2015年度の不動産市況を読む

2015
4
April
トピックス1
2015年度の不動産市況を読む ��������� 2
トピックス2
インバウンド消費に勢いづく
都市型商業施設への投資������������� 6
マンスリーウォッチャー
近年の業種別土地保有動向������������ 8
2015 年度の不動産市況を読む
2014年度の不動産市況は、投資市場では、金融緩和と円安が進展し外資系法人を含む投資需要が
伸長したことから売買総額が増加しました。オフィス賃貸市場では、耐震性に優れたビルや大規模フ
ロアへのテナント需要が高まった一方、大型ビルの新規供給量が従前と比較して低水準で、市況が引
き締まり平均募集賃料が底打ちしています。
不動産投資の促進要因となった金融緩和と円安は当面続く公算が大きく、基本的には、不動産投資
市況は2015年度も活況とみられます。しかし一方で物件流通量や建築費、オフィスビルの賃貸市況
に不確実性があり、不動産価格の下押し要因となる可能性も考えられます。以下、不動産投資市場と
オフィス賃貸市場を中心に、2015年度の不動産市況について見通しを概括します。
金融緩和と円安が不動産売買の増加をけん引
[図表1-2]
。さらに、売買額が増加すると、流動
性の上昇期待が高まることや取得競合が強まる
こと等によってキャップレートが低下し、不動産価
格が上昇する傾向があります
[図表1-3]
。
不動産価格の上昇期待が拡がったことで、
SPCや外資系法人等が保有する含み損のある
物件の売却処理や不動産価格が安かった時期
に取得した物件の利益確定売り等が顕在化し、
2013年に、外資系法人※1による国内不動産の売
引き続く金融緩和
2014年、国内不動産の売買取引額(開示・
公表ベース。以下、同じ)が5兆円を超え、1件
1千億円以上の超高額取引を除くと2001年以降
の最高額となりました[図表1-1]。取引額が増加
した背景の一つは金融緩和で、金融機関の不
動産業向け貸出態度が積極化するのと並行し
て、不動産の売買額が増加する関係にあります
[図表 1-1]2014 年の不動産売買取引額は、超高
額取引を除いて 2001 年以降の最高額
[図表 1-2]金融機関の不動産業向け貸出態度と不動産
の売買総額がおおむね並行関係で推移
(売買金額:億円)不動産売買額と金融機関の貸出態度判断D.I.(貸出態度:DI)
16,000
30
不動産売買額
(4四半期後方移動平均)
貸出態度DI
(不動産業向け・全規模、
2四半期前)
14,000
20
(億円) 上場企業や J-REIT 等による国内不動産の売買取引額
60,000
1件
(区分所有など分割売買の合計を含む)
で1千億円以上の取引
同、1千億円未満の取引
50,000
12,000
40,000
10
10,000
0
8,000
30,000
-10
6,000
20,000
-20
4,000
-30
2,000
10,000
0
0
-40
(年)00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14(年)
※2四半期前:例えば、2013年7-9月期実績の欄に示した貸出態度DIの値は13年3月の数値
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
、
日本銀行
「短観
(全国企業短期経済観測調査)
」
(注)日銀短観の貸出態度判断 D.I. は、不動産業向け・全規模を使用
[図表 1-3]不動産の売買総額とオフィスビルの平均キャップレート
(軸反転)
がおおむね並行関係で推移
不動産売買額と都心オフィスビルのキャップレート
(億円)
8,000
キャップレート
(%)
4.0
都心5区オフィスビルのキャップレート
細線:毎月実績値
(一部は補間値)
太線:3か月後方移動平均
7,000
6,000
4.5
5,000
4,000
3,000
5.0
2,000
1,000
0
月
年
不動産売買額
( )
4
7
10
2005
1
4
7
