JOHO KANRI - 情報管理Web

 PRINT ISSN 0021-7298
ONLINE ISSN 1347-1597
昭和33年8月8日第3種郵便物認可 第52巻第2号平成21年5月1日発行(毎月1回1日発行)
情報管理
JOHO
KANRI
Journal of Information Processing and Management
May
月号
2009
JoVE オンラインビデオ
ジャーナルの可能性
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
BMB2008におけるフォーラムから
鳥取県立図書館のSWOT分析と
「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
vol.52 no.2 p.69-132
http://johokanri.jp/
情報管理
16/62(590
2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
JoVE オンラインビデオ
ジャーナルの可能性
69
駒田致和
高雄啓三
中西和男
宮川 剛
77
長神風二
86
小林隆志
95
堀内美穂
佐藤恵子
吉田敏也
頼母木浩一
■生命科学をはじめとする実験科学の領域において,実験の手順や条件などの記述手法であるプロト
コルによって,多くの研究者が複雑・高度な実験を簡単に,確実に行うことができるようになりま
した。テキスト形式のみでは伝えきれないプロトコルの情報をビデオ(動画)形式にし,オンライ
ン上で共有しようというひとつの試みが,オンラインビデオジャーナルJoVE(Journal of Visualized
Experiments)です。このジャーナルのエディターを務める著者より,JoVEの目的や編集方法につい
て紹介します。
生命科学のコミュニケーションから見た
科学研究情報流通
BMB2008におけるフォーラムから
■科学技術情報流通について,流通に携わる関係者の間では問題となっている課題が,情報を生産・利
用する研究者にとってはあまり関心を持たれていない現状があります。生命科学系の学会において科
学研究情報の共有をテーマとしたフォーラムを開催した著者が,そこで交わされた議論を元に,そこ
から整理された問題点,将来に向けた展望を報告します。
鳥取県立図書館のSWOT分析と
「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
■鳥取県立図書館では,近年利用者に向けて良質なサービスを提供するためにさまざまな改革に取り組
んできました。「県民に役に立つのは当たり前,県民に役に立つと認識してもらうことこそが重要」
と意識を変え,自館の強み・弱みを見直すSWOT分析から,さまざまな経営戦略を導き出し実践して
います。ビジネス支援サービスに取り組む担当者から,鳥取県立図書館の戦略と具体的な取り組みに
ついて紹介します。
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
■科学技術文献利用者に対して文献情報の入手・利用についてJSTが昨年行ったアンケートで,9割を
超える方が電子化されている資料が少ないことに不満を抱いていることがわかりました。これを受け,
国内の科学技術関連資料の電子化の現状を把握するための調査を昨秋行いました。調査結果から,国
内資料の電子化率が低いことが確かめられました。
目次
月号
4H`
リレーエッセー:
102
佐藤和代
104
森田歌子
106
呑海沙織
110
名和小太郎
112
115
宮入暢子
117
近藤一志
119
中田清一
インフォプロってなんだ?
私の仕事,学び,そして考え 第2回
情報交差点:
すべての県民のニーズに対応できる
ハイブリッド図書館!
高等教育機関附属図書館と公共図書館の連携で
図書館サービスの向上を
福井県立図書館長永田康寛氏と現場の方々の熱意を知った
視点:
図書館ねこデューイとパブリック・リレーションズ
情報論議 根掘り葉掘り:
脅迫されるジャーナル
「サイテーション・インデックス前史」に寄せて
宮入暢子氏のコメントについて
この本!〜おすすめします〜:
名和小太郎
情報管理部門の組織運営の悩みを解決します
図書紹介:
『書きたい表現がすぐに見つかる英文メール』
120
情報界のトピックス
130
PINUP
124
海外文献紹介
132
編集後記
vol.52 no.2
JOHO KANRI 2009
Journal of Information Processing and Management
Contents
May
The potential benefit of JoVE,
an online video journal for science
69
KOMADA Munekazu
TAKAO Keizo
NAKANISHI Kazuo
MIYAKAWA Tsuyoshi
Information distribution in life sciences communication
77
NAGAMI Fuji
The SWOT analysis and “Dreams come true in library”
award of Tottori prefectural library
Survey of digitalization status of STM journals
published in Japan that JST collects
86
KOBAYASHI Takashi
95
HORIUCHI Miho
SATO Keiko
YOSHIDA Toshiya
TANOMOGI Hirokazu
The forum at Biochemistry and Molecular Biology 2008
Relay essay:
102
SATO Kazuyo
Information crossroad:
104
MORITA Utako
Opinion:
106
DONKAI Saori
In-depth argument on information:
110
NAWA Kotaro
Comment on “The prehistory of Citation Index”
Replying the comment from Ms. Nobuko Miyairi
112
115
MIYAIRI Nobuko
NAWA Kotaro
My bookshelf:
117
KONDO Hitoshi
New book:
119
NAKADA Seiichi
What I do, study, and think as an information professional (2)
Hybrid library that satisfies the needs of
all the citizens!
Improving the library service through cooperation of highereducation institution libraries and public libraries
Enthusiasm of Mr. Yasuhiro Nagata, chief librarian of Fukui
prefectural library and the staff
Library cat Dewey from a view point of public relations
Journals under threat
It solves a trouble of the organization administration
of the information management section
120
Topics of the information community
130
PINUP
124
Literature guide
132
Editor's note
JoVE オンラインビデオジャーナルの可能性
JoVE オンラインビデオジャーナルの
可能性
The potential benefit of JoVE, an online video journal for science
駒田 致和1,4 高雄 啓三2,3,4 中西 和男2,4 宮川 剛1,2,3,4
KOMADA Munekazu1,4; TAKAO Keizo2,3,4; NAKANISHI Kazuo2,4; MIYAKAWA Tsuyoshi1,2,3,4
1 自然科学研究機構 生理学研究所 行動・代謝分子解析センター 行動様式解析室(〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字
西郷中38)
2 京都大学大学院 医学研究科 先端技術センター 生体遺伝子機能解析グループ
3 藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 システム医科学研究部門
4 JST BIRD&CREST
1 Section of Behavior Analysis, Center for Genetic Analysis of Behavior, National Institute for Physiological Sciences
(38 Azanishigounaka Myodaiji-cho Okazaki-shi, Aichi 444-8585)
2 Genetic Engineering and Functional Genomics Group, Frontier Technology Center, Kyoto University Graduate School of Medicine
3 Division of Systems Medical Science, Institute for Comprehensive Medical Science, Fujita Health University
4 JST BIRD&CREST
原稿受理(2009-03-16)
(情報管理 52(2), 069-076)
著者抄録
近年の分子生物学などの飛躍的な発展の一因として,複雑な実験手技についての明確なプロトコルが確立されている
ことが挙げられる。しかし,テキスト形式のプロトコルでは伝達できる情報量が限られており,実験系の確立に手間
や時間がかかることが多い。そこで注目を集めているのがオンラインビデオジャーナルのJoVE(Journal of Visualized
Experiments)である。実験プロトコルや実験の結果についてのより多くの情報を,動画を用いて科学コミュニティー全
体で共有するというJoVEの取り組みや今後の展開を紹介する。
キーワード
JoVE,Journal of Visualized Experiments,動画プロトコル,オンラインビデオジャーナル,ビデオ共有サービス
1.
研究におけるプロトコルの重要性
て各種の遺伝子やタンパク質の機能が解明されてき
た。分子生物学での実験手法の重要性は非常に高く,
生命科学をはじめとする実験科学では,新たな事
ここ十数年来の目覚ましい研究の進展は飛躍的に向
実を明らかにしたり,仮説を実証したりするために
上した実験技術をプロトコル化し,多くの人が利用
さまざまな実験手法が用いられている。例えば分子
可能な形に発展させたことによるところが大きい。
生物学においては,遺伝子操作技術の発展に基づい
分子生物学においては,正確で明解な実験プロトコ
69
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JOHO KANRI
2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
ルの確立によって従来なら高度な専門技術・手技が
であっても,実験の遂行に必要な情報は実際に実験
要求され,ごく一部の優れた研究者や技術者しか行
を行う研究者の経験などによっても異なり,すべて
い得なかったような実験を,多くの人が簡単に,そ
の情報を盛り込むことも困難である。本来,学術論
して確実に行うことができるようになった。例えば
文においては,方法(materials and methods)の項
市販されている実験キットの開発によって,複雑な
に,論文に興味を持った読者がそこで用いられてい
試薬の調整やサンプル精製の手間を省いたり,反応
る実験系を立ち上げ,データの再現性の確認や追試
時間を短縮したりして,誰でも一定水準以上の実験
を行うことが可能となる必要かつ十分な情報を記述
を行い,安定してデータを取得することができる。
する必要がある。しかし現実には,実験方法につい
つまり,詳細な実験手順を簡略化し,誰にでもわか
ては文献の引用や不十分な記述にとどまっているこ
るようプロトコル化することによって,高度な実験
とが少なくない。テキスト形式のプロトコルは実験
をルーチン化することができている。これによって
をやった人間の備忘録という側面があり,同じ実験
世界中のどの研究室でも高水準の分子生物学の実験
をやったことがある専門家であれば再現できる必要
や解析を,比較的短時間で遂行できるようになった
最小限の情報である場合が多い。また,学術論文で
のである。
は得られた新規の結果やそこから導き出される新た
生物学等の実験科学において,実験の器具や機器
の使用法,試薬の調整法,進行手順等が詳細に記載
な考察が重点的に論述されるため,実験方法にはそ
れほど文面を割かれないことも多い。
されている実験プロトコルは,個々の研究者の利便
そのため,テキスト形式のプロトコルを用いて実
性というものを超えて高い価値を持つ。優れたプロ
験系を確立しようとすると,プロトコル通りに行っ
トコルが作製されていれば,研究室内,あるいは他
ているつもりなのに再現性のある正確なデータが得
の研究機関の研究者間で実験に関する情報伝達が迅
られない,実験そのものが上手くいかないというこ
速かつ正確に行うことができ,信頼性の高いデータ
とが多くある。論文の著者以外の研究者が結果の再
の取得や得られたデータの比較がより確実になるか
現性の確認や追試を行うことができなかったり,不
らである。世界中のどの研究室においても,プロト
必要に時間や労力を費やしてしまったりすることは
コル集の整理は極めて重要な用件の一つとなってお
現在の実験科学の抱える大きな問題点の一つであ
り,既成プロトコルの改善や新規プロトコルの導入
る。例えば,実験動物の手術方法や組織などのサン
が恒常的に行われている。
プルの摘出方法は,テキストのみでは実際にどう
プロトコルの形態には学術論文に記載される
いった手順でどの部分を処置するのかという情報は
materials and methods(方法)から,市販の実験手法
伝わりにくい。また,細胞や組織培養の取り扱いや
の指南書,さらには研究室ごとに保存されているプ
遺伝子導入法などの最新技術もテキストのみで実際
ロトコルまでさまざまあるが,ほとんどの場合はテ
の実験操作を見ることができないと,実験を行うの
キスト形式である。実際に実験を行うためにはその
は困難である。つまり,試薬の種類や量,反応条件
実験系全体の流れや,注意すべき点がイメージでき
などは文章で伝えることは可能であるが,実際の実
ることが重要である。しかし,テキスト形式のプロ
験の様子を伝えるためには図や写真だけでなく,実
トコルにおいて必要かつ十分な情報がプロトコルの
験手順を撮影した動画を用いたプロトコルが必要で
中に盛り込まれていない場合には,初めてその実験
あると考えられる。
を行おうとしている研究者に実験のイメージを伝え
ることは非常に難しい。また確立されたプロトコル
70
http://johokanri.jp/
May
JoVE オンラインビデオジャーナルの可能性
2.
動画プロトコルの可能性とオンライン
ビデオジャーナルJoVE
本稿で紹介したいのは,生命科学研究コミュニ
ティー向けにY o u T u b eのように学術ビデオの共有
サービスを提供するJoVEである[http://www.jove.
効率良く実験プロトコルを提供・共有するために
com](図1)
。JoVEとはJournal of Visualized Experiments
は,試薬や機器などの情報や詳細な実験手順や方法
の略で生命科学研究の実験プロトコルなどを,動画
などのほかにも,文章では伝えられない実験上のポ
を利用して共有するオンライン学術雑誌である。
イントを伝えられることが重要であることを前述し
J o V Eのコンセプトとして注目したい点は,従来の
てきた。視聴覚の情報を利用し,テキスト形式のプ
生命科学の実験成果の共有で常に問題になっていた
ロトコルの問題点を解決するのではないかと,近年
実験の再現性と透明性を飛躍的に向上させるという
注目されているのが動画を用いた実験プロトコル集
点である。つまり,動画による視覚的,聴覚的な情
である。動画を用いて実験プロトコルを提供した場
報を用いて実験のプロセスを正確に伝えることによ
合,文章の場合と比較しても視覚的,聴覚的な情報
り,“実験方法が複雑,不透明で,実験結果の再現
量が圧倒的に多く,その実験を経験したことがなく
が困難である”
“実験手技の取得に時間がかかりす
ても実験のイメージを作りやすい。つまり,動画プ
ぎてしまう”といった実験科学が抱える二つの大き
ロトコルを見ることにより,実際にどのような環境
な問題の解決に貢献することを目的としている。こ
で,どのような機器を用いて,どういった手続きを
れらの問題の解決は,科学コミュニティー全体にお
踏んで,どのような手順・手技で実験を行っている
ける実験プロトコルの共有と統一を図り,取得され
かという情報を,視覚・聴覚といった感覚から得る
たデータの比較を可能にすることにもつながると考
ことができる。
えられる。
このように情報量の多い動画プロトコルを,イン
JoVEは動画プロトコルを科学コミュニティーにお
ターネットを介して共有する方法が注目されてい
ける新しいツールの一つとして位置付けており,ビ
る。YouTubeなどに代表されるビデオ共有サービス
デオを用いることのメリットを最大限に生かし,基
はさまざまな分野でその有用性が注目されている
が,それは生命科学の分野でも例外ではない。従来
から,学術雑誌は冊子で配布されているため動画に
よる情報の提供は困難であった。現在では,オン
ラインで出版される学術雑誌も増えたが,それでも
動画での情報の提供は補助的な側面が強い。オン
ラインで出版された論文でも動画によるデータは
supplemental figure(追加資料)やsupporting materials
(補足資料)として扱われることが多く,特別に興
味を持つ研究者だけがその雑誌のサイトにアクセス
してダウンロードして観るようになっており,その
存在が注目されることは少なかった。しかし,実験
プロトコルの提供・共有においてはインターネット
を介したビデオ共有サービスは,非常に大きな可能
性を持っているのではないだろうか。
図1 Journal of Visualized ExperimentsのHPのトップページ
トップページには最新の投稿論文が掲載されている。静止画ではな
く,トップページにも動画が掲載されているため,その論文の内容
をshort abstractと動画で気軽に観ることができる。また,論文の検
索は最上段からはキーワードや著者名ですることができ,左側には
カテゴリーの一覧が掲載されており興味のある分野から論文を検索
することができる。右側にはエディターが取り上げる注目すべき投
稿論文が掲載されている。内容はもちろんのこと,動画の質も秀逸
である。
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vol.52 no.2
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本的なプロトコルから最新の専門的で複雑なプロト
究室間で得られた実験データを比較することもでき
コルの紹介まで幅広く用いることができると考えて
る。われわれが報告したプロトコルでは,文章だけ
いる。例えば,マウスの組織からD N Aを抽出すると
では伝わりにくい実験機器の形状や実験室内の様
いった伝統的で基本となる実験手技や(図2),テキ
子,テスト前のマウスの処理,実験者の手順,実際
ストでは具体的にわかりづらいゼブラフィッシュの
の実験中のマウスの動き,モニタリング中のPCの画
光応答を測定する行動実験(図3),さらには神経細
面表示やテスト中に得られる指標などの実験上の重
胞のマイクロデバイスでの培養法といった非常に複
要なポイントを含めた豊富な情報を映像と音声で視
雑で文章だけでは正確に伝えられない最新技術のプ
聴者に伝えることができる1),2)。さらに,実験の背
ロトコルなどが多数公開されている。そのほかにも,
われわれが実験プロトコルをJ o V E で報告したマウ
スを用いた行動テスト(Light/Dark Transition Test:
明暗選択箱テスト1),Elevated Plus Maze Test:高架
式十字迷路テスト2);図4)においても,動画を用
いることによってテスト全体の流れをよりわかりや
すく提供している。マウスやラットを用いた情動実
験や学習実験などの行動テストは,世界中の多くの
研究室で行われているものの,テストに用いるマウ
スの選択方法や実際のテストの流れ,テストを通じ
て得られる指標やそれらの解釈方法などについて統
図3 Editor's Picksに紹介されていたビデオアーティクル
JoVEのトップページのEditor's Picksに紹介されていたゼブラフィッ
シュの光応答を測定する行動実験(2009年3月4日現在)。ゼブラ
フィッシュを用いた行動実験はあまり知られていないが,用いられ
ている動画もアニメーションを加えるなどの工夫がなされており,
非常にわかりやすい。
一されたプロトコルはこれまでのところ確立されて
いない1),2)。プロトコルが統一されれば,異なる研
図4 高架式十字迷路テストの論文のページ
図2 基礎的で重要な実験プロトコルの例
マウスのしっぽからのDNAの抽出は基本的ではあるが,現在のマウ
スを用いた研究には欠かすことのできない手技である。このほかに
も,ゲルの染色法など分子生物学の基本となる動画プロトコルが数
多く紹介されていることから学生等の指導などにも非常に有用であ
る。また,培養細胞を郵送する際のパッケージング方法など研究を
行うために基礎的で重要なプロトコルも数多く紹介している。
72
2008年12月22日に掲載された著者らによる投稿論文“E l e v a t e d
Plus Maze for Mice”のページ。タイトルの下に動画が掲載されて
おりすぐに再生することができる。また,動画のi n d e xもすぐ隣
に載せられているため見たいシーンから観ることも可能である。
テキスト形式の本文は,Abstract, Protocol, Discussion, Disclosures,
Acknowledgements, Materials, Referenceから構成されている。同じ
内容のP D Fファイルもダウンロードすることができ,この論文で紹
介されたプロトコルに使用されている実験機器等もMaterialsで記述
されている。テキストの右側にはKeywordsと,掲載日時,再生回数,
コメント数などの情報が載せられている。質問や感想,要望などは
このページの最下段に書き込むことができ,JoVEにユーザー登録す
れば誰でも書きこむことができるため研究者間の双方向のコミュニ
ケーションをとることができる。
JoVE オンラインビデオジャーナルの可能性
景や実際の機器のサイズなどの規格,テストの時間,
いうタイトルでNature News(2008年9月3日)に紹
マウスの匹数や遺伝的バックグラウンド,得られる
介されており,このことからもJoVEの科学コミュニ
指標の種類やそれらの解釈についてなどの情報はテ
ティーにおいて期待されている役割の大きさがうか
キスト形式のプロトコルに記述されており1),2),視
がえる3)。日本においても,自然科学研究機構生理
聴者は必要に応じて参照することができる。通常の
学研究所よりJoVEと連動した取り組みが「最先端の
テキスト形式のプロトコルに加え,動画プロトコル
医学研究,動画で配信・生理学研究所」(Nikkei Net,
を参考にすればより迅速に,より正確に実験系を確
2007年12月20日)と題して紹介されている。日本
立することができ,データの再現性の確認や新たな
の研究機関から集めた医学研究成果などを映像配信
実験系の立ち上げもこれまでよりも短時間で行うこ
する準備ができたと発表され,国内でも広く注目を
とができるだろう。
集めている。JoVEにはすでにユニークユーザーのア
クセス数が1か月に70,000件を超えており,1か月に
3.
JoVEの成り立ち
10〜15報のペースで,すでに295を超す論文が掲載
されている(2009年3月現在)。
JoVEは2006年にKlaus KorakとMoshe Pritsker,Nikita
さらに,最近Ars Technicaで“moving beyond text”
Bernsteinらによって150万ドルをかけて米国におい
というタイトルで,科学コミュニティーが注目する
て創刊された,初めてのオンラインビデオジャーナ
JoVEの取り組みが取り上げられている4)。JoVEに掲
ルである。CEOであるMoshe Pritskerの仕事は編集や
載された最新の論文の一つにES細胞の培養や細胞核
出版の過程の調整,ビジネスモデルの確立やマーケ
に対する処置などを含めた取り扱いのプロトコルが
ティングといった通常の学術雑誌の編集長として行
紹介されていたが,この論文のようにJoVEではテキ
う仕事のほかに,I T関連や動画の撮影,編集システ
ストだけでは正確に表現することが難しい最新の実
ムや投稿システムの確立や改良,研究機関への広報
験技術を15分ほどの短い動画で詳細に伝えている
やP Rなど多岐にわたる。彼の積極的な働きにより,
点が高く評価されている5)。プロトコルだけでなく
オンラインビデオジャーナルJoVEのシステムの確立
学術論文のf i g u r eとして動画を使用できる点につい
に成功している。
ても言及しており,伝統的なテキストと写真による
彼らはこのジャーナルのコンセプトを“t o g i v e
figureだけでなく,新たに動画を用いたfigureを積極
researchers the means to duplicate scientific processes
的に織り交ぜることによってこれまでに報告できな
by letting them see the process in action(動作の過程
かった結果や考察を世界中に伝えることができるよ
を示すことによって,科学的な実験などの過程を再
うになると期待される。また,J o V Eは最も権威の
現するための情報を研究者たちに提供すること)”
ある雑誌の一つであるScience誌と提携を開始してお
としているように,論文などに記載されている実験
り,このことはJoVEやそれに掲載される論文がより
を再現しやすくするために,実際の実験手順などを
注目されることにとどまらずScience誌にとっても重
動画を用いて研究者に提供することを目的としてい
要な意味を持つと考えられる。JoVEの持つアイデア
る。当初は知名度も低く,査読システムも曖昧で
や技術,可能性が自然科学コミュニティーにおいて
論文の投稿数も多くはなかったことからアクセス
も注目されている。
数も伸び悩んでいたが,Nature誌のreviewで紹介さ
しかし,動画の撮影,編集の専門家ではない研究
れたことにより,研究者の間で注目を集めるように
者にとってはプロトコルを動画で撮影することは手
なった。Nature誌では“YouTube for test tubes”と
間がかかるうえに,JoVEの基準を満たす明瞭な動画
73
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JOHO KANRI
2009
vol.52 no.2
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を撮影できないことも予想される。J o V Eでは,“実
均して10分程度)といった視点から,細かくチェッ
験のプロトコルを正確かつ明確にユーザーに伝え
クを行い,“何分何秒のシーンを〜のように改編す
る”という目的に沿った動画を提供するために,各
るべきである”といった具体的な指摘がされる。テ
国の主要都市(U S Aのボストンやロサンゼルス,ワ
キスト形式の論文にも,内容が適切であるか,必要
シントンD . C .など11都市,カナダのバンクーバーな
な文献が引用されているかといった通常の学術論文
ど4都市,U Kのロンドン,ドイツのベルリンなど2
と同様の審査が行われる。内容や状況などによって
都市,日本の東京など合計30か所以上)にオフィス
多少の前後はあるが,JoVEに掲載されるレベルのビ
を設置しており,動画撮影・編集の専門家が研究室
デオアーティクルであると判断されると,早ければ
に出張し撮影を行うというサービスも提供している
3週間ほどでオンライン上に公開されることになり,
(http://www.jove.com/index.stt)。その手順は,まず
その査読システムも明快かつ迅速である。JoVEで公
投稿者らがJoVEにテキスト形式の実験プロトコルを
開された論文はすでにPubMedとMedical Onlineにも掲
投稿する。するとJoVEから撮影スタッフが著者らの
載されており検索も可能である。これらのサイトに
研究室に派遣され,撮影が行われる。撮影された動
掲載されたことにより,以前にも増して世界中の研
画はJ o V Eの編集者によって編集され,レフリーと
究者の目に触れるようになったことは間違いないで
投稿者らによって校正される。これらの取り組みに
あろう。また,学術論文を書く際に,これらのビデ
よって研究・実験と撮影の両方の専門家によってよ
オアーティクルを通常の論文と同様に文献として引
り質の高いビデオアーティクルを掲載することがで
用することももちろん可能である。
きている。慣れない撮影や編集にかかる時間を大幅
に減らすことができるため,忙しい研究者にとって
4.
