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堆積環境における元素の移動(第3報)-石灰岩地方の水
(1)-
Tokuyama, Akira
琉球大学理工学部紀要. 理学編 = Bulletin of Science &
Engineering Division, University of Ryukyus. Mathematics &
natural sciences(15): 81-98
1972-03-01
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/123456789/23466
81
堆積環境における元夢の移動(第3報)
-石灰岩地方の水(D一
渡 久 山 章*
Migration
-Chemical
of Chemical
aspects
Elements
of natural
Akira
University
in Sedimentary
waters in Limestone
Environments
areas (1)
(III)
-
TOKUYAMA
of the
Ryukyus
Summary
For the study of the life of Limestones
(sedimentation
and diagenesis
of
Limestone),
it was tried to clear the origin of chemical
elements
of natural
waters in Limestone
areas.
All HCO, ions of all samples and all Ca2+ ions in almost
samples
are
supplied
from calcium carbonate.
Ca?+ ions less than one fifth,of
total Ca?+
ions in a part of the samples were supplied
from other origins
except calcium
carbonate and sea water. All CI- ions in all samples
were assumed to be
supplied
from sea water. Almost Na+- ions in the samples containing
over 80
mg/1 of Cl ions were assumed to be originated
from sea water, but a part of
Naw ions in the samples containing
under 80 mg/l of Cl~ ions (OKINAWA
CHUBU and NANBU areas) was assumed to be supplied
from other origins
except
sea water. All SOj
ions in most samples were assumed to be
supplied
from sea water, but a part of SO^~ ions in samples containing
under
80 mg'l of Cl- ions were assumed to be released
from Limestones.
All Kions in most samples were assumed to be supplied
from sea water, but a part
of Kf ions in a few samples were assumed to be supplied
from human
activities.
The origin of almost Mg2- ions in some samples was assumed to be
sea water. In some samples, Mg2 åº ions supplied
from carbonates
correspond
toa little part of total Mg'2 - ions in the samples.
The values ofCa2+/Mg2
- in
waters, in this report, are lager than 3.5 - the calculated
value of Ca2+/Mg2 •E•Ein
waters which equilibrate
with solid phases consisted
of calcite
and dolomite.
The behavior of Na- ions and Cl- inos against Ca2•E•E ions in Limestone
areas
( a concentration
of Na<- and Cl- ions in natural waters from these areas is
20-100 ppm) was related
to the origin of these elements.
緒 言
堆横性炭酸垢の地球上における分布が元素のtt地球化学的収支、'の問題にするどい批判をなげ
かけていることは北野(1967)によって指摘された。著者等ば●石灰岩の一生''を描くことによ
って元素の地球化学的収支の間雌のいくらかを解決できるものと考える。石灰岩の一生を描く
受付: 1971年9月30日
sin:∃嗣
82 渡久山:堆積環境における元素の移動(第a報)一石灰岩地方の水(1)ためには,出発物質(サンゴ,砂,貝殻など) ,石灰岩,石灰岩の風化生成物などを辞しく調
査するのが大切であるのと同じ程度に石灰岩を通ってきた蒋液を調査するのも大切である。こ
れまで石灰岩地方の天然水は多くの人によって化学分析がなされ,それらの天然水中の溶存化
学元素の由来などが論じられてきた。
兼島(1965)は沖縄の島々の水質が本土の水に比較してどれ程違うのかを見るために.沖縄
