商法概論・商法総則レジュメ 第6回 根本 商業使用人、代理商 [設 例 6 - 1 ] 東京都下で製菓業を営む個人商人Aは杉並営業所の支配人としてBを選任し、その 旨 の 登 記 も し て い た 。 た だ し 、 A と の 約 定 に よ り 、 B は 5,000 万 円 を 超 え る 取 引 に つ いてはAを代理する権限を有しないものととされていた。ある日、BがCとの間にお いて小麦粉を 1 億円で購入する売買契約を締結した場合、その取引は有効か? [設 例 6 - 2 ] D生命保険会社は保険契約の締結や保険料の徴収、保険金の支払い等を業務として いたところ、D社大阪中央支社は、保険契約の新規募集と第 1 回保険料徴収の取次の 権限しか有していなかった。ある日、D社の大阪中央支社長Eが約束手形を振り出し た。この手形の所持人であるFのD社に対する手形金支払請求は認められるか? [設 例 6 - 3 ] G信用金庫H支店の支店長Iは、自分の借金返済に充てるために、顧客用の当座小 切手用紙を使って、G信用金庫H支店長Iのゴム印と支店長印を押して、持参人払式 自己宛の先日付小切手を作成し、振り出した。この小切手の所持人であるJのG信用 金庫に対する小切手金支払請求は認められるか? [設 例 6 - 4 ] 小売商Kは家具メーカーLの代理店Mを通してスチール製の本棚を注文したが、届 いたのは木製の本棚であり、しかも、その本棚にはボルトが一部入っていないという 欠陥があった。Mが媒介代理商であるとして、Kはどのような措置をとりうるか? Ⅰ.商人の補助者 1.総説 ・商人がすべての取引を自ら行うことは困難であり、また、適切でもない 個性が希薄な企業取引は補助者に委ねることが適切な場合が多い そこで、商人にとって、自らの営業活動を補助してくれる者が必要となる ・ 商 人 の 営 業 の 補 助 者 は 、① 特 定 の 商 人 に 従 属 し て 企 業 の 内 部 で 補 助 す る 者( 商 業 使 用 人 ) と②独立の商人として企業の外部から補助する者(代理商、仲立人、問屋など)に 分けられる [図 6 - 1 ] 企 業 の 補 助 者 内部の補助者-商業使用人 商 法 総 則 第 6・ 7 章 企業の補助者 特定の商人を補助-代理商 外部の補助者 (補助商) 不特定多数の商人を補助-仲立人、問屋 → 商 行 為 編 ( 第 5・ 6 章 ) に 規 定 Ⅱ.商業使用人 1.総説 (1)商 業 使 用 人 に 関 す る 規 定 の 目 的 ・ 商 法 は 、商 人 と 商 業 使 用 人 と の 代 理 権 に 関 す る 民 法 の 特 則 を 定 め る( 20 ~ 26、会 10 ~ 15) ←反復的・継続的に行われる商取引において、取引の円滑と安全を確保するため ・商法は、商業使用人の代理権の発生・変更・消滅と代理権の範囲について規定する →商人の取引活動を円滑に進め、かつ取引の安全を図る 使用人の雇用関係については、民法・労働法が規定 -1- ・商法は、支配人、ある種類・特定事項の委任を受けた使用人、物品販売店の使用人に ついて規定している [図 6 - 2 ] 商 人 ・ 商 業 使 用 人 間 の 法 律 関 係 商人 (内部関係)→雇用(労働)契約を中心とする民法・労働法の領域 商業使用人 取引の相手方 (外部関係) ↓ 商人の代理人であり、取引の安全の見地に立つ商法の領域 (2)商 業 使 用 人 の 意 義 ・ 特 定 の 商 人 ( 営 業 主 ) に 従 属 し て ( 指 揮 命 令 に 服 し て )、 商 人 の 営 業 活 動 を 補 助 す る 者 のうち、商人の営業上の代理権を有する者 →特定の商人に従属しない者は商業使用人ではない ・独立の商人=仲立人、問屋、代理商 ・未成年者、成年被後見人の法定代理人として営業を行う親権者、後見人 ・会社の機関である代表社員・代表取締役 ・商人と使用人との間で雇用契約が存在することが必要か? ex.商人が家族や友人等に営業活動を行わせた場合 通説は、商業使用人というためには、雇用契約は必要であるとする →家族、友人等については、商業使用人に関する規定を類推適用すれば足りる ・商人のために営業上の代理権を有するものであること →代理権のない者は、商人に従属して営業活動を補助していても商業使用人ではない ex.技師・職工・簿記係など事実行為の補助者 2.支配人 (1)意 義 ・支配人とは、商人の営業所(会社の本店または支店)の営業の主任者である商業使用人 ・商人は、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる ( 20 、 会 10) ・支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする 権 限 を 有 す る ( 支 配 権 、 21 Ⅰ 、 会 11 Ⅰ ) →支配人とは何か? a.実質説:商人からその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を 与えられた商業使用人(通説) →支配人であるかのような名称を与えられた者や制限付き代理権しか与えられて い な い 者 は 支 配 人 で は な い ( 表 見 支 配 人 ( 24) の 問 題 と な る ) ←商人が使用人の代理権に何らかの制限を加えた場合(制限付き代理権)には、 その使用人は支配人ではないことになり、支配人の代理権に加えた制限は善意の 第 三 者 に 対 抗 で き な い と す る 21 条 3 項 の 意 味 が な く な る b.