商法概論・商法総則レジュメ 根本 第5回:商号 [設 例 5 - 1 ] 脱サラしてラーメン屋を開業しようと思ったAさんは、千葉県市川市八幡1丁目1 − 1で「Aラーメン」という名前で商売を始めることにした。他方、千葉県市川市富 浜1丁目2には、すでに「Aラーメン軒」という名前のラーメン屋がある。Aさんが 「 A ラ ー メ ン 」 と い う 名 前 で 商 売 を 始 め る こ と に 法 的 問 題 は な い か ? A さ ん が 、「 A ラーメン」を会社として立ち上げる場合はどうか? [設 例 5 - 2 ] A さ ん が ラ ー メ ン 屋 を 開 業 し て 3 年 後 、「 A ラ ー メ ン 」 は 売 り 上 げ も 良 く 、 商 売 は 順調であった。そんなとき、Aさんは友人のBさんから、Aさんと同様にラーメン屋 を始めたいので、評判のいいAさんの店の名前を開業のときだけ一時的に使わせてく れないかと頼まれた。Aさんはこれに応じ、その結果、Bさんは、店舗用の建物の賃 借 、 お よ び 材 料 の 仕 入 れ に 際 し て 、「 A ラ ー メ ン 」 の 名 義 で 取 引 を 行 っ た 。 こ れ に よ りAさんはどのような法的なリスクを負うか? Ⅰ.総説 1.商号とは何か (1)総 説 ・商号とは、商人が営業上の活動において自己を表示するために使用する名称 ex.京王電鉄株式会社、株式会社三井住友フィナンシャルグループ 、Aラーメン こ れ に 対 し 、「 ミ ス タ ー ド ー ナ ツ 」「 ガ ス ト 」「 富 士 そ ば 」 は 商 号 で は な い ・本来は会社とその社員とを区別するために会社固有の名称を用いたことに始まり、 それが自然人である商人にも広がった cf.日本における屋号(~屋など、一門・一家の特徴を基に家に付けられる称号) ・主に商法、会社法および商業登記法等において、その取扱いについて規定されている ほかに、不正競争防止法においても商号に関する法規制が存在する (2)商 号 制 度 の 目 的 ①商号を使用する商人の経済的利益の保護 ・商号は商人にとってその名声や信用を示し、かつ維持するもの(商号の顧客誘引力) →他人による不正な商号の使用を排除し、他人に妨害されることなく当該商号が利用 できようにする必要がある ・商人は商号の価値を有利に利用するために、他に譲渡したり相続させたりすることを 期待する →そのための法規定の整備が必要となる ②商号制度の濫用から一般公衆を保護するため 紛らわしい商号や詐欺的な商号が用いられると一般公衆に被害が及ぶ(←顧客誘引力) →商人と一般公衆との関係において利害調整を行うための法規制が必要となる (3)商 号 の 意 義 ・商人が営業上の活動において自己を表示するために使用する名称(上述) ・文字で表すことができ、かつ発音可能なものでなければならない →図形・記号等を商号に用いることはできない(商標は商標法により保護) かつてローマ字等の外国文字は登記できないとされていたため、登記が強制される 会社では使用できなかったが、現在では外国文字の商号も登記できる ( 商 登 規 50 Ⅰ ) ・商人でない者がその営業について名称を使用しても商号ではない e x . 協 同 組 合 、 相 互 会 社 ( た だ し 会 社 法 8 条 等 の 準 用 、 協 同 6 Ⅲ 、 保 険 業 21 Ⅰ ) ・自然人が一般生活で用いる氏名や芸名・雅号等は商号ではない ただし、個人商人が営業関係において自己の氏名を使用することは可能 これに対し、会社には、商号以外には営業上の名称はない(会社名=商号、会 6 Ⅰ) -1- ・ 小 商 人 に は 商 号 に 関 す る 一 部 の 規 定 が 適 用 さ れ な い ( 7、 第 4 回 参 照 ) Ⅱ.商号の選定 1.商号の選定に関する立法主義 a.商号真実主義:商号が商人の氏名、営業の実態と一致することを要求する立場 (フランス法系) b.商号自由主義:商号の選定を商人の自由に委ねる立場(英米法系) c.折衷主義 :商号の選定にあたっては、商人の氏名、営業の実態との一致を要求 するが、営業の相続、譲渡等の場合にはそれまでの商号の続用を許す 立場(ドイツ法系) 2.商号選定の自由 ・商人(会社・外国会社を除く)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とする こ と が で き る ( 11 Ⅰ 、 商 号 自 由 主 義 ) ←わが国における屋号をそのまま商号として保護しようとしたこと e x .