講師: 工藤 成史 KUDO Seishi 題目: トータルええかげんを目指して

東北大学 工学研究科・医学系研究科 『工学と生命の倫理』・『生命倫理』
Tohoku University Ethics of Engineering and Life / Life Ethics
2015 年度 第1回(4 月 9 日)
講師: 工藤 成史 KUDO Seishi
題目: トータルええかげんを目指して
Toward being satisfactory in total
<概要・Summary> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
本講義(科目全体*)の趣旨は研究・開発の健全性を保ち、社会の信頼を得るために必要な
規範である研究倫理を学び、またそれをそれらの倫理、規範の正否を判断する能力を養うこ
とである。近年の研究倫理を問われる問題として小保方氏の論文ねつ造問題を初めとして、
東京大学、東北大学といった大学の研究機関でもさまざまな事例がある。本講義では広い視
野で未来を考えるための機会を提供することを重視しており、そのため様々な分野の講師を
呼び、講演・討論を行う。ここで講師の方々はご自身の考えを元に衝撃的かつ偏心的にみえ
る考えを述べるかもしれない。そこに自分の考えをぶつけていくことも本講義で非常に重要
なこととなる。
*授業世話人が追加
2.
The lecture started at some misconduct behaviors in university and research field, and the
ways to handle research misconduct, to tell us to obey the ethics rules and need to think
more about research ethics especially in our own research field. And then talked about the
theory of satisfactory in total. Although efficiency is important especially in engineering,
sometimes increasing efficiency is not always efficient. The example of bacteria’s moving
seems to be inefficient but in totally, the inefficiency will finally lead to a higher efficient. That
is satisfactory in total, we should not get stuck to the local best.
3.
(ガイダンス)本講義は工学者が守るべき規範としての倫理に関し,工学や医療,福祉など
幅広い分野からの講演を通じて学ぶ.工学・医学分野のもつ潜在的な影響力の大きさを理解
し,相応の倫理規範を身に着けて物事の可否を判断できる力を養うことを目指す.
(講義)物理・工学分野における「効率」は,系に供給されたエネルギーから得られた有効
仕事量等を指す.工学においてはこの「効率」の最大化を追求するが,生物のシステム(運
動機能や走性などにおける戦略)では最大効率ではなくグローバルベストの探索を目標とし
ているとみられる.これを「トータルええかげん」という言葉でとらえ,自然界という複雑
系を生き抜く生物の戦略を参考に,単一の価値基準にとらわれない考え方を見直した.
4.
工学の世界ではこれまで少しでもエネルギーを取り出そうと効率を重視してきた。しかし世
の中にはバクテリアのように推進効率の悪そうな行動をする生物もいる。これはバクテリア
にとって効率的に動くことが最重要なわけではないからである。バクテリアは試行錯誤型行
動を行い、これによってローカルベストではなく、グローバルベストを探すことができてい
る。つまり、バクテリアの行動から考えると、我々人間も効率ばかり追求するのではなく、
少しええかげんになって考えることで、ローカルベストに捕らわれずグローバルベストに近
づくことができるのではないか。
<意見・Opinion> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
本講義で工藤先生がおっしゃっていたように、本当に私たち工学系の人間はいつも効率ばか
りを追求してきたように思う。すべての生物が効率を重視しているとは思っていなかったが、
バクテリアの推進効率の悪さには驚かされた。しかし、その効率の悪い行動が結局はグロー
バルベストにつながっているのだから、よく考えられているなと感心させられた。私たち人
間もバクテリアのようにもう少し「ええかげん」に物事をとらえることで、ローカルベスト
から抜け出し、新しい発見ができる気がする。本講義はこれから一研究者としてやっていく
私にとって、ローカルベストに捕らわれないという大切な考え方を教えてくれ、非常にため
になるものであった。
2.