形式説:商人が営業の主任者として選任した商業使用人 →制限付き代理権を授与されたにすぎない者であっても支配人であり、その制限を 商人は善意の第三者に対抗することができないだけと解する ・支配人は、通常、支配人の他支店長、営業所長、営業本部長などの営業の主任者たる 肩 書 を も っ て 称 さ れ る ( 下 記 ( 5) イ ) ① 参 照 ) が 、 通 説 に よ れ ば 、 あ る 使 用 人 が 支配人であるかどうかは、その名称ではなく営業の主任者としての代理権の有無という 実質で決まる 包 括 的 代 理 権 を 有 し な い 者 を 支 配 人 と し て 登 記 ( 下 記 (2)) し た と し て も 変 わ ら な い -2- ・ な お 、「 執 行 役 員 」 は 指 名 委 員 会 等 設 置 会 社 に お け る 「 執 行 役 」( 402 Ⅰ 等 ) と 異 な り 、 会社の機関ではなく、重要な使用人にすぎない →支配人に該当する場合もあるが、必ずしも支配人とは限らない (2)選 任 ・ 終 任 ア)選任 ・ 支 配 人 は 、 商 人 ま た は そ の 代 理 人 が 選 任 す る ( 20、 会 10) ←広範な代理権を与えることになる支配人の選任は、商人にとって重大事項 ・支配人は、特に代理権を与えられない限り、他の支配人を選任できない ← 支 配 人 は 他 の 使 用 人 を 選 任 す る 旨 規 定 す る 21 条 2 項 の 反 対 解 釈 ・支配人選任の法的性質は、代理権の授与を伴う雇用契約・委任契約 ・ 支 配 人 は 自 然 人 で あ る ほ か は 資 格 制 限 が な く 、 行 為 能 力 者 で あ る 必 要 も な い ( 民 102) ・会社については、支配人選任に際して以下の規制がある ・ 株 式 会 社 の 支 配 人 は 、 取 締 役 会 等 の 会 社 の 機 関 が 選 任 す る ( 会 362 Ⅳ ③ ・ 348 Ⅲ ① ) 持 分 会 社 で は 、 原 則 と し て 社 員 の 過 半 数 に よ っ て 決 定 ( 会 591 Ⅱ ) ・株式会社の支配人は、当該会社または親会社の会計参与、監査役、会計監査人等を 兼 任 で き な い ( 333 Ⅲ ① ・ 335 Ⅱ ・ 337 Ⅲ ① ② ・ 400 Ⅳ ) 委 員 会 設 置 会 社 で は 、 当 該 会 社 の 取 締 役 と の 兼 任 も 禁 止 ( 331 Ⅲ ) ・支配人の選任に際して、商人を代理すべき営業または営業所を特定しておく必要がある ←特定の営業所の支配人は、その営業所について包括的代理権を有する 複数の商号を使用して、複数の営業を行う場合には、その代理すべき商号・営業を特定 する必要がある ただし、一人で複数の営業所等の支配人を兼任することは可能(総支配人) ・小商人は支配人を選任することができない ←支配人の制度は商業登記の制度と不可分であるが、小商人には商業登記に関する規定 が 適 用 さ れ な い か ら ( 7) イ)終任 ・商人と支配人との間の法律関係は代理権の授与を伴う雇用関係(上述) →支配人は、①代理権の消滅、②雇用契約の終了、③営業の廃止によって終任となる ①代理権の消滅事由 ・ 支 配 人 の 死 亡 、 破 産 、 後 見 開 始 の 審 判 ( 民 111 Ⅰ ② ) ・ 商 人 の 破 産 ( 民 111 Ⅱ ・ 653 ) ・ 商 人 ま た は 支 配 人 か ら の 契 約 解 除 ( 民 111 Ⅱ ・ 651) 民 法 111 条 1 項 1 号 で は 本 人 の 死 亡 も 代 理 権 の 消 滅 事 由 と な っ て い る が 、 支 配 人 の 代 理 権 は 、 商 行 為 の 委 任 に よ る 代 理 権 で あ り 、 本 人 の 死 亡 に よ っ て 消 滅 し な い ( 506) →支配人はその相続人の支配人となる ②雇用関係の終了事由 ・期間の満了 ・ 商 人 ま た は 支 配 人 か ら の 解 約 申 入 れ ( 民 626 以 下 ) ・ 商 人 が 破 産 宣 告 を 受 け た 場 合 の 支 配 人 ま た は 破 産 管 財 人 か ら の 解 約 申 入 れ ( 民 631 ) ③営業の廃止 ←支配人は商人の営業を前提としている以上、営業が廃止になれば当然に終任となる (会社の解散も同様) → 営 業 廃 止 に 伴 う 後 始 末 、 会 社 の 清 算 ( 会 475 以 下 ) や 会 社 継 続 ( 会 473) と の 関 係 で 再検討の必要? ・営業譲渡の場合? ・終任になると解する見解 ・別段の取り決めのない限り、支配人の雇用関係は譲受人に承継されると解する見解 ・ 会 社 に お い て は 、 支 配 人 の 解 任 は そ の 選 任 ( 上 記 ア )) と 同 じ 手 続 で 行 わ れ る ウ)登記 ・支配人が誰であるかについて、商人および取引の相手方は重大な利害関係を有している → 商 人 が 支 配 人 を 選 任 ま た は 解 任 し た と き は 、 そ の 登 記 を