商法概論・商法総則レジュメ 第1回 根本 商 法 概 論 (1): 商 法 と は 何 か ? 商 法 の 意 義 ・ 歴 史 Ⅰ.商法とは何か? (1)商 法 の 文 言 か ら ・商法 1 条 1 項「商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めが あ る も の を 除 く ほ か 、 こ の 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ る 。」 →・商法の対象は商事である ・商事については、特別法(手形法、小切手法、会社法、保険法などの法律)の 定めがない限り、商法が適用される =商法は商事に関する一般法 →・商事とは何か? 商事とは民事の特別な一部を示す概念 →・一般的な民事に対して、商事がどのような意味で特別か? ・商事の範囲はどこまでか? 2.商法の意義 (1)商 法 の 2 つ の 意 味 ・商法には、形式的意義の商法と実質的意義の商法の 2 つの意味がある a . 形 式 的 意 義 の 商 法 ・・ ・・明 治 32 年 に 制 定 さ れ た 「 商 法 」 と い う 名 称 の 制 定 法 (商法典、現行商法典) b . 実 質 的 意 義 の 商 法 ・・ ・・学 問 上 商 法 と し て 、 統 一 的 体 系 的 に 把 握 さ れ る べ き 特 定 の 法領域 形式的には商法に含まれていないが、実質的に商法に含めて 考えることのできる法規定をも含む ex.手形法、小切手法、会社法、保険法など (2)商 法 典 と そ の 内 容 ・商法典は、第一編総則、第二編商行為、第三編海商の 3 部構成であり、従来は、第二編 に 「 会 社 」 が 存 在 し 、 第 三 編 に 第 10 章 「 保 険 」( 陸 上 保 険 ) が 存 在 し た が 、 そ れ ぞ れ 独 立 の 法 典 で あ る 「 会 社 法 」( 2005 年 )、「 保 険 法 」( 2008 年 ) と な っ た ・第1編 商法総則は、企業および企業が利用する各種制度について規定 商業登記、商号、商業帳簿、商業使用人、代理商 第2編 商行為は、典型的な企業取引である商行為および各種の企業取引について扱う 商事売買、交互計算、匿名組合、仲立営業、問屋営業、運送取扱営業、運送営業、寄託 第3編 海商は、船舶およびそれによる企業取引について扱う (3)実 質 的 意 義 の 商 法 を め ぐ る 議 論 ・当初は経済上の商、すなわち生産者と消費者との間に介在して有形財貨の転換の媒介を する営利行為(固有の商)を対象とすると把握されてきた しかし、経済の発達により、このような媒介行為の必要を満たすための補助的な行為 (銀行取引、物品運送、損害保険などの補助商)やこれらと類似の経営方法によるもの (出版、旅客運送などの第三種の商)についても、商法の対象とされるようになった そこで、これらの行為を統一的に把握するため、どのような点に着目して実質的意義の 商法を把握すべきかが問題となった a.商または商事と定める法律事実を対象とする法であり、商とは法律で商と規定され たものであるとする見解(松本烝治) ←形式的消極的な理解にすぎない、循環論法 b . 商 的 色 彩 説 ・ ・ ・・一 般 私 法 の 法 律 事 実 の う ち 商 的 色 彩 を 帯 び る も の が 商 法 上 の 事 実 で あり、それを対象とするのが商法であるとする見解(田中耕太郎) 商的色彩とは、専門化された営利的活動たる投機売買より演繹 -1- されるべき特性であり、集団性や個性の喪失をその特徴とする ←商法の対象を積極的に捉えることが困難 c . 企 業 法 説 ( 通 説 ) ・ ・ ・・企 業 を 対 象 と し て 、 企 業 を め ぐ る 経 済 主 体 の 利 益 を 関 係 経 済 主体間の権利義務秩序として規制する私法であると解する 見解(西原寛一) 企業とは、営利行為を継続的かつ計画的に行う独立した 一つの経済主体 ・いずれの見解をとるにしても、実質的商法には、商法典だけでなく、他の商事に 関 す る 法 律 ( 手 形 法 、 小 切 手 法 、 会 社 法 、 保 険 法 等 )、 商 事 に 関 す る 特 別 法 ( 商 業 登 記 法 )、 政 省 令 ( 商 法 施 行 規 則 ) な