各地,約130ヶ所から採水し.化学分析を行ない,沖縄の水の化学組成を明らかにし,さらに
水の化学組成と地質環境との関係や各成分相互の関係から地方によって水の化学組成は異な
り,化学成分相互の関係も違うことを述べ,宮古島の平良市の地下水に海水がどれ程混入して
きたのかをも調べてある。安藤等(1970)は宮古島の天然ガス調査のために,地下水怯による
地化学探査を行ない,宮古地方の地下水の化学分析を行ない,陽イオンはカルシウムとナト
リウムを主とし,陰イオンは塩素と炭酸を主とすると述べ,此の地域の浅膚地下水は,基本的
には一部の海水の影響を受けた炭酸カルシウム型の水で,他の石灰岩地帯の地下水とよく似た
特徴を持っていると述べた。宮古島や沖縄本島の水の中に蒋けている化学成分の由来について
は宮古島水道誌(19681にも大ざっぱな取り扱いがなされている。琉球工業研究指導所によっ
ても沖縄各地の水の化学組成が報告され(1970) ,現在も採水と化学分析が行なわれている。
磯崎(1970)は宮古地方の水理地質を再検討した。このように石灰岩地万の水の化学分析はか
なりなされ,水に溶けているイオンや化学種の由来についておおまかにはわかっているが,か
なりの畳存在するイオンや化学種についても未だ細かい点まではそれらの由来については明ら
かでない。元素の地球化学的収支の立場からの考察も末だ完全ではない。著者等の目的は石灰
岩地万の水の化学組成を用いて元素の地球化学的収支の問題のいくらかを明らかにしていくこ
とにある。本報告もその流れの一つであり,沖縄本島申.南部と宮古地方で採水した試料の化
学分析を行ない,未だ不完全であるが,いくつかのイオンや化学種の由来について考察を行な
った。天然水の化学組成はいくつかの因子によって決められ,それらの因子の影響が時によっ
て適えば,同じ場所での湧出水でも化学組成は時によって適うことになる。さらに石灰岩地方
の多くの地点の水は採水後,長らく放置しておくと主成分までも変化してしまう。これらのこ
とや採水時の注意を加えて,今後も石灰岩地方の水を調査していきたい。
Holland等(1964)はCave Waterの生成機構を知るためにCave内の天然水をCa2+, Mg2+,
so芸 HCOj-, Sr竺十について測定し,これらのイオンや化学種の天然水と炭酸塩岩石
(calcite, dolomiteを含む)中の組成を物理化学的取扱いによって関係づけている。 Na+,
C「, K+については分析してない。
実 験
試料:試料を採集した場所を図1に,水の湧出
状況,採水月日などを表1に示した。表1には1
日単位で湧出量をも示してあるが,この値は目測
によるものでありおよその値である。試料相互間
で湧出圭がどれくらい違うのかを知る目安として
記した。泉と地下水との区別も本質的な違いは多
くの場合ない。
琉球大学理工学部紀要(理学m 83
Fig.
1. Sampling
T a b le
S a m p le N o .
(L o c a tio n N o .)
Point.
1.
Number
is Sample's
No.
D es c r ip tio n o f S a m p le s
cD o alle
te c t oiof n
T wy pa ete ro f
sBI RHAO AWRIRBAAAU -G
DK ASA L W 15
IGA0 E BNS AU NIG C EH N I
6 '2 -2i - 7 1:
SU ..GサP ..W " .*
Z U Z A -G A (H IR A R A )
6/23/7 1
*
6
7
H U N A K O S H I S U IG E N
6 / 28 / 7 1
*
//
*
8
U K E M IZ U
//
*
20
G IZ A B A N T A
//
*
5000
O O Z A T O -G A
7 1/ 1/7 1
*
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1
L o c a t io n
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O O S H IR O
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15 0
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ll
12
13
14
15
16
17
18
21 091
Y O Z A D A K E S U IG E N
S H IK IN A - E N
K I N J O -C H O ( S H U R I )
G IB O - H IG A W A ( '/ )
H Y A K U N A
oO NT ON KA O- -G GA A
*U. G. W. means underground
water
**S. P. means spring water
***This
water issues directly
in sea water
.
800
500
'/
'/
15 0
7/6/7 1
350
84 渡久山:堆棟噂境における元素の移動(第a報) -石灰告地方の水(1)-
分析方法:
pH:ガラス電極pHメータ-を用いて,
Na+とK+ :炎光分光光度法により8月9日に分析
Ca2+とMg2+ : EDTAによる滴定法で7月7日∼9日に分析
Cl- :硝酸銀による滴定法で7月13日に分析
SO24- :BaCl2啓液を滴加してBaSCiを沈澱させる重圭法で7月13日∼15日に分析
HC03 : B. C. P.を指示薬として塩酸横準溶液による滴定法で7月7日∼9日に分析。
m m t m m
分析結果を表2に示した。
T a b le 2 , C h e m ical co m po sition o f na tu ra l w aters in L im esto n e are as
^T e m p .
