植木センターだより 平成27年 第2号(Vol.125) アベリア‘エドワード・ゴーチャー’(別名:アカバナアベリア) アベリアは、スイカズラ科の常緑性低木で樹勢が強く、公園や街の植え込みには欠かせない 木のひとつです。‘エドワード・ゴーチャー’は小型の品種で、センター西側の外周に植栽さ れており、5月下旬から9月下旬まで長期間にわたって美しい淡紅色の花を咲かせます。 目 次 調査研究の現場から 「樹木種子の保存方法及び経年発芽率の調査」・・・・2 トピックス①「マシン油乳剤はカタカイガラムシ類の 防除に有効か?」・・・・・・・・・・・・・・・・4 トピックス②「平成27年度の研修が始まりました」・・・6 緑化木の主要害虫 №10(モンクロシャチホコ)・・・・・7 -調査研究の現場から- 愛知県植木センターでは、現在3課題の調査研究に取り組んでおります。 この内容については、このホームページの、MENU→「調査研究事業」の中で公表しております。 詳しくはこちらの方をご覧ください。 このコーナーでは、調査研究の課程で担当者が体験した、 予想外なこと を紹介します。 私が担当する「樹木種子の保存方法及び経年発芽率の調査」は、植木を実生繁殖する場合、採種し た種子を翌秋まで保管できれば、採種ができない年の備えとなり都合がいいので、どのように保管す れば発芽力を維持した状態で保管できるかを調べております。 1 冷蔵庫の中でも発芽する? 前年の秋に採種した種子を冷蔵庫や定温器に約1年間保管した後に、は種しようとビニール袋からだし てみると、11樹種中の4樹種がもう発芽していました。写真のとおり白い芽と根が伸び出したいわゆる 「もやし状態」でした。たぶん、採り蒔きした種子と同じように春に発芽し,光をもらえないため成長しき れずにもやし状態でいたんだと思います。 これらの種子には共通点があり、わずかな水分を含ませた砂の中に保管したものばかりでした。 乾燥状態で保管した他の樹種の種子は、全ての種類で保管中に発芽せずに、は種してから順調に発 芽しました。 ハクウンボクの発芽種子 ハウチワカエデの発芽種子 カクレミノの発芽種子 2 2 保管中の水分設定が発芽を促進した? 樹木種子の保管と発芽に関しては、東大の山中寅文先生はその著書のなかで、「長期間乾燥状態 で保管した種子は発芽力を失うものが多い。特にエゴノキ科はその傾向が強い。秋に採種した種子を 翌春には種する場合は低温湿層処理(湿った砂等に種子を混ぜて冷蔵庫等の低温で保管する)して 保管すると発芽が良い」と述べられ、樹種ごとに翌春までの保管方法を詳細に述べておられます。 ですから本調査では、著書を参考にして種子に応じて保管中の水分を①乾燥、②わずかな水分、 ③適当量の水分、のうち最も適当と記載のある方法で保管しました。 しかし結果から考えると、保管に水分を必要とする樹種を翌春を過ぎて例えば翌秋以降まで発芽させ ずに保管することは無理だったように思います。 3 保管中に発芽しようがしまいがかまわない? このことを生産現場ではどう考えるかですが、 「保管にわずかな水分を必要とする種子」を低温湿層処理して翌秋まで保管する場合、前述のとおり 保管中に発芽してしまい、もやし状態になることがあります。 調査では、カクレミノの未発芽の種子ともやし状態の種子を混ぜては種しましたが、どちらの種子も同じ ように成長しました。(苗段階までの確認) 低温での保管中に発芽してしまったことは予想外でしたが、実際の生産現場では採種できる種子が 少ないケースもありますので、その場合はこれらの保管中に発芽してしまった種子も一緒には種して 差し支えないと思われます。 (Y記) 3 トピックス① 「マシン油乳剤はカタカイガラムシ類の防除に有効か?」 緑化木には種々の害虫が発生しますが、カイガラムシ類は最も厄介な害虫の一つといえ るのではないでしょうか。 特に、ゲッケイジュや柑橘類、クチナシ、モチノキなど多樹種に発生するルビーロウム シやツノロウムシ、カメノコロウムシなどのカタカイガラムシ類は、ロウ状物で覆われて いるため農薬散布の効果が期待できません。 文献等では、竹べら等でこすり落とす方法や、冬季のマシン油乳剤の散布、幼虫発生期 の農薬散布などの防除法が紹介されています。 当センターでは、昨年、ガラス温室内で育成中のイレックス‘サニーフォスター’を用 いて、幼虫発生期の薬剤(スプラサイド乳剤)散布の効果を検証し、大きな効果があるこ とを確認しました。(調査の概要は、「植木センターだより(平成26年第3号)」に掲載) そこで、今回は冬季のマシン油乳剤の散布による防除効果を検証しました。 用いた樹種は、イレックス‘サニーフォスター’(モチノキ科)、イヌコリヤナギ(ヤ ナギ科)、トウカエデ(カエデ科)の3樹種です。 ガラス温室内で育成中の鉢苗ですが、どのように侵入してきたのか、ルビーロウムシが びっしり付着し、トウカエデにはツノロウムシも混在しています。 マシン油乳剤は、適用表に基づく濃度(100倍)で、約10日間隔で3回散布しまし た。 屋外でのルビーロウムシやツノロウムシの孵化幼虫の出現は、6月中旬~7月中旬まで の長期に亘りますが、昨年の調査で、温室内では屋外に比べて1か月程早く孵化幼虫が這 い出てくることを確認していましたので、今回は5月28日に孵化幼虫の発生の有無を調 査しました。 その結果、いずれの樹種においても孵化幼虫が発生していることを確認しました。 イレックス‘サニーフォスター’とイヌコリヤナギでは、成虫の周辺や新梢部に、すで に定着していると思われる白い点のように見える幼虫や、薄茶色でよく動き回る孵化直後 の幼虫がかなりの密度で発生していました。 