星の愛し子 - タテ書き小説ネット

星の愛し子
瑛香
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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︻小説タイトル︼
星の愛し子
︻Nコード︼
N7615C
︻作者名︼
瑛香
︻あらすじ︼
突然行方が知れなくなった親友、押しかけてきた親友の”娘”。
実はこいつはアンドロイドで、国家機密なんだそうだ。めんどくさ
い秘密を押し付けられて四苦八苦するあたしの3日間のはなし。
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第1話・・・出会い︵前書き︶
この話はペンギン日和の外伝的な話になります。
時系列でみてペンギン日和より前の話となります。
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第1話・・・出会い
そのメールは、突然送られてきた。
朝起きると、まずマシンへ行き、眠い目をこすりながらメールチ
ェックをして、今日の行動予定を立てるのがあたしの日課だ。
大学から送られてくる休講情報、友人からくる他愛無い雑談メー
ル、どっかの店から送られてきたチラシ⋮⋮
ふと、友人からきたメールの中に気になるメールを発見した。
タイトル:よろしく頼む。
差出人:なおき
本文:リキをやった。後は頼んだ。
差出人は物心ついたときには一緒にいたづらをしていたような腐
れ縁の幼馴染の親友からだ。
めずらしいな、あいつからメールが来るなんて。メールよこすぐ
らいなら自分でうちに押しかけてくるのに。でもこのメールなんか
変だな、どうしてわざわざいくからなんて連絡よこしたんだろう。
何を頼まれてるんだ?
この親友は変わり者だが天才と呼ばれるタイプの人間で、﹁星の
愛し子﹂としてあたしが中学を出るころには博士課程に進んで、今
ではノーベル賞にもっとも近い人間だなどと新聞や雑誌に取り上げ
られているような奴だ。
あたしには﹁星の愛し子﹂なんてものはよくわからないが、何を
しても必ず成功する﹁ツイてる人﹂らしい。テレビなんかでは、遺
伝で決まるとか体質なのだとかいろいろ説明していて情報には事欠
かないが、いまいち難しくてあたしにはわからない。とりあえず﹁
星の愛し子﹂と呼ばれる人間は必ず皆同じ脳波を持っているらしい。
3
ちょうど中学に上がる頃に﹁星の愛し子﹂というものが世界に発
表されて、親たちはこぞってうちの子こそそうだ、と研究所に押し
かけた。なにせ国が﹁星の愛し子﹂は全力でバックアップして、セ
レブ並の生活保障を行うと発表して、認定は発表を行った研究所で
行うと直後に発表したからね。まったく、さすがは神風とかいっち
ゃう国だなとしみじみ思う。昔から運も実力のうちなんて言葉があ
ったけど、まさか科学的に証明されるなんてね。
そんなわけで、もちろんうちの親もあいつの親もうちの子こそは
と名乗りをあげた訳さ。結果あいつは見事に﹁星の愛し子﹂として
認定されて今じゃよくわかんない科学研究所で主任研究員とやらに
なったらしい。
結局この短すぎるメールの意図がつかめず、気になったので本人
に連絡を取る事にした。
・・・・・・トゥルルルルル・トゥルルルルル
電話は呼び出す音を鳴らすばかりで、持ち主が出る気配はなかっ
た。
なおきはずいぶん茶目っ気のあるやつだがこういういたずらをす
る時は伏線をいつもはる。勝手にいなくなるなんてことはしなくて、
何処にいくにしても連絡はつくようにする奴だ。
・・・・・・なにかあったのだろうか。
しばし行方を思案しやめる。まあ近いうちに連絡があるだろう。
あいつはあたしの心を読んだかのように、あたしが連絡しようとす
ると連絡が来るのだ。これもあいつが﹁星の愛し子﹂であることと
関係があるらしい。まぁ、あたしにはよくわかんないけど。
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ところで件のメール、どういう意味だろう。やった、ということ
は何かがあたしのとこに来る訳か・・・
︱︱︱ピンポーン
その時、あたしの思考を邪魔するかのようにチャイムが鳴った。
滅多にこない宅急便か、これまた滅多にこない押し売り勧誘しか鳴
らさないチャイム⋮このタイミング、“リキ”とやらががついたの
か⋮?
