MDR1 遺伝子ノックダウン Caco-2 細胞の BD

Technical Data
MDR1 遺伝子ノックダウン Caco-2 細胞の
BD BioCoatTM Cell Culture Insertを使った機能評価(1)
東京大学薬学系研究科分子薬物動態学教室
渡辺友子
【はじめに】
MDR1(multidrug resistance 1/ P-gp)は 12 回膜貫通型の膜タンパクをコードし、2 つの ABC(ATP
binding cassette)領域を介して、ATP の加水分解を行いそれを駆動力として排出を行うトランスポータ
ーである。P-gp は小腸や腎臓の管腔側膜、肝臓の胆管側膜、血液脳関門の血液側膜などの全身にわたる
広範な発現が認められる。P-gp は大変幅広い基質認識性を示し、抗がん剤のみならず比較的脂溶性の高
い薬物を基質とし、細胞外へ輸送している。P-gp は小腸上皮細胞刷子縁膜上に局在し、単純拡散によっ
て細胞膜を透過した脂溶性物質を小腸管腔側へと排出している。小腸からの吸収は、経口投与された薬物
のバイオアベラビィティーに大きな影響を与えるため、P-gp による排出は薬物の血中濃度を左右する重
要な要素であると考えられている。
薬物に対するP-gp の重要性を調べる目的で、
シクロスポリン、
PSC833、
ベラパミルなどの P-gp の阻害剤を用いるが、これらの阻害剤は P-gp 以外のタンパク質の機能をも阻害
する可能性がある。そこで本研究では、配列特異的に遺伝子の発現を阻害する RNAi(RNA interference)
法を用いて、Caco-2 細胞の MDR1 遺伝子の発現が特異的にノックダウンされた細胞株を構築し、小腸薬
物吸収における P-gp の寄与率をより正確に予測できる in vitro 系の確立を目的とした。
BD Biosciences
control
B2-2
【結果】
siRNA発現ベクターをCaco-2 細胞に導入した。siRNAが恒常的
に発現するCaco-2 細胞をピューロマイシンにより選択し、
クロー
ン化した。A2-2 とB2-2 の 2 つのクローン化した細胞株において
高い発現抑制効果がRNAレベル(data not shown)
、タンパク質レ
ベ ル (Fig.1) で 観 察 さ れ た 。 さ ら に BD BioCoatTM intestinal
epithelium differentiation environment を用い、B2-2 クローンを短
期培養法にて培養し、P-gp基質化合物であるdigoxin、vincristine、
rhodamine 123、daunomycinの経細胞輸送を測定することにより
A2-2
【方法】
標的配列に対するtRNAvalプロモーターを利用したsiRNA発現ベクターを構築し、Caco-2 細胞で安定発
現する細胞株を作製した。これらの細胞株において、RT-PCR法、Western blotting法によりmRNA、タン
パク質の発現レベルを検討した。発現抑制効果の高いクローンにおいて、24-well fibrillar collagen
pre-coated inserts (BD BioCoatTM cell culture inserts Fibrillar Collagen, Type I Rat Tail, 1.0 µm pores; BD
(2)
Biosciences, Bedford, MA)を用い山下らが確立したCaco-2 細胞を短期培養法 にて培養し分化させた細
胞を、P-gp基質化合物の経細胞輸送を測定することによりP-gpの機能評価を行った。
概略を述べると、24-well fibrillar collagen pre-coated inserts (BD BioCoatTM cell culture inserts Fibrillar
Collagen, Type I Rat Tail, 1.0 µm pores; BD Biosciences, Bedford, MA) に、細胞を 1 wellあたり 2.0 × 105個
まいた。2 日後、CMを分化用メディウム(DM, ENTERO-STIM Differentiation Medium containing MITO+TM
Serum Extender, BD Biosciences, Bedford, MA)に換え、さらに 2 日後メディウム交換を行った。輸送実験
(3, 4)
は過去の論文に従い行った
。細胞をトランスポートメディウムで洗浄し、37 °C、15 分間トランスポ
ートメディウム中で培養した。15 分後、apical側あるいはbasal側の一方をP-gp基質の放射標識体を含んだ
トランスポートメディウムに換え、輸送実験を開始させた。輸送実験後、細胞を 0.2 N NaOHで可溶化し、
(4)
細胞内のタンパク量を測定した 。
MDR1
actin
Fig.1 恒常的にsiRNAを発現させた
Caco-2細胞のウェスタンブロッティング
1
300
B2-2
250
Control
250
200
200
150
150
100
100
50
50
0
0
0
30
60
90 120 150
0
経細胞輸送(uL/mg protein)
時間(分)
30
60
90 120 150
経細胞輸送(uL/mg protein)
Digoxin
300
100
100
50
50
0
Control
0
50
100
時間(分)
8
8
6
6
4
4
2
2
0
Control
0
0
50
100
150
0
50
100
150
時間(分)
Daunomycin
150
B2-2
0
10
B2-2
時間(分)
Rhodamine 123
150
Vincristine
10
時間(分)
150
0
50
100
時間(分)
150
経細胞輸送(uL/mg protein)
経細胞輸送(uL/mg protein)
P-gpの機能評価を行った(Fig.2)
。B2-2 では、細胞のbasal側からapical側への輸送が低下し、basal側か
らapical側への輸送とほぼ同じ値を示した。このことは、RNAi効果によりP-gpの機能が完全に阻害された
ことを示している。
400
400
B2-2
300
300
200
200
100
100
Control
0
0
0
50
100
時間(分)
150
0
50
100
150
時間(分)
Fig.2 P-gp基質のB2-2における経細胞輸送
【結論】
恒常的に siRNA を発現し、P-gp の発現が特異的に抑制された Caco-2 細胞の構築に成功した。また結果
は示さないが、これらの細胞株において他のトランスポーターの発現量に変化は見られなかったため、輸
送活性の低下が直接 P-gp によるものと考えることができる。つまり非常に簡便に寄与を検討できるツー
ルであると自負している。本研究で構築した細胞株は小腸における薬物吸収の予測のみならず、小腸の
MDR1 の遺伝子多形、P-gp を介する薬物間相互作用による個人間での薬物に対する反応性の相違など、小
腸における MDR1 のさまざまな研究への応用が可能である。また、Caco-2 細胞に発現する他のトランス
ポーター群を同じ手法でノックダウンすることで、小腸におけるトランスポーター全般の重要性を予測す
ることができる。このような細胞株の構築は、より優れた特性を持つ薬物の研究開発の発展につながるも
のと考えられる。
【参考論文】
1. Watanabe T, Onuki R, Yamashita S, Taira K, Sugiyama Y. Construction of a functional transporter analysis
system using MDR1 knockdown Caco-2 cells. Pharm Res. 22:1287-93 (2005)
2. S. Yamashita, K. Konishi, Y. Yamazaki, Y. Taki, T. Sakane, H. Sezaki, and Y. Furuyama. New and better
protocols for a short-term Caco-2 cell culture system. J Pharm Sci 91: 669-79 (2002).
3. Y. Adachi, H. Suzuki, and Y. Sugiyama. Comparative studies on in vitro methods for evaluating in vivo
function of MDR1 P-glycoprotein. Pharm Res 18: 1660-8 (2001).
4. S. Mita, H. Suzuki, H. Akita, B. Stieger, P. J. Meier, A. F. Hofmann, and Y. Sugiyama. Vectorial Transport of
Bile Salts across MDCK Cells Expressing Both Rat Na+/Taurocholate Cotransporting Polypeptide and Rat
Bile Salt Export Pump. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol (2004).
BD Biosciences
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