し な け れ ば な ら な い ( 22) -3- ・ 支 配 人 の 登 記 は 個 人 商 人 の 場 合 で も 絶 対 的 ・ 義 務 的 登 記 事 項( 小 商 人 を 除 く 、上 記 ア )) ・個人商人では支配人登記簿、会社では各会社の登記簿において支配人の登記がなされる ( 商 登 43 ~ 45) ・支配人は営業所ごとに個別化され、さらに個人商人の場合にはさらに特定の商号を 用いて営まれる営業ごとに個別化されうる →個人商人が数個の営業を使用して数種の営業をするときは、支配人が代理すべき営業 お よ び そ の 使 用 す べ き 商 号 も 登 記 さ れ る ( 商 登 43 Ⅰ ③ ) ・登記懈怠および不実登記の場合の効果につき、9 条 1 項および 2 項参照 (3)支 配 人 の 代 理 権 ア)支配権 ・支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする 権 限 を 有 す る ( 21 Ⅰ 、 会 11 Ⅰ 、 支 配 権 ) ・裁判上の行為とは、営業に関する訴訟行為について、自ら商人の訴訟代理人となり ( 民 訴 54)、 ま た は 弁 護 士 を 訴 訟 代 理 人 と し て 選 任 す る こ と が で き る こ と ・裁判外の行為とは、営業に関する一切の法律行為・準法律行為の代理権があること ・商人が複数の営業所を持っている場合には、支配人の代理権は営業所ごとに与えられる ex.本店の支配人は、支店の営業について代理権を有しない ( 株 式 会 社 の 代 表 取 締 役 ( 会 349 Ⅳ ) よ り 狭 い ) ただし、一人で複数の営業所の支配人を兼任することは可能(総支配人、上述) イ)営業に関する行為 ・営業の目的である行為のほか、営業のために必要な行為も含まれる ・営業に関する行為に当たるか否かは、その行為の性質・種類等を勘案し、客観的・ 抽 象 的 に 観 察 し て 決 す べ き も の ( 最 判 昭 54・ 5・ 1 判 時 931 号 112 頁 [百 選 29]) ・営業に関する行為とは特定の営業に関するものであり、廃業、営業譲渡、営業の変更は 支配人の代理権に含まれない ←商人が決定すべきこと、ただしその後始末は含まれる ・ 支 配 人 は 、 他 の 使 用 人 を 選 任 し 、 ま た は 解 任 す る こ と が で き る ( 21 Ⅱ 、 会 11 Ⅱ ) 営業に関する行為として当然のことを定めたにすぎない むしろ支配人には原則として他の支配人の選任権限がない(上述)ことを示す規定 ウ)代理権の制限 ・ 支 配 人 の 代 理 権 に 加 え た 制 限 は 、 善 意 の 第 三 者 に 対 抗 す る こ と が で き な い ( 21 Ⅲ 、 会 11 Ⅲ 、 支 配 権 の 不 可 制 限 性 ) ←支配人の代理権は包括的画一的であって、その範囲が法によって定められている ため、商人は支配人を選任しながらその代理権を制限することはできないはず ただし、内部的に制限することは可能であるため、そのような事情を知らないで取引 した相手方を保護するため ・善意とは、過失があってもよいが、重過失は悪意と同視される 悪意・重過失の立証責任は、商人が負う エ)代理権の濫用 ・支配人が客観的には商人の営業に関すると評価される行為を、商人の名において、 しかし自己の利益のために行った場合には、その私法上の効果が問題となる ex.支配人が自己の遊興費捻出のため商人に代わって借入行為をした場合 a . 民 法 93 条 但 書 を 類 推 適 用 し 、 相 手 方 が 支 配 人 の 背 任 的 意 図 を 知 り 、 ま た は 過 失 に よ り 知 ら な か っ た 場 合 に 限 り 、 取 引 は 無 効 に な る と す る ( 上 記 最 判 昭 54) b.悪意・重過失ある相手方に対しては責任を負わないとする(学説) ・ な お 、 共 同 支 配 制 度 ( 改 正 前 商 法 39 Ⅰ ) は 、 平 成 17 年 商 法 改 正 に よ り 廃 止 さ れ た (4)支 配 人 の 義 務 ・商人と支配人との間の法律関係は、代理権の授与を伴う雇用契約・委任契約(上述) → 支 配 人 は 商 人 に 対 し て 雇 用 契 約 上 の 義 務 、 受 任 者 と し て の 善 管 注 意 義 務 ( 民 644) を 負う -4- ・さらに、商人と支配人との間には、通常の代理人関係以上に高度な信頼関係があること から、商法は支配人に対して特別の義務を課している ア)支配人の営業禁止義務 ・支配人は商人の許可を受けなければ、①~③の行為をすることができない ① 自 ら 営 業 を 行 う こ と ( 23 Ⅰ ① 、 会 12 ① ) ② 他 の 商 人 ま た は 会 社 も し く は 外 国 会 社 の 使 用 人 と な る こ と ( 23 Ⅰ ③ 、 会 12 ③ ) ③ 会 社 の 取 締 役 、 執 行 役 ま た は 業 務 を 執 行 す る 社 員 と な る こ と ( 23 Ⅰ ④ 、 会 12 ④ ) ←支配人は包括的な権限を持っているから全力を尽くして商人のために職務を遂行する ことが期待されるため、精力が分散される結果になるような行為が禁止される ・下記イ)と異なり、営業の種類を問わず禁止される