奄美ブロック研修医勉強会 名瀬徳洲会病院 研修医2年目 橋本 拓 67歳女性:四肢脱力 【現病歴】ADL自立、主婦。 入院2日前夕方に自宅で突然両側下肢に力が 入らなくなって倒れた。電話まで手が届かず、 助けを呼べなかった。 入院当日息子が自宅訪問したところ、ベッドの 傍らで倒れているのを発見し、救急要請。失禁 あり。意識障害なし、頭痛なし、胸痛なし。 67歳女性:四肢脱力 【既往歴】(発症時期不明) #冠攣縮性狭心症 #2型糖尿病 #糖尿病性腎症第3B期 #糖尿病性網膜症 #糖尿病性多発神経炎 #高血圧 #両足変形性膝関節症/右人工骨頭置換術後 67歳女性:四肢脱力 【常用薬】 ・バイアスピリン100mg 1T分1朝 ・バルサルタン80mg 1T分1朝 ・ランソプラゾール15mg 1T分1朝 ・ヘルベッサー30mg 3T分3朝昼夕 ・マグラックス330mg 3T分3朝昼夕 ・メコバラミン500mg 3T分3朝昼夕 ・アンプラーグ100mg 3T分3朝昼夕 ・ピタバスタチンCa2mg 1T分1夕 ・キネックス50mg 3T分3朝昼夕 ランタス注ソロスター 朝14U、眠前10U ノボラピッド注フレックスペン 朝8U、昼10U、夕10U 【喫煙歴】10〜20本/日(20歳より) 【飲酒歴】なし 【身体所見】 67歳女性:四肢脱力 Vital)36.4℃ ,BP162/80,SpO2 98%,HR98bpm,RR15/min Gneral )good Con)JCSⅠ−2 日付のみ間違える。会話は普通に可能。 Eye)眼瞼結膜蒼白あり。眼球結膜黄染なし。 Throat)咽頭発赤なし Neck)頚部リンパ節触知なし、項部硬直なし Chest)肺胞呼吸音:左右差なし、低下なし。 副雑音聴取せず。心音整、Ⅲ、Ⅳ音、雑音なし Abd)膨隆、軟、圧痛なし、BS→ Ext)下腿浮腫なし、CRT延長なし、腋軽度乾燥 黒色便なし、尿失禁あり。 【神経所見】 【CNS】 瞳孔3mm/3mm 対光反射+/ー 顔面感覚:左右差なし 挺舌:左右差なく門歯超える 鼻唇溝:左右差なし 構音障害なし 【Motor】 MMT 上肢4/5 下肢4/4 Barre↓/→ Mingazzini↓/↓(片方ずつなら可能) 【Sensor】 温痛覚明らかな低下なし 【Cordination】 回内回外:両側スムーズ Tapping test:両側スムーズ FTN:両側スムーズ 【入院時検査所見】 TP 7.2 ALB 3.4 T-Bil 0.7 CPK 232 CK-MB 9 総コレステロール 452 中性脂肪 282 HDL-Cho 60 LDL-Chol 303 BUN 38.1 CRE 2.03 UA 6.3 Na 141 K 3.9 Cl 101 Glu 265 HbA1c 8.5 PT時間 10.8 PT-INR 1.03 BNP 46.0 【胸写】縦隔 8.2cm、異常陰影なし 【頭部CT】出血なし 【心電図】Sinus、軸変異なし、ST-T変化なし 【MRI(Diffusion)】 【MRI(ADC)】 【MRA】 【診断】 脳梗塞 これまでの自分・・・ • 抗血小板薬 • 点滴 • リハビリ • 転院 • 以上! ちょっと待て!ここはどこだ? フィジカルの国! 改めて診断 ・ラクナ梗塞? ・アテローム性脳梗塞? ・心原性脳梗塞? さて、どれでしょうか? 入院後経過 ホルター心電図:Sinus、Afなし。 PAC12拍/day、PVC1拍/day。 心エコー:Almost normal echo、asynergyなし 頸動脈エコー:不安定プラークなし 両側内頸動脈狭窄疑い 診断 #血行力学的多発性脳梗塞 不整脈なし。 MRAで脳血管の主幹動 脈に高度狭窄がみられ、 梗塞像も左右大脳に散在 していることから Hemodynamicな障害が生 じていると考えられる。 治療は、アルガトロバン、 バイアスピリンと十分な輸 液(2L〜3L/day)。 脳梗塞の分類 臨床カテゴリーによる分類 ・アテローム血栓性 ・心原性塞栓 ・ラクナ ・その他(BAD等) 発症機序による分類 ・血栓性 ・塞栓性 ・血行力学性 アテローム血栓性脳梗塞の発症機序は・・・ 血栓性、塞栓性、血行力学性 すべての機序で起こりうる!! 血行力学性脳梗塞 血行力学性脳梗塞 会話は? 入院後経過 MRIの画像上左右に散在する多発梗塞像がある。 →他に異常所見がありそう! 梗塞部位は、左右の頭頂葉を中心に前頭葉、後 頭葉まで広範囲に見られる。 麻痺以外に高次脳機能障害を評価してみよう! 