JoVEのサイト構成
は有用なサービスであるし,「自分で動画を撮影・
74
編集するのは難しい」と考えている研究者にとって
JoVEに掲載されている論文は,テキスト形式のプ
は,投稿するきっかけとなるだろう。動画撮影・編
ロトコルと動画プロトコルで構成されている。動画
集の料金については,状況や内容によって異なるた
プロトコルにはi n d e xが掲載されていて,何分何秒
めJoVEに直接問い合わせていただきたい。
からどのような内容が収録されているかが一目でわ
また,JoVEの投稿・査読システムは投稿の際に投
かるように配慮されている(図2,3,4)。テキス
稿者の負担を軽減できるように配慮され,論文は誰
ト形式のプロトコルは基本的にshort abstract,long
でも投稿することができるが,ビデオアーティクル
abstract,protocol,discussionから構成されているが,
の質は落とさないように通常の学術論文と同様の査
内容は動画プロトコルを補足するように構成されて
読が行われている。投稿された論文は,ハーバード
いる。オンラインで提供されているこれらのビデオ
大学などの世界中の研究機関から選ばれた,それぞ
アーティクルにはレコーディング,コメント,タグ,
れの分野の研究者により構成されるエディトリアル
メール配信,リンク&エンベッド共有(別のサイト
ボードのメンバーにより査読される。投稿された動
にリンクを貼るとそのサイトでもその動画を見るこ
画とテキスト形式の論文がレフリーに送られ,レフ
とが可能になる機能),などのY o u T u b eでおなじみ
リーは,動画に関しては必要な情報がわかりやすく
のメニューが用意されており,ビデオアーティクル
盛り込まれているか,撮影の場面や角度,解像度,
の著者と視聴者という研究者同士の双方向のコミュ
ナレーションや字幕などが適切でJoVEの基準を満た
ニケーションをとるためのこれらの共有機能により
しているか,不必要に長く編集されていないか(平
活発な交流が行われている。さらに,動画に収録さ
JoVE オンラインビデオジャーナルの可能性
れている実験機器の種類や製造元などについての
5.
注目を集めるJoVEの今後の展開
情報も一覧となって明記されており,corresponding
a u t h o rの連絡先などの一般的な学術論文に記載され
ている情報も公開されている。
J o V Eの最終的な目的は,現在の生命科学の研究
室で行われている実験系のすべてを動画プロトコル
JoVEはオープンアクセスのオンラインジャーナル
としてJ o V Eのサイトに収録することである。つま
なので,動画プロトコルの視聴やテキスト形式のプ
り,昔から行われている伝統的で重要な実験手技か
ロトコルをダウンロードするのにも登録料等の料金
ら,最新技術を駆使した新規のテクニックまでをテ
は発生しない。ビデオアーティクルを通して研究者
キスト形式のプロトコルの利点を生かしつつ,動画
に対して専門的な情報を提供しているJoVEのサイト
プロトコルを用いて世界中の研究室で共有すること
は,生物学などの実験科学の機器や研究室の環境を
である。JoVEのCEOである Moshe PritskerはNature誌
提供する企業をはじめ,科学コミュニティーに対し
のインタビュー(2009年1月24日)に以下のように
て関わりを持ちたい企業にとっては非常に魅力的な
答えている6)。“J o V Eの将来の目標は,生物学,医
ビジネス,PRの場であると言える。その声に応える
学の研究で用いられている実験手技について可能な
ようにJoVEのサイト内には広告用のバナースペース
限りすべてを網羅した,動画実験プロトコルを含ん
が用意されている。これらの情報はJoVEのサイト上
だラージスケールの包括的なオンライン図書館を確
に公開されており,1バナー当たり1か月300ドルほ
立することである”。この構想は企業を含めた生物
どの費用で掲載することができる。このバナーに会
学,医学系の研究機関にさまざまなレベルで強いイ
社のコードをエンベッドし,Google Analyticsなどを
ンパクトを与えるものであると考えられる。また,
活用すればトラッキングや解析を行うことも可能で
Pritsker自身は医学・生物学研究に基盤を置きつつも
ある。JoVEのサイトを訪れる研究者はビデオジャー
他の分野での応用も視野に入れており,さまざまな
ナルのような新しいツールに注目しており,JoVEの
研究領域との融合を通して,ますますの発展が期待
論文掲載数やアクセス数の上昇率などを考えると,
される。
このサイトを利用したビジネスにも大きな可能性が
あるのではないだろうか。
参考文献
1) Takao, K.; Miyakawa, T. Light/Dark transition test for mice. JoVE. 2006, 1, 10.3791/104.
2) Komada, M.; Takao, K.; Miyakawa, T. Elevated plus maze for mice. JoVE. 2008, 22, 10.3791/1088.
3) Nature News. News in Brief“YouTube for test tube”to be listed on PubMed. Nature. 2008, vol. 455,
p. 13. http://www.nature.com/news/2008/080903/full/455013e.html, (accessed 2009-02-20).
4) Gitlin, Jonathan M.“Science Online 09: moving beyond text”. Ars Technica. http://arstechnica.com/science/
news/2009/01/science-online-09-moving-beyond-text.ars, (accessed 2009-02-20).
5) Huang, Ngan F.; Niiyama, Hiroshi; De, Abhijit; Gambhir, Sanjiv S.; Cooke, John P. Embryonic Stem Cell-Derived
Endothelial Cells for Treatment of Hindlimb Ischemia. JoVE. 2009, 23, 10.3791/1034.
6)“Gobbledygook, Martin Fenner's blog on scientific publishing in the internet age. Interview with Moshe Pritsker”.
Nature Network. http://network.nature.com/people/mfenner/blog/2009/01/24/interview-with-moshepritsker, (accessed 2009-02-20).
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Author Abstract
Establishing clear protocols for complicated experimental procedures has been a main factor in the recent rapid
development of biology. Most protocols are written in a text format, which limits the amount of information that
can be conveyed. Thus, it often takes a very long time to establish new experimental systems based on text
alone. The Journal of Visualized Experiments (JoVE) is an academic video-sharing service and an online video
journal that has attracted the attention of the scientific community. Here, we introduce the concept of JoVE,
which is to publish a visual representation of experimental protocols so that they can be shared among the
entire scientific community. This novel online video journal for scientific experimental protocols will increase the
reproducibility and transparency of experimental studies, which is currently a bottleneck for progress in the life
sciences.
Key words
JoVE, Journal of Visualized Experiments, video-protocols, online video journal, video sharing
76
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
生命科学のコミュニケーションから見た
科学研究情報流通
BMB2008におけるフォーラムから
Information distribution in life sciences communication
The forum at Biochemistry and Molecular Biology 2008
長神 風二1
NAGAMI Fuji1
1 東北大学脳科学グローバルCOE(〒980-8575 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1 東北大学医学部)
Tel : 022-717-7908 E-mail : [email protected]
1 Tohoku Neuroscience Global COE, Tohoku University (2-1 Seiryomachi Aoba-ku Sendai, Miyagi 980-8575)
原稿受理(2009-03-05)
(情報管理 52(2), 077-085)
著者抄録
筆者らは生命科学系最大規模の学会において,科学研究情報の流通に関するフォーラムを開催した。フォーラムは集
客も多くなく必ずしも成功裡に終わったとは言い難いが,いくつかの成果を上げることができた。シリアルズクライ
シス,機関リポジトリ,オープンアクセスなど,生命科学研究者にとっては耳にする機会の少ない概念を提示し,科
学と社会をつなぐコミュニケーションを考えるうえでも,あるいは,研究を発展させていくうえでも情報流通が重要
であることを示した。また,社会とのコミュニケーションの視点を軸に,科学研究情報の流通を考えると,研究者が
公表した研究成果をセルフアーカイブすることの重要性,またそれを推進するための組織的・資金的な支援の必要性,
大型研究機関における機関リポジトリの必要性や,ファンディングエージェンシーのより重要な役割が浮かび上がっ
てきた。現状の問題点を一つ一つ解決していく提案を行い,研究と社会にとってより良い研究情報の流通のあり方を
考えていく。
キーワード
学術情報流通,サイエンスコミュニケーション,生命科学,機関リポジトリ,セントラルアーカイブ,セルフアーカイブ,
オープンアクセス
1.
本論文の狙い
2008)において,フォーラム「生命科学における
科学研究情報の共有のあり方─学術情報への市民に
筆者らは,2008年12月,第31回日本分子生物学
会年会・第81回日本生化学会大会合同大会(B M B
よるアクセス,研究コミュニティでの共有,研究者
による情報発信─」を開催した。学会は,生命科学
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系の基礎研究,特に,分子・遺伝子レベルでの研
2.
フォーラムの概要
究者が集まるものとしては最大のもので,4日間の
期間中に1万人以上を集める大規模なものである。
本稿の主たる話題となるフォーラム「生命科学に
フォーラムでは,研究データの研究者間,あるいは
おける科学研究情報の共有のあり方─学術情報への
社会での共有のあり方という基本的な問題から,学
市民によるアクセス,研究コミュニティでの共有,
会誌の役割,セントラルアーカイブの可能性とファ
研究者による情報発信─」の概要は表1の通りであ
ンディングエージェンシーの役割,機関リポジトリ
る。
のあり方に至るまでが話題にのぼった。基礎生命科
表1のようにプログラムを計画したが,演者2人が
学の学会でこうした議論の場が持たれたことは特筆
乗る飛行機が遅れるなどして,順序を入れ替え,長
に値するが,必ずしも学会員からの関心は高くなく,
神の趣旨説明の後,高橋氏,岡本氏,永井氏,高木
また,ディスカッションの焦点も定まらなかったと
氏の順で発表を行った。また,このフォーラムが行
言える。フォーラムでの議論の流れを振り返りなが
われた,第31回日本分子生物学会年会・第81回日
ら,基礎科学の研究者にとっての研究情報のあり方,
本生化学会大会合同大会(BMB2008)について,参
課題について,著者なりに問題を探っていく。研究
考までに以下に概要を記す。
成果を共有可能な形でアーカイブすることが,サイ
学会名称:第31回日本分子生物学会年会・第81回
エンスコミュニケーションの健全な発達に重要だ,
日本生化学会大会合同大会(BMB2008)
という問題意識は,フォーラムを企画したきっかけ
会場:神戸ポートピアアイランド
であるが必ずしもその場では議論を深めることがで
会期:2008年12月9日(火)─12日(金)
きなかった。本稿において議論を続けるとともに,
参加人数:約11,500人
日本の科学研究の基礎となるべき,研究情報基盤
大会責任者:第31回日本分子生物学会 年会長 長田
をいかに整備していくかにつながる論点を示した
重一(京都大学大学院医学研究科)
い。
第81回日本生化学会 会頭 大隅良典
(基礎生物学研究所)
表1 フォーラムの概要
タイトル
「生命科学における科学研究情報の共有のあり方―学術情報への市民によるアクセス,研究コ
ミュニティでの共有,研究者による情報発信―」
日時
2008 年 12 月 9 日(火)16:45 ∼ 18:45
場所
神戸国際会議場 5 階・501 室
人数
延べ 50 名程度
参加対象
オーガナイザー
プログラム:
16:45 ∼ 16:55
16:55 ∼ 17:15
第 31 回日本分子生物学会年会・第 81 回日本生化学会大会合同大会(BMB2008)参加登録者
長神風二(東北大学脳科学グローバル COE),加藤和人(京都大学人文科学研究所)
趣旨説明「学術情報と社会―科学コミュニケーションの立場から」長神風二(東北大学)
「あらゆる生命科学データの共有化を目指して―統合データベースプロジェクトの挑戦―」
高木利久(ライフサイエンス統合データベースセンター)
17:15 ∼ 17:35
「変革する学術情報発信―学会はどう対応するか」永井裕子(日本動物学会事務局)
17:35 ∼ 17:55
「ファンディングエージェンシーの立場から」高橋宏(独立行政法人科学技術振興機構)
17:55 ∼ 18:15
「さまざまな good practice から」岡本真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE 編集長)
18:15 ∼ 18:45
総合討論
進行:加藤和人(京都大学人文科学研究所)
*発表順は当日変更前の当初計画のもの
78
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
日本国内の学会としては異例の規模の学会であ
続いて発表した岡本氏は,文系理系を問わない多
り,参加者が300名を超えるセッションも珍しくな
様な学会・研究機関・研究者のホームページを中心
い。その中で50名程度というのは少ない方である。
に多数の良いと思われる事例を紹介された。そもそ
原因として,当該時間帯に,キャリアパスに関する
も会員同士の情報共有を主たる目的と受け取られが
セッション(「バイオ系博士の活躍する道とは?」)
ちな学会のWebサイトは,内向きに作られるものが
や,研究倫理に関するセッション(日本分子生物学
多い。しかしながら,多くの学会は社団法人やN P O
会若手教育シンポジウム「今こそ示そう科学者の良
法人など公益性の高い法人格を有している。学会の
心2008─みんなで考える科学的不正問題─」),関
Webサイトを公益的な視点から見る岡本氏の視点そ
係するポスターセッションの発表時間が重複したこ
のものが一般の研究者にとっては新しいものだろ
とや,今回取り上げた問題に対する学会参加者から
う。所属学会が英語への誘導アイコンに国旗を用い
の関心をどう引くかの問題がある。データベース事
ていることへの指摘注3)を含めて,学会という組織
業にテーマを絞った翌朝のシンポジウム「ライフサ
の公益性を考えさせる発表だった。
イエンス統合データベースプロジェクト」は,熱心
日本動物学会事務局の永井氏によるエネルギッ
な参加者を集めていた。タイトルの付け方など工夫
シュなプレゼンテーションは,出版という面から学
すべきことが多々あったと振り返っている。
会組織の公益性を取り上げたものだ。学会の責任を,
発信する学術コンテンツの品質保証にある,とまず
3.
各演者の講演要旨とディスカッション
定義されたうえで,話を始められた。そして,会員配
布を前提とし,販売モデルを確立できず電子化も立
各演者による発表は,基本的にそれぞれの専門に
ち遅れ,欧米の学会が収入源としているジャーナル
依って立つもので,持ち時間いっぱいにそれぞれの
発行が,日本では支出になっている悲惨な現状を自
情報を発信された。以下に,それぞれの発表の概要
らが率いられるUniBio Press注4)での取り組みを交え
をまとめるが,これらは著者が著者自身の視点から
ながら語られた。N I HやR C U K注5)の例にも言及され
書いたものであり,各演者の責任の及ばないもので
ながら,日本においては研究者によるセルフアーカ
あることをご留意いただきたい。
イブ化が進んでいくことへの期待をにじまされた。
はからずも最初の発表になった高橋氏は,所属さ
最後の発表となった高木氏の発表は,生命科学の
れる独立行政法人科学技術振興機構(J S T)の事業
あらゆるデータを網羅するライフサイエンス統合
概要について丁寧に説明された後で,研究者は,安
データベースセンターの事業紹介を軸に,やはり日
価・迅速に,最新の詳細で整理された情報が必要で
本の現状に警鐘を鳴らすものとなった。科学全体の
あり一般の人々のデマンドとは違うこと,研究にし
趨勢として,仮説駆動型からデータ駆動型への転
ろ出版にしろ競争原理を持たせることが持続的な発
換期が訪れているという時代認識を示されながら,
展の鍵であることなどを述べられた。現状において,
データベースの散在,データベース間の連動の不在
一部の出版などで過剰な自由競争が寡占を生んでい
など多数の問題を挙げながら,そもそも公的な研究
ることへの憂慮も表明された。また個人の立場での
で得られたデータを共有するためのルールが不在だ
発言と前提されたうえで,J S TがN I H注1)のようにセ
ということを強く指摘された。また,サービス事業
ントラルアーカイブに踏み切る可能性注2)について
的な性格を持つ自らのプロジェクトは年限のついた
は,言葉を選ばれながらも,短期的には否定的なニュ
もので,間もなく終了を迎えることを述べられ,基
アンスを伝えられた。
幹的であるべき研究データベースが安定して運用さ
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れていかないことへの一種の苛立ちも感じさせた。
ができる。
登壇者全員が参加してのディスカッションは,会
さらに近年指摘されてきたシリアルズクライシス
場に,統合データベース関係者が多かったこともあ
の問題注9)は,運営費交付金の削減などによる大学
り,学会などの権利関係の問題から学術用語集注6)
の財政環境の悪化によって,個々の研究者にとって
の統合データベースへの収録がなかなか進まないこ
も切実なものとなってきている。旧帝大と大型国立
となど,データベースをめぐる話題が多くなった。
研究所を除く研究機関に所属している研究者にとっ
参加者から,国家の基幹事業としてセントラルアー
て,読めない学術雑誌が増えている,というのはす
カイブを進めていく可能性を,J S Tの高橋氏に強く
でに実感され始めていることだろう。
問うシーンもあったが,たとえ基盤となるもので
これらのことから,学術情報とその流通をめぐる
あっても競争原理があるべきという持論での返答が
問題は,単にサイエンスコミュニケーションの問題
あった。
にとどまらずに,分子生物学会に所属するような一
事前の論点の整理が十分でなく,ディスカッショ
般の研究者にとっても身近な面を持ち始めているだ
ンの時間がわずか30分だったこともあり,この場で
ろう,と考えたことから,2008年のフォーラムの
見解を共有するといったことや,議論を深めるには
テーマとして提案した。
至らなかった注7)。オーガナイザーとして非力を痛
感している次第である。
ちなみに筆者は,日本分子生物学会の会員として,
2004年からはほぼ毎年,サイエンスコミュニケー
ションに関係するセッションをオーガナイズしてき
4.
フォーラムの企画の経緯と問題意識
フォーラムを企画するに至った経緯と問題意識を
振り返ってみたい。
ている。
5.
生命科学における学術情報流通の問題
点の再整理
筆者が最初に設定した課題は,「生命科学研究が
生みだしている成果=学術情報は,市民にとって入
今回のフォーラムにおいては,多様な問題の存在
手可能なものになっているのか」である。この課題
が指摘されたものの多くは十分な議論をできずに終
は,再三行われている「日本の税金が用いられた成
わった。会で取り上げ得なかった問題点も含めて,
果が,外国の商業雑誌に無償で,著作権ごと譲渡さ
学術・学会と情報流通について,生命科学とサイエ
れている」という批判注8)とも近い。この問いは生
ンスコミュニケーションに身を置く者として以下に
命科学の一般の研究者にとっては,個人に投げかけ
私見を強く交えながら,まとめてみる。
られても答えるのが難しいと受け取られてきた問題
だった。ところが近年,機関リポジトリが発達して
多くの大学で整備されるようになり,研究者自身が
80
5.1 論文のアーカイブとアクセシビリティ
ワークショップの冒頭の趣旨説明で,筆者は以下
自らの論文を自らのサイトなどで公開するセルフ
のような内容のスライドを用いた。
アーカイブが許可されるようになった流れから,研
・自分が専門ではない分野,特に文科系の分野で,
究者個人にもできることの範囲が著しく拡大してき
「知りたいこと」を適当に思い浮かべましょう。
ている。そこで課題を,「各研究者は,自らの学術
・それを,「英語と大学図書館,および,大学・研
研究成果を最終的なスポンサーである市民にとって
究機関から初めてアクセスできる設備を使わず
入手可能な形で発信しているか」と置き換えること
に」エビデンスをもって,調べる方法はあるでしょ
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
うか?
5.2 機関リポジトリ
参加者に,学術情報の入手が,いかに,所属機関
日本でも多くの大学・研究機関でリポジトリ整備
という環境に依存しているものかを自覚してもらう
が進められてきた注11)。公的資金を受けている研究
狙いからであった。
者が研究成果を誰からもアクセス可能な形で公開す
研究者にとって,研究成果を最も確実な形で発信
るのが責務であるならば,研究機関にとってもそれ
しているのは論文であり,税金を投入した研究が何
は同様であり,整備されつつあるリポジトリを積極
に結実しているかと言えば,論文の形でまとめられ
活用することがその早道であろうと考える。しかし
た新規の知であることは論を待たないだろう。論文
現状では,多くの大学図書館関係者の努力にも関わ
が掲載されているのは,大学図書館などの専門図書
らず,機関リポジトリは所属研究者からの理解や協
館以外では購読されることのない英語の雑誌であ
力を得られていないことが問題である。筆者の周囲
り,異様に高騰した購読料を払っている研究機関
でも,無作為に大学院生と博士研究員10名程度に
に所属してWeb上でのアクセス権を確保していない
聞いてみたが,東北大学の機関リポジトリについて
人々は,ほぼ読むことはできない。納税者にとって
知っている人は一人もいなかった。まず,周知が重
みれば,払った対価に触れることすらできない状態
要であるが,もともと大学の中で予算や権限を大き
と言える。この論には,そもそも普通の市民は英語
く与えられていない大学図書館にとって困難が伴う
の論文など読まないから,問題にならない,という
であろう。大学全体の責務として,所属研究者に機
反論をする人々もいる。反論に対しては,そもそも,
関リポジトリへの協力を義務付けるような措置を取
実用の問題ではなく権利の問題であり,英語だから
ることが必要だと考える。
読めないじゃないか,というのが反論になるならば,
また,整備が進んできたとはいえ,日本最大の研
英語で書くこと自体が間違っている,という論が成
究機関の一つである独立行政法人理化学研究所や独
り立ってしまうように思える。さらに言えば,一般
立行政法人産業技術総合研究所などが独自のリポジ
の市民ではないが,研究機関に所属しておらず,一
トリを擁していないのは不見識であると考える。早
般の市民を代表する立場で論文にアクセスしようと
急な整備を望みたい。
して果たせない人々がいる。医療・医学系の論文を
ファンディングエージェンシーである,独立行政
苦労して入手して読みこなしている患者団体の方々
法人科学技術振興機構や,独立行政法人日本学術振
はたくさんいるし,原著論文を読むことができ,ま
興会においても,機関リポジトリの設置は検討され
た読もうとして苦心している科学ジャーナリストや
てしかるべきだろう。これらが実現したうえで連携
科学館職員などは珍しくない注10)。研究者は,自ら
すれば,事実上のセントラルアーカイブともなる。
の発表論文は,可能な限り,セルフアーカイブして
誰からもダウンロード可能なようにすべきだろう。
5.3 オープンアクセスと学会の役割,学会誌
現在,多くのジャーナルで,セルフアーカイブの権
オープンアクセス化の状況は,今回のフォーラム
利を,一部制限付きながら認めている。また,アー
ではあまり焦点にならなかった。永井氏の発表の中
カイブの際に,何も自分自身のホームページをわざ
で,学会誌のあり方とともに言及されたくらいで,
わざ立てなくても,所属機関のリポジトリが利用で
会場の反応も薄いといった状況だった。生命科学系
きるならばそれでもまったく問題ないだろう。
の多くの研究者にとって,投稿先の雑誌がオープン
アクセス対応であるか否かはジャーナルのインパク
トファクターほどには問題にならず対岸の火事なの
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であろう。繰り返しになるが,発表論文をすべて公
るアクセシビリティが上がれば,それもまた歓迎す
共による無償アクセス可能な状態に置くことの意義
べきことだ。
は,サイエンスコミュニケーションの立場から見て
生命科学系の研究者にとって,自らの研究につい
非常に大きい。現状,各雑誌によって対応がまちま
て最も真剣に日本語を書くのは研究費の申請時と日
ちだが,例えば若干多めの投稿料金でオープンアク
本語総説の執筆時である。ライフサイエンス統合
セス設定ができる雑誌などの場合に,積極的にその
データベース事業がこれら2つを収集の対象にして
オプションをとれるように,ファンディング機関等
いるのは評価に値すると考える。日本語総説につい
からの後押しは必要だろう。
て述べると,それらの多くが掲載されるのは日本に
一方で,購読料と会費収入からの分配に依存して
数多い商業誌 注12) であり,大学図書館を通じた電
きた日本の多くの学会誌の存立には,オープンアク
子化された購読に対応していない雑誌がほとんどで
セスは深く関わる問題だ。そもそも学会が学会誌を
あるばかりか,横断的な検索すらろくに整備されて
発行することは,永井氏が学会の責任を,
「発信する
いないのが現況である。共立出版が『蛋白質核酸酵
学術コンテンツの品質保証にある」と規定したことか
素』の記事を統合データベース事業に供したのは英
ら考えれば,学会の根幹に関わる事業だ。永井氏に
断だが,それに続く出版社・媒体がなかなか現れな
よれば欧米の学会誌や出版社は,NIHポリシー注2)と
い(あるいはそれを促すような手段・仕組みが存在
の妥協点を探り,アクセスがフリーになるまでの期
しない)ことは憂慮すべきだ。
間だけで十分に収益をあげられるようにモデルを構
築しつつあるという。オープンアクセス化が進展す
5.5 基盤的研究データのあり方
ることは,学会誌にとってのみ見れば,購読料を回
ライフサイエンス統合データベース事業の進展
収するチャンスが減ることを意味する。日本の学会
と,発展にあたって突き当たっているとされる障害
誌が,十分に吟味しないまま,欧米の学会誌が導入
が提示する問題は,つまるところ,研究によって得
しているモデルに追随すれば,すでに出版事業単体
られる知見は誰のものなのか,という問題だ。この
では赤字で学会会費から穴埋めしているところに,
問題は,ワークショップのディスカッションでも一
さらなる出費増を招きかねない。日本の学会の出版
部議論されたが,翌朝の別のシンポジウムにおいて,
事業が現在直面している,こうした困難な状況につ
そのオーガナイザーでもあった大久保公策氏(国立
いて十分に論じる紙幅はなく,本稿では多くの一般
遺伝学研究所)がクローズアップしていた。特に大
の学会員が学会の根幹に関わる事業である学会誌の
型の国費を投じるものの場合,プロジェクト開始時
あり方について考える場を持つ必要性のみ指摘し
点で,出てくる成果をどのように公開するかを選択
て,他の議論は別の場所に譲ることにする。
して始まらなければ,そもそもプロジェクトの体を
成していないではないか,と指摘する大久保氏の主
5.4「日本語」の問題
これまで,オープンアクセスや機関リポジトリに
よって,研究成果に対して市民からのアクセス可能
張は傾聴に値する。非常に重要で大きな問題だが,
本稿の紙幅の許すところではないので,詳述は別の
ところに譲りたい。
性が確保される点から擁護する論を,「5.1 論文の
アーカイブとアクセシビリティ」で行った。もちろ
6.
