東京都の入札契約制度改革の取組み 「入札に参加しやすい環境の整備

特集 公共工事の品質確保と入札契約制度の適正化
東京都の入札契約制度改革の取組み
「入札に参加しやすい環境の整備に向けて」
えん
じ
てつ
圓 地
ふみ
哲 文*
昨今、入札不調が増加するなど公共工事を取り巻く状況は大きく変化している。東京都では、こうした
中でも、都民活動や都民生活に必要なインフラを着実に整備していくために、より多くの事業者が入札に
参加しやすい環境の整備に向けて取り組んでいるところである。本稿では、この取組みについてご紹介する。
1.はじめに
表−1 工事等競争入札参加有資格者
(平成26年4月時点)
平成26年6月に改正された品確法では、公共工事
全 企 業
の品質確保に向けて、発注者の責務として「予定価
格の適正な設定」や「計画的な発注」などが新たに
位置づけられた。
東京都の入札契約制度は、透明性、競争性、品質
の確保という3つの社会的要請に応えていくことを
うち中小企業者
資格者数
約94%
⑵ 東京都の工事契約の状況
①低入札の減少と落札率の上昇
基本としており、これまで、その時々の状況に応じ
東京都における低入札価格調査の実施件数は
て、総合評価方式の拡大や低入札価格調査制度の強
年々減少している。特に平成25年度の建築工事は
化など改正品確法の趣旨を実現する取組みを着実に
2件となり、ほとんど発生していない。一方で、
実施するとともに、中小企業の活躍を促すための独
低入札価格調査の減少とあわせて平均落札率が上
自の取組みも行ってきた。
昇しており、平成25年度は、競争入札案件全体で
現在は、公共工事を取り巻く環境の変化に対応し、
今後もインフラを安定的に整備していけるよう「入
札に参加しやすい環境の整備に向けて」というテー
マを掲げ、市場の変化や動向に柔軟に対応した施策
を講じているところである。
2.東京都の工事契約の現状
⑴ 建設工事有資格者に占める中小企業者の割合
91.6%、土木工事では92.5%となった(表−2、
表−3)。
表−2 低入札価格調査の実施状況の推移
(単位:件)
平成23年度
平成24年度
平成25年度
255
165
111
建築
26
14
2
土木
103
67
34
設備
126
84
75
全体
東京都では、工事の有資格者数の94%が中小企業
表−3 平均落札率の推移
者である(表−1)。こうした実態を踏まえ、官公
平成23年度
平成24年度
平成25年度
89.1%
89.3%
91.6%
建築
89.6%
91.1%
93.7%
業が都の事業を担っている実態を踏まえた施策を講
土木
89.6%
90.5%
92.5%
じていくことが重要となる。
設備
88.4%
87.3%
89.7%
需についても、コスト縮減の観点を踏まえつつ、適
切な発注ロットの設定に努めている。また、中小企
*東京都 財務局 経理部 総務課 契約調整主査 03-5321-1111
22
9,106者
月刊建設15−02
全体
②不調発生率の上昇
げ、さまざまな施策を講じているところである。
不調については、平成24年度以降、発生率が全
体的に上昇している。なお、不調の発生は、年度
後半になるほど顕著になる傾向も見られた。
工事全体の不調発生率をみると、平成24年度は、
7.2%、25年度は、13.1%。建築工事だけをみると、
平成24年度は、13.4%、25年度は24.2%と大幅に
上昇している(表−4)。
以下に、具体的な施策の一例を紹介する。
表−5 入札に参加しやすい環境の整備に向けての主な取組み
主な取組み
⑴ 工事発注に関する情報提供の充実(平成26年4月〜)
⑵ 総合評価方式の配置技術者の取扱いの見直し(平成26
年4月〜)
⑶ 契約手続期間の短縮(平成26年8月〜)
⑷ 「予定価格修正方式」の試行(平成26年8月〜)
表−4 不調発生率の推移
平成23年度
平成24年度
平成25年度
6.6%
7.2%
13.1%
建築
7.0%
13.4%
24.2%
土木
5.0%
8.0%
13.9%
⑺ スライド条項の適切な運用と今後の検討
設備
8.6%
4.4%
8.5%
⑻ 工事発注時期の平準化
全体
⑸ 「一括公表複数希望方式」の試行拡大(平成26年12月〜)
⑹ JV基準等の見直し(平成27年4月〜)
⑴ 工事発注に関する情報提供の充実
③入札参加者の状況
不調の発生率の上昇とともに、工事1件当たり
の平均入札参加希望者数は減少している。
工事等の年間発注見通しについては、公共工事の
入札及び契約の適正化の促進に関する法律により毎
特に、建設共同企業体(以下、
「JV」という)
年公表している。これは、事業者が受注計画を立て
を対象とした工事は、1社(単体)で入札参加で
るにあたり重要な情報となることから、昨今の状況
きる工事と比較して、参加者数が減少する傾向に
に鑑み、情報提供のさらなる充実化を図ることとした。
あり、JVを対象とした工事は、同じA等級単体の
具体的には、発注予定時期の表示を従来の四半期
工事と比較すると、希望者数が 1 / 3 程度にまで
単位から月単位とするとともに、工事概要について
減少している(図−1)。
も内容・規模等をできるだけ詳細に示すよう見直し
を図ったところである。
JV