イ)競業避止義務 ・支配人は、商人の許可を受けなければ、自己または第三者のためにその商人の営業の 部 類 に 属 す る 取 引 を す る こ と が で き な い ( 23 Ⅰ ② 、 会 12 ② ) ←精力分散防止のほかに、営業機密に通じた支配人が、その能力・知識等を利用して 競業取引を行うことで、商人の得意先・取引先等を奪うなど、商人の利益を犠牲に して、自己または第三者の利益を図るおそれがあるため ・ 代 理 商 ( 28、 後 述 )、 取 締 役 の 競 業 取 引 規 制 ( 会 356 Ⅰ ① ・ 365) と 同 趣 旨 ・競業取引とは、商人が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)および市場 (地域・流通段階等)が競合する取引であり、商人が実際に行っている事業、あるいは その準備をしているもの ウ)その他 ・支配人が商人の許可なくア)イ)の行為をした場合、支配人の債務不履行となり、 解任事由になるとともに、商人は支配人に対して損害賠償請求できる その際、イ)については、支配人が商人の許可なく競業取引をしたときは、当該行為に よって支配人または第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する ( 23 Ⅱ 、 会 12 Ⅱ 、 損 害 額 の 推 定 ) ←競業取引に基づく損害額の算定およびその証明の困難さを考慮して ・ただし、支配人が商人の許可なく、自ら営業を行い、自己または第三者のために営業の 部類に属する取引を行った場合でも、その取引自体は有効 ・ な お 、 介 入 権 制 度 ( 改 正 前 商 法 41 Ⅱ ) は 、 平 成 17 年 商 法 改 正 に よ り 廃 止 さ れ た [図 6 - 3 ] 表 見 支 配 人 を め ぐ る 当 事 者 関 係 ②使用許諾 Y A (商人) ”支店長” ①外観の存在 (使用人) 24 条 に 基づく請求 取引 誤認 X (相手方) ③Xの悪意・重過失 (5)表 見 支 配 人 ア)意義 ・支配人とは、包括的代理権(支配権)を有する商業使用人である(実質説) そのため、例えば○○支店支店長という名称を付している使用人がいても、その者が 支配権を有していなければ、支配人には当たらない -5- しかし、取引の相手方としては、支店長という名称が用いられていると、その者に 支配権があると誤認して取引してしまうことがある ↓そこで 商法は、商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、 当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなすとする ( 24 、 会 13) ←取引の安全確保のために、民法の表見代理とは別に、名称への信頼を保護するもの 類 似 の 制 度 と し て 、 表 見 代 表 取 締 役 ( 会 354) イ)要件 ①営業所の営業の主任者であることを示す名称の使用(外観の存在) ・営業所とは、商人の営業上の活動の中心たる場所である* *商人の営業活動の中心となる(営業の指揮がそこから発せられ、営業活動の成果がそこに統一 される)場所であり、客観的に営業活動の中心としての実質を備えているか否かで決まる。 これに対し、事実行為を行うだけの工場、倉庫、鉄道の駅・売店などはこれに当たらない。 →そのような実質を持った本店・支店の主任者たる名称を使用していることが必要 ( 最 判 昭 37・ 5・ 1 民 集 16 巻 5 号 1031 頁 [百 選 27]) →営業所としての実質が存在しない場合には、民法の表見代理による保護対象 これに対し、必ずしも営業所としての実質がなくても、外観上営業所と認められれば、 本店・支店と解することができるとの説もある →そのような「営業所」における主任者としての名称使用でも、表見支配人たり得る ・営業の主任者であることを示す名称 ex.支店長のほか、支社長、営業本部長、店長等 ただし、他により上席者がいることが明らかな名称(次長や支店長代理)は除外 ②名称の使用の許諾 ・許諾は明示・黙示を問わない 使用人が営業の主任者たる名称を用いている事実を知りながら、特別の措置を 講じなかった場合も含まれる ③相手方の善意 ・ 本 条 は 、 相 手 方 が 悪 意 で あ っ た と き は 適 用 さ れ な い ( 24 但 書 、 会 13 但 書 ) ・悪意とは、当該取引において当該使用人が支配人ではない(包括的代理権を有して いない)を知っていたこと ・重過失は悪意と同視される(通説) ・善意・無重過失の有無は、取引の時点で判断 ・相手方の悪意・重過失の立証責任は、商人が負う ウ)効果 ・裁判上の行為を除いて、支配人と同一の権限を有するものとみなされる →その者が置かれた本店・支店の営業に関する一切の裁判外の行為について正規の 支配人が行ったのと同じ効果を生じる =商人が当該使用人の行為により義務を負うとともに、権利をも取得する ・表見支配人が成立するのは、当該営業所における営業に関する行為に限られる 営業に関する行為とは、営業の目的たる行為のほか、営業のため必要な行為を含むもの であり、かつ、営業に関する行為に当たるかどうかは、その行為の性質・種類等を勘案 し 、 客 観 的 ・ 抽 象 的 に 観 察 し て 決 す べ き も の で あ る ( 上 記 最 判 昭 54 、 上 記 (3)イ )) e x . 