あたしはそーっと玄関に近づいて外を伺った。うーん、なにか茶
色い動く物が見える。
﹁あのぅ、すいませーん﹂
なにやら外から声も聞こえてきた。どうやら人のようだ。あたし
は思い切ってドアを勢いよく開け放つ。
そこに”彼女”は立っていた。
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第2話・・・嵐到来
彼女はまるで旅行中もしくは家出中といった感じだった。少なく
とも、初対面の誰かの家に行くには荷物が多すぎる。カートタイプ
のかばんにおおきなボストンバック、そして貴重品用かかわいいポ
シェットまで提げていた。
﹁あ、あの、リキです。﹂
開口一番、彼女はそう名乗った。どうやら、メールの意味はこう
いうことだったようだ。状況はいまだよくわからないが、ナオキに
行けといわれて来たならばやはり客であろう。ドアを開け放したま
ま長話をするのもどうかと思うし、部屋へあげることにした。
リビングに通してお茶を出すと彼女は会釈して手を伸ばした。
﹁で、リキさんだっけ。ナオキに言われてきたの?﹂
﹁はい。私の正式名称はRIKI01|<<リキゼロワン>>と申
しまして、ナオキとリオナに作られたアンドロイドです。貴方を守
るためここへ向かうようナオキに指示を受けました。﹂
あたしの質問に彼女は微笑んですらすらと答えた。
・・・ちょっとまて、アンドロイドで守る?さっぱり話が見えない
ぞ・・・・
頭中にはてなマークがいっぱいになる。あたしが首をかしげてると
リキもといRIKI01は微笑んだままさらに説明を続けた。
﹁最近の研究により、研究所から星の愛し子には一人で能力を発揮
するタイプと、特定の人間がいることにより能力を発揮するタイプ
がいることが発見、発表がありました。その特定の人間を補助者と
6
呼んでおり、貴方がナオキの補助者であると認定が下りました。そ
してちょうど2日前にナオキは研究所内で最年少の主任研究員で明
後日昇格することが決まり、最年少の主席研究員になることになり
ました。それを阻止する為に内示発表後さまざまな妨害がナオキに
向けて行われましたが、ことごとく失敗しています。更にナオキの
計算によりますと、ライバルが貴方に危害を加える可能性が87%
以上という結果になりましたので私が参りました。﹂
﹁つまり、ナオキの昇進を妬む人がいてあたしを出しに辞退させよ
うとしているってこと?﹂
なにやらややこしいことがナオキに降りかかっているみたいだ。
連絡が取れなかった理由もこれ関連のようだね。
﹁そういうことになりますね。﹂
剣呑な話をしつつ笑顔で彼女はお茶を美味しそうに飲んでいた。
あまり事態は深刻じゃないみたいね。とりあえず、補助者ってのが
なんなのか発表があったのならネットあたりに情報がでているだろ
うから調べてみることにする。
﹁ちょとまっててね、調べてくる。﹂
起動しっぱなしだったパソコンへ移動し検索を開始する。
﹁星の愛し子、補助者、検索っと﹂
しばらく待つとパソコンの画面にネットから集めた情報をまとめ
たものが出てきた。この機能は特別であたしのパソコンにしかつい
てない。普通検索すると関連するページがずらっと出てきて巡回し
て情報を集めるものだが、学生のあたしは検索することも多いしち
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んたら巡回するのも面倒なので自動で巡回して集めた情報から必要
そうなもの、重要そうなものを抽出し要約を表示する機能を組み込
んである。もちろん組み込んだのはナオキだけどね。
補助者・・・星の愛し子は特定の脳波をもち、IQがずば抜けて
いるもの、発想が柔軟であるものなどが認定されるが、通常時には
発現せず特定条件時のみこの状態を生み出せるものがいる。この特
定条件とは特定の人物と一緒にいる、もしくは特定の人物の為にな
ることである、など他の人間を必要とすることである。この特定の
人物を補助者と命名すると18日付けで研究所よりは票が会った。
これまでに認定された星の愛し子内にもこの特定条件者が確認され
ており、現在発表がある該当者として研究所発表の中で特に有名な
人物では機械制御部門でさまざまな功績を残している研究所主任研
