Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR

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Title
準高冷地において育成したライムギ系統の生産力検定試
験
Author(s)
山下, 美都香; 北原, 茉依; 青木, 大輔; 丸山, 孝明; 丸山, 剛
広; 堀内, 尊; 岡部, 繭子; 関根, 平; 春日, 重光
Citation
Issue Date
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Rights
信州大学農学部AFC報告 13: 35-39 (2015)
2015-03-31
http://hdl.handle.net/10091/18329
Article, Bull. Shinshu Univ. AFC No.13 p.35-p.39, March 2015
35
準高冷地において育成したライムギ系統の生産力検定試験
山下美都香
・北原茉依 ・青木大輔 ・丸山孝明 ・丸山剛広
堀内 尊 ・岡部繭子 ・関根
平 ・春日重光
信州大学農学部,南箕輪村,〒399-4598
雪印種苗株式会社千葉研究農場,千葉市,〒263-0001
要
約
当研究室では,市販品種を材料に2005年から準高冷地において4月中に出穂し,刈取可能なライムギの育
成を行ってきた。本試験では2012年までに育成した8系統「SUR-1∼8」の生産力検定試験を行った。その結
果,「SUR-1」を除く7つの育成系統は,市販の6品種と比べ出穂期が早かった。「SUR-4」を母材として選
抜した「SUR-5∼8」は「SUR-1∼4」と比べ草丈が低く,乾物収量が少なかった。茎数においては,
「SUR
-2」,
「SUR-5」および「SUR-7」は「春一番」
,
「キングライムギ」並の多茎を示した。これらの結果から,
「SUR-1∼8」の育成系統は実用品種としては利用は難しいものの,極早生,短稈,多茎を持つ育種素材とし
て利用できると
えられた。
キーワード:極早生,準高冷地,多茎,短稈,ライムギ
緒
言
とから,2006年からは多茎であることも選抜の指標
としてきた。これら育種素材は,
「ライ太郎」の極
ライムギは他のムギ類より耐寒性が強く,土壌へ
早生性を晩生の「春香」,早生の「春一番」および
の適応性も広いため,イタリアンライグラスやエン
「キングライムギ」に導入することから交配を行っ
バクの作付けに適さない東北∼北関東地域の冬作用
たものである。
飼料作物として重要な役割を果たしてきた 。また,
そ こ で,本 試 験 で は 育 成 系 統「SUR-1」∼
中部地方の山麓地帯などの寒地や寒冷地にも多く栽
「SUR-8」および市販品種を供試し生産力検定お
培されている。栽培面から秋播きライムギと他の夏
よび特性評価試験を行い,これら育成系統の準高冷
作物との輪作を
地における栽培適性と育種素材としての利用につい
えた場合,トウモロコシやソルガ
ムなどの長大型作物を基幹とする作付け体系におい
て検討した。
ては,ライムギは早生品種の方が好都合である 。
材料および方法
また,乾草やサイレージ調整において,原料の乾物
率が高い方が作業効率や品質などで利点も多く,こ
供試品種は信州大学農学部附属アルプス圏フィー
れらの点からも早熟性は重要と えられる。しかし,
ルド科学教育研究センター栽培学研究室で育成した
現在市販されているライムギ品種の多くは標高700
「SUR-1∼8」の8系統と市販の極早生品種「ライ
ⅿ前後の準高冷地において5月上旬以降に出穂・収
太郎」
,早生品種の「春一番」
,
「キングライムギ」
穫適期となる早生から晩生品種である 。そこで,
および「ハルミドリ」,晩生品種の「春香」および
準高冷地においてライムギの収穫・調製が4月中に
「R-007」の6品種・系統で合計14品種・系統とし,
可能となれば,作付け体系や労働力の分散などの面
「ライ太郎」を極早生の熟期標準品種とした。育成
からより効率的である 。さらに,ライムギは他の
系 統 は,市 販 品 種 を 素 材 に し て 育 成 し た「SUR
ムギ類に比べ草丈が高く,倒伏しやすい ため,当