2006
10
1
4
7
2007
10
1
4
7
2008
10
1
4
7
2009
10
1
4
7
2010
10
1
4
7
2011
10
1
4
7
2012
10
1
4
7
2013
10
1
4
7
2014
10
5.5
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
、同「ReiTREDA」
(注)キャップレートは、J-REIT が東京都心 5 区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)で取得した賃貸オフィスビルについて開示した、
取得前の鑑定評価における直接還元利回りを月別に単純平均したもの。開示事例がない月の値は、前後の月の実績値から補間した。
右軸のキャップレートは上に行くほど低い、すなわち価格水準が高いことを示す。
2
April, 2015
みずほ信託銀行 不動産トピックス
却額が急増しました
[図表1-4①]。
2014年10月末に日本銀行が追加金融緩和を実
施、12月に行われた第47回衆院選で与党が勝利
しアベノミクスの継続が決定されました。政策の
継続が決まったことで、不動産投資市場におい
て活況となる素地が維持されたと考えられます。
進行する円安
金融緩和等によって為替が円安方向に転換
し、対米ドルの為替レートは2012年7月~ 12月平
均の79.8円/$から2014年同期は109.0円/$となり
ました。この結果、国内不動産価格はドル建て
で3割近く下落し、将来の価格上昇期待と円安に
よる割安化の両面の効果で、外資系法人による
取得額が急増することとなりました[図表1-4 ②]
。
2015年も円安が進行しており、1月から2月の平均
値は118.5円/$で、割安感が強まっています。
※ 1:本稿で外資系法人とは海外の企業、ファンド、REIT 等をいい、
日本の証券取引所に上場している
(いた)企業等を除く。
[図表 1-4]不動産価格の上昇期待で外資系法人による売却額が増加、次いで円安進行に伴って取得額が増加
(売買額:億円)
8,000
6,000
4,000
2,000
0
-2,000
-4,000
-6,000
-8,000
1-6 7-12
月
年
2005
( )
外資系法人による国内不動産の売買額(開示・公表分のみ)
売却額
取得額
(為替レート:円/$)
②
純額
(=取得-売却)
為替レート
(右軸)
120
110
100
90
80
①
1-6 7-12
2006
1-6 7-12
2007
1-6 7-12
2008
1-6 7-12
2009
1-6 7-12
2010
1-6 7-12
2011
1-6 7-12
2012
1-6 7-12
2013
1-6 7-12
2014
70
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
、みずほ銀行「外国為替公示相場ヒストリカルデータ」
(注)
グラフ表示の都合上、
売却額はマイナス値として表記した。為替レートは各営業日の公示相場
(仲値)
を上期・下期ごとに単純平均し作成した。
市況続伸の鍵を握る景気・テナント動向とオフィス賃貸市況
金融緩和と円安が不動産売買市場をけん引
する構図が続くとみられる一方、投資対象となる
物件の不足や建築費の上昇など、好況継続の
重しとなる要因が引き続き存在しています。中で
も、オフィス賃貸市況の先行きは賃貸収益の動
向と不動産価格の行方に直接影響する重要な
要因です。
1991 年以降と同じ市況周期で変動する
ならば、2015 年が稼働率のピーク
オフィス賃貸市況はある程度の周期性をもっ
て変動しており、1990年以降でみると東京都心
5区ではおよそ8年前後で一循環を構成していま
す[図表1-5左]
。現在、市況は底を打って回復
過程にありますが、8年周期で推移すると仮定す
ると、稼働率の山は2015年で、以降は稼動率
が低下し、2019年に稼動率がボトムに達する見
通しです。また、空室率と賃料上昇の関係にお