究員のナオキ・ヤスハラが上げられる。
なるほどね。ナオキの名前が思いっきり公表されてるわけだ。あ
とはナオキに妨害って言ってたな。
﹁ナオキ・ヤスハラ、事件、検索﹂
ナオキ・ヤスハラに関する事件・・・該当データは存在しません
でした。
該当なしか。事件じゃなく事故とかかな・・・。
﹁ナオキ・ヤスハラ、事故、検索﹂
ナオキ・ヤスハラに関する事故・・・該当データは存在しません
でした。
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これも該当なし。ほかに調べることも思いつかなかったのであた
しはリビングに戻り彼女との話を再開した。
﹁おまたせ。補助者については分かったけど、ナオキへの妨害につ
いてはめぼしい情報はなかった
よ。妨害について教えてくれる?﹂
お茶を飲み終わったのかどこか壁の一点を見つめていたリキへ質
問を投げかけた。お茶を飲んでいるときには感じなかったが、こう
してみると確かにどことなく”アンドロイドらしさ”みたいなもの
が感じられる気もする。
﹁はい。内示が研究所内で発表された1時間後からナオキのラボの
みに頻発する停電が現在まで発生しています。あ、ちょうど今も停
電していますね。﹂
再び微笑みながら彼女は答えた。
﹁ちょ、なんで今も停電してるなんて分かるのよ!?﹂
最後に付け加えられた部分に驚く。おまえはいま研究所にいない
だろう・・・・
﹁私、研究所のナオキのラボのマザーと呼ばれるスーパーコンピュ
ータに常に接続されているんです。ただしアクセスできるのはマザ
ーが稼動してるときだけですけれど。﹂
なるほど、てことはアクセス出来なかったから停電って判断なのか
しら?
﹁今も停電していますが、マザー自体は稼動していますよ。UPS
と呼ばれる無停電装置が設置されていますので停電後48時間はマ
ザーは電源供給がなくても稼動できるんです。﹂
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まるであたしの疑問を見通したかのように説明を続けた。なるほ
どね。UPSとやらが稼動しているから停電と判断したわけだ。
﹁ラボは停電していますが、各種作業はマザーが稼動しているので
可能です。そこでお願いがあるのですが、一緒にラボへ行って頂け
ないでしょうか?お守りするように言われておりますがその為の機
能強化がまだ完了していないのです。ラボへ行けば残りの作業はで
きますので一緒に来ていただければ機能強化が出来るのです。木の
葉を隠すなら森といいますしね。﹂
そこまで言って彼女はあたしをじっと見つめた。
﹁いいけどあたし一般人だから研究所に入れないけどどうするの?﹂
そうなのだ。国家機密のプロジェクトを大量に抱えている研究所
なので一般人は建物どころか敷地内へ入ることすらできない。彼女
の望みをかなえてあげたくても無理な相談である。
﹁それは大丈夫です。補助者と認定されたので貴方は研究所への入
所資格はお持ちですよ。書類も受け取ってまいりましたので問題は
ありませ・・・﹂
︱︱︱ドンドンドンドンドン
彼女がしゃべり終わる前に玄関からかなり強いノックが聞こえて
くる。今日は来訪者の多い日だ。
あたしは確認するため玄関へ向かおうとすると彼女は心なしか青い
顔をしてあたしを押し倒した。
﹁伏せてっ!!﹂
彼女が叫び終わるかどうかというときに大音響の破壊音と共に玄
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関に埃が充満した。
・・・まさか、爆破した?
あまりの状況についていけずぼんやりとそんなことを考えている
とどかどかと複数の足音が聞こえてきた。これって不法侵入ってや
つですかね。あたしもしかしてピンチなの?
﹁リキ、これって・・・げほげほ・・・・﹂
﹁しっ。静かに﹂
埃にむせながらリキに話しかけるとあたしに覆いかぶさっていた
彼女は口に指をあてて注意してきた。・・・やっぱりピンチなのか
も。
﹁緊急事態発生。研究所へ移動します。﹂
先ほどまでとうって変わって機械的な声で彼女はつぶやき、あた
しの手をとりベランダへ向かった。どうやらベランダから避難する
気のようだ。でもここは7階。どうやって避難するんだろう?