-1∼4」(図1)
,さらに,
「SUR-1∼4」の中では比
研究室では,準高冷地において4月中の早刈り可能
的短稈,多茎であった「SUR-4」を母材とし,
で耐倒伏性に優れた系統を目標に選抜・育成をおこ
極早生,短稈,多茎で選抜・育成した「SUR-5」 ,
なってきた。また,多収性の解析から,一株当たり
の乾物重と茎数の間に強い正の相関がみられた こ
受付日 2014年12月26日
受理日 2015年2月2日
「SUR-6」 ,「SUR-7」お よ び「SUR-8」で あ る
(図2)
。
試験は2012年10月∼2013年5月にかけて信州大学
農学部附属 AFC 構内ステーション圃場で行った。
信州大学農学部 AFC 報告
36
第13号 (2015)
図1 「SUR-1」∼「SUR-4」の育成課程
栽培は畦幅30㎝の条播で1区6㎡(畦長5ⅿ×4
ため,越冬性も影響すると えられる最終的な収穫
条)の3反復乱塊法とし,播種量は600ℊ/ とした。
調査で総合的に評価することにした。
播種は,2012年10月26日に行い,播種・覆土後,管
理機で鎮圧した。施肥量は
結果および 察
当たりで牛糞堆肥300
㎏,苦土石灰6㎏,BM 重焼燐2㎏,化成肥料は成
試験結果を表1に示した。育成した8系統は,
分 で N:0.78㎏/ ,P:1.02㎏/ ,K:0.72㎏/
「SUR-1」を除き,市販の6品種と比べいずれも出
をすべて基肥として施用した。
穂 期 が 早 く,「SUR-2」,「SUR-3」,「SUR-5」,
調査項目は出穂始期,出穂期,草丈,稈径,倒伏
「SUR-7」および「SUR-8」は4月中に出穂期に達
割合,収量(生草,乾物,乾物率),収穫時出穂茎
した。また,2011年の試験 と同様に,今回の試験
率とした。出穂期は各試験区で立茎した約半分が出
においても極早生品種である「ライ太郎」の出穂期
穂した日とした。草丈,稈径は収穫時に各試験区10
が早生品種の「春一番」や「ハルミドリ」
,「キング
点調査し,倒伏割合は各試験区で地際部が収穫時に
ライムギ」より遅くなった。この原因について,今
直立の状態から30°
以上の倒伏を示した割合を目測
後詳細に検討する必要があるが,発芽時には「ライ
で調査した。収量調査は出穂期を目安に品種・系統
太郎」の欠株はほとんど見られなかったことから,
別に行い,収穫面積は各区2.4㎡とし,生草重量,
冬期間における凍害・乾燥害によって,枯死株が発
乾物率を調査して生草収量および乾物収量を算出し
生したと
た。茎数および出穂率は生サンプル500ℊ分の茎数
に,
「ラ イ 太 郎」を 父 本 と し て 育 成 さ れ た 系 統
および出穂茎数を測定し,
当たりに換算して算出
「SUR-1」も熟期が遅れたことから,
「SUR-1」に
した。なお,乾物率は80℃で試料を48時間通風乾燥
ついては準高冷地において越冬性の点から冬季の環
して測定・算出した。なお,播種後年内における株
境によって出穂が遅れ,市販の早生品種とほぼ同熟
立ちは,いずれの品種・系統も良好であった。越冬
期となり,さらに,乾物収量でやや劣る可能性が認
後の株立ちを含む越冬性の調査が実施出来なかった
められた。
えられた。また,関根ら の報告と同様
準高冷地において育成したライムギ系統の生産力検定
37
図2 「SUR-5」∼「SUR-8」の育成課程
草 丈 に つ い て,
「SUR-4」を 母 材 と し た「SUR
-5」,「 SUR-6」,「 SUR-7」,「 SUR-8」は「 SUR
「SUR-4」か ら 極 早 生,短 稈,多 茎 で 選 抜 し た
「SUR-5∼8」は全般に乾物収量が少なかった。
-1∼4」と比べ有意に低い値を示した。茎数につい
草丈と乾物収量の関係を図3に示した。草丈と乾
ては,育成系統の中で「SUR-2」
,「SUR-5」およ
物収量の間にはr=0.670の1%水準の有意な正の
び「SUR-7」で80000本/ 超え る 多 茎 を 示 し,市
相関が認められた。また,育成系統はいずれも「ラ
販の「ハルミドリ」
,
「キングライムギ」および「春
イ太郎」を除く市販品種とほぼ同一の回帰直線の左
一番」と有意差はなく,同じ極早生品種の「ライ太
下の範囲に分布し,草丈が低いほど乾物収量は低く