トウカエデでは、密度は低いですが、成虫の周りを動き回る孵化幼虫や緑色の新梢部に 定着した幼虫を確認できました。 マシン油乳剤は、油膜で成虫を覆い、窒息死させる目的で散布しますが、幼虫が出現し たということは、その効果が表れなかったということになります。 マシン油乳剤の効果は、散布の時期や濃度、回数などにより異なることも考えられます が、今回の調査では、大きな防除効果を期待することは難しいという調査結果になりまし た。 (W記) マシン油乳剤(100倍)の散布と効果調査(平成27年) 樹 種 1月20日 1月29日 2月9日 5月28日 イレックス‘サニーフォスター’ イヌコリヤナギ 散布 散布 散布 調査 トウカエデ 4 イレックス‘サニーフォスター’ (左・上:1月20日、右:5月28日) 右:白い点のように見える 孵化幼虫が高密度で点在 する。 イヌコリヤナギ (左・上:1月20日、右:5月28日) 右:孵化直後の薄茶色の 幼虫が動き回り、定着した 白く見える幼虫も点在する。 トウカエデ (左・上:1月20日、右:5月28日) 右:密度は低いが、孵化直 後の薄茶色の幼虫が動き 回り、定着したツノロウム シの幼虫も点在する。 5 トピックス② 「平成27年度の研修が始まりました」 愛知県植木センターでは、植木等の生産・流通及び造園・緑地管理に携わっている方などを対象 として基礎講座・実務講座・資格取得講座・一般講座を41科目、延べ70日間にわたって計画し ており、いよいよ今年度の研修がスタートしております。 人気の高い、「造園技能コース」では、今年も希望者が多く抽選で選ばれた35名の方が全8回 の講習に取り組んでおります。 今年は、「水琴窟」のある石庭を実際に作庭することとなっており、庭石の組み方と備え付け方 法、庭木の配植の基本技法、垣根の種類と施工技法など、基本的な技術だけでなく、応用範囲の広 い知識及び技能を習得することができ、造園技能検定を目指す方にも役立つ内容となっておりま す。 さらには、資格を取得することのできる「小型移動式クレーン運転技能講習」「玉掛技能講習」 「小型車両系建設機械運転特別教育」については、植木生産・流通、造園の業務には不可欠な資格 であり、毎年、真剣に取り組む受講者の姿が見られます。 このほかにも、「緑化木の病害虫と防除」「樹木の整姿・剪定」「松の手入れ」といったような多 くの科目が用意されており、植木生産・造園業関係者の知識・技術を高めるとともに、貴重な経験 を積むことができるものとなっています。 また、緑・植木に親しんでいただくよう、一般県民や地元小学校等を対象として、「一般講座」 を準備しており、愛知県の植木産業がさらに発展していくことを願っております。 最後に、昨年度の研修生から届いた、うれしい便りを紹介させていただきます。 「講習でお世話になりました。素晴らしい講師の先生方に教えてもらえる環境で学べます。感謝し ます。 造園技能コースでの竹垣工で覚えたことが自分の現場で生かすことができ、お客様に喜んでもら うことがありました。 これも植木センターの職員の方々と講師の先生方おかげです。ありがとうございました。また、 今年も講習でお世話になるつもりです。どうぞよろしくお願いします。」 (F記) 造園技能コース(H27.5.19) 小型移動式クレーン運転技能講習(H26.9.10) 6 緑化木の主要害虫 №10 モンクロシャチホコ チョウ目(鱗翅目)シャチホコガ科 孵化後間もない幼虫(体長4㎜) H22.8.11 ウメ 中齢幼虫(体長20㎜) H22.8.18 ウメ 老齢幼虫(体長47㎜) 老齢幼虫(体長40㎜) H23.8.18 ウメ 本種による被害 H22.8.23 ウメ H23.8.18 カワズザクラ 1.発生樹種 ウメ、サクラ類、アメリカザイフリボク、ナシ、リンゴ、モモ、アンズ、マルメロ 2.害虫の特徴(発生時期、形態等) 年1回の発生で、8月上旬から葉裏に群生する若齢幼虫を見かけるようになります。 成長は極めて早く、孵化後間もない体長4㎜程度の若齢幼虫は、1週間で20㎜、10日間で約30㎜になり、 この頃になるとかなり分散して葉を暴食するようになります。9月中旬以降、幼虫の数は急激に減少しま すが、少数が残存し、11月に見かけたこともあります。 体色は、若齢幼虫では茶褐色で、成長する につれて紅褐色になり、更に成長すると紫黒 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 色になり、黄白色の長毛が目立つようになり ます。幼虫は警戒すると頭部と尾端を反らす 習性があります。 3.被害の特徴 枝先に発生した幼虫は葉を食べ尽くしながら集団で移動しますが、分散して食害量が多くなる8月中旬 から被害が顕著になり、8月下旬~9月上旬にピークとなります。9月中旬にはほぼ終息します。 4.対策 サクラなどの高木では、被害が拡大してから発生に気付くことが多いですが、とにかく成長が早く食害 量も多いので、早期に発見して幼虫が分散する前に防除することが必要です。 平成27年6月 Vol.125 発行:愛知県植木センター 編集:(一社)愛知県農林公社植木センター管理事務所 〒492-8405 稲沢市堀之内町花ノ木129 TEL 0587-36-1148 FAX 0587-36-4666 7
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