ゲート自動設計・製図システムの開発 - 佐藤鉄工株式会社

研究開発
ゲート自動設計・製図システムの開発
Semi・Automatic Gates Design System
金
山
保
治*
KANAYAMA Yasuharu
酒
井
久
志 **
SAKAI Hisashi
ゲート自動設計製図システムは,設計業務の省力化と新しい情報社会に対応すべく,5社(北陸電
力株式会社,北電技術コンサルタント株式会社,萩浦工業株式会社,JIPテクノサイエンス株式会
社,佐藤鉄工株式会社)により共同開発したプレートガーダタイプローラゲート・スライドゲートの
設計製図支援システムである。開発は設計業務を対象とし,設計算書,設計図面および数量・塗装面
積計算の作成までを連続的に自動で処理する。
本システムはWindows上で稼働し,対話処理と自動処理および随所に設計支援が織り込まれており,
ユーザが使い易いものとした。
1. はじめに
2.1 システム化の範囲
ゲート設備には多種多様な形式が存在しているが,全
ゲートの設計業務には,強度計算書,設計図面,数量・
ての形式を対象にシステム開発を行うことは不経済とな
塗装面積表などの成果品作成を伴うが,今まではこれを
るため,システム化の範囲を今後,設備の老朽化により
独自で開発した計算ソフトや市販のCADソフトを併用
更新される数が多いと思われる形式や共同開発メンバ各
して作成し,業務の効率化を図ってきた。
社のニーズを勘案し,表1に示す設備を対象とした。
表1
しかし,現状は設計者1人当たりの担当件数が多く,
また,近年のコスト低減の更なる取り組みにより,より
一層の業務の効率化が要求されている。
システム化の範囲
項 目
内 容
扉体形式
ローラゲート(ローラ軸片持式)
スライドゲート
一方,施主側(官公庁,電力会社)の動きとしては,
扉体の構造 プレートガーダ構造
情報の共有化と連携を念頭に置いた「CALS」が本格
ワイヤロープウィンチ式(電動)
開閉装置形式 スピンドル式(電動・手動)
ラック式(電動・手動)
的に運用され始め,成果品も電子データでの納品が要求
されてきている。
2
このような現状に際し,設計業務の省力化と新しい情
扉体面積
50m 以下(手入力ではそれ以上も可)
報社会に対応すべく,北陸電力(株),北電技術コンサ
設計水深
25m以下(手入力ではそれ以上も可)
ルタント(株),萩浦工業(株),JIPテクノサイエ
ンス(株)と佐藤鉄工(株)の5社で「ゲート自動設計・
製図システム(GSS5)」を共同開発した。以下にそ
2.2
システムの構成と機能の概要
システムの構成は設計システム,製図システム,数量
計算システムの3システムから成り,設計計算から設計
の概要を報告する。
5社による共同開発としたのは,各社単独開発ではコ
ストメリットが得られないことや,ユーザである電力会
図面,数量・塗装面積計算書の作成までを連続的に行え
るよう自動化した。表2に各システムの機能概要を示す。
社とメーカが共同することにより,今まで蓄積した技術
を集大成することが可能と判断したからである。
2.3
要求性能
システムの開発に際して,設計者の労務量ができるだ
2. システムの開発構想
*技術部鉄構設計グループ
け最小となるように,満足すべき性能を設定した。
**技術部鉄構設計グループ主任
佐藤鉄工技報 Vol.16
表2
各システムの機能概要
システム
機 能 概 要
いと製図システム,数量計算システムが稼働しないもの
とした。ただし,数量計算システムは,設計システムで
設計システム
扉体,戸当り,開閉荷重,開閉装置
の設計計算,計算書の編集・印刷
設計を完了すれば,設計情報のみでも計算可能とした。
品に対してもデータ入力,計算処理を可能とした。
製図システム
設計システムのデータと製図用の
新規入力データに基づく自動作図
・一般図
・水密詳細図
・扉体詳細図
・開閉装置組立図 など
設計システム,製図システムのデー
数量計算システム タに基づく数量計算,塗装面積計
算,計算の編集・印刷
また数量計算システムは単独でも操作可能とし,他の製
類似設計や変更設計に対しても柔軟に対応できるよ
うにシステムの起動時には,扉体形式,水密方式などの
ゲート諸元をまとめたデータベースを表示し,その中か
らの選択も可能とした。
