4月21日 - 九州大学 大学院工学研究院 機械工学部門

2015/4/21
ソフトマター工学・第2回
2015年4月21日(火)
高分子弾性体(1)
九州大学大学院工学研究院機械工学部門
准教授
山口 哲生
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本日のおはなし
1. 前回の復習:ソフトマターとは?
2. ゴム弾性入門
• ゴムの変形の特徴
• 応力-ひずみ関係
• やわらかさの源:エントロピー弾性
3. 高分子1本鎖の弾性
• 高分子を引っ張ったときの伸びと力との関係
4.まとめ
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1.ソフトマターとは?
ソフトマターとは,高分子,コロイド,液晶,界面活性剤などのやわらかい
物質の総称.
‐身の回りに溢れている(衣服,食品,生体,日用品,…)
‐工業製品にもたくさん使われている(携帯電話,パソコン,自動車,…)
生物
ゼリー
牛乳
液晶+樹脂
化粧品+人間+衣類
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ソフトマターの構造
高分子
コロイド
液晶
5 nm ~
100 nm
10 nm ~
1μm
両親媒性分子
5 nm ~
100 nm
10 nm ~
1μm
生体分子
~ 2 nm
ベシクル
メソスケール(1nm〜1μm)の構造が重要
(動的にはもっと大きな構造ができることもある)
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ソフトマターの物性
メソスケール構造を反映して,次のような性質が顕著に現れる.
粘弾性,非ニュートン粘性:粘性と弾性を併せ持ったり,粘性係数が
せん断(ひずみ)速度とともに変化したりする.
非線形性:弱い力で大変形することができ,変形と力との関係が線形
から大きくずれる.
非平衡性:緩和時間(時定数)が大きく,容易に平衡状態から離れる
状態(非平衡状態)が実現される.したがって,動的挙動をとらえる
には,履歴などの効果が重要である.
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2. ゴム弾性入門
ゴムとは?
ゴム (蘭: gom)は,元来は植物体を傷つけるなどして
得られる無定形かつ軟質の高分子物質のことである.
だが現在では,後述の天然ゴムや合成ゴムのような有
機高分子を主成分とする一連の低弾性材料を指すこと
が多い(Wikipediaを一部修正).
天然ゴムそのままでは流れてしまう.
⇒加硫という操作によって,高分子間に橋かけ(架
橋)することで安定形状や弾性を得る.
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ゴムの変形の特徴
体積弾性とずり弾性(せん断弾性)
気体・液体…固有の形を持っていない.
金属,ゴムなどの弾性体…固有の形を持っている.力を加えると変形するが,力を取
り除くと元の形に戻る.
物体に加えられた力と変形量が比例する理想的な弾性体…フック弾性体
等方的なフック弾性体は,2つの弾性率K,及びGで特徴づけられる.
1. 体積弾性率K:物体の体積を変えるのに必要な力の大きさ.弾性体だけでなく流体
でも有限の値を取り,両者に大きな違いはない.
K  V
P
V
P
2. ずり(せん断)弾性率G:
弾性体にずりひずみγを加えるために
必要なせん断応力をσとすると,
V  V

γ
1
 G
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ゴムの変形の特徴
体積弾性とずり弾性(せん断弾性)
表:金属,樹脂,ゴム材料における弾性率の大きさの比較
材料名
材質
ヤング率
E
ポアソン比
ν
体積弾性率 K
ずり弾性率
G
オーステナイト系
ステンレス鋼
SUS304
200 GPa
0.3
170 GPa
80 GPa
工業用アルミニウム
A1085P
70 GPa
0.34
70 GPa
30 Gpa
アクリル樹脂
PMMA
2 - 3 GPa
0.35
3 GPa
1 GPa
1 – 10
MPa
0.45 – 0.499
200 MPa
(E=1MPa, ν = 0.499)
0.33 MPa
(E=1MPa, ν = 0.499)
ゴム
24万倍の
違い!
600倍の違い!
• ゴムにおいては,体積弾性率に比べてずり弾性率が極めて小さい
• ゴムのせん断弾性率は,金属のそれと比べて圧倒的に小さい
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ヤング率 E,ポアソン比ν
ヤング率EとK, Gとの関係
9 KG
E
3K  G
ゴムにおいては, K  G

ヤング率
であるので,
E
1  z
1
3G
E
 3G .
1  G / 3K


ポアソン比
また,ポアソン比νとK, Gとの関係は,
3K  2G

2(3K  G )
となる.ゴムではν ≒ 0.5.
1  x
 
z
x
参考:ヤング率とずり弾性率との関係
E  2(1  )G
GがKに比べて十分に小さい物質のことを
非圧縮性物質という.
例:ゴム,ゲル,水
( K  G  0)
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大変形時の力学挙動
大変形時の挙動
前節の議論…ひずみはせいぜい数%程度(微小変形).
物体をさらに変形させるとどうなるのか?
金属…塑性変形する,あるいは破断.力を取り除いても形がもとに戻らない.
ゴム,ゲル…数100%の大きなひずみを加えても破断しない.元の形に戻る.
右図のような非線形な振る舞い.
ゴム弾性を扱うには,大変形を記述する
ことが必要になる.
⇒ゴム弾性理論:Neo-hookean, Mooney-Rivlin,
Ogden, Arruda-Boyce, Gent など.
問題:ゴムの応力-ひずみ関係は,どのように説明されるのだろうか?
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応力-ひずみ関係

