AL型授業への挑戦 - リクルート進学総研

動き出す学校と先生たちの 実 践レポ ート
ィブラーニング
クテ
ア
AL型授業への挑戦
昨年末の中央教育審議会の答申において、高等学校教育の改革として「主体的・協働的な
学習・指導方法であるアクティブ・ラーニングへの飛躍的充実を図る」
と記されました。弊社の
調査※では、約47%がアクティブラーニングなどの授業改革に取り組んでいるが、学校組織と
して取り組んでいるのは8.7%とまだわずか。そこで今号より、学校としてアクティブラーニング
型授業
(以下「AL型授業」)
に取り組みはじめた事例を紹介する連載をスタートします。
企画協力/小林昭文(産業能率大学 教授) 取材・文/長島佳子 撮影/杉浦康之
小杉高校(富山・県立)
第1回
めた。その一つがALの導 入だった。
導 入に向けての米 谷 先 生の動きこ
そがアクティブだ。文部科学省の研究
指定校に手を挙げ採 択 。グループワー
クは小 中 学 校の方が進んでいたため、
中 学 校の先 生にも指 導を請う 。さら
にAL型 授 業の啓 発 活 動を行う小 林
だ方が相 乗 効 果があります 。生 徒に
昭 文 先 生 を 産 業 能 率 大 学 まで 訪 ね
て 、自 校での研 修や若 手 教 員の直 接
﹃いまの時 代はチーム力が必 要 だ ﹄と
グループワークをやらせるのに、教 員
ができなければ説 得 力がありません﹂
最 初は失 敗しても 、根 気よく 継 続
することが重 要だという 米 谷 先 生は、
指導を直談判した。
現場からは戸 惑いもあったという。
﹁個々の考え方があるので足並みが揃
わ な くて 当 然 。無 理 強いはしません
が、﹃ 生 徒 を 成 長させる授 業 をする ﹄
革の風 土が根づき 始めた小 杉 高 校は
月に高 岡 高 校に転 任 。授 業 改
ず なので 、その方 向 性には同 意して
新たなメンバーを加え、さらに改 善の
この
もらい徐々に広 げています 。そして一
輪が広がっていくだろう。
ことは、教員全員の共通目標であるは
人でやるよりチームや組織で取り組ん
2015 MAY Vol.407
米谷和也前校長
現・富山県立高岡高校校長。1982
年に富山県射水市(旧新湊市)
の新
湊小学校から教員キャリアがスター
ト。その後、中学校教員を経て、1991
年から富山県の高校教員に。県立伏
木高校教員時代に進路指導主事を
経験する。1999 年より富山県の未
来財団勤務を経て、2002年富山県
教育委員会の総務課(後に教育企
画課に名称変更)に赴任。2007 年
から県 立 有 磯 高 校で教 頭を勤めた
後、2009年富山県教育委員会で県
立学校教育課改革推進班の班長に
着任。2012 年より小杉高校校長。
地域の小中学校と連携しつつ、時代
に 適 合する授 業 改 革を推し進め、
2015年4月より現職。
小杉高校のアクティブラーニング型授業への取り組みの歩み
小杉高校の能動的な授業の素地は、
1995年に同校が総合学科として生まれ変わったと
きから、
キャリア教育と課題研究を授業に取り入れたことからスタートしている。2012年に
米谷先生が校長として赴任後、2013 年に文
部科学省の「確かな学力の育成に係る実践
的調査研究」における「学力の定着に課題を
抱える学校の重点的・包括的支援に関する調
査研究」の研究指定校に採択。以後、外部の
スーパーバイザーによる研修や授業研究会等
を行いながら教員の指導力向上を図っている。
(写真は本年2月に行われた、
小林昭文先生に
よるAL研修)
※小誌Vol.406 P28参照 「高校生の進路指導・キャリア教育に関する調査2014」
(リクルート進学総研)
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強力なリーダーシップのもと、変化の時代に
対応できる人材育成を目指す
教員の成長があってこそ
生徒の成長が実現できる
20
小 杉 高 校は3年 前に米 谷 先 生が校
長として赴 任した時 、
AL型 授 業へと
大きく舵を取り始めた。
年は、高
94
﹁ 小杉高校は総合学科として 年目。
総 合 学 科の制 度ができた
校 教 育の多 様 化を目 指した時 代でし
た。しかし、 年の﹃ 学びのすすめ﹄
で
基礎・基本の学力が重要視され、こう
した変 化の中で、岐 路に立たされてい
ると感じたのです ﹂
変 化の激しい時 代を生き抜 く 力を
