<特殊公務災害>被災で死亡47人の非正規職員 補償対象外

毎日新聞
15. 4.18 特殊公務災害 非正規
<特殊公務災害>被災で死亡47人の非正規職員 補償対象外
東日本大震災の被災自治体で、正規職員と同様に従事しながら、非正規職員
であるため「特殊公務災害」の認定を受けられず、死亡時の遺族補償金に最大
1.5倍の格差が生じている。制度の前提として、非正規職員を「危険業務」
に従事させないことになっているためだが、実際には正規職員と同じように災
害対応を求められた職員は多い。緊急時の対応として、今後の大規模災害時に
非正規職員をどのように対応させるべきかの検討を含め、課題となっている。
特殊公務災害は地方公務員災害補償法(地公災法)に基づき、これまで警察
官や消防士ら、業務上の危険性が高い職員にしか認定されていなかった。しか
し、震災後の2014年に、認定要件として「生命、身体に高度な危険が予測
される状況での職務従事」
「天災など人命救助、その他の被害の防御」が加えら
れ、東日本大震災で被災した一般職員にも対象が拡大された。岩手、宮城、福
島各県の地方公務員災害補償基金支部によると、今年3月までに計184人が
特殊公務災害に認定されたが、いずれも正規職員で、死亡した47人の非正規
職員は通常の「公務災害」にとどまっている。
非常勤職員ら非正規職員の公務災害は、地公災法で各自治体の条例で定める
としているが、旧自治省が1967年に示した「準則」に基づいた全国一律の
条例になっており、
「特殊公務災害」の規定がない。震災時には正規職員と一緒
に役所で災害対応しているうち、建物ごと津波にのまれて死亡したケースが多
かった。
総務省安全厚生推進室は「非正規職員は役所内の事務など、生命の危険がな
い仕事しか任せないとの考えが前提にある。震災のような事態は想定していな
かった」としている。
総務省によると、自治体の全国の非正規職員は2012年で約60万人に上
り、05年より3割増えている。
被災者の災害補償に詳しい岩手弁護士会の佐々木良博弁護士は「地公災法上、
補償制度は正規、非正規で均衡を失してはならないと規定している。南海トラ
フ地震など将来の津波災害に備えるためにも、国は指導を徹底し、自治体も自
ら条例改正すべきだ」と指摘する。【安藤いく子】
◇特殊公務災害
1972年の「あさま山荘事件」で警察官2人が死亡したのをきっかけに同年
設けられた制度。地方公務員が危険性が高い業務に就いている時に死傷したと
認定されると、公務災害の最大1.5倍となる補償金が、自治体の負担金でつ
くる「地方公務員災害補償基金」(本部・東京) から遺族らに給付される。
毎日新聞
15.4.19 特殊公務災害
<特殊公務災害>震災から1500日
やりきれない補償格差
大勢が犠牲になった市役所別館跡で花を手向ける非正規職員の遺族ら=岩手県陸前高田市で、上野和雄さ
ん提供
東日本大震災の被災自治体で、正規職員と同様に従事しながら、非正規職員
であるため「特殊公務災害」の認定を受けられず、死亡時の遺族補償金に最大
1.5倍の格差が生じている。
「同じ職場で同じ仕事をして、命を落としたのに」。東日本大震災の被災地の自
治体で、
「正規」と「非正規」の職員の災害補償に格差が生じている。職員11
1人が犠牲になった岩手県陸前高田市は、正規職員62人が「特殊公務災害」
に認定されたが、非常勤などの非正規職員44人は通常の「公務災害」にとど
まる。震災発生から18日で1500日。遺族はやりきれない思いを抱く。
非常勤で市教育委員会に採用され、3年目だった戸羽杏(あんず)さん(当
時23歳)を亡くした母の初枝さん(53)は、今も悲しみが癒えない。
3人きょうだいの長女で、震災のあった3月11日は誕生日。発生時も市役
所向かいの市教委事務局が入る3階建てビルにおり、正規職員と一緒に市民の
避難誘導の連絡をしていたところを津波に襲われた。
「公務災害」の認定を受けたが、遺族補償金が最大1.5倍になる「特殊公
務災害」の申請については、市幹部から「制度が違う」と言われ、認められな
かったという。
「だったら、地震の後で自宅に帰せば良かった。娘がいなくても
人は足りていたのではないか」。初枝さんの疑念は消えない。
職員仲間の話によると、揺れがあった直後には「年老いた母が心配」と持ち
場を離れて助かった非正規職員もいたという。仮に戸羽さんに仕事を任せなけ
ればならなかったとしても、浸水しなかった自宅近くの公民館で対応してもら
うなどの別の選択もあったのではないかとも考える。
「娘は自身の身を守る行動
より、災害対応や避難誘導を優先した。上司にも留め置かれ、制度が違うでは
浮かばれない」と涙を流す。
臨時職員として震災10日前に採用された上野公子(こうこ)さん(当時2
6歳)を亡くした元郵便局長の父和雄さん(63)も「上司が勤務を解除すべ
きだったのではないか」と憤る。
公子さんは当時、海に近い市営プールで受付係をしていた。自宅方向に徒歩
約10分で上れる高台があったが、災害対応のため上司らの指示で向かった市
役所前の事務所で津波にのまれたという。
震災2日前にあった地震で津波警報が出た際にも、公子さんは市役所前の事
務所に集められた。だが、
「警報解除まで、時間つぶしで野球大会のプラカード
作りをさせられていただけだった」といい、
「今回も帰せるはずだった」と和雄
さんは話す。
市が昨夏まとめた震災対応の検証報告書では、職員の被害が拡大した要因を
「危険を感じながらも、災害対応や市民の避難誘導に備えて待機を続けた」と
総括した。しかし、非正規職員の特殊公務災害については全国一律で条例化さ
れていることもあり、市の担当者は「心情的には分かるが、なすすべがない」
と話す。【根本太一】