第15・巻 第10号 レ ザー研究 (764) レーザー解説 イオントラップとレーザークーリング 依 田 潤* (1987年7月30日 受理) Ion Trap and Laser Cooling of Trapped Ions Jun YODA* (ReceivedJuly30,1987) An lon−trap technique and laser cooling of trapped ions are utilized for ultra−high resolution specfros− copy。Followlng an overview of the ion−trap technlque and the laser coollng of ions confined ln an ion trap, some examples of experlments are glven。Application of the laser cooling of trapped ions to basic studies and frequency standards is described. Key Words:Ion trap and Laser coollng. Table I ドップラーフリー分光の種類 1.まえがき ドップラーフリー分光の種類 最近,レーザークーリングという言葉がよく 聞かれる。レーザークーリングとは,レーザー イオントラップ 方 法 文献 電磁波の波長λ,以下の領域にイオンを閉じ込める 1) 電磁波の波長ベクトルと原子の進行方向とを直交させる 2)3) 光と原子との相互作用をうまく利用し,気体原 子を固体化することなく極低温近くまで冷却す 原子線飽和吸収 ることをいい,従来の可視域近傍の分光におい 二光子吸収 て大きな障害となっていたドップラー効果を根 お互いに逆方向に進行する二つの波を利用する 4) 本的に取り除くことができる画期的な方法であ 原子のもつ速度”を零にする る。 ドップラー効果は,気体原子が速度0をもつ ために生じるシフトである。r般に速度0をも つ気体原子(分子)の共鳴周波数ωは次式で与 えられる。 ω一琳・・一去ω(芸)2 5) ここで,ω・は静止している原子の遷移周波数, たは吸収(放出)する光の波数ベクトル,cは (1) 光速度である。右辺の第二項は一次のドップラ ーシフト,第三項は二次のドップラーシフトと *計量研究所(〒305 茨城県新治郡桜村梅園1−1−4) *National Research Laboratory of Metrology(1−1−4,Umezomo,Sakura・mura Niihar圭・gun,Ibaraki 305) 一13一 (765) イオントラップとレーザークーリング 呼ばれるものである。 昭和62年10月 Z これらのドップラー効果を除くために種々の 手法(ドップラーフリー分光)が開発されてき た。代表的なドップラーフリー分光をTable I に示す。 \ / Table Iからわかるように,二次のドップラ z6 路 \ ! 、、 ,’ ーシフトを取り除くことができるのはレーザー 1も クーリングだけである。 ロ ,’一十、、 ’ 1 \ ノ ! 5 \ 数年前に,イオントラップとレーザークーリ !! 1 \ ! 1 \ ングの組み合わせにより,イオンのクーリング 1 \ 霧 1 およびイオンを可視光の波長以下の狭い領域に 辱∪←Vcosρt 閉じ込めることも実現されている鍋。今後,イ オントラップとレーザークーリングを組み合わ F重9.1 Paul trap. せた手法は,レーザー分光学の分野でますます 重要になってくるものと思われる。 電極内のポテンシャルφは,円筒座標(γ,2)で 本稿では,イオントラップにより閉じ込めら 表わして次式で与えられる。 れたイオンに対するレーザークーリングについ 1 て概観することを目的にしているので,先ずイ φ二万考(U一Vc・sΩ言)(γ2}2彩2) (2) オントラップについて述べる。さらに,レーザ ークーリングの原理および閉じ込められたイオ ただし,γ♂=22♂である。 ンに対するレーザークーリングの実験例につい このポテンシャル内のイオンの運動方程式は, て述べる。 2,γ方向で同一の形で与えられる。すなわち, 2.イオントラップ d2%i 薔丁+(α重一2¢iC・s2τ)%i−0 (3) イオントラップとは,電場・磁場を用いてイ オンを閉じ込めるものである。静電場はイオン である。ここで,Zニ2,γ, に同時に空間的三次元の方向に引力を与えるこ 9 τニー孟 2 とはできない。