生 徒に身につけさせ、時 代の変 化に対
応 する 学 校にするには、教 員 自 身の
指 導 力 を 高めることが必 須 と 考 え 、
学 校 全 体での授 業 改 革に取り組み始
4
02
1919年創立/全日制総合学科/生
徒数475人(男子139人・女子336
人)/進路状況(2014年度実績)大
学36.5%、短大21.8%、職業訓練大
学校1.3%、専門学校32.7%、就職
7.7%
教員3年目
斉藤匠平先生
数 学 A(1学年※1)
教員志望であったものの、
ものづくりの仕
事も経験したいと思い、2009年大学院
を卒業後、民間企業に就職。製造業の
生産管理職を経験した後、2013年に教
員に転身、小杉高校に赴任。教員として
のモットーは「何事も楽しく、
日々成長」。
﹁振り返りシート﹂の
効果は絶大。シートの活用で
わからないことを具体化できる
個々の生徒をよく見つめて
自分も変化・成長したい
この日の授 業は一次 不 定 方 程 式 。
複 数ある解き 方の一つを 斉 藤 先 生が
板 書で解 説した後 、生 徒たちはグルー
プに分かれて解いていく 。解けた生 徒
はわからない生 徒に教 えるが、
﹁ わか
らない人 同 士でも 、話し合っているう
ましょう ﹂などの声 をかける。5分 間
で各 班の紙には多 数の付 箋が貼られ
﹁わかったこと ﹂
﹁わからなかったこと ﹂
授 業の最 後には必 ず﹁ 振り返りシ
を書かせる。シートには
ート﹂
呼び止め質問を浴びせかけていた。
なかったが、グループになると 先 生 を
前 は 質 問 を 促 して も 誰 も 手 を 挙 げ
案 を 出し 合っていく 。グループワーク
いていく 。先 生が伝 えたグループワー
にインターネットの良い点 、
悪い点を書
合いを 始めた。配 布 された紙 と 付 箋
ちは冒 頭からグループに分かれて話し
ットの利 用について ﹄
に対して、生 徒た
のテーマ
﹃ 調べ学習におけるインターネ
日の黒田先 生の授 業の課 題 。小 論 文
あらかじめ板 書 された﹁ 功 罪 両 面
から 論 じる 小 論 文 の 書 き 方 ﹂がこの
﹁ その後 、授 業 研 究 会を何 度も経 験
方がわからなかったという。
め、当 初は国 語 科でのALの取り入れ
に参加した。物理の研修授業だったた
黒田先 生は昨 年 、小 杉 高 校 赴 任と
ともに、小 林 昭 文 先 生のAL研 修 会
ていた。
え、
それをもとに小 論 文の構 成を練っ
点 ﹂を1つに絞り、理 由と解 決 策を考
ていた。その後 、各 班の意 見をまとめ
を書く欄がある。
クで大 切にして欲しいことは﹁ グルー
しました。それは優れた実 践 者であっ
されたことで 、自 分の 課 題 だと 発 見
クの際に口を 出しす ぎていると 指 摘
して 衝 撃 的 だったのは、グループワー
た 上 で 、生 徒 は 自 分 で 選 んだ﹁ 悪い
﹁ 振り返りシートを 具 体 的に書いた
先 生は教 室を巡りながら、﹁ 残り時
間1分です。できるだけ多く書いてみ
プで 協 力して 話し 合 うこと ﹂、
﹁集中
生徒が集中して考えるために
最低限の声がけを実践中
AL型授業の要素は、
優れた先人も実践していた
実は基本中の基本だった
高校時代、
国語の授業が楽しく小説のお
もしろさに目覚め、国 語 教員を目指す。
2008 年県立新川みどり野高校(定時
制)
に着任後、2014 年から小杉高校で
教鞭を執る。モットーは「自分を表現する
ことの喜びを、生徒たちに伝えたい」。
生 徒ほど 次のテストの点 数が着 実に
ちに解決策が見つかるかもしれないよ﹂
国 語 総 合 A(1学年※1)
して取り組むこと﹂。
と 先 生 が 声 をかけ る と 、いろいろ な
教員8年目
上がっています。AL型 授 業を始めて
から生 徒が楽しそうで、寝ていた生 徒
も 起 きます 。以 前 授 業 中に寝ていて
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2015 MAY Vol.407
※ダウンロードサイト:リクルート進学総研 >> 発行メディアのご紹介 >> キャリアガイダンス(Vol.407)
黒田圭先生
※1 取材時 ※2 大村はま
『大村はま国語教室 第一巻』
「 単元学習と私」
( 筑摩書房 1982.11.30 初版 P.320−321)
より
した戦 後の日 本 と 、知 識 基 盤 型で変