「 油 屋 」 と い う 名 前 の 旅 館 そ の 名 称 が 営 業 実 態 と 異 な っ て い て も 、営 業 上 有 用 な 商 号 で あ れ ば 、商 号 を 譲 り 受 け 、 相続することによってこれを利用したいと考える商人の便宜のため ・ただし、社会・公衆の利益の保護や取引の安全、他人の営業上の利益を保護するため、 以下のような制限がある 3.商号選定自由に対する例外 (1)会 社 の 商 号 ・ 平 成 17 年 に 成 立 し た 会 社 法 に よ り 、 会 社 の 商 号 に つ い て は 、 商 法 総 則 を 適 用 す る こ と なく、会社法が独自に規定することとなった(会社法第一編第二章) ・会社については、その名称が商号となる(会 6 Ⅰ) ・会社は、株式会社、合名会社、合資会社または合同会社の種類に従い、それぞれ その商号中に株式会社、合名会社、合資会社または合同会社という文字を用いなければ ならない(同Ⅱ) ex.○○株式会社、株式会社□□ ←会社の種類ごとに社員の責任が異なることから、会社と取引する相手方を保護 ・会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いて は な ら な い ( 同 Ⅲ 、 過 料 に つ き 978 ① ) ・会社でない者は、その名称または商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字 を 用 い て は な ら な い ( 会 7、 過 料 に つ き 978 ③ ) ex.合名商会 (2)銀 行 等 の 商 号 ・銀行、保険等の営業を営む会社は、商号中にこれらの文字を用いなければならない (銀行 6 Ⅰ、保険業 7 Ⅰ) ・これらの業種にない者はその名称や商号に「銀行」や「保険」などの文字を用いること ができない(銀行 6 Ⅱ、保険業 7 Ⅱ) (3)他 の 商 人 と 誤 認 さ せ る 商 号 の 使 用 ・何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある商号を使用 し て は な ら な い ( 12 Ⅰ 、 会 8、 下 記 Ⅴ 2 ) (4)同 一 の 所 在 場 所 に お け る 同 一 商 号 の 登 記 の 禁 止 ・他人が既に登記した商号と同一商号については、営業所の所在場所がその他人の商号 登 記 に 係 る 営 業 所 の 所 在 場 所 と 同 一 で あ る と き は 、 登 記 す る こ と が で き な い ( 商 登 27、 改 正 前 商 法 19 ・ 20[4 頁 参 照 ] 対 比 、 下 記 Ⅴ 1 ) -2- Ⅲ.商号の数(商号単一の原則) ・ある商人が同一の営業のために複数の商号を使った場合、一般公衆の誤解を招くおそれ があり、また、一つの営業につき多数の商号を持つことを認めると、他の商人の商号 選択の幅が狭まる ↓そこで 商人が一個の営業を行うにすぎないときには、商号は一つでなければならず、複数の 商号を用いることは禁止される(商号単一の原則) ・商法上の明文規定はないが、判例・通説ともにこの原則の存在を認める ( 大 判 大 13・ 6・ 13 民 集 3 巻 280 頁 ) ・ 会 社 に お い て は 、 そ の 名 称 が 商 号 で あ り ( 会 6 Ⅰ )、 商 号 は 一 つ に 限 定 さ れ る →商号単一の原則は問題にならない ・商号単一の原則は、営業所ごとか、それとも営業ごとに認められるか? 判例は、商人が数個の営業所を有する場合には、その営業所ごとに別個の商号を持つ こ と を 認 め る ( 上 記 大 判 大 13 ) これに対し、学説は各営業所の営業は一つの営業の構成部分にすぎないとして反対 ・なお、支店については、営業所所在地の地名や支店であることを示す文字を付加できる ←支店の営業にはある程度の独立性が認められるから ex.甲商店大阪支店 Ⅳ.商号の登記 1 商号登記制度 ・商人間の利害調整と商人と第三者との利害調整のために、商業登記制度の一環として 「商号」登記制度が設けられている 2.商号登記の手続 ・会社は設立登記によって成立し、設立登記に際して商号を必ず登記しなければならない ( 会 911 Ⅲ ② ・ 914 ② ) こ れ に 対 し 、 個 人 商 人 は 、 商 号 を 登 記 す る か ど う か は 自 由 で あ る ( 11 Ⅱ ) ・会社の場合は、設立登記において商号が登記され、別途商号を登記する必要はない これに対し、個人商人の場合、商号登記簿に登記される(商登 6 ①) ・ 商 号 登 記 の 手 続 は 、 商 業 登 記 法 に 規 定 ( 商 登 27 ~ 42) ・ な お 、 商 号 の 仮 登 記 制 度 ( 改 正 前 商 登 35・ 35 の 2) は 廃 止 さ れ た ( 下 記 Ⅴ 2 参 照 ) 3.