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青 年 期 に お け る死 生 観 と 自尊 感 情 と の 関 連
201lHP082
松尾栞
問題 と目的
死は必ず 誰 にで も訪れ るもの で あ る。 近年 では , 自殺や延命治療 な ど,社 会 問題 と して死が注
目され る機 会 が 多 い。 しか し,人 と密接 に 関わ るテ ーマ であるに も関わ らず ,死 につい て語 るこ
とはタブー視 され る傾 向にあ る。
死は老 年期や病気 を持 つ 人 のみ に対 して重要 なテ ーマ ではない。特 に ,青 年期 にお い ては,ア
イデ ンテ ィテ ィ形成 が発達 課題 とされ るが ,ア イデ ンテ ィテ ィ と死生観 の 間 には 関連 が 見出 され
てい る。 また ,ア イデ ンテ ィテ ィ形成 には 自尊感情 が重 要な要素 だ と考 え られ る。
死生観 は包括的 な概念 であ るこ とか ら,死 に対す る恐怖 な どの ネ ガテ ィブな側 面 のみでな く
,
ポジテ ィブな側 面な ど,様 々 な側 面 か ら捉 えることが必要 とされ る。 そ のため,先 行研 究 の尺度
を参考 に し,新 たな側 面 を付加 した尺 度 を開発す る。
本研 究では ,青 年期 を対象 と し,先 行研 究で演1定 され て きた面 の み に とどま らな い ,よ り死生
観 を多次元的 に捉 える ことが 可能 な尺度 を開発 し,死 生観 と自尊感 情 との 関連 を検討す ることを
目的 とす る。 また , 自尊感 情 の低 い人 に比 べ て , 自尊感情 の 高 い 人 の方 が ,死 に 関心 を持 ち,死
を肯定的 に捉 える とい う仮説 を立 て ,検 証す る。
方法
2014年 に,大 学生 153名
(男 子
22名 ,女 子 131名 )を 対象 に質 問紙調査 を行 った。質問紙 は
,
(1)フ ェイ スシー ト :学 年 ,年 齢 ,性 別 ,(2)死 生観尺度 :51項 目,(3)自 尊感情尺度 :10項
目か ら構成 され る。
結果 と考察
死生観尺度 を作成す るにあた つて ,因 子分析 を行 った。そ の結果 ,「 死 へ の恐怖 ・ 不安」,「 解放
として の死 」,「 死後 の 世界観 」,「 人生 にお ける 目的意識」,「 死後 の現 実世界」,「 寿命観」,「 身体
と精神 の死 」,「 人生 に対 して死が持 つ 意味」の 8因 子 29項 目とい う構造 が得 られ た。本尺度 の特
徴 として ,先 行研 究 の尺度 と比較 して ,(1)多 次元的 であ る こ と,(2)「 死 後 の現実世界」 とい う
新 たな視点 が加 わった ことが 挙 げ られ る。
また,自 尊感情尺度 の得 点 の 高低別 に,死 生観 の各 下位 尺度 の得点 が異 な るか ど うかに 関 して
,
定による検討 を行 つた。 そ の結果 ,「 人生 にお ける 目的意識 」,「 死後 の 現実世界」,「 人生に対
`検
して死が持 つ 意味」 にお い て ,有 意 な差が認 め られ た。 いずれ も, 自尊感情 の 高 い群 の方が 自尊
感情 の低 い群 よ り平均値 が 高 かつた。
この結果 よ り, 自尊感 情 の 高 い 人 は, 自尊感情 が低 い人 と比 べ て ,死 に 関心 を持 ち,死 を肯定
的 に捉 える とい う傾 向 が示 され た。 自尊感情 が 高 い人 は ,人 生 に意 味 を見出 し, さらに死に意味
を見出す こ とで ,生 を肯定的 に受 け止 めてい る と考 え られ る。 また ,人 との 関係性 を大切 にす る
