2.

第八章 伝達装置
歯車伝達装置
歯車の用途:
1. 歯車装置は機械を構成する最も重要な機械要素の一つ
である。
2. 航空機・宇宙機器、新幹線電車、船舶、車、風車などの多
くの機械に幅広く使われている。
3. 歯車装置の性能(振動・騒音・効率・伝達精度など)と寿命
は多くの機械の性能と寿命に直結している。
4. 歯車装置の設計に関する基本技術の把握は機械設計者
にとって極めて重要である。
歯車の分類
平行軸の歯車
ラック
はすばラック
平歯車
はすば歯車
内歯車
やまば歯車
交差軸の歯車
食い違い軸の歯車
傘歯車
ねじ歯車
まがりば傘歯車
フェースギヤ
ハイプイドギヤ
ウォームギヤ
1.一対の平歯車伝達のピッチ円とピッチ点
歯車伝達
摩擦伝達
r2
P●
r1
接触円
ω1, ω2 :角速度 P:ピッチ点
r1, r2 :半径(ピッチ円半径)
速比:
1
r2
i

2
r1
P:ピッチ点
r1, r2 :ピッチ円の半径
2.歯車の歯数とモジュール
モジュールの定義:
d1
m
z1
and
d2
m
z2
d1、d2:歯車1と2のピッチ円直径;
z1、 z2:歯車1と2の歯数
ピッチ円、歯数とモジュールの関係:
d1  m  z1
(1)
d 2  m  z2
一対の歯車のかみあう条件:
歯車1と2のモジュールが等
しくならなければならない。
(2)
モジュールはJIS規格の標準値を使用:
第1系列
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.8 1 1.25 1.5 2 2.5 3
4 5 6 8 10 12 16 20 25 32 40 50
第2系列
0.15 0.25 0.35 0.45 0.55 0.7 0.75 0.9 1.75 2.25
2.75 3.5 4.5 5.5 7 9 11 14 18 22 28 36 45
第3系列
0.65 3.25 3.75 6.5
3.歯車の歯の構成(歯先円、歯元円、歯たけ)
2.25m
1.25m
m
0.25m
m
標準歯車の場合
ピッチ円
頂げきC
歯末のたけ=m
有効歯たけ:he=m+m=2m
頂げき:c=0.25m
歯元のたけ=m+0.25m=1.25m
全歯たけ=(m+m+0.25m)=2.25m
歯先円直径=ピッチ円直径+2×歯末のたけ=mz+2m=(z+2)m
歯底円直径=ピッチ円直径-2 ×歯元のたけ=mz-2(1.25m)=(z-2×1.25)m
4.ラックによる歯車の歯の加工(創成運動)
ラック
ラック
創成された
歯車の歯形
歯車
標準歯の加工:ラックの創成運動により歯が加工される⇒創成法
5.ラック上の点と加工された歯形上の点の対応関係
ラックの歯形
歯車の歯形
ピッチ点
ピッチ点
台形の傾斜角度
ピッチ点における圧力角度(標準の場合=20度)
歯先(Ck 部)
頂げき部
歯末のたけ(Ck部を除く)
歯元のたけ(頂げき部を除く)
歯元のたけ(m)
歯末のたけ(m)
基準ピッチ線
ピッチ円
ピッチ t0  m
円周ピッチ
6.歯車の歯形曲線:インボリュート曲線
インボリュート曲線は図1のように巻き付けた糸をたわませずに巻きほこしていっ
た時、糸の先端が描く曲線a0, a1, a2…, anである。この基となる円を基礎円
(Base circle)と呼ぶ。
インボリュート曲線
特徴:
1. インボリュート曲線上の点の垂線は基
礎円と接し、その点から接点までの長さ
は曲率半径に等しい。
2.
a1b1  a0b1
a2b2  a0b2
糸の先端
糸
糸
糸
糸
糸
糸
糸
a3b3  a0b3
……………
基礎円
図1 インボリュート曲線の発生
7.インボリュート関数
図2において、点Pにおける曲率半径をρとすれば、下記の式が得られる。
  IP  IA
(1)
また、次のような式が得がれる。
IA  (   )rg
ただし、
インボリュート
曲線
(2)
 =圧力角度;
rg
=基礎円半径(mm)
直角三角形OIPにおいて、次(3)が得がれる。
IP  rg tan   
(3)
(2)と(3)を(1)に代入し、式(4)が得がれる。
  tan   
(4)
図2 インボリュート関数の導き
この  をインボリュート関数と呼ぶ。式(5)のように表現する。
inv    tan   
(5)
8.歯の法線ピッチと円周ピッチ
法線ピッチ te=法線方向に測ったピッチ
円周ピッチ t =円周上に測ったピッチ
円周ピッチの計算式:
2r
t
z
(1)
法線ピッチの計算式:
te 
2rg
(2)
z
rg  r cos  (3)
法線ピッチと円周ピッチの関係:
te  t cos   m cos 
(4)
r
=ピッチ円半径;
rg =基礎円半径
9.インボリュート歯形の特徴
1. インボリュート曲線の他に、歯車の歯形として
使用できる曲線はサイクロイド曲線、トロコイド
曲線などがある。
2. 歯形の作りやすさや加工精度の保障からみる
と、インボリュート曲線はコストパフォーマンス
が一番よいので、現在ピン歯車装置や波動歯
車装置を除き、殆どの歯車にインボリュート曲
線を歯形曲線として採用されている。
10.圧力角、ピッチ円、基礎円の関係
1. ピッチ点Pを通った基礎円の接線は作用
線である。
2. 作用線の傾き角度  をピッチ点Pの圧力
角度と呼ぶ。標準歯車の場合には、この
角度はラックの圧力角度  c
と等しくなる。即ち:
  c
(1)
圧力角、ピッチ円、基礎円の関係:
rg1  r1 cos 
rg 2  r2 cos 
rg1 , rg 2
r1 , r2