高次脳機能評価 【高次機能:左】 共同偏視(−) 指パターン模写:正常 自発語:流暢 言葉数:正常 字性錯誤(−) 新造語(−) 会話のすれ違いなし 復唱:5文節まで可能 呼称:とけい→○ ボールペン→○ カギ→○ 洗濯ばさみ→○ ライト→○ 了解: 単一物品のpointing可 2物品の入れ替え可 Pointing span 2個/5個 3物品でspanで困惑 書字:名前→不可 つくつくぼうし→可 空が青い→不可 読字:可能 口部顔面失行(−) 観念運動失行(−) 左右失認あり 計算:2+3=5 7ー3=×、18+17=× 100ー7=× 記憶(即時): さくら、猫、電車可 記憶(interval後): すべて不可 高次脳機能評価 【高次機能:前】 【高次機能:右】 反射:把握反射あり 共同偏視:(−) 脅迫使用:なし 構成:Cube copy不可 Palmomental reflex:(+) 指パターン模写:可能 病態失認:(−) 半側空間無視:左無視あり Palmomental reflex 高次脳機能障害 手掌頤反射 【優位(左)半球障害】 ①了解 ②失算、失書 ③左右失認 ④記憶障害 【劣位(右)半球障害】 ①構成失行 ②半側空間無視 【前頭葉障害】 ①Palmomental reflex 了解 左右失認 現代リハビリテーション医学 金原出版より 病巣部位は? 手掌頤反射 了解 左右失認 Cube Copyの経時的変化 2/5 2/6 2/7 やった〜!! 2/20 2/9 2/14 2/17 3/4 2/19 入院後経過 • LDLコレステロールはピタバスタチンの他にゼ チーアの追加で303→83mg/dlまで改善。 • 血圧はバルサルタン80mg1Tで130/80以下。 • インスリン、内服を含む血糖コントロールで Hb1Ac8.5→7.5まで改善。 • 入院時歩行不能であるも、リハビリにより支 え歩きができるまで回復。 • 現在、自宅退院に向けてリハビリ中。 入院後経過 • LDLコレステロールはピタバスタチンの他にゼ チーアの追加で303→83mg/dlまで改善。 • 血圧はバルサルタン80mg1Tで130/80以下。 • インスリン、内服を含む血糖コントロールで Hb1Ac8.5→7.5まで改善。 • 入院時歩行不能であるも、リハビリにより支 え歩きができるまで回復。 • 現在、自宅退院に向けてリハビリ中。 結語 • 一見会話が正常であっても、高次脳機能が 障害されているケースを経験した。 • 「Cube copy」で回復していく様子が、目で見え る形で観察された一例を経験した。 • 奄美に来て良かった。 ご清聴ありがとうございました。 診 (参考)t-Pa 図1 来院からアルテプラーゼ投与開始までの流れ 院直後より病歴の聴 般内科的および神経 察が始まる。ここで ことは、脳卒中の診 る。アルテプラーゼ された患者で、脳卒 の疾 患が最終 診断 た 頻 度 は 1.4% ~ と報告されている 。いずれの報告でも、 以外 の患者へ 誤っ して も頭蓋内 出血 問題 は起こら なか されたが、不必要な 極力 避けるべ きで 。しばしば脳卒中と られる疾患として、 確認 されてい ない ん発作、中毒性疾患、 や肝 性脳症な どの 疾患、脳腫瘍、慢性 血腫、薬物中毒、脳 離性障害(ヒステリ アダムス・ストーク 、末梢性めまいなど られる。これらの疾 点を 当てて的 確な 聴取 や神経学 的検 急検査を行う。 卒中評価スケール 卒中の鑑別診断に 的検査が必須であるが、脳卒中の重症度を客観的に表現するには脳卒中スケールが有用である。 般的に用いられているのは National Institutes of Health stroke scale(NIHSS)で[81]、意識、 めんどうくさい・・・ 入院後は? 【治療開始後の神経学的評価】 ①投与開始〜1時間:15分毎 ②1〜7時間:30分毎 ③7〜24時間:1時間毎 【治療開始後の血圧モニタリング】 ①投与開始〜2時間:15分毎 ②2〜8時間:30分毎 ③8〜24時間:1時間毎 収縮期血圧>180mmHgまたは、 拡張期血圧>105mmHgを超えた場合、 積極的高圧療法の開始。 脳卒中ガイドライン2009より (参考)t-Pa 【適応】 ・発症から3〜4.5時間以内 ・18〜80歳まで。 ・少なくとも30分間で改善を認めない。 ・頭蓋内出血なし 【適応外】 ・3ヶ月以内の脳梗塞や頭部外傷の既往 ・14日以内の大手術 ・頭蓋内出血の既往 ・収縮期血圧が185以上 ・拡張期血圧が100以上 ・21日以内の消化管あるいは尿路出血 ・抗凝固薬の使用(INR>1.6) ・血小板<100,000/mm3 ・血糖異常(<50mg/dl,>400mg/dl) NIHSSやっていますか? 側頭葉 頭頂葉 後頭葉 NIHSSやっていますか? NIHSSやっていますか?
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