STAP 細胞の論文問題が話題になったのは、ちょうど私が研究室に配属されたときでした。
その時、私はワイドショーの視聴者として、このニュースを見ていたことを今でも覚えてい
ます。確かに、学部の 4 年生としてのたった 1 年間の研究の中でさえ、思い通りにいかな
いことは多くあり、都合のいい結果に魅力を感じることもありました。しかし、それだけで
なく、自分たちの研究は多くの先行研究の上に成り立っていることを知り、先行研究の正誤
が後世に与える影響の大きさを知ることで、この論文問題の重大さがわかるようになった気
がします。バクテリアのように、非効率的でもより良い答えを求めて検証し続けていれば、
この論文問題も起こらなかったのかもしれません。
3.
For me, the most impressive part is the first part: Ethics of Research. Nowadays, the
misconduct in research have become a very serious problem, fake data, fake images in
papers is very normal. In China, research misconduct is much serious in Japan. To satisfied
the numbers of the paper published which required by the university, many researchers
forced to make fake data, publish some low quality paper, and even in college, some
students hire some people to write their graduation thesis. Although the government have
make many guideline to handle research misconduct, those cases are still happening.
We all know, the financial support of many researches is from the tax, research misconduct
means the waste of money which come from normal people who work hard to satisfied their
social duty. So the research misconduct is unforgivable, and very harmful for researcher to
earn the social trust.
As a new researcher in Tohoku university, I will follow the rules, and make come real
contribution to the society.
4.
今回の授業では「トータルええかげん」がテーマであったが,私なりの「トータルええかげ
んの」の解釈は,一つの物事や概念に固執せず,広い視野をもち,複数の観点から柔軟に考
えることである.例えば,研究で行き詰まったときに,「トータルええかげん」という考え
方ができれば,発想を転換し,それを乗り越えて大きなブレークスルーにたどり着けるので
はないかと思う.ただし,
「トータルええかげん」を実現するためには,幅広い知識と見識
が必要であり,そのためには,多くの学問を学び,それに精通する人の意見を聞くことが大
事であると感じる.その一歩として,「トータルええかげん」を意識しながら,今後のこの
講義に臨んでいこうと思う.
5.
私は自分のことをええかげんな人間であると思う。何か一つの目標を目指す時に、その目標
よりもそこを目指す過程を楽しもうという考えで、効率などはあまり考えずに今まで生きて
きた。その生き方が正しかったかどうかはわからない。だが今回の授業で自分の生き方が肯
定されたようでとても気分がよかった。私の今やるべきことは、この東北大学で過ごす 2
年間で規定数以上の単位を取り、研究を進めて修士論文を書き、希望の会社に就職すること
である。おそらくこの 2 年間は今までにないくらい苦労することが多くあるだろう。だがあ
まり深く考えず、今までと同じように道草を楽しもうというええかげん精神でこの 2 年間を
過ごし、充実した日々が過ごせたらいいなと思う。
6.
人として誠実に真摯に取り組むことが大切であると感じた。先の理化学研究所の不正にして
も本来世のため人のためとして取り組んできたはずの研究が私欲にまみれ本来の目的を失
いあのような結果になったことは非常に残念であると思う。私達は、こと社会においては常
にもっと良くしたいという願望にかられている。であるからこそ、しっかりとした倫理観を
持ち続けなければ先の事例のような事が私達からも起こりうるだろう。それを防ぐためには、
一見無駄に見えるかもしれない行動、勉強、実験が巡り巡って有益なものに育つことを頭の
片隅において置く必要があると感じた。2 年の研究生活の中で躓くこともあるだろうが、
「え
えかげんな~~」を頭の隅に置きつつ種々の課題にとりくんで行きたいと思う。
7.
STAP 細胞や東京大学における論文不正問題は,当時センセーショナルに報道され,強く印
象に残っている.結果だけ見ると,倫理規範を欠いたものであったと言う他ないが,しかし
その言葉は非常に抽象的なものである.絶対的な定義はないため,これらの事件を経てなお,
主観的判断に基づいて行動するしかない.よって本講座でも倫理規範の定義の確定を目的と
するのではなく,過去の知識・経験を学び様々な観点から物事を捉えることで,自ら判断を
下す際の判断要素を得たい.それがこれらの事件から得た教訓となり,対処療法ながら効果
的な方法であると考えている.