c
(2)
(3)
:歯車1と2の基礎円半径;
:歯車1と2のピッチ円半径;
:ピッチ点Pにおける圧力角;
:ラックの圧力角;
11.歯のかみあい点と作用線の関係について
歯車のかみあい(接触)は作用線上に沿って行われている。即ち、
一対の歯車の歯のかみあい始めとかみあい終わりのすべての過
程において、歯のかみあい点(歯の接触点)は作用線上に沿って
移動し、かみ合い過程を完成させている。
12.歯のかみあい長さとかみあい率
かみあい開始点:K1
かみあい終了点:K2
ピッチ点:P
かみあい長さ=K1K2
(作用線上の距離)
K1Pにおけるかみあい:近寄りかみあい
PK2におけるかみあい:遠のきかみあい
1枚歯のかみあい開始点からかみあい終了点までの作用線上の距離をかみあい長さと呼ぶ。
(1)かみあい長さLの計算:
L  K1K 2  rk1  rg1  rk 2  rg 2  A sin 
2
2
2
2
(1)
rg 1 :歯車1の基礎円半径;
rk 1 :歯車1の歯先円半径;
rg 2 :歯車2の基礎円半径;
rk 2 :歯車2の歯先円半径;
 :ピッチ点Pにおける圧力角;
A :歯車1と2の中心距離;
(2) 歯のかみあい率
かみ合い率の定義:
かみあい長さを法線ピッチで除した商をかみ合い率と呼ぶ。
かみあい長さL
かみあい率 
法線ピッチte
(1)
かみ合い率の計算式:
L
  
