バイオガスシステムの費用便益と環境影響の評価 Evaluation of Cost

[企- 11- 3]
H25 農業農村工学会大会講演会講演要旨集
バイオガスシステムの費用便益と環境影響の評価
Evaluation of Cost-Benefit and Environmental Impacts in Biogas Systems
○岡庭良安 岡原弘明 中村真人 入江満美 李 玉友
Yoshiyasu Okaniwa,Hiroaki Okahara,Masato Nakamura,Mami Irie,Li Yu-You
1.はじめに
メタン発酵により、有機物はメタンガスに変換、安定化され、メタンガスを取り出した後には、
残さとしてメタン発酵消化液(以下、消化液という。)が残る。消化液中には、窒素・リン酸・カ
リウムなどの肥料成分が利用しやすい形で含まれており、消化液を液肥利用する取組みが進めば、
消化液の水処理経費が削減できると同時に、農地を有効に利用した循環型のメタン発酵の取組みが
推進されることになる。メタン発酵技術利用の付加価値化を目指し、費用対効果、CO2削減効果、
メタン菌叢の解析、消化液の植物病原菌に対する抗菌性を調査・検討した。
2.メタン発酵液肥の利用に関する経済性の検討
「バイオマス利活用施設の費用便益分析マニュアル(案)」を用いてメタン発酵施設建設の費用
対効果を検討した。この検討手法(セクター分析法と呼ぶ。)は、バイオマス利活用施設を整備す
るにあたり、メタン発酵施設を整備しない場合「なかりせば」と、整備した場合「ありせば」につ
いて、施設整備に関係する事業者(セクターと呼ぶ。)間の物質量と金銭の流れを整理し、事業の
有効性を判断しようとするもので、費用/便益の評価を投資効率方式により算出する。
(1) セクター分析法
セクター分析は、セクターごとに「ありせば」から「なかりせば」を差引いた純便益差(△NB)
から投資効率を算定する手法である。図1にセクターの設定例、図2に投資効率算定の手順を示す。
物質・金銭
環境
CO 2
環境負荷
エネルギー
効果
環境
物質・金銭
CO2削減
環境負荷低減
エネルギー
環境負荷
効果
CO2
環境負荷
CO 2
地域社会
地域社会
液肥
既存施設
(廃棄物施設)
生ごみ
電気
既存施設
(廃棄物施設)
排出者
(一般家庭
食品加工業者)
臭気削減
排出者
(一般家庭
食品加工業者)
メタン発酵施設
生ごみ
(処理料金)
生ごみ
(処理料金)
カカ
カカ
バイオマス施設がなかりせば
バイオマス施設がありせば
(With Out;W/O)
(With;W/)
図1 セクターの設定例
(2) 費用・便益の試算
社会的効果
SW
セクターとしては、原料の 社会的効果
SO
純便益
排出者、メタン発酵施設、既
1.個々のセクターでの純便益の
NBW
純便益
存処理施設、地域社会、環境
増加を算出する
NBO
の 5 つのセクターを設定し、
2.個々のセクターの純便益の増加
メタン発酵を行っている3施
を合計し、妥当投資額を算出する
設について、メタン発酵を行
3.総事業費を算出し、投資効率(B/C)
収入 支出
収入 支出
った場合と、焼却処理等の既
=妥当投資額/総事業費)を算出する
RO EO
RW EW
存の施設を新たに建設して処
※下付の記号「o」「w」は「なかりせば」「ありせば」を表す
なかりせば
ありせば
理を行う場合とを比較をした。
施設計画前
施設計画の試算
3施設の概要を以下に示す。
図2 投資効率の算定
地域環境資源センター
The Japan Association Rural Solutions for Environmental Conservation
and Resource Recycling(JARUS)
キーワード バイオガス,温室効果ガス,費用便益
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①豚ふん尿、食品廃棄物、し尿・浄化槽汚泥・集排汚泥等を原料とし、堆肥化と液肥利用を行う
