第3回レジュメ

商法概論・商法総則レジュメ
根本
第 3 回 : 商 法 概 論 (3): 商 法 の 法 源 、 商 法 の 特 色
[設 例 3 - 1 ]
Y損害保険会社の火災保険約款には「当会社は、次に掲げる事由(地震、噴火、ま
たはこれらによる津波)によって生じた損害または傷害に対しては、保険金を支払い
ません」との規定があった。Yと損害保険契約を締結したXは、地震により発生した
火災により家屋が焼失したため、Yに保険金を請求した。Xの請求は認められるか?
Ⅳ.商法の法源
・法源とは、裁判官が裁判を行う際に基準となるもの
・商法の法源とは、裁判所が実質的意義の商法に関わる法的紛争を何に依拠して
解決するかという問題
1.法源の種類
(1)商 事 制 定 法
①商法典(形式的意義の商法)
②商事特別法
附 属 法 令 ・・・・ 商 法 典 の 規 定 を 施 行 し ま た は 具 体 化 す る た め の 法 令
ex.商法施行令、商業登記法
特 別 法 令 ・・・・ 商 法 典 の 規 定 を 補 充 し ま た は 変 更 す る も の
ex.手形法、小切手法(会社法)
・企業をめぐる法律関係については、その利害関係者が多く、高度に技術的な内容となる
ことから、制定法によって明瞭に定めることが重要となる
判例法を基礎とする英米法系の諸国においても、企業をめぐる法律関係においては
成文法が多い
・民法を商法の法源に含めるべきかについては争いがある
・商法と民法を区別する以上、これを否定すべきとの見解
・商法が民法の規定を準用している場合は多いし、理論的にも民法を類推適用すべき
場合が少なくないとして肯定する見解
(2)商 事 条 約
・条約の締結国における国民相互の関係を直接規律する商事条約については法源の一つ
・条約の中には、特に国内法化することが無くても、批准と交付の手続を踏めば、
国 内 法 と 同 じ 効 果 を 持 た せ る こ と が で き る も の が あ る ( 憲 98 Ⅱ 参 照 )
ex.国際海上物品運送法
・これに対し、主に締約する国家間の義務を定めているに過ぎないものは、国内法化の
措置を講じないと国内法としての意味を持たないもの
→国内法化の措置が必要
ex.手形・小切手に関するジュネーブ条約
(3)商 慣 習 法
・商慣習とは、商事に関する事実上の慣行、商取引の過程において形成された慣習
民 法 92 条 の 「 事 実 た る 慣 習 」 の 一 種
・商慣習法とは、このような商慣習に法としての確信が加わったものであり、
法規範としての効力を有し、かつ一地方的なものではなく、全国的なものでなければ
ならない(1 Ⅱ)
商慣習法は法規範であるのに対し、商慣習は当事者の意思表示の解釈のための材料に
すぎない
ex.白紙委任状付き記名株式譲渡、白地手形
・企業をめぐる法律関係においては、商慣習法が重視され、商法の法源の一つとされる
←制定法のもつ限界と企業取引における商人の効率性重視、進歩的傾向、企業活動の
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反復性などから、法とは異なる実務的な処理、商慣習が形成されやすく、
そのような商慣習が重視される
・制定法の規定していない隙間を埋めたり、制定法が現実に合わなくなったために生じた
欠陥を是正する機能を有するほか、制定法により取り入れられることもある
・制定法と同様に、訴訟当事者は商慣習の存在とその内容について立証責任を負わない
→当事者が商慣習法による意思を有していたかどうかにかかわらず、当事者を拘束する
(商慣習法の存在は法律問題)
・ な お 、 商 法 1 条 2 項 の 文 言 は 、 改 正 前 商 法 で は 、「 商 慣 習 法 」 と な っ て い た が 、
平 成 17 年 商 法 改 正 に よ り 「 商 慣 習 」 に 変 わ っ た
(4)商 事 自 治 法
①会社の定款、取引所の業務規程、手形交換所の手形交換規則
・企業等の団体が、構成員や内部者を拘束するために自主的に定める規則は商法の法源と
解されている
・ただし、会社の定款、証券取引所の業務規程は第三者をも拘束する
←法律上の根拠があり、これらの規定の法的拘束力が認められるから
e x . 定 款 の 作 成 ( 会 26・ 575)、 効 力 ( 会 139 Ⅰ 但 書 な ど )、 業 務 規 定 ( 金 商 117)
これに対し、規則の制定に法律が根拠を与えていない場合(手形交換所の手形交換規則
な ど ) の 法 的 拘 束 力 に つ い て 争 い が あ る ( 銀 行 取 引 停 止 処 分 、 交 換 規 則 62 以 下 )
②普通取引約款(約款)
・不特定多数の利用者との契約を処理するために、契約の一方当事者(主に企業)に
よってあらかじめ作成された定型的な契約条項
同種の取引が大量、反復、継続して行われる場合に用いられる
ex.保険契約、不動産取引、銀行取引、鉄道、タクシー、バス
契約締結に際しての契約条件の交渉コストを削減できるメリットがある一方で、
作成者である企業が一方的に契約内容を定めるため、当該企業にとって一方的に
有利な契約内容であっても、相手方がそれに拘束されるかという問題を生じる
・約款には法律上の根拠がないため、一般に商法の法源であるとは解されていないが、
それが当事者の合意に基づく契約内容であるとされる場合には当事者を拘束する
→どのような根拠により、どのような場合に約款は拘束力を有するか?