te
2
k1
r
r
2
g1

rk 2  rg 2  A sin  b
2
m cos  c
2
(2)
平歯車の1対の歯のかみあいと2対のかみあい様子
2対の歯のかみあい始め
2対の歯のかみあい終わり
2対の歯のかみあい途中
1対の歯のかみあい始め
13.歯車諸元及びその符号
名称
符号
歯数
z
モジュール
m
圧力角度
α
転位係数
x
歯先円
dk
ピッチ円
d
歯底円
dr
基礎円
dg
歯たけ
h
頂げき
Ck
中心距離
a
14.標準平歯車の寸法計算式の纏め
基準ピッチ円直径
歯車1
歯車2
d1  mZ1
d 2  mZ2
Ck ≧ 0.25m
頂げき
歯末のたけ
hk  m
歯元のたけ
h f  m  Ck
有効歯たけ
he  2hk  2m
h  hk  h f  2.25m
全歯たけ
歯先円直径
d k1  d1  2hk1  m( z1  2)
d k 2  d 2  2hk 2  m( z2  2)
歯底円直径
d r1  d1  2h f 1
d r 2  d 2  2h f 2
基礎円直径
d g1  mz1 cos  c
d g 2  mz2 cos  c
中心距離
a
m( Z1  Z 2 ) d1  d 2

2
2
15.歯の干渉現象と切下げ
(別名:アンダーカット 英文:undercut)
小歯車の歯数は非常に少ない場合には(例えばZ<17)、大歯車の歯先円は小歯車のイン
ボリュート曲線の発生円である基礎円の内部に入り、インボリュート曲線は基礎円から始
まり、基礎円の内部には、インボリュート曲線が形成できないので、大歯車の歯先と小歯
車の歯元は干渉が発生し、この干渉で歯車加工時、小歯車の歯元を切下げる現象が発
生する。
切下げると歯の根元はやせ、強度低下することになるとともに、切下げ部の滑り率が非常
に大きいので、切下げる部にかみあう場合には、激しい摩耗が発生する恐れがある。従っ
て、切下げを防がなければならない。
干渉による切下げ
16.切下げしない最小歯数及び切下げ防止対策
(1)切下げしない最小歯数の計算式:
表1 圧力角度と切下げしない最小歯数の関係
Z min
2hk

m sin 2 
(1)
(2)切下げ防止方法:
圧力角度α
14.5°
20°
25°
並歯 hk =m
31.9
17.1
11.2
低歯 hk =0.8m
25.5
13.7
9.0
高歯 hk =1.2m
38.3
20.5
13.4
1. 圧力角度を大きくする。
2. 歯のたけを低くする。
3. ラックを転位させて、転位歯車を作る。
転位歯車で対策する時の切
下げしない最小転位係数:
z1 2
x  1  sin 
2
(2) (並歯の場合)
転位前
転位後
17.並歯・低歯・高歯歯車の定義
低歯:
歯末のたけ<m
(スプライン締結)
並歯:
歯末のたけ=m
(最も一般的に使用されているもの)
高歯:
歯末のたけ>m
( m=モジュール )
(航空機に使用)
18.歯車の滑り率
(1)滑り率の定義:
歯車1は微小な角度ωで回転した時、歯車1
の歯形の円孤移動量をds1とし、歯車2の歯
形の円孤移動量をds2とすると、滑り率は下記
の式で定義できる。
歯車2の滑り率:
歯車1の滑り率:
d s1  d s 2
1 
d s1
(1)
d s1  d s 2
2 
ds2
(2)
(2)滑り率の計算式:
X (1  1 / i )
1  
(d1 / 2) sin  b  X
X (1  1 / i )
2  
(d1 / 2) sin  b  X
(X: 接触点からピッチ点ま
での距離、 𝛼𝑏 :圧力角度)
(d1,d2: ピッチ円直径)
( i  d 2 /d 1 )
(3)滑り率の曲線及び特徴
1. 歯車1と2のピッチ
点における滑り率は
ゼロであり、ピッチ
点から歯先・歯元へ
離れていくと、滑り
率はだんだん大きく
なっていく。
2. 歯先と歯元の滑り
率は一番大きい。
図1 歯車1と2の滑り率曲線
19.転位歯車と転位係数
(1)標準歯車の加工
(2)転位歯車の加工
-転位
+転位
xm
x:転位係数
xm:転位量
なぜ、転位歯車を作る必要があるか?
1. 転位により、歯車の軸間中心距離が自由に調整・設計できるようになる。
2. 転位により、かみ合い率は大きくなり、滑り率が小さくなり、歯元が強くなるな
どの利点があり、歯車の性能改善ができる。
3. 歯車転位により歯車の干渉による切下げを防ぎ、最小歯数を17枚以下にす
ることができるので、減速比や歯車外形寸法の調整は容易になる。
20.転位歯車の寸法計算
αc(α0):ラックカッターの圧力角度;
αb:かみあいピッチ円の圧力角度:
 x1  x2 
  inv c
inv b  2 tan  c 
 z1  z 2 
中心距離増加係数:
z1  z 2
y
2
中心距離:
 cos  c