銀 行 の 支 店 長 が 貸 付 先 か ら 靴 下 を 5,000 ダ ー ス 買 い 入 れ 、 銀 行 支 店 長 名 義 の 約 束 手形を交付した場合は、客観的に見て銀行の支店長の権限内の行為とはいえない ( 最 判 昭 32・ 3・ 5 民 集 11 巻 3 号 395 頁 ) ・表見支配人の相手方である第三者は、当該取引の直接の相手方に限られる* *手形行為の場合には、この直接の相手方は、手形上の記載によって形式的に判断すべきものでは な く 、 実 質 的 な 取 引 の 相 手 方 を い う も の と 解 す べ き で あ る ( 最 判 昭 59・ 3・ 29 判 時 1135 号 125 頁 [百 選 28])。 -6- 3.その他の商業使用人 ・ 商 法 は 、 支 配 人 の ほ か 下 記 (1 )(2 )の 商 業 使 用 人 の 代 理 権 に つ い て 規 定 す る (1)あ る 種 類 ま た は 特 定 の 事 項 の 委 任 を 受 け た 使 用 人 ・商人の営業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に 関 す る 一 切 の 裁 判 外 の 行 為 を す る 権 限 を 有 す る ( 25 Ⅰ ) ←このような使用人は、支配人のように包括的な代理権は与えられていないが、特定の 事項について代理権が与えられている(営業全般でないという点で支配人より狭い) そのため、これらの使用人は委任事項の範囲内については裁判外の一切の代理権を 有する ex.部長、課長、係長、主任など ・ 25 条 の 使 用 人 の 代 理 権 に 加 え た 制 限 は 、 善 意 の 第 三 者 に 対 抗 す る こ と が で き な い (同Ⅱ) 重 過 失 は 悪 意 と 同 視 さ れ る ( 大 阪 高 判 昭 56・ 12・ 16 判 時 1054 号 148 頁 ) ・ 25 条 の 使 用 人 は 支 配 人 と 同 様 に 実 質 的 概 念 で あ る か ら 、 当 該 使 用 人 に 当 た る ど う か は 名称ではなく、営業に関するある種類または特定の事項の委任を受けたかどうかに よって決まる 判 例 は 、 25 条 1 項 に よ る 代 理 権 限 を 主 張 す る 者 は 、 当 該 使 用 人 が 営 業 主 か ら そ の 営 業 に関するある種類または特定の事項の処理を委任された者であること、および当該行為 が客観的に見て右事項の範囲内に属することを主張、立証しなければならないが、 右事項につき代理権を授与されたことまで主張、立証する必要はないとする ( 最 判 平 2・ 2・ 22 集 民 159 号 169 頁 [百 選 30]) ・ 25 条 の 使 用 人 の 選 任 ・ 解 任 は 、 商 人 だ け で な く 、 支 配 人 も 可 能 ( 21 Ⅱ ) ・株式会社では、支配人に該当しなくても、重要な使用人の選任・解任については、 取 締 役 会 の 決 議 が 必 要 ( 362 Ⅳ ③ ) ・ 支 配 人 と 異 な り 、登 記 義 務 が な く( 22 参 照 )、競 業 避 止 義 務( 23)が 課 せ ら れ て お ら ず 、 表 見 支 配 人 ( 24) に 相 当 す る 規 定 も な い ただし、競業避止義務については類推適用を主張する見解もある ・部長や課長の肩書きを商人から付与されているものの、契約締結の代理権限を 与 え ら れ て い な い 者 と 取 引 を し た 相 手 方 の 保 護 に つ い て は 、 民 法 109 条 に よ る 表見支配人の規定の類推適用を主張する見解もある (2)物 品 販 売 店 の 使 用 人 ・物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為)を目的とする店舗の使用人は、 そ の 店 舗 に 在 る 物 品 の 販 売 等 を す る 権 限 を 有 す る も の と み な さ れ る ( 26) ←通常、店舗内に販売等のために置かれている物品については、その店舗の使用人に 販売代理権があると考えられる そのため、当該使用人に対して現実には商人が販売代理権を与えていない場合でも、 当該使用人に販売代理権があると信じて物品等を購入した相手方の信頼を保護する 必要がある ・ただし、当該使用人にそのような代理権がないことについて相手方が悪意であった場合 この規定は適用されない(同但書) ex.物品販売店にいる使用人であっても、相手方がその者は清掃だけに従事する者で あることを知っていた場合 ・本条は、店舗から外へ出て行われる商談については適用されない ・本条の販売等には、販売だけでなく、賃貸その他これらに類する行為が含まれる ex.レンタルビデオ店のような物品の貸借を行う店舗の使用人 -7- Ⅲ.代理商 1.