B.トランスポーター トランスポーターはチャネルやポンプ,レセプターと共に細胞膜に存在する膜タンパク 質であり,基質の濃度勾配に(電気的ポテンシャル)に逆らう能動輸送と受動輸送の両者 を行い,内因性物質を輸送基質とするだけでなく、薬物や環境化学物質を含む多くの外因 性物質も認識し輸送を行う多選択性(特異性の低さ)が特徴となっている.トランスポー ターはチャネルとは異なり”pore”が全開になることはなく、輸送のたびに基質結合部位 の向きを細胞内・外に一回ごとにスイッチ・リセットしながら物質を輸送するため,輸送 率が 10 ∼ 10 個/秒とチャネルの輸送率の 10 万分 1 位程度に遅くなる。 1 4 最近では,単一の輸送分子(トランスポーター,チャネル,ポンプ)だけではなく,そ れらが様々な相互作用によって関係し合った輸送分子群,機能制御分子群,PDZ-K1, NHERF1,NHERF2 のような足場タンパク質(scaffold protein)群が集積して形成する分 子複合体(トランスポートソーム)へと概念が広がっている. (1)トランスポーターの分類 トランスポーターは,HUGO(The Human Genome Organization;ヒトゲノム国際機構) により ATP の加水分解エネルギーを利用して輸送を行う ABC (ATP binding cassette) フ ァミリーと、ATP のエネルギーを用いないで輸送を行う SLC (Solute carrier) ファミリー の二つに分けられ、遺伝子の相同性等からさらにサブファミリーに分類されている。 ABC (ATP binding cassette) ATP の加水分解エネルギーを利用して主に「排出型」の一 ファミリー 次性能動輸送を行う。 SLC (Solute carrier) ファミリ ATP のエネルギーを用いず,一次性能動輸送により形成さ ー れたイオン勾配などを駆動力とする「取り込み型」の二次 性能動輸送や濃度勾配,電位差などに従って基質が移動す る促進拡散によって輸送を行う。 ABC トランスポーターの分類 シークエンスの類似性、膜貫通領域(TM) と ATP 結合領域(ABC)の構成パターンに基 づいて A から G の7つのサブファミリーに 区分されている. -1- -2- SLCトランスポーターの分類 -3- (2)ABC ファミリー ABC ファミリーは、ATP 結合領域のアミノ酸配列の相同性等から A ∼ G までの7つ のサブグループに分けられている.ほとんど全ての生物は、50 種類前後の ABC タンパク 質遺伝子を染色体上にもっており、生物界全体の遺伝子ファミリーとしては最も大きなも のの1つである.真核生物では多くの場合、膜貫通領域と ATP 結合領域はひと続きのペ プチド鎖となっており、ちょうど ATP 領域がカセットのように膜結合領域に挿入されて いる。 ① ABC1(ABCA1) ABC1 は高密度リポ蛋白質(HDL)の形成に必須であり、その異常は血中 HDL が極 端に 少ないタンジール病を引き起こす。このことは、リン脂質やコレステロールな どの脂質の膜を介した輸送は、濃度勾配に従った自由拡散ではなく ATP に依存した トランスポーターが関与していることを示している。ABC1 は apoA ‐ I にコレステ ロールとリン脂質を受け渡し HDL を新生する。ABC1 の変異は動脈硬化症の重要な 危険因子であることが疫学的にわかっており、ABC1 の発現や活性の増強は脂質恒常 性の改善の重要なターゲットである。 ② MDR1(multidrug resistance 1),P-gp(ABCB1) 代表的な ABC タンパク質遺伝子である MDR1 は、癌細胞の抗癌剤耐性のメカニズムの 研究過程で発見された.MDR1 遺伝子がコードするタンパク質は、P 糖タンパク質(P-ga ;Permeability-Glycoprotein)ともよばれ、正常組織で発現しているだけでなく、癌細胞で 高発現している.MDR1 を培養細胞で発現させると、MDR1 は様々な構造の抗癌剤を ATP 加水分解に依存して細胞外へ排出し、細胞内濃度を減少させる.その結果、細胞は抗癌剤 に対して多剤耐性となる. 体内において、MDR1 は、小腸,肝臓,腎臓および脳の毛細血管に発現している.