H
(m Kg +/1)
H Cg O/1)
(m
f
(mC gl-/1)
23
23
7 .46
7 .20
88
82
2 .3
24
201
252
158
132
21
23
23
7 .65
77 .6
23
23
7 .26
7 .48
9 7 .6
90 .4
5 .2
68
1.8
178
107
27
3 .8
2 .7
40
48
1.0
1.8
24 7
213
81
94
14
16
2 1 .4
7 .72
8
23 .0
2 2 .4
7 .98
7 .74
82 .8
4 .0
33
8 .5
201
43
26
6 2 .4
95 .2
4 .0
4 .9
22
44
0 .25
3 .0
20 1
273
28
55
6 .6
16
9
10
2 2 .3
2 2 .8
7 .70
7 .36
70 .4
87 .6
2 .4
20
28
180
0 .7
8 .5
173
220
39
29 8
ll
23
111
5 .9
31
0 .6
12
13
23 .2
7 .08
113
4 .2
37
1.3
340
42
25
20 .8
22 .2
7 .70
7 .38
5 2 .8
7 4 .4
0 .63
3 .1
20
23
0 .6
2 .8
159
20 9
25
30
3.2
16
22 .0
24 .5
23 .0
7 .30
82 .0
2 .7
34
3 .2
224
34
7 .32
7 .50
12 0
9 7 .2
4 .1
8 .4
32
36
3 .5
ll
315
268
46
47
21
49
2 1.8
7 .34
104
6 .5
45
23
3 24
53
30
20
23
23
7 .80
7 .62
78 .0
90 .8
4 .4
4 .5
25
24
2 .4
1 .8
237
285
34
30
9.0
ll
21
23
7 .40
86 .8
2 .5
25
2 .3
273
33
8 .2
1
2
3
4
5
6
7
14
15
16
17
18
19
C ag"+/I) (m
(m
M gg?+
/D
74 .4
83 .2
ll
14
(m
N ag a^ )
40
S(mO gJ"
/1)
49
7 .4
5 .7
_L__ .
各イオン,化学種の溶存量:表2から各々のイオンや化学種の溶存量としてmg/1で表わして
Ca*+-53-120(大部分の試料では70--90), Mg2+-0.6-20(大部分のは2 - 5 ), Na+-20へ
180(大部分のは25-40), K -0.6-24(大部分のは1 - 3 ), C1--25-300(大部分のは3050), SO『 - 0 -50(大部分のは5 --30), HC03" -159-340 (大部分のは200-300)であり,
陽イオンではCa2+>Na+>Mg2+>K-の頓で陰イオンではHCOa">Cl->SO「の唄になる。
何故,これだけの量が溶けこのような噸序になるだ.ろうか?これらの水の化学組成を規定する
因子としては(1).岩石からの特出(2),降水(3),Dry fallout(4),人間による汚染が考えられる。
上におけるような陽イオンと陰イオンの存在量からそれらの組合わせを考えるとCa(HCOj )2
を主成分とする浴液にNa十, Cトが加わり,さらにMg2+, K+, SO冨 が少し加わったものて
あることがわかる。これらの元素や化学種の搭存量は元素の地球化学的収支の問題を考えるa
mm要uim*
C卜:上で示したようにあつかっている天然水はCa2十とHCOJを主成分としてNa+, Cl-を
琉球大学理工学部紀要(理学者) 85
わりと含みMg2+, K+, SO富-を少し含む浴液である。これら7租のイオンや化学種の由来に
ついて考えるとき,まずCトの由釆を考えてみることが有益である。 (1), C卜浪度は沖縄本島
南部の大部分の水で25-50ppmであり,宮古島の水では80ppmである。先に示したように(兼
島等, 1971)島が小さい程Cl一濃度は高くなるということと一致しており沖縄本島南部の石灰
岩と宮古島の石灰岩とでCI一沸度が水の中のCl-濃度の違いを説明できる程違うとは患えない
し,特に宮古島の水ではC卜洩度の大部分は海水から運ばれてきたものといえそうである。
(2),日本の河川水の平均Cl一沸度は5.8ppmであるが,それの75%は海水に源があり17%は
人間による汚染 7%は温鉱泉水からでてきたものである(金森, 1968)といわれている。
沖縄には温鉱泉水の彫弓削まさほど大きくないと考えられるし,沖縄本島の水のCl-でも,その
