対しては、(11.3.4)式より次の2通りが
考えられる。
11
X' U j ( ) X U j ( ) , X' (K U j ( ) ) X(K U j ( ))
(11.4.7)
このことは、 SO(3) 行列 R j ( ) には U j ( ) のみならず、 K U j ( ) も対応することを意
味する。
11.5
SU(2)とスピノル
文献[1]や文献[12]を参考にして、三次元回転を(11.1.1)式とは別の方法で記述し
てみよう。なお、本節では座標系として、xyz-直交座標軸系を用いる。次頁の図
11.5.1 に示すように、半径1の球がその中心が xyz-座標軸系の原点Oと一致するよ
うに置かれているとする。球面上の点Pの座標を ( x, y, z ) とし、点Pと球の南極点S
とを結ぶ。Sの座標は (0, 0, 1) である。
図 11.5.1 の x-y 平面を複素平面と見なし、直線PSが x-y 平面と交わる交点ζを
( x, y, z ) と対応させる。この対応では、半径1の球面の北半球上の点は、x-y 平面の
原点を中心とする半径1の円の内部に対応する。南北半球上の点はその円の外部に
対応する。具体的に、x,y,z をζで表せば次式が得られる。
2
x iy
z
1
2
1
2
問題 11.5.1
(11.5.1a)
2
1
(11.5.1b)
(11.5.1)式を証明せよ。
図 11.5.1 と(11.5.1)式とを見比べると、点Pが南極点Sと一致している場合は点
Sは
という無限遠点に対応している。無限遠点を除外して考えるならば、南
極点Sだけは対応する複素数がない。そこで、
/ とおいて、複素数 , を導入
する。そうすると、(11.5.1)式は次のように書き換えることができる。
*
x
y
1
i
(11.5.2a)
2
*
*
2
(11.5.2b)
2
2
x iy
z
*
2
2
2
2
2
2
上式のようにすれば、南極点Sは
問題 11.5.2
(11.5.2c)
2
(11.5.2d)
0,
0 に対応している。
(11.5.2)式を証明せよ。
12
P
O
S
図 11.5.1 Oを原点とする直交座標系(xyz-座標系)において、半径1の球がその
中心が xyz-座標軸系の原点Oと一致するように置かれているとする。球面上の点P
の座標を ( x, y, z ) とし、点Pと球の南極Sとを結ぶ。(文献[12]の図 1.1 を参考にし
て、本図を描いた。)
三次元空間の回転を行えば、図 11.5.1 の半径1の球上の点P ( x, y, z ) は同じ半径
の球上の他の点P’ ( x' , y ' , z ' ) に移動する。従って対応する複素平面上の点ζも点
ζ’に移動することになる。あるいは、 ( , ) が ( ' , ' ) に変換されると言ってもよい。
それでは、 ( , ) のどのような変換が三次元空間の回転に対応するのだろうか。
( , ) を(11.3.19)式で定義された U 3 ( ) で変換して、 ( ' , ' ) を得たとしよう。
'
'
exp( i / 2)
0
0
exp(i / 2)
(11.5.3)
13
上式で現れた複素二成分量
をスピノルと呼ぶ。スピノルはスピンの表示などで
よく使われている。
(11.5.2)式に(11.5.3)式の変換を施せば、 ( x' , y ' , z ' ) は ( x, y, z ) を用いて
x' i y ' exp(i ) ( x i y )
(11.5.4a)
z' z
(11.5.4b)
と表すことができる。これはz-軸周りの角度θの回転にほかならない。
問題 11.5.3
(11.5.4)式を証明せよ。
次に ( , ) を(11.3.22)式で定義された U 2 ( ) で変換して、 ( ' , ' ) を得たとしよう。
'
'
cos( / 2)
sin( / 2)
sin( / 2)
cos( / 2)
(11.5.5)
(11.5.2)式にこの変換を行えば、(11.5.2)式の分子と分母に現れる各項は
2
2
( ' '* '* ' ) ( * * ) cos
(
) sin
(11.5.6a)
( ' '* '* ' ) ( * * )
(11.5.6b)
2
2
2
2
( '
' )
( * * ) sin
(
) cos
(11.5.6c)
2
2
2
2
( '
' ) (
)
(11.5.6d)
と表すことができる。上式により、 ( x' , y ' , z ' ) は ( x, y, z ) を用いて
( z ' i x' ) exp(i )( z i x)
(11.5.7a)
y' y
(11.5.7b)
と表すことができる。これはy-軸周りの角度θの回転にほかならない。
以上のことから、(11.1.1)式でオイラーの角 ( , , ) で表される三次空間の回転と
( , ) の変換とを、(11.3.32)式で求められた SU (2) 行列 U( , , ) を用いて
'
'
a
b
b* a*
U( , , )
(11.5.8)
と対応づけることができる。
(11.5.8)式の最後の項で定義した二つの複素数 a,b は
a
b
exp( i (
exp( i (
) / 2) cos
(11.5.9a)
2
) / 2) sin
(11.5.9b)
2
と定義することができる。これらの複素数 a,b はケーリー・クラインのパラメータ
と呼ばれている。なお、明らかに a
2
b
2
14
1 である。
11章
問題解答
問題 11.1.1
(11.1.8)式と同様な手順で証明できる。
問題 11.1.2 (11.1.14)式に(11.1.6)式、(11.1.9a)式、および(11.1.9b)式を代入
し、行列の計算を具体的に行うことによって証明することができる。
問題 11.2.1
(11.2.1)式の左辺に、(11.2.2)式の一般形を代入すれば証明できる。
問題 11.2.2
(11.2.6)式を(11.2.9)式に代入すれば証明できる。
問題 11.2.3
例えば、(11.2.9b)式を用いて σ1 ,σ 2 を愚直に計算してみると、次のようになる。
σ1 , σ 2
σ 1σ 2
σ 2 σ1
σ 2σ1 σ 2σ1
2i σ 3
3
一方、 2i
12
σ は次のようになる。
1
3
2i
12
σ
2i
1 21
σ1
12 2
σ2
12 3
σ3
2i 0 σ 1
0 σ2 1 σ3
2i σ 3
1
従って、 j
問題 11.3.1
1, k
2 場合の(11.2.11)式が証明された。他の場合も同様に証明できる。
(11.3.23)式と同様な計算を行えば、証明できる。
問 題 11.3.2 問 題 の 式 の 右 辺 に パ ウ リ 行 列 の 値 を 代 入 し て 、 (11.3.19) 式 や
(11.3.22)式や(11.3.25)式と同じになることを示せば、証明できる。
15