①設計計算のデータが,設計図・数量計算のデータと
連動し,設計図および数量計算書が自動で作成され
ること。
②従来,設計者が繰り返し計算を行っていた部材の選
定や各部の寸法決定について,最適となる構造を自
動的に決定できること。
③自動処理と対話処理を混在化させた「対話型方式」
とし,設計的な配慮が必要になる部分は「対話処理」,
単に計算する部分は「自動処理」とし,全面的な設
計支援が行えること。
④計算結果や図面データのデータベース化が可能と
し,設計条件の変更などの設計見直しや類似設計が
容易に行えること。
⑤設計基準は,「水門鉄管技術基準
水門扉編」およ
び「ダム・堰施設技術基準(案)」のいずれかの基
準を選択可能とし,用途に応じた設計が容易に行え
ること。
⑥国土交通省が構築を進めている「公共事業支援統合
システム(建設CALS/EC)」への対応が可能である
既定値情報
こと。
デフォルト値
部材・装置情報
⑦設計に必要な各種係数は,個別に設定できるように
し,利用者のニーズが反映できること。
3. システムの処理概要
設計
製図
数量計算
システム
システム
システム
3.1 システムフロー
システムの全体フローおよびスタート画面を図1に
示す。設計者が作成した設計情報は設計システムにより
管理され,図面情報は設計情報と製図用新規入力データ
に基づき,製図システムで管理される。数量計算システ
設計
図面
計算書
設計
出力
情報
出力
数量
図面
計算書
情報
出力
ムは,図面情報に基づき自動設計が行われる。
従って,設計システムで最低限必要な設計を完了しな
図1
全体フローおよびスタート画面
佐藤鉄工技報 Vol.16
3.2 システム動作環境
本システムの動作環境は以下のとおりである。
3.3 設計システムの機能・特徴
基本ソフト(OS)
Windows2000/95/98/NT4.0
応用ソフト
Microsoft Excel 2000
に入れ,扉体,戸当り,開閉荷重,開閉装置の設計計算
CADソフト
AutoCAD 2000i
が各々単独で行えるようにした。例として,ローラゲー
CPU
Pentium 300MHz以上
トの入力・計算項目を図2に示す。扉体形式,開閉装置
RAM
64MB以上
形式に応じて,システム内で入力・計算項目が各々自動
ハードディスク
100MBの空き容量
的に設定される。
最小稼働メモリ
50MB
ディスプレイ解像度
XGA 1024×768以上
設計システムでは,ゲート設備の部分的な更新も考慮
また,本システムの特徴である自動設計機能,設計計
算書の編集・出力機能の一例を以下に記す。
(1)
ゲート自動設計の入力・計算項目
自動設計機能
ここでは,従来設計者が繰り返し計算していた減速機
共通基本諸元の入力
の選定などについて自動的に行える画面の例を紹介す
扉体・戸当り
る。
許容値・余裕厚・水密部の概略選定
「減速機・切換装置の選定」において,開閉装置機構
設計荷重の計算
(各種切換装置の有無),減速機形式(メーカも含めて)
主桁の配置
等を選択し,自動設計ボタンをクリックすることにより,
主桁の断面決定
必要電動機容量,必要減速比,実開閉速度が自動計算さ
縦桁の配置
れ,使用電動機容量,ギヤ・ピニオン歯数および減速機
スキンプレートの算定
型番を自動選定し,結果が一覧表で表示される。
補助縦桁の断面決定
電動機容量はIEC第一系列のみの場合と,第二系列
ローラ配置と端縦桁(一般部)の断面決定
を含んだ候補群からも選定可能とし,電動機容量選定に
主ローラの計算
おいて大きな余裕が生じないようにした。
端縦桁(ローラ部)の断面決定
また,減速機は複数メーカのヘリカル減速機(平行軸,
側部水密詳細の決定
直交軸),ウォーム減速機(平行軸,直交軸)をデータ
上下部水密詳細の決定
ベース化し,豊富な機種の中から必要減速比および許容
扉体構成の確認(概略重量の算出)
伝達動力を基に該当する型番を全て候補として結果一
戸当りの計算
覧表にリストアップするようにし, 設計者はこれらの
開閉荷重・開閉装置
組み合わせの中から1つを選択すれば,開閉装置の機器
開閉装置基本諸元の入力
構成が決定できるようにした。
開閉荷重
開閉荷重諸元(係数の設定)
水密形状と開閉荷重計算
ワイヤロープウィンチ式開閉装置
ワイヤロープの選定
フリートアングルの算定