このため,イオンを閉じ込める には,1)交流的な不均一な電場を利用するか, 8εU αz=一2αr二 窺702Ω2 または2)静電場と静磁場を同時に利用するか しなければならない。1)はPau1トラップま 4εy たはrfトラップ,2)はPenningトラップと称さ ¢zニー2(Zr聯 (5) (6) 飢γ♂92 れる。これらについての解説は既になされてい る8−冒101。以下にその概略について述べる。 (4〉 である。 この方程式は,Mathieuの方程式と呼ばれ, 2.1 Paulトラップ その解は詳しく解析されている11)。この方程式 PaulトラップはFig.1に示した様な断面が 双曲線である電極にrf電場を作用させてイオン の一般解は式(7〉で与えられる。 %i(τ)翼・4Σ C2ncos(2η+βi)τ+ を閉じ込めるものである。 BΣ C2n sin(2η十βi)τ (7) 通常,電極間には振幅γ,角周波数9のrf電 圧のほかに直流電圧Uを同時に作用させるので, ここで,君,βは初期条件により決まり,C2nは 一14一 第15巻 第10号 ザー研究 レ (766) a 百↑ 令z尋 ◎ .2 G ,81・O z,6 .4 .2 0.O q .0 1.2 z .2.2, \ ! 1 、 ノ 、 ’ .3 _.2 ZO % .4 β ,5 _,4 1も r ,6 〆一一†、、\ !ノ 1 \\ !! 1 、\ .7 一.6 .8 ! β ! 1 、 監 1ρ・ 一,8 l l l%=Const Fig.2 Stabil量ty diagram of a Paul trap. Fig.4 Penning trap。 Z ここで,N。は定数で,△γ,Zはイオン雲の半径 で, a=OZ qz=0.12 血一・・(鑑)昭 (9) r 等で与えられる。ただしTはイオン雲の温度, Prはポテンシャルの深さである。 イオン雲の半径が測定されていて,舖丁/2= 0.11ε1)が得られている(ただし,Dr=D、篇 Fig.3 Motion of an ion trapped by a Paul .D)13)。 trap, 砺,¢iの関数である。この方程式の解が安定か 2.2 Penningトラップ 不安定かはα1,¢iの値による。αi,¢iが一番小 から1までの任意の値をとる無次元の数である。 Penningトラップには,Fig.4に示したよう に直流電圧Uと静磁場Bを作用させる。 このトラップ内の電荷ε,質量観のイオンの αi,¢iがこの安定領域に入るようにすれば, 運動方程式は,式(1⑨で表わされる。 さいときの安定な領域をFig.2に示す。βiは0 任意の望むイオンをトラップすることができる。 d2γ d7 伽蕊r−e(E+盃一×B) このとき,閉じ込められたイオンは, (1① ωin蹴(π±βi/2)9(η=0,1,2,…)の調和 振動を行なう。 ただし,E=一gradφ,Bニ(0,0,B)である。 αi,¢i<<1のときのイオン運動の様子を この式を,Z,7成分にわけて書き表わすと, Fig.3に示す。 Paulトラッフ。内に閉じ込められたイオンの密 度分布は,ガウス分布をしていて,式(8)で書き 表わせられる12)。 e2U を一一コー2ニO (11) 常70 θB Uε テーj一一ナー一2一γ=0 (鋤 m γ07η γ z η(7,2)=〈r。exp[一(一一)2一(一一♪2] (8〉 ム7 ム2 となる。ただし,7ニκ十かとした。 一15一 イオントラップとレーザークーリング (767) 昭和62年10月 式(11)は,中心力を受けて調和振動をしている Z イオンの運動を表わし,その角周波数ω。は, ω2=2εU/僻♂で与えられる。 式(12は条件εB2加>4U〃♂を満たすとき, 解は式(函の形をもっ。 一jω3ε 一」伽ε γ=Tle 十ず2e harm◎nlc Osci網atbn (1紛 ( 磁場が非常に強いとき,すなわちl B2>> ヤ magne毫ronmo 4伽U/εず・2が成立するときイオンの運動は次式 cycIo on rnotion lo で表わされる角周波数をもつ運動で記述される。 ノ ω1=ωC一ωmニωc (1の Fig.5 Motion of an ion trapped by a Penning trap。 ω2富ωm (19 2.4 イオントラップ法の特長と欠点 ここで,ωc,ωmは eB ωC寵一一 魁 u ωm=藩<<ωc イオントラップ法は,1)長時間イオンを閉 (1⑤ (1の じ込められること,すなわち電磁波との相互作 用の時間を長くできるので高いスペクトルQが 得られること,2)電磁場を用いて閉じ込める ため遷移周波数をシフトさせる要因が少ないこ である。 