大部分は海水からしぶきとして運ばれてきたのではなかろうか(3),石灰岩の出発物質と考え
られるサンゴ,砂のCI-濃度は3岻)土IOOppmである。もしも石灰岩(出発物質)を通ってくる
水のCl一浪度が本報告で測定されたCl一濃度で流出し続けるとすれば琉球石灰岩を作るための
出発物質の層の厚さと一年間にそれら炭酸塩堆積物に浸透している降水の量を考慮すれば出発
物質中のC1-はおそらく8土5 ×103年で全て流出してしまうと患われる。従って現在の石灰
岩中のC1-も出発当時もっていたものではないという可能性が強い。以上の理由で一応沖縄本
島中南部.宮古島での湧出水や地下水のC1-は全て海水の直接混入や海水からしぶきとして運
ばれてきたものであると考える。ただ'しこのことについてはさらに調査を要する。
試料中のCトが全て海水源だとすると試料中のCl 濃度に対して,取扱うある元素のC1-に
対する比の値を図示することによってもそのあつかっているイオンや化学種が海水における組
成とどれ程ちがい海水の影響をどれ程うけているのかをわかりやすく示すことができる。図2
∼図7においてCa2+, Mg2+, Na+, K+, SO上HCOj について示してある。まず貴も目に
つくのは図2と図7の形が似ておりしかも図2においてはCa2-/Cl-比が,図7においては
HCOa /Cl一比が海水におけるこれらの比の値に比べ非常に大きく ci一浪度が小さい程大き
いということである。
Fig.
2. Plots of Ca*!+/Cl-against
Limestone
areas.
Cl-
content
of natural
waters
in
86 渡久山:堆韓環境における元来の移動(第3報)一石灰岩地方の水(0-
Fig.
3. Plots of MgWClin Limestone areas.
Fig.
4. Plots of Na+/Clin Limestone
areas.
Fig.
against
against
5. Plots of K+/C1against
Limestone
areas.
Cl- content
Cl-
Cl-
content
content
of natural
of natural
of natural
waters
waters
waters
in
琉球大学理工学部紀要(理学篇) 87
Fig.
6. Plots
of Soi"/Cl-
Limestone
Fig.
against
Cl~ content
of natural
waters in
areas.
7. Plots of HCOt /Clin Limestone areas.
against
Cl-
content
of natural
Waters
Ca2+, HC03 :上に述べたようにCa2+, HCO毒つまそれらのほとんどが海水以外に源がある
と考えられる。図8に海から入ってきたと患えるHC03とCa2+畳を各々の全量から除いた残
りのHC03とCa℡トとの関係を示した。大部分の試料はCa(HC08 )2倍液の線にあっまるがい
くつかの試料ではCa(HCOs )2浴液の線からずれてHCOs に対してCa2+が過剰に存在する。
Ca(HCO:】 )2溶液の線からずれて多く存在するCa2+丑は全Ca℡+垂の5分の1以下である。大
部分の試料においてはCa2^とHC03はCa(HC03 )iとして存在すると考えられるが,
Ca(HC03 )2溶液はKitano等(1969)が指輪している通り,
CaCO3+H20+CO2- Ca2++2HC03 の反応に従って石灰岩の軒出によっても,さらに
Ca-bearing silicate+2H2CO3 +H20
- Ca2++2HC03 十nR│Si04 +silicate
の反応によってsilicateからも作られる。本研究であつかっている石灰岩を通って石灰岩の下
の不透水層との間から湧出したり,地下水として流れたりしている水のCa2+, HC03は
carbonateの溶柾目こよるのか,それとも silicateの群山によるのだ'ろうか。 Kitano等(1969)
88 渡久山:堆鋼塊における元素の移動(第a報)一石灰岩地方の水.(Dの考えを用いると, (1), Ca2+量と醇在Si02量との関係C石灰岩地方の水の溶存SiO2重は兼良
(1965)によって報告されているコ, (2),反応速度が早い(雨が降って2時間くらい経って
湧出してくる水のCa2+浪度はかなり多くなる)ことなどから,石灰岩地方の水のCa2+, HCOJ
はcarbonateの溶出によるものであると紡諭される。
Fig.