⑵ 総合評価方式の配置技術者の取扱いの見直し
これまで総合評価方式では、配置技術者の実績も
評価の対象であることから、配置技術者を入札参加
希望時点で確定し、以後変更を認めてこなかった。
しかし、技術者が不足するなか、総合評価方式を
0
5
10
15
20 (
図−1 工事1件当たりの平均入札参加希望者
(平成22年〜平成24年の平均値)
適用拡大していくためには、中小企業が人材をより
有効活用できる環境整備が必要と判断し、配置技術
者の資格や実績が当初申請の技術者と同等以上であ
る場合は、契約直前まで配置技術者を変更できるこ
3.入札に参加しやすい環境の整備に向けて
上記②で示したとおり東京都の入札においても不
調が増加するなど、入札契約制度を取り巻く状況は
これまでとは大きく変化している。
こうした状況の変化に適切に対応するとともに、
改正品確法の趣旨を実現していくため、
「入札に参
加しやすい環境の整備に向けて」というテーマを掲
ととした。
⑶ 契約手続期間の短縮
予定価格の設定にあたっては、市場の状況に即し
た単価を用いて、実際の施工条件を反映した積算を
行うことが重要である。
しかし、建設価格の変動が激しい昨今の局面では、
適正な予定価格であったとしても、契約手続期間が
月刊建設15−02
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長期になると、予定価格と実勢価格とのかい離が生
ともに、発注標準金額も見直しを行い企業が単独で
じやすい。
入 札 に 参 加 で き る 工 事 の 規 模 と 件 数 を 拡 大する
このため、契約手続期間の長い大規模工事におい
(図−2)。
て、契約期間を最大20日間程度短縮する取組みを始
現行
めた。具体的には、電子調達システムを改修し、案
5億以上
件公表時に図面や内訳書等を前倒して掲載すること
4億以上
で見積可能期間の早期化を図るなど、入札参加者の
4億まで
見積期間を確保したうえで全体の契約期間の短縮を
図ることとした。
⑷「予定価格修正方式」の試行
現在東京都は、工事の予定価格を案件公表時に公
表している(事前公表)。
事前公表であっても、積算から入札までの期間に
改正(平成27年度から)
JV(A等級)
JV(A等級) 5億まで
A等級
3.2億まで
A等級
3.5億まで
B等級
B等級
1.6億まで
1.5億まで
C等級
4千万まで
D等級
4千万まで
D等級
1千万まで
E等級
1千万まで
E等級
C等級
図−2 JV基準及び発注標準金額の改正
(土木工事の例)
予定価格と実勢価格とのかい離が生じないよう、入
⑺ スライド条項の適切な運用とリスク分担の見直し
札までの期間が比較的長い大規模な工事案件につい
賃金や物価水準の急激な変動に対しては、スライ
て、公表期間中に単価改定等があった場合は、入札
ド条項を適用するとともに、平成26年2月からは
日直近の最新単価を用いて予定価格そのものを修正
インフレスライド条項の運用も開始し、適切な運用
し、より実勢価格に近づけた価格で入札を実施する
に努めてきたところである。
取組みを始めたところである。
⑸「一括公表複数希望方式」の試行拡大
今後、経済情勢や公共事業を取り巻く状況の変化、
東京都の公共工事を担う建設業の経営状況、中長期
配置可能な技術者が限られてくる年度後半に工事
的な担い手の育成・確保の視点等を踏まえ、全体ス
発注量が増加すると、不調となるリスクが高まる。
ライドを基本とする受発注者間の適正なリスク分担
こうした状況を踏まえ、より多くの入札参加を促
す取組みとして、計画的事業の同種工事を短期間に
のあり方について見直していく。
⑻ 工事発注時期の平準化
多数発注する必要がある工事については、一括して
計画的な発注により、年度を通じて発注件数を平
工事案件を公表するとともに、入札参加にあたって
準化していくために、今後は、工期が12ヵ月未満の
設定している希望件数や落札工事による制限を緩和
工事についても債務負担行為を効果的に活用するな
し、連続した週や複数案件への入札参加希望を認め
ど、工事所管局と協力しながら具体的な取組みをさ
る措置を試行拡大しているところである。
らに強化していく。
⑹ JV基準等の見直し
比較的金額の低いJV対象工事では入札参加希望
者が少なくなっている。学識経験者も交えた各業界
今後、2020年の五輪開催の準備をはじめ、都民の
団体との意見交換においても、低額なJV工事は代
安全安心の確保など、「世界一の都市東京」の実現
表・下位の構成員双方にとって魅力が薄く、技術者
に向けてさまざまな施策が実行されていく。
を長期間専任させることが困難との意見が出てきた。
入札契約制度はこれらを担う事業者と都を結びつ
このため、そのような工事については、能力のあ
ける、言わば「入口」となる。我々はこの重要性を
る中小企業が単独で受注できるようにするなど、基
認識し、制度に期待される役割が的確に果たされる
準の見直しを行い、平成27年度から新たな基準とする。
よう、引き続き、入札に参加しやすい環境の整備に
具体的には、JVとして発注する工事の基準額を
引き上げ、より大規模な工事をJVの対象とすると
24
4.おわりに
月刊建設15−02
向けた取組みを積極的に展開していくつもりである。