ど が 含 ま れ る と 解 さ れ て い る (4)企 業 法 説 の 問 題 点 ・企業法説はそれ以前の見解の問題点を克服するとともに、商法に関する大まかな イメージを与える点では有意義であるが、具体的にいかなる法規が実質的意義の商法に 含まれるかについて統一的に説明できるかどうか疑問 その他、以下の問題点が指摘されている ①商法典には企業概念とは無関係の絶対的商行為が存在する ②商行為以外の行為を業とする者には商法の適用がない(会社を除く) ③農林業経営者や自由職業(医師、弁護士、音楽家など)が除外されている ④商法典には民事訴訟手続に関する規定や刑罰法規が存在する ⑤会社法との関係をどう理解するか? かつて会社法は、商法典の一部であったが、実質的には営利法人に関する基本法 平 成 17 年 に 「 会 社 法 」 が 成 立 し 、 自 己 完 結 的 な 体 系 を も つ 独 立 の 法 典 と な っ た →「実質的意義の商法」という発想自体に再考を促す? ・従来、実質的意義の商法は、企業取引法と企業組織法とに分かれており、会社法は後者 に該当するとの説明がなされてきた しかし、会社法と商行為法との間には、規制原理の面において共通点よりも相違点が 多く、両者を包括する商法という学問領域の存否が問題となる ・商法は民法の特別法であるが、その意味は会社法と商法とで大きく異なる 商法は、民法の特則を定めるもので、それゆえ商取引に対しても特別規定がない限り、 民法規定が適用される(一般法と特別法の関係) これに対し、会社法は、会社という営利法人の組織・運営を規律する体系的に完結した 法分野であり、非営利法人(一般社団法人、一般財団法人)を規律する「一般法人法」 に対して独自性を有する* *かつては、①民法に公益法人、②商法に営利法人(会社)が規定され、③公益も営利も目的と しない中間的な法人については、特別法により個別的に認められていたにすぎなかった(生活協同 組 合 、 労 働 組 合 等 ) が 、 2001 年 の 中 間 法 人 法 の 制 定 に よ り 、 ③ に つ い て の 一 般 法 が 実 現 し 、 全 て の タ イ プ の 法 人 が 設 立 可 能 に な っ た 。 そ の 後 、 公 益 法 人 改 革 の 結 果 、 2006 年 に 非 営 利 法 人 の 一 般 法 で あ る 「 一 般 社 団 法 人 及 び 一 般 財 団 法 人 に 関 す る 法 律 」( 一 般 法 人 法 ) が 成 立 し 、 そ れ に 伴 い 、 民 法 から公益法人の規定が削除されるとともに、中間法人法は廃止された。 ・ 2005 年 に は 、 従 来 、 商 法 第 二 編 会 社 、 有 限 会 社 法 お よ び 監 査 特 例 法 に 分 散 し て い た 会社に関する法規制が新しい法典「会社法」に一本化された ・ 会 社 法 で は 、 従 来 の 商 法 総 則 に 相 当 す る 規 定 が 置 か れ ( 会 6 ~ 24)、 そ れ に 対 応 し て 商号、商業帳簿、商業使用人、代理商に関する商法総則の規定は会社には適用されない 旨 の 規 定 が 置 か れ た ( 11 Ⅰ 括 弧 書 ) ・会社法成立により、商法第二編会社が削除され、第三編商行為が第二編に繰り上げ られるとともに、その一部が口語化されている(匿名組合まで) (5)民 法 ( 債 権 法 ) 改 正 と の 関 係 ・商法は私法の一分野であり、その意味で、民法と共通するとともに、民法との関係が -2- 問題となる(民法との関係をめぐる議論については、次回に詳述する) ・ 法 制 審 議 会 民 法 ( 債 権 関 係 ) 部 会 は 、 2013 年 2 月 に 「 民 法 (債 権 関 係 )の 改 正 に 関 す る 中 間 試 案 」 を 公 表 し 、 そ の 後 は 、 2014 年 7 月 に 「 民 法 (債 権 関 係 )の 改 正 に 関 す る 要 綱 仮 案 」 を 決 定 し 、 そ の 後 調 整 の 上 、 要 綱 案 ・ 要 綱 を 順 次 策 定 し 、 2015 年 の 通 常 国 会 に 法 案 を 提 出 す る 予 定 ( http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900184.html) ・上記中間試案では、当初の議論からするとその範囲は大幅に縮小しているとはいえ、 商法商行為編の取り込みが企図されている e x . 