﹁脱出します。つかまっていて下さい。﹂
そういって彼女はあたしを担ぎあげた。アンドロイドというだけ
あって細い腕で豪快に荷物かなにかのように肩に担ぐ。そしてベラ
ンダの手すりに手をかけた。
﹁ちょ、ちょっとまって飛び降りる気?ここ7階だよ?﹂
﹁問題ありません。私のサスペンション機能の強度であれば15階
程度から貴方を担いで飛び降りることが可能です。損害予想は3%
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です。﹂
驚いて悲鳴をあげるあたしに彼女は冷静に返事をし・・・・・ダ
イブした。
12
第3話・・・研究所
気付くとあたしはリキに担がれたまま道路上をすごい速度で移動
していた。どうやら紐なしバンジーのあまりの衝撃に意識を失って
いたようだ。とりあえず現状を把握しようとあたりの景色を伺うが、
担がれているので後ろの景色しか見えなかった。しかし、この光景
はできれば見えないほうが幸せな気がする。
リキはあたしの重さなど感じていないのかオリンピックにも出れ
るのではないかと思うような速度で通りを駆け抜けていた。その後
ろからはおそらく我が家の玄関を爆破した連中であろう黒尽くめの
集団が追いかけてくる。
黒尽くめの連中は普通の人間のようだ。いや、一般人の玄関を爆
破した時点でかなりクレイジーなのは間違いないが、身体的には”
人間”であることは間違いないと思う。一歩ごとにわずかながらそ
の差は広がっているようで、じりじりと黒づくめとの距離が開いて
いく。どうやら街中で飛び道具を使うほどこちらに攻撃する気があ
るわけでもないらしい。 何個目の角を曲がったであろうか。追っ手の姿も見えなくなって
随分たった頃、リキは徐々にスピードを落とし最後には完全に静止
した。
﹁こちらが研究所になります。﹂
そういいながらリキはあたしを降ろした。そこには見上げるほど
高い塀と厳重な警備が敷かれた門あった。
研究所へくるのはこれで二度目だ。一度目は母親に手を引かれて
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たくさんの似たような親子連れと共にこの門をくぐった。
つらつらとそんなことを考えている間にもリキはすたすたと門の
中へと歩を進めていた。感慨に浸る暇もなくあたしもその後を追い
かける。関係者以外はいれないはずの研究所なはずだが、警備員に
特に止められることもなくあたしも入ることができた。
・・・どうやら許可がおりているという先ほどの話は本当らしい。
門の奥にはガラス張りの立派な玄関がある。しかしリキについて
歩いていくと正面の入り口ではなく、横のほうにある通用口らしき
場所へ向かっていった。中に入ると、まるで病院のような廊下が続
いていた。人気はまったくなく、ただ白い壁と白いリノリウムの床
が続く。そんな中リキは相変わらず振り返ることもなくすたすたと
奥へと進んでいくのであたしはあわてて後を追った。
軽く走ったがリノリウムの床は足音を吸収してあたりは相変わら
ず静かなままだった。こんなに静かな場所にいると先ほどまで黒い
正体不明の連中に追われてた事や、玄関が爆破されたことなど幻だ
ったような気すらしてくる。
・・・幻だったらここにはいないけれどね。
置いていかれないように軽く駆け足になりながらも、ガラス張り
になっていたり覗ける場所があると覗いたりしながら先へすすんで
いった。廊下はものすごく静かだけれど、建物に人がいないわけで
はないらしい。部屋のなかでは白衣を着た人がいろいろと研究をし
ているのだろうか、作業をしている姿が見えた。おそらく研究の邪
魔にならないよう防音の設備が充実しているのだろう。
そうこうしているうちに廊下は行き止まりになり、ひときわ大き
なドアがあった。これまでに覗いてきた入り口にもあったセキュリ
ティらしき機械にリキがなにかを打ち込んでいる。
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シューーーー
空気が抜けるような音と共にドアが開き、リキが手招きをしてい
る。どうやらここが目的の研究室のようだ。
研究室のなかは雑然としていた。床中にまとめられていないケー
ブルが張り巡らされていて、奥にある大きな機械につながっている。
﹁あなたが、沙里さんね。﹂
声のするほうに目をやるとこれまで見かけた人とおなじような白