いても、過去、8年周期のうち空室率の低下と賃
料上昇が併存した
"幸せな時期"
は僅かで、デフ
レ環境の下では、賃貸収益(賃料水準×稼働率)
が上昇した期間は限定的でした
[図表1-5右]
。
ビルの供給集中「2016 年」を
乗り切れるか
東京都心5区のオフィスビル稼働率は景気動
向指数(CI、遅行指数)
とおおむね並行に推移し
ており、景気が改善すると稼働率が上昇する関
みずほ信託銀行 不動産トピックス
係にあります[図表1-6]
。これまで大型ビルの竣工
が集中し、新規供給量が増大した時期(2003年、
2007年、2012年など)がありましたが、景気が好
調でオフィス需要が増大した2007年は、空室率
が2%台で需給が引き締まり
[図表1-7]
、外資系
金融機関などがプライスリーダーとなって新規成
約賃料が上昇しました。一方、景気の回復過
程にあった2003年と2012年は、供給集中の影響
で空室率が8 ~ 9%台に上昇し市況が悪化しまし
た。今後、2015年から2016年にかけて再び供給
集中が見込まれており、景気=実需の量がオフィ
ス賃貸市況の基調を左右する鍵となります。
オフィスの賃料上昇をけん引する、
高額テナント業種はどこに
さらに、景気が好調で稼働率が上昇するとし
ても、賃料がどこまで値戻しするかは、テナント
の業種や需要の強さによって異なります。2007年
のオフィス活況を支えたテナント業種の一つであ
る外資系金融機関は、リーマン・ショック後に従
業員を約8千人削減し、虎ノ門ヒルズのオフィス・
フロア1.6棟分に相当する4万8千坪のオフィス需
要が消失しています[図表1-8]。現在、製造業
を中心に好業績が続いていますが、製造業は金
融やIT等と比較して都心オフィスへの需要が弱
く、高額賃料を許容するプライスリーダーとはなり
にくいと思われます。
April, 2015
3
[図表 1-5]東京のオフィス市況サイクルはおおむね 8 年:好況期以外、幸せな時期
(Ⅳ)
は僅か
東京都心 5 区のオフィスビル長期市況
(空室率:%)
(賃料:円 / 坪・月)
10
50,000
平均募集賃料/新築ビル
平均募集賃料/既存ビル
空室率/平均
(%)
9
45,000
ボトム to ボトム:9 年
8
8年サイクルの景
気循環としてとらえ
ると、次のボトムは
2019年、
ピークは
2015年
35,000
30,000
25,000
7
6
4
15,000
3
10,000
2
ピーク to ピーク:7 年
2014
5
2005
2000
-3
5
20,000
10
2006
縦軸:平均募集賃料の増減(変動率%)
40,000
ボトム to ボトム:8 年
横軸:空室率の増減(%ポイント)
15
Ⅰ【空室率上昇・
Ⅳ 2007
賃料上昇】
【空室率低下・
賃料上昇】
0
-2
2004 2013
1996
-10
【空室率低下・
賃料下落】
-20
Ⅲ
4
3
2002
2003
1992
1993
-15
1995
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年:各年末時点)
2008
1997 0
-1
1
2
0
2012
2011
1998
1999
-5
2010
1
5,000
1991
2001
2009
1994
【空室率上昇・
Ⅱ 賃料下落】
-25
データ出所:三鬼商事株式会社「オフィスデータ」
。 分析:都市未来総合研究所
[図表 1-6]景気動向とオフィスビル稼働率が並行関係で推移
東京都心5区のオフィスビル稼働率と景気動向指数
稼働率
(%)
98
遅行指数
140
稼働率(=1-空室率)
景気動向指数(CI、遅行指数)
135
130
96
125
120
94
115
110
92
105
両値の相関係数:0.843
90
月
年
( )
1
4
7
2002
10
1
4
7
10
1
2003
4
7
2004
10
1
4
7
10
2005
1
4
7
2006
10
1
4
7
10
2007
1
100
4
7
2008