商号登記の効力 ・ 同 一 の 所 在 場 所 に お け る 同 一 商 号 の 登 記 の 禁 止 ( 商 登 27、 上 述 Ⅱ 3 (4)) が 認 め ら れ る ・ こ れ に 違 反 し た 登 記 申 請 を 登 記 官 は 却 下 す る 義 務 が あ る ( 商 登 24 ⑬ ) ・誤ってこれに違反する登記がなされた場合、登記済み商号権者は、後から登記をした者 に 対 し て そ の 登 記 の 抹 消 を 請 求 す る こ と が で き る ( 商 登 134 Ⅰ ① ・ 24 ③ ) Ⅴ.商号権 1.意義 ・商号権とは、商人がその商号について有する権利であり、以下の2つから成る ① 商 号 使 用 権 ・・ ・・商 号 権 者 が 他 人 か ら 妨 害 さ れ る こ と な く 、 商 号 を 使 用 す る 権 利 (消極的商号権) ・登記商号、未登記商号を問わず認められる ・法律行為(契約の締結等)だけでなく、事実行為(広告・看板への記載等)において も認められる ・ 他 人 に 商 号 権 を 侵 害 さ れ た 場 合 、 不 法 行 為 ( 民 709) に 基 づ く 損 害 賠 償 を 請 求 で き る ② 商 号 専 用 権 ・・ ・・他 の 者 が 不 正 競 争 の 目 的 を も っ て 自 己 の 商 号 ま た は 類 似 の 商 号 を 使 用 する場合に、商号権者がその使用を排除することができる権利 (積極的商号権) ・ 商 法 12 条 ・ 会 社 法 8 条 お よ び 不 正 競 争 防 止 法 3・ 4 条 が 規 定 -3- ・ 改 正 前 商 法 で は 、 登 記 商 号 に 特 別 の 商 号 専 用 権 を 認 め て い た が ( 旧 商 19・ 20)、 現在は廃止され、商号専用権はもっぱら不正競争防止法に委ねられることとなった [旧 商 法 19 条 ] 他人ガ登記シタル商号ハ同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ之ヲ登記スルコトヲ得ズ [旧 商 法 20 条 ] 1 商号ノ登記ヲ為シタル者ハ不正ノ競争ノ目的ヲ以テ同一又ハ類似ノ商号ヲ使用スル者ニ 対シテ其ノ使用ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得但シ損害賠償ノ請求ヲ妨ゲズ 2 同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ他人ノ登記シタル商号ヲ使用スル者ハ不正ノ競争ノ 目的ヲ以テ之ヲ使用スルモノト推定ス ・その結果、現在では、登記商号に関しては、同一場所において同一の商号を登記する こ と は 許 さ れ な い ( 商 登 27 ) と い う 規 制 が あ る だ け ( 上 記 Ⅱ 3 (4)) 2.他の商人と誤認させる名称等の禁止 ・何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある商号を使用 し て は な ら な い ( 12 Ⅰ 、 会 8) ・不正の目的とは、違法の目的とは異なり、営業主体を誤認させる目的があればよい ( 最 判 昭 36・ 9・ 29 民 集 15 巻 8 号 2256 頁 [百 選 13]) ・被侵害者の商号が未登記でも、また、侵害者の商号が登記されていても適用がある ・商号の使用とは、法律行為だけでなく、事実行為に使用されている場合も含む ・誤認される商号の周知性、侵害者と被侵害者の営業の同種性も問われない ・非商人が、ある商人の商号と誤認するような名称を用いることも禁止される ・営業主体の誤認により利益を害された者は、違反者に対して商号使用の停止・予防を 請 求 で き ( 12 Ⅱ )、 違 反 者 は 過 料 に 処 せ ら れ る ( 13、 損 害 賠 償 請 求 は 民 法 709 条 に よ る ) 3.