こ とか ら,死 後 の残 され た人 の世界 に, 自分 が生 きた意味 が残 る と考 えるのだ と予測す る。
母親 の養育態度認 知 と青年期 にお けるアイデ ンテ ィテ ィの 関連
201lHP124坂 崎 理史
青年期 の最 も重要 な発達 はアイデ ンテ ィテ ィの確 立で ある と言 える。青年 のア イデ ンテ ィテ ィ
の確 立過程 において周 りの他者 の存在 は大 きな影響 を与 える。 そ の 中で も、子 どもに とつて最 も
身近 な存在 であ る と言 える母親 の影 響力 の大 き さを無視す る こ とはで きな い。子 どもに対す る接
し方 、 つ ま り母親 の養 育態度 は子 どもに とって非常 に重要 な要 因 とな るので ある。 そ して 、そ の
養 育態度 を子 どもが どの よ うに捉 えるかに よつて 、受 ける影響 も変 わ って くる。
本研 究では青年期 にお けるアイデ ンテ ィテ ィ と母親 の養育態度 との 関連 を検討す るこ とを 目的
とし、アイデ ンテ ィテ ィの形成 が見 られ る青年 は 、今現在 、母親 の養 育態度 を 自らに とつて良 い
もの として捉 えてい る とす る仮説 を立てた。過去 の母親 の養 育態度 につい て回想 し答 えることは、
現在 の親子 関係 の あ り方に よつ て回答 に歪みが生 じる恐れ が ある。 しか し、実際 に養 育態度 が ど
うであ つたか とい うことよ りも、そ の養育態度 を青年 が今 どの よ うに感 じてい るか とい うことの
方 が 青年 の 自己、 アイデ ンテ ィテ ィに とつて重要であ る と考 え られ る。 そ の ため、本研 究では青
年期 にお ける母親 の養 育態度認知 を扱 うもの とす る。
青年 のアイデ ンテ ィテ ィ確 立度 を測定す るた め、 アイデ ンテ ィテ ィ尺度 (下 山
し、母親 の養育態度認 知 を測定す るため、Parental BOnding instrument(PBI)日
,1992)を 使用
本語版
(ノ 1ヽ
ll,
り
1991)を 使用 して 、大学生 を対象 に質 問紙調査 を行 つた。 因子分析 を行 い、先行研 究同様 、アイ
デ ンテ ィテ ィ尺度 か ら 「アイデ ンテ ィテ ィの基 礎」、「アイデ ンテ ィテ ィの確 立」 の 2因 子 を抽出
し、PBIか ら「養護」、「行動 の 自由の促進」、「′
心理的 自律 の否定」の 3因 子 を抽 出 した。そ して 、
それ ぞれ の 因子 ご とに 2変 量 の相 関分析 を行 つた結果 、「アイデ ンテ ィテ ィの基礎 」と 「行動 の 自
由 の促進」「心理的 自律 の否定」の 間に弱 い相 関 が 見 られ るのみ に とどま り、青年 のアイデ ンテ ィ
テ ィ確 立度 との 間 に相 関 が ある とは言 えない結果 とな り、仮説 は支持 され なか つた。
そ の理 由の一つ と して 、質問紙 回答者 の偏 りが考 え られ る。本研 究では、同大学 の 同学部 の人
が質 問紙 回答者 の 大半を占めて い るため 、母親 の養 育態度認 知、 も しくは実際 の養 育態度 にあま
り差がみ られ なか った ので ある。 しか し、多 くの先行研究 か ら母子関係 がアイデ ンテ ィテ ィの確
立 に影響 を及 ぼす こ とは確 実性 があ ることであ る と言 える。 また本研 究 では 、母子 関係 とアイデ
ンテ ィテ ィの 関連 を検討す る手段 と して養 育態度認 知 を扱 っ たが 、別 の研 究方法 で母子 関係 とア
イデ ンテ ィテ ィの 関連 を検討す る こ とも十 分 に可能 であるため、今後様 々 な角度 か らア プ ロー チ
し、母子 関係 とアイデ ンテ ィテ ィの 関連 を検討 したい。