林 先 生の研 修で、工業 化 社 会 を 目 指
革に前 向きになれました。そして、小
した。周 囲の協 力のおかげで 授 業 改
った点 、
改 善 点などを協議してくれま
員 全 体がALの進め方に対 する良か
﹁ 授 業 研 究 を 行った際に、数 学 科 教
初AL型 授 業に懐 疑的だったそ う だ。
派遣した先生 だ。だが、斉藤先生は当
小林昭文先生に直接指導を依頼して
ともありました﹂
赤 点だった生 徒が平 均 点 を 超えるこ
ら 柔 軟に取り 組 むことが、自 分の 成
ルが確 立していないので 、楽しみなが
感しました。まだ教員としてのスタイ
っていかねばならない﹄ということを実
ためには、教 員が社 会に合わせて変わ
い時 代に対 応できる生 徒 を 育 成 する
﹁ なんとなく感じていた
﹃ 変 化の激し
導する、教員としての姿勢だった。
ること と 、個々の 生 徒 をよ く 見 て 指
持 ち 続けて 新しい挑 戦 を 実 践してい
小 林 先 生から最も影 響を受けたの
は、小 林 先 生 自 身が現 在 も 向 上 心 を
得できました﹂
要 な 授 業 手 法 だと 聞いて 、意 義 を 納
生 徒に身につけさせるためにALは必
AL型 授 業で 教 員
目 下の不 安は 、
の想いが生徒に伝わるかどうかだ。
はずと思えるようになった。
科なりに達 成させるアプローチがある
あることから、型にとらわれずに国 語
AL型 授 業とは生 徒が自 分で考え
学 習する時 間を最 大 化させる授 業で
ています ﹂
小 林 先 生の真 似 をすることから始め
けは難しいことですが、そこはま ず 、
始めました。効 果 的で最 低 限の声が
のです。それ以来 、自 分なりに工夫し
ゃまになる ﹄という、基 本と同じだった
発言が
﹃ 深く考えている子どもほどじ
た 故・大 村はまが語っている 、教 員の
分の幅を広げていきたいです ﹂
の 先 生 方 の 実 践に触 れたりして 、自
Lに関 す る 本 を 読 んだり 、理 論 や 他
た。いまは試 行 錯 誤の段 階なので、
A
ときの写 真を見せて、話をしてみまし
別に、自 分が福 島の被 災 地 を 訪 れた
産業能率大学 経営学部教授
小林昭文先生
1952 年生まれ。空手のプロを経て、
埼玉の県立高校教員として25年間勤
務したのち、定年退職、2014年より現
職。河合塾 教育研究開発機構 研究
員も兼任。教員時代にカウンセリング、
コーチング、アクションラーニング、
メン
タリングなどを学び、最終勤務校では
物理のAL 型授業を実現。現在もその
研究と実践、啓発活動に取り組む。
2
本企画の連載スタートに当たり、小杉高校を推
薦した理由は、米谷前校長の強いリーダーシッ
プと、それに呼応する現場で中核となる先生方
と、その先生方から徐々に全体へとAL型授業
が広がっていく状態に、大きな可能性を感じた
からです。
ある日突然、
米谷前校長が研修会をやってほし
いと現れたことに驚きました。研修会の依頼は、
通常電話やメールですが、直接いらしたことに
授業改革に対する並々ならぬ意欲と熱意を感
じたのです。また、若手の教員を預かってほしい
と頼まれ、右の斉藤匠平先生が産業能率大学
に10日間やってきて、
うち4日間はほぼ私に貼
り付きで行動をともにしました。校長が若手教
員の10 年、20 年先の資質形成にも尽力され
ているのだと思います。
AL型授業の推進に小杉高校のようなリーダー
シップが欠かせないのは、
ALのような新しい試
みは、個人の先生だけでやろうとすると、当初う
まくいかない場合に潰されてしまう可能性があ
るからです。リーダーが率先して取り組めばそれ
を防ぐことができます。
小杉高校はリーダーシップとコアチームの先生
方の存在という両輪が揃っていて好スタートを
切りました。教員間の横の広がりでAL型授業
を発展させていくだろうと期待しています。
斉 藤 先 生は、富 山 県の﹁ 教 師 力 向
上 支 援 派 遣 事 業 ﹂で 、米 谷 前 校 長が
化の激しい現 代では求められる 能 力
﹁ そのために、例えば今 日は課 題とは
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長に繋がると思います ﹂
リーダーシップと組織的な取り組みで
理想的なAL推進となる可能性に期待
が異なり、
いま必 要とされる能 動 性を
小林昭文先生からの
アクティブラーニング型授業への
アドバイス