処方せんと未来像
ん,英語でもアクセシビリティが上がるに越したこ
とはないが,もともと日本語で書かれた資料に対す
82
本論文でこれまで述べてきたことをもとに,以下
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
に幾つかの提案をまとめてみた。
筆者としては,やがて現行の論文よりも短い小さな
・研究者は可能な限り,自らの発表論文はセルフ
単位で研究結果・成果がやり取りされるとともに,
アーカイブして誰からもダウンロード可能なよう
現行の総説,レビューが異なる意味を持つ未来を予
に努め,また,各大学・研究機関は機関リポジト
測している。上記に示した4項目は,現状へのキャッ
リの設置や推進・資金的な裏付けの整備によって,
チアップ型の対応だが,筆者の予測が正しいものと
その努力をバックアップすることが望ましい。
なるかはおいても,来るべき未来に向けた処方せん
・研究者が論文投稿にあたって,オープンアクセス
も含めて対応を考えるような議論が,基礎的な科学
オプションを選択しやすいようなファンディング
研究と情報技術とをつなぐ場,例えばこの『情報管
環境を整えることも検討すべきである。
理』誌上などで行えることを期待して,本稿を閉じ
・市民からの研究情報へのアクセス確保の観点か
る。
ら,特に日本語文献をアクセス可能な状態に置け
るような事業が推進されるべきである。
7.
謝辞
・関係者(特にこの『情報管理』誌の投稿者や読者
には,基礎科学系の研究者よりもはるかに本稿で
本稿で報告したフォーラムを共同でオーガナイ
述べてきたような問題に明るい人が多い)は,必
ズした加藤和人氏(京都大学人文科学研究所)に
ずしも関心が高いとは言えない一般の研究者に向
は,企画から当日の実施に至るまで多くを負うとと
けて,あらゆる機会をとらえて研究情報の流通に
もに,草稿に目を通していただき重要な指摘を頂い
関する問題点などを整理して提示していくよう努
た。この場を借りて感謝したい。フォーラムの他の
めてほしい。
4人の演者たちには,議論を十分に尽くせずまた本
さて,本稿で何度も言及してきた,機関リポジト
稿での紹介もままならなかったことをお詫びしつ
リやオープンアクセスは,Web技術の急速な進展と
つ,多くの示唆を与えてくれたことに感謝する。ま
普及により,初めて実現可能になった事態であり,
た,参加してくれた50名近い参加者たちにも同様だ
15年程度前にはまったく想像も及ばなかったもの
が,特に,フロアから積極的に発言して議論をリー
と言える。一方で,学術論文が,査読を経て「出版」
ドしてくれた大久保公策氏(国立遺伝学研究所)に
される,というプロセスそのものは,今のところまっ
は感謝に堪えない。また,本稿には,小澤弘太氏(国
たく変わっていない。今回,本稿で述べたことも,
立国会図書館),林和弘氏(日本化学会)と,個人
論文や総説,そしてそれに供されるまとまったデー
的にそれぞれ主に電子メールで議論したことが反映
タの単位で,学術情報を想定して述べてきた。果た
されている。両氏の常に真摯な姿勢に敬意と感謝を
して,Webやインターネットがさらなる発展を遂げる
表したい。
であろう未来において,これらも不変だろうか? 本文の注
注1) National Institute of Health。アメリカ国立衛生研究所。
注2) NIHは,2004年9月に助成研究の成果は刊行後6か月以内にPubMed Centralに登録・無償公開すること
を義務付ける方針をうちだした。方針はその後,刊行後12か月以内に変更され,2005年5月には実
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施に至っている(これらの経緯は,尾身らの論文1)に詳しい)。方針は当初,ほとんど実行されな
いなど紆余曲折を経たが現在徐々に定着しつつある。NIHポリシーとも呼ばれる。
注3) 特定非営利法人日本分子生物学会のホームページは,2009年2月25日現在,トップページで英語サ
イトへの誘導に英国国旗のユニオンジャックを用いている2)(日本分子生物学会ホームページ)。英
語を用いている国家・民族は多数あり,英国国旗を用いて表示することには異論が少なくない。
注4) UniBio Pressとは,「国立情報学研究所が推進する国際学術情報流通基盤整備事業に選定された生物
学系学協会の意志的で,また自主的な,日本ではじめての電子ジャ-ナルパッケ-ジ」3)である。
注5) Research Councils United Kingdom。英国の7つのリサーチカウンシルの統合機関。英国研究会議。
注6) 学術用語集は,専門用語の意味や定義などを統一するために,各学会が発行してきた。国立情報学
研究所の事業でオンライン化が進められている。
注7) 演者の一人の岡本真氏も,自身のブログで,「正直,今回の討論は失敗だった。私も含め,登壇者
4)
の話がいささかPersuasive Speech過ぎたと思う。もう少しInformative Speechを心がけるべきだった」
と評している。
注8) いろいろなところで指摘されている。例えば,理化学研究所脳科学総合研究センターの加藤忠史氏
は,雑誌連載の中で「何年も前から多額の国費と人材を投入して進められてきた我が国のプロジェ
クトが,今まさに完成しようとしていたその矢先に,プロジェクトの中心人物がその成果を米国の
5)というショッキングな書き出しで,日常的に起こっている事態を揶揄
一企業に渡してしまった」
して伝えている。
注9) シリアルズクライシスとは,学術雑誌の購読料が高騰し,そのため購読する研究機関・専門図書館
が減少し,そしてそれがさらなる購読料の高騰を招く悪循環のことを指す。あるいは,その高騰
に伴って,学術の現場において,学術雑誌が十分にそろえられない状態が訪れていることを指す。
1990年代から顕著となり,オープンアクセス運動のきっかけにもなった。
注10) 筆者自身がかつて科学館職員であり,科学館職員の間で,出身大学の図書館の利用法などについ
て話題になることを個人的に経験している。
注11) 国立情報学研究所が進める,日本の学術機関の機関リポジトリを連携させようとする事業「学術
機関リポジトリ構築連携支援事業」のW e bサイトでは,2009年2月20日現在で92の機関が一覧と
してあげられている6)。また,日本における機関リポジトリの近年の発展については,逸村裕の
論文に詳しい7)。
注12) 生命科学系だけでも『遺伝』『蛋白質核酸酵素』『実験医学』など相当数にのぼる。物理,化学な
どそれぞれの分野に存在し,臨床医学系では膨大な数の雑誌が発行されている。
参考文献
1) 尾身朝子, 時実象一, 山崎匠. 研究助成機関とオープンアクセス―NIHパブリックアクセスポリシーに関
して. 情報管理. 2005, vol. 48, no. 3, p. 133-143.
2) 日本分子生物学会. 日本分子生物学会ホームページ. http://www.soc.nii.ac.jp/mbsj/, (参照2009-02-25).
3) UniBio Press. UniBio Pressホームページ. http://www.unibiopress.org/, (参照2009-02-25).
4) 岡本真. A C A D E M I C R E S O U R C E G U I D E ( A R G )ブログ版 2008-12-09. h t t p : / / d . h a t e n a . n e . j p /
arg/20081212/1229076380, (参照2009-02-25).
5) 加藤忠史. 脳と心の交差点 (第6回) 科学出版の未来. 科学. 2008, vol. 78, no. 3, p. 352-354.
84
生命科学のコミュニケーションから見た科学研究情報流通
6) 国立情報学研究所.“機関リポジトリ一覧”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業. h t t p : / / w w w . n i i .
ac.jp/irp/list/, (参照2009-02-26).
7) 逸村裕. 日本における機関リポジトリの展開:学術情報流通と蓄積の変容. カレントアウェアネス.
2007, no. 291. http://current.ndl.go.jp/ca1626, (参照2009-02-25).
Author Abstract
A forum featured scientific information distribution was held at one of the biggest meetings on life sciences in
Japan. The forum organized by the author did not have a great success with many participants, but there were
some fruits. I and a co-organizer presented the concepts such as “serials crisis”, “institutional repositories”
and “open access”, those unfamiliar for general life scientists. Scientific information distribution was shown
to be important for science communication and the progress of research. From the view point of science
communication, several points are turned out to have a great significance. Self-archiving by researchers
themselves and the institutional and financial support system for encouraging that, requests for institutional
repositories of huge national research agencies, and the big role of funding agencies are those points. Some
proposals to improve the current scientific information distribution from the view point of science communication.
Key words
scientific information distribution, science communication, life sciences, institutional repositories, central
archive, self-archiving, open access
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鳥取県立図書館のSWOT分析と「図書館
で夢を実現しました大賞」の取り組み
The SWOT analysis and “Dreams come true in library” award of Tottori prefectural library
小林 隆志1
KOBAYASHI Takashi1
1 鳥取県立図書館(〒680-0017 鳥取県鳥取市尚徳町101番地)Tel : 0857-26-8155
1 Tottori prefectural library (101 Shoutoku-cho Tottori-shi, Tottori 680-0017)
原稿受理(2009-03-25)
(情報管理 52(2), 086-094)
著者抄録
鳥取県立図書館は,ここ数年,利用者サービスの点で大きく変革している。その変革が意図しているのは,「もっと県
民に図書館の基本的な機能を理解して欲しい」,「図書館を,地域や個人の課題解決に資する情報提供が可能な頼りに
なる機関として認識して欲しい」という2点である。この目標にたどり着くために行ったS W O T分析による現状分析の
結果と,それに基づく事業内容について,(1)図書館の機能を県民・行政職員に知らせているか(強みを生かしてい
るか),(2)チャンスだからこそ,今やっておかなければならないことはないか(機会),(3)弱みをカバーする方法
はないのか,
(4)脅威は本当に脅威か,の4つの視点から紹介した。また,より具体的な事例として,文部科学省の「地
域の図書館サービス充実支援事業」を受託して実施した「図書館で夢を実現しました大賞」について報告する。
キーワード
鳥取県立図書館,公共図書館,SWOT分析,事業戦略,ビジネス支援サービス,アクションプラン,図書館サービス
1.
はじめに
は,以前の図書館の姿からは想像できない。
なぜ,この変化が鳥取県立図書館において可能で
86
鳥取県立図書館の変革が始まって,8年目に入ろ
あったのか。最も大きな要因は各館長のリーダー
うとしている。齋藤明彦元館長の着任から改革は始
シップである。豊かな行政経験(各館長の経験はそ
まり,野川聡前館長そして森本良和現館長へとバト
れぞれ異なるが,財政課の経験や商工労働部や農林
ンは引き継がれ,現在に至っている。その間,一番
水産部の経験,医療行政に関わる経験や議会事務局
変化したのは職員の意識ではなかろうか。常に利用
での経験等)と強いリーダーシップをもった館長の
者を意識し,職員自らが今何が求められているのか
着任なしに今の当館の姿は想像できない。時に厳し
を考え,必要とされているサービスを生み出してい
く,時に諭すように,時に大胆に,時に繊細にリー
く。そんな動きが日常化している。そのスピード感
ドしていただいた各館長の存在に感謝しつつ,現在
鳥取県立図書館のSWOT分析と「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
の鳥取県立図書館の有様についてまとめたい。
彦元館長である。「このままではやられる,県民に
良質なサービスを提供できる体制が維持できなくな
2.
図書館の機能は県民に理解されている
る」と考えた齋藤元館長は,さまざまな改革プラン
のか
を考え,実行に移していく(詳細については参考文
献1)〜3)に紹介した齋藤明彦関連のインタビュー記
「図書館の機能は県民に理解されているのか?」
事等を参考にしていただきたい)。元館長が口癖の
これが私の一番の問題意識である。平成9年,これ
ように言っていたのは「県民に役に立つのは当たり
が私の公共図書館デビューの年で,それまで自分は
前,県民に役に立つと認識してもらうことこそが重
図書館を使わない人間だった。その必要性を感じて
要」ということであった。これは,未来館者を含め
いなかったということもあるが,そもそも図書館の
て,いざというときには図書館が役に立つ,頼りに
機能(何ができるのか)を知らなかった。考えてみ
なる存在であるということを全県の人たちに理解し
ればもっともな話で,私が生まれ育った町には公共
てもらう努力をしなければならない,ということで
図書館がなかった。市町村合併により新鳥取市と
あった。多数の改革プランの中で,具体的な,役に
なったが,旧町域には今でも図書館はない。私たち
立つ事例を紹介する切り口として取り上げたのがビ
の子ども時代,鳥取県内には圧倒的に図書館のない
ジネス支援サービスであり,平成15年4月に,館内に
町村が多く,私同様に図書館の利用経験なしに大人
ワーキンググループを設置し,検討を開始した。
になっている方たちが多いことは容易に想像でき
る。資料相談やリクエスト購入や相互貸借といった
経験がないのに,図書館の機能を理解しろといって
3.
鳥取県立図書館の現状をSWOT分析して
みる
も無理な話である。平成9年,職場の異動で図書館
に配属された。そこには,素晴らしい世界が広がっ
ワーキンググループが立ち上がった当時,全国で
ていた。図書館のカウンターが,全国の図書館との
はいくつかの図書館ですでにビジネス支援サービス
ネットワークを背景に,蛇口のように情報を取り出
が始まっていた。しかし,伝え聞く各館の取り組み
す機能を備えている。まさに一人の利用者として図
はそれぞれであり,「ビジネス支援」というものが
書館を使い倒した。まだ,図書館デビューを果たし
定型化されたものではなかった。最初に行わなけれ
ていない方たちに,「こんな素晴らしい世界のある
ばならなかったことは,鳥取県立図書館らしいビジ
ことを知らせたい」,「図書館の使い方を知って欲し
ネス支援とは何かを考えることだった。“鳥取県立
い」そんな気持ちで日々の仕事に取り組んでいる。
図書館らしさ”とは,「田舎の地方都市にある県立
平成14年以前の図書館は(特に平成13年頃の図
図書館としてどう取り組んでいくのか」と言い換え
書館では),現在とは比較にならないほど,職員の
ることもできる。課題へのアプローチは,それまで
モチベーションが低下していた。それは,さまざま
に出版されていた関連の記事を回し読みし,全国の
な状況が複合的に発生していたためだが,新館開館
概況を正確に把握することと,鳥取県立図書館の特
以来十数年間にわたり,不明本の処理について県議
徴とは何なのかを改めて考え直すことである。以下,
会に報告していなかったため厳しく指摘を受けたこ
当館の状況分析とその後の事業展開について紹介し
とや,月曜日・祝日開館の要請に対して有効な提案
ていきたい。
ができなかったこと等が主な原因であった。そんな
中で着任したのが,財政課の経験も長かった齋藤明
鳥取県立図書館らしく事業展開していくために,
どう戦略を立てていくべきなのか,そのヒントを
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考えるためにS W O T分析を行い自分たちの資産の棚
以下,
「強み」
,
「機会」を生かし,
「弱み」
,
「脅威」
卸を行ってみた。S W O T分析とは,自らの経営資源
を克服して,事業展開を進める戦略について考える。
を「強み=Strength」,「弱み=Weakness」,「機会=
<戦略を考えるための4つの視点>
Opportunity」,「脅威=Threat」の4つの視点から洗い
(1)図書館の機能を県民・行政職員に知らせてい
るか(強みを生かしているか)
出し,目標達成に向けて活用する手法である。SWOT
分析は,当館をめぐる状況が変化するごとに,作り
(2)チャンスだからこそ,今やっておかなければ
ならないことはないか(機会)
変えていく必要があり,変化に対応した企画立案を
していかなければならない。
(3)弱みをカバーする方法はないのか
表1 SWOT分析表
88
鳥取県立図書館のSWOT分析と「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
(4)脅威は本当に脅威か
以下,上記の4つの視点に沿って,当館の取り組
みについてまとめてみたい。
写真1,2は,鳥取県産業技術センター主催の「めっ
き技術研修会」に参加しているところである。研修
会のプログラムの中に図書館活用法を説明するため
の時間を確保してもらい,研修会の内容に関連した
3.1 図書館の機能を県民・行政職員に知らせて
いるか
図書を会場に展示し,その場で貸出も行う。そのほ
かにも,女性企業家グループの研修会や,中小企業
表1の通り,図書館にはかなりの「強み」がある。
の経営者を対象としたセミナー,建築士事務所協会
しかし,これらの「強み」の部分は,なかなか一般
の総会等で1時間程度の時間をいただき,図書館の
に浸透していない。「資料相談機能」,「相互貸借機
活用法について講義したり,「食のみやこ鳥取フェ
能」,
「文献取寄せ機能」,
「著作権法上の優位性」等,
スタ」,「産官学連携フェスティバル」等のイベント
図書館員にとっては,当たり前のサービスであるが,
にブースを構えて参加するなど,さまざまな機会を
知っている人だけが利用しているサービスに見えて
活用し広報に努めている。平成19年度の出前図書館
しょうがない。図書館はもっと多くの住民に,きち
の回数は100回を超えている。
んと図書館の機能を理解してもらう努力をしなけれ
ばならない。もう一つ大きなテーマは「図書館のイ
メージの転換」である。図書館にはどうしても趣味
的なイメージがつきまとう。平成18年に来館者アン
3.1.1「鳥取県立図書館の目指す図書館像」とアク
ションプランの作成
平成18年3月「鳥取県立図書館の目指す図書館像」
ケートを行った結果では,主な利用目的の趣味娯楽
を策定した。これは,われわれ図書館員が何を目指
の項は55%を占めている。決して趣味娯楽の利用を
して館の運営を行っているのかその全体像を明らか
否定するものではないが,もっと地域の活性化のた
にし,「さまざまな状況の変化が生じてもこの方向
めに図書館が活用されればと願う。また,図書館に
性でサービスを提供することを県民に約束します」
来館されない方にとっては,より趣味娯楽のイメー
という立場で作成した。ある意味広報戦略の一環と
ジが強いことは容易に想像される。
いえる。また,この図書館像を絵に描いた餅にする
当館では,出前図書館と称し,県内で開催される
ことなく,着実に歩みを進めていくために5年間を
さまざまなイベント等に参加し,図書館機能を広報
見通したアクションプランを策定し,1年ごとに事
する機会を得るよう努力している。
業の推移をチェックしている(この図書館像とアク
写真1 「めっき技術研修」に参加し,広報する図書館職員
写真2 会場内に展示した図書コーナー
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ションプランについては,鳥取県立図書館のホーム
のを鳥取県に誘致し,多数の図書館関係者が一度に
ページ上で公開しているので,そちらを参照してい
受講できるよう,条件作りに努力している。実際に
ただきたい)。アクションプランの中では,サービ
「デジタルライブラリアン講習」や「情報検索基礎
スの進捗状況を確認するため,2年に1度,アンケー
能力試験対策講座」,「情報検索応用能力試験2級対
ト調査を行うことを明記している。ここ数年間の地
策講座」の誘致,それに加えて試験会場も鳥取県内
道な努力により,アンケート結果にも,変化の兆し
に誘致した事例などがある。恵まれた環境である今
が見られたので,関連の項目について,表2として
こそ,しっかりとした技術を身につけなければなら
紹介しておく。狙いの通り,図書館利用の高度化,
ない。
利用メディアの多様化の進行がわかるが,この数字
また,いい時だからこそ,しっかりとしたサービ
に満足することなくさらなる向上を目指していかな
スを構築し,市町村立図書館や学校図書館,県民に
ければならない。
必要とされる県立図書館になっておかなければなら
ない。県内全域に2日以内に図書を届ける物流シス
3.2 チャンスだからこそ,今やっておかなけれ
ばならないことはないか
図書館は古くからビジネス支援を行ってきた。と
いうのも,利用者の質問に対し,誠実に資料を探し
90
テムの維持,新しいサービスの創造,高等学校図書
館へのサービスの充実などその方向は多様である
が,ここでは高等学校図書館へのサービスについて
考えてみたい。
出し提供することで仕事に役立つ情報提供も行って
本来なら,すべての学校に図書費として潤沢な予
きたはずだからである。しかし,これは具体的なサー
算が確保されるのが望ましいが,地方自治体の財政
ビスとして「ビジネス支援」という看板を掲げて行
状況を考えると必要とされるものをすべてそろえる
うサービスとは,寄せられる質問のレベルと回答へ
というのは難しい。教育課程の中で絶対に必要な資
の期待度において大きく異なる。仕事に役立つとい
料は各学校でそろえ,あったらいいという資料を公
うことを前面に打ち出しておきながら,満足できる
共図書館が所蔵し,各学校の必要に応じて即座に配
回答が提供できないという事態をなくさなければ,
送する。こういうシステムが整備されることが,合
期待とは逆に利用者を減少させることになりかねな
理的で資料費を効果的に活用することにつながると
い。職員のスキルアップが急務である。ビジネスラ
思われる。学校図書館から支援を求められる前に,
イブラリアン講習をはじめとする研修会に積極的に
公共図書館側から提案していくことが,円滑な事業
参加することは有効であるが,多くの研修会は首都
スタートの鍵ではないかと考えている。実際,学校図
圏を中心に開催されており,地方の鳥取県から多数
書館は多くの資料を求めている。当館は,私立を含む
の職員が参加するのには無理がある。したがって発
すべての県内高等学校に毎日必要な資料を送るシス
想を逆転し,有効な研修会があればその講習そのも
テムを整えている。貸出冊数は年々増加し,市町村立
表2 鳥取県立図書館利用に関するアンケート調査結果
表3 平成19年度鳥取県立図書館利用統計
鳥取県立図書館のSWOT分析と「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
図書館への貸出冊数を追い越す勢いである(表3)
。
4.「図書館で夢を実現しました大賞」の実施
学校教育へ寄与することができる公共図書館の姿
をしっかりと構築することは,これからの図書館の
これまで,「図書館のイメージの転換」に対し,
存在意義を説明するために,重要な視点であると考
鳥取県立図書館(又は県内の公共図書館)というい
えている。
わば「点」としての取り組みを行ってきた。これを,
「面」として取り組んでいくための大きく図書館の
3.3 弱みをカバーする方法はないのか
ビジネス支援の最大の目的は,利用者の課題解決
イメージを変えていくような取り組みを全国的に仕
掛けたいと考え,この企画を立案した。文部科学省
に資する情報を提供することである。これを実現す
の委託事業「地域の図書館サービス充実支援事業」
るためには,やはり図書館の機能だけでは不十分で
を受託して「図書館で夢を実現しました大賞」と称
ある。役割分担を考えるなら,図書館の役割は,
「資
し,図書館の資料や機能を活用して得られた情報や
料(情報)による課題解決支援」であり,産業支援
継続的な利用が,商品開発や技術開発,起業・創業
機関の役割は「知識・経験によるアドバイス,支援
につながった事例を全国公募し表彰し全国に発信す
策による課題解決支援」である。この双方が上手く
るという手法である。目的は,「え,そんな図書館
機能して,効果的に利用者の課題が解決していく。
活用法があったのか」というヒントを多くの人に事
したがって,関連機関とのネットワークをいかに構
例で紹介することである。応募総数は12事例と決し
築しているかが重要で,図書館員には,各機関の代
て多くはなかったが,大きな成果を上げている事例
表の電話番号を紹介するのではなく,各機関のアド
が集まり,企画そのものについては,大成功だった
バイザー,研究員の専門分野が紹介でき,電話一本
と考えている。
で直接案内ができるような,人脈の構築が求められ
ている。
事業の概要と選考結果は以下の通りである。
<事業概要>
・主催:鳥取県の21世紀の図書館を創る会
3.4 脅威は本当に脅威か
特に経済状況が急速に悪くなっている現在におい
て,地方自治体の財政の悪化の問題は深刻である。
※「鳥取県の21世紀の図書館を創る会」は,文部
科学省の委託事業を実施するための,県立図書
館職員有志の集まり
しかしながら,財政の悪化と図書館運営費の削減,
・募集期間:平成20年12月1日〜平成21年1月21日
職員定数減は必ずしもリンクするものではないと考
・賞および賞品
えている。むしろ厳しい今だからこそ,図書館の存
最優秀賞1事例,優秀賞2事例,優良賞(審査会に
在が地域経済の発展に寄与し,地域の情報基盤とし
て決定,最大50件)
て重要だと認知されれば,逆に図書館の充実が図ら
※最優秀賞と優秀賞の合計3事例については,成
れるということもあり得る。都道府県の中では財政
功までの物語をプロの漫画家の手でマンガにし
規模の小さい鳥取県の県立図書館が,平成9年以降,
てプレゼント
毎年1億円以上の資料費を確保していることは,あ
る意味それを象徴する事例だと考えている。必要な
ものを必要なものとしてきちんと説明し,それを用
※各賞の受賞事例については,鳥取県立図書館の
ホームページ等で紹介中
・選考委員
いた活動と予想される成果をしっかり提案すること
常世田良 社団法人日本図書館協会事務局次長
が必要である。
高多彬臣 鳥取県図書館協会長
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中永廣樹 鳥取県教育委員会教育長
とが困難な,より高度な医療・健康情報を提供する
森本良和 鳥取県立図書館長
ことが期待されている。このような全国的にもまれ
な協力体制が容易に構築できるほど,鳥取県内の図
<選考結果>
審査会は,平成21年1月22日鳥取県立図書館内で
書館は,館種を超えて強いネットワークを形成して
開催され,
「社会への貢献度」
,
「図書館の活用度」
,
「新
いる。先に述べたように,「図書館の機能をもっと
規性」の3つの審査基準に沿って審査し,評価の高い
県民に理解して欲しい」や「図書館のイメージの転
順に,最優秀賞1事例,優秀賞2事例を決定した。受
換」を目指していくためには,当館単独の事業を行
賞者と評価については,以下の通りである(表4)
。
うことだけでは難しい。公共図書館,大学図書館,
高等学校図書館,病院図書室,産業技術センターの
5.