8. Plots of Ca2+(except
Ca«+ which come from Sea Water) against
HCOj
(except HCOJ which come from Sea Water) content in Limestone areas.
HC03 は全ての試料で全HC03が石灰岩(CaCO3 )の溶出で生じたものであり Ca2+は大
部分の試料では全Ca2+がCaCC>3の溶出で生じ,いくつかの試料では全Ca2+の申5分の1以
下のCa*+がCaC03や海水以外に醇があることになる。
図2と図7においてCa2+/Cl-やHC03 /C卜比の値が全体的にみるとCl一過度が低い樫高
くなるのは試料間におけるCl一浪度の変化量に比べ, Ca*+濃度の変化丑は小さいことを示して
いる。このことは石灰岩地方の水のCa2+潰度は(1),石灰岩と浴液(水)との接触時間-これ
は水の通ってきた石灰岩の層の厚さと広さに関係する-(2),水が石灰岩を通るときの水の中の
CO2 量によって規定されることを考えれば沖縄本島南部と宮古島とで水の中のCa2+濃度を規
定するこれらの因子の作用が似ているということを示している。従って全体的にみるとCトは
Ca*+とは同じ行動をしてないということになる。さらに図2と図7において目立つのはCI一浪
度の低い部分 沖縄本島南部の試料 におけるCa*+/Cl-, HC03 /Cl一比のバラツキが大きい
ことである。つまりCl一濃度の低い部分ではCl一濃度は同じでもCa2+, HC03濃度は変るとい
うことになる。これらのことをはっきり示すためにCa2+とC1-の関係を図9に示した。沖梶本
琉球大学理工学部紀要(理学蔚) 89
Fig. 9. Plots of Ca2+concentration
in Limestone areas.
against
Cl~concentration
of natural
waters
島南部の水ではCa*+濃度が増えるにつれてC1-も増えるが,述べたように宮古島の水のCa2+
濃度は沖縄本島南部の水のCa2+磯度の範囲内に入る ci-はすべて海水起源だとしているから
当然のことであるが宮古島の水ではCaォ+渦度の低い水に海水が多く入り,沖柵本島南部の水
ではCa2←潰度の高い水にCa2n濃度の低い水より海水が多く混入することになる tzti.兼島
(1965)のデ-タをみてみると,図9のような関係が常に成立するとは限らないようである。
MgZ十:C卜浪度に対するMg2+/Cl一比の値を図3に示してあるが, Mg2+の分析精度が低く
Ca2+のような議論は今の所出来ない。ただ'石灰岩地万の水のMg2+は試料によってはC1- と共
に海水からはこぼれてきたものが全Mg‡+の大部分を占めるのもあるように思える。
図10には試料中の全Ca2+やMg2+圭から海から入ってきたと恩われるCa2+やMg2+垂を除い
た残りのCa2+とMg2+の関係を示しtz。 mCa2+/mMg2+比の値は10よりも大きく calcite,
dolomiteの共存鉱物と平衡になっている浴液において期待されるmCa2+/mMg2H比の値,
90 渡久山:堆碗環境における元素の移動(第3報)一石灰岩地方の水.0)-
Fig. 10.
Plots of Mg0+ (except Mg?+come which from Sea Water)
against Ca •E(except Ca^+ come which from Sea Water) content
in Limestone Areas.