代理商の意義 ・ 商 人( 本 人 )の た め に そ の 平 常 の 営 業 の 部 類 に 属 す る 取 引 の 代 理 ま た は 媒 介 を す る 者 で 、 そ の 商 人 の 使 用 人 で な い も の ( 27) ・代理商は、商業使用人と同様に、企業の営業の補助者(上述) 商人内部の補助者である商業使用人と異なり、代理商は外部の独立の商人 ただし、他の補助商(仲立、問屋)と異なり、特定の商人を補助するという点で 商業使用人と共通する ・商法は、第一編「総則」において、代理商の権限や商人および代理商との関係について 規 定 ( 27 ~ 31、 会 16 ~ 20) す る 一 方 で 、 他 の 補 助 商 に つ い て は 第 二 編 「 商 行 為 」 で 規定 ・代理商制度のメリット 代理商を利用することで、商人はその営業範囲を拡大することができる しかし、 そのために、支店を設け、商業使用人を派遣して営業を行わせるよりも、 各地に居住する代理商に取引の代理や媒介を委託した方が、以下の点で有利 ・独立の商人である代理商のもつ専門的知識や経験を利用できる ・商業使用人と比べて契約関係の解消が容易なので、営業規模が伸縮自在 ・商業使用人のような定額の俸給ではなく、手数料なので、コストが削減できる ・商業使用人のような雇用関係から生じる監督、福利厚生等の負担が不要 (1)特 定 の 商 人 の た め に そ の 平 常 の 営 業 の 補 助 を す る 者 ・ 代 理 商 は 「 特 定 の 商 人 ( 本 人 )」 の 補 助 者 本人は商人でなければならない →本人が商人でない場合は、民事代理商であり、商法上の代理商とは異なる e x . 相 互 会 社 ( た だ し 商 法 の 代 理 商 の 規 定 が 準 用 、 保 険 業 21 Ⅰ ) ・商人は特定されていれば複数名であってもよい た だ し 、 代 理 商 が 他 の 者 の 代 理 商 を 兼 ね る 場 合 、 競 業 避 止 義 務 ( 下 記 3 (2) ) に 違 反 す る お そ れ が あ る の で 、 本 人 の 承 諾 が 必 要 ( 28 Ⅰ 、 乗 合 代 理 店 ) ・「 平 常 の 営 業 」 を 補 助 す る と は 、 本 人 と の 間 に 継 続 的 委 託 関 係 が 存 在 す る こ と が 必 要 (2)商 人 の 営 業 の 部 類 に 属 す る 取 引 を 媒 介 ま た は 代 理 す る 者 ・「 代 理 」 と は 、 本 人 の 代 理 人 と し て 相 手 方 と 取 引 を 行 う こ と ( 締 約 代 理 商 ) ・「 媒 介 」 と は 、 本 人 と 相 手 方 と の 間 で 取 引 が 成 立 す る よ う に 各 種 の 仲 介 ・ 斡 旋 ・ 勧 誘 等 の事務を行うこと(媒介代理商) ・締約代理商は、自ら相手方と契約を締結するという点で取次商と類似するが、特定の 商人のために継続的にその代理人として契約するという点で異なる ・媒介代理商は、他人のために商行為の媒介をする点で仲立人と共通するが、特定の商人 のために継続的に媒介を行い、かつ、当該商人に対して義務を負うにすぎない点で 異なる (3)取 引 の 代 理 ま た は 媒 介 を 引 き 受 け る こ と を 業 と す る 者 ・代理商は、商行為の代理または媒介を引き受けることを業とする者 → 営 業 的 商 行 為 を 行 う 独 立 の 商 人 ( 502 ⑪ ⑫ ・ 4 Ⅰ ) ・一人の商人のための代理商であっても、基本契約たる代理商契約に基づき、営利目的を もって代理・媒介を反復継続して行うので業とするといえる ・代理商は、一人の商人と一つの代理商契約の下に締約代理商と媒介代理商とを兼ねる ことができる ex.損害保険代理店 ・代理商であるか否かは、当事者間で締結される契約の実質による ①報酬の性質、②営業所の所有関係、③営業費用の分担関係などから総合的に判断 -8- ・独立の商人であるという点で商業使用人と異なるが、違いが明確でないこともある ex.大企業と小規模代理商 (4)代 理 商 の 例 ・元々は、保険業、海上運送業などの分野において利用・発展 ・損害保険代理店(保険業 2 ⑲、生命保険相互会社の代理店は民事代理商) ・旅行業者代理業(旅行業 2 Ⅱ) ・家電製品や自動車の販売代理店(特約店)? →メーカー・他の卸売業者から買い取った商品を転売する形をとってメーカーからの 販売チャネルとして系列化(系列代理店) ・ 競 業 避 止 義 務 ( 専 属 店 制 )、 一 手 販 売 権 、 テ リ ト リ ー 制 、 商 標 ・ マ ー ク 等 の 使 用 許諾、信用供与を含む特約店契約 ・多くの場合、商人の代理・媒介を行うのではなく、直接代理店が当事者となり 売買契約を締結→商法上の代理商ではない ・一定の地域における独占販売権(専売制)→独禁法上の問題 [図 6 - 3 ] 締 約 代 理 商 と 媒 介 代 理 商 の 差 異 <締約代理商> <媒介代理商> 代理商契約 代理商契約 商人 代理商 (本人) (代理人) 商人 代理商 媒介 契約関係 契約締結 契約関係 相手方 相手方 3.