8.
ビブリオ菌のお話は非常に興味深い話であった。自分は工学部に所属しており、生物を観測
研究するということは行っていないため、生物に対する研究をどのように行っているのかに
興味があった。以下、自分がこの講義に対して意見、疑問を感じたところを述べたいと思う。
自分はこの講義の内容を完全には理解できなかったが大まかにいうと「世の中多少ええ加減
にやった方がうまくいく」ということを主張していたのかと思う。自分はこの分野に関して
ほとんど知識がなく的外れ疑問を述べるかと思います。ビブリオ菌の研究に対して二つの疑
問があります。先生がこのビブリオ菌の研究を専門にされているとは思えないが、ビブリオ
菌の弁の推進効率を求めることやビブリオ菌が入っている水槽にビブリオ菌の嫌いな物質
を入れると嫌がって逃げていくということを観測することがどう世の中の役に立つのかと
疑問に感じた。もう一つはたくさんのバクテリアが存在する中どうして「ビブリオ菌」を選
んだのかということです。
*講師からのコメント:このレポートを書いた人は意外に思われるかもしれませんが、
私はバクテリアの運動や走化性を研究テーマの一つにしています。ビブリオ菌を運動の
解析に使っている理由は、べん毛が 1 本しかないのでモデルを立てやすいからです。で
きるだけ単純なものから調べたり作ったりするというのは、研究の世界では常道ですよ
ね。私たちの研究の狙い目は、人間が作る機械が微小化していったときの課題を先取り
しようという辺りにありますが、実用に結びつくにはまだ時間が掛かりそうです。こん
な時、私を勇気づけてくれるのは、ファラデーの次のような逸話です。彼がコイルの間
に磁石を出し入れしながら電磁誘導の実験をするのを見て、あるご婦人が尋ねました。
“そのようなことをして何の役に立つのですか?”それに対してファラデーは、
“奥様、
生まれたばかりの赤ん坊が何の役に立ちますか?”と答えたそうです。私たちの赤ん坊
がどこまで育つか、分かりませんが。
9.
I think it is a very nice idea to teach students, or new researchers, the ethics of research and
engineering. Because, many people are more of a victim in these kind of issues than a
criminal. And this is mostly caused because of the lack of knowledge about these kind of
manners. Therefore I believe this is a very useful course all together. As for being
satisfactory in total, I believe it is an almost impossible to achieve state. Even if mankind
were to achieve %100 percent efficiency, the idea of more than a %100 percent efficiency
would arise and people would still not be satisfied with what they have. This is because all in
all humans are a greedy species. I believe most that can be achieved is being satisfactory in
total for a short period of time. But I do find the idea of calculating the efficiency of a bacteria
interesting. But even more important thing is, that even though the efficiency is as small as
2.5%, it is actually a quite a large number when compared to maximum possibly attainable
efficiency, which is 2.8%. This normalization was very important in my opinion. But in the end,
what we can learn from bacteria's inefficient seeming way of motion is actually more efficient
in many different fields, such as searching for a global best.
10. 今回のトータルええかげんについての授業で、グローバルベスト探索の高等戦略を初めて耳
にし、非常に感動しました。バクテリアの試行錯誤型行動や山々の絵からグローバルベスト
探索の意味をよく理解できたと思います。一つの事柄についてのみ効率を上げても、それが
全体的に見て、一番効率の良い方法であるとは限らないと解釈しました。今取り組んでいる
自分の研究は先輩の実験方法を引き継ぐ形で行っているのですが、引き継いだ実験方法を過
信し過ぎず、どういった経緯でその実験方法に行きついたのかを理解した上で、他の方法に
も活路が見いだせないか論文などで知識を集める努力は怠らないようにしたいと思います。