3.5(Holland等, 1964)よりも非常にCa2+濃度が高いことになる Na+:C1一硬度に対するNa+
/C卜比の値を図4に示した。宮古島の水や海水中に直接注いでいる水sample No.10 のNa+
は大部分が海水起源であると恩われるが, C卜濃度の低い沖縄本島南部の水のNa+は試料中の
全Na+申3分の1-2分の1のNa+は海水以外からきているということになる。このことは図
11のNa+-Cl一図に.おいてよりはっきり示される。図11からもわかるようにCl-浪慶の低い水
のNa+/Cl一比の値はNaCl溶液のNa'/Cl一比の値よりも大きく ci一濃度の低い水ではC1-に
比べ, Na+が過剰に存在する。水中でCトに比べNa+が過剰に存在する理由を見つけるために
水が通ってくると患える石灰岩の出発物質であるサンゴや琉球石灰岩における(Na+/Cl-)固
体/(Na+/Cl-)海水比の値を兼島l:1965のデ-タを用いて求めCl一畳に対して示した図12 0
明らかにサンゴにおけるNa+の濃縮係数の値は8以上でとても大きい。おそらくこのよう
な組成のサンゴを通ってきた水の中では(Na+/Cl-)陸水/(Na+/Cl )海水比の値は1.Oよわ
も大きくなると恩われる。琉球石灰岩においてC卜濃度がかなり高いのは除いてこれは汚染
のおそれがある Cl一濃度が0.01%以下の試料についてみると大部分の石灰岩ではNa+/C1-)
岩石/(Na+/Cl-)海水比の値はサンゴの場合よりバラツキが大きいが1・0よりは大きく 3.0
より大きいものが大部分であり,やはりこのような組成をもつ石灰岩を溶出してきた水の中
の(Na+/C卜)陸水/(Na+/C卜)海水比の値は海水の混入量が少なければ1・0よりも大きくなる
のではないかと患われる。なお図12からサンゴの(Na+/C1-)サンゴ/(Na+/Cl-)海水比の値
は8--30であり,大部分の石灰岩での(Na+/C卜)岩石/(Na+/C1 )海水比の値は3-30であ
琉球大学理工学部紀要(理学篇) 91
Fig.
11. Plots of Na+ concentration
natural waters in Limestone
against
areas.
Cl~ concentration
of
92 渡久山:増税環境における元素の移動l(第3轡)一石灰岩地方の水(1)-
Fig.
12.
Plots of (Na+/Cl-)solid/(Na^/Cl-)sea
Cl- content of Limestones
or Corals.
water
against
る。 30をこすのもあるが数少ない。従ってもしも石灰岩の出発物質としてはサンゴのみだった
とするとサンゴから石灰岩へ移る過程でCトとNa+の挙動について図12からいろいろ考えられ
るが,そのことについては現在実験中である。
このようにして石灰岩地方の水の中のCl一濃度の低い水におけるNa+は海水以外(もともと
は海水起源であってもcarbonateが海水から遊離後降水やDry fallout等で運ばれなかったもの
)にも起源をもつということが説明できそうであるが,前にC1-について行なったと同じよう
にサンゴや砂の中に含まれるNa+量が本報告であげてある水に含まれる量で流出するものとす
ると石灰岩あるいは出発物質の量とそれらの炭酸塩堆稗物に浸透する水の畳を考慮に入れて計
算すると出発物質中のNa+は,水によって流出されることにより8士5×101年経つと0にな
り,図4や図11で示されるCl一浪度の低い水においては試料中の全Na+申3分の1-2分の1
は海水以外に起源があるということを説明できそうにない。しかし,この計算には検討しなけ
ればならないいくつかの仮定が含まれており今後更に検討しなおさねばならない(Cトの場合
についても同様である) 。
K+ : Cl一浪慶に対するK+/C1一比の値を図5に示した。大部分の試料ではK+/C1一比の値
は海水の比の値に近く,石灰岩地万の水のK+は海水の影響を大きくうけているといえる。
海水以外から入ってきたK十の絶対丑を知るために図13にK+とC1-の関係を示した。 14つの就
琉球大学理工学部紀要(理学篇) 93
Fig. 13. Plots of K+ concentration
against Clof natural waters in Limestone areas.
concentration
94 渡久山:堆錬環境における元素の移動(第3報)一石灰岩地方の水.(D-
科については明らかに海水以外から非常に多くの量のK+が入ってきている。これら4つの試
料は特に人家が多かったり,まわりに畑地があったりした場所から典められたものであり,未
だ確定してないが人間による汚染によって混入してきたK+ではないかと患われる。
so音: Cl一浪度に対するSO『/Cl一比の値を図6に示した。大部分の試料においてSO打ま
海水の影響を大きくうけているといえるが ci一浪度の低い沖縄本島南部のいくつかの試料に
おいてS叶/cl一比の値が海水における比の値に比べて高い。試料中の全SO冨-の申,海水以外
から入ってきたと患えるSO呈-畳はどれくらいをしめるかをみるために図14でS0㌢とC1-の施
係を示した。
Fig.