商 事 消 滅 時 効 ( 522)、 商 行 為 に よ る 債 務 の 連 帯 債 務 性 ( 511 )、 商 人 の 報 酬 ・ 利 息 請 求 権 ( 512 ・ 513 )、 商 事 法 定 利 率 ( 514 ) →実質的意義の商法概念を維持することが妥当かどうか、今後、検討されるべき 2.商法の歴史 (1)商 法 の 発 展 ・近代以前の社会では、商法とは、商人という身分を有する者の間での自主的なルールで あった(商人階級の自足的な法) 中世イタリアの諸都市では、商人間で通用する自治的法規が定められており、これが 現在の商法に大きな影響を及ぼしている(封建制の下では、身分・階級が相違すると 適用される法規も異なり共通点がないという傾向があった) ・ところが、フランス革命などの市民革命によって身分・階級が撤廃されると、 かつてのような商人階級の法としての商法という考えは通用しなくなった ・そこで、近代ヨーロッパ大陸諸国では、従来の商法のルールの多くが、近代的な法 として国の一般私法体系の中に取り込まれていった ・ フ ラ ン ス : ナ ポ レ オ ン が 立 法 作 業 を 積 極 的 に 推 進 し 、 1804 年 の 民 法 典 に 加 え 、 1807 年 商 法 典 ( ナ ポ レ オ ン 法 典 ) が 成 立 ・ ド イ ツ : 全 ド イ ツ の 私 法 の 統 一 運 動 に 合 わ せ て 、 1861 年 一 般 ド イ ツ 商 法 典 が 制 定 ・なお、大陸法系の諸国において、民法と商法とが別の法典として分けて立法された理由 としては、以下のような事情もあった ・取引に疎い裁判官による不当な干渉を受けることなく、商人間の紛争については、 同じ商人同士で解決を図りたいという要求(フランスの商事裁判所) ・領邦に分裂していたドイツでは、領邦間の取引は国際取引であり、その不便を 無くすために国家統一に先駆けて商取引に関する法の統一が求められた(ドイツ) ・市民革命により身分制度が撤廃されると、身分を基礎にして商法の適用範囲を画する ことができなくなった ・そこで、市民革命後に成立した商法典においては、何らかの形で、新たに商法の適用 範囲を画する必要に迫られた a . 商 行 為 法 主 義 ・・・ ・商 行 為 を 定 義 し 、 こ れ を 行 う 者 を 商 人 と す る ( 客 観 主 義 、 フランス商法典、ただし完全な商行為主義ではない) b . 商 人 法 主 義 ・・ ・・商 人 を 定 義 し 、 こ れ に 該 当 す る 者 を 商 人 と す る ( 主 観 主 義 ) ex.ドイツ商法 1 条 1 項 ( 1)こ の 法 律 に お い て 商 人 と は 商 業 を 営 む 者 を い う 。 ( 2)商 業 と は 、 あ ら ゆ る 営 業 を い う 。 た だ し 、 当 該 企 業 が そ の 事 業 の 方 法 お よ び 範 囲 か ら み て 、 商 人 的 に 組 織 さ れ た 経 営 設 備 を 要 し な い 場 合 を 除 く ( 同 2 項 )。 c . 折 衷 主 義 ・・・・① あ る 種 類 の 行 為 ( 絶 対 的 商 行 為 ) は 誰 が 行 っ て も 商 人 と す る が 、 他の種類の行為(営業的的商行為)は営業として行う場合にだけ その者を商人とする、②商人がその「営業のためにする行為」を 商 行 為 と す る ( 附 属 的 商 行 為 )、 ③ 商 行 為 主 義 に 立 ち な が ら 、 商行為を行わないにもかかわらず、政策的に商人として商法を適用 する者(擬制商人)を認める(一般ドイツ商法典、日本商法) →近代商法は、その適用範囲を画するために、商人・商行為という2つの概念を用いる -3- (2)わ が 国 の 商 法 の 歴 史 ・わが国では、明治以前には、普遍的に通用する、統一的な法典の形をとった私法規範は 存在しなかった ・明治時代になって近代的な法典を整備する必要に迫られた ①封建主義体制から資本主義経済体制への移行 貨 幣 ・ 市 場 経 済 を 規 律 す る 統 一 的 な 私 法 の 必 要 性( 経 済 活 動 の イ ン フ ラ と し て