講師:浅井 篤 ASAI Atsushi 題目: 医学研究と

東北大学 工学研究科・医学系研究科 『工学と生命の倫理』・『生命倫理』
Tohoku University Ethics of Engineering and Life / Life Ethics
2015 年度 第5回(5 月 20 日)
講師:浅井
篤 ASAI Atsushi
題目: 医学研究と(先端医療)の倫理
Research Ethics
<概要・Summary> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
医学研究と倫理ということで、タスキギー梅毒事件、ナチスドイツの人体実験、731 部隊
の生物兵器の話しなどの倫理原則にかかわる話から、ねつ造、改ざん、盗用といういわゆる
不正行為に関わる話までされていた。倫理原則は、人に関わる研究を行っていれば、全て当
てはまるとのことで、自立尊重、利害のバランスなどが関わってくるとのことであった。
2.
Bioethics is the systematic study of the moral dimensions since the medical research
always concentrate on the living beings. High-tech medical treatment owns so much
features that the ethical problems comes even more serious than other research dominants.
The history of medical research has already shown us the dark side of high-tech medical
research. Between the World War I and the World War II, large-scale human trials had been
operated, and even after the World II, illegal or immoral human trial is still unsolved. In
recent eras, research ethics’ guidelines have been proposed, researchers must follow the
principles and ask themselves what exactly the rules they should obey.
3.
近年医療技術、特に遺伝子技術の急速な進歩で、それに対する倫理的な問題が度々話題に
なる。例えば脳死臓器移植、遺伝子診断、クローン技術などである。これらに限らず医学の
進歩に対して倫理という問題は昔から存在しており、第二次世界大戦中に行われた日本やナ
チスドイツによる非道な人体実験への反省から、1948 年にジュネーブ宣言が採択された。
しかしその後も度々明らかになる人体実験まがいの研究や、さらに高度に発達していく遺伝
子技術の問題など、医療と倫理の問題は尽きない。医療の発達には臨床試験がつきものであ
るが、この安全に行われるはずの臨床試験で事故が生じた例もある。医療の発達は人の幸せ
のためにあるべきものであり、人を不幸してしまうことがないよう正義と公正さを常に持っ
ておく必要がある。
<Question>
(受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
研究目的で、ヒトとヒト以外の動物を融合させたり、集合させたりすることは適切な行為か?
Consider whether it is responsible conduct of research or not to fuse or assemble human and
non-human animal cells or genes.
1.
どちらかに断定することはできないが、私は選ぶとすれば不適切な行為であると思う。今
までできなかった治療につながるかもしれない。しかし、この問いは研究者の好奇心や研究
成果を出したいという欲が現れているような気がする。この研究が進むと、倫理的問題が
次々と出てきてしまうと思う。手を出してはいけない領域のような気がするので私個人の意
見ではこの行為は適切でないと思う。
2.
再生医療の研究において,ヒトの iPS 細胞を用いて,ブタなどの大型動物の体内にヒトの
臓器を再現するアイディアがあり,これが実現すれば,従来実現できなかった移植可能な臓
器作りが可能になると聞いた.一方で,ヒトと異種動物を融合させるという倫理的問題や異
種移植による感染症などの技術的問題等,乗り越えるべき課題は多いという./問題が解決
され実用化できれば,治療が可能になる病気もあると聞き,ヒトや社会のためになるこの研
究は倫理的に善しとされるように思う.しかし,動物実験に抵抗がある人もおり,臨床研究
では人体実験も必要となる可能性があることを考えると,倫理的に悪とされる部分もあるよ
うに思える./この研究は,最終的にヒトや社会にフィードバックされるものであり,社会
からの支持を得られていない現状において,私は適切な行為ではないと思う.
3.
About research of assemble human and non-human animal cells or genes,I think this is a
necessary process of medical science development.The differences of human and
non-human are just theoretic conceptions,If view the ethics problem about this issue more
widely,human and non-human creatures have the same origin:the nature.So in order to
improve the life quality,research about assemble human and non-human animal cells or
genes is acceptable.But there is some principles that researchers have to follow:the
research plan are valid and reasonable,human subjects are adequately protected,the
benefit-risk ratio is acceptable,the proposed research is sufficiently important and protective
of human subjects in light of the local patient population and the informed consent process
and confidentiality protections are both appropriate and adequate.And the most important
thing I have to mention:the justice ,no discrimination about the difference of the kinds,every
natural creature should be treated equally,the dignity of life should be respected,and that is
the ultimate purpose of science.
4.