減速機・切換装置の選定
ギヤ・ピニオンの計算
ドラムシェル・ドラム軸の計算
シーブ軸の計算
ピニオン軸の計算
図2
ローラゲートの入力・計算項目
図3
開閉装置
減速機・切換装置選定画面
佐藤鉄工技報 Vol.16
さらに,「ギヤ・ピニオンの計算画面」において,材
質,歯幅などを入力することにより,ギヤ・ピニオンの
3.4 製図システムの機能・特徴
曲げ強度,面圧強度の計算を自動で行い結果が表示され
る。
製図システムは,設計システムのデータと自動で連携
し,新規製図用の入力データと合わせて自動製図を行う。
これら一連の作業は,これまで設計者がトライアンド
なお,今回の開発に際しては,建設CALS/EC対応とプ
エラーにより何回も計算が必要であったが,開閉装置の
ログラム化による自動作図が必要なことから,AutoCAD2
種々の構成に応じて即座に計算可能としたものであり,
000iを採用した。
最適な設計が効率的に行える。
(1)
このような自動設計を随所に織り込んで大幅な設計
支援を図るとともに,自動設計以外でも任意に設計が行
自動作図の範囲
自動作図の範囲は,扉体形式,開閉装置形式で設定さ
れており,表3に示すとおりである。
えるよう手入力も可能とし,システムの開発を行った。
表3
(2)
設計計算書の編集・出力機能
自動作図の範囲
扉体形式
図面名称
設計計算書の編集・出力は,図4に示す画面において,
スライド
ゲート
開閉装置形式
ラック式
ワイヤロープ
ローラゲート
スピンドル式 ウィンチ式
左側および右側のチェックボックスで各章・各項目を選
一
図
○
○
択することにより,章,節,項の番号が自動的に編集さ
水 密 詳 細 図
○
○
れ,Microsoft Excelファイルに計算書が出力される。
扉 体 組 立 図
○
○
設計計算書の出力例を図5に示す。
般
扉 体 詳 細 図
○
○
水密ゴム詳細図
○
○
戸当り金物詳細図
○
○
○
吊 棒 詳 細 図
○
開閉装置架台図
○
開閉装置組立図
○
座 屈 止 め 金 物
○
(2)
○
○
機能・特徴
製図システムの主な機能・特徴を以下に示す。なお,
自動作図の例として,扉体詳細図の入力画面および描画
画面を図6,図7に示す。
図4
1.
設計計算書編集・出力画面
設計項目
1.1
設計仕様
12.3.2
総合効率
1.2
設計条件
1.3
扉体、戸当りの鋼材の許容応力度
η
2.
基本寸法
= ηr・ηg・ηd・ηs
ここに、η
ηr
:総合効率
:減速機効率 起動時
運転時
:ギヤ効率
:巻取ドラムの効率
:シーブの効率
3.
作用荷重
3.1
常時荷重
3.2
地震時荷重
4.
機器名
操作時荷重
減速機
4.1
操作時開時荷重
ドラムギヤ
4.2
操作時閉時荷重
巻取ドラム
5.
主桁
5.1
5.2
5.3
5.4
6.
1
ηg
ηd
ηs
ロープシーブ
総合効率
ηr
ηg
ηd
ηs
5
0.800
0.940
0.95
0.95
0.927
6
起動時
14
0.800
0.95
0.95
0.927
ηu = 0.670 ηm
16
運転時
0.940
0.95
0.95
※―
= 0.848
主桁の配置と分担荷重
12.4
電動機容量
主桁の断面力
12.4.1
電動機必要容量
主桁の応力度
Wu・Vou
主桁のたわみ度
Pmu
=
スキンプレート ここに、Pmu
Wu
ηu
Vou
Pmu
=
60ηu
:電動機必要容量
:操作荷重
:総合効率
:実開速度
350.000×0.306
24
(kN)
350.000 kN
0.670
0.306 m/min
= 2.66 kW < 3.70 kW
60×0.670
図5
設計計算書出力例
図6
製図システム入力画面
佐藤鉄工技報 Vol.16
3.5 数量計算システムの機能・特徴
数量計算システムは,設計システムのデータおよび製
図システムデータに基づき,数量計算,塗装面積計算,
計算書の編集・印刷を行う。数量計算システムの扉体の
入力画面例を図8に示す。
数量計算システムは,Microsoft Excel上で起動する
ので,通常のExcelと同様の操作で部材の追加や編集が
可能であり,また材質や形鋼の入力は候補をメニューか
ら選択できる設計支援機能を設けている。
なお,数量計算システムは単独でも操作可能とし,水
