工学部通信工学科 高周波通信デバイス研究室 CRLH線路スタブ共振器の Xバンド低位相雑音発振器への応用 西澤宏樹・高田圭 (指導教員:田中愼一) 高性能なマイクロ波通信・レーダーシステムを支える発振器の低位相雑音化のためには高Q共振器が欠かせない。 一方、マイクロストリップ線路(MSL)型の共振器は回路の小型化に適しているもののQ値に限界がある。我々は右手 /左手系複合(CRLH)線路を適用したスタブ共振器でMSLの理論限界を超えるQ値が得られることを報告してきた。 本研究では、 CRLHスタブ共振器を用いた9GHz帯の低位相雑音発振器で良好な発振器特性を得ることができた。 [1] CRLHスタブ共振器の基本原理 マイクロストリップ線路(MSL)のスタブは線路分散が線形なため、ス タブ1本では実質的に1周波数しか制御できない。一方、CRLH 線路をスタブに適用すると、元々形状が非線形な分散をさらに変形 することで、スタブ1本で複数の周波数を独立に制御することが可 能になる。 パターンに依存することから電磁界解析でレイアウトを最適化した結 果、2GHzでの検討と同様、MSL共振器と比較し無負荷Qが約2 倍に向上することを確認した。 (a) CRLHスタブ共振器 (b) MSLスタブ共振器 スタブ共振器のレイアウト比較 無負荷Qの見積もり 発振器への応用 スタブ線路の分散特性の比較 CRLH線路の左手系領域での分散を水平に近づけると、2つの伝 送零点と通過点に相当する3周波数が互いに近接する。その結果、 負荷Qだけでなく無負荷Qも増大する。後者は群速度が零になる結 果であり、共振器の挿入損失増大を抑制する効果をもたらす。 群速度 𝜕𝛽 𝑣𝑔 = 𝜕𝜔 9GHz帯低位相雑音発振器を試作し、位相雑音や電力効率の共 振器特性に対する依存性を評価した。CRLH共振器を適用した場 合、 MSL共振器の場合と比較して負荷Qの向上と挿入損失の減 少を反映して、位相雑音が10dB、電力効率が約2倍改善した。 −1 → 0 無負荷Q 𝛽 𝑣𝑝 𝑄𝑢 = ∙ → ∞ 2𝛼 𝑣𝑔 試作した発振器 マイクロストリップ線路 共振器 スタブ共振器 なし 共振器 なし CRLH スタブ共振器 MSL スタブ共振器 CRLHスタブ共振器 発振器の評価結果 CRLHスタブ共振器 MSLスタブ共振器 Q値制御方法の比較(2GHz共振器の例) 共振器の電磁界シミュレーション設計 共振器を従来の2GHz[1]から9GHzに高周波化するため、CRLH 線路部のキャパシタを表面実装素子から櫛型キャパシタに置き換え るなど分布定数回路的な設計を導入した。共振器の損失は配線 まとめ 9GHz帯で動作するCRLHスタブ共振器を実現し、発振器に適用 した結果、位相雑音と電力効率の改善に寄与することを確認した。 参考文献 [1] S. Tanaka, K. Mukaida, K. Takata, "Compact Stub Resonators with Enhanced Q-Factor Using Negative Order Resonance Modes of Non-Uniform CRLH Transmission Lines," IEICE Trans. Electron., vol.E98-C, no.3, 2015. [2] 西澤ほか 電子情報通信学会マイクロ波研究会 2015.3.6 発表予定
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