14. Plots of SO] concentration
against Cl~ concentration
of natural waters in Limestone areas.
cl-演度の低い水では試料中の全SO仁の5分の4が海水以外のものに起源をもつと考えられる
試料もある。 SO『/Cl-比の値が海水におけるよりも陸水において高いことを説明するために
Na+について行なったと同じようにサンゴと琉球石灰岩について,兼島(1965)のデ-タを用
い(SO㌢/C卜)固体/(SO『/C1-)海水の値を計算Lci-(%)に対して示した(図15)濃縮
係数の値はサンゴにおいて60-320,石灰岩においてCl の0.01%以下をとれば大部分の・
試料について5-^150である。このような組成のサンゴや石灰岩を通ってくる水の中の・
(S叶/C1-)の値はおそらく海水におけるSO『/Cl一比の値よりも大きいのではないかと息わ・
れる。 SO『/cl一比の値は石灰岩におけ.るよりもサンゴにおいて高いoサンゴのみが石灰岩に
なったとすればサンゴから石灰岩にうつる過程でのso とC1-の挙動を図15からいろいろ希
えることができる。このことについては現在実験中である。
琉球大学理工学部紀要(理学篇) 95
Fig.
15.
Plots of (SOj
/C1-)solid/(SO^/Cl-)sea
content of limestones
or corals.
water
against
Cl~
Cl-やNa+について計算を行なったと同じようにしてSO冨-についても出発物質巾のSO仁
が出発物質や石灰岩を通る水に溶け,何ヶ年かかったらな くなるのかという計算を行な
ってみると, SO富-はNa+よりも長い間存在できて, 6士5×105年経つと0になると計昇さ
れる。この年数は地質学的に考えられている琉球石灰岩の年数とかなり一致する。従って水の
中のSO『は海水以外(石灰岩など)からもきているということはNa+の場合よりも,もっと
はっきりいえそうである。
石灰岩の化学組成と石灰岩を通ってきた水の化学組成の比較:琉球石灰岩の化学組成は兼島
1965によって報告されており,大部分の石灰岩における化学組成はCa2+,37-39%;Mg2+,
0.12-0.24%; Na+, 0.01-0.02%; C1-, 0.001-0.005%; SO3 0.01-0.03%であり,
前に記した水の化学組成を用いて(M/Cap-)水/(M/Ca2+)岩石(ただしMはあるイオン又は
化学種)の値を計算すると, Mg?十では(3/80) /(2(泊0/3800㈱)- 7 , Na+では(35/80)/(150/
380000) -1100, Clでは(40/80)/(30/380000) -6300, SO昔-では(15/80)/(200/3800㈱) -360
となり, Na一, C卜 so│-ではとても大きな値になる。溶出され易さの度合いが,化学種によ
って異なるから一義的にこれらの浪縮係数の値から元素や化学種の由来を決めることはできな
いが,おそらく濃縮係数の値の大きいもの樫海水の影響を大きくうけているのではないか。陸
水と石灰岩やサンゴのNa-/Cl一比の値やSO3 7ci一比の値が海水中のこれらの比の値よりも大
きいことも陣水中ではCトに比べNa←やso4 は海水の影響をより少なく受けているといえる。
96 波久山:増額環境における元素の移動(第3報) -石灰岩地方の水(1)-
石灰岩地方の水に溶けているイオンや化学種の由来:以上の結果をまとめると石灰岩地方の
水の全HC03は石灰岩中のCaCOgの溶出によって生じ,大部分の試料ゼiま全Caサ+はCaC03
の溶出によって,いくらかの少数の試料では全Ca2+の申5分の1量以下のCa2+がCaC03の溶
出と海水以外に源をもつようである HC03とCa2-†の次の主成分であるC1-とNa+はC1-はほ
とんどが海水源であり Na はCl一濃度の低いすべての試料で海水以外にも源があり多分石灰
岩からの溶出の影響も未だあるように思える。次に多く存在するSO『は大部分の試料で海水
の混入で説明できそうであるが, Cl 濃度の低い試料のいくつかにお+、ては海水以外にも源が