10
1
4
7
2009
10
1
4
7
10
2010
1
4
7
10
1
4
2011
7
10
1
2012
4
7
10
2013
1
4
7
10
2014
1
95
2015
データ出所:三鬼商事株式会社「オフィスデータ」
、
内閣府経済社会総合研究所「景気動向指数」
(2015 年 1 月分速報)
[図表 1-7]都心 3 区を中心に大型ビルの竣工時期が集中
大型ビルの竣工面積(実績と見通し)
(万m2)
350
2003年6月・8月
都心5区空室率8.57%
300
日本における外資系金融機関の従業員数減少と
今後の見通し
2012年6月
都心5区空室率9.43%
2007年2月
都心5区空室率2.93%
250
[図表 1-8]外資系金融機関の高額
オフィス需要が減少
消費再増税延期
200
150
(従業員数:人)オフィス床の需要減少量の推計(床面積:坪)
60,000
30,000
25,000
50,000
20,000
40,000
15,000
30,000
10,000
20,000
5,000
10,000
0
100
2008年
3月
従業員数
50
0
2001
2011年
9月
2013年
9月
0
オフィス床の需要減少量推計値
(累積値)
データ出所:エグゼクティブ・サーチ・パー
トナーズ株式会社「金融市場の最近の人
02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18(年)
事事情について 」2012 年 2 月・2014
年 2 月、
(一社)日本ビルヂング協会連
東京23区計
千代田区
中央区
港区
新宿区
渋谷区
合会「ビル実態調査(平成 25 年版)調
データ出所:都市未来総合研究所「Office Market Research」
、 査結果要旨」
空室率は三鬼商事株式会社「オフィスデータ」 (注)オフィス床の需要減少量は、減少従業員数に
(注)2 014 年 12 月時点の値。延べ床面積が概ね 5,000m2 以上で、オフィス床が存在する
ビルを対象に調査集計。複合用途、自社使用の面積を含む。
4
2010年
6月
April, 2015 外資系オフィス(東京)の一人あたり床面積
19.5m2 を乗じて算出
みずほ信託銀行 不動産トピックス
賃貸市況の改善進み、不動産価格の上昇が見込まれるが、頭打ちとなる可能性も
不動産価格の行方は賃貸市況に
よるところ大
現在、収益不動産の価格算定水準となるキャッ
プレートはほぼ下がりきっており、J-REITや国内
法人など主な投資セクターにとって低下余地は多
くはありません。大手銀行等の貸出意向は強い
ものの、LTV(物件価格に対する融資額の割合)
を引き上げて積極的にリスクを取る環境にはあり
ません。また、外資系金融機関やノンバンク等に
もかつてのアグレッシブさは見受けられません。
したがって、収益不動産を中心に不動産価格
が上昇するとすれば、①円安効果を背景に外
資系投資家が取得キャップレートを引き下げる、
②賃料上昇が軌道に乗り、賃貸収益が増加す
る、いずれかの道筋が考えられます[図表1-9]
。
①だけの場合はバブル再発となるリスクがあり、
健全な価格上昇には賃貸収益が増加するかどう
かが鍵となります。ビル一棟の賃貸収益は、継
続テナントの賃料改定における増減、すなわち
正負の賃料ギャップ(継続賃料と新規賃料の差)
の縮小と、テナントの入退去による賃料増減(新
旧賃料の差)に基づいて増減するため、一般的
には年単位のゆっくりとした動きとなります。
オフィス市況の改善進むが、
賃料の上値の伸びは弱い
2015年度のオフィス市況は、回復基調にある
景気に後押しされて稼働率が上昇するとみられ
ます。その中で、旧耐震・築古物件等で成約
につながらないまま募集を続ける物件が底残とな
るため、2007年のピークを2%ポイント※2ほど下回
る95 ~ 96%前後(東京都心5区)で頭打ちとなる
可能性があります。
平均募集賃料は、大型ビルにおける需要の
ボリュームゾーンである2万5千円~ 3万5千円/坪