研究目的で,ヒトとヒト以外のの動物を融合させたり,集合させたりすることは適切な行
為であるかについて議論する.賛成意見としては、例えば,豚の体内において人間の内蔵を
作成し、移植することにより、内蔵移植待ちで無くなる患者を減らすことができる.一方で,
豚の体内で内蔵を移植することでで,内臓の機能が変化したり、あるいは未知の感染症を引
き起こす可能性がある.また豚の内臓を移植されたヒトはヒトであるのかという問題がある.
体の半分以上を他の動物から移植した場合や、反対に動物に対し人間の内臓を移植した場合
に、「ヒト」と他の動物との線引が困難になる可能性が高い.以上より,今回の議題は非常
に難しい問題であるため,賛否つけ難いので,医療の発展のために法律で制約をしつつ、問
題が発生するたびに法律を改正するのが良いと思われる.
5.
どこまでを生命とするかは価値観によって分かれると思うが,そもそも世界は平等ではな
く,人間も個体差が大きい.身体に病気や障害を抱えた人々が存在し,そしてその人々が苦
しんでいるのならば,その人々を救うために臓器や手足などを作り上げることは視力の悪い
人がメガネを作るほどとは言わないが,レーシックをすることくらい当然になってほしい.
そして倫理的に許されないことも経済的に大きな利益があれば,なされてしまうのがこの世
界である.血統書付きの犬を売る為,数多の犬が無理やり交尾させられ,売れなければ殺処
分されるペット業界も倫理観があるとは到底言えない.どうせ裏の市場で臓器売買などが行
われてしまう世の中である.見殺しにする善より救う悪.まず定義があいまいな生命より,
隣の病人,障がい者を救うべきだ.よって,その用いた研究成果を被験者に使うか否かはさ
ておき,研究目的で、ヒトとヒト以外の動物を融合させたり、集合させたりすることは適切
な行為であると考える.
6.
今回初めて動物性集合胚について知った.動物胚の一部にヒトの要素を持つことが実際に
可能であるのかと疑問に思った.だが,保守的であると思われる文部科学省が動物性集合胚
の作成を許可していることを踏まえると,成功する見込みがあるではないかと感じてしまう.
科学的進歩の観点からみると,動物性集合胚は非常に興味深いことだと思うが,やはりヒト
とヒト以外の動物を集合させることは,自分の家族を研究に参加させることを考えると,賛
成できない.誰もやったことのないことをしてみたいと研究者が考えることは理解できるが,
もう少し検討するべきだと思う.
7.
In my personal opinion, as long as people get the consent of the research subject people,
they can do whatever they want. In the case of animals, it is more complicated since we can
not communicate with them directly, but still if like in the case of mice, the animals are bred
specifically for the purpose of the experiment, then I believe it would be ok to conduct
research that does not inflict pain and make them suffer.
8.
豚の中で膵臓を作って人にその膵臓を移植することが副作用なくできるとしたら,また膵
臓に限らず他の臓器でもできるとしたら,講義の最初にもあったように臓器提供を待ってい
る間に病状が手遅れになってしまうということがなくなると考えられるので,医学的には大
きな進歩になると思う.しかし,自分がヒト以外の中で作られた臓器を移植することはとて
も抵抗があると思う.
9.
研究目的で、ヒトとヒト以外の動物を融合させたり、集合させたりすることは適切な行為
か?それに対する自分の答えは”Yes”である。/実行する際の問題点として、人間への感
染の心配があること、それから動物の意思を確認できないこと等が考えられ、つまり倫理的
問題が常に付きまとう。/そもそも倫理的問題とは、物事を聞いた瞬間に「かわいそう」や
「残酷」
、その他もやもやした感情が生じる問題に関してそう呼んでいる印象がある。/し
っかりとした研究目的、それから被験者の合意があれば、問題ないと考える。人類は人体実
験、動物実験を経て技術を進化させてきた歴史があることを考えれば多少の犠牲は仕方がな
いことだと思う。
10. 私はヒトとヒト以外の動物を融合させたり、集合させたりする研究を行うことに賛成である.
なぜならば,ヒトとヒト以外の動物を融合させた時にどうなるのかは全くの未知数である以
上,この研究によって我々に大きな利益がもたらされる可能性があるためである.勿論,こ
ういった研究を行うに当たっては,実際にできた細胞などに細心の注意を払う必要があるが,
このことはこれまでに行われてきた医療以外の様々な研究にも当てはまることである.また,
このような研究によってヒトと動物の境界が曖昧になる可能性が指摘されているが、今後情
報技術の進展に伴い SF 作品に登場するようなヒトに近い思考をする人工知能が生まれ,次
第にヒトとそれ以外の境界は曖昧になっていくのではないかと私は考えている.そういった
点を踏まえると,ヒトとヒト以外の動物を融合させたり、集合させたりする研究を行っても
よいのではないだろうか.
