腎の構造と機能

第1章
腎の構造と機能
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腎の構造
腎臓は後腹膜腔に左右 2 個あり,大きさは握りこぶし大で
ある.一側の腎臓に約 100 万個のネフロン nephron があり,
両側を合わせるとヒトは 200 万個のネフロンを有している
ことになる.ネフロンは糸球体から始まり集合管に終わる約
50mm の管である.
A.糸球体 glomerulus
輸入動脈に始まり,4 〜 6 個の毛細管係蹄に分かれ,再び
集まって輸出動脈となる.直径は約 0.2mm.外側はボーマ
ン囊で覆われている( 1 ).糸球体の構成成分は糸球体基底
膜 glomerular basement membrane(GBM), 基 底 膜 の 外 側
を覆う上皮細胞 epithelial cell,基底膜の内側を覆う内皮細
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1 章 腎の構造と機能
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胞 endothelial cell, 毛 細 管 係 蹄 を 支 え る メ サ ン ギ ウ ム 細 胞
mesangial cell から成り立っている.ボーマン囊には上皮細胞
があり基底膜の外側を覆う上皮細胞を臓側上皮細胞 visceral
epithelial cell,ボーマン囊の上皮細胞は壁側上皮細胞 parietal
epithelial cell とよび両者を区別している.臓側上皮細胞は足
突起とよばれる独特の構造となっている( 2 , 3 ).内皮細胞
は基底膜の内側を覆っているがところどころ小孔 fenestra と
よばれる穴が空いている( 4 ).基底膜は内透明層 lamina rara
interna,緻密層 lamina densa,外透明層 lamina rara externa
1
糸球体のボーマン囊
をはがしたところを
走査電顕で観察した
もの.糸球体が上皮
細胞で覆われている
のがみられる.
2
拡大すると足突起が
重なり合っているの
が認められる.
2
腎臓内科ハンドブック
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の 3 層構造であり,厚さは 200 〜 300nm である.足突起の
間には slit membrane があり( 5 ),zipper like structure が観
察される( 6 ).基底膜は IV 型コラーゲン,ラミニン,ヘパラ
ン硫酸などからなり,分子量 6 万以上のものは通さない size
barrier と上皮細胞,基底膜表面は陰性に帯電しているため
アルブミンのような陰性荷電物質は反発して通さない charge
barrier があり,血液からアルブミン以上の分子量の物質の移
動を阻止している.メサンギウム細胞は毛細管の支持組織で腎
炎の際に増殖することが知られている.また,貪食能を有して
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透過型電顕では上皮
細胞の足突起が観察
される.
メサンギウム細胞
GBM
内皮細胞
上皮細胞
足突起
4 糸球体毛細管係蹄を図示したもの.
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fenestra
内透明層
緻密層
外透明層
slit membrane
足突起
5 糸球体基底膜を図示したもの.足突起と足突起の間に
は slit membrane がある.
足突起
zipper like
structure
6 slit membrane には zipper like structure が観察される.
(Rodewald R and Karnovsky MJ. J Cell Biol. 1974; 60: 423)
おり,各種サイトカインや増殖因子を産生していることが明ら
かになっている.
B.尿細管 tubule
近位尿細管 proximal tubule,ヘンレ係蹄下降脚 descending
loop of Henle,ヘンレ係蹄上降脚 ascending loop of Henle,遠
位尿細管 distal tubule に分けられる.近位尿細管は内腔に絨毛
microvilli をもつ刷子縁 brush border を有しているため表面積
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が大きく吸収に有効である.ヘンレ係蹄はヘアピンカーブする
ことにより高い浸透圧を維持することができ尿の濃縮が可能で
ある( 7 )
.また,遠位尿細管は必ず糸球体の輸入動脈と輸出
動脈の間にくっつくことにより尿細管内の情報を血管に伝えて
いる.
H2O, K+
Na+, Cl-, HCO3- +
H
糸球体
K+, H+
Na+
NH3
遠位尿細管
近位尿細管
300
mOsm
100
グルコース
尿素,尿酸
400
600
H2O
(ADH 依存)
Na+
H2O
Na+
H 2O
1000
800
Na+
H2O
100
〜
1200
mOsm
200
7 尿細管構造を図示したもの.ヘンレの係蹄はヘアピンカー
ブしており,1,200mOsm という高い浸透圧を維持して尿を濃縮
することができる.
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1 章 腎の構造と機能
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