(東京都心5区)クラスで前年比8%程度 ※3の上
昇が見込まれますが、高額テナント業種を欠くた
め上値の伸びは抑えられるでしょう。都市未来総
研の調査では既に新規成約賃料が同一ビル比
で低下した例が複数あり、募集賃料の対前月変
動率(移動平均値)にも上昇鈍化の傾向がみら
れることから
[図表1-10]
、景気=実需が弱含みと
なった場合には賃料上昇も2015年度に頭打ちと
なる可能性が想定されます。
(以上、都市未来総合研究所 平山 重雄)
※ 2:直 近 2014 年の募 集 賃 料 反 転 時の平 均 稼 働 率は 93.5%で、
2005 年に反転した時の 95.0%を 1.5%ポイント下回った水準で反
転した。
※ 3:直近の 5.3%
(2015 年 1 月)
と2007 年平均 12.0%の中間と予想
[図表 1-9]実需増大と賃料上昇が進まなければ、不動産価格は再び頭打ちへ
賃貸実需
(企業テナント、
個人借主)
キャップレート
投資需要
(投資家、富裕層)
温度差
=
成長戦略
経営のアクセル
温度差
空焚きでは
( )
上昇は続かない
企業収益
設備投資意欲
外資誘致
雇用・所得
賃貸収益
温度差
不動産価格
一部に止まり、
遅い
弱い
拡がらない
金融緩和
円安
株高
+相続税制
金融緩和
速い
劇的
やや手詰まり
出所:都市未来総合研究所
[図表 1-10]募集賃料の先行きを示す対前月変動率の 6 か月後方移動平均値は上昇率が鈍化
東京都心5区オフィスビルの平均稼働率と募集賃料変動率
100
平均募集賃料の対前年同月変動率
(%)
平均募集賃料の対前月変動率
(×1/10%)
同、6か月後方移動平均
(×1/10%)
平均稼働率
(%)
99
平均募集賃料の
対前年同月変動率
平均募集賃料の
対前月変動率
98
97
96
15
10
5
平均募集賃料の対前月変動率
(6か月後方移動平均)
95
0
94
-5
93
-10
92
平均稼働率
(=1-空室率)
91
90
(%)
20
1
月
( )
年
4
7
2003
10
1
4
7
2004
10
1
4
7
10
2005
1
4
7
2006
10
-15
1
4
7
2007
10
1
4
7
2008
10
1
4
7
2009
10
1
4
7
2010
10
1
4
7
2011
10
1
4
7
2012
10
1
4
7
2013
10
1
4
7
10
1
2014
-20
2015
データ出所:三鬼商事株式会社「オフィスデータ」
。 分析:都市未来総合研究所
みずほ信託銀行 不動産トピックス
April, 2015
5
インバウンド消費に勢いづく都市型商業施設への投資
消費税率引上げ以後、個人消費は停滞気味で推移していますが、増加する訪日外国人旅行者が百貨
店等の都市型商業施設※1の売上を押し上げています。東京では2020年のオリンピック・パラリン
ピックを控えて、訪日外国人旅行者の更なる増加が見込まれ、都市型商業施設への投資を勢いづかせ
ると考えられます。
外国人観光客による旺盛な消費
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」による
と、2014年の外国人旅行消費の総額は対前年
比43.3%増の2兆305億円と推計され、過去最高
額となりました。訪日外客(訪日外国人旅行者)
が過去最多を更新する水準になったことに加え、
一人当たりの消費額も過去最高となりました。旅
行消費額のうち、買物代は約7,142億円で対前
年 比54.2%増、消 費 額の35.2%を占めており、
2013年は宿泊費に次ぐ2位でしたが、2014年は
最大の消費項目となりました
[図表2-1]。
日本 百 貨 店 協 会が46店の百 貨 店を対 象に
行った調査では、2014 年の外国人による年間
総売上高は約730億円で、対前年比90%増と高
い伸び率となりました。円安傾向に加え、2014年
10月1日以降、従来免税品の対象ではなかった
食品類や化粧品類などの消耗品を含めた全ての
品目が免税対象となったことが、大幅な増加の