 1
 cos  b

d b1  d b 2 ( z1  z 2 )m cos  c
 z1  z 2

A
 y m 

2
2 cos  b
 2

21.転位平歯車の寸法計算式の纏め
転位係数
歯車1
歯車2
x1
x2
C
工具圧力角度
 x  x2 
  inv c
inv b  2 tan  c  1
z

z
2 
 1
かみあい圧力角度
y
中心距離増加係数
基準ピッチ円直径
 cos  c


 1
 cos  b

d  d b 2 ( z1  z 2 )m cos  c
 z  z2

A 1
 y m  b1

2
2 cos  b
 2

中心距離
かみあいピッチ円直径
z1  z 2
2
 z1
d b1  2 A
 z1  z 2



d1  mZ1
 z1 

d b 2  2 A
z

z
2 
 1
d 2  mZ2
歯先円直径
d k1  {z1  2(1  x1 )}m
基礎円直径
d g1  mz1 cos  c
歯底円直径
d r1  d k1  2h
d r 2  d k 2  2h
歯末のたけ
hk1  (1  x1 )m
hk 2  (1  x2 )m
d k 2  {z 2  2(1  x2 )}m
d g 2  mz2 cos  c
22.歯車の回転方向
外歯車の場合:
ラックの場合:
駆動歯車と被動歯車は逆方法
内歯車の場合:
駆動歯車と被動歯車は同方法
23.歯車の減速比、回転数と伝達トルクの関係
Z1
(1)減速比の計算:
n1
z2
i

n2
z1
(2)回転数の関係
n1
n2 
i
(3)トルクの関係
T2  i  T1
n1
入力軸側
T1
モーター
出力軸側
T2
n2
負荷
Z2
i
:減速比;
z1、z2:歯車1と歯車2の歯数;
n1、n2:歯車1と歯車2の回転数(rpm);
T1、T2:歯車1と歯車2に作用されるトルク
24.多段歯車装置の減速運動
25.多段歯車装置の減速比計算
(1) 1段目減速比:
i12 
入力軸側
z2
z1
モーター
Z1
n1
Z2
n2
(2) 2段目減速比:
i23
z4

z3
Z3
2段目
(3) 3段目減速比:
i34
z6

z5
Z4
i14
z2 z4 z6



z1 z3 z5
Z5
n3
3段目
出力軸側
(4) 総減速比の計算式:
i14  i12  i23 i 34
1段目
(1)
(2)
負荷
Z6
n4
歯車設計時の注意点:
1.
2.
3.
4.
5.
歯車1と2のモジュールは等しいこと。
工具の圧力角度は20度であること(JIS規格)。
最小歯数を選ぶ時、歯元切下げの有無を確認すること(標準歯車の場合
には、最小歯数は17枚以上)。
標準歯車の設計で軸間中心距離が満足できない場合には、転位歯車で軸
間中心距離を調整し、要求される距離を満足させることができる。
転位歯車を設計する時、転位係数は歯車の性能や強度にも影響を及ぼす
ので、転位係数の妥当性検討が必要であり、任意的に転位係数を選ばな
いこと。また、“+”転位の場合には、転位係数が大きすぎると、下図のよう
に歯先が尖るので、転位係数を選定時、要注意。
歯先尖りのある歯車
薄肉歯車の各部の名称
歯幅
歯幅
ハブ
ハブ
ウェブ
ウェブ
リム
リム
完了