の 私 法 ) ②幕末期に締結した不平等条約(修好通商条約)の改正 治外法権の撤廃・関税自主権の確立をめざした 法制の不備が列国の条約改正拒否の一因→近代的な法典の完備が条件 ・ そ こ で 1881 年 4 月 、 外 務 省 嘱 託 で あ っ た ド イ ツ 法 学 者 ヘ ル マ ン ・ レ ー ス ラ ー に 商 法 の 起 草 を 依 頼 し 、 同 氏 の 草 案 を 基 に し て 1890 年 に 旧 商 法 が 成 立 し た ( 翌 年 1 月 施 行 予 定 ) ・ と こ ろ が 、 民 法 典 論 争 の 煽 り を 受 け て 旧 商 法 に 対 す る 反 対 論 が 噴 出 し ( 商 法 典 論 争 )、 そのため結局、商法の施行は 2 年間延期(後に期限は更新された) た だ し 経 済 界 か ら の 要 望 で 、 1893 年 に 会 社 ・ 手 形 小 切 手 ・ 破 産 法 部 分 だ け は 施 行 ・ 1893 年 3 月 、 梅 謙 次 郎 ・ 岡 野 敬 次 郎 ・ 田 部 芳 に よ っ て ド イ ツ 商 法 を 基 本 に し た 草 案 が 出され、法典調査会において審議の上、梅と穂積陳重・富井政章によって商法法案と し て 纏 め ら れ 、 1899 年 3 月 に 公 布 さ れ た ( 3 か 月 後 に 施 行 ) ①旧民法典 : ボ ワ ソ ナ ー ド 民 法 、 フ ラ ン ス 法 系 、 1890 年 公 布 、 1893 年 施 行 予 定 民 法 典 論 争 :「 民 法 出 で て 忠 孝 亡 ぶ 」( 穂 積 八 束 ) → 施 行 延 期 に ②旧商法典 :レースラー草案、編別はフランス法に倣うが内容はドイツ法系 1890 年 公 布 ・ 翌 年 施 行 予 定 商法典論争:外国法模倣、実業家団体からわが国の慣習風俗に反する→施行延期 た だ し 経 済 界 か ら の 要 望 に よ り 、 1893 年 に 会 社 ・ 手 形 小 切 手 ・ 破 産 法 部分だけは施行 ③現行民法典:起草者は穂積陳重・梅謙次郎・富井政章 1898 年 施 行 ドイツの民法体系を基礎、パンデクテン・システムを採用 ④ 現 行 商 法 典 : 起 草 者 は 梅 謙 次 郎 ・ 岡 野 敬 次 郎 ・ 田 部 芳 、 1899 年 施 行 ドイツ旧商法を基礎、民法規定との重複を避ける、手形法が 含まれている ・わが国の民商法は、明治時代に、近代的法典編纂の一環として整備された そのうち、商法総則、商行為、海商に関する規定は現在でも「ほぼ」と同じ これに対して、会社法の領域は頻繁に改正が繰り返されている ・ な お 、 パ ン デ ク テ ン ・ シ ス テ ム と は 、 ロ ー マ 法 を 継 受 し た ド イ ツ に お け る 19 世 紀 普 通 法学(パンデクテン法学)の採用した法典の編成方式であり、わが国の現行民法典も これに倣い編成されている そ の 編 成 の 考 え 方 は 、 ① 財 産 法 と 家 族 法 (身 分 法 )に 区 分 、 ② 財 産 法 = 物 権 と 債 権 の 峻 別 を 基 礎 と し て「 物 権 法 」と「 債 権 法 」に 分 け る 、③ 家 族 法 = ロ ー マ 式 編 成 の「 人 」と「 物 」 との区別に準じて「親族法」と「相続法」に分ける、④これらに共通の規則を総則と し て 冒 頭 に 置 く ( 第 1 編 「 総 則 」、 第 2 編 の 「 物 権 」 第 3 編 「 債 権 」、 第 4 編 「 親 族 」、 第5編「相続」それぞれにも「総則」が置かれる) 問 題:1.商法とは何か?商法の2つの意義とそれに関する議論について述べよ。 2.近代的商法の特徴は何か?近代的商法は、どのような形で商法の適用範囲を 画しているか? 3.わが国の現行商法はどのような経過をたどって制定されたか? 教 科 書 : 1 . 近 藤 光 男 『 商 法 総 則 ・ 商 行 為 法 ( 第 6 版 )』( 有 斐 閣 、 2013 年 ) 2 . 北 居 功 = 高 田 晴 仁 『 民 法 と つ な が る 商 法 総 則 ・ 商 行 為 法 』( 商 事 法 務 、 2013 年 ) -4-
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