背景にあり、売上は対前年同月比の2倍以上で
推移しています[図表2-2]
。全国の百貨店の全
体の売上は、2014年に約6兆2,125億円となり、
対前年比0.3%増
(既存店ベース)
で、3年連続の
プラスとなったものの、微増にとどまりました。しか
しながら、東京では同1.5%、大阪では同3.3%、
名古屋では同3.1%増と都市部で増加率は高く
なっており、この要因として、4月の消費税増税
後に個人消費が停滞を続ける中、増加する訪日
外国人旅行者による旺盛な消費が売上の落ち込
みをカバーしたとみられます。
[図表 2-1]外国人旅行消費額の概況
(億円)
25,000
旅行消費額
13,414
訪日外客数
20,000
(千人)
15,000
8,358
8,611
2,179
10.7%
12,000
10,364
15,000
2014年の外国人旅行消費額 2兆305億円
20,305
10,000
宿泊費
7,142
35.2%
4,307
21.2%
6,000
飲食費
交通費
14,167
11,490
10,849
8,135
0
買物代
9,000
6,219
5,000
87
0.4%
497
2.4%
2010
2011
娯楽サービス費
3,000
2012
2014 (年)
2013
6,093
30.0%
その他
0
(金額単位:億円、%は構成比)
データ出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」
(訪日外客数の 2014 年の値は推計値)
[図表 2-2]東京地区百貨店売上と百貨店における訪日外国人客による売上の対前年同月の変動率の推移
(%)
350
(%)
105
300
外国人観光客売上
90
250
東京地区百貨店売上(右軸)
75
200
60
150
45
100
30
50
15
0
0
-50
-15
-100
1
4
7
2009
10
1
4
7
2010
10
1
4
7
2011
10
1
4
7
2012
10
1
4
7
2013
10
1
4
7
2014
10
-30
1
2015
データ出所:日本百貨店協会「百貨店売上高概況」
、
「外国人観光客の売上高 ・ 来店動向」より作成
6
April, 2015
みずほ信託銀行 不動産トピックス
活気づく都市型商業施設への投資
税店※2がテナントとして入居する予定です。近隣
の銀座三越(銀座4丁目)にも空港型免税店が同
時期に開業する予定です。さらに、「カワイイ文
化」の発信地として外国人の人気も高く、商店街
等が訪日外国人客の誘致キャンペーンを定期的
に行っている原宿・表参道エリアでも、都市型商
業施設の開発が相次いでおり、今年も新たな商
業施設のオープンが予定されています
[図表2-3]
。
既存の商業施設の取引は2013年度下期に
件数、金額とも大幅に増加するなど、近年活
発になってきており、渋 谷 周 辺や銀 座におい
て大型の都市型商業施設の取引がありました
[図表2-4]
。
こうした動きに対応して、訪日外国人客の多い
百貨店では免税カウンターを拡大・増設したり、
これまで免税品の取扱のなかった商業施設でも
免税販売を開始する店舗が出てきました。また、
東京の主要な商業集積地において新たに出店
する商業施設では、ハードやソフトの対応で訪日
外国人客の取り込みを図っています。松阪屋銀
座店の跡地に2016年11月に開業予定の商業施設
(銀座6丁目)は、1階に観光バスの乗降所や観
光案内所、休憩所が入る「
(仮称)銀座観光ス
テーション」を設け、地下3階には「観世能楽堂」
が移転します。また、数寄屋橋交差点の一角に
おいて「
(仮称)銀座5丁目プロジェクト」として今
年秋に開業予定の大型商業施設には空港型免
(以上、都市未来総合研究所 下向井 邦博)
※ 1:ここでは東京都区部や政令指定都市などの大都市の中心繁華街に立地する百貨店やショッピングセンター等を想定した。
※ 2:空港型免税店は、出国を控えた人(日本人含む)に対し消費税に加え、関税や酒・たばこ税が免除され、空港での商品の受け渡しとな