と等の特長がある。 Penningトラップの中のイオンの運動は,z しかし,イオントラップ法で閉じ込められた 方向には角周波数ω、の調和振動,z軸に垂直な イオンは大きな運動エネルギーをもつという欠 面内の運動は,二つの円運動,すなわち,サイ 点がある。 クロン運動ω毛とこれよりはるかにゆっくりした たとえば,Pau1トラップに閉じ込められた 角周波数をもつマグネトロン運動ωmの重ねあ 199Hg÷イオンは1εyの運動エネルギーをもつの わせたものになる。この様子をFig.5に示した。 で,二次のドップラーシフトは,約一5×10一12 これら三つの運動は,お互いに独立ではなく と大きな値をもつ29)。 式(捌で与えられる関係をもつ。 この運動エネルギーは,以下の方法で小さく 2ω路一2ω.ωm十ωノ=0 (18 することができる。 1)外部につけたタンク回路による方法30) 2.3 イオントラップの実験例 イオントラップの二つの電極間をタンク回路 イオントラップ法は周波数標準器の開発に利 で結ぶと,振動しているイオンはこのタンク 用されている14−1雪マイクロ波領域の分光として, 回路に電流を誘導するので,その結果イオン イオンの基底準位間の遷移周波数の精密測定が の運動エネルギーが小さくなる。 なされている。測定されているイオンは,3He+, 19gHg+,135Ba+,137Bバおよび171Yb+である17−21)。 2)バッファガスの導入による方法31’32) また9因子の測定,22’23)イオンと電子の再結合の断 高い温度のイオンと比較的低い温度のHeな どのバッファガスとを衝突させ,イオンの運 面積の測定24}および準安定準位の寿命の測定25}26} 動エネルギーを小さくする。 が実施されている。 これらはいづれも簡便な方法であるが,室温 我が国では,電波研究所27)および計量研究所28) 以下にすることは難しい。 でPaulトラップの研究が行なわれている。 このような大きな運動エネルギーを小さくす 一16一 第15巻 第10号 レ ーザ 研究 (768) るために,以下に述べるレーザークーリングが レーザークーリングは,以下のことに注意し 行なわれるのである。 なければならない34)。 1)気体分子には適用できないこと。 3.レーザークーリングの原理 特定の共鳴線によるレーザー光の吸収・放 、ここでは中性原子に対するレーザークーリン 出を数万回繰り返すことによりクーリングが グの原理をHanschらの論文により述べる33)。 行なわれるが,分子の場合は光を放出しても 気体原子をその吸収共鳴線の中心周波数ω。よ 元の準位に戻るとは限らないためである。 りも低い(ドップラー幅内の)周波数に同調さ 2)飽和する以上の強い光を用いてもクーリン せたレーザー光ωで,一方からのみ照射してや グの効率は改善されないこと。 ると,レーザー光源に向かってくる原子のみは, 以上述べてきた理論は,レーザー光の強さが ドップラーシフトにより光の周波数を高く感じ 比較的弱い場合に成立するもので,誘導放出は 原子の共鳴周波数に一致するので,大きな散乱 考えていない。しかし,最近は誘導放出を積極 断面積をもち,レーザー光と衝突しその速度は 的に利用するレーザークーリングも提案されて 減少させられる。一方,反対方向に進む原子は 光の周波数を,さらに低く(ドップラー幅外 相互作用による双極子力を利用し原子をクーリ に)感じるので,相互作用を起こさない。故に, ングするものである35’36)。 共鳴線のドツプラー幅内の低い周波数側に同 レーザークーリングに使用されるレーザーの 調された光では,気体原子は光との正面衝突に バンド幅は,ドップラー幅の低い周波数側を完 よりエネルギーを失うだけで,決してエネルギ 全にカバーする位に広いのを用いるか,または いる。これは,レーザー光の振動電場と原子の ーを得ることはない。 単色光のときには,気体原子がクーリングされ 速度砂,質量餌の原子が,運動量五ω/Cをも るにつれて気体の温度が下がりドップラー幅が つ1個のフォトンによりクーリングされるとす 狭くなるので,レーザー光の波長を高い周波数 ると,その速度の平均の変化量は 側(原子の共鳴の中心周波数ω・に近づくよう) に同調していくことが必要である37’38)。または, △む=一充ω/糀c (19 クーリングされるにつれて異なる強さの磁場等 である。