おわりに
図書室,男女共同参画センターの図書室等,あらゆ
るチャンネルを活用して,県民に働きかけていく必
平成21年1月21日,県中部の県立厚生病院に専任
要がある。鳥取県内の市町村立図書館では,すでに
の司書職員が常駐する病院図書室がオープンした。
9館に医療健康情報のコーナーが設けられており,7
オープンに向けて,倉吉市立図書館,鳥取大学附属
館がビジネス支援に取り組んでいる。図書館サービ
図書館,鳥取県立図書館の3者が集まり,各館がど
スの視点は確実に変化してきている。この条件を生
んなサポートができるのかを考える事前協議が行わ
かし,「困ったときには図書館に行こう」と掛け声
れた。倉吉市立図書館,鳥取県立図書館からは,児
だけではなく,本当にそう言える,そう言ってもら
童書・一般書等の大量貸出が行われることとなり,
える地域づくりに励んでいきたいと考えている。
鳥取大学附属図書館には,公共図書館が提供するこ
表4 受賞者と評価
92
鳥取県立図書館のSWOT分析と「図書館で夢を実現しました大賞」の取り組み
参考文献
1) 齋藤明彦.《誌上討論》現在社会において公立図書館の果たすべき役割は何か(第4回)「役に立つ」図
書館が地球を救う〜鳥取県立図書館の改革を通して考える図書館の役割. 図書館界. 2007, vol. 58, no. 5
(通号vol. 332), p. 269-277.
2) 齋藤明彦. 特集:図書館政策を考える 鳥取県の図書館政策について―鳥取県立図書館長,齋藤明彦
氏に聞く. みんなの図書館. 2005, no. 333, p. 26-36.
3) 齋藤明彦. この人に聞く―齋藤明彦さん―. 北の図書館. 2004, no. 4, p. 4-8.
Author Abstract
Tottori prefectual library has been changing rapidly in terms of service for its users. There are two goals in
this change. They are: “Let people in Tottori understand the basic functions of library”, “Let people recognize
library as a reliable source of information which can resolve regional and personal problems”. In order to meet
these goals effectively, we have analyzed the library by SWOT analysis model. In this paper, we will introduce
the results in four aspects: (1) Do we inform the library's function to people and administrational staffs of
Tottori prefecture (do we exploit our strength fully), (2) In the time of opportunity, is there anything left yet to do
(opportunity), (3) How can we make up for our weaknesses, (4) Is the threat really a threat? Also, as a case
study, we will introduce our “Dreams come true in library” award, which is funded by the “Supporting regional
library service” of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology.
Key words
Tottori prefectural library, public library, SWOT analysis, business strategy, business support service, action
plan, library service
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JST国内収集誌の電子化状況調査報告
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
Survey of digitalization status of STM journals published in Japan that JST collects
堀内 美穂1 佐藤 恵子1 吉田敏也1 頼母木 浩一1
HORIUCHI Miho1; SATO Keiko1; YOSHIDA Toshiya1; TANOMOGI Hirokazu1
1 独立行政法人科学技術振興機構(〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3)
1 Japan Science and Technology Agency (5-3 Yonban-cho Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666)
原稿受理(2009-03-19)
(情報管理 52(2), 095-101)
著者抄録
科学技術振興機構(JST)が継続的に収集している国内の科学技術関連資料(9,098誌)について電子化の現状を明らか
にするため,出版者サイトおよび国内のアグリゲータ機関からの全文情報の提供状況を調べた。調査の結果,3,558誌
(39%)の全文が電子的な状態で提供されていることがわかった。電子化されている3,558誌について,出版団体,資料
の種類,分野別に分析を行った。科学技術関連資料のうち,学術誌・学会誌の電子化率は47%であった。
キーワード
学術雑誌,学術情報,電子ジャーナル,アグリゲータ,機関リポジトリ,出版者,ディジタルコンテンツ,全文情報,
全文リンク,JST収集誌
1.
はじめに
ていると感じていることが明らかになった。
そこで,国内の科学技術関連資料の電子化の現状
科学技術振興機構(以下,JST)では,2008年1月に,
について明らかにするために,J S T国内継続収集誌
次期文献情報提供サービスを模索する調査の一環と
(以下,JST国内収集誌)を対象に全文の電子化状況
して,科学技術に関する文献情報を日常的に必要と
の調査を実施した。JST国内収集誌とは,JSTが文献
している人々を対象に「科学技術に関する文献情報
情報データベース構築のため,継続的に収集してい
の入手・利用についてのアンケート調査」を実施し
る国内の逐次刊行物である。J S Tでは,国内資料の
た1)。本アンケート調査は,研究・開発の従事者を
網羅的収集を方針としており,科学技術分野の学術
中心に614名の回答を得た。本アンケートの結果で
誌・学会誌,紀要等の研究報告,会議関連資料など
は,(1)回答者のうち92%はインターネット等から電
を収集し,毎年対象誌の拡充を図っている。本調査
子的に全文情報を入手し利用しており,電子化され
では,平成20年10月時点のJ S T国内収集誌を調査対
ている資料が少ないことに不満を抱いていること,
象とした。
(2)さらにそのうちの98%は国内誌の電子化が遅れ
なお本報告は,第5回情報プロフェッショナルシ
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表1 (調査2)アグリゲータサービス一覧
ンポジウム(I N F O P R O 2008)で吉田が発表2)した
内容に,加筆・再編集したものである。なお,本稿
では,発行資料が電子的に利用可能な状態で提供
されているものを広く「電子資料」として定義し,
この中にはいわゆる学術雑誌の電子版である電子
ジャーナルも含めるものとする。
2.
調査方法
調査の対象は,平成20年10月時点のJ S T国内収集
誌9,098誌である。
電子資料は,冊子発行元である出版者(学協会や
以下の規準により行った。
(1)電子資料の提供ありと判断したケース:
・ 最新年や直近数年分,過去の一時期といった特
定期間の範囲で全文が提供されていた場合
大学,公立機関,商業出版社,民間企業など)サイ
トから直接提供される場合と,各出版者で出版して
・ 資料の主要記事(論文形式の記事)のみといっ
いる資料を集約するサービス(アグリゲータサービ
た一部内容の全文が提供されていた場合
ス)が介在し提供される場合とがあるため,J S T国
(2)電子資料の提供なしと判断したケース:
内収集誌の電子化状況について把握するため,次の
・ PRのため,最新号の記事のみが一時的に提供さ
れていた場合
ような二つの調査を行った。
一つは,J S T国内収集誌が,出版者サイトにおい
・ 本文ではなく,資料の抄録や要約のみが提供さ
れていた場合
て電子資料として提供されているか否かについての
確認調査(以下,調査1)。そして,調査1を補完す
るための,国内の主要アグリゲータサービスにおけ
2.2 調査2:アグリゲータサービスにおけるJST
国内収集誌の収録状況調査
るJST国内収集誌の収録状況調査(以下,調査2)で
ある。
JSTで事前に把握していた国内6アグリゲータサー
ビス提供機関より収録誌のリストを入手し,J S T国
2.1 調査1:出版者サイトにおける電子資料の
提供状況調査
平成20年3月から10月にかけて,インターネット
内収集誌との同定を行った。表1に6機関のサービス
名称,収録誌数,データ取得時期を記す。
資料の同定は,I S S Nおよび資料名(タイトル名)
を利用し,各出版者サイトのWebページを参照して
をキーとして機械処理を行い,さらに,資料名の表
電子資料の提供状況について確認を行った。提供さ
記に揺れがあるもの等の同定を行うため,人手で同
れる電子資料には,契約者しかアクセスできない資
定を行った3)。
料もあり,その場合は購読案内や資料に関する概
要などの情報を参照した。また,調査1ではオンラ
3.
調査結果
インでの利用可能性のみだけではなく,C D - R O Mや
D V D - R O Mといった電子媒体による提供についても
確認した。
今回,対象資料が電子化されていることの判定は
96
調査1,2の結果,J S T国内収集誌のうち3,558誌
が電子資料として利用可能であった。また,電子資
料3,558誌のうち,インターネット経由で利用可能
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
表2 出版団体別定義
数としては最も多いが,電子化率は低いことが挙げ
られる。
3.2 資料種別の電子化状況
資料の性質を示す資料種別の電子資料数および電
子化率が表4である。年報や白書類,一般情報誌に
ついては「その他」に含まれている。なお,
「研究報告・
な状態で提供されていたものは3,553誌で,CD-ROM
技術報告」とは,原著論文を主とする機関報告や技
やDVD-ROMの電子媒体のみによる提供は5誌のみで
術レポートのことであり,大学の紀要はこちらに含
あった。
まれる。また,会議関係資料として「会議論文集」
次に,今回電子資料と判定した3,558誌について,
は研究成果を論文形式にまとめたもの,「会議要旨
出版団体別および資料種別4),資料分野別の傾向,
集」は予稿集や概要集,抄録集の資料などである。
サービス提供元からみた電子化状況等について分析
した。
電子資料数においては,研究報告・技術報告1,555
誌,学術誌・学会誌1,036誌の順に多く,実用誌・
解説誌244誌,会議要旨集198誌,会議論文集112誌
3.1 出版団体別の電子化状況
JST国内収集誌の出版団体を表2出版団体別定義に
従い分類し,電子化状況の傾向を調査した。
出版団体別の電子資料数および電子化率(電子資
と少なかった。同様に,電子化率は,研究報告・技
術報告と学術誌・学会誌の電子化率が45%以上と高
く,実用誌・解説誌と会議関係資料(会議論文集,
会議要旨集)の電子化率は30%以下と低かった。
料数/ J S T国内収集誌数)が表3である。電子資料
学術誌・学会誌の電子化率が高い要因として,国
数は,学協会1,246誌,大学等教育機関942誌,公共
立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業5)とJ S Tが
機関548誌で多く,商業出版者251誌,会社等営利
平成11年より運用しているJ-STAGEの効果が考えら
団体172誌で少なかった。また,電子化率は,大学
れる。
等教育機関と政府機関,公共機関の電子化が49〜
56%と高く,これらの機関が出版する資料の半数近
くが電子資料であった。一方,その他を除いて,商
業出版者35%,学協会31%と電子化率が低かった。
出版団体別からみた特徴として,学協会が電子化誌
表3 出版団体別の電子化状況
3.3 資料分野別の電子化状況
J S Tが独自に設定している資料の分野別の電子資
料数および電子化率が表5である。
電子資料数は,医学1,045誌,農林水産598誌,科
表4 資料種別の電子化状況
97
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表5 資料分野別の電子化状況
学技術一般384誌と多く,物理学85誌,原子力・エ
ネルギー工学43誌と少なかった。また,電子化率は,
科学技術一般,環境工学,生物科学,農林水産,経
営・情報システム工学が46%以上と高く,建設工学,
化学が20%台と低かった。
3.4 出版団体および資料種別の電子化状況
表6は,出版団体と資料種別による集計結果であ
る。全体的な傾向として,政府機関や公共機関,大
学等における研究報告・技術報告が他の出版団体に
よる発行資料と比べて電子化が進んでいることがみ
てとれる。これら資料は,自機関の研究成果情報を
発信することを目的として,利用者に全文情報が一
般公開されやすいことも特徴といえる。
表6 出版団体および資料種別の電子化状況
98
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
また,学協会における学術誌・学会誌の電子化率
るものと考えられる。
が47%であったのに対し,会議論文集が18%,会議
要旨集15%と会議関係資料の電子化が低く,前節3.1
で指摘した学協会の電子化率が31%と低かった要因
が会議関係資料の低電子化によることがわかった。
3.6 J S T国内収集誌のサービス提供元からみた
電子化状況
本節では,JST国内収集誌の電子資料3,558誌の傾
向について,調査1と調査2それぞれの結果に基づ
3.5 出版団体および資料分野別の電子化状況
表7は,出版団体および資料分野別による集計結
き,
サービス提供元からみた電子化状況を報告する。
調査1の出版者サイトにおけるJ S T国内収集誌の
果である。全体の傾向として,政府機関や公共機関,
提供状況を調査した結果,出版者サイトから提供
大学等教育機関において,特に農林水産分野の電子
される電子資料は計1,805誌(JST国内収集誌のうち
資料数が多く,電子化率が高いことがわかる。農林
19.8%)であった。また,当該資料を提供するサイ
水産研究情報総合センターが運用しているAGROLib
ト数を把握するためにURLを調査したところ,1,000
によって資料の電子化が進められてきたことが要因
を超えるサイトにより資料が提供されていることを
と考えられる。また,医学,生物科学分野における
確認した。また,調査1の過程で,調査2で対象と
商業出版者の電子化率が高くなっている。このこと
したアグリゲータサービス以外に,大学のコンソー
は,医学,生物科学分野において,電子資料の提供
シアムや地域の外郭団体,商業出版者によるアグリ
がビジネスモデルとして成立していることを示唆す
ゲータサービスに相当するサイトからも電子資料が
表7 出版団体および分野別の電子化状況
99
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表8 (調査2)アグリゲータサービス別JST国内収集誌提供数
図1 JST国内収集誌のサービス提供元からみる電子化状況
68誌提供されていることを確認した。
(ALPSP: Association of Learned and Professional Society
次に,調査2の結果,J S T国内収集誌のうちアグ
Publishers)が出版社へのアンケートを実施し,その結
リゲータサービスに収録されている電子資料は,延
果を報告書として出版している。当該報告書(2008
べ2,318誌であった。表8は各サービスにおけるJ S T
年版)によると,科学技術系ジャーナルの電子化率
国内収集誌の提供数および延べ数(複数サービスで
(オンライン利用可能率)は96.1%と報告されてお
提供されている資料の重複分含む)である。これを
り6),本調査による国内資料の電子化率の低さは,
資料数で求めたところ,計2,040誌(JST国内収集誌
国内の科学技術情報流通が海外より非常に遅れてい
のうち22%)であった。また,J S T国内収集誌では
ることを示唆している。海外では学協会誌の発行を
ない資料で,アグリゲータサービスにより提供され
商業出版者が担っているが,日本では学協会自ら発
ている資料が2,831誌あった。これらには(1)JSTが対
行,そして電子化を行っているという学術情報流通
象とする科学技術分野外の人文社会系の資料や,(2)
のビジネスモデルの違いが国内資料の電子化を遅ら
現在は発行されてない過去の資料が多く含まれてい
せている要因と考えられる。
る。
上記調査1・2の結果に基づき,J S T国内収集誌の
4.
おわりに
サービス提供元から電子資料数の集合を示したもの
が図1である。この図において,(A)出版者サイト
資料の電子化への対応は,研究者による科学技術
およびアグリゲータサービスの双方から提供されて
情報の入手に影響し,研究開発期間の短縮に大きく
いる電子資料:計350誌,(B)出版者サイト単独で
寄与することから,早急に海外同等の電子化率とす
提供されていた電子資料:計1,455誌,
(C)アグリゲー
るための政策的な支援が必要である。
タサービスでのみ提供されていた電子資料:計1,753
誌となっている。
国内の電子資料を公開している出版者やアグリ
ゲータサービスのサイト数は1,000以上も存在する
のが現状であり,仮に海外同等に資料の電子化が進
3.7 考察
100
んでも,電子資料が点在し,その所在先を効率良く
本調査の結果では,J S T国内収集誌で「電子資料
知る手段がなければ利用者が必要とする情報にアク
の提供あり」と判定したものは全体の約4割であっ
セスすることが困難である。今後は,研究開発に関
た。海外の電子化状況については,学術出版社協会
わる人々が国内の電子資料を容易に利活用できるよ
JST国内収集誌の電子化状況調査報告
う,国内電子資料情報を集約した総合的な検索案内
ター,大学病院医療情報ネットワーク,国立情報学
サービスを,J S Tをはじめとする公的機関が集まり
研究所,(株)サンメディア,(株)メテオインターゲー
構築する必要がある。
トのサービスご担当者の方から提供資料情報等ご協
力いただいた。愛知大学の時実教授からもご指導い
謝辞:
ただいた7),8)。ここに心より感謝の意を表したい。
今回の調査にあたり,農林水産研究情報総合セン
参考文献
1) 科学技術振興機構. 文献情報の入手・利用に関するアンケート結果報告. JDreamニュース. 2008, no. 14.
http://pr.jst.go.jp/jdreamnews/html/200806/vol14.html#03, (参照2008-08-06).
2) 吉田敏也, 佐藤恵子, 堀内美穂, 頼母木浩一.“国内発行の科学技術資料の電子化状況: JST収集誌につい
てのインターネット調査報告”. 第5回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集. 東京, 2008-1113/14, 科学技術振興機構, 情報科学技術協会. 2008, p. 39-43.
3) 原田郁子. J S T収集・収録誌と海外主要データベース収録誌との比較. 情報管理. 2004, v o l . 47, n o . 2,
p. 96-101.
4) 科学技術振興機構. JSTPlus, JMEDPlus収録誌の資料分類と収録基準について. JDreamニュース. 2008, no.
15. http://pr.jst.go.jp/jdreamnews/html/200808/vol15.html#02, (参照2008-06-02).
5) 国立情報学研究所. 学術雑誌公開支援事業. http://www.nii.ac.jp/nels/about/index.html, (参照2008-06-02).
6) The Association of Learned and Professional Society Publishers. Scholarly Publishing Practice, Third Survey 2008:
Academic journal publishers' policies and practices in online publishing. http://www.alpsp.org/ngen_public/article.
asp?id=&did=47&aid=27749&st=&oaid=-1, (accessed 2008-10-15).
7) 時実象一. 日本発行の科学技術雑誌の調査 (1)電子ジャーナル化の状況. 情報管理. 2008, vol. 51, no. 8,
p. 571-579.
8) 時実象一.“日本発行雑誌の各種科学技術データベースへの収録状況”. 第3回情報プロフェッショナル
シンポジウム予稿集. 東京, 2006-11-16/17, 科学技術振興機構, 情報科学技術協会. 2006, p. 75-78.
Author Abstract
Via the Internet we surveyed full text availability of 9,098 STM journals published in Japan, which JST is
continuously collecting. Full texts of 3,558 journals (39 percents of JST collection) are electronically available and
provided by publishers or aggregators. Features of publisher's type, journal type and category of 3,558 journals
were analyzed. Digitalization ratio of STM academic journals and scholarly journals published in Japan was 47
percents.
Key words
academic journal, scholarly information, electronic journal, aggregator, institutional repository, publisher, digital
contents, full-text, full-text link, JST collection
101
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What I do, study, and think as an information professional
インフォプロってなんだ?