11. 適切であると思う。人類は人類自身が生み出した災害や環境破壊によって文明の衰退へと歩
みかねない転換点にいると考えている。今人類に必要なのはあらゆる可能性への挑戦であり、
それを適切な基準のもとで管理して研究することである。もし、これを不適切と断定して封
じてしまったとしても、必ず違法な状態で研究を水面下で続行する組織が出てくるであろう。
管理下に置くことによって、そのような研究の暴走を抑えることができ、ターニングポイン
トで議論できる状況をうまく作り出せると考えている。
12. ヒトとヒト以外の動物の融合や集合は不適切である。ただし、感染の可能性などの不安要素
はこれを不適切とする本質的原因ではない。なぜなら、たとえ感染の可能性をゼロにできた
としても、適切な行為と見なすわけではないからだ。不適切とする原因は私が「不快」だか
らであり、人類の同一性の崩壊が不安な人間もこれに含まれる。例えば、傷害行為は不適切
な行為である。加害者が罰則を受ける法律が生まれた根本的な原因は、傷害行為が被害者に
とって「不快」だからである。人間の行動は自然に湧き出す「不快」を避けようとするもの
である。私は、人間には社会が急激に変化することを拒む本能があるのではと思っている。
本課題はまさにそれで、技術を求める欲求と拒む本能が拮抗して、ヒトの臓器を豚の体内で
生成するのは良いが、ヒトと動物を融合させたキメラはダメな人が多いのではないか。少し
ずつ倫理は変化し、未来では同意さえあれば、動物の体の一部を何の躊躇もなく身に付ける
ヒトばかりになるだろう。だから、そういった未来が現在生きている私にとっては異質すぎ、
「不快」であるため、臓器くらい必要な人のために用意してやればいいじゃないかという気
持ちもあるが、この問題には敢えて不適切だという解答を出す。
<意見・Opinion> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
浅井先生の講義において、過去(主に第二次世界大戦前)に世界各国で人体実験、細菌兵
器実験などの現代では考えられないような非人道的なことが盛んに行われていたという説
明をうけ、強い衝撃を覚えた。また、最近でも患者の骨髄液を無断で採取したという事例も
報告されているという。医療の進歩のためには“実験”は必要であり、今でも治験,臨床実
験という形で日々行われているが、それは「説明と同意」、
「選択の自由」など「被験者の権
利」があってこそのものである。そういう意味では第二次世界大戦中の残虐な人体実験も、
つい最近の無断での骨髄液採取もやっていることの本質は同じである。事の大小は関係なく、
「被験者には選ぶ権利がある」という意識を全ての医療に携わる人にもってほしいと感じた。
2.
近年、医療の目まぐるしい進歩がなされている背景で、こういった医学研究には様々な倫
理的な問題が存在することを知れてよかった。/また、臨床実験などの研究参加者を必要と
する実験や、研究不正等、今回テーマとなっていた医学研究についての倫理だけではなく、
我々機械系の研究者、学生にも通ずる倫理観であると感じた。/医学研究従事者に関わらず
研究者は皆、研究に対して誠実であるべきである。
3.
今回の授業では,医学研究の素晴らしさと危うさを両方知り倫理について考えるきっかけ
となった.脳死状態,子宮移植,体外受精など様々な状態で出産が可能となり,多くの命が
誕生し,また病気を抱えた人々にとって大きな希望にもなるだろうと感じた.それに伴い法
律や価値観の分野も必然的に変革を迫られる.医学研究の分野では歴史的に多くの非人道的
研究が行われてきた歴史がある.日本でも捕虜を使い様々な人体実験を行った歴史があり,
倫理問題は議論し考えなければ簡単に行き過ぎてしまう危うさを持っている.医療関係者は
もちろんであるが,最先端医療による恩恵を受けている以上,それ以外の人々も医療倫理に
対する意識も高め,考えていく必要があると思う.
4.
生物には皆、
「生きたい」という生存欲求が低次の本能として備わっている。社会を構成
しその中で生活することで様々なストレスを感じて時に「逝きたい」と思う生物は、本能を
抑制する理性を提供する広い大脳新皮質を備える「ヒト」くらいだと言われている。でも、
通常はヒトも「生きたい」のである。その他にも、「種を残したい」という種保存本能も当
然備わっている。これらより例えば、臓器不全に陥り臓器移植をしないと生存できない状態
に陥りかつその臓器のドナーが見つからなければ、豚の体内で作った人のすい臓だって移植
を希望するかもしれないし、不妊症や精子異常があっても子どもを産みたいと思えば体外受
精を希望するかもしれない。しかしながら、これらは時に倫理に反する。面白いのは倫理に
反することだと批判するのが人間なら、倫理に反するであろうことであってもそれを希望す
るのも同じ人間なのである。人は、
「人間」と「ヒト」の二面性を持つようだ。
5.