衣を着た女性が立っていた。メタルフレームのメガネに肩より短く
切りそろえられた髪型。まさに研究者って感じが出てる。これまで
のいきさつから味方か判断できずに、あたしは何も返事をしなかっ
た。
﹁警戒しなくても大丈夫、私はリオナ・カタヤマ。ナオキの助手を
やってるの。﹂
あたしの反応は予想通りだったのか、意に介さず自己紹介を続け
てきた。
﹁その子を作ったのも私よ。といっても私が担当したのは中身だけ
ど。私の専門は電子心理学なの。つまり機械の心の研究ね。﹂
そう言って彼女は椅子のひとつにすわり、もうひとつの椅子をし
ぐさであたしに勧めてきた。
気付くとリキはどこへ言ったのか見当たらなくなっている。そう
いえば爆発の寸前にラボですることがあると言っていたからなにか
作業をしているのかもしれない。
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﹁あの子から説明はもう聞いたかしら?﹂
﹁・・・一応。ナオキが昇格してあたしが危ないってことだけ・・・
﹂
﹁随分と乱暴な説明ね。それじゃあ詳しく私から説明するわね。あ
の子は今マザーと接続してOSのバージョンアップと戦闘処理用ア
プリケーションのインストールをしていてすこし時間がかかるから。
﹂
そして彼女から今回のいきさつを詳しく聞くことになった。
﹁あの子は・・・RIKI01は世界初の自己成長型擬似人格プロ
グラムの組み込まれた人型アンドロイドなの。だから彼女の存在自
体が国家機密扱いで研究所内でもトップシークレットなの。書類上
ではあたしの遠い親戚ということになっているわ。ナオキが担当し
たのはボディと記憶学習システム、それから制御部分。私は人格と
精神制御、ボディ制御との連携部分。ナオキのプログラムはすごい
わ。同じことを実現するにしても私にはあんなプログラムは書けな
い。ああいうのを天才っていうんでしょうね。もちろん私にも時間
さえあれば作れるけど。﹂
リオナはそこまで話して立ち上がり奥へ向かった。すぐに戻って
きた彼女の手には2組のコーヒーカップがあった。
﹁どうぞ、うちのコーヒーは美味しいのよ。凝り性のナオキが専用
のマシンを作ったから。﹂
そういって自分の前においたコーヒーを一口飲みまた話の続きをは
じめた。
﹁そうして出来上がったのがRIKI01なの。これまでにも似た
ようなシステムは発表されてきたけれど、ここまで高い学習能力を
もつアンドロイドはいないのよ。上層部もそれを評価して今回の昇
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格にいたったわけ。﹂
あたしも勧められるままコーヒーを一口飲んだ。うん。たしかに
美味しい。
﹁RIKI01の革新的な部分はその拡張性にあって、これまでだ
と自力で学習するか最初に組み込んだ機能以外は身につけることが
出来なかったけれど、あの子はアプリケーションをインストールす
ることによって自在に機能を追加することが出来るの。例えるなら
これまでがワープロでRIKI01はパソコン、といったところか
しらね。実際にRIKI01は専用の0Sが組み込まれていてその
上ですべての機能は動いているからまさに人型パソコンといっても
間違いじゃないんだけど。﹂
そういってこちらへリオナは向き直った。
・・・あれ、視界がぐらぐらする・・・・
﹁効いてきたかしら。それ睡眠薬入りなのよ。ねえ、不公平だと思
わない?RIKI01はあたしも作ったのよ。でもあたしは一切評
価されていないの。あなたもそう思うでしょ。﹂
最後のほうはなんだか遠くから響いてくるようなそんな感じだった。
あたしの意識があったのはそこまでだった。
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第4話・・・白い部屋
窓のない正方形の真っ白い壁に囲まれた部屋。空気の出入りする
隙間はあるようだが、時間の経過とともにすこし息苦しく感じてく
る。空気が薄いのか、心の問題か・・・・
気がついたときには研究室ではない場所へ運ばれていた。地面を
這うケーブルどころか、物と言えるものは壁と今あたしが座ってい
る椅子以外存在しない。いや、もしかしたら存在するのかもしれな
い。暴れてもびくともしない椅子の上に拘束されたあたしには背後
は見えないから。
あれからどれくらい時間が経過しているのだろうか?