消化 管上皮細胞の管腔側膜の MDR1 は,食物中に含まれる低分子脂溶性化合物が小腸上皮細 胞を透過して体内に入ろうとするとき、膜中でそれらを結合し ATP 加水分解に依存して 管腔中へと排出する.それによって食物中の様々な構造の有害な脂溶性化合物が体内に吸 収されるのを防いでいる.肝臓および腎臓では脂溶性有害物を胆汁中、尿中へと排泄して いる.また、脳毛細血管内皮細胞では血液脳関門として機能している.MDR1 は分子量約 300 から 2000 程度まで様々な構造の脂溶性物質化合物を結合し排出することが可能であ り、多くの薬剤の小腸からの吸収や体内動態を決定する第一の因子となっている. (薬物相互作用) 本トランスポーターは,細胞内から細胞外へ汲み出す(排出)する方向に働く.尿細管 上皮細胞や肝細胞の管腔(尿細管,胆管)側に発現し,腎分泌や胆汁排泄に働く.また, 脳毛細血管内皮細胞(BBB)では,血液側膜に発現し,内皮細胞に移行した薬物を血液側に 汲み出す脳移行のバリアとして機能している.消化管では,MDR1 は腸粘膜上皮細胞の管 腔側膜上に存在し,上皮細胞に吸収された薬物を消化管管腔へ汲み出し(分泌),消化管 -4- からの薬物吸収量を調節する消化管吸収バリアとして存在している.したがって,消化管 における相互作用では,MDR1 阻害による吸収促進(薬効増強),および活性化(誘導など) による吸収抑制(薬効減弱)が問題となる.MDR1 を阻害する例については,比較的多く の報告があるが,チトクロム P450(CYP3A4)の基質認識性が似ているため,MDR1 の阻害 に起因するのか,CYP3A4 の阻害に起因するのか区別する必要がある. エトポシドの腸管からの吸収は,キニジン(MDR1 阻害薬)の投与により増加し,エト ポシドの血中濃度は著しく増加する.この著しい増加の一部には,腸管,肝における CYP3A4 を介する代謝阻害,MDR1 を介する胆汁排泄の阻害,腎における MDR1 の分泌 阻害などが関与していると考えられているが,主な原因は,キニジンによる MDR1 阻害 作用によるエトポシドの腸管内排出阻害による二次的な腸管吸収の増加であるとされる. (臨床薬物動態学 南江堂) (遺伝子多型) ・小腸の MDR1 高発現群では,タクロリムス拒絶反応抑制作用が低下する. ・C 3435 T で,モルヒネの消化管吸収の亢進とモルヒネ鎮痛作用の増強作用が見られ る.(臨床薬物動態学 蛋 白質 名 主な発現部位 南江堂) 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 主な誘導剤 (遺伝子名) MDR1 肝細胞胆管側 比 較 的 か さ 高 い ジギタリス製剤 P-gp 腎再尿管細胞刷子 構 造 を 有 す る 化 フェキソフェナジン (リトナビル) (ABCB1) 縁側 合物(CYP3A4 の インジナビル HIV プロテアーゼ阻害薬 リファンピシン シクロスポリン 小腸上皮細胞管腔 基 質 と 類 似 し て ビンクリスチン ベラバミル 側 コルヒチン マクロライド(エリスロマ トポテカン イシン,クラリスロマイ パクリタキセル シン) いる) 血液脳関門血管側 セント・ジョー ンズ・ワート アゾール系(ケトコナゾ ール,イトラコナゾール) キニジン ③ MRP2(multidrug resistance-associated protein 2), cMOAT(ABCC2) 有機アニオン性薬物の胆汁酸排泄に働く、重要な ABC トランスポーター。薬物の初回 通過効果および体内動態に大きな影響を与えるだけではなく、腫瘍にも高い発現が認めら れることから、抗癌剤の薬剤耐性への関与も、強く示唆されている.重篤な肝障害などを 引き起こす Dubin-Johnson 症候群の原因遺伝子として特定されている. 蛋白質名 主な発現部位 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 (遺伝子名) MRP2 肝細胞胆管側 有機アニオン cMOAT 腎尿細管細胞刷 グルクロン酸抱合体 プラバスタチン インジナビル -5- シクロスポリン 主な誘導剤 (ABCC2) 子縁側 グルタチオン抱合体 小腸上皮細胞管 胆汁酸硫酸抱合体 シスプラチン 各種薬物の抱合体 腔側 ④ MRP3 (multidrug resistance-associated protein 3)(ABCC3) グルクロン酸抱合体及び抗生物質や消炎剤のような様々な非抱合型有機アニオン系化合 物を輸送する.