いいかえれば,1個のフォトンを放出 を作用させて原子のエネルギー準位をレーザー するときに式(19で与えられる量だけクーリング 光の波長(一定)に一致させていくことが必要 される。 である39}。 600KのMgの気体を例にとり,レーザークー 4.トラップされたイオンに対するレーザー リングの計算を行なおう33)。 Mgの共鳴線の クーリング 600Kでのドップラー幅は3.8×109Hzであ り,自然幅は上の準位の寿命τ=2nsから計算 して8×107Hzである。この温度のドップラー 幅が,自然幅と等しくなるまでクーリングされ 4.1 理論的考察 るとすると,平均の速度は1/50になる。すな わち温度は600K/(50)2=0.24Kになる。波 っれてレーザーの波長を周波数の高い方へ掃引 長は285.l nmなので,一回の衝突により平均 しい。 以上みてきたように,中性原子のレーザーク ーリングの場合は,原子がクーリングされるに すること等が必要であるので技術的にかなり難 して6cm/5だけ速度は減衰する。、T。=600Kで しかし,イオントラップで閉じ込めたイオン の二乗平均速度砺=(3κT。/鵬)1/2は80,000cm/s に対しては,レーザー光の周波数を掃引するこ であるので”。/△夢駕13,000回の衝突で速度はほ と等は必要ないので,中性原子に対するレーザ ークーリングよりも容易である。 とんど零になる。 一17一 (769) 昭和62年玉0月 イオンラップとレーザークーリング トラップされたイオンに対するレーザークー リングをWinelandらの論文によってみてみよ TableH トラップされたイオンのレーザークー リングによる到達温度 う40)。 トラップの条件 2.で述べたようにイオントラップで閉じ込 弱い束縛(Ω《γ) められたイオンは,静止しているのではなく, ある周波数の調和振動を行なっている。簡単な レーザーの波長ω 到 達 温 度 ω篇ω。一γ/2 強い束縛(γ《Ω) ω=ωo一Ω 充γ/4ん 5方γ2/16κΩ ため,イオンはκ,ッ,∼方向に角周波数9x,Ωッ, Ω。で調和振動を行なうとする。イオンは強く束 とにより,イオンはクーリングされる。 縛されていて(γ<<9,ただし,γは自然幅), 束縛されたイオンに対するレーザークーリン かつ入射光(平面波)はκ軸方向に伝播すると グの場合は, すると,イオンからみた光の電場・Ei・nは 1)レーザー光の周波数は低い周波数側のサイ ドバンドの一つに固定しておけば良い E ionニEosin(ん∬一ωオ) ⑳ と書き表わされる。イオンの運動エにっいては, 3)一つのレーザー光で全ての自由度を同時に 次式で書ける。 πニ%asin(Ωx孟+φx) 2)レーザー光の強さはそれほど強いものは必 要ない ⑳ クーリングできる という利点がある。3)は閉じ込められたイオ ここで,勘は振幅,φxは位相因子である。ここ ンの三つの振動Ωx,Ωッ,およびΩ、はお互いに で,φ。諜0としても一般性を失わないので式⑳ 関係していて独立ではないので,一本のレーザ は式⑳のように書き表わされる。 この式はベッセル関数をもちいて展開できて, ー光をi+1+k方向から入射させることにより クーリング可能であるからである。またイオン がかたまっているときには,一つの自由度をク ーリングすると,長距離の静電気力による相互 イオンはキャリア周波数ωおよびサイドバンド 作用で全ての自由度がクーリングできるからで 周波数ω+πΩx(π=±1,±2,……)をもった ある。 Eion=Eosin(ん∬asinΩx孟一ω孟) ⑫2) スペクトルと相互作用を行なうことになる。こ のサイドバンドの強さはベッセル関数の値」ぎ 4、2 到達温度 (肋。)に比例する。逆に,角周波数Ωxで調和振 動を行なっている原子の発するスペクトルは, レーザークーリングで得られる限界の温度が 計算されているので,これをTableHに示す40)。 中心ω。とその両サイドにΩ。の整数倍だけ離れた この限界は,最終的には原子(イオン)の反 位置に生じるサイドバンドをもったものになる・ 跳効果により決まる。すなわち,イオンはフォ その幅はそれぞれ自然幅γだけ広がったものに トンを放出するとき,フォトンから跳ね返され なっている。 るので,この跳ね返りの大きさ以下には静止さ 入射光の周波数を下側(周波数の低い方)の せることはできないのである。 サイドバンドの一つに同調させると,振動して いる原子は肴(伽一噛)のエネルギーを吸収す しかし,一般には効率良くクーリングするた る。ただし,πは正の整数である。