(約款の拘束力)
a . 法 律 行 為 説 ・ ・ ・・約 款 に よ る 契 約 も 通 常 の 契 約 と 同 様 に 、 当 事 者 が 契 約 内 容 を 十 分 に
認識してはじめて効力が生じる
←契約自由の原則に忠実だが、当事者の主観的事情により契約の効力が左右される
ため、不都合な結果が生じる
b . 意 思 推 定 説 ・ ・ ・・契 約 当 事 者 が 特 に 約 款 に よ ら な い 旨 の 意 思 表 示 を し な い で 、 ま た 、
約款による旨の記載のある契約書に署名の上契約したときは、
契約当時その約款の内容を知悉していなくても、一応これによる
意思をもって契約したものと推定することができる
( 判 例 = 大 判 大 正 4・ 12・ 2 民 録 21 輯 2182 頁 [百 選 2] )
←約款による意思がないことが反証されると拘束力が否定され法的安定性を害する
c . 商 事 自 治 法 説 ・・・ ・団 体 が 自 主 的 に 制 定 す る 法 規 に 法 源 性 を 認 め 、 約 款 も そ の 一 つ
であり、当該取引社会における自治法であるとする
←約款は企業の経済力により事実上利用されているだけで、これを法として認め
その一般的適用を認めるのは妥当ではない
d . 白 地 商 慣 習 法 説 ・ ・ ・・特 定 の 取 引 に つ い て は 「 約 款 に よ る 」 と い う こ と を 内 容 と す る
商慣習法ないしは商慣習が成立しているとする(通説的見解)
(ただし約款自体が商慣習法や商慣習となっているわけではない)
→cと異なり、仮に約款が全面改正された直後であっても当事者が約款に拘束
されることを説明可能
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←今まで全く約款が利用されてこなかった取引において、はじめて約款を利用する
ときには、その拘束力に疑問が生じる
c・dは、商人間はともかく、企業・消費者間の約款取引を説明できない?
e . 新 契 約 説 ・ ・ ・・ 約 款 は 契 約 締 結 行 為 の 一 環 と し て 採 用 さ れ る こ と に よ り 拘 束 力 が あ る
とした上、業者が約款を使用する旨を知らせた場合拘束力が認められ
るが、約款の内容である個々の条項については顧客の合理的な期待が
ないときは意思表示の合致がなく、約款の内容も知らせた場合は
拘束力が認められるが、約款の条項が通常の顧客にとって理解可能で
ありかつ明確に認識できる状況に置かれたときに拘束力があるとする
・普通取引約款の規制
現在では、約款の拘束力の根拠よりも、その内容をいかに公正なものとするかが問題
となっている(拘束力をめぐる議論は下記②と関連)が、それには以下の手法がある
① 行 政 的 規 制 ・ ・ ・・ 主 務 大 臣 に よ る 約 款 の 認 可 ( 内 容 の 妥 当 性 に つ い て の 実 質 的 判 断 ) や
届 出 、 開 示 規 制 ( 保 険 業 法 4 Ⅱ ③ ・ 123 Ⅰ )
ただし、認可と約款の司法上の効力は別個の問題(無認可約款≠約款の無効)
② 司 法 的 規 制 ・・・・裁 判 所 が 不 当 な 約 款 条 項 か ら 取 引 の 相 手 方 を 保 護 す る た め に 、
当該条項の効力を否定したり、制限的な解釈をとること
ex.