小腸では小腸上皮細胞の基底側底膜に局在し、薬物および胆汁酸の小腸か らの吸収に関与していると考えられており、肝臓においては、肝実質細胞の基底側底膜(血 管側)に局在しており、肝臓からの異物排泄において、極めて重要な役割を果たしている。 蛋白質名 主な発現部位 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 主な誘導剤 (遺伝子名) MRP3 肝細胞類洞側 基質は MRP2 と類似 エトポシド (ABCC3) 小腸上皮細胞血管側 肝細胞内代謝物や抱合体 メトトレキサート を類洞側へ排出 基質の多くは阻 害剤として作用 する 腎尿細管細胞で刷子縁側 で再週休されたものなど の血管側への排出 ⑤ MRP4(ABCC4) 基質や機能は,MRP3 と類似している.小腸では管腔側への再排泄と血管側への排出 (グルクロン酸抱合体を含む),腎ではプリン誘導体の排泄やメトトレキサート,セファ ロスポリン,オルメサルタン,プロスタグランジン,フロセミドの分泌に関与. 蛋白質名 主な発現部位 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 (遺伝子名) MRP4 肝細胞類洞側 基質や機能は MRP3 と類 メトトレキサー プロベネシド (ABCC4) 腎尿細管細胞刷子縁側 似 セファロスポリン シクロスポリン 血液脳関門血液側 オルメサルタン イマチニブ 小腸上皮細胞管腔 プロスタグランジ 血管の両側 ン フロセミド -6- 主な誘導剤 (3)SLC ファミリー SLC トランスポーターの二次構造 SLC ファミリーの膜貫通回数は,トランスポーターごと に異なる.名称は一部を除き,SLC 後に遺伝子ファミリー を表す数字(1 ∼ 47),続いてアルファベット A,最後にサ ブファミリーでの通し番号となる. ①ペプチド共輸送体(PEPT) (SLC15) タンパク分解産物である 2 ∼ 3 アミノ酸から構成される小ペプチドの吸収において重要 な役割を果たすことから,小腸における栄養吸収を担う輸送系であると考えられてきた. PEPT1,PEPT2 が同定され,いずれも 12 回膜通過型構造を有し,アミノ酸配列で 50 %以 上の相同性を示す.いずれのトランスポーターも細胞内外に生じるプロトン(H+)勾配 に依存してプロトンとともに基質を共輸送しており,アミノ酸や 4 残基以上のペプチドは 輸送しない.PEPT1 は,小腸上皮細胞の微絨毛が密に存在する刷子縁膜において薬物の 消化管吸収に関与し,腎臓の尿細管上皮細胞においても管腔から細胞への薬物の再吸収に 関与している.PEPT2 は,腎臓の尿細管上皮細胞において管腔から細胞への薬物の再吸 収に関与している.PEPT1,PEPT2 では,構造がペプチドと類似するベスタチン,ACE 阻害薬,β-ラクタム系抗生物質,δ-アミノレブリン酸などが基質となる.また,バラシ クロビルやバルガンシクロビルは,それぞれアシクロビル,ガンシクロビルを L-バリン エステルにすることにより吸収性を改善している. 蛋白質名 発現部位 基質の特徴 主な基質物質 (遺伝子名) PEPT1 主に小腸 ジペプチド,トリペプ アンピシリン (SLC15A1) 腎臓 チドおよびペプチド様 アモキシシリン 構造を有する化合物 β-ラクタム系抗生物質 カプトプリル エナラプリル バラシクロビル PEPT2 (SLC15A2) 腎臓 ジペプチド,トリペプ アンピシリン チドおよびペプチド様 アモキシシリン 構 β-ラクタム系抗生物質 造を有する化合物 カプトプリル -7- 主な阻害剤 主な誘導剤 ②有機アニオントランスポーターファミリー(OATP,SLCO) (SLC21) ナトリウム非依存的に両親媒性の有機アニオン輸送を媒介.OATP 遺伝子群は,肝臓, 血液脳関門,脈絡叢,肺,心臓,小腸,腎臓,胎盤,精巣など多様な組織に分布し,血液 と組織との物質交換に関与すると考えられている.OATP ファミリーは,多様な基質認識 特性を示し,胆汁酸やグルタチオン,グルタチオン抱合体を基質とする.