乳癌体験者のQOLに対する運動療法の 効果に関するメタアナリシス

抗がん剤のエキスパートをめざす薬剤師のための情報誌│チーム│
TeAM Information
●がん患者支援の最前線
薬樹株式会社
薬樹薬局 船橋金杉2号店(千葉県船橋市)
なるのは製薬企業からの情報ですね」。星野先生は、疑問を
乳がんのホルモン療法の
副作用対策としての漢方薬
千葉県船橋市の地域がん診療連携拠点病院である船橋市立医療センター前に所在
持った時はすぐに担当MRや問い合わせ窓口に電話をして
適正な使用方法や学会での最新報告などを聞き出し、疑義
する薬樹薬局船橋金杉2号店は、
服薬指導や生活指導を通じて同院の患者様のサポート
星野先生は漢方薬・生薬認定薬剤師の資格も取得されて
照会の際に役立てています。
「初回にしっかり疑義照会を行え
をしています。介護支援専門員
(ケアマネジャー)第一期生でもある星野淑子先生に、
います。
「 開腹術後の腸閉塞予防に大建中湯がよく使われて
ば、その後も自信を持って服薬指導ができますし、患者さんの
いるのを知り、興味を持ち始めたのがきっかけです。学生時代
安心にも繋がります」。
はむしろ漢方に苦手意識を持っていましたが、今は認知症の
薬樹薬局船橋金杉2号店では、
日々の業務の中で新たに
周辺症状の改善や小児科のウイルス性疾患の治療にも処方
学んだ知識は、店内の勉強会などで共有するように努めてい
されるなど、改めて漢方の力を認識しています」。
ます。同店は薬学生の調剤薬局実習を受け入れているので、
最近、がん専門病院でも漢方外来を開設する施設が出て
その期間中は特に頻繁に実際の処方せんを使用した勉強会を
きました。抗がん剤の副作用には末梢神経障害による手足の
開いています。処方せん1枚から病名や処方意図を読み解き、
痺れなど、重篤ではないものの生活に支障を来すものがあり
全員で対応を考えることで現実の服薬指導にも役立っている
ます。乳がんのホルモン療法中に現れるホットフラッシュなどの
そうです。
さらに、会社提供のe-Learning・通信講座・毎月1回
副作用の問題はないとの
更年期様症状も、
日常生活に不快感や抑うつ気分をもたらす
日曜日開催のスキルアップ講座(日本薬剤師会生涯学習支援
お話をうかがっていまし
厄介な副作用です。
システム登録研修会)
などの利用で、夜間の講演会に参加でき
介護支援専門員
(通称:ケアマネジャー)
とは、
「要介護者
た。
「元々、
生理的な更年期障害の治療には漢方薬がよく使われ
ない人や子育て世代も継続して学ぶことができ、
また店舗の
や要支援者の人の相談や心身の状況に応じるとともに、
ある日、
ご本人が一緒
ていますので、
ホルモン療法中の患者さんから更年期様症状の
薬剤師が知識を共有してスキルアップができています。
サービス
(訪問介護、
デイサービスなど)
を受けられるように
に来局されたので『痛み
悩みを聞いた時は、
改善する方法があることをお伝えし、
先生に
「最近は調剤薬局にも地域での役割が求められるようになり
ケアプラン
(介護サービス等の提供についての計画)
の作成
が強い時に坐薬を入れる
相談するようアドバイスをしています。
ホルモン補充療法は当然、
ました。
また、医療の場も病院から在宅へと広がり、薬剤師が
や市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行う者」
のは大 変ではないです
選択外ですから、必然的に漢方薬が処方されることが多い
知っておくべき知識や情報も増えています。
その時々に興味を
(厚生労働省WEBより)
とされています。
薬樹薬局船橋金杉
か』
とお尋ねしましたとこ
です。相談をためらう方には
『薬剤師から話を聞いた、
と先生に
持ったことはどんどん学び、チャレンジしていくべきでしょう。私
2号店の星野淑子先生は、1998年に第1回目のケアマネ
ろ、
『 そうなんだよ、特に
言ってくださって良いですよ』
と背中を一押しします」。
自身も介護や漢方薬に関して学んできたことが、巡り巡って
ジャー試験を受験し、
資格を取得されています。
夜中に痛い時は大変な
さらに、
「乳がんのホルモン療法は5∼10年と服用が長期に
今、役立っています。今後は若い世代への乳がん検診の啓発
「資格を取得しようと思ったのは、前年に介護保険法が
んだ』
とおっしゃるので、
及びます。辛い症状を我慢しながら治療期間を過ごすのでは
活動や在宅医療への関わりを深めていきたいですね」
と、星野
なく、少しでも楽にハッピーに治療を継続して欲しいと思います。
先生は今後の目標を語られました。
「薬と生活」
の二つの視点で行う服薬指導についてうかがいました。
+αの資格が服薬指導に深みを与える
薬剤師以外の資格を取得して
星野淑子 先生
ストアマネジャー 管理薬剤師
介護支援専門員
Zeng Y, et al. Meta-analysis of the effects of exercise intervention on quality of life in breast cancer survivors.