私の仕事, 学び, そして考え
第 2 回
佐藤 和代
アサヒビール株式会社 研究開発戦略部 トレンドリサーチ室
2009年の今年は私が社会に出てからちょうど20
欲であること」の3点であった。この3つの資質は
周年となる。社会に出てからの20年を振り返りなが
20年たった今でも情報担当者として仕事に対する
ら,情報部門での業務のあり方や情報部門スタッフ
姿勢の一つとなっている。
としての心構えなどをお話ししたい。
102
もう一つの転機は入社後7年目頃の出来事であ
この20年の私の経歴は,入社してから6年は情報
る。情報部門から知的財産部門に異動となり,職場
調査部門に在籍し,その後,知財部門に異動して特
も研究所から本社ビルに移動した。職場が変わると
許出願業務に携わった。そして2000年からもう一
人間環境も変わり,新しい職場で「会社の師匠」に
度,情報調査部門で勤務することとなった。私の社
巡り合ったのである。この会社の師匠は上司でもな
会人歴のなかで情報部門での勤務は約14年になる
く,仕事でつながりがあったわけでもなく,出勤時
が,個人として,そして組織人としての位置づけを
に乗るエレベーターが毎日一緒だったことから自然
決定づけたのは入社試験時の役員面接と会社の師匠
と会話が生まれたのである。当時,私は自分の時
との出会いの2つの局面であったと思う。
間が自由に使えるメリットから朝7時に出勤してい
1989年に就職のための入社試験を受験した。当
た。毎朝,早朝出勤組は固定化しており,あいさつ
時の入社試験は筆記試験と役員面接からなってい
を交わす程度から,いろいろと話を伺うようになっ
た。役員面接は当初提出していた履歴書や今で言う
た。組織論から上司,部下としてなど話題は多岐に
ところのエントリーシートに記載された学業の内
わたり,師匠からは日々の業務のなかで心に留め置
容,そして就職後の希望職種等に関する質疑応答で
くことを多く教えてもらった。その一つにルーチン
進められていった。その内容の大半は忘れてしまっ
と呼ばれる日常業務に対する考え方があった。
たが,役員の一人から忘れられない質問があった。
情報部門業務の大半は日常業務(ルーチン)で占
それは「あなたの希望している職種にとって必要な
められている。図書・雑誌の受け入れ,文献複写,
資質は何ですか? 3つ答えてください」と問われ
定期発信のための情報収集などである。このような
たのである。
日常業務は派手ではなく,大半の人間にとって面白
当時,学生の身で自分が希望している職種に必要
くないものである。「毎日同じような仕事を繰り返
な資質などという本質的なことは考えてもおらず,
し行わなければならないことを,つまらないと思っ
時間にしてほんの数秒であったとは思うが,その場
て過ごす人と,これも一つの体験と受け止め,日々
で真剣に考えさせられた。そのときの私の回答は「明
新たな思いで当たる人とでは,そこに大きな差が生
るいこと,人の話をよく聞くこと,知識に対して貪
まれるのではないか」と,あるとき師匠に説いて聞
リレーエッセー ●インフォプロってなんだ?
かされた。そのとき頭をよぎったのは,入社してす
の情報にアクセスできる環境になっても,自分が求
ぐに与えられた昭和30年代からの社内技術資料の
めている情報に正確にたどり着けるユーザーは意外
電子化作業である。毎日毎日,紙媒体からタイトル,
と少ないのである。情報への近道はGoogleだけでは
著者名などを拾い出し入力していくのであるが,こ
ない。特異的な情報になればなるほど,求めている
の作業は単調なうえに時間がかかり,しかも膨大な
データの特性にあった調査手法が求められるように
量であるため,入力しても入力しても終わらないと
なる。最短の時間でユーザーの求める情報にたどり
思う作業だった。しかし20年後の私は,過去からの
着くためには,情報源の幅を広げ,視点を広げ,事
研究者をほとんどフルネームで答えられ,誰がどの
業経営者としてのセンスも問われると思う。情報の
ような研究を行ってきたか,データベースを検索し
コンシェルジュとして情報と人,人と人,組織と組
なくてもわかるのである。まさに,ルーチンの積み
織を結びつけられるような活動に結びつけていきた
重ねは誰のためでもない,自分のためなのだと実感
いと思っている。
した。
現在私が所属している研究開発戦略部 トレンド
リサーチ室は実に奇妙な組織である。トレンドリ
サーチ室に足を運ぶユーザーは何かの悩みを抱えて
■この1冊
組織論を教えてくれた著作として『坂の上の雲』
(司馬
太郎著)を,組織を有機的に結ぶインフラ
おり,その悩みは実に多様である。技術情報に限ら
ストラクチャーの重要性を教えてくれた著作として
ず,市場情報,人物情報,翻訳・英文校正の相談,
『ローマ人の物語』(塩野七生著)を推薦したい。両
果ては海外からの商品サンプル取り寄せまで受け付
著作とも大きな組織であればあるほど,その組織を
けている。この相談に応える最大の近道は「話を聞
支える基盤は組織内における情報とロジスティック
くこと」である。調査の背景,目的,仮説などをう
スサービスの平均化(偏りがないこと)であること
まくヒアリングすることができれば調査はかなりの
を示しており,読めば読むほど教わることが多い。
確率で満足できる結果となる。難しいテーマであれ
ばあるほど,スキルを磨くチャンスと受け止めてい
る。私の情報調査のスキルはユーザーに育てられた
といっても過言ではない。
一方で課題も多い。企業の研究開発部門では,新
しい研究開発の技術や事業性に対する評価が要求さ
れる。誰も経験したことがない「新しいこと」にチャ
レンジする研究員を支えるのが私たちの仕事だとす
れば,一緒に新規事業を押し出す推進力となるよう
な情報提供を行わなければならない。Webから大量
◆INFORMATION◆
【所属組織名】アサヒビール株式会社 研究開
発戦略部 トレンドリサーチ室
【サービス内容】アサヒビールグループ全体へ
の情報発信・情報提供
【スタッフ】4名
【資料数】図書 約11,000冊,雑誌 約390タイ
トル(※電子ジャーナルは別契約)
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第
14
回
すべての県民のニーズに対応できるハイブリッド図書館!
高等教育機関附属図書館と公共図書館の連携で図書館サービスの向上を
福井県立図書館長永田康寛氏と現場の方々の熱意を知った
本誌編集アドバイザー 森田歌子
前号では,産学官連携の中で様々な技術開発や新規事業創出の課題解決に情報
を駆使した活動をご紹介したが,そういった先進的な活動を利用することが難
しいということも多いのではないかと思う。一般の人々は何か知りたいと思っ
た場合,最近はまず,インターネットで調べ,書籍や雑誌を探しに近くの公共
図書館へ足を運ぶ。しかし,特殊な書籍や専門的な雑誌は公共図書館には所蔵
がないことが多い。公共図書館にはなく,大学の図書館にあると教えてもらうが,
改めて大学の図書館へ行くか,行っても一般の人が利用できないことがある。
昨年の12月に福井県で,福井県立図書館と県内高等教育機関との連携事業協定
の調印が行われ,この1月からスタートするということを知り,福井県立図書館
を訪問し,永田康寛館長と現場で実際に企画を推進された主任の野田紀代美さ
んに詳細を伺った。
身近な公共図書館から大学の専門書を借りたい
うな情報を得ることができず,お力になれなくて申
半年前くらいのことであるが,知人のそのまた知
し訳ないとお詫びしてそのままになっていた。そ
人で小さいが特殊な事業をしている人から相談を受
れ以降,公共図書館の動きが気になっていたとこ
けた。どうしても解決の糸口さえ見つからない問題
ろ,昨年末,福井県で,県内高等教育機関附属図書
が発生し,インターネットで調べたところ,どうや
館と県立図書館との相互協力協定が締結されたとの
ら海外の書籍と雑誌に関連の情報があるのではない
ニュースを見た。早速,福井県立図書館のHPを見た
かというところまで辿り着いたが,この先はどうし
ら協定締結の時の様子が掲載されていた。
たらいいだろうかという相談であった。
104
永田 康寛 氏
始まりは福井大学図書館と県立図書館の連携
そこで,書籍と雑誌の名前が分かっているのであ
平成20年12月17日に,県内高等教育機関計7校(福
れば,近くの公共図書館で尋ねることを薦めた。訪
井県立大学,福井工業大学,仁愛大学,仁愛女子短
問した図書館では所蔵が無く,大学の附属図書館が
期大学,敦賀短期大学,福井医療短期大学,福井工
所蔵しているが,取り寄せできないので,直接,大
業高等専門学校)と福井県立図書館が,図書館活動
学図書館へ行くように言われ問い合わせたが,一般
に関する協定を締結し,幅広い連携・協力を行うこ
の人への貸し出しはできないと言われたとのことで
ととなり,平成21年1月から開始されるとのことを
あった。困惑した声で,やっと所在が分かったのに,
知り,開始直後ではあるが,県立図書館へ伺い,永
見ることさえできないと言われた。
田館長と野田さんに詳細なお話をお聞きした。
私なりに,全国の公共図書館と大学図書館の相互
今回スタートした協定の前,平成19年10月4日に
貸借の現状を調べてみたが,相談にお応えできるよ
は福井県立図書館と福井大学附属図書館は,相互協
情報交差点 ●すべての県民のニーズに対応できるハイブリッド図書館!
力に関する協定を締結し,福井大学附属図書館が
ド図書館」であり,インターネットで調べ,その後
「福井県内図書館総合目録」(横断検索)システムへ
を水先案内する所で,情報の提供と本(印刷物など
参入することで,福井大学附属図書館と県内公共図
も)の両方,つまりデジタルとアナログの両方を扱
書館の蔵書約460万冊を,まとめて一度で検索でき
うことができ,住民に中心を置き,消費者主義でニー
るようになった。県立図書館の資料約96万冊に加
ズに対応できる情報を提供することだと語られた。
え,福井大学附属図書館の専門的な資料60万冊が利
県知事も利用者の一人で,よく図書館へ来られ,
用対象となり,利用できる資料の幅が広がり,レファ
一般の利用者の方々と同じに利用されるそうであ
レンスの幅が大きく広がったそうである。さらに11
る。利用者の目で見て,図書館機能を考え理解して
月15日からは県内市町立図書館からも相互貸借が
おられると伺い,これも図書館機能が評価され,今回
可能となったとのことであった。
の協定実現の隠れた力になっているのではと思った。
そして今回,県内全ての高等教育機関の附属図書
図書館の評価は売上げ,つまりサービス利用率
館と公共図書館との図書館ネットワークが完成した
次に図書館運営の側としての図書館のあり方につ
ことで,蔵書約547万冊がまとめて検索可能となっ
いて伺った。この問いにはまず一言,図書館機能が
た。県民の方は県内高等教育機関の学術専門書約
評価されるのは,売上げが上がることであると言わ
143万冊を身近な図書館を通じて利用でき,学生・
れた。図書館の売上げ?って何ですかと尋ねたら,
教職員は県立図書館の蔵書を各附属図書館を通じて
どんなサービスをしてどれだけの利用があるかだと
利用でき調査研究活動の範囲が広がった。また,レ
言われた。例えば100円を図書館,博物館や美術館,
ファレンス協力他の図書館事業の連携協力ができ,
保健所などにいくらずつ使うか,つまり利用者が図
資料の有効活用,利用者へのサービス向上,地域社
書館のサービスにいくらなら使うかだということで
会への貢献など,今後の福井県全体の図書館サービ
あるが,私は時間をお金として考えることで理解した。
スの大幅な向上が期待できると話された。
県民が時間を使って図書館へ足を運び,あるいは
教育機関との連携は,県側からの提案と大学の地
電話やインターネットで図書館のサービスをどれだ
域貢献という考えが一致し,まずは福井大学との連
け利用したか,そして満足したかが図書館の売上げ
携から始まり,その後県内の大学等の高等教育機関
であり,その額が評価となるとのことである。
へ県立図書館から企画を持ちかけ,大学等の協力を
ちなみに19年度の福井県立図書館の人口比での
得ながら,経費に関わる問題を解決しつつ,意識改
蔵書数,図書・資料費は全国で2,3位と上位にあり,
革をも行って実現したとのことである。
また人口当たりの貸出し数も全国2位である。
利用者に中心を置いたハイブリッド図書館
図書館の哲学は司書が処方をつくること
実現までの間には非常に多くの困難な問題があっ
図書館評価の指標は未だ普遍的なものはできてい
たのではないかと思うが,図書館がそこまでやれた
ないのではないかと思うが,永田館長は,図書館評
のはいったいどういう意識があったのであろう。図
価は利用者数×満足度であり,満足度を測る手法を
書館事業に対する県の,また利用者であり納税者で
見つけ,図書館という機能を指標化するのは現場だ
ある県民の理解はどうして得られたのであろうか。
からこそできることである。図書館は哲学を持つべ
どういう経緯をたどって,どういう基本的な考え
きであり,それには司書が処方をつくることが重要
でここまで進んできたのかと質問した。ここで永田
館長の熱い心が噴き出した。
福井県立図書館のサービスの基本は「ハイブリッ
であると熱く話された。
なお,永田館長はこの4月に図書館から異動され
たとのことである。
105
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図 書 館 ね こ デ ュ ー イと
パ ブ リック・リレ ー ション ズ
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
1. 図書館ねこデューイの誕生
ある朝,一匹の子ねこが図書館の返却ボックスか
呑海沙織
2. パブリック・リレーションズとは
パブリック・リレーションズは,20世紀初頭から
ら発見される。この大きな金色の目をもつ赤茶色の
米国で発展した「組織」と「パブリック(p u b l i c)」
ねこは,デューイ・リードモア・ブックス(Dewey
の関係に関する考え方および行動のあり方である3)。
Readmore Books)と名づけられ,図書館ねこ(library
この場合の「組織」とは,企業に限られるものでは
c a t)としての一生を全うすることになる。『図書館
なく,行政,大学,学会など,何らかの共通の目標
ねこデューイ』1)は,デューイと米国アイオワ州ス
をもった人々の集まりを指す。また,「パブリック」
ペンサー公共図書館(Spencer Public Library)の図書
とは組織とかかわりをもち,組織を取り巻く社会の
館長ヴィッキー・マイロン(Vicki Myron)の物語で
ことを指す。あるいは,ステークホルダー(s t a k e
ある。
h o l d e r)と言い換えることもできるだろう。ステー
図書館ねこデューイは,単に図書館に住みつくね
クホルダーとは,「利害関係者」と訳されるが,よ
こではない。図書館スタッフの一員として,「毎朝
り広い意味で,その組織となんらかの関係をもつ者
九時に正面ドアのわきにすわり,図書館にはいって
全般をいうこともある。
くる人たちに挨拶」し,「スタッフと来館者にユー
カトリップ(Scott M. Cutlip)らは,パブリック・
モアたっぷりの慰めを与える」。さらには,「正式な
リレーションズを「組織体とその存続を左右するパ
図書館大使として,ラウンド・ルームでのすべての
ブリックとの間に,相互に利益をもたらす関係性を
会議に出席」し,「スペンサー公共図書館のために
構築し,維持をするマネジメント機能である」4)と
全国的,世界的な宣伝を無料でおこなう」ことが
定義している。また,井之上は,パブリック・リレー
デューイの仕事である2)。
ションズを「自由競争が可能な民主国家や地域で,
しかし,図書館の返却ボックスから発見されたこ
双方向性コミュニケーションに基づいて,倫理観と
の子ねこは,はじめから「図書館ねこ」であったわ
哲学をもち自己修正能力のある情報発信者が,目的
けではない。さまざまな過程をへて,デューイ・リー
達成のために,公共の利益に沿って社会的に有意義
ドモア・ブックスとなり,図書館ねことして認知さ
で調和ある行動でグッドウィル(信頼・好意)を醸
れていく。この過程とデューイが図書館やその利用
成しマネジメント・ファンクションとして統合的に
者にもたらした変化は,パブリック・リレーション
調整する継続性のあるリレーションズ活動である」5)
ズの観点からみると興味深い。
としている。「情報発信者が,情報受信者と双方向
にコミュニケーションを行うことによって,目的を
106
視点 ●図書館ねこデューイとパブリック・リレーションズ
達成するための継続的な活動」とでも言い換えるこ
書館に対する人々の支持を得,レピュテーション(評
とができるだろうか。キーワードは,双方向性と継
判・名声)を高め,資金調達を行うために,パブリッ
続性である。
「双方向性」には,双方向のコミュニケー
クとの継続的な関係性を醸成することがその目標で
ションという意味だけではなく,双方向に利益がも
ある。
たらされるという意味も含む。
また,図書館のパブリック・リレーションズにお
“public relations”は,「広報」と訳されることが
ける「パブリック」としては,利用者,利用者の保
多い。あるいは,P R(ピーアール)という略称で
護者,図書館のスタッフ,納税者,図書館理事会,
呼ばれることも多い。しかし,「広報」は“p u b l i c
図書委員会,地方自治体などが考えられるだろう。
information”の訳語でもあり,組織から「パブリッ
ク」へ情報を提供するという一方向の動きを起想さ
4. 拾われた子ねこから図書館ねこへ
せる。そこで本稿ではあえて,「広報」という言葉
を使わずに,「パブリック・リレーションズ」とい
う用語を用いたい。
図書館の返却ボックスから救出された子ねこは,
その愛らしさゆえに,図書館スタッフの心をとらえ
ていく。救出されてわずか20分後には図書館長であ
3. 図書館とパブリック・リレーションズ
るヴィッキーにこう言わせる。「たぶん,ここで飼
7)
えるんじゃないかしら」
。「ここ」とは,スペンサー
パブリック・リレーションズのバイブルといわれ,
公共図書館である。しかし,どんなに図書館スタッ
世界各国で翻訳されているという『体系パブリック・
フがかわいがり,図書館で飼ったからといってその
リレーションズ』6)では,公立学校におけるパブリッ
ねこが,図書館ねことして認知されたことにはなら
ク・リレーションズの主な目標として,下記の4つ
ない。図書館ねことなるには,「パブリック」の理
を挙げている。
解が不可欠だからである。図書館長であるヴィッ
(1)間違った情報や風評を払拭するため,教育の問
キーは,まず,市長のスクイージ・ジョンソンに電
題,なかでも資金調達の問題について周知させる
話で話す。幸いなことにもうすぐ任期が切れる市長
こと
は意に介しない。次にヴィッキーは,図書館に動物
(2)人々の支持を確立し,必要に応じて寄付を募る
を飼うことを禁じる規則があるかどうかを確認する
など,適切な資金調達を助け確実にするため,鍵
ために,市の顧問弁護士に電話をする。さらには消
となるパブリックとのリレーションシップを醸成
極的にではあるが,図書館を監督するために設置さ
すること
れている図書館理事会の理解を得る。
(3)教育に変更を行うとき,率先的教育活動の容認
と支持を人々から得ること
(4)鍵を握るオーディエンスに対し,学校のレピュ
そして,図書館の最も重要な「パブリック」であ
る利用者の理解。まず,ねこ好きで有名な利用者に
デューイを紹介していき,徐々に図書館で飼われて
テーションを高めること
いるねこの存在をアピールしていく。『スペンサー
これは,公立学校におけるパブリック・リレーショ
・デイリー ・レポーター』の一面で取り上げられる
ンズの主な目標であるが,「教育」「学校」という言
ことによって,デューイの存在が広く町中に知られ
葉を「図書館」に置き換えることによって,そのま
ると,図書館にさまざまな反応が寄せられるように
ま「図書館におけるパブリック・リレーションズの
なる。愛猫家や子どもたちによる好意的な反応だけ
主な目標」として応用することができるだろう。図
ではなく,図書館でねこを飼うことに否定的な意見
107
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も当然のことながら寄せられる。図書館でねこを飼
を伴うものである。「図書館にお金? それでどう
うのは子どもたちの健康を危険にさらし,地域社会
するんだ? われわれには仕事が必要なんだよ,本
の建物を台無しにする行為だという手紙が届いた
ではなくて」「舗装したばかりの道はすてきですけ
り,子どものアレルギーを心配する親から電話がか
ど,地域社会の精神を高揚させません。暖かく歓迎
かってきたりする。ヴィッキーは,二人の内科医に
してくれる友好的な図書館のようには。誇りにでき
アドバイスを求め,スペンサー図書館がアレルギー
るような図書館があると,人々の士気があがると思
を防ぐ設計になっていることを確認する。そして,
いませんか?」「正直にいおう。よりきれいな本
アレルギーの不安をもって電話をかけてくる人たち
があるからといって,ちがいがでるとは思わない
には個別に説明し,専門家の見解を話すことによっ
ね」8)。図書館をお金のかかる施設,本の倉庫でし
て,少しずつ,不安を取り除いていく。
かないという認識をもつ市議会と,図書館を重要な
また,デューイの名前を決める際には,図書館利
地域社会の中心であると考えるヴィッキーのすれ違
用者へ公募が行われた。それまでにも他の事柄につ
う会話には,図書館の運営にかかわったことがある
いて,スペンサー図書館はコンテストを行ってき
人なら誰でも深く共感を覚えるのではないだろうか。
た。ロビーに箱を置き,地元のラジオ局で放送し,
しかし,デューイを通じたスペンサー図書館のパ
図書館報で報知し,優勝者へ賞品を用意したにもか
ブリック・リレーションズは,この状況に大きな変
かわらず,多くはせいぜい25件の応募があっただけ
化をもたらす。市議会に「もしかしたら図書館はち
だったという。ところがこのねこの名づけコンテス
がいをうむかもしれないな」と言わしめるにいたっ
トには,ラジオで放送しなかったにもかかわらず,
たのである。デューイが図書館で利用者と触れ合う
397件の応募があったという。この出来事は,この
ことによって,図書館の来館者数は増加し,利用者
時点ですでに,デューイが多くの利用者に認知され
の滞在時間を長くする。デューイが世界的に知られ
ていたということを表している。さらには,「パブ
るようになると,地域の人々は図書館を誇りに思う
リック」であるところの利用者が,名づけるという
ようになる。また,デューイを介した利用者とのコ
行為を通じて,デューイが図書館ねことなるための
ミュニケーションにより,図書館スタッフは場とし
過程に協力したと考えることができる。最終的に,
ての図書館の意味を再考するようになる。
投票で多数を占めた「デューイ」に,児童書担当の
図書館員メアリー・ウォークが名字として「リード
モア」を,図書館長ヴィッキー・マイロンがさらに
「ブックス」を提案し,図書館ねこ「デューイ・リー
ドモア・ブックス」が誕生した。
ジェイムズ・グラニグは,パブリック・リレーショ
ンズ活動を下記の4つに分類し,定義している9)。
(1)新聞広告およびパブリシティ
(2)公共広告(パブリック・インフォメーション)
(3)双方向非対称モデル
(4)双方向対称モデル
5. 双方向のパブリック・リレーションズへ
(1)と(2)は,「組織」から「パブリック」への一方
向のモデルであり,(3)と(4)は,
「組織」と「パブリッ
108
図書館におけるパブリック・リレーションズの主
ク」間の双方向のモデルである。また,(3)が「組織」
な目標として,「図書館に対する人々の支持を得,
に利益をもたらすモデルであるのに対し,(4)は「組
レピュテーション(評判・名声)を高め,資金調達
織」にも「パブリック」にも利益をもたらすモデル
を行うために,パブリックとの継続的な関係性を醸
であるといえる。パブリック・リレーションズは,
成すること」を挙げたが,これは通常,多くの困難
時代の流れとともに,一方向モデルから双方向モデ
視点 ●図書館ねこデューイとパブリック・リレーションズ
ルへ,非対称モデルから対称モデルへその軸足を移
が必要なのだろうか。次回は,
図書館でのパブリック・
しつつある。
リレーションズの実際について考えてみたい。
「図書館を理解してもらおう」と考えるとき,あ
るいは,説明責任を果たそうと考えるとき,私たち
は,一方通行の広報やP Rという手段を使い,図書館
側の恩恵に焦点をあてる傾向にあるのではないだろ
うか。しかし,今日的な意味でのパブリック・リレー
ションズは,
「双方向性」がキーワードであり,有効
である。今回は,
その観点から,
『図書館ねこデューイ』
を読んでみた。では,すべての図書館で図書館ねこ
執筆者略歴
呑海 沙織(どんかい さおり)
1991年4月から2008年6月まで京都大学に図書系職員
として勤務。附属図書館,医学図書館,教育学部図書室,
工学部電気系図書室,人間・環境学研究科・総合人間学
部図書館で図書館員としての経験を積む。2007年に大
阪市立大学より博士(創造都市)を授与される。2008
年7月に,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科に
助教として着任し,今日に至る。
参考文献
1) マイロン, ヴィッキー . 羽田詩津子訳. 図書館ねこデューイ―町を幸せにしたトラねこの物語. 早川書
房, 2008, 328p.
2) マイロン, ヴィッキー . 羽田詩津子訳. 図書館ねこデューイ―町を幸せにしたトラねこの物語. 早川書
房, 2008, p. 237-239.
3) 社団法人日本パブリックリレーションズ協会.“パブリックリレーションズとは”.
http://www.prsj.or.jp/abutpr.html, (参照2009-03-04).
4) カトリップ, スコット・M.; センター , アレン・H.; ブルーム, グレン・M. 日本広報学会監修. 体系パブリッ
ク・リレーションズ. ピアソン・エデュケーション, 2008, p. 8.
5) 井之上喬. パブリックリレーションズ―最短距離で目標を達成する「戦略広報」.日本評論社, 2006,
p. 63.