③ 立 法 的 規 制 ・・・・個 別 的 法 令 に よ る 不 当 条 項 の 制 限 ・ 排 除
e x . 免 責 約 款 ( 739)、 解 除 ・ 損 害 賠 償 額 の 制 限 ( 割 販 法 5・ 6)
消 費 者 契 約 法 の 不 当 条 項 規 制 ( 消 契 8・ 9・ 10)
民 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 案 (閣 法 63 号 、 平 成 27 年 3 月 31 日 )
2.法源の適用順序
・商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除く
ほか、この法律の定めるところによる(1 Ⅰ)
・商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは
民法の定めるところによる(1 Ⅱ)
・「 商 事 に 関 し て 」 と は 、 企 業 を め ぐ る 法 律 関 係 に 関 し て は 、 と い う 意 味
・商法 1 条 2 項は、この関係における法律の適用順位について定める
商法典>商慣習(法)>民法典
慣 習 法 は 制 定 法 を 改 廃 で き な い と す る 制 定 法 優 先 主 義 ( 通 則 法 3) の 例 外
←商慣習法は企業の合理的精神から生み出され、また企業生活に適合したものである
それゆえ、広く一般の私人を対象とする民法に比べて合理的なものとして、優先的
に適用すべきもの
商慣習法よりも商法を優先することは、制定法優先主義からは当然のこと
しかし、商慣習法は進歩的で、企業活動の進展に伴い合理的な商慣習が生まれることも
あるのに対して、制定法は固定的であるため、現実の企業取引に適合しなくなるものも
出てくる
そこで、例外的に、商法よりも商慣習法を優先すべき場合もあると解されている
・なお、法律の効力に関する一般原則によれば、商事条約>商事特別法>商法典
Ⅴ.商法の特色
・商法は一般私法である民法に対して様々な特色を持っているが、これらは内容上の特色
と発展傾向上の特色に分けられる
1. 内 容 上 の 特 色
(1)企 業 活 動 に 関 す る 特 色
①営利主義
・企業活動は利潤獲得を目的として営まれ、商法の基本概念である商行為・商人・会社は
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その営利性を前提としている
・その他、商法は一定の場合営利性を強調している
e x . 512、 513 Ⅰ 、 513 Ⅱ 、 514
②自由主義
・商法典は、契約自由の原則など、企業活動に関する自由主義について正面から規定して
いないが、商法の当然の原則となっている
e x . 521
③迅速主義
・営利のためには、取引の大量・敏速な処理が要請される
→民法と比べて、商法は取引の成立・終了について、迅速主義を採用
e x . 508、 509、 524 、 525、 522・ 566
④公示主義と外観主義
・商法は、取引の安全を保護するため、取引上重要な事項を公示させることにより、
関係者が不測の損害を被ることを防止
e x . 8、 会 907、 会 939
・同様に、商法は、取引の安全保護のため、取引相手は、契約の相手方の内実を調査
し な く て も 、 取 引 相 手 の 外 観 を 信 頼 す る こ と が で き ( 外 観 主 義 )、 ま た 、 こ の よ う な
外観を作り出した者は、責任を負わされることがあるとしている(権利外観、禁反言)
e x . 9 Ⅱ 、 会 908 Ⅱ 、 14 、 会 9、 24、 会 13、 会 588・ 589、 会 354、 537
⑤厳格責任主義
・商法は取引の安全のため、企業者の責任を強化する規制を置く
e x . 594、 511 Ⅰ 、 579
(2)企 業 組 織 に 関 す る 特 色
①資本の集中
・企業がその活動を行うには多額の資金を必要とする
→商法は企業の資金調達を容易にする制度を設けている
e x . 535、 693、 848 、 各 種 会 社 の 制 度
②労力の補充
・労働者などの人は企業の不可欠の構成要素である
→商法は人による労力の活用に関する規定を設けている
e x . 20、 会 10、 27、 会 16 、 543、 551、 705
③危険の分散
・企業が大規模な資本集中を可能にするために、商法は社会に存在する少額資本家が
投資しやすくするための仕組みを設けている
e x . 会 104
④企業の維持
・企業は維持され、企業解体による価値の損失は回避されることが望ましい
→商法は、企業の存立確保のために家計と企業とを区別し、また、企業が解体される
ことを回避するための規定を置いている
e x . 11、 会 6、 19、 15 Ⅰ 、 会 21、 会 748
2.発展傾向上の特色
①進歩的傾向
・商法は民法と比べて進歩的で、時代の変化に対応して発展していくという傾向を持つ
・そのため、新しい制度を私法にもたらすという機能を有する(民法の商化)
②世界的傾向
・商法のように、経済的需要に応える法律は、その内容を同じくする傾向がある
・企業取引の国際化に伴い、国家間の商法の内容の調整も図られつつある
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