Breast Cancer 2014; 21: 262-74
■ 結果
●本論文で使用されたQOL尺度
●標準化平均差(SMD)
と加重平均差(WMD)
SF-36は、健康関連のQOLを測定できる尺度で、疾患による身体機能
SMDは2群間の平均値の差を標準偏差で割ったもの、すなわち尺度
や精神状態への影響や全般的な健康感について評価可能である。
に無関係な効果の大きさ
(effect size)を表したものである。異なる
薬樹の理念は「まちの皆さまと共に健康な毎日をつくり
EORTC QLQ-C30およびFACT-Gは、癌患者のQOLを測定するため
研究において同一の連続変数を異なる尺度(単位)
で評価し、
それらの
笑顔とありがとうの輪を広げる」。
の尺度で、癌による身体的・精神的・社会的な機能への影響に加えて、
結果を統合してメタアナリシスを行うような場合に使用する。同一の
健康ナビゲーターとして人の健康を支援するだけでなく、
症状に対する患者自身の主観的な評価が可能となる。
こられの尺度を
尺度(単位)で評価している場合には、結果の統合には重み付けした
社会、地球の健康への貢献も目指しています。薬局に管理
乳癌に特化したものが、EORTC QLQ-BR23およびFACT-Bで、乳癌
平均の差であるWMDを用いる。
に特異的な設問、たとえば「乳房に関する症状」や「脱毛による落込み」
なお、
これにより算出されたeffect sizeは大きいほど効果が高いことを
といったものが含まれている。
示す。
『そのような時には奥様
自分にも何かできることがあるだろうかと考えたのがきっか
にお願いされているので
漢方薬は、
アドヒアランスやQOLに影響する副作用を改善する
けです。受験日の1年ほど前から資格取得のための勉強を
すか』
と重ねてうかがったところ、
『いや、起こせないよ』
と
ための選択肢の一つであり、
何より患者
始めました。第1回目ですから試験内容が全く予想できま
言われたのです。介護で疲れている奥様への気遣いで、
さんの心の支えや希望になるでしょう」
せん。1日のノルマを決めて、
ひたすら教科書を読み込みま
痛みを我慢されていたということを知り、
申し訳なさで胸が
との考えを示されました。
した。
幸い無事に合格することができ、
2006年4月の更新制度
一杯になりました」。
薬樹株式会社の取り組み
「健康ナビゲーターとして、人・社会・地球の健康に貢献する」
導入以降は5年ごとに更新研修と実習を受け、資格を更新
薬剤の面では疼痛管理に十分な量が処方され、副作用
しています」
(星野先生)。
もコントロールできていましたが、介護者でもある家族との
星野先生は、
ケアマネジャーの資格を取得した時は、
調剤
生活という面で課題があったのです。星野先生はその場で
薬局薬剤師の仕事に役立つとは考えていませんでした。
しか
患者さんに経口剤が服用できるかどうかを確認して、
最終的
今までに経験のない薬や使用方法
し、
資格取得のための勉強を通じて、
生活を支えていく介護と
には主治医と相談のうえ、
レスキュー・
ドーズを経口モルヒネに
の処方せんの初回の応需時は特に
栄養士を配置したり、在宅特化薬局やスロースタイルを
いう視点を持つことができ、
今では在宅医療や服薬指導など
切り替えることで対応されたそうです。
気を配り、
疑問はすぐに照会することが
発信する雑貨店のような薬局を展開したり、天ぷら油を
様々な場面で役立っていると実感されているそうです。
薬剤師の視点はやはり、副作用に伴う辛い症状の解決と
重要です。
「 幸い船橋市立医療セン
アドヒアランスに向きます。一方、
ケアマネジャーの視点は、
ターは、すべての疑義照会に対して
介護者を含めた生活の中の一部として服薬、療養を考え、
主治医が直接、
電話口で回答していた
少しでも日常生活の状態を上げることに向きます。
「研修など
だけるので、処方意図の確認ができ
「自宅で療養されているがん患者さんは、
ご家族をとても
で他職種の方と接する機会が増え、
自分自身の視野が
ます。
その際に注意する点は、
こちらの
働いています。社員の1人が氏田正人さん。
自閉症と知的障
気遣っています。
ある呼吸器がんの患者さんは、がんの痛
広がりました。
2人に1人ががんに罹患する時代ですから、
質問意図をしっかりと先生に伝えること
がいという二つの障がいがあり言葉でのコミュニケーション
み治療のために医療用麻薬の貼付剤とレスキュー・ドーズ
がん患者の在宅療養時の介護認定や薬剤師が生活の
です。
それにはまず、
抗がん剤の基本的
の坐薬を処方されていました。呼吸器がんなので、嚥下がし
場に介入するケースも増えて来るでしょう。
医療と介護という
な知識と、適応・適応外処方に関する
難いことへ配慮した処方だったと思います。普段、薬を受け
複数の視点は今後益々必要とされると思います」
と星野先生
最新の情報を知っている必要がありま
取りに来られるご家族への問診では、便秘や吐き気など
は強調されました。
す。事前の勉強は当然ですが、頼りに
薬剤師の視点、ケアマネジャーの視点
乳癌体験者のQOLに対する運動療法の
効果に関するメタアナリシス
■ 背景・目的
成立し、
自分の両親も含めて高齢社会に突き進むなかで、
興味を持ったことを学び、
チャレンジする意欲を
乳癌のホルモン療法で薬剤師が押さえておくべき文献をご紹介します
回収したりと、
とにかく先進的でユニークで真面目な保険
薬局運営会社、それが薬樹です。
●上小町店。
「見せる薬局」をコンセプトに、店外からも店内
でお待ちの方もお薬ができるまでがよく見えるようになって
いる。
その理念実現の一環として設立したのが、障がい者雇用
の特例子会社「薬樹ウィル」。白衣のクリーニング、A5用紙
Point!