6) カトリップ, スコット・M.; センター , アレン・H.; ブルーム, グレン・M. 日本広報学会監修. 体系パブリッ
ク・リレーションズ. ピアソン・エデュケーション, 2008, p. 543-546.
7) マイロン, ヴィッキー . 羽田詩津子訳. 図書館ねこデューイ―町を幸せにしたトラねこの物語. 早川書
房, 2008, p. 24.
8) マイロン, ヴィッキー . 羽田詩津子訳. 図書館ねこデューイ―町を幸せにしたトラねこの物語. 早川書
房, 2008, p. 72-73.
9) ワトソン, トム;ノーブル, ポール. 林正, 石塚嘉一, 佐桑徹訳. 広報・P R効果は本当に測れないのか?
-PR先進国の評価モデルに学ぶ広報の効果測定. ダイヤモンド社, 2007, p. 15-19.
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脅迫されるジャーナル
名和小太郎
「脅迫されるジャーナル」というアピールが米国
の技術史関係の学会から送られてきた。
べてにおいて多面的な存在である。この特殊性に
われわれは計量化の時代に生きている。われわれ
よって,欧州の人文学を評価し,他の科学と比較す
の周囲のすべては,標準化され,数量化され,計量
ることは難しい。ここでは,他の科学分野における
化されている。……(このような環境のなかで)わ
評価ツールを使うことができない。
れわれの研究成果は,いまや,恣意的な,かつ正統
いっぽう,研究者の国境を越える移動は増加しつ
性の疑わしい機関によって,規則がらみの会計学に
つあり,加えて,研究の学際化がこれを加速してい
支配されようとしている。……E R I Hというシステム
る。とすれば,人文学の研究者は自分自身を国際的
が人文系のジャーナルの等級付けを企てている。
なネットワークのなかに位置づけなければならず,
……E R I Hは人文学における研究の方法と出版につ
そのために基準となるツールを持たなければならな
いて根本的に誤解している。……われわれは,E R I H
い。こう,ERIHはみずからの役割を説明している。
の編集者に,われわれのジャーナルのタイトルを,
ERIHのリストから除去することを求める。
ところで,E R I Hがその対象としている人文学とは
なにか。それは,人類学,考古学,美術および美術史,
話が先走ったが,このアピールには「科学史,技
歴史,古典研究,ジェンダー研究,科学史および科
術史,医学史の編集者からの共同声明」(以下「共
学哲学,言語学,文学,音楽学,オリエント・アフ
同声明」)というサブタイトルが付いており,60タ
リカ研究,教育学,哲学,心理学,宗教学および神
イトルのジャーナルの編集者が署名している。日付
学,この15領域にわたっている。
は2008年10月29日になっている。
ERIHは,上記のジャーナルに対し,A,B,Cの3段階
上記60タイトルのなかには科学史のジャーナル
評価を与えている。その評価尺度とはどんなものか。
としては最古のIsisや欧州科学史学会のCentaurusが
まず,標準的なジャーナルをランクBとし,それ
入っている。
* *
ということで,話題はE R I Hに移る。それは,正し
は次の3条件を満たすものとしている。(1)寄稿者
と読者として,真正の,多様な,不変の,国際的な
支持者がいる。(2)一貫した高品質の学問的な内容
くは,European Reference Index for the Humanitiesと
をもつ。(3)国際的な位置づけと可視性について,
いう呼称をもつデータベースであり,欧州科学基金
当の専門領域における広い同意がある。
(ESF: European Science Foundation)が欧州委員会と
ともに2007年に立ち上げたものである。
E R I Hの狙いはなにか。E S Fは,次のように言う。
110
欧州における人文学は,国籍,言語,知的伝統のす
ランクAは,ランクBのうちさらに次の条件をい
くつかもつものとする。(4)国際的な助言委員会が
活動している。(5)とびこみ原稿に対してもオープ
情報論議 根掘り葉掘り ●脅迫されるジャーナル
ンである。(6)出版記事について高度の選択性があ
英国アカデミーは2007年に「ピア・レビュー:
る。(7)刊行が定期的,あるいは合意された日程に
人文学,社会科学に対する挑戦」(以下「挑戦」)と
よってなされている。ランクAは全数中10-25パー
いう報告をまとめ,その「計量的方法とピア・レ
セントに与えることを目安としている。
ビュー」という章においてERIHを批判している。
しからばランクCは。欧州において,重要な地域
的な意味をもつジャーナルを指している。
すでに最初の評価が発表されている。科学史およ
(1)ランクCという呼称に問題あり。いかにも質が
劣っている印象を与える。むしろ「地域的」と呼
んだらいかがか。
び科学哲学の分野でみると日本のジャーナルが2タ
(2)Studi di Filogiaはイタリアの哲学・言語学のジャー
イトル含まれており,その評価はいずれもBである。
ナルであり,イタリア人以外の研究者からも寄稿
E R I Hは続ける。なぜ,新しい尺度を設けるのか。
されている伝統もあり,質の高いジャーナルであ
それは既存の尺度が役に立たないからだ。これは17
機関の29人の研究者がくだした判断である。
る。これがランクCでよいのか。
(3)英語のジャーナルはランクAになる機会が増
* *
える。ジャーナルの流通と引用が高くなるため
「共同声明」に戻る。このアピールはE R I Hに待っ
だ。この視点でみると,T a b i zというヘブライ語
たをかけた。E R I Hは,欧州およびその他の研究助成
のジャーナルはランクが落ちてしまう。だがこの
機関に研究の質について,みずから正確なと称する
ジャーナルはユダヤ研究において高い位置を占め
尺度を提供しようとしている。ランクAのジャーナ
ている。
ルに発表された論文は第一級であると理解されるだ
ろう。だが,ランクA以外のジャーナルに発表され
たものは低い評価を受けることとなり,したがって
助成も与えられないだろう。
(4)E R I HはI S Iの方法に偏りありと主張しているが,
当のERIH自体が,同じ偏向を冒している。
(5)カテゴリーの概念が欧州と米国とで違う。その
例として音楽学がある。これによって,どちらか
そもそも,ERIHのメンバーの代表性に問題がある。
の研究者の理解が流行遅れとみなされてしまう。
そのなかには,われわれの分野の主要な学会はまっ
このような意見を積み上げたうえで,「挑戦」は
たく参画していない。
さらにE R I Hは人文学研究を誤解している。偉大な
結論を示している。既存のジャーナル評価法には欠
点があり,これについては代替案を考えなければな
研究はどんな国においても,どんな言語においても
らない。その代替案にはERIHも含まれるが,ERIHは,
発表される。それは,確立した,主流の,という
信頼性において,少なくない方法論上の難点,しか
よりも,周辺の,予期されていないところに現れる
も基本的な難点をもっている。
こともある。E R I Hはこの点を無視している。もし,
* *
E R I Hの評価が助成機関に受け入れられることになれ
British Journal for the History of Scienceの編集者は
ば,寄稿者はランクA以外のジャーナルに投稿しな
E R I Hに引っ掛けてコメントしている。メンデルがそ
くなり,ジャーナルの多様性は失われてしまう。
の業績を投稿したVerhandlungen des Naturforchenden
「共同声明」は最後に主張している。われわれは
Vereins Br ü nnは,オーストリア・ハンガリーの地方
自分たちの研究領域が計量的な方法で支配され評価
都市の雑誌にすぎず,
ランクCと判定されたはず,
と。
されることを認めない。われわれは,E R I Hの編集者
(俗間,メンデルの業績は発表後34年間埋没して
に,われわれのジャーナルのタイトルをE R I Hのリス
いたといわれているが,事実は,同時代にそれなり
トから除去することを求める。
に知られていたという)
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vol.51, no.11・no.12掲載の「サイテーション・インデックス前史」について,コメントを頂きまし
たのでご紹介いたします。
実際には,1953年のワトソンとクリックによる
「サイテーション・インデックス前史」
に寄せて
トムソン・ロイター リサーチ・ソリューション・コンサルタント
宮入暢子
D N A二重らせん構造に関する論文3)は現在でも引用
され続けている。本稿執筆時点で3,328回の引用が
あり,そのうち1,318回(総被引用数の39.6%)は
2000年以降の引用である。図1に,当該論文の被引
用数の年推移を示す。
本誌2009年2月・3月号に掲載の「サイテーショ
同様に,アインシュタインの論文も100年以上
ン・インデックス前史(上)(下)」を興味深く読ん
を経てなお引用され続けている。1905年に発表さ
だ。判例の連鎖,すなわちリーガル・サイテーショ
れた特殊相対性理論を最初に提唱した論文4)は,全
ンによって組み立てられる米国の法秩序を支えてき
972回のうち2000年以降の引用が394回あり,これ
た情報ツールの役割を,名和小太郎氏は歴史的背景
は総被引用数の40.5%を占める。これらの論文が,
とともにわかりやすく解説している。ホイートンの
発表当初よりはむしろ最近になってより多く引用さ
注釈つき判例集に始まって,検索利便性を工夫した
れていることがわかる。
ウェスト社のリポーター・システム,さらに簡素化
S T M論文における引用は出版直後の数年間にその
されたシェパード・インデックスによって蓄積され
ピークを迎えた後,徐々に減衰するのが一般的なパ
たノウハウは,1963年に初めて刊行されたS c i e n c e
ターンである。一方,重大な科学史上の発見を報告
Citation Indexの思想とデザインに大きな影響を与え
する論文や,発表後に広く採用されることとなる手
た。その創始者であるガーフィールドは,「科学の
法や理論を提唱する論文は,年を経るにしたがって
ための引用索引」について最初にまとまったアイ
その引用を増やすことが少なくない。ワトソン-ク
ディアを示した1955年の論文1)でシェパードについ
リックやアインシュタインの論文は,通常のS T M論
て言及するとともに,科学文献への応用を示唆した
文の被引用パターンから外れた例外であると同時
アデアの論文2)を引用している。
に,科学史に残る重要論文が示す被引用パターンの
明快にまとめられた名和氏の記事について,その
典型例であるともいえる。
主旨から外れることを踏まえたうえで敢えてコメン
他にもこのような事例は多い。昨年ノーベル物理
トしたい。氏は判例の寿命,つまり引用される期間
学賞を受賞した小林誠・益川敏英両氏による論文5)
が「びっくりするほど長い」のに対して,科学文献
の引用について以下のように述べている。
「S T M系の学術文献は,まあ,10年もたってしま
えば陳腐化してしまい,引用されることはない。ア
インシュタインにしても,あるいは,ワトソン-ク
リックにしても,その原論文の引用されることなど,
現在は,まず,ないだろう」
112
図1 ワトソン-クリック論文(1953年)の被引用状況
(Web of Science®データベースによる)
情報論議 根掘り葉掘り ●コメント:「サイテーション・インデックス前史」に寄せて
図2 小林-益川論文(1973年)の被引用状況
(Web of Science®データベースによる)
図3 赤池論文(1974年)の被引用状況
(Web of Science®データベースによる)
は1973年の出版以来3,525回引用されており,最も
し,2000年以降は53.3%まで下がり,その一方でレ
多く引用されたのは2005年の205回である(図2参
ビュー論文や論説による引用の割合が上昇してい
照)。また,統計モデルの適切さを評価するために
る。アインシュタインの論文についても,2000年
考案された1974年の赤池情報量規準に関する論文6)
以降の原著論文による引用は63.2%にとどまってい
は6,831回引用され,毎年の被引用数は増え続けて
る。本稿がこれらを参考文献として掲げているのと
いる(図3参照)。2008年には833回の引用があった。
同様に,各論文は発見した科学的事実や提唱した理
これらの論文が引用され続ける,あるいは特定の
論についてではなく,別の文脈において引用されて
年に突出して引用される理由はさまざまである。例
いることがうかがわれる。
えば,1990年代後半まで緩やかな下降傾向にあっ
ワトソン-クリックやアインシュタインの論文が
た小林-益川論文への引用がそれ以降再び上昇して
今日でも引用されているという事実を単に指摘する
いるのは,「C P対象性の破れ」が2001年に高エネル
ことが,本稿執筆の意図ではない。名和氏が示唆し
ギー加速器研究機構のBelle実験により検証されたこ
たとおり,S T M論文の引用の寿命はリーガル・サイ
とに関連する。ワトソン-クリック論文は2003年
テーションに比べて短く,10年も経てば陳腐化して
に最も多く引用されているが,これは原論文の出版
しまうのは一般的によく知られた事実である。しか
から50年が経ち,「二重らせん50周年」としてさま
しそこには例外があり,また,科学史に残る重要な
ざまなディスカッションが触発されたと考えられ
論文はそれぞれに長期間にわたって引用され続ける
る。
理由があるために「典型的な例外」になりやすい。
名和氏も指摘しているように,引用の根拠は多義
このような個別の事例は,長年の経験を培った法律
的であり,ガーフィールドが創始した科学文献のた
家や研究者のみが享受できる膨大な知識の総体に埋
めのサイテーション・インデックスは,それを明白
もれていたかもしれない。複雑に絡み合った「引用
に示すことはできない。ただし,上述のように研究
の連鎖」をひもといて単純かつシステマティックに
トピックのその後の進展や,論文のタイプなどの限
記録し,ツールさえ使いこなせれば誰でも本稿のよ
定された情報を用いて引用の意図を探ることはでき
うな考察を可能としたことこそが,シェパードや
る。ワトソン-クリック論文に対する原著論文から
ガーフィールドの真の貢献であり,この点に注意を
の引用は,発表当初10年間に80.9%であったのに対
喚起することが今回の執筆動機である。
113
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参考文献
1) Garfield, E. Citation Indexes for Science: A New Dimension in Documentation through Association of Ideas.
Science. 1955, vol. 122, no. 3159, p. 108-111.
2) Adair, W.C. Citation Indexes for Scientific Literature. American Documentation. 1955, vol. 6, p. 31-32.
3) Watson, J.D.; Crick, F.H.C. Molecular Structure of Nucleic Acids: A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid.
Nature. 1953, vol. 171, no. 4356, p. 737-738.
4) Einstein, A. Zur Elektrodynamik bewegter Körper. Annalen der Physik. 1905, vol. 17, no. 10, p. 891-921.
5) Kobayashi, M.; Masukawa, T. CP-violation in the Renormalizable Theory of Weak Interaction. Progress of
Theoretical Physics. 1973, vol. 49, no. 2, p. 652-657.
6) Akaike, H. A New Look at the Statistical-model Identification. IEEE Transactions on Automatic Control. 1974, vol.
19, no. 6, p. 716-723.
114
情報論議 根掘り葉掘り ●リプライ:宮入暢子氏のコメントについて
が,上記30-50件の引用のなかに歴史的な文献まで
宮入暢子氏のコメントについて
名和小太郎
参照するはずはない,とこれも即断していた。この
点については,なお,確かめたいと思っている。
現に,電子ジャーナルの普及により,研究者は,
宮入氏の拙論についてのコメントを拝読し,改め
より狭い専門分野,より短期間における,より少な
て拙論の不備を認識した。まず,ご教示にたいして
いジャーナル,より少ない論文にアクセスするよう
謝意を申し述べたい。
になった,という調査もある3)。
当方の誤りは,第1に,「一般の研究論文」(クー
もう一つ。condensed-matter physics の分野におけ
ン的にいえば「パズル解き的な研究」に関する論文)
る論文のうち,著者が原論文にあたったとみなせる
と「典型的な例外論文」(クーン的にいえば「パラ
引用は22-23パーセントにすぎない,残りの引用は
ダイム変換的な研究」に関する論文)とを区別しな
コピーであった,という調査もある4)。これは,宮
かったこと,第2にletterやarticleとreviewとを区別し
入氏の指摘とは異なる論点ではあるが,おもしろい
なかったこと,第3にS T M系の論文に,科学史・科
調査であり,ここに引用しておきたい。
学哲学の論文は入らないと思い込んでいたこと,こ
第3点について。お示しの論文のなかに科学史・
の3点になろうかと思う。このうち第1の点につい
科学哲学に関するものが絶無なのかどうか,やや
て,ご指摘をいただいたものと理解している。
気になる。一般論としては,この種の論文はArts &
せっかくの機会であり,ご指摘をいただいたこと
を含めて,小生が本件について再考したことを以下,
略記したい。
Humanities分野のジャーナルに入るとは思うが。
最後に,さらに論点はそれるが,小生の感想を一
つ。論文の電子化技術の普及とともに,冊子体の時
第1点について。小生は,研究論文としてパズル
代には入手困難であった「典型的な例外論文」を,
解き的な論文のみを見ていたことになる。この種の
私たちは簡単に入手できるようになった。例えば,
論文については,その短寿命について,すでに武田
その論文が,19世紀の,欧州地方都市の,発行部数
直道ほか,および宮代彰一ほかの論文がある1),2)。こ
500のジャーナルに掲載されたものであっても,そ
れを一般化して,
「典型的な例外論文」にも及ぶと即
れが「典型的な例外論文」であれば,それをインター
断したことに当方の思い込みがあったことになる。
ネット経由で入手できる5)。これは,むしろ宮入氏
第2点について。例えばN a t u r eは,その投稿規定
の論点を支える環境が整備されてきた,ということ
において,引用文献の数を,letterで30件,articleで
50件とし,一方,r e v i e wについての規定はないが,
実際の論文にあたると100件を超えるものもある。
小生は,review論文は別として,専門分化の著し
い昨今,パズル解きに精を出すletterやarticleの著者
である。
にもかかわらず,現実には,上記3),4)のような
報告もある。さまざまな動向が交錯する,一般化の
難しい時代になった,と理解すべきなのかもしれな
い6)。
参考文献
1) 武田直道, 仲本秀四郎, 山口三郎. 宇宙データベースの調査. 情報管理. 1990, vol. 33, no. 2, p. 159-166.
2) 宮代彰一, 林周吾, 安村健, 石川剛, 平尾敏博. 科学技術文献の実効寿命. 情報管理. 1997, vol. 39, no. 11,
p. 866-879.
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JOHO KANRI
2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
May
http://johokanri.jp/
3) Evans, James A. Electronic Publication and the Narrowing of Science and Scholarship. Science. 2008, vol. 321,
no. 5887, p. 395-399.
4) Ball, Philip. Paper Trail Reveals Reference Go Unread by Citing Authors. Nature. 2002, vol. 420, no. 6916,
p. 594.
5) Mendel, G. Versuche über Pflanzen-Hybriden. Verh. Naturforsch. Ver. Brünn4. 1865, p. 3-47. http://www.
mendelweb.org/MWGerText.html#sC, (accessed 2009-03-16).
6) 名和小太郎. 学術情報と知的所有権―オーサシップの市場化と電子化. 東京大学出版会, 2002, p . 315340.
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この本!おすすめします ●情報管理部門の組織運営の悩みを解決します
近 藤 一 志 (東芝インフォメーションシステムズ株式会社)
情報管理部門の組織運営の悩みを解決します
『サラサラの組織―あなたの会社を気持ちいい
た?組織の皆さんと交流する機会があった。最初にお
組織に変える,七つの知恵』富士ゼロックス
断りしておくが,彼らK D Iメンバーに頼まれてこの本
KDI,野村恭彦,仙石太郎,荒井恭一,紺野登,
を紹介する訳ではなく,真に企業変革(含む図書館変
荻野進介著;野中郁次郎,小林陽太郎監修
革)に悩んでいた際に,志を共にする有志を得た思い
ダイヤモンド社,2008年,1,680円(税込)
が強かったので,その概要を紹介しようと考えたから
にほかならない。私の組織運営のベースの考えは彼ら
との議論から生まれてきたものもたくさんある。
まず,このKDI(富士ゼロックスKnowledge Dynamics
Initiative)について少し紹介する。
K D Iは「日本企業の復活は知識経営にある」とい
う思いの下に生まれた企業内イノベーション集団で
あり,ここでいうイノベーションは技術革新という
意味ではなく,知識創造のプロセス,つまり仕事や
組織のあり方,組織の知識資産の再編や革新,ある
いはそれらを可能にする組織内の知の関係性,働く
場所などの変革を意味している。言い換えれば「知
http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?
isbn=4-478-00787-7
識イノベーション」である。彼らの協業的研究範囲
はさまざまな業種,業態まで幅広く,その根底にあ
皆さんはインフォプロとして,将来の自部門のある
るのは,自立した個が生き生きと楽しく仕事をする
べき姿を考えたとき,このままの組織運営で良いのか
にはどうしたら良いかという青臭いが人間の営みの
悩まれていないだろうか? 多分大多数の方は,現在
根幹(本質)への問いなのである。
の世界経済の大激変,組織を取り巻くさまざまな環境
さて本題に入る。この本の構成は第1章で「サラサ
変化,I Tや電子化の大きなうねりの中,情報管理部門
ラの組織」への視点を「七つの知恵」として共有し,
の舵取りに日々悶々とされていることだろう。私が企
第2章にてK D I登場の背景となった「ドロドロ組織」の
業のイノベーション推進室長,また図書館長を兼務し
現状認識,
第3章で9つの企業の現場での実践レポート,
ていた頃,
さまざまな分野の企業,
大学の有識者の方々
そして最後に第4章として,大阪大学の木川田一榮教
と知識資産を預かる部門の組織運営について議論を重
授のこれからの企業経営の要点まとめと,富士ゼロッ
ねてきた。その中に今回紹介するKDIという一風変わっ
クス(株)前小林陽太郎相談役最高顧問,一橋大学の
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2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
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野中郁次郎名誉教授の対談を通じて知識経営の真髄が
通じてさまざまな触発される機会を提供する場」と
語られている。誌面の関係でここでは,第1章の7つの
定義したのだ。I Tが進化すればするほど利便性が高
知恵の3つ,第一の知恵:活力ある個がすべての始まり,
まり,電子ジャーナル等の遠隔利用にサービスの目
第二の知恵:新しいレンズで観察する,第四の知恵:
が向くが,利用者相互の本質的な議論の場,および
コミュニティが会社を変える,を取り上げたい。
その機会が減少しているのは認めざるを得ない事実
最近,新入社員を見ていると,なぜか画一化され
た学生が入ってくる。どこか角がある,尖った個が
であり,情報を元に異分野の人々が交わる場として
の図書館の重要性を再認識したかったのである。
立った人間が見当たらない。これは学生そのものの
本書で紹介されている「サラサラの組織」は,魅
質の低下,入試などの試験制度の問題など,国の教
力的な人物が組織の内外を縦横無尽に動き回ること
育政策,家庭での育て方などとも関連した,大変根
で,部門間の壁を乗り越え,自由に人と人とがつな
深い問題であるが,企業を活性化させるためには,
がる場を作り,未来に向かって知識や人が最適な場
個が引き立つ仕組み,取り組みが大変重要となって
所に向かって流れ始める,そんな組織を象徴したも
いる。人財(敢えて財産の財を使う)教育の重要性
のである。この考え方は,情報部門の運営にとって
ゆえん
の所以である。また,働く環境も個室文化嗜好が根
も大変示唆に富んだ指摘となっており,広く組織運
強く,大部屋でもパーティションを高くし,自分の
営と結びついた部門運営の変革を包含していると考
世界で仕事ができる環境を好む。さらに職場内での
えている。ぜひ,組織変革の一環として知識資産を
情報交換もメールが主体となり,異分野の人々との
扱う部門の運営を考える良い機会ととらえ,本書を
コミュニケーションが甚だ弱い組織,個人が育成さ
読まれることをお勧めする。
れている。これでは新しい,斬新なアイデアが生ま
つたな
れる確率は上がらない。私の拙い経験からも,異分
野コミュニケーションや,組織の壁を乗り越えたさ
まざまな触発される環境からアイデアは生まれるも
のと確信している。また,
「現地,現物,現実」の三
現主義が重要であり,従来の利用者行動とは違う現
実のプロセスをよく観察することも必要である。こ
れは,一律のサービスではなく,利用者をまずよく
観察し,コミュニケーションをとり,アドバイス(コ
執筆者略歴
ンサル)をし,結果として利用者が求めるバリュー
近藤 一志(こんどう ひとし)
を提供するベースだからだ。バリューを提供し,利
用者から感謝の言葉がある,その成功体験を何度か
積むと,
仕事のやり方,
考え方が大きく変わってくる。
慶應義塾大学卒業。(株)東芝入社後,研究開発セ
ンターにて情報管理業務,社内検索システムの開発に
従事。その後,情報システム部門,研究企画部門にて,
私が図書館運営を考えた際に,知識創造の場とし
システム開発企画,技術管理を経験。2004年より研究
ての図書館の役割の重要性を第一ととらえ,そのた
開発センター所長直轄の経営変革推進部長として,研
めになすべき姿,要件を描くことから始めた。外か
ら見える運営,組織を超えた議論の場の提供,利用
者(顧客)の行動プロセス観察とプロセスに沿った
サービスの提供などである。図書館を「情報提供を
118
東芝インフォメーションシステムズ(株)経営変革
統括責任者(Executive Quality Leader)。
究所の経営変革に従事。2007年からは10年ぶりの研究
所全体の情報システム再構築の推進責任者。情報部門
のシステム化や将来像も,技術トレンド,利用者行動
分析,情報の価値尺度等の視点からとらえている。法
政大学(1998-2000年)などで非常勤講師。
図書紹介 ●Newbook
メディカル パースペクティブス
2008年
書きたい表現がすぐに見つかる
英文メール
アラン・フォレット,寺尾和子,上田素弘,寺澤恵美子●著
本書は,英文Eメールを書くための指南書である。
まず目次をみておこう。
A5判
301p.