門以外の業種に対してもデータ入力,計算処理を可能と
図7
①
製図システム描画画面(扉体詳細図)
した。
建設CALS/EC対応
レイヤ属性(名称,色,線種)等の作図基準は,国土
交通省のCAD製図基準(案)に準拠しており,電子納品
向けのファイル形式は,STEP/AP202国際標準フォーマ
ットに対応可能なAutoCAD機能を使用するものとした。
②
データ入力作業
設計システムのデータと自動連携させるとともに,製
図用の新規入力データに対し,過去の実績や共同開発メ
ンバー各社のノウハウに基づいて標準化したデータを
デフォルト化することにより,データ入力作業を極力軽
減した。すなわち,製図用に新規データを入力しなくて
も,設計システムのデータと製図用デフォルトデータに
図8
数量計算システム入力画面
より,自動作図が可能となるようにした。
③
ファイル管理の簡素化
4. システムの評価および今後の課題
一般図,扉体詳細図等全ての図面は,実寸のモデル空
間で作図を行い,画面表示は図面スケールのペーパ空間
を用いることにより,全図面を1つのファイルで管理す
4.1 システムの評価
ゲート自動設計製図システムの開発により,設計計算,
ることを可能とした。図面の修正・追加は図7に示す図
設計図面作成,数量計算までを連続的に自動化すること
面名称(最下部のシート名)を選択することにより図面
ができた。また,扉体・戸当り・開閉装置の項目毎に設
スケールで表示され,設計者による修正,追加を可能と
計段階において,過去の実績や設計者のノウハウを随所
した。
に織り込んだ自動設計を駆使しており,予想した以上に
④
豊富なメニュー
各種水密方式(前面3方,4方,後面3方,4方),
スキンプレート位置(前面,後面)および多様な水密ゴ
効率の良いシステムが開発できたと考える。
以下にその評価点を記述する。
①
ム取り付け方式に対応した豊富なメニューを準備し,自
動作図を可能とした。
⑤
異尺度図面への対応
各詳細図においては,尺度の異なる部品が存在するた
め,部品毎で縮尺の変更が自由に行えるようにした。
対話処理と自動処理がうまく混在化し,ユーザに
使い易い形にまとめられている。
②
概略設計製図,詳細設計製図ともに,効率よく利
用できるように工夫されている。概略設計製図の場
合はデフォルト値を利用して設計製図処理を行い,
詳細設計の場合は,直接数値を入力し,計算ステッ
プ毎に処理し,応力および断面サイズを確認するこ
佐藤鉄工技報 Vol.16
とが可能である。
③汎用アプリケーションを利用したことにより,設計
計算書および数量・塗装面積計算書はMicrosoft Ex
cel,設計図面はAutoCAD2000iのファイルとなるの
で,一般ユーザのパソコン知識で十分利用すること
が可能である。
また,電子データ化による情報交換や再利用が可
能となった。
4.2 今後の課題
(1)
継続した利用と改善
システムの命は「継続した利用と改善」である。ユー
ザ部門と開発部門が連携を取り,ユーザの要望を吸収し
ながら利用と改善に努める必要がある。
(2)
パソコンの進歩に合わせた機能改善
Windows2000,Windows XPに代表されるようにOSは毎
年進歩するものであり,この進歩に合わせた機能改善に
取り組む必要がある。
(3)
設計下流工程での利用
本ゲート自動設計製図システムでは,図面はCADファ
イル,数量表はMicrosoft Excelファイルとして出力さ
れるので,設計下流工程部門(製造部門,検査部門,工
事部門)でこれら電子データの活用を推進する。
5. あとがき
ゲート設備の設計業務範囲を念頭に概略設計,詳細設
計に対応でき,Windows上で対話的に処理できる設計製
図システムを開発できた。開発期間は開発着手前の実績
整理・構造パターン化等の準備期間2年を含めると開発
に丸6年費やしたが,開発にあたっての基本思想を包括
したユーザに親しみやすく,また大幅な業務効率化につ
なげることができるシステムであると考える。
現在,実設計で利用中であるが,今後,より身近なシ
ステムとして活用するために改善・改良を重ねていきた
い。
参考文献
1) 和泉満,藤井直宗,酒井久志:ゲート自動設計製図
システムの開発,電力土木 2002 No.299,PP.47∼ 51,
2002 年