シゴキシン,ACE 阻害薬であるエナラプリルやテモカプリル,HMG-CoA 還元酵素阻害薬であるプラバスタ タチンなどの薬物が OATP によって輸送される.OATP1B1,OATP1A3 は肝臓の血管側膜 上に発現しており 90 %の相同性があり、肝臓細胞類洞側から肝細胞内への薬物輸送にお いて主要な役割を果たすと考えられている.OATP1B3 は正常ヒト組織では、肝臓のみに 弱く発現しているが、胃癌、大腸癌、膵臓の癌組織などにおいて多量に発現しており、メ トトレキサートの輸送に関連して、その感受性を決定するトランスポーターであると考え られている。 蛋白質名 発現部位 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 主な誘導剤 (遺伝子名) フェキソフェナジン グレープフルーツジ プラバスタチン ュース HMG・CoA 還元酵素阻害薬 シクロスポリン リファンピシン OATP-C ボセンタン リファンピシン エファビレンツ (SLCO1B1) リファンピシン(フェキソフェ OATP1A2 消化管 有機アニオン OATP-A (SLCO1A2) OATP1B1 肝臓 有機アニオン ナジン) ARB,ACE-I メトトレキサート SN-38 ジゴキシン リファンピシン OATP8 フェキソフェナジン エファビレンツ (SLCO1B3) メトトレキサート OATP1B3 肝臓 有機アニオン リファンピシン OATP2B1 肝臓 OATP-B 消化管 有機アニオン プラバスタチン グレープフルーツ フェキソフェナジン ジュース (SLCO2B1) (薬物相互作用) ・シクロスポリンとロバスタチンの相互作用において,in vitro で,シクロスポリンが OATP1B1 を介したロバスタチンの肝への取り込みを阻害していることが報告されてい る.また,他の HMG・CoA 還元酵素阻害薬においてもシクロスポリンとの相互作用に おいて OATP1B1 が一部関与していると考えられている. (遺伝子多型) -8- ・OATP1B1 には 20 種類以上の変異が知られており,特に頻度の高い遺伝子多型は A 388 G(Asn 130 Asp)と T 521 C(Val 174 Ala)の 2 カ所である.日本人においては, T 521 C 変異が A 388 G と高頻度に連鎖して OATP1B1*15(A 388 G + T 521 C)というハ プロタイプを形成していることが知られている.また,これらの変異はプラバスタチン 等における血漿中濃度,AUC に影響を与えている. ※ハプロタイプ;同一染色体上で遺伝的に連鎖している多型(SNPs など)の組合せ ③有機イオントランスポーターファミリー (SLC22) 有機イオントランスポーター(SLC22)遺伝子群には,有機カチオントランスポーター (OCT / OCTN)および有機アニオントランスポーター(OAT)が含まれる.SLC22 は 全て 12 回膜貫通型の構造を有しており,第1細胞外領域に長いループが存在する.この トランスポーターは,腎臓,肝臓,脳,小腸,胎盤などに分布している. OCT1 は,肝臓の類洞側膜において肝組織中へのカチオンの取り込みに関与していると 考えられている.また,OCT2 は腎近位尿細管測定膜に発現しており,腎臓へのカチオン 性薬物の取り込みに主要な役割を果たしていると考えられる.OCT は,内因性の脂質と して,コリンやドーパミンなどを,またメトホルミンやシメチジンなどの薬物を膜電位依 存性の促進拡散によって輸送する. OCTN1 および OCTN2 は有機カチオンに加えカルニチンを輸送するトランスポーター である.OCTN1 は腎臓,骨格筋,骨髄をはじめ様々な臓器や肝臓などに発現しており, 腎臓では,近位尿細管刷子縁膜に発現している.OCTN2 の遺伝子欠損によりカルニチン 欠乏症がおこる. OAT1 は,腎近位尿細管側底膜に発現し,腎機能検査薬パラアミノ馬尿酸(PAH)を輸送 するトランスポーターとしてクローニングされた.OAT1 および OAT3 は,腎近位尿細管 側底膜に局在しており,血管から腎上皮細胞へのアニオン性基質の輸送に重要な役割を果 たしている.これらのトランスポーターは広範な基質認識能を有し,PAH やメトトレキ サート,セフェム系抗生物質,アシクロビル,アデホビル,シドホビルなどの抗ウイルス 薬,シメチジン,ファモチジンなどのカチオン性薬物も輸送する.