る。街中の免税店(タックスフリーショップ)は免税対象が日本から出国する外国人に限られ、免税対象は消費税のみとなる。
[図表 2-3]新規出店する主な都市型商業施設の概要
名称
所在地
施設概要
開業(予定)
銀座六丁目 10 地区第一種市街
地再開発事業
中央区銀座 6 丁目
(松坂屋銀座店跡地を含むエリア)
売場面積約 46,000m2 の商業施設や、大規模オフィス、文化・
交流施設「観世能楽堂」などから構成される、地上 13 階、
地下 6 階の銀座エリア最大級となる複合施設。エリア最大級 2016/11
の広さを確保した屋上庭園や観光バス等の乗降スペース等に
よる来街者を迎え入れる施設も導入。
(仮称)銀座5丁目プロジェクト
(銀座 TS ビル〈旧・銀座東芝ビル〉中央区銀座 5 丁目
の跡地)
延床面積約 49,700m2、地下 2 階∼地上 11 階部分を店舗と
する大型商業施設。約 120 店舗が出店予定で、8-9 階に都内
最大規模の免税店が入居予定。
Japan Duty Free GINZA
(三越銀座店内)
三越銀座店の 8 階全体(約 3,300m2)に空港型免税店が開業。
三越伊勢丹ホールディングス、日本空港ビルデング、成田国 2015 年秋
際空港、NAA リテイリングの 4 社が設立する合弁会社が運営。
中央区銀座 4 丁目
2015 年秋
備考
総事業費
約 830 億円
旧・銀座東芝ビルを
1,610 億円で取得
初年度売上目標は
100 億円
竹下通り スクエア
延床面積約 1,724㎡、地下 2 階∼地上 3 階建ての商業施設。
渋谷区神宮前 1 丁目 三越伊勢丹グループの ALTA が出店し「原宿 ALTA」として
全 19 店舗がオープン予定。
2015/3
初年度売上目標は
17 億円
キュープラザ原宿
渋谷区神宮前 6 丁目
「利便性の高いエリアにおいて、立地特性にふさわしい少数
テナントで構成する、都市型商業施設」の位置づけで物販 ・
飲食・ブライダル・ヘアサロンなど 16 店舗がオープン予定。
延床面積は約 2,500 坪。
2015/3
「b 6」跡地に開発
データ出所:企業開示資料や報道等から都市未来総合研究所作成
(計画は変更になることがある)
[図表 2-4]近年の都市型商業施設の主な売買事例
商業施設名称
渋谷フラッグ
所在地
渋谷区宇田川町
土地面積 建物面積 取引額
(m2) (百万円)
(m2)
取引時期
買主
1,026
7,766
32,040
2013年4月 森トラスト総合リート投資法人
ティファニー銀座本店ビル 中央区銀座 2 丁目
703
5,672
32,000
2013年10月 個人
ベネトンメガストア表参道 渋谷区神宮前 4 丁目
569
2,778
19,000
2013年12月 Kering Tokyo Investment
(投資法人)
(小売業)
J6 Front
渋谷区神宮前 6 丁目
1,567
6,869
18,000
2014年6月 独 Union Investment
(外国企業)
銀座四丁目タワー
中央区銀座 4 丁目
689
6,787
9,800
2013年8月 ケネディクス不動産投資法人
(投資法人)
Cute Cube 原宿
渋谷区神宮前 1 丁目
636
1,729
8,520
2014年10月 日本リテールファンド投資法人
(投資法人)
JouLe SHIBUYA
渋谷区宇田川町
528
3,032
7,550
G ビル銀座 01
中央区銀座 6 丁目
272
2,131
5,500
カレイド渋谷宮益坂
渋谷区渋谷 1 丁目
822
4,475
5,150
2,274
7,157
エスポワール表参道
(G ビル表参道 02)
準共有持分 50%ずつ
渋谷区神宮前 4 丁目
2014年4月 オリックス不動産投資法人
(投資法人)
2013年10月 日本リテールファンド投資法人
2013年8月 東急リアル ・ エステート投資法人
17,705 2014年4月・10月 日本リテールファンド投資法人
不詳