商人と代理商との関係(内部関係) ・商人と代理商との間の契約を代理商契約といい、商人と代理商との関係は この代理商契約によって決まる(下記4) ・代理商契約の性質 ・ 締 約 代 理 商 : 商 人 の た め に そ の 取 引 の 代 理 を な す こ と を 受 託 → 委 任 契 約 ( 民 643 ) ・ 媒 介 代 理 商 : 商 人 の た め に そ の 取 引 の 媒 介 を な す こ と を 受 託 → 準 委 任 ( 民 656) ・代理商契約には、特約または他の法令上の別段の定めがない限り、民商法の委任に 関 す る 規 定 が 適 用 さ れ る ( 民 643 以 下 、 504 - 506) → 代 理 商 は 商 人 に 対 し て 善 管 注 意 義 務 を 負 い ( 民 644)、 代 理 商 は 本 人 に 対 し て 報 酬 請 求 権 ( 512)、 費 用 前 払 請 求 権 ( 民 649)、 費 用 償 還 請 求 権 ( 民 650) を 有 す る ・さらに、商人と代理商との継続的関係を考慮して、商法は代理商に対して特別の義務を 課している (1)通 知 義 務 ・代理商は、取引の代理または媒介をしたときは、遅滞なく、商人に対して、その旨の 通 知 を 発 し な け れ ば な ら な い ( 27、 会 16) ←商取引における受任者の報告義務を民法より強化したもの 商 人 か ら の 請 求 が な く て も 、 ま た 委 任 の 終 了 前 で も 通 知 が 必 要 ( 民 645・ 656 参 照 ) ・通知義務を怠ったために本人が損害を被った場合、代理商は損害賠償責任を負う (2)競 業 避 止 義 務 ・ 代 理 商 は 、 商 人 の 許 可 を 受 け な け れ ば 、 以 下 の 行 為 を し て は な ら な い( 28 Ⅰ 、 会 17 Ⅰ ) ①自己または第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること -9- ②その商人の営業と同種の事業を行う会社の取締役、執行役または業務を執行する社員 となること ←代理商が商人の営業の代理・媒介をする過程で知り得た情報を利用して自己または 第三者の利益を図ることを防止するため 独立の商人であることから、支配人と異なり、営業禁止義務は課せられていない ・この規定により、乗合代理店など、同種の営業を営む複数の商人の代理商となるには、 それぞれの商人の許可が必要となる ・ 代 理 商 が 競 業 避 止 義 務 に 違 反 し た 場 合 、 代 理 商 契 約 の 解 除 事 由 と な る ( 30 Ⅱ ) ほ か 、 商人に対して損害賠償義務を負う そのうち、代理商が商人の許可なく①の行為をしたときは、その行為によって代理商 ま た は 第 三 者 が 得 た 利 益 の 額 は 、 商 人 に 生 じ た 損 害 の 額 と 推 定 す る ( 28 Ⅱ 、 会 17 Ⅱ 、 損害額の推定) ・なお、介入権制度は廃止された (3)留 置 権 ア)意義 ・代理商は、取引の代理または媒介をしたことによって生じた債権の弁済期が到来して いるときは、その弁済を受けるまでは、商人のために当該代理商が占有する物または 有 価 証 券 を 留 置 す る こ と が で き る ( 31) ←本人と継続的な関係に立つ代理商を保護するため とりわけ商人の所有となっていない物を第三者から得て商人のために占有することが 多いことに配慮 ・ た だ し 、 当 事 者 が 別 段 の 意 思 表 示 を し た と き は 、 こ の 限 り で な い ( 31、 会 20) ・ そ の ほ か 、要 件 が 充 足 さ れ れ ば 、代 理 商 は 、民 事 留 置 権( 民 295)、商 人 間 の 留 置 権( 521) もまた利用できる イ)要件 a.被担保債権 ・取引の代理または媒介をしたことによって生じた債権であること ex.報酬請求権、立替金償還請求権 →被担保債権と目的物の牽連性は不要 =商人間の留置権と同様、民事留置権よりも範囲が広い → 「 商 行 為 と な る 行 為 に よ っ て 生 じ た 債 権 」( 521) で あ る だ け で は 足 り な い =商人間の留置権よりも範囲が狭い ・債権の弁済期が到来していること(民事留置権、商人間の留置権と同じ) b.留置物 ・商人のために代理商が占有する物または有価証券 ・債務者(商人)との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物 ( 521 参 照 ) で あ る 必 要 は な い →商人間の留置権よりも範囲が広い ウ)効果 ・平時の留置権の効力は民法の一般原則に従う 代 理 商 は 債 権 の 弁 済 を 受 け る ま で そ の 物 を 留 置 す る こ と が で き( 民 295 Ⅰ 、留 置 的 効 力 )、 そ こ か ら 生 じ る 果 実 ( 民 88) に つ い て も 優 先 弁 済 に 充 て ら れ る ( 民 297 Ⅰ ) た だ し 、 形 式 競 売 ( 民 執 195) に よ り 優 先 弁 済 を 受 け る こ と が で き る 可 能 性 が あ る ・これに対し、債務者が倒産した場合、民事留置権と異なり特別な保護を受ける 民 事 留 置 権 は 破 産 手 続 開 始 に よ り そ の 効 力 を 失 う ( 破 産 66 Ⅲ ) の に 対 し 、 代 理 商 の 留 置 権 ( 31 、 会 社 20) は 、 商 人 間 の 留 置 権 等 と 同 様 に 、 破 産 財 団 に 対 し て は 「 特 別 の 先 取 特 権 」 と み な さ れ ( 破 産 66 Ⅰ )、 商 事 留 置 権 は 「 別 除 権 」 と な る (破産 2 ⅨⅩ) →商事留置権者は別除権者として、破産手続によらないで留置権を行使できる (破 産 65 Ⅰ ) また、商法上の留置権で担保された債権は会社更生法上、更生担保権とされる - 10 - (会社更生 2 Ⅹ) 4.