ペネム・セフェム系薬 剤の腎毒性は,分泌過程における尿細管上皮細胞への取り込みに関係しているとされてお り,これを避けるため有機アニオントランスポーター阻害薬のベタミプロンとパニペネム の配合剤が使用されている. 蛋白質名 発現部位 基質の特徴 主な基質物質 (遺伝子名) OCT1 肝臓 有機カチオン シメチジン ファモチジン (SLC22A1) ラニチジン メトホルミン OCTN1 (SLC22A4) 腎臓 有機カチオン キニジン ベラパミル -9- 主な阻害剤 主な誘導剤 OCTN2 腎臓 有機カチオン (SLC22A5) OAT1 ベラパミル 腎臓 (SLC22A6) OAT3 キニジン 腎臓 (SLC22A8) 有機アニオン, アシクロビル プロベネシド 有機カチオン アデホビル セファドロキシル メトトレキサート セファマンドール ジドブジン セファゾリン 有機アニオン, シメチジン プロベネシド 有機カチオン ジドブジン セファマンドール セファゾリン (遺伝子多型) ・肝 OCT1 において 420del でメトホルミンによる血糖降下作用が減弱する. (臨床薬物動態学 南江堂) ④プロトン/有機カチオンアンチポーター (SLC47) SLC47 遺伝子ファミリーである MATE(the mutidrug and toxin extrusion)はプロトン共役 型で電気的に中性のカチオン輸送体である. MATE1 は、腎臓近位尿細管の刷子縁膜側および肝細胞の胆汁酸排泄側に高い発現が認 められ,メトホルミン,シメチジンなどの非常に多様な有機カチオン性化合物の輸送を行 うことから、これまで明らかにされなかった親水性の有機カチオン性薬剤の腎および肝か らの重要な排泄経路として、現在、大きな注目を集めつつある。 蛋白質名 発現部位 基質の特徴 主な基質物質 主な阻害剤 (遺伝子名) MATE1 主な誘導剤 腎臓 有機カチオン (SLC47A1) シメチジン メトホルミン (4)トランスポーターの誘導 リファンピシンは,MDR1,MRP2,MRP3 などを誘導する一方,単回投与では,OATP1B1, MDR1,MRP1 などを阻害する.また,フェノバルビタール,バルプロ酸,オメプラゾー ルは,MRP2,MRP3,MRP4,MDR1 を誘導する. MDR1 の誘導剤の多くは,核内受容体を介して CYP450 や MRP,抱合酵素(UGT)も誘 導するため,P-gp の基質で,CYP450 や MRP,抱合酵素(UGT)の基質になる薬剤を服用 している場合には,血中濃度が更に低下すると考えられる. - 10 - ヒト小腸・肝臓・腎臓・脳に発現している主な薬物トランスポーター - 11 - 薬の吸収,分布,排泄に関する SLC トランスポーター - 12 - - 13 - - 14 - 添付文書にトランスポーターの記載のある主な薬剤 MDR1(P 糖蛋白) ○アレグラ(塩酸フェキソフェナジン) 併用注意 サノフィ・アベンティス エリスロマイシン 本剤の血漿中濃度を上昇させるとの報告がある。 P 糖蛋白の阻害による本剤のクリアランスの低下及び吸収率の増加に起因するものと推定さ れる。 ○サンデュミュン(シクロスポリン) ○ネオーラル(シクロスポリン) ノバルティス ノバルティス 本剤は代謝酵素チトクローム P450 3A4(CYP3A4)で代謝され、また、CYP3A4 及び P 糖蛋 白の阻害作用を有するため、これらの酵素、輸送蛋白質に影響する医薬品・食品と併用する 場合には、可能な限り薬物血中濃度を測定するなど用量に留意して慎重に投与すること。 ○サーティカン(エベロリムス)ノバルティス 本剤は主として肝代謝酵素 CYP3A4 によって代謝され、腸管に存在する CYP3A4 によって も代謝される。また、本剤は P 糖蛋白(PgP)の基質でもあるため、本剤経口投与後の吸収 と消失は、CYP3A4 又は PgP に影響を及ぼす薬剤により影響を受けると考えられる。 ○ジゴシン(ジゴキシン) 併用注意 中外 HIV プロテアーゼ阻害剤 リトナビル P 糖蛋白質を介した本剤の排泄の抑制により、血中濃度が上昇するとの報告がある。 (添付文書以外での報告例) ・腎尿細管分泌においてジルチアゼムやベラパミルの阻害により血漿ジゴキシンの増加が見ら れた. ○ジギトキシン錠「シオノギ」(ジギトキシン)塩野義 併用注意 アトルバスタチン P 糖蛋白質を介したジゴキシンの排泄抑制により,血中濃度が上昇したとの報告がある。 ○ラニラピッド(メチルジゴキシン)中外 併用注意 H M G - C o A 還元酵素阻害剤 アトルバスタチン P 糖蛋白質を介した本剤の排泄の抑制により血中濃度の上昇が示唆されている。 ○タシグナ(塩酸ニロチニブ水和物) 併用注意 ノバルティス CYP3A4、P 糖蛋白の基質及び阻害する薬剤 イマチニブ等 本剤及びこれらの薬剤の血中濃度が上昇することがある。 本剤とイマチニブの併用により、イマチニブの AUC は 18 ∼ 39 %、本剤の AUC は 18 ∼ 40 - 15 - %上昇したとの報告がある。 これらの薬剤が CYP3A4 及び P 糖蛋白の活性を阻害して本剤の血中濃度を上昇させる可能 性、及び本剤が CYP3A4 及び P 糖蛋白の活性を阻害してこれらの薬剤の血中濃度を上昇さ せる可能性がある。 有機アニオントランスポーターファミリー(OATP) ○クレストール錠(ロスバスタチンカルシウム) アストラゼネカ 臨床試験(外国人データ) シクロスポリンを投与されている心臓移植患者にロスバスタチンを併用投与したとき、ロス バスタチンの Cmax 及び AUC0-24h は、健康成人に単独で反復投与したときに比べてそれぞ れ 10.6 倍及び 7.1 倍上昇した。 ゲムフィブロジル(本邦未承認)と併用投与したとき、ロスバスタチンの Cmax 及び AUC0-t はそれぞれ 2.21 倍及び 1.88 倍に増加した。ロスバスタチンはトランスポーター OATP-C (OATP-2)を介して肝臓に取り込まれ、シクロスポリンとゲムフィブロジルはその取り込 みを阻害することによって、ロスバスタチンの血漿中濃度を増加させると考えられている。 ○リバロ錠(ピタバスタチンカルシウム) 興和 (1) In vitro 試験 ピタバスタチンカルシウムの肝臓への取り込みに有機アニオントランスポーター OATP1B1 (OATP-C / OATP2)が関与しており、シクロスポリン、エリスロマイシン及びリファンピ シンによって取り込みが阻害された。 有機アニオントランスポーター(OAT) ○ベネシッド錠(プロベネシド) 併用注意 科研 ノギテカン塩酸塩 ノギテカン塩酸塩の腎クリアランスが低下するおそれがある。 動物実験において、ノギテカン塩酸塩の腎排泄に有機アニオントランスポーターが関与して いることが示唆されているため。 ○リファジン(リファンピシン) 併用注意 第一三共 ピタバスタチンカルシウム 外国人健康成人を対象に行った併用試験において、ピタバスタチンの Cmax 及び AUC が上 昇したとの報告がある。 有機アニオントランスポーターを介したピタバスタチンの肝臓への取り込みを阻害すると考 えられる。 - 16 - ○ヘプセラ(アデホビル ピボキシル) 併用注意 グラクソ・スミスクライン 尿細管分泌(ヒト有機アニオントランスポーター 1(hOAT1))により排泄される 薬剤 アデホビルあるいは併用薬の血中濃度が上昇する可能性がある。 hOAT1 を介した排泄が競合するためと考えられる。 ペプチド共輸送体(PEPT) ○バルトレックス(バラシクロビル塩酸塩) グラクソ・スミスクライン 薬物動態 バラシクロビルはアシクロビルの L-バリルエステルであり、経口投与後、主に肝初回通過 効果によりアシクロビルに加水分解され、アシクロビルとして抗ウイルス作用を発現する。プ ロドラッグ化により経口吸収性が改善され、アシクロビル経口製剤より高い AUC が得られる。 なお、バラシクロビルの消化管吸収にはペプチドトランスポーター(PEPT1)の関与が示唆され ている。 ○バリキサ錠(バルガンシクロビル) 田辺三菱 薬物動態 バルガンシクロビルはガンシクロビルの L- バリンエステルであり、経口投与後、主に腸管 壁及び肝臓で速やかに加水分解され、ガンシクロビルとして作用を発現する。プロドラッグ化 により経口吸収性が大幅に改善され、高い AUC が得られる。なお、バルガンシクロビルの消 化管吸収にはペプチドトランスポーター(PEPT 1)の関与が示唆されている。 - 17 -
© Copyright 2024 ExpyDoc