1,995円(税込)
ISBN 978-4-9441-5124-0
いて,便利である。章の最後には,「ひと口メモ」
の形で説明がつけられている。
英語を読んでわかる人でも,達意の文を書くのは
第1章
Eメールの基本
そう簡単ではない。読むときにはあまり気をつけな
第2章
問い合わせる
かった文の組み立て―文法と定型表現―が必要にな
第3章
お願いする(助言/コメント/確認/情報
るからである。そこで,本書の出番となる。
を依頼)
本書には,アメリカ英語で統一され,丁寧な表現
第4章
お礼状(メール)を書く
をモットーとしたビジネス文書とパーソナルレター
第5章
お詫びする
の実例が多数示されている。そして,楽しいイラス
第6章
お知らせする
トがどちらのスタイルかを示してくれる。
第7章
アポイントを取る
第8章
ミーティング手配/変更/キャンセルおよ
しくかつnativ-likeに書かれているので,読者はそれ
び出張関連
らを組み合わせることでかなりの表現ができるよう
シンポジウム/セミナーへの招聘
になる。また,「気のきいた言い回し」も多く載せ
第9章
それらの例はフレンドリーなトーンで文法的に正
第10章 転載・複製許可願い/許諾通知
られていて,例文とともに参照すると,書きたい表
第11章 仕事に応募する
現がすぐに見つかる。
第12章 見 積依頼/価格交渉/発注/配送に関す
るトラブル
さらに,それらの表現は,著者の豊富な実務経験
に基づいたさまざまな場面を想定して書かれている
第13章 請求書/支払/返品/返金要求
が,その場面は,英語教育が重視している「お礼を
第14章 お祝いとお悔やみ
いう」,「謝罪する」などの機能(functions)がベー
第15章 病気や事故に関連して
スになっている。本書の章を追っていくことにより,
第16章 季節の挨拶/誕生日/記念日を祝して
どんなシチュエーションがカバーされているかが一
目でわかり,読者は,ニーズに合わせてそこを重点
第2章の例で内容を紹介すると,冒頭で問い合わ
せメールを書く場合の注意事項を述べた後,初めて
的に活用することができる。
このように,本書はビジネスで,また日常生活で,
メールを出す場合などに用いる「有用表現」を日本
英文Eメールをコミュニケーションの手段として用
語と英語で出している。さらに,具体的な英文モデ
いたい読者にとって心強い味方である。
ルを複数示し,和訳と解説をつけている。ここは,
(昭和女子大学大学院特任教授 中田清一)
英語と日本語の順番が「有用表現」とは逆になって
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2009
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NIHパブリックアクセス政策の義務化が恒久化
Springer(正式名はSpringer Science + Business Media)
が売却を検討しており,入札候補として投資銀行
3月11日,オバマ大統領が,国立衛生研究所(NIH:
のU B Sとゴールドマン・サックスを指名したとの記
National Institutes of Health)のパブリックアクセス政
事が,3月26日のガーディアン紙に掲載された。
策を恒久化する条項が含まれる「2009年統合予算
S p r i n g e r社は,ヨーロッパ,アジア,北米の約20か
法」にサインした。N I Hから資金を供与されたすべ
国において60出版社を所有し,毎年1,700を超える
ての研究者に対して,ピアレビューを経た最終原稿
学術誌と6,500以上の新刊書を発行している。しか
の電子版を,公式な出版日から12か月以内に公衆
し,Springer社のCEOであるDerk Haank氏は,これを
が入手できるよう,米国国立医学図書館のP u b M e d
明確に否定し,S p r i n g e rの未公開株を所有するベン
C e n t r a lに提出することを義務付けるパブリックア
チャー企業投資会社のキャンドバア(Candover)社
クセス政策は,「2008年労働厚生歳出法」により,
とシンヴェン(C i n v e n)社が,追加投資を提供す
2008年4月7日に実施された。しかし,このパブリッ
るために,第三のパートナーと討議を行っている
クアクセス政策は毎年更新されることが必要とさ
ことを明らかにした。なお,2008年10月にB i o M e d
れていたことが,問題視されていた。「2009年統合
Centralを買収したことにより,Springer社は世界最大
予算法」の条項では「本年度ならびにそれ以降」と
のオープンアクセス出版社でもある。
されており,恒久化がついに実現されたものであ
(http://newsbreaks.infotoday.com/NewsBreaks/Springer-
る。ただし,包括的な著作権法案「Fair Copyright in
Is-Not-for-Sale-Says-CEO-53277.asp)(accessed 2009-04-
Research Works Act」(通称Conyers法案)が,米議
10).
会下院司法委員会に再提出されており,パブリック
アクセス政策が覆される可能性もないとは言えない
Kindleが引き起こす諸問題
状況である。PubMed Centralに提出される論文数は,
2007年末までは毎月1,500件以下だったのが,パブ
A m a z o n社が発売している電子ブックリーダー
リックアクセス政策の実施された2008年4月以降
K i n d l e2の文章読み上げ(t e x t - t o - s p e e c h)機能が,
は,2,500件を下回ったことはない。2009年1月に
音声化権(a u d i o r i g h t s)を侵害しているとして,
は4,500件を超した。
Authors Guild(著作者団体)から抗議を受け,著作
(http://www.taxpayeraccess.org/media/
権保有者がこの機能をブロックできるようにシステ
Release09-0312.html)(accessed 2009-04-10).
ムを修正したことを,先月号の本欄で紹介した。
この修正に対して,視覚障害者を代表するR e a d i n g
Springer社が売却される?
Rights Coalitionが,視覚障害者や失読症の人々に害を
及ぼすもとして,Authors Guildのニューヨークオフィ
E l s e v i e r社に次ぐ,世界第2位の大手学術出版社
120
スに対して抗議行動を行った。Authors Guildは,抗
情報界のトピックス ●Topics of the information community
議運動は「残念かつ不必要である」との声明を発表
できていないとしている。G a r t n e rは2008年11月と
したのみで,A m a z o n社は今のところノーコメント
12月に,米国,英国,イタリアのインターネットユー
を貫いている。この件とは別に,約250名のAmazon
ザー 989名を対象に調査を行った。その結果,W e b
利用者が9.99ドルを超える金額の電子ブックのボイ
サイトの検索ツールを最適化していなかったり,コ
コット運動を始め,すでに770を超える電子ブック
ンテンツとソーシャルメディア機能との統合が十分でな
に“9.99b o y c o t t”t a gが付けられた。ボイコット参
いなど問題があり,読者は記事を発見したり,友人
加者の言い分は,「Kindleブックは映画のチケットの
と共有することができていないことがわかった。
ようなものである。本は再読できるが,図書館に寄
回 答 者 の49 % が 記 事 を 探 す た め に,Y a h o o !や
贈したり,古本屋などに売ったりすることはできな
Googleなどの一般的な検索エンジンを使用している
い。出版社は紙,糊,プレス機を動かす時間,それ
一方,新聞や雑誌サイト内の検索ツールを使用して
を行う人員,保険,インク,箱,発送などの費用を
いるのは20%にとどまった。また,見つけた記事を
必要としないのであるから,金額はそれに見合うも
電子メールやインスタントメッセージング経由で友
のであるべきだ」というものである。
人と共有しているのは,わずか24%だった。面白
図書館によるK i n d l eの貸し出しも論争を呼んで
い記事を見つけたときにはどうするかという質問に
いる。すでに貸し出しを始めた図書館もあるが,
は,回答者の52%がすぐに読むと答え,ブックマー
Amazon社のスポークスマンは,Amazon社の方針と
クして後から読むと答えたのはわずか9%だった。
しては,図書館による貸し出しを禁じているが,強
(http://www.gartner.com/it/page.jsp?id=919612)
制を実行することに関しては討議をしていない,と
(accessed 2009-04-09).
のあいまいなメッセージを出すのみである。ネガ
ティブな影響を与えることを恐れてのことであると
特許庁,「特許検索ポータルサイト」試行開始
みられている。
(http://latimesblogs.latimes.com/technology/2009/04/
特許庁は3月24日,「特許検索ポータルサイト」
kindleblindreadaloud.html)(http://www.mediabistro.com/
を新たに特許庁ホームページ上に設置し,試行を開
galleycat/trends/amazon_customers_boycotting_ebooks_
始することを発表した。これは,出願人などの特許
over_999_113225.asp)(http://www.libraryjournal.com/
検索・特許情報利用をサポートし,先行技術調査に
article/CA6649814.html?nid=2671&rid=#reg_visitor_
おける利便性向上を目指すもので,特許の検索手法
id&source=title)(accessed 2009-04-10).
に関するコンテンツを体系的に整理して掲示する。
先行技術に関する知識や手法を,以下のようなメ
新聞は読者の「ソーシャルパワー」を生かし
ニューで提供する。1)「基礎的な周辺知識」(調査
ていない
や検索に必要な周辺知識や手法の紹介。初心者向
け),2)「検索・調査の実務」(調査における基本的
米国のI T調査会社G a r t n e rは3月25日,新聞は読者
な考え方・手法,その理念,検索の戦略など,実務
が持つ「ソーシャルパワー(social power)」を生か
者向け),3)「検索・調査の方法」(検索手法や新ツー
していないとする,最近の調査結果を発表した。
ルを機能要素別に整理して提供)。
Gartnerのアナリストは,新聞の発行部数は減少しつ
(http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_sonota/searchportal-
つあり,収入の落ち込みや,デジタルメディアとの
trial.htm)(http://www.jpo.go.jp/torikumi/searchportal/
競争に直面しているが,読者の力を利用することが
htdocs/search-portal/top.html)(accessed 2009-04-09).
121
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文科省,著作権法一部改正案を提出
ネットなしでは生きていけないと考えていることが
わかった。また,90%の親が,オンラインで子ども
文部科学省は3月11日,第171回国会に提出され
を守る責任を自覚している。
た「著作権法の一部を改正する法律案」の内容を公
しかし,日本についてみると,インターネット上
開した。この改正案の趣旨は,「電子化された著作
で友人を作る傾向は回答者の38%と最も低かった
物等(デジタルコンテンツ)の流通促進のため,イ
(平均は約60%)。また,子どものオンライン利用は
ンターネット等を活用して著作物等を利用する際の
子ども自身の責任と考える回答が調査国中で最も強
著作権法上の課題の解決を図る」こととしている。
く,親の責任と考える回答は最も低かった。また大
具体的には,1)インターネット等を活用した著作
人自身のセキュリティ対策も遅れており,ファイル
物利用の円滑化を図るための措置(情報検索サービ
のバックアップや,ウイルススキャンなどを行って
ス実施のための複製,国会図書館所蔵資料の電子化
いる割合が最も低かった。
などを行えるようにする),2)違法な著作物の流通
(http://www.symantec.com/ja/jp/about/news/release/
阻止(海賊版販売や,違法なインターネット配信に
article.jsp?prid=20090407_01)
よる音楽・映像の複製を権利侵害とする),3)障
(http://www.symantec.com/content/ja/jp/
害者の情報利用の機会の確保(録音図書作成や,字
about/download/news_release/20090407/nolr_
幕・手話付与などを権利者に無許諾で行える範囲を
jp_20090407final.pdf)(accessed 2009-04-09).
拡大)などを行うとしている。
(http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/
アジアの技術革新企業,米国市場へ大きく進出
an/171/1251917.htm)(accessed 2009-04-09).
トムソン・ロイターは3月26日,「2008年グロー
日本人はネットで友人を作らない? 子ども
バルイノベーション調査」(2008 Global Innovation
のネット利用にも関心低く
S t u d y)の結果を発表した。これは,取得済み特許
および公開済み特許出願として公表されている発明
122
セキュリティ関連ソフトウェアを開発・販売する
の合計数を基準に,日本,中国,欧州,韓国,米
シマンテック社は4月7日,世界12か国を対象とし
国それぞれの技術革新企業上位10社を分析したも
た調査「ノートン・オンライン生活レポート2009」
の。米国の技術革新企業上位10社のうち7社がアジ
を発表した。この調査では,日本の親の多くが,子
アの企業(うち日本5社,台湾・韓国各1社)で,ア
どものオンライン利用について子どもまかせであ
ジアの技術革新企業が米国市場に大きく進出してい
り,
セキュリティ意識も遅れていることがわかった。
ることがわかった。こうした企業の多くは自国内で
同調査は,2008年10月から12月に,米国,カナ
も上位10社に入っている。米国の上位10社に入っ
ダ,英国,フランス,ドイツ,イタリア,スウェー
た米国企業で,他地域の上位10社に入った企業はな
デン,中国,日本,インド,オーストラリア,ブラ
かった。一方,欧州で上位10社に入った外国企業は,
ジルにおいて,月1回以上インターネットを使う18
3位の韓国のサムソン電子1社のみで,欧州勢が優位
歳以上の大人と,8〜17歳の子どもを対象に行われ
だった。日本,中国,韓国では,それぞれ国内企業
た。世界的な調査結果としては,10人中約7人の大
が上位10社を占めている。
人が,インターネットは人間関係の改善に役立って
(http://www.thomsonscientific.jp/news/press/
いると答えており,10人中6人の大人が,インター
pr_200903/new068.shtml)(accessed 2009-04-09).
情報界のトピックス ●Topics of the information community
MIT,オープンアクセス方針を全学で採択
論文やジャーナルの利用実績に基づくサイエンス
マップを作成したことを明らかにした。
マサチューセッツ工科大学(M I T)は,2009年3
サイエンスマップとは科学研究領域の動向を分
月18日,研究成果のオープンアクセス化を義務付け
析・可視化したものであり,主に論文の引用・被引
た方針を全学一致で採択し,同日施行した。
用関係を分析したものが作成されてきた。日本で
米国では,ハーバード大学やスタンフォード大学
も文部科学省・科学技術政策研究所が2年おきに作
が一部の学部でO A方針を打ち出しているが,全学
成している(http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/
で実施するのはM I Tが初めてで,同学の研究成果を
rep110j/idx110j.html)。
可能な限り広く流通させようとするコミットメント
を示すものである。
今回,B o l l e nらのグループが作成したサイエンス
マップは,昨今の科学論文の多くがオンラインでア
かんが
この方針に基づき,著者は,ジャーナル論文を
クセスされることを鑑み,学術論文データベース等
DSpace(MIT図書館とHewlett Packard社が共同開発し
の閲覧クリックのログデータを分析することによ
2002年に立ち上げたオープンソースのデジタルコ
り,引用統計よりも現在に近い研究活動の姿を知る
ンテンツ・リポジトリー。G o o g l eなどの検索エンジ
ことができるとしている。また,論文の著者のみな
ンからアクセス可能)を通じて流通させる包括的許
らず,実務家などを含む活動が反映されていること
可を大学に供与するとともに,大学と教授陣に対し,
を特徴として挙げている。
論文を非営利に利用・共有できる権利を付与する。
論文単位のオプトアウト権もある。
この方針により,毎年数千件の論文がDSpaceへ収
分析には2006年から2008年にW e b o f S c i e n c e,
SCOPUS,JSTOR,Ingenta,テキサス大学,カリフォ
ルニア州立大学の学術Webポータルから,自然科学
載される見込み。
のみならず人文科学や社会科学までを含む分野から
(http://web.mit.edu/newsoffice/2009/open-access-
得られた10億件の利用ログデータが用いられてい
0320.html)(accessed 2009-04-13).
る。
この研究結果は,Andrew W. Mellon Foundationの
米国:ロスアラモス国立研究所,利用実績か
助成によるMESUR(Metrics from Scholarly Usage of
らサイエンスマップを作成
Resources)プロジェクトの一部で,3月11日付PLoS
ONE誌で公開されている。
ロスアラモス国立研究所は,3月11日,同研究所
のJohan Bollenらのグループが,引用統計ではなく,
(http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0004803)
(accessed 2009-04-13).
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Journal of Information Processing and Management
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May
J S Tが収集している海外の雑 誌から, 情 報 科 学 技 術に関する興 味 深い文 献を掲 載
いたします。ここに紹 介した文 献のコピーをご希 望の場 合は、J S Tの複 写サービス
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共著者対のサイズ−頻度関数のモデル
A model for the size-frequency function of
coauthor pairs
n件の論文を生産する共著者対の頻度を示す関数
f ( n )を,簡単な仮定に基づいて導くモデルを示し
た。単独の著者の生産論文数の分布がLotkaの法則
に従い,共著論文の数がそれぞれの著者の論文数
に比例すると仮定したとき,f ( n )はやはりL o t k aの
法則に従い,その指数は単独著者の分布に対する
指数と同じである。共著論文数がそれぞれの著者
の論文数の比例より多くなると仮定すると,f(n)は
単独著者に対する指数より大きな指数を持つLotka
分布になる。このことを実際のデータから確認し
た。
EGGHE Leo (Hasselt Univ., Diepenbeek, BEL), J Am
Soc Inf Sci Technol (USA) 2008 59 (13) 2133-2137,
08A1226440
学術コミュニケーションシステムにおけるオー
プンアクセスジャーナルの統合:3つの科学分野
The integration of open access journals in the
scholarly communication system: Three science
fields
科学において,数多くのオープンアクセスジャー
ナル(OAJ)があり,それらの影響も拡大してきて
いる。しかし,学術コミュニケーションシステム
における受け入れやそれらのOAJの統合に関する研
究は僅かである。さらに少ない研究が分野全域の
差異に関する識見を提供している。本研究では,3
つの科学分野(生物学,数学,薬学・薬理学)の
雑誌における引用行動を分析した。本研究は,雑
誌間引用の引用側と引用先を含めたOAJと非OAJの
統計的分析である。多変量線形回帰の結果,分野
やメディアを越えた引用行動における多くの類似
性が判明した。しかし,OAJ統合における大きな差
異も指摘した。学術コミュニケーションシステム
におけるOAJ統合は,分野間で相当に多様化する。
*
最後に,書誌研究との関わりを論じた。
FRANDSEN Tove Faber (Royal School of Librar y
and Information Sci., Copenhagen, DNK), Inf Process
Manag (GBR) 2009 45 (1) 131-141, 08A1164610
局所引用パターンはコレクションの開発に対す
るインパクト因子の利用をサポートするか?
Do local citation pattrans support use of the
Impact Factor for collection development?
I S Iにより報告されたジャーナルのインパクト
ファクター(I F)は,コレクション開発にとって
のローカルジャーナル利用の測度として考えられ,
多数の研究がなされて来た。これに対し本論文で
は,IUSM(インジアナ大学医学部)での図書館コ
レクション開発の紹介を行い,それが,オンライ
ンおよびプリントのコスト/利用比率,I F,図書
館協力での貸し出し要求,に基づいていることを
述べた。そこで用いた手法に関しては,調査サン
書誌データ凡例:著者名 (著者の所属機関名), 誌名 (発行国) 発行年 巻 (号) 開始ページ-終了ページ, 整理番号
*Copyright 2009 Elsevier B.V., Amsterdam. All rights reserved. Translated from English into Japanese by JST
124
海外文献紹介 ●Literature guide
プルを示すとともに,データコレクション,デー
タ解析の手法について述べた。結果として,IUSM
精神医学学部で引用された参照と比較したI Fを示
すとともに,I U S M精神科学引用参照と比較した
I U S M図書館所有物,について述べた。その結果,
IFおよびCR(引用された参照)によるJCR(ジャー
ナル引用レポート)精神医学カテゴリージャーナ
ルランキング間の強力な正ランク相関の存在を見
つけた。
RALSTON Rick; GALL Carole; BRAHMI Frances
A. (Indiana Univ., IN, USA), J Med Libr Assoc (USA)
2008 96 (4) 374-378, 08A1249762
ディジタル世代におけるオンラインジャーナル
および印刷物ジャーナルの引用パターン
Citation patterns of online and print journals in
the digital age
引用パターンに対するオンラインジャーナルの
インパクト評価を行うために,都市および地方に
ある医学部を持つ大規模都市大学での出版につい
て調べた。その医学部の所属メンバにより著述さ
れた全ての論文を検索するためにWeb of Scienceの
中での検索を実施した。これにより引用パターン
の同定を行い,2年間の調査とその後5年間のジャー
ナル引用の変化の存在を見極める調査を行った。
その結果,引用されたジャーナルの数は年ごとに
増大し続け,大都市キャンパスでの研究者はオン
ラインジャーナルの方を引用する傾向が高く,地
方の医学部ではプリントのみのジャーナルを多用
していることが判明した。
DE GROOTE Sandra L. (Univ. Illinois at Chicago, IL,
USA), J Med Libr Assoc (USA) 2008 96 (4) 362-369,
08A1249760
協調研究におけるIP(知的所有権)の保護
Protecting IP in collaborative research
企業間協調によるR & Dプロジェクトが増加しつ
つある。しかも,大企業同士だけではなく,中小
企業も混じった協調が行われるようになった。こ
うした協調では知的所有権(I P)の保護が落とし
穴となりうる。本論文では,こうした協調R & Dに
おいて管理者が注意すべきI P落とし穴を指摘し,
こうした落とし穴への対処法を示した。本論文の
目的は,最も一般的なI P落とし穴回避のために必
要な情報を管理者に提供することである。しかし,
いずれも法的なアドバイスではない。協調R & Dに
取り組む管理者は,プロジェクトを計画し,構成
し,交渉し,提携関係を構築する上で,有能で経
験の深い知的所有権弁護士の能力を活用すべきで
ある。協調R&Dを考察する上で有用なのは“Want,
Find,Get,Manage”モデルである。Want段階では,
外部から必要とする資産,IP,スキルを決定する。
F i n d段階では特定した資源に対して,高品質資源
を提供できる機関を世界の中から探索する。G e t段
階では契約にこぎつける。Manage段階で協調関係
を成功へと導く。各段階での留意点,失敗の要因
等を例題を用いて示した。こうしたモデルが成功
するためには,リスク議論をオープンに行うこと
が必要である。なお,本稿は主としてアメリカで
のビジネス経験に基づいている。ヨーロッパやア
ジアからの投稿が望まれる。
SLOWINSKI Gene (Rutgers Univ. Business School,
NJ, USA); ZERBY Kim William (Procter & Gamble
Co., OH, USA), Res-Technol Manag (USA) 2008 51 (6)
58-65, 08A1256794
中国の特許システムとグローバリゼーション
CHINA'S patent system and globalization
グローバリゼーションの進行と共に,関税は撤
廃,または,低減され,各国は関税に変わる保護
策を必要としている。特許に代表される知的所有
権がその代表である。中国は1978年の開放政策の
開始以来,世界経済に統合する努力を続けてきた。
その結果,経済の全側面で大きな発展を遂げてき
た。その間,中国は特許法を改定し,その実施を
強化することにより,優れた特許システム構築に
劇的な進歩を遂げた。World T rade Organization
(W T O)参加に際しては,3,000以上の法律,規制,
ルール,法解釈等が見直され,830個が停止された。
こうした幾多の変遷を経て,現在の中国の特許シ
ステムは全体としてTRIPS(Trade-Related Aspects
of Intellectual Property Rights)協定基準に達して
いる。しかも,予定された時期よりも先行して実
現された。将来を眺めると,経済のグローバリゼー
ションの進行が見通される中で,中国の特許シス
テムはさらなる改善がなされると信じられる。
GAO Lulin (East IP Law Firm, Beijing, CHN), ResTechnol Manag (USA) 2008 51 (6) 34-37, 08A1256790
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情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
May
今日の英国専門協会図書館と情報サービス:課
題と成功事例
Today's UK professional association library and
information service: Challenges and best practice
英国の各分野の専門協会図書館および情報サー
ビスを展望するため,文献展望,インタビュー,
50のウェブ・サイトなどによる分析を行った。有
効なモデルを構築するために各分野ごとの課題を
明らかにし,専門協会の図書館と情報サービスの
最 良 の モ デ ル を 提 案 し た。 ウ ェ ブ・ サ イ ト の 情
報部門を有する専門協会は,内部図書館を持ち,
1999年-2007年に会員数を増やし,情報サービスや
マーケティングを通して会員に関心を持たせ,資
金,情報の更新,基準の創設,情報方針と戦略の
開発などの課題に取り組んでいる。
MADDEN Mar yna Jean (Thames Valley Univ.