メタン発酵施設 (計画処理量 22,800 t/年、総事業費 950,000 千円)
②し尿・浄化槽汚泥と生ごみを原料とし、液肥利用を行うメタン発酵施設 (計画処理量 12,834
t/年、 総事業費 637,660 千円)
③生ごみを原料とするメタン発酵施設 (計画処理量 16,334 t/年、総事業費 1,720,000 千円)
試算結果は表1のとおり、排出者における処理費用負担の削減、既存施設での処理費用の削減、
地域社会における堆肥・液肥利用やバイオガス発電による効果などにより、各セクターの合計とし
て、プラスの純便益差が得られた。また建設費との比較では、耐用年数 20 年間の場合、①と②の
施設で投資効率が 1 以上(投資額以上の便益が得られる)の結果が得られた。
表1
施設
①
②
③
純便益差総和
133,689 千円/年
50,904 千円/年
88,524 千円/年
生ごみ 1t あたりの温室効果ガス排出量
(kg-CO2eq./t)
3.温室効果ガスの排出削減効果
生ごみのメタン発酵を行
るケースとメタン発酵処理
排水処理するケースと液肥
スの排出量を算出し,消化
た。液肥を利用するケース
10km,15km,20km の 4
ースでは液肥利用以外のケ
4.メタン発酵消化液の菌
メタン発酵消化液には
ため、原料の異なる6種類
酵消化液の抗菌効果を調査
化槽汚泥,混合系(生ごみ
の消化液において様々な代
効果との相関は見出せなか
投資効率算出結果
妥当投資額
1,816,427 千円
691,637 千円
1,202,772 千円
施設建設費
950,000 千円
637,660 千円
1,722,000 千円
投資効率
1.91
1.08
0.70
っている③の施設をモデルとして、
バイオマスを焼却処理す
するケースに、更にメタン発酵処理するケースでは消化液を
利用するケースとに分け、それぞれのケースでの温室効果ガ
液の液肥利用による温室効果ガス排出量削減効果を検討し
では、メタン発酵施設から農地までの平均距離を 5km,
種類に変えて試算を行った。図3に示すとおり、液肥利用ケ
ースより温室効果ガス排出量が削減された。
叢解析および抗菌性の調査
植物病原菌に対する抗菌性や防虫性があるといわれる。この
の消化液について菌叢を解析し、微生物相の違いとメタン発
した。消化液の原料は、生ごみ,牛ふん,豚ふん,し尿・浄
と豚ふん),下水汚泥の 6 種類である。結果として、すべて
謝能力を有する複雑な微生物群集構造を確認できたが抗菌
った。
図3 温室効果ガス排出量比較
46
しかし、シャーレ上で行った 120 正味の温室効果
11
8.2
5.4
2.7
ガス排出量
対峙培養試験では、メタン発酵液
69
46
(kg-CO2eq./t)
80 を塗布した部分には、豚ふん尿の
液肥利用
メタン発酵液を用いた一部病原
40 排水処理
菌に対する結果を除き、イネいも
0 ち病,コムギ赤かび病,トマト輪
メタン発酵
紋病,ホウレンソウ萎凋病,コマ ‐40 焼却
ツナ軟腐病,コマツナ炭疽病,シ
生ごみ収集
‐80 ュンギク炭疽病,シュンギク葉枯
焼却(発電による削減分)
病の病原菌が繁殖しないという ‐120 メタン発酵(発電による削減分)
化学肥料代替による削減
興味深い培養試験結果が得られ
た。
化学肥料代替による削減
メタン発酵(発電による削減分)
5.まとめと今後の課題
経済性の改善、温室効果ガスの
削減についてメタン発酵技術を導入するプラスの効果が示された。また、消化液の抗菌作用につい
ても興味深い結果が得られ、メタン発酵液の施用効果として更なる実証データ取得が待たれる。メ
タン発酵施設においては、経済効果や液肥利用に伴う CO2 削減効果等の付加価値が認められ、循
環型社会形成上の有意技術として活用されることが期待される。
(引用文献)岡原ら;メタン発酵消化液の液肥利用に関する経済的、技術的な側面からの調査検討
結果について,季刊 JARUS,No.109,pp.21-30(2012)
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