(投資法人)
(投資法人)
(投資法人)
2014年6月 DREAM プライベートリート投資法人(投資法人)
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
みずほ信託銀行 不動産トピックス
April, 2015
7
近年の業種別土地保有動向
本誌2015年2月号の本欄で、近年の企業全体の土地保有動向をご紹介しました。次いで本稿では、
近年の業種別土地保有動向をご紹介します。
連結決算報告書を作成する全上場企業の直近期※1の連結貸借対照表※2の土地簿価※3を業種※4ご
とに集計すると、陸運業、不動産業、小売業、輸送用機器の4業種で全上場企業の土地簿価の過
半を占め、33業種中14業種で89.1%を占めます[図表3-1]
。また、前記14業種はそれぞれ、他19業種
は合計で、前々々期から前期までの直近2期間で土地簿価が増加しています
[図表3-2]
。
不動産業の土地簿価増勢が顕著で、今後数年間この勢いが続けば、陸運業を追い抜くことになりま
す。また、陸運業も所有地の有効利用だけではなく近年新たに不動産を取得する動きが散見され、こ
の動きが活発化すれば土地簿価増勢を加速する可能性があります
[図表3-2]
。
他の業種についても、リーマンショック後の地価下落から反転上昇したエリアが増加し地価のダウンサ
イドリスクの見極めがつくようになったこと、海外展開の一服感と円安による事業拠点の国内回帰の動き
が出始めたこと等により、当面各業種とも国内の土地を取得する動きが続くものと思われます。
(以上、都市未来総合研究所 三輪 一雄)
[図表 3-1]直近期の業種別土地簿価シェア※ 5
サービス業 2.8%
他19業種
10.9%
鉄鋼 3.0%
食料品 3.0%
陸運業
19.5%
電気機器 3.2%
機械 3.2%
不動産業
16.3%
卸売業 3.5%
石油・石炭製品
3.7%
輸送用
機器
8.6%
情報・通信業 4.4%
化学 4.5%
小売業
8.8%
※ 1:直近期
2015 年 3 月までに開示された直近の決算期。この直近期
を前期とし、前々期、前々々期まで遡る 3 期についての
集計を行った。
※ 2:連結貸借対照表
株式会社東洋経済新報社「会社四季報 CD-ROM 2015 年 2
集」に収録された連結貸借対照表。
※ 3:土地簿価
上記連結貸借対照表に掲記された、固定資産に含まれる
土地の価格。棚卸資産の土地は含まない。
※ 4:業種
証券コード協議会業種中分類による。
※ 5:土地簿価シェア及び土地簿価推移
シェアと推移のいずれも土地簿価を集計したものであり、
時価と面積については異なるシェア、推移となるものと
思われる。
建設業 4.6%
[図表 3-2]業種別土地簿価推移※ 5
(兆円)
13
12
前々々期
11
前々期
10
前期
9
8
7
6
5
4
3
2
1
他 業種
サービス業
鉄鋼
食料品
電気機器
機械
卸売業
石油・石炭製品
情報・通信業
化学
建設業
輸送用機器
小売業
不動産業
陸運業
0
19
データ出所:図表 3-1、3-2 とも株式会社東洋経済新報社「会社四季報 CD-ROM 2015 年 2 集」
不動産トピックス 2015.4
発 行 みずほ信託銀行株式会社 不動産業務部
〒 103-8670 東京都中央区八重洲 1-2-1 http://www.mizuho-tb.co.jp/
編集協力 株式会社都市未来総合研究所
〒 103-0027 東京都中央区日本橋 2-3-4 日本橋プラザビル 11 階 http://www.tmri.co.jp/
■本レポートに関するお問い合わせ先■
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金子 伸幸 TEL.03-3274-9079(代表)
株式会社都市未来総合研究所 研究部
佐藤 泰弘、池田 英孝 TEL.03-3273-1432(代表)
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