Fz 引張力
A0 初期断面積
答え:Neo-hookeanモデルにおける1軸伸張変形の
応力-ひずみ関係は以下のように表現される.
応力(公称応力または工学応力)-ひずみ関係


 ( )  G   
1

2 
G:ずり弾性率
λ = 1 + ε:伸張比
(ε: 伸張ひずみ)
このモデルは,中程度の伸張比(λ ~ 2-3程度)
までの実験結果をよく再現する.また,
伸びが小さい場合には

 ( )  3G
Neo-hookean
傾き:3G
となり,下記の近似式が再現される.
傾き:G
E  2(1  )G  3G
  1 
1
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T :絶対温度
M x :架橋点間分子量
応力-ひずみ関係(2)
Gentモデルにおける1軸伸張変形の応力-ひずみ関係

 ( )  G
1
1
2
2 
2

3
G:ずり弾性率
λ = 1 + ε:伸張比
(ε: 伸張ひずみ)
Jm: 伸びきりの効果を表す
パラメータ
Jm
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Jmが十分に大きいときには,
1

2 
Gent
σ/G


 ( )  G   
Neohookean
5
(Neo-hookean model)のように近似できる.
(Jm = 100)
0
0
2
4
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伸張比 λ = 1 + ε
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やわらかさの源:エントロピー弾性
•
•
ゴムの両端を引張ると,ゴム中の高分子鎖も引張られる.
鎖は周囲からの分子の衝突によって熱運動しており,“ランダム”
に振舞おうとしている.両端間の距離を広げていくと,高分子鎖が
動くことができる空間が小さくなるため,それに反発して張力が発
生する.これをエントロピー弾性という.
高分子鎖が動くことが
できる空間
R
R
両端を広げる
両端間に張力が発生
金属の弾性(内部エネルギーを起源とする)とは大きく異なる
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3. 高分子1本鎖の弾性
問題:1本の高分子の両端を掴んで伸ばしていくと,両端の距離と引っ張る
力との間にはどのような関係があるのだろうか?
n-1
rn
r2
2
1
1個のモノマーを
1個の球で代表
n
r1
0
N-1 rN
R
自由連結鎖モデル
N
f
自由連結鎖(freely jointed chain)モデル
• n-1番目のモノマーとn番目のモノマーの両端を結ぶベクトルを rn とする.
• rn の大きさ(長さ)はすべて等しくbとする.
• rn の分布は互いに独立である.
< rm ・ rn > = 0 (m ≠n), = b2 (m = n) (ここで,<…> は統計平均)
• 両端間を結ぶベクトル𝑹は,𝒓𝑛 と次のような関係がある.𝑹 = 𝑁
𝑛=1 𝒓𝑛
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高分子1本鎖の弾性
答え:自由連結鎖モデルの場合,1本の高分子は,自然長が0でバネ定数が
kの線形バネとみなせる.
f=kR
k=
3𝑘𝐵 𝑇
𝑁𝑏2
1
kB : ボルツマン定数
T : 絶対温度
N:モノマーの数(分子量に比例)
b : モノマー間を結ぶベクトルの大きさ
2
N-1
0
R
自由連結鎖モデル
N
f
これからこの結果の導出を行なう.
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エントロピー弾性
自由エネルギー
U(R)
U(R)= E(R) – T S(R)
内部エネルギー
(自由連結鎖モデル
では 0)
エントロピー
3𝑘 𝑇
𝐵
2
U(R) = 2𝑁𝑏
2 𝑹 , E(R) = 0
より,エントロピーは
3𝑘
S(R) = - 2𝑁𝑏𝐵2 𝑹2
と求められる.
(つまり,高分子を引っ張れば引っ張るほど
エントロピーは減少する)
金属の弾性(内部エネルギーを起源とする)とは大きく異なる
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若干の補足
実際の高分子はこれほど単純ではない.
1.高分子鎖の中の要素間には引力や斥力の相互作用(力)が存在する.
そのため,自由連結鎖とは異なる状態も実現される.
例:収縮,伸張 ⇒ 来週議論する(予定)
2.高分子鎖をその長さの程度にまで大きく引き伸ばすと,伸びと力と
の関係はかなり大きくなり,線形から外れる.
荷重-変位曲線
光ピンセットを用いた
DNAの伸張実験
Y. Murayama and M. Sano,
J. Phys. Soc. Jpn. 70, 345-348 (2001).
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本日のまとめと次回の予告
本日のまとめ
本日は,
-ゴム弾性入門
-高分子1本鎖の弾性
について学んだ.
次回の予告
次回は以下のような内容のお話をする予定.
-高分子1本鎖の弾性とマクロなゴム弾性との関係
-いくつかの応用例(1軸伸張変形,せん断変形,キャビテーション)
-レポート課題の出題
本日はお疲れさまでした.
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