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スギ成分の分離・変換とそれらの生理機能評価IV : スギ
材テルペノイドの抗酸化活性評価
西山, 和夫
森と人と文化 : 研究成果報告書: 117-120
http://hdl.handle.net/10458/1712
Date of Issue 2001-03
Right
Description
農 学部応用生物科学科
ll.
スギ成分 の分離 ・変換 とそれ らの生理機能評価 I
V
スギ材 テルペ ノイ ドの抗酸化活性評価.
′
」
∫
西 山和夫
活性酸素が多 くの病気 と密接 に関連 していることが明 らかになってお り,活性酸素の生成
を抑制 した り活性酸素 を消去す る抗酸化物質の摂取が病気の予防につながることが報告 され
種
ている.本研究 ではスギ材テ ルペ ノイ ドの抗酸化活性 に焦点をあて, フェルギノール と6
類の誘導体 を用いて検討 した。その結果, フェルギノールお よびい くつかの誘導体 に強い抗
酸化活性が認め られ,化学構造 と抗酸化活性の関係を明 らかにす ることができた。 これ らの
情報をもとに今後 さ らに強い抗酸化活性 をもった誘導体 を合成す ることができるもの と期待
され る。
1.緒言
鉄 くぎを放置 してお くと空気 中の酸素 と反応 してさびて くるように我々の体 も毎 日少 しず
つさびている。我々が食事で得た物質を酸化 してエネルギーをつ くる時に酸素の一 部が活性
酸素 と呼ばれる反応性 の高い酸素 に変化す る。活性酸素 は放射線や紫外線の照射, アル コー
ルや発ガ ン物質の代謝,病原体 に対す る免疫細胞の攻撃等のよ うにエネルギー生産 以外 にも
種々の原因によって生 じてい る。
活性酸素 にはスーパーオ キサイ ド,過酸化水素, ヒ ドロキシルラジカル,一重項 酸素な ど
がある。これ らの活性酸素が動脈硬化 を起因 とす る心臓病,脳卒 中そして糖尿病や肥満 とい っ
た生活習慣病, さらにガンや老化 といったほ とん どすべての病気 と密接 に関連 していること
が最近の研究で明 らか にな ってきた (
図1
,図2) 。
LDL (低密度 リポ タ ンパ ク質)
ガン遺伝子 +
「
ー 一活性 薮素
I
活性酸素
I
DL
変性 L
遺伝子変異
t
マク ロフ ァー ジによる取 り込み
細胞 自身 による活性酸素生成
t
I
動脈硬化
.活性酸素 と動脈硬化
図2
図 1. 活性酸素 とガ ン化
-1
1
7-
活性酸素 によってタンパ ク質,脂質,核酸,糖な どの体 を構成 している成分が酸化され る
とこれ らが本来 もっている構造や機能 に変化が起 こるために病気になるわけである。 したが っ
て病気を予防す るには体内でできるだけ活性酸素を発生 させないよ うに し,また,発生 した
活性酸素はできるだ け早 く消去 して,その害作用 を受けないないよ うにす ることが重要であ
る。
活性酸素 を消去 した り活性酸素の生成 を抑制す る物質や酸化酵素の作用 を抑制す る働きを
もった物質を抗酸化物質 と呼んでいる。我々の体は活性酸素の害を防 ぐために色々な抗酸化
物質をもっている。例 えば,活性酸素の発生に関与 している金属を不活性にす るた めのタン
パク質や活性酸素 を分解す る酵素等である。 しか し,体内の活性酸素生成量が極端 に増加 し
てこれ らの防御物質の能力を越 えた場合や加齢により体の抗酸化力が低下 して くる とガンや
動脈硬化等の病気が起 こる。 ビタ ミンC ビタ ミンE,カロテノイ ド,ポ リフェノール等の
抗酸化物質を豊富に含んでいる野菜を摂取す る と病気の予防につながることが報告 されてお
り, 自然界 に存在す る新 しい抗酸化物質の検索が精力的に行われている。
本研究ではスギのテルペ ノイ ドの生理活性 を明 らかにす るための基礎研究 として,工学部
物質環境科学科 の松井教授 らのグループか ら提供 されたフェルギノール とその誘導体の抗酸
化活性 について検討 した。
2.実験
1
)DPPHラジカル消去活性 の測定法
活性酸素の中でスーパーオキサイ ド, ヒ ドロキシル ラジカルお よび一酸化窒素な どはラジ
カルであ り,他 の化合物 を酸化す る力が強い。 これ らのラジカルに電子や水素原子 を供与 し
てラジカル構 造を消去す るような物 質は抗酸化剤 となる。 ビ タ ミンEや ビタ ミンCな どが こ
トdi
pheny
1
2pi
c
r
y
l
hydr
a
zy
l
のタイプ の抗酸 化剤 で ある。安 定 なフ リー ラ ジカルで あ る1,
(
DPPH)
に電 子あるい は水素 を供 与す る とラ ジカル 構 造が 消 失す る。 DPP
Hラジカルは
5
1
7
nmの光を特異的に吸収 し,ラジカル構造が消失 した量 に比例 して吸光度が低下す るので,
テルペ ノイ ド添加 による吸光度の減少量を分光光度計で測定 し, ラジカル消去率 (%)を求
めた。DP
PHとテルペ ノイ ドの反応 はe
0%エ タノールを含むpH5.