郎」に比 して有意に多茎であった。稈径について,
なった。しかし,同じ極早生の「ライ太郎」と比
育成系統は2.7∼3.7㎜の範囲で,市販の極早生およ
すると明らかに異なる分布と高い収量性を示した。
び早生品種並であったが,晩生の「春香」および
また,茎数と乾物収量の関係について見ると,茎数
「春一番」より有意に細かった。
と乾物収量の間の相関係数はr=0.417で有意な相
乾物収量について,育成系統と早生∼中晩生の市
関関係は認められなかった。
販品種を比 すると,育成系統は最も多収であった
倒伏程度については,育成系統はいずれも収穫時
「ハルミドリ」比で39∼65%であったが,同じ極早
において倒伏は認められなかった。稈径と倒伏程度
生 の 熟 期 標 準 品 種 の「ラ イ 太 郎」に 比 べ る と
の関係について見ると,1ⅿを超える草丈で,比
171∼282%多収であった。また,有意な差は認めら
的稈径の値が大きい市販品種の「春香」および「R
れ な い が,初 期 育 成 系 統 の「SUR-1∼4」と 比 べ
-007」で刈り取り時の倒伏が多かった。これは品種
信州大学農学部 AFC 報告
38
第13号 (2015)
表1 育成系統および市販品種の特性
草丈
稈径
月/日
月/日
%
㎝
㎜
SUR-1
SUR-2
5/1
5/6
0
88b
3.4cdef
4/27
4/30
0
86b
3.7fg
SUR-3
SUR-4
4/26
4/29
4/30
5/2
0
0
81b
77b
SUR-5
SUR-6
4/27
4/30
0
4/26
5/1
0
SUR-7
SUR-8
4/24
4/28
4/25
ライ太郎
品種・系統名
出穂始期
出穂期 倒伏
茎数
出穂茎率
本/
%
生草収量
乾物率
乾物収量
同左対
㎏/
%
㎏/
標比%
77137cd 37.2abc
361d
16.3ab
58.8de
283
83285cd 34.5abc
274c
18.7cd
51.0bcd
245
3.5def
3.3cdef
75745cd 45.8bcd
73523c 29.4ab
269c
219bc
19.7de
19.0cde
52.8cde
41.6bc
254
200
71a
3.1abcd
86392cd 37.2abc
199bc
19.5de
38.8bc
187
69a
2.7a
76716cd 36.6abc
181ab
19.4de
35.6b
171
0
72a
3.2bcde
85454cd 52.3cd
245bc
19.7de
48.1bcd
231
4/30
0
69a
3.0abc
79710cd 45.7bcd
181ab
20.6e
37.4bc
180
4/29
5/6
0
83b
2.8ab
42586b
106a
19.5de
20.8a
100
74577c
22.2a
春香
5/12
5/16
15
112d
4.1g
15.6a
83.4fg
401
4/30
5/4
4
99c
3.6ef
80.0e
90287cd 47.6bcd
534g
春一番
479efg
19.1cde
90.8g
437
キングライムギ
4/30
5/4
0
97c
3.5def
83225cd 45.2bcd
429def
18.2bcd
77.9fg
375
R-007
5/15
5/22
23
140e
5.2h
42262a
59.9d
397de
17.2abc
68.0ef
327
ハルミドリ
4/30
5/3
3
101c
3.4cdef 102374d
60.0d
495g
18.4cd
91.0g
438
注) :収穫時の値を示す。有意差検定はフィッシャーの LSD 法を使用し,異文字間で有意差あり(P<0.05)
ては早生∼晩生の多収系統における早生化の改良に
利用できると えられた。また,細茎であることや,
早生品種は晩生品種に比べると消化性に劣る との
報告もあることから,育成系統については消化性が
劣ることも推察されるため,今後は飼料成分につい
ての検討も必要であると えられた。
引用文献
1)有時直哉・春日重光・野宮
桂・石田時光・郷道
恵(2005)
. 準高冷地における早刈りライムギの選
抜の可能性. 北陸作物学会報. 40:116-118.