窓もなく自分の感覚以外には時間というものを感じられない為気
がついてからのおおよその時間しか分からない。ましてやこの異常
事態の中では自分の感覚ですら時間の経過など信じられたものでは
ない。
﹁・・・ナオキ、大丈夫かなぁ・・・﹂
気を失う寸前に聞いた、あのリオナという女性の言葉を思い出す。
︱︱︱ねえ、不公平だと思わない?RIKI01はあたしも作っ
たのよ。でもあたしは一切評価されていないの。︱︱︱
きっと、すべては彼女が起こしたことなのだろう。ナオキの昇進
を快く思っていなかったのはその偉業を共に成し遂げたパートナー。
手柄を一人占めしたと恨んでの行動ならば、あたしよりナオキに危
険が及ぶ可能性のほうが高い。
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リキは・・・ナオキに言われて家に来たと言っていたけど、味方
なのかしら?
睡眠薬の後遺症かまるで頭にフィルターがかかっているように思
考がまとまらない。ぼんやりしたまま、とりとめなく頭を働かせ続
ける。白いこの部屋でなにもせずにいたら気がくるってしまいそう
だから︱︱︱
リキはナオキの味方?リオナの味方?それとも中立なのかしら・・
・・でも・・・リオナの元へあたしを連れて行ったのだからやっぱ
りリオナの味方かしら。たしか心はリオナが作ったと言っていた気
もするし・・・
答えの出ない問答を続ける。答えを出すにはヒントが少なすぎて
推理することすら出来ないまま。答えを出すよりも、自分の中にあ
る無意識の理解を認識へと昇華することのほうが目的に近い。
そういえば、何かをするために研究所へ行く必要があると言って
いた気がするけど・・・なんだったっけ・・・
答えのないまま思いつくまま疑問を並べていく。答えなど求めて
いないから。
それにしても静かな部屋だな・・・あたしの呼吸くらいしか聞こ
えてこないや。白くて防音で窓がないなんて、まるで気が狂えとい
わんばかりの部屋ね。
︱︱︱目が覚めたかしら?あなたの為に特別に個室を用意させて
頂いたわ。お気に召していただけたかしら。
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どこからか女の声が響いてきた。どこかにスピーカーが設置され
ているのだろう。
︱︱︱ご存知かもしれないけれど、その部屋は特別な部屋で精神
病患者などを隔離する部屋なの。特に心の病、なんて生易しい症状
じゃなく錯乱症状を起こしているような患者専用よ。どんなに叫ん
でも外には音は一切漏れず、また外の音も一切そこへは届かない。
時間もわからないし、日付もわからない。
こちらが反応を返すのを待つことなくスピーカーからの声は話し
続ける。
︱︱︱錯乱していなくても誰とも接さずに隔離しておくと3日か
ら一週間ほどで発狂してしまう部屋でもあるのよ。あなたは何日持
つかしらねぇ。楽しみだわ。あはははははは。
︱︱︱カチッ・・・
スピーカーの声から笑い声が響くなかかすかに金属音が響いた。
それと同時に硬く拘束されていた手首と足首が開放された。さっそ
くあたしは椅子から立ち上がる。今まで見ることが出来なかった背
後を振り返ると、やはり扉も窓も見当たらないが代わりに湯気のた
ったコーヒーらしきものとパンが置かれていた。どうやら餓死させ
る予定はないらしい。
先ほどの声は誰だろうか、研究室で会ったあの女の声に似ていた
気がする。
コーヒーとパンを胃に全て収め終わると再び周囲を見渡し、壁へ
と近づく。
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︱︱︱コンッ
壁を軽くノックすると軽い音がした。壁が薄いのだろうか?今度
は壁へ耳をあてて再びノックする。
︱︱︱コンッッ︱︱︱︱
やはり軽い音がする。が、二重構造になっており一枚が薄く間に
防音材が入っているのか、防音は張ったりで周りに誰も居ない為音
がしないのかはわからなかった。
これがナオキだったら、区別がついたりするのかね・・・?
相変わらず窓も無く、人の気配もない静かな部屋である。携帯も
時計も持っていないのでラボで気を失ってからどれくらい時間が経
っているのかはわからない。
とりあえず、体力温存よね。
あたしは床に横になる。予想以上に冷たく硬い床だが、思いのほ
か疲れているいまのあたしにとっては何の障害にもならなさそうだ。
そしてあたしは眠りについた。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n7615c/
星の愛し子
2012年10月18日14時50分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
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