As far as I can concern, with the development of the advanced medical technology, more
and more problems will come up. In the class, the in-vitro fertilization was mentioned, it
reminds me of the news I read before, it ends up not good. It’s true that the advanced
medical technology has improved our medical environment and created many
possibilities ,however, the ethical problems are getting serious at the same time. Recently
there are some science fiction movies about the bio-change creatures or the AI system fight
with normal people in the future. Although it’s fake story based on imagination ,I doubt that
it can come true if we do not pay much attention on this issue. / We have to obey the ethical
principles ,witch consists of respecting for persons, Beneficence, and Justice. For me, a
student of mechanical engineering ,it seems that t here are not so many serious interactions
between bioethics and me, but no matter what we learn, the importance of ethics will never
change.
6.
研究者は人間なので自分の利益を考えて行動してしまうのがほとんどであると思う.そし
て場合によっては簡単に利益が手に入ってしまうこともあると思われるし,いくら研究倫理
教育を施したところで欲望を完全に抑えきるのは難しい.不正という部分においての倫理観
については他者からの監視などの制約を設けるのが一番だと考える.また,医学研究におい
ては人の尊厳的な部分における倫理観の話もよくでてくる.これについては宗教的な問題も
出てくるし,なによりも人間の感情の問題が大きい.この問題については永遠に解決するこ
とはできないと思うが,何か新しいことを求める必要があるのなら犠牲にする必要がある部
分も必ず出てくると思う.
7.
現在の社会は医学技術の発展によって生命倫理に肉薄するさまざまな問題提起がなされ、
議論が行われているがこれらの「倫理」は大きく二つの要素から生み出されていると自分は
考える。一つは宗教的な感覚に根差したものである。出生時の生命の扱いについては、しば
しば宗教界から意見が飛び交っている。もう一つは人間の生理的な嫌悪感から生じるもので、
たとえば人体実験への批判は一般人が残酷と感じることが意見の根拠になっている。どちら
を根拠にする意見であったとしても倫理をどこに規定するかは人によってさまざまであり、
判断が難しいと感じた。
8.
医学研究が進むと、子供が母体外に誕生する以前に遺伝子レベルでの検査により、発症し
うる先天性もしくは後天性の病気を見つけられるようになるだろう。こういった検査が確立
されれば、健康な子供だけを選定することが可能になる。これはいかがなものか。私の好き
な映画に「ガタカ」という作品があるが、「ガタカ」の世界では、富裕層だけが遺伝的に優
秀な子供を選定し、優秀な子供を育てるという仕組みが出来上がっている。この選定すると
いう行為は間違っていると思う。すべての人間が選定され、優秀な人間しか生まれない世界
もしくは、一部の富裕層だけが選定を行える世界というのは、果たして良い世界だといえる
のだろうか。私はそうは思わない。生命の誕生は自然に任せるべきだと思う。こう考えるこ
とができるのは、私が幸福にも健常者として生まれたことが少なからず影響しているのは事
実であるため、障害を持って生まれた方の意見を聞いてみたいと思う。
9.
先進医療は、効果と害の大きさとその可能性は早期には明らかにならないので、特にヒト
に対する医学研究は慎重に行わなくてはならないと思う。また、こういった医療行為は研究
対象者の理解を得ることが簡単ではないので、研究者は丁寧な説明を行うことが必要だと思
う。最後の自問したいことというスライドで、「どんな医学研究計画なら自分の家族を参加
させてもよいか」という問いに対して、なるほどと思った。自分の家族を参加させられない
ような研究を行ってはいけないと思う。やはり、研究者は研究参加者の尊重と保護を自己の
利益よりも最優先に考えなくてはいけないと思う。
10. 本講義では医学研究に関して,研究者の側面および患者の側面から考えることができた.今
までは患者の側面からしか医学・医療について考えることはなかったので,「医学研究の目
標は患者のためになることではなく,科学知識の進歩である」という言葉が大変印象的であ
った.今までは「医学研究の目的」=「患者の利益」とあいまいに考えていたものの,確か
に考えてみると必ずしも研究の成果が患者の利益につながるとは言えない.そのため,患者
の利益よりも自分自身の研究の利益を優先してしまい,不正医療が生じていることは理解し
やすい.このような不正医療および研究を防ぐためには,利害関係のない研究者または知識
のある第 3 者に研究を監査してもらうことおよび患者自身の研究内容への関心を高め,自発
的に調査することが求められるのではないだろうか.