46. MEMS 技術を用いた建築物の健全度診断技術に関する研究 -建築

平成 26 年度
近畿大学工学部建築学科卒業研究概要
46. MEMS 技術を用いた建築物の健全度診断技術に関する研究
-建築物の耐震改修工事における微動実測調査-
1110920031 市川俊
指導教員
耐震改修
MEMS 技術
固有周期
応答倍率
松本慎也
准教授
Is 値
1. はじめに
近年劣化や損傷の補修など維持管理が重要な課題とな
り、建築物の状態を容易に診断できる技術の必要性がさ
らに高まってきている。
本研究は、建物を安全に長く使うために、今後さらに
必要性が強くなる耐震診断などの建築物の評価技術にお
ける、合理的で簡便的な耐震性診断技術を構築すること
を目的としている。そこで、現在技術の発展が著しい
MEMS 加速度センサに注目する。従来の有線式のセンサ
と比較すると、本センサは小型・軽量で安価なシステム
であり、無線であるため配線不要である。また、従来の
センサは 1 センサで 1 方向の計測しか出来ないが、本セ
ンサでは 3 方向計測可能である。このセンサを活用した
動的診断による建築物の評価技術の向上を図る。
図 1 長辺方向伝達関数(改修前)
2.調査概要
計測対象の建築物に MEMS 加速度センサを設置し、常
時微動計測を行う。また、この実験は本研究の目的であ
る建築物の評価技術を検討するためのデータの蓄積、
図 2 長辺方向伝達関数(改修前)
MEMS 加速度センサおよび解析ソフトの検証を行う。
3.東広島市郷田小学校
構造種別:鉄筋コンクリート造、建物階数:3 階建
建築年月:昭和 55 年 3 月、Is 値:0.54
写真 1
外観(改修前)
写真 2
外観(改修後)
1 次固有周期、伝達関数のグラフともにあまり変化が見
られなかった。これは郷田小学校が元々の剛性、Is 値が
高かったことにより、小規模の耐震改修工事を行ったこ
とが要因と考えられる。郷田小学校は改修工事前から長
辺方向の固有周期は 0.10 秒と短く、5 箇所の鉄骨ブレー
スの設置では変化はなかった。また、短辺方向は短辺方
向に影響する耐震改修工事を行っていないため、変わら
なかった。
4 熊野町立熊野中学校
構造種別:鉄筋コンクリート造、建物階数:地下 1 階、3
階建、建築年月:昭和 47 年 3 月、Is 値:0.32
長辺に鉄骨ブレースを 5 ヶ所に設置しており、小規模
な改修工事を行っている。
MEMS 加速度センサの配置は、改修前では地盤面と 1
階に 1 箇所ずつ、3 階に 3 箇所の計 5 箇所で計測してい
る。改修後は地盤面と 1 階、2 階に 1 箇所ずつ、3 階に 4
箇所の計 7 箇所で計測を行っている。
計測結果を表 1 と図 1.2 に示す。
表1
方向
1 次固有周期
改修前
改修後
建物長辺方向
0.10
0.10
建物短辺方向
0.18
0.18
写真 3 南側外観(改修前)
写真 4 南側外観(改修後)
長辺にブレースを取りつけ、短辺に耐力壁増設という
大規模な改修工事を行っている。
Study on Structural Health Monitoring using MEMS Technology
-Microtremor Measurement for Seismic Renovation of Building-
ICHIKAWA Syun
建築材料研究室
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平成 26 年度
MEMS 加速度センサは鉛直配列として、1 階から屋上
の各階にブレースを設置する同じ場所に設置する。1 階
と屋上にはもう 1 箇所ずつ東端に設置する。水平配列と
して、屋上の西端に 2 箇所、ブレース設置場所に 2 箇所、
東端に 2 箇所。計 6 箇所を設置する。鉛直配列、水平配
列ともに GL として基準となる地下 1 階に設置する。
計測結果を表 2 と図 3.4 に示す。
表2
1 次固有周期
改修前
改修後
建物長辺方向
0.30sec
0.17sec
建物短辺方向
0.11sec
0.10sec
方向
近畿大学工学部建築学科卒業研究概要
広島市立広島工業高等学校は壁面の劣化が激しく現
在、鉄骨ブレースによる耐震改修工事を行っている。
MEMS 加速度センサの配置図を図 5 に示す。
図 5 屋上平面図
計測結果を表 3 と図 6 に示す。
表3
1 時固有周期
方向
1 次固有周期
建物長辺方向
0.238sec
建物短辺方向
0.157sec
図 3 長辺方向伝達関数(改修前)
図 6 短辺方向伝達関数
図 4 長辺方向伝達関数(改修後)
伝達関数のグラフにより、短辺のグラフの N1・N4 の
振幅比が大きくなっているため、センサを配置した N1・
長辺方向の 1 次固有周期、伝達関数のグラフともに大
幅に変化している。図 3 と図 4 を比較しても揺れが小さ
くなっていることが確認できる。改修前の熊野中学校は、
固有周期が長く、Is 値も低いため、大規模な改修工事が
行われたことが要因と考えられる。長辺方向には鉄骨ブ
レース、短辺方向には耐力壁の増設の改修工事を行って
いることにより、どちらの固有周期も短くなっているこ
とが確認できる。
5.広島市立広島工業高等学校建築棟
構造種別:鉄筋コンクリート造、建物階数:2 階建
6.まとめ
建築年月:昭和 43 年
7.参考文献
N4 地点が揺れやすいことが確認できた。これにより、建
築物の揺れが伝達関数のグラフに反映しているといえ、
構造的に弱いカ所の確認が可能であることがわかった。
MEMS 加速度センサによる計測は 1 時間程度で完了し、
実際の現場での計測も容易に行えることが確認できた。
また、改修工事が無事完了しているかの確認も行えるこ
とがわかった。
1)槇谷栄次、町田恭一、山口啓三郎、図解耐震補強・改
修・診断、pp.50-90
2)耐震診断の流れ(JSDA)一般財団法人
日本耐震診断
協会 http://www.taishin-jsda.jp/flow.html
3) 耐震ネット:耐震診断と耐震補強を考える,
http://www.taisin-net.com/solution/online_seminer/sindanhok
写真 5
外観
写真 6
壁面
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建築材料研究室
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