この励起さ がレーザークーリングに利用される。たとえば めに反跳効果よりも大きな半値幅をもつ共鳴線 れた原子は,全てのサイドバンドの光を放出す γ=2π×10MHzを利用したとき丁篇3×10一4K るが平均すると充ω。のエネルギーを放出するの が得られる。 で,1個のフォトンの吸収・放出により勉』2。 のエネルギーを失う。これを何回も繰り返すこ 一18一 4.3 実験例 第15巻第10号 (770) レ ザ 研究 NBS(米国国立標準局),NPL(英国物理研 1)弧立イオンの実現とその精密な特性(エネ 究所)およびLHA(仏国原子時計研究所)では, ルギー準位等)の測定。 Penningトラップに閉じ込めた24Mg+イオンの 2)超伝導マグネットを使用し,Penningトラ レーザークーリングの実験を行なっている。 ップに重い質量のイオンを閉じ込めること。 いずれの実験も,クーリングレーザーはリン グ色素レーザーの波長560nmの二逓倍の光を Penn五ngトラップのほうがPau1トラップよ りもイオンの運動が簡単であり,レーザーク 利用している。 ーリングに適する。 その到達温度は,共鳴線の半値半幅から求め 3)イオンと電磁波との相互作用の観測による られていて,NBSは40MHzでO.5K41),NPL 量子力学的現象の解明。 では35−40MHzで100mK421,LHAば140MHz いわゆるquantum lumpsの観測49−51》。 で1K43)が得られている。 4)ボーズ凝縮の観測。 NBSの同じグループは,イオントラップを利 用した周波数標準器の研究を実施している。彼 等はPenningトラップに閉じ込めた9Be+イオ 5)化学反応の研究。 イオントラップで閉じ込めたイオンに原子 線を打ち込み,化学反応を観測する。 ンにレーザークーリングを行なっている44}。ク 6)時問・周波数標準器への応用。 ーリングに利用される波長は313nmであり,連 Penningトラップに閉じ込めた199Hg+イオ 続発振色素レーザーの二逓倍の光を利用してい ンを用いた周波数標準器の精度は10}15と計算 る。サイクロトロン運動の温度は,100mK以 下であり,マグネトロン運動の温度は2Kより されている52)。 7)光領域の周波数標準器の実現 小さいという値が得られている。 201Hg+イオンの二光子吸収(2S1/2→2D,/2, この標準器の正確さは,9.4×10−14であり, 波長563nm)を利用した光周波数標準器の提 現在の時間の標準であるセシウム周波数標準器 案がなされている52)。イオントラップで閉じ 込められた20!Hガイオンはお互いに反対方向 と同程度の正確さをもっていて,次世代の周波 数標準器の候補の一つとして大きな期待がよせ に進行する二つの光子を同時に吸収する。こ られている。 のとき,二光子吸収による共鳴線の形はドッ Heidelberg大学(西独)では,Paulトラッ プラーフリーであり,かつ上の準位は準安定 プに閉じ込めたBa+イオンにレーザークーリン グを行なっていて,36mKの値を得ている45)。 準位であるから寿命が長い(0.11s)。この ため鋭い共鳴線が得られ,10−16台の正確さが 期待されている。 5.イオントラップとレーザークーリングの このほかにも,171Yb+および137Ba+イォン 今後 の二光子吸収を利用した光周波数標準器が提 現時点では,イオンのレーザークーリングよ 案されている53)。 りも,中性原子のクーリングとトラップがより 以上述べたことには,すでに実現されつつあ 多くの話題を集めている461。しかし,いまやイ るものや近い将来には実現されそうもないこと オントラップ法で閉じ込められたイオンに対す なども含んでいる。我が国でもこの分野での研 るレーザーターリングは,より基本的な量子論 究が開始され,基礎研究が充実されることを期 的現象の解明やより精密な測定などに広く利用 待したい。 されている。 参 考 文 献 イオントラップ法とレーザークーリングでど のようなことができるだろうか。以下に,既に いわれていることなどを,書いてみよう蝋81。 1)M。K。Dicke:Phys.Rev.89(1953)472. 2)N。F.Ramsey二 Mo’8cμ1αr β8α用5 (Oxford University Press,L()ndon,1956). 一19一 (771) 4 ;t :/ h -y f I/ Hf- l - t) 3) V.S. 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