代理商と第三者との法律関係(外部関係) ・代理商の代理権の有無およびその範囲は、商人との間の代理商契約によって決まる 締約代理商は、委任された行為をするために客観的に必要と認められる範囲の代理権を 有するのに対し、媒介代理商は、特に代理権を与えられない限り、代理権を有しない* * 意 思 表 示 の 瑕 疵 等 は 媒 介 代 理 商 で は な く 本 人 に つ い て 判 断 さ れ ( 民 101 参 照 )、 ま た 、 意 思 表 示 の受領権限もない。 ・ た だ し 、 物 品 の 販 売 ま た は そ の 媒 介 の 委 託 を 受 け た 代 理 商 は 、 商 法 526 条 2 項 の 通 知 (買主から売主への目的物の瑕疵・数量不足の通知)その他売買に関する通知を受ける 権 限 を 有 す る ( 29、 会 18、 受 動 代 理 権 の 擬 制 ) ← 商 人 間 売 買 に お い て は 買 主 に 目 的 物 の 検 査 ・ 瑕 疵 通 知 義 務 ( 526 ) が 課 せ ら れ て い る ことから、売主の代理商に通知の受領権限を与えて、買主の便宜を図ったもの 代理権を有しない媒介代理商において意義を有する ex.瑕疵担保責任の追及→代理権がない媒介代理商に対する通知でも有効 ・これに対し、売買に関する通知以外については、媒介代理商に受け取る権限はない →本人から授権されない限り、本人のために代金を受け取ることもできない ・ 立 法 論 と し て は 、「 物 品 の 販 売 ま た は そ の 媒 介 の 委 託 を 受 け た 代 理 商 」 以 外 の 代 理 商 に ついても、通知を受ける権限を認めるべきとされる 5.代理商契約の終了 ・代理商契約は、締約代理商であれば委任、媒介代理商であれば準委任に当たる これらはいずれも民法の委任に関する規定が適用・準用される そ の た め 代 理 商 契 約 は 委 任 の 解 除 お よ び 委 任 の 終 了 事 由 に よ り 終 了 す る ( 民 651・ 653) ↓しかし 継続的信頼関係を基礎として成立している代理商契約において、民法の原則通りに 解 約 ( 民 651 Ⅰ ) を 認 め る こ と は 適 切 で は な い そこで、商法は、代理商契約の終了について、以下の特則を設けている ①商人および代理商は、契約の期間を定めなかったときは、2 ヶ月前までに予告し、 そ の 契 約 を 解 除 す る こ と が で き る ( 30 Ⅰ 、 会 19 Ⅰ ) ←民法のように即時解除を認めるのは適切ではないから ・予告をしないで解除した場合、2 ヶ月が経過すれば解除の効果が発生する ・解除による損害賠償の可否? 解 除 に よ り 一 方 当 事 者 に 損 害 が 生 じ て も 、 民 法 651 条 2 項 の 適 用 が 排 除 さ れ る た め 、 相 手 方 の 損 害 賠 償 請 求 は 認 め ら れ な い ( 大 阪 地 判 昭 54・ 6 ・ 29 金 判 583 号 48 頁 ) ・予告期間は特約で短縮・排除できる(民法のような即時解除も可能) ・契約期間の定めがあるときは、期間の満了により代理商関係が消滅する* * 期 限 の 定 め の 解 釈 に つ い て 、 東 京 地 判 平 10・ 10・ 30 判 時 1690 号 153 頁 [百 選 31]参 照 。 (実際には期間満了とともに更新されることが多い) ②やむを得ない事由があるときは、期限の定めがあると否とを問わず、商人および 代 理 商 は 、 い つ で も そ の 契 約 を 解 除 す る こ と が で き る ( 30 Ⅱ 、 会 19 Ⅱ ) ・やむを得ない事由とは、信頼関係が崩れ、代理商関係を継続することが社会通念上 著しく不当な場合をいう ex.代理商が重病にかかったとき、代理商の債務不履行や不誠実な行為、 商人の営業上の重大な失敗や債務不履行など ・解除による損害賠償の可否? 同 条 1 項 の 場 合 ( 上 記 ① ) と 異 な り 、 民 法 の 規 定 ( 民 652・ 620 但 書 ) の 適 用 が 排 除 されないから、当事者の一方に過失があれば、相手方は損害賠償請求できると 解される ・ そ の ほ か 、 民 法 に お け る 委 任 の 終 了 事 由 ( 民 653) の う ち 、 本 人 の 死 亡 に よ っ て は 代理商契約は終了しない ← 商 行 為 の 委 任 に よ る 代 理 権 は 、 本 人 の 死 亡 に よ り 終 了 し な い 旨 定 め る 商 法 506 条 の - 11 - 適用または類推適用 ・代理商契約は本人の営業の存在を前提とするから、本人の営業の終了と同時に代理商 契約も終了する ・ 営 業 譲 渡 に つ い て は 争 い が あ る が 、 支 配 人 の 終 任 の 場 合 ( 上 記 Ⅱ 2 (2)イ ) ③ ) と 同様に、終任事由と解すべき - 12 -
© Copyright 2024 ExpyDoc