Check
●
監修
佐伯 俊昭 先生
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科 教授
薬剤部 部長
販売、物流業務を担当し、11名の障がい者社員が元気に
が困難ですが、
絵を楽しまれていて、
1993年のアート村夢の
デザイン大賞受賞をはじめ、
展覧会への出展や個展を開催、
2013年には新世紀展
(新世紀美術協会主催)
にて奨励賞を
受賞するなど、
今後の活動が注目されています。
乳癌の診断と治療は患者に身体的、心理的ダメージを
組み入れ条件を満たした25試験のうち19試験からメタ
与え、特に認識機能障害、慢性疲労、体重増加、性機能
アナリシスに要する十分なデータが得られた。運動療法は、
障害や不妊は生活の質(QOL)
に大きく影響する。近年、 有酸素運動、無酸素運動、
ヨガ、太極拳、
レジスタンス運動
乳癌の生存率は非常に高く、生存者の長期QOL維持の (筋力トレーニング)およびストレッチの単独または併用で、
方策が求められている。一般に運動療法は癌体験者の
その期間は4∼52週間、頻度は週1∼5回、1回に15∼90分
身体および心理機能を改善することが明らかにされてい
であった。
る。乳癌体験者のQOLに対する運動療法の効果を検証
運動療法群は対照群に比較して全般的QOLが高く、
した。
総スコア変化のSMDは0.70( 95%CI 0.21-1.19)
であった
(p=0.005)
。
癌一般的QOLスコア変化にも改善を認め、
■ 方法
5つのデータベース
(Medline、CINAHL、Scopus、 SMDは0.38( 0.03-0.74)であった(p=0.04)。乳癌特異的
The Cochrane Library、CAJ Full-text Database)
で、 QOLの評価では、
乳房症状
(Zスコア=1.12、
p=0.26)
および
2003年から2013年7月までの18歳以上かつ乳癌に対する
腕症状
(Zスコア=1.32、
p=0.19)
で有意ではないものの改善
治療が完了した乳癌体験者を対象とした。
解析は運動療法
を認めた。
がQOLに与える影響を検討した比較試験にて行った。 運動の種類としては、
有酸素運動、
ヨガ、
太極拳に有意な
QOLの評価尺度には、全般的QOLとしてSF-36等、癌一般
QOLスコア改善効果が認められた。
また25試験中1試験に
的QOLとしてFACT-G、EORTC QLQ-C30、あるいは
おいて、運動療法に関連した副作用として、
リンパ浮腫の
乳癌特異的QOLとしてFACT-B、EORTC QLQ-BR23が
発現率が対照群よりも高かった。
用いられていた。Cochrane Collaboration’
s Review
■ 結論
運動療法は乳癌体験者の全般的QOLを有意に改善する
Manager
(RevMan 5.2)
を用いて、
effect size
(効果量)
の
統合推定値を算出した。
連続変数は、
加重平均差
(WMD) と同時に、乳房や腕症状などの乳癌特異的QOLドメインを
改善する傾向が確認された。運動療法を乳癌体験者の
または標準化平均差(SMD)
および95%信頼区間(CI)
で
QOLマネージメントの一環として考慮すべきである。
要約した。有意水準はp<0.05とした。
●氏田正人さんの作品「草むらの音楽会」。
乳癌治療の進歩に従い乳癌患者の生存期間も改善し、
また長期
化したが、
その生涯の中で患者がいかに良好なQOLを維持していく
かが新たな課題となっている。
乳癌と運動の関連については、QOLを含め、
その予防効果につい
ても過去にいくつも研究がなされてきた。乳癌診療ガイドラインでも、
乳癌診断後の運動が死亡リスクを減少させること、閉経後女性では
運動が乳癌発症リスクを減少させることが、
それぞれエビデンスレベル
として
「ほぼ確実」
としている
(ただし、閉経前女性と運動との関連に
一定の結論は出ていない)。
この論文では乳癌治療を受けた患者のQOLに対して、運動療法
が全般的QOLを有意に改善した。身体的、社会的、精神的などの
多くの因子で決定されるQOLでは、
運動療法により臓器機能の向上、
地域社会との接触、
そして再発の不安を克服する精神的鍛練を得ら
れることが大きいと思う。
また、QOLの改善が、乳癌死亡リスク低減を
もたらし、
さらに死亡リスクとして重要な肥満を予防することで、個体
の全般的な健康度を改善すると考える。