あるように思える。 K⊥はほとんどの試料で海水の混入によって説明できそうであるがC卜濃
度のいかんにかかわらずK+濃度の異常に高い試料があり,人間による汚染のせいではないか
と患われる。本報告における水の中の潜存量は少ないが石灰岩を含む堆横環境における元素の
移動の問題を考えるのには非常に重要な元素の1つであるMg・2+については本報告では分析精
度が低いため他の元素のような議論はできないが石灰岩地万の水でCl-溌度がかなり低い水に
おいてさえも全Mg2^がcarbonateの溶出で生じるのではないといえそうである。
CaZ^濃度の低い水と商い水における化学組成の比較:石灰岩地万の水におけるCa2+濃度は
第-に石灰岩と溶液との接触時間によって決定され石灰岩と溶液とが接触する時間が長い程溶
液中のCa?+濃度は高くなることはすでに述べたく渡久山等, 1971) 石灰岩地方の水に溶けて
いるイオンや化学種の起源はイオンや化学種の違いによって違う起源が考えられる。起源は全
Fig.
16. Change of Na+,Ca2+,
ci~, Na+/Ca2+
waters in limestone
area(RYUHI)
with
Number in parentheses
indicates
issued
and Cl-/Ca2+
of natural
time.
quantity
of waters(1/min.).
琉球大学理工学部紀要(理学帝) 97
く同じとは思えぬが石灰岩地方の水の主成分であるCa2十に比べ他のイオンや化学種がどのよ
うなふるまいをするかは石灰岩を含む堆稗環境における元素の移動を考えるときに重要な問題
と思われる。ここでは特に本報告における石灰岩地方の水の中の潜存揮中ではかなり多く含ま
れているC1-とNa+についてみてみる Ca2+濃度の低い水の代表としてt)ウヒの水があげられ
る(渡久山等, 1971) 図16にリウヒの水について1971年4月16日から4月26日の間に採水さ
れた試料について測定した結果を示した。 4月16日9時より採水しはじめ4月18日9時まで採
水できたがその後4月21日の?Jl時までは雨が降らなかったため湧出せず。 4月21日の夜雨が降
ったために湧出Lだし4月23日の16時まで採水でき,あと湧出せず。 4月26日16時50分には又
湧出していた。図16からCa2+, C1-, Na+の含量が時間と共にどのように変化するかがわか
る。このような同一地点におけるCa2+濃度と湧出量と時間との関係については前に考察した
(渡久山等, 1971) 。図16にはさらにNa+/Ca*+やCl-/Caォ+比の値も計算して示した。図16
からNa+やC1-の行動はCa2+の行動と一致し Ca2+が増える時にはNa+やCトも増え,減ると
きには減っている Na+やCトの起源は大部分が海水であると考えられるがCa2+と同様に水が
長い間,岩石(固相)と接している程Na+やCトも多く潜けてくるということになる。このこ
とは図9と図11からもいえる。緒言にも述べたが図16は同一地点の水でも時により化学組成が
変化するものであることをはっきり示している。図16におけるNa+/Caサ+, Cl-/Ca2+比の値
の時間による変化は全くNa+やC1-の時間による変化の様子と一致し Na+やCl はCa*+より
もあつかっている環境下では動きやすいということが考えられる。さらにCa2十濃度が80ppm
以上と高い水におけるNa+/Ca2-やCl-/Ca*+比の値は1)ウヒにおけるNa+/Ca2+やCl-/Ca2十
比の値よりも小さい。石灰岩地方の水においてはCa2+が増えるとNa+やC1-も増えるが, Ca2+
濃度の高い水では Na+やCトの増加率はCa2+の増加率より も小さく,石灰岩地万の水の
Na十やCI一含量はCa?+含量よりも早く最大値に達するものと患える。
謝 辞
本研究は理工学執兼島研究室で行なわれたものであり兼島教授は常に賓重な御教示を下さ
った。厚くお礼申し上げますO
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