Learning Resource Centre, London, GBR), Aslib Proc
(GBR) 2008 60 (6) 556-569, 09A0062017
イントラネット検索エンジンログファイルにお
けるユーザ行動のクラスタの確認
Identifying clusters of user behavior in intranet
search engine log files
S O M(自己組織化マップ)ソフトウェアを用
いてイントラネットにおける情報探索者のセグメ
ント間の差異を確認し,記述し,イントラネット
検索エンジンユーザは均質ではないことを示唆し
た。TransMech社のイントラネット(80-90万ウェ
ブページ)のトランザクションログの61,679エン
トリーから個人ユーザの7,902I Pアドレスセットを
データとして得た。情報探索変数として,質問用
語数,ドキュメント閲読時間,結果ページ閲読時
間など11次元ベクトルを用いた。S O M処理から得
た6クラスタ(A-F)の特徴を検討し,A:ファクト
探索者(18%),B:対話型ユーザ(9%),C:集中
的探索者(5%),D:未熟なユーザ(32%),E:偶
発的ユーザ(29%),F:精通したユーザ(7%)にカ
テゴリ化した。AとDは検索エンジンの高い精度か
ら恩恵を受けるが高い再現率を必要としない。Eは
高い精度を求めるユーザである。T ransMech社の
場合,検索ツールの精度を優先する設計が示唆さ
れる。S O Mは標準的なログファイルを用いてイン
トラネット検索エンジン利用行動のクラスタを効
果的に確認した。これらのクラスタは検索エンジ
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ンとイントラネットユーザの対話をよく理解する
ために用いられる,また,研究者や開発者にユー
ザを限定した探索問題の解決にも役立つ。
S T E N M A R K D i c k ( I T U n i v. G o t h e n b u r g ,
Gothenburg, SWE), J Am Soc Inf Sci Technol (USA)
2008 59 (14) 2232-2243, 09A0063181
局所探索:情報検索実務者のためのガイド
Local search: A guide for the information retrieval
practitioner
情報検索には,多くの組合せ最適化問題が存在
する。そこでは,局所探索手法の利用に価値があ
る。本稿の目的は,情報検索(I R)における良く
知られたタスクを解決するために局所探索を利用
する方法,そしてこの分野における従来研究が断
片的であり,構造を奪い去り,手法的にも不備で
あることを示すことにある。また,I R問題に局所
探索を正確に適用する方法を示唆することにあ
る。筆者等は,I Rタスクにおける局所探索利用に
関する質問ベース分類法のほか,組合せ最適化問
題に関する実験を行う場合における適合関数,統
計的有意性,およびテストコレクションなどの概
要を示した。また,研究課題を解くために局所探
索を利用しようとしているI R実務者のために,落
とし穴と難題に関するガイドやそれらの手法の利
用に関わる実践的アドバイスを与えた。質問ベー
ス分類法は,新しい構造であり,I Rにおける局所
探索利用を検討しているI R実務者によって利用可
*
能である。
MACFARLANE Andrew (Dep. of Information Sci.,
School of Informatics, City Univ. London, GBR);
TUSON Andrew (Dep. of Computing, School of
Informatics, City Univ. London, GBR), Inf Process
Manag (GBR) 2009 45 (1) 159-174, 08A1164612
ウェブサーチエンジンデータベースの新しさに
関する3年間の調査
A three-year study on the freshness of web
search engine databases
Google,Yahoo!,MSN(Live.com)について,
ウ ェ ブ ペ ー ジ の 更 新 頻 度, 更 新 パ タ ー ン, 更 新
頻度が多いページと少ないページの比較,更新方
針,索引作業の遅れを調査した。Lewandowski et
a l .(2006)の2005年収集データと新しく収集した
海外文献紹介 ●Literature guide
2006年と2007年のそれぞれ6週間のデータを用い
た。ドイツ語のウェブページを対象に,ページの
更 新 頻 度 が 多 い40ペ ー ジ と 更 新 頻 度 が 少 な い30
ページについて毎日注意深く個々のページの更新
を検証した。各データについて,毎日更新される
ページの割合,最新のページと最古のページの分
布,更新頻度の分布を分析した。調査したサーチ
エンジン(S E)には一定の更新頻度はなかった。
S Eのデータベースから常に最新版のページが検索
できるとは限らないことを示した。更新パターン
は不規則で予測できなかった。ページの更新頻度
が多い理由にリンク人気スコアが関係すると考え
られた。更新方針は,各SEで全く異なっていた。ペー
ジのクローリングと閲読可能の間にはGoogleで2日
の遅れがあった。結果は,S Eはデータベースの更
新の大きな欠点を示した。各S Eはページ自身の更
新に従ってウェブデータベースを更新するという
ユーザにとって理想的な解決を用意していなかっ
た。
LEWANDOWSKI Dirk (Hamburg Univ. Applied Sci.,
Hamburg, DEU), J Inf Sci (NLD) 2008 34 (6) 817831, 09A0137311
検索効率測定のためのランク−バイアス型精度
Rank-biased precision for measurement of
retrieval effectiveness
様々な検索効率測定手法が提案されてきたが,
それらの多くには欠点がある。例えば,再現率は
満足の尺度として基礎づけられておらず,再現率
から導かれる平均精度も同様な問題を抱えてい
る。加えて,平均精度はロバストな実験に必要と
なる安定性を欠いている。ここでは,ランク-バ
イアス型精度を導入し,それらの問題を回避した。
ランク-バイアス型精度は,単純なユーザ行動モ
デルから導かれたものであり,回答ランキングが
より深部に及ぶ場合にはロバストである。また,
部分的な関連性判断のみが利用可能な場合におい
ても,実験不確実性に関する正確な定量化を可能
にする。
MOFFAT Alistair (Univ. Melbourne, AUS); ZOBEL
Justin (RMIT Univ., AUS), ACM Trans Inf Syst (USA)
2009 27 (1) 1-27, 09A0128953
Journal Citation Reportsにおける集約された雑誌
−雑誌引用関係を用いた科学ネットワークの分類
Classification of scientific networks using
aggregated journal-journal citation relations in
the Journal Citation Reports
科学雑誌のクラスタリングに自動化アルゴリズ
ムの親和性伝播法を提案し,このクラスタリング
法をS C IとS S C Iデータベースの雑誌分類に適用し
た。アルゴリズムはカテゴリ間の雑誌-雑誌距離
を最短化することによって雑誌ネットワークの分
類を得るために適用される。雑誌-雑誌距離は,
年間の引用パターンのカットオフパラメータを持
つ類似度から計算する。カットオフパラメータの
異なる値は雑誌ネットワークの異なるレベルの分
類を可能とする。2001年SCIと2005年SSCIのインパ
クトファクター 1以上の雑誌の論文と引用について
親和性伝播法を適用して雑誌のクラスタリングを
行った。SCIでは56雑誌カテゴリ,SSCIでは23雑誌
カテゴリを得た。親和性伝播法はSCIとSSCIの雑誌
の妥当な分類方式を提供した。この方法は,カテ
ゴリ数やそのサイズを前もってインプットする必
要はない。雑誌分類結果は,一般的にI S C分類方式
と一致し,カテゴリの中の平均雑誌-雑誌距離は
高いレベルの関連性を示した。
CHEN C.-M. (National Taiwan Normal Univ., Taipei,
TWN), J Am Soc Inf Sci Technol (USA) 2008 59 (14)
2296-2304, 09A0063185
1990-2006年におけるイランの科学研究の構造:
著者共引用分析
The Structure of Iranian chemistry research,
1990-2006: An author cocitation analysis
1990-2006年の期間にScience Citation Index(SCI)
に収録されたイラン所属著者を含む化学分野の論
文7,682件から,高被引用の著者43人を選定した(イ
ラン人と外国人を含む)。これらの著者の共引用行
列に対する主成分分析から,互いに相関を持つ7つ
の因子を抽出した(累積説明率78%)。イラン人と
外国人は別の因子を形成する傾向がある。7つの因
子を主題により特徴付け,それらの間の相関強度
について論じた。PFNet構造から,この時期のイラ
ンの化学の主要な構造は,研究主題の影響と地域
/機関の影響の両者により説明されることを示し
た。
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情報管理
JOHO KANRI
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May
OSAREH Farideh (Shahid Chamran Univ., Ahwaz,
IRN); MCCAIN Katherine W. (Drexel Univ., PA,
USA), J Am Soc Inf Sci Technol (USA) 2008 59 (13)
2146-2155, 08A1226442
1996-2005年の情報科学における研究活動と知的
影響度の漸進的変化:著者書誌結合分析の導入
Evolution of research activities and intellectual
influences in information science 1996-2005:
Introducing Author Bibliographic-Coupling
Analysis
情報科学分野の論文を対象に,著者書誌結合分
析(ABCA)と著者共引用分析(ACA)を行った。
ABCAにより主要著者の研究活動構造を,ACAによ
り主要著者の知的影響構造をそれぞれマッピング
し た。 い ず れ も,1996-2000年 と2001-2005年 の2つ
の期間に分けて分析することにより,この時期に
おける構造変化を検討した。2つの時期のA B C Aと
A C Aにおいて,それぞれ120人の主要著者を採り,
因子分析により11の因子(研究の細分領域)を抽
出した。ABCAとACAの著者マッピングは相互補完
的で,両者を組み合わせることにより,情報科学
のより完全な描像を与えることができる。
ZHAO Dangzhi; STROTMANN Andreas (Univ.
Alberta, AB, CAN), J Am Soc Inf Sci Technol (USA)
2008 59 (13) 2070-2086, 08A1226436
著者曖昧性解消に関わる共著関係について
On co-authorship for author disambiguation
著者名曖昧性解消では,同名著者を異なる個人
にクラスタリング処理する。この問題に取り組む
ために,多くの研究が様々な曖昧性解消特性を用
いてきた。それらには,共著者,論文・出版物タ
イトル,記事の主題,電子メール・アフィリエイ
トなどが含まれる。これらの中で,共著者関係は
最も容易に利用しやすく影響力も大きい。共著関
係によって示される個人間面識は,他の特性より
も明瞭に著者の同一性を識別するからである。本
研究では,書誌データにおける著者クラスタリン
グに対する共著関係の正味効果を検討した。まず,
既知の引用にリストされた明示的な共著者の不足
に対処するために,曖昧性解消の対象著者の暗黙
的な共著者を収集するためのweb支援型手法を提案
した。次に,様々な著者曖昧性解消の実験を通じて,
128
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“著者の同一性は彼(彼女)の共著者によって決定
可能である”という共著者曖昧性解消仮説を検証
*
した。
KANG In-su (School of Computer Information,
Kyungsung Univ., Busan, KOR); NA Seung-hoon;
LEE Jong-hyeok (Pohang Univ. of Sci. and Technol.
(POSTECH), Pohang, KOR); LEE Seungwoo; JUNG
Hanmin; KIM Pyung; SUNG Won-kyung (Korea Inst.
of Sci. and Technol. Information (KISTI), Daejeon,
KOR), Inf Process Manag (GBR) 2009 45 (1) 84-97,
08A1164607
抄録する方法の学習における情報能力とスキル
の役割
The role of information competencies and skills
in learning to abstract
高等教育における抄録の重要性を前提に,抄録
作成プロセスに伴う手順とステージを分析して抄
録作成に関する情報能力とスキルの教育と学習に
ついて検討した。検討によって抄録作成を行うた
めに必要な能力とスキルを確認し,これらの能力
とスキルを改善する方法を提案した。情報リテラ
シーと抄録の主要な課題を紹介し,両者の相互依
存関係を確認した。文献レビューと実証的研究に
基づいて,抄録作成プロセスにおける5つのステー
ジ,1)テキストの閲読と理解,2)分析と解釈,3)総
合,4)情報の組織化と表現,5)抄録文作成,を提案
した。抄録作成の5つのステージそれぞれにおいて
必要とされる能力とスキルを検討した。学生にド
キュメントの抄録作成能力とスキルを習得させる
ために,情報リテラシー教育において抄録者/学
習者が能力とスキルを学習・実習するプロセスを5
つのステージに分けて概説した。同時に,学習と
実習の各ステージに結びつけて抄録作成における
学生の能力とスキルをどのように改善するかを具
体的に示した。
PINTO Maria; DOUCET Anne-Vinciane;
FERNANDEZ-RAMOS Andres (Univ. Granada), J Inf
Sci (NLD) 2008 34 (6) 799-815, 09A0137310
オントロジーとセマンティックウェブ
Ontologies and the semantic web
今日のウェブは大量のデータを簡単にユーザに
提供できる。しかし,少し検索が複雑になると一
海外文献紹介 ●Literature guide
般のユーザにとっては対応が難しくなる。この問
題を打開する動きの1つが,ワールドワイドウェブ
コンソーシアム(W3C)によれば,セマンティッ
クウェブである。セマンティックウェブの典型的
なシナリオは,自律的なエージェントが制約や優
先度を与えられて,適切な答えを返すものである。
そのようなソフトウェアエージェントの特徴は,
事前決定された情報源のみならず,人間ユーザな
らば行うような関連情報の自動的な探索である。
これを実現するウェブでの問題の一つは,ウェブ
コンテンツは人間に表示することを主目的として
おり,画像も多く使用されていることである。こ
うしたコンテンツをソフトウェアエージェントが
理解するのは易しくはない。これを打開する1つの
手段として,W3CはRDFやOWLと呼ぶ記述言語を
開発した。しかし,セマンティックウェブの実現
には知識表現,データベース,コンピュータビジョ
ン,エージェントシステム等の研究とその成果が
必要である。他方,セマンティックウェブ研究は
オントロジー言語とそのツールの開発や普及に既
に大きな影響を及ぼしている。セマンティックウェ
ブ技術と呼ばれるこれら技術はオントロジー開発
のデファクト標準となり,研究機関のみならず大
規模I Tプロジェクトにおいても適用されるように
なっている。
HORROCKS Ian (Oxford Univ., GBR), Commun
ACM (Assoc Comput Mach) (USA) 2008 51 (12) 5867, 09A0037517
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2009
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http://johokanri.jp/
〒464-8681 名古屋市千種区鹿子殿1-1
愛知県がんセンター図書室
Tel:052-764-2914 Fax:052-763-5233
E-mail:[email protected]
第16回医学図書館研究会・継続教育コース
研究会演題募集
日本医学図書館協会は,日本薬学図書館協議会の協
賛により,「第16回医学図書館研究会・継続教育コー
ス」を下記の日程で開催する。
・問い合わせ先:実行委員長 小林晴子
〒480-1195 愛知郡長久手町大字岩作字雁又21
愛知医科大学医学情報センター(図書館)
Tel:0561-61-1836 Fax:0561-62-3348
E-mail:[email protected]
※継続教育コースの内容については検討中。決定次
第下記ホームページ等で告知予定。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jmla/event/res/res.html
■テーマ:「もう一度! ライブラリアン」
情報メディア学会
■期間:平成21年11月18日(水)∼20日(金)
■会場:愛知県がんセンター
(名古屋市千種区鹿子殿1-1)
愛知学院大学楠元キャンパス
(名古屋市千種区楠元町1-100)
本年,情報メディア学会では,「学術情報資源の活
用と未来」を基調テーマとして,以下のように研究
大会を開催する。非会員の方も参加可能。
■参加資格:不問
■日時:平成21年6月27日(土)10時∼18時30分
■研究会演題の募集:
テーマ「もう一度! ライブラリアン」のもとに
調査,研究成果,事例報告を広く募集している。
■会場:科学技術振興機構(JST)東京本部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエン
スプラザ B1ホール
Tel : 03-5214-8401(代表)
地図<http://www.jst.go.jp/koutsu.html#t-honbu>
・発表時間:15分,質疑応答時間:5分(予定)
・発表日:11月18日(水),19日(木)(予定)
・申し込み方法:
A4判用紙に演題,研究者の氏名(共同研究の場
合は発表者を筆頭に全員の氏名),所属,住所,
電話番号,メールアドレス,200字程度の抄録を
記入し,下記実行委員会事務局まで郵送または電
子メールで提出。抄録をもとに実行委員会で検討
しプログラムを作成する。
・申し込み期限:平成21年7月15日(水)
・予稿集抄録の提出:平成21年9月18日(金)
A4判縦1ページ(40字×40行程度)の予稿集抄録
を提出(形式等は後日連絡)。
・申し込み先:実行委員会事務局 担当 柴田太子
130
第8回研究大会のご案内
■参加費:会員1,000円,非会員1,500円(資料代を
含む),懇親会参加費4,000円
■プログラム概要
・開会,会長挨拶,開催機関挨拶(9:50∼10:00)
・基調講演(10:00∼11:20)
小野寺夏生氏(元筑波大学)「文献の計量でわか
ること,わからないこと」(予定)
・総会(11:20∼11:50)
・特別講演(13:10∼14:40)
岡本真氏(A C A D E M I C R E S O U R C E G U I D E)
「Academic Web宣言−学術資源を生かすための構
想とその課題,そして可能性」(予定)
・プロダクトレビュー:展示紹介(14:50∼15:40)
PINUP
・ポスター発表ライトニングトーク(ポスター発表
者による概要紹介)(15:40∼16:50)
・交流会+展示会+ポスター発表(16:50∼18:30)
*最新情報は,学会Webサイト<http://www.jsims.
jp/>を参照のこと。
■申し込み方法:
氏名,所属,電子メールアドレスを明記のうえ,
2009年6月22日(月)までに,F a xまたは電子メー
ルにて,本会事務局まで申し込む。当日受付も行
うが,配布資料の事前準備の関係上,なるべく事
前の申し込みが望ましい。
・情報メディア学会事務局
〒305-8550 つくば市春日1-2
筑波大学図書館情報メディア研究科内
Fax : 020-4623-1228 E-mail : [email protected]
INFOPRO 2009
第6回情報プロフェッショナルシンポジウム
発表募集中
独 立 行 政 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構(J S T) と 社 団
法人 情報科学技術協会(I N F O S TA)の共催によ
り「第6回情報プロフェッショナルシンポジウム」
(略称I N F O P R O 2009)が本年10月に開催される。
I N F O P R O2009事務局では,下記の要領で発表を募
集している。
■日程:2009年10月14日(水)午後∼15日(木)
■会場:日本科学未来館(東京/お台場)
■応募資格:下記発表テーマに関心のある方なら,
どなたでも応募可能。
■発表内容:下記発表テーマに関わるもので,その
オリジナル部分が未発表のもの。
事例発表も歓迎。
・情報サービス
・知財情報
・情報管理,共有化
・情報検索,分析・評価
・情報教育
・情報処理技術
・その他 情報に関するもの
■発表形式:パソコンを用いての口頭発表
■発表時間:1テーマにつき20分程度
■発表申し込み
・締切日:2009年6月30日(火)
・発表申込書:「appli2009.xls」(Microsoft excel形
式ファイル/約60KB)をhttp://www.infosta.or.jp/
symposium/appli2009.xlsからダウンロードし,記
入のうえ下記のE-mailアドレスまで送付。
■予稿原稿
・締切日:2009年8月10日(月)
・執筆要項:発表決定者に連絡
■申し込み・連絡先:
(社)情報科学技術協会 INFOPRO2009事務局
〒112-0002 東京都文京区小石川2-5-7
(佐佐木ビル)
Tel : 03-3813-3791 Fax : 03-3813-3793
E-mail : [email protected]
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情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.2
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
May
■新緑の季節となりました。新年度の到来とともに,
新しい職場で,新しい人たちと,新たな課題に取り
組んでいる方も多いかと思います。さて,私もこの
4月より,50有余年の歴史をもつ『情報管理』誌を
新たに担当することになりました。その歴史の重み
を,ヒシヒシと感じ,身が引き締まる思いです。冊
子体に加え,W e b版での提供が始まりすでに3年が
経過しましたが,両者の補完的な使い勝手はいかが
でしょうか? 皆様からのお声に耳を傾け,時代の
動向に目を開き,読者の皆様の実務に役に立つ専門
誌を目指す編集方針を引き継いでまいります。
■さらには,本誌での提言等が大きな流れとなり,
インフォプロの方々の働く環境をよりよいものに
し,日本全体の情報基盤整備への有効な指針作りに
つながるよう,『情報管理』誌のポテンシャルを上
げていきたいと思います。
■今号では,オンラインビデオジャーナルを紹介し
ています。複雑な実験手技を動画プロトコル化して
共有するというジャーナルのコンセプトに,団塊の
世代の一斉退職による技術・技能の継承が困難にな
る,いわゆる「2007年問題」を想起された方もい
たのではないでしょうか? インターネットを介し
てプロトコル化した技術を共有することが,分子生
物学の目覚しい進展を促した一方で,「インフォプ
ロってなんだ?」で語られるような「師匠」からの
伝承には,技術やノウハウのみならず,送り手の思
想や物事のとらえ方までを包含し,受ける側の共鳴
を伴って人の間に情報伝達が行われるところに,そ
の奥深さを感じます。
■情報管理W e bも新年度からリニューアルいたし
ました。『情報管理』誌ともども,皆様からのご意
見ご要望をお待ちしています。J S Tは「つながる,
ひろがる,ひらめく」をコンセプトにした新サービ
スJ-GLOBAL(β版)を3月末から開始しました。私
たち事務局も,読者の方々とのつながりを大切に,
52年目を迎えた『情報管理』誌を担当してまいり
ます。
(FN)
『情報管理』誌では,国の内外から広く投稿原稿を受け付けています。日ごろのご研鑽の成果を執筆
されて,本誌に発表されることをお待ちしております。
□次号予定
●企業内情報調査部門の組織再構築:三井化学(株)知的財産部・情報調査センターユニットの活動内容
●読売新聞のデータベース事業とヨミダス辞書
●「J-GLOBAL」試行版(β版)の構築と今後の展望
情報
管理
JOHO KANRI
Journal of Information Processing and Management
科学技術振興機構
vol.52 no.2 May 2009
●編集委員会
<委員長>水上政之(科学技術振興機構)
<副委員長>大倉克美(科学技術振興機構)
<編集委員>
小河邦雄(大正製薬㈱)・小川裕子(㈱日立技術情報サー
ビス)・小林陽子(㈱日本能率協会総合研究所)・野坂美
恵子(東京医科大学図書館)・青山幸太・安部耕造・國岡
崇生・黒田明子・黒田雅子・佐藤恵子・土屋江里・野田
口真也・長谷川貴之・余頃祐介(以上科学技術振興機構)
2009年5月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥13,650(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
編集・発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8470
E-mail: [email protected]
http://johokanri.jp/
Published monthly by Japan Science and Technology Agency, Department of Advanced Databases
P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN
Annual subscription: US$ 176.00
・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,最寄りの情報提供部または各支所宛に現品をご返送下
さい。送料は当機構の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。
・未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。
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