不正競争防止法による規制 ・不正競争防止法は、商号を含む商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、 商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの)について、以下のもの を 不 正 競 争 と し て 、 差 止 請 求 や 損 害 賠 償 請 求 を 認 め て い る ( 不 競 3・ 4 ) ①周知な商品等表示主体の混同行為 ・他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている(周知)ものと同一または 類似の商品等表示を使用等して、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為 (不競 2 Ⅰ①) ・周知とは全国的に認められる必要はなく、一地方において広く認識されるものであれば 足りる(類似表示の使用地域において周知性が認められなければならない) 登記や登録は不要 ・類似の判断に当たっては、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の 外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと し て 受 け 取 る お そ れ が あ る か 否 か を 基 準 と し て 判 断 す る ( 最 判 昭 58 ・ 10・ 7 民 集 37 巻 8 号 1082 頁 [百 選 12] ) ・混同とは、商品等表示自体に関する誤認ではなく、商品・営業の出所に関する誤認 ただし、現実に混同が生じている必要はなく、混同を生じさせるおそれがあれば足りる ・ 不 正 の 目 的 を も っ て ① の 不 正 競 争 を 行 っ た 者 は 罰 則 の 対 象 と な る ( 不 競 21 Ⅱ ① ) ②著名な商品等表示の冒用行為 ・自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一もしくは類似のものを使用等 する行為(不競 2 Ⅰ②) ・①と異なり、混同が要件とされていない ・著名性は、周知性よりも高い知名度が必要であり、通常の経済活動において相当の注意 を払うことでその表示の使用を避けることができる程度に知られていることが必要 地域的範囲については、全国的あるいはそれに近い範囲で知られていることが要求 ・他人の著名な商品等表示にかかる信用もしくは名声を利用して不正の利益を得る目的 で、または当該信用もしくは名声を害する目的で②の不正競争を行った者は罰則の対象 と な る ( 不 競 21 Ⅱ ② ) -4- Ⅵ.商号の譲渡・廃止・変更 1.商号の譲渡等 ・商号権は財産的価値を有するから、譲渡することができ、また、相続の対象となる ( 商 登 30 Ⅲ 参 照 ) しかし、商号は営業上の名称としての機能を有するから、商人が営業を継続したまま 商号だけを切り離して譲渡することを認めると、営業主の同一性について一般公衆を 誤認させるおそれがある ↓そこで 商法は、商号は、営業とともにする場合、または営業を廃止する場合に限り、譲渡でき る も の と し た ( 15 Ⅰ 、 同 様 の 趣 旨 に よ り 商 号 だ け の 差 押 え は 認 め ら れ な い ) 会社の場合、明文の規定はないが、事業の譲受会社による商号続用を前提とする規定 ( 会 22 Ⅰ ) や 会 社 が 事 業 を 廃 止 す る 場 合 に は 商 号 の 経 済 的 価 値 の 維 持 を 認 め る べ き で あることから同様に解される ・ 商 号 の 譲 渡 自 体 は 当 事 者 間 の 契 約 に よ り 有 効 に 行 う こ と が で き る が 、登 記 を し な け れ ば 、 第 三 者 に 対 抗 す る こ と が で き な い ( 15 Ⅱ 、 対 抗 要 件 と し て の 登 記 、 9 Ⅰ 対 比 ) ex.AがBに商号を譲渡し、その後Cに同じ商号を譲渡した場合、たとえCが悪意で あっても、Cが先に登記してしまえば、Bに対して自己が商号の譲受人であることを 主張できる [図 5 - 1 ] 商 号 の 二 重 譲 渡 「○×商会」 A ↓ B 第 1 売 買 ( 2013.6.1) 営業廃止 第 2 売 買 ( 2013.6.2) C 2013.6.2、 商 号 の 譲 渡 に よ る 変 更 の 登 記 ( 商 登 30) 2.商号の廃止・変更 ・商人が商号を廃止・変更することは自由 ・商人は、その営業を廃止した場合だけでなく、商号の使用だけを廃止した場合にも、 商号権を失う さらに、商人がその商号を変更したときも、変更前の商号について商号権を失う ・登記商号を廃止・変更した場合、商号の登記をした者は遅滞なく廃止・変更の登記の 申 請 を し な け れ ば な ら な い ( 10、 商 登 19 Ⅱ ) ・登記商号を廃止・変更した者が当該商号の廃止・変更の登記をしないときは、当該商号 の登記に係る営業所(会社にあつては、本店)の所在場所において同一の商号を使用 しようとする者は、登記所に対し、当該商号の登記の抹消を申請することができる ( 商 登 33 Ⅰ ① ③ ) ・商号の登記をした者が正当な事由なく 2 年間当該商号を使用しないときで、当該商号の 廃 止 の 登 記 を し な い と き も 登 記 の 抹 消 申 請 が で き る ( 商 登 33 Ⅰ ② ) Ⅶ.