工学部通信工学科 高周波通信デバイス研究室 高効率F級動作増幅器の実現に向けた CRLH高調波処理スタブ回路の提案 斉藤賢吾 (指導教員:田中愼一) モバイル端末の電池高寿命化や社会への影響が大きい無線インフラの消費電力削減が求められており、無線機で 消費電力の占める割合が大きい高出力増幅器の高効率化が重要となっている。本研究では、特異な電磁波特性 を有するメタマテリアルの回路的表現である右手/左手系複合(CRLH)線路を用いることで、理想的には超高効率 動作が期待されながら回路実装が難しかったF級増幅回路を容易に実現する方法を提案し、その原理を実証した。 背景 一般に、FET増幅器はドレインの電圧と電流の時間波形が重なると 電力が内部消費され、電力効率が低下する。F級動作の増幅器で はFETから負荷側を見込んだインピーダンス(Zin)を奇数倍波で∞、 偶数倍波でゼロにする高調波処理により電力消費がゼロになる。 FET出力側に高調波処理スタブを設けることで理想的なF級動作 を実現する方法が提案されている[1]が、多数のスタブを要していた。 解析評価結果 提案したCRLH高調波処理スタブ回路を試作した。負荷インピーダ ンスの周波数特性を評価した結果、奇数倍波で Z𝑖𝑛 = ∞、偶数 倍波で Z𝑖𝑛 = 0の条件が満たされ、基本波では(仮の)Z𝑜𝑝𝑡 = 50ΩがCRLHスタブの影響を受けていないことが確認された。 (a) 提案回路 (b) 従来回路(補償スタブなし) 試作した高調波処理スタブ回路 (a) 提案回路 (b) 従来回路 理想的にF級増幅動作を実現する方法 [1] 提案内容 従来の高調波処理スタブ回路が複雑になる理由は、線形な分散を 有するマイクロストリップ線路を使う場合、1本のスタブでは原則として 1つの高調波しか処理できないためである。 そこで、非線形な分散を有するCRLH線路をスタブに適用し分散を 制御する手法[2]により、1本のスタブのみで、基本波に影響を与 えることなく全高調波を短絡処理する回路設計方法を提案した。 負荷インピーダンスの周波数依存性 高調波処理スタブ回路を適用したGaAs PHEMT増幅器の大信 号シミュレーション解析を行った結果、ピーク付加電力効率が61% から76%まで向上することを確認した。ドレイン電圧の波形は理想 的な矩形に近くなっており、F級動作が得られていることを確認した。 (a) 提案高調波処理スタブ回路あり (b) 高調波処理スタブ回路なし ドレイン電流とドレイン電圧の時間波形(解析) まとめ スタブへのCRLH線路の適用と分散制御という独自の手法により、 新しいF級増幅回路の構成方法を提案し、原理を実証した。 参考文献 [1] K. Honjo, “A simple circuit synthesis method for microwave class-F ultrahigh-e ciency amplifiers with reactance-compensation circuits,” Solid State Electron., vol. 44, pp.1477-1482, 2000. CRLH線路およびマイクロストリップ線路の分散関係 [2] S. Tanaka, K. Mukaida, K. Takata, "Compact Stub Resonators with Enhanced Q-Factor Using Negative Order Resonance Modes of Non-Uniform CRLH Transmission Lines," IEICE Trans. Electron., vol.E98-C, no.3, 2015.
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