5
の酢酸 buf
f
e
r
にDPPHを溶
解 し,室温暗所で30
分 間行 った。試料 のテルペ ノイ ドはジメチルスルホキシ ド (
DMSO)
に溶解 し,反応液 中の濃度はDP
PHと同じ5
0〝Mとした。
2) リノール酸の酸化抑制活性 の測定法
ロダン鉄法 により測定 した。 ロダン鉄法は リノール酸の酸化によって生成する過酸化物 (ヒ
ドロペルオキシ ド) を定量す る方法である。2価鉄が過酸化物 により3
価鉄に酸化され, この
LH-◆L・
L・十02 ー LOO ・
LO〇・十LH 一 LOOH十L・
LOOH + Fe2' _ LO・+OH+Fe3
'
Fe
3
十 十3S
CN
ー
Fe(
SCN)
3(
赤色)
図3
. リノール酸の酸化抑制活性の測定法
-1
1
8-
3価鉄がチオ シア ン酸ア ンモニ ウム と反応 して赤色の ロダ ン鉄が生成す る。 これ を500nmで
比色定量す るこ とに よ りリノ ール酸 の酸化 度 を測定す る (
図3) 。 リノール酸の酸 化 を抑制
す る活性 を もった化合物が存在す る と何 も加 えていない場合 に比べて過酸化物の生 成量が低
下す るので,その低下率に 羊 り抗 酸化活性 を評価す るこ とができる. リノール酸の酸化反応
0%エ タノール を含 むp
H7.
0の リン酸buf
f
er
に溶解 した リノール酸 を 4
0o
Cの暗所 で5日間
は,4
1
イ ンキ ュベ - トす るこ とに よ り行 った 。 ス ギの テル ペ ノイ ドは エ タ ノー ル溶 液 と し,0.
mM とな る よ うに反応液 に添加 した。
3.結果お よび考察
1
)DPPHラジカル消去活性
ビタ ミンEである α-トコフェロールや代表的な合成抗 酸化剤 であるブチル ヒ ドロキ シ トル
エン (
BHT) と比べ る と弱いが,化合物 No lのフェルギノール をはじめ としてい くつかの
表1
) 。それぞれ の化合物
誘導体 にDPPHラジカル消去活 性が ある ことが 明 らか とな った (
の構造 と活性 の関係 を見てみ る と, まず, Nolの1
2位 のOH基がアセチル化 されたN02にお
ける活性 の低下か ら1
2位 のOH基 のラジカル消去活性- の 関与が示唆 された 。 また, この1
2
位のOH基の重要性 はN04とN05の活性 の違いに よって も支持 された。次にNolとN05の数
8
位-のCOOH基 の導入 は活性 に影響 しない ことが明 らか とな った。 さらにN0 5と
値か ら1
No6お よび N05とN07を比較 してみ る と1
2位 と1
4位のOH基では1
4位 のOH基 を もった方の
2位 のOH基 の代わ りにMi2基 を導入 して も活性 に影響 しない ことが明 らか と
活性が強 く, 1
4位 と1
2位でかな り活性 に差
な った。 N07とN08の差 はOH基 の場合 と異な り, NH 2基 では1
があることを示唆 した。
2) リノール酸の酸化抑制活性
DPPHラジカル消去活性 とほぼ同様 にNo1
, No5
, No6
お よび N07
がかな り強い リノー
ル酸の酸化 に対す る抑制 活性 を示 した。最 も強か った フェルギノール の活性 はBHTにほぼ
匹敵す るものであった。 DPPHラジカル消去活性が弱か ったNo2
,No3
お よびN08の抑制活
性は弱か った。DPPHラジカル消去活性 とリノール酸の酸化抑制活性 には相関が見 られたが,
8位がCOOH
両者は完全 には一致 しなか った。 NolとNo5お よび N05とN07の比較 に よ り1
基 にな る と活 性が低下 し, 1
2位のOH基 の代わ りにMi2基 を導入す る と活性が ほ ぼ2倍 にな
ることが明 らか とな った . COOH基 の 導入 に よ る活性 の低 下 は同 じCOOH基 を もつ リノー
ル酸 との電荷に よる分子 ど うしの反発 に よる ものではないか と推定 された。他 の測 定法 によ
る抗酸化活性 を測定す る必要がある。
4.結論
スギ材テルペ ノイ ドの一つであるフェルギノール とそ の誘導体 に抗酸化活性があ ることが
明 らか とな った。化学構造 と抗 酸化活性 の関係 について もい くつかの情報が得 られ た。 これ
2位 と1
4位 の両方 にOH基 またはNH。
基 を導入 した化合物 あるいはN0 6と
らの情報 を もとに1
N0 7か らCOOH基 を除いた化合物等,今後 さ らに強い抗酸化活性 をもった誘導体 を合成す
ることができる もの と期待 され る。
-1
1
91
表 l フ工ルギ ノール および誘導体の抗転化活性
No
E
PP
Hラジカル
消去活性 (
%)
化合物
㌔
H
こ1
2
三
H
,
.
1
1
8
l7
2
.
_
良
l
≡
A
C
4
i
_
モ
良
o
o
t
H
=
5
_
.
c
鍋
o
J
H
O
=
H
7
_
,
℃
良
0
0
[
日
=
.
N
_
泊
も
O
o
J
H
N
=
H
z
8
‰
I
H
≡
N
H
,
6
9
10
(
:
H
J
3
C
◎
BH
C(
CH3
,
3
α-ト
C
c
H
r
i
,
コフェロ
c
C
,
H
i
一
(
ー
CHl
ル
C一
七{
?
‖
I
H
{
.
刑l
)
J
1
C
H
,
O
t
-1
2
0-
リノール酸薮化
抑制活性 (
%)
22.
8
66.
9
2.
2
1
8.
7
3.
1
ll.
5
21.
3
31.
7
33.
7
43.
9
22.
7
56.
8
2.
2
9.
4
42.
2
80.
6
86.
6
46.
8