21. 後希釈HDFによるファインフラックスFIX

後希釈 HDF によるファインフラックス FIX-Seco の溶質除去特性
(医)社団 白水会 須田クリニック
成田 暁、小幡優子、二渡妙子、中田敦子、松井貴広、早川理恵、桑原秀実、
森山芳明、若林啓二、井上禎子、小林英雄、須田昭夫
【はじめに】
後希釈 HDF(Post HDF)は前希釈 HDF(Pre HDF)に比較して小分子量物質の
除去性能を低下することなく、大分子量物質のα1-MG の除去に優れる。
一方、Post HDF の短所としては大量濾過によるファウリング現象が著しく、膜
の目詰まりによる経時劣化と TMP の上昇により、大分子量物質の十分な除去性
能が得られない場合がある。
そこで、ファウリングの影響が小さいとされるヘモダイアフィルター、
Asymmetric Triacetate(ATA)膜 FIX-210Seco(ニプロ)の、Post HDF 施行時
の特性を評価する。
【対象】
当院で Post オンライン HDF を行っている安定期の外来維持透析患者 5(男性
5)名を対象とした。平均年齢 57.6±11.3 歳、平均透析年数 28.5±4.8 年、平
均ドライウェイト 63.2±4.9 ㎏である。
【方法】
ポリエーテルスルホン(PES)膜 MFX-21S(ニプロ)と FIX-210S をクロスオー
バー法で使用し、Post オンライン HDF の特性を比較評価した。
評価条件は血液流量(QB)250ml/min、総透析液流量(QD)500ml/min、補液
流量(Qs)50ml/min、Total(Vs)12L で 4 時間施行した。
評価項目は尿素、クレアチニン、尿酸、リン、β2-MG、α1-MG の除去率、β2-MG、
α1-MG の除去量とクリアスペース、アルブミン漏出量、TMP のモニタリングで
ある。なお、低分子量蛋白の除去率はヘマトクリット補正をした。また、経時
的なクリアスペースを廃液濃度より 30 分毎に算出して求めた。
使用装置は個人用透析装置 TR-3000S(東レ)、透析液はカーボスターを使用し、
エンドトキシンは全台検出限界値(Cut Off 0.00067 EU/ml:比濁時間分析法、
ワコー)である。
統計学検定は paired-T 検定を使用し、危険率 5%未満を有意水準とした。
【結果】
除去率は小分子量物質には差はみられないが、低分子量蛋白のβ2-MG とα
1-MG で MFX-21S が FIX-21S より有意に高かった(図 1)。
(%)
90
MFX-21S
FIX-210S
*
80
80.5
77.8 77.4
70
76.1
72.9 72.0
65.7 66.6
60
除去率
mean±SD,n=5
*:P<0.05
*
54.2
50
47.6
40
40.2
30
33.9
20
10
0
Urea
Crea
UA
β2-MG
IP
α1-MG
図1 除去率(Post 12L 4h)
低分子量蛋白の除去量とクリアスペースは、両者同等の値を示し有意差はな
かった(図 2)。
MFX-21S
(mg)
300
mean±SD,n=5
(L)
12.0
250
10.0
242
200
203
186
150
100
クリアスペース
245
除去量
FIX-210S
8.0
8.8
8.9
6.0
4.0
50
2.0
0
0.0
1.5
β2-MG
α1-MG
β2-MG
1.5
α1-MG
図2 低分子量蛋白の除去量とクリアスペース(Post 12L 4h)
アルブミン漏出量とアルブミン 1g あたりのα1-MG 除去量は、両者同等の値を
示し有意差はなかった(図 3)。
MFX-21S
mean±SD,n=5
FIX-210S
(mg/g)
(mg)
9,000
70
8,000
60
7,000
50
47.1
除去量
漏出量
6,000
5,000
4,931
4,000
4,010
3,000
49.7
40
30
20
2,000
10
1,000
0
0
Alb漏出量
Alb1gあたりのα1-MG除去量
図3 アルブミン漏出量とα1-MG除去量/Alb1g(Post 12L 4h)
経時的なβ2-MG クリアスペースの変化では、有意差はないが 2 時間目から高
い値を示した FIX-210S が少ない経時変化を示した(図 4)。
(L)
2.50
MFX-21S
2.27
FIX-210S
mean±SD,n=5
2.23
クリアスペース
2.00
1.50
1.49 1.48
1.20 1.20
1.00
1.01 1.02
0.87 0.89
0.75 0.78
0.50
0.66 0.69
0.58 0.61
0.00
30
60
90
120
150
180
210
240
Time(min)
図4 経時的なβ2-MGクリアスペースの変化(Post 12L)
経時的なα1-MG クリアスペースの変化では、有意差はないが 3 時間目から高
い値を示した FIX-210S が少ない経時変化を示した(図 5)。
(L)
0.45
MFX-21S
FIX-210S
mean±SD,n=5
0.40
クリアスペース
0.35
0.35
0.30
0.32
0.25
0.25
0.23
0.20
0.21
0.20
0.18 0.18
0.15
0.16 0.16
0.14 0.15
0.10
0.13 0.14
0.12 0.13
0.05
0.00
30
60
90
120
150
180
210
240
Time(min)
図5 経時的なα1-MGクリアスペースの変化(Post 12L)
累積アルブミン漏出量と経時的な TMP の変化では、FIX-210S がばらつきの少
ないアルブミン漏出を示し、TMP の上昇においても MFX-21S よりも軽微であった
(図 6)。
mean±SD,n=5
Alb漏出量 MFX-21S
TMP MFX-21S
Alb漏出量 FIX-210S
TMP FIX-210S
(mg)
9,000
(mmHg)
103
97
8,000
84
82
7,000
89
87
85
84
81
76
100
93
93
90
88
86
83
80
60
5,000
4,931
4,428
4,000
4,010
3,908
3,000
2,802
2,000
2,206
869
40
3,097
2,628
20
2,149
1,657
1,569
1,000
0
3,557
3,367
1,147
609
30
0
60
90
120
150
180
210
240
Time(min)
図6 累積アルブミン漏出量とTMPの経時変化(Post 12L)
TMP
漏出量
6,000
【考察】
Post HDF において MFX-21S および FIX-210S の性能評価を行い次のような知見
を得た。
1. 除去率において低分子量蛋白の高い透過性が MFX-21S に認められた。
2. 経時的な低分子量蛋白のクリアスペースで、MFX-21S よりも少ない経時変
化を示した FIX-210S は、膜の目詰まりを抑え plasma refilling を促進
している可能性が考えられる。
3. ばらつきの少ないアルブミン漏出量と、TMP の上昇が MFX-21S よりも軽微
であった FIX-210S は、ファウリングによる膜の経時劣化は少ないものと
推測される。
以上より、FIX-210S は Post HDF による Vs の増量においてもファウリングを抑
える可能性があり、大分子量物質の除去に有用と考えられる。
【まとめ】
Post オンライン HDF において
1. FIX-210S は MFX-21S と比較して、治療中 TMP の上昇が軽微であった。
2. FIX-210S で大分子量物質除去の向上をはかるには、至適条件に合う Vs を
見出すことが重要と考えられる。