図3
2)後藤雄佐・中村
草丈と乾物収量の関係
市販品種
聡 2000. 作物
(畑作)第 章
麦 類 3, そ の 他 の 麦 類 全 国 農 業 改 良 普 及 協 会
育成系統
53-56.
特性でもあるが,「春香」や「R-007」は晩生品種
であり,収穫までに風雨にさらされる機会も多くな
ることが
3)細谷 肇・三井安麿・堀田正樹・高梨
勝(1998).
飼料成分から見たライムギ(Secale cereale L.)品
種の変異性評価. 日草誌 43⑷:466-473.
えられ,山上らの報告 と同様に,極早
4)仲谷侑子・春日重光・船越裕子・松本理絵(2006).
生種は,結果的にそのような機会を減らすことにな
ライムギ市販品種の特性評価と品種内変異につい
て. 北陸作物学会報. 41:122-124.
り,倒伏の発生が少なくなったと推察された。
今回の試験より,育成した8系統は「SUR-1」
を除き市販品種6品種と比
して出穂期が早く,
「SUR-2」
,
「SUR-5」および「SUR-7」で多茎の傾
向が認められ,さらに,
「ライ太郎」を除く市販品
種に比べ,草丈が有意に低くかった。これらは,極
5)関根 平・春日重光・上條佳郎・鈴木裕太・芹沢麻
衣子・中津川実里・西岡杏子・吉川 諒・岡部繭子
(2012)
. 北陸作物学会報. 47:97-99.
6)魚住 順
2005. 畜産第7巻飼料作物:基+658の
15.
7)山上ゆきの・春日重光・大倉一樹・北原みき・黒澤
早生・短稈・多茎を選抜の指標として選抜してきた
窓・野田健介・山本竜明・岡部繭子(2013)
. 準高
結果と推察された。そして,実用レベルを
冷地で育成した極早生飼料用ライムギ系統の特性評
とこれらの系統はさらに改良が必要であると
慮する
えら
れる。しかし,極早生・短稈・多茎の育種素材とし
価. 北陸作物学会報. 48:34-36.
準高冷地において育成したライムギ系統の生産力検定
Performance test of rye (
39
L.)
selected in the middle-cool climate and highland
Mizuka YAM ASHITA , Daisuke AOKI , M ai KITAHARA , Takaaki M ARUYAMA ,
Yoshihiro M ARUYAM A , Takeru HORIUCHI ,Mayuko OKABE ,
Taira SEKINE and Shigemitsu KASUGA
Faculty of Agriculture, Shinshu University, M inamiminowa, 399 -4598,
Chiba Research Station, SNOW BRAND SEED CO., LTD., Chiba-city, 263-0001
Summary
The evaluation test were carried out using eight extremely early rye lines (SUR-1∼8)bred in middle
cool-climate highland using commercial varieties from 2005 in our laboratory.The heading dates of SUR
-2∼7 were early compared with six commercial varieties.The height and dry matter yield of SUR-5∼8
were lower than SUR-1∼4. The stem number of SUR-2 , SUR-5 and SUR-7 were nearly equal to
commercial varieties HARUICHIBAN and KINGURAIMUGI . From these results, breeding lines
(SUR-1∼8)are not suitable for commercial variety,but are able to use for breeding material with early
heading, short culm and multi stem.
Key words:Extremely early maturity, Middle cool-climate highland, Multi stem, Short culm, Rye