名板貸し 1.意義 ・名板貸とは、商人(名板貸人)が他人(名板借人)に対し、自己の商号を使用して営業 ま た は 事 業 を 行 う こ と を 許 諾 す る こ と を い う ( 14、 会 9 ) ・ 他 人 の 商 号 を 無 断 使 用 す れ ば 差 止 請 求 を 受 け る 可 能 性 が あ る ( 12) が 、 自 己 の 商 号 を 他人に使用させることは自由であり、商法は、商号の使用許諾自体については何らの 制限を置いていない -5- このような名板貸は、しばしば名板借人が名板貸人の信用・評判・営業上の資格などを 利用して、自己の営業・事業を有利するために行なわれる このような場合、取引の相手方は、名板借人を名板貸人と誤認して取引関係に入ること が多い ↓そこで 商法は、自己の商号を使用して営業または事業を行うことを他人(名板借人)に許諾 した商人(名板貸人)は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引を した者(相手方)に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済 す る 責 任 を 負 う ( 14 、 会 9 ) と 定 め る ←名板貸人の商号という外観を信頼(営業主体を誤認)して取引をした相手方保護 [図 5 - 2 ] 名 板 貸 責 任 を め ぐ る 当 事 者 関 係 ②使用許諾 Y A (名板貸人) ”Y商会” ①外観の存在 (名板借人) 14 条 に 基づく請求 取引 誤認 X (相手方) ③Xの悪意・重過失 2.要件 ①商号の使用(外観の存在) ・名板借人が名板貸人の商号を使用して営業をしていること 許諾を受けた者が独立して営業・事業を行うこと →単に手形行為をなすことについて商号使用を許諾した場合には、本条の問題ではない た だ し 、 判 例 は 、 商 法 14 条 の 類 推 適 用 を 認 め て 名 板 貸 人 の 責 任 を 肯 定 す る ( 最 判 昭 55・ 7・ 15 判 時 982 号 144 頁 [百 選 14]) →名板貸人は商人でなければならないか? 旧 商 法 23 条 は 、 単 に 「 自 己 ノ 氏 、 氏 名 又 ハ 商 号 ヲ 使 用 シ テ 」 と 定 め て い た た め 、 名 板 貸 人 は 商 人 で あ る 必 要 は な い と 解 さ れ て い た が 、 商 法 14 条 ( 会 9) は 、 「自己の商号」と規定している →名板貸人は商人・会社に限られる これに対し、商人以外にも類推適用すべきとの説もある →名板借人は商人でなければならないか? ・法文上、営業・事業を行うこととされているので、商人に限る(通説) これに対し、本条は外観信頼保護を目的とする規定であるから、広く人が他人の 氏名等を借用して経済的取引を行う場合にも適用すべきとの説もある →名板貸人と名板借人の営業が同種である必要があるか? ・判例は、特段の事情がない限り、同種の営業であることを要するとする ( 最 判 昭 43 ・ 6 ・ 13 民 集 22 巻 6 号 1171 頁 [百 選 16] ) これに対し、学説では、営業の同種性は必要ないとの見解が多い (ただし、相手方の重過失(下記③)の判断要素となる) ・同一の商号を使用した場合だけでなく、商号に付加的な文字を付けた場合も含まれる ex.甲株式会社宮崎出張所 -6- ②商号の使用許諾(帰責性) ・名板貸人が自己の商号の使用を許諾していること ・許諾は明示的なものだけでなく、黙示のものでもよい →商人が積極的に使用を許諾した場合だけでなく、他人が自己の商号を使用して営業・ 事業を行っていることを知りながら放置した場合も含まれる ただし無断使用を放置していただけでは黙示の許諾にはならず、その放置が社会通念 上妥当でないと認められる付加的事情が必要 ex.営業を廃止した後、従来使用していた工場等を賃貸し、賃借人が自己の営業 当時使用してた商号を使用していることを知りながらそれを阻止しない場合 ③相手方の誤認 ・取引の相手方が名板貸人を営業主であると誤認して取引をしたこと ・ 14 条 は 相 手 方 の 主 観 的 要 件 に つ い て 規 定 し て い な い が 、 相 手 方 は 名 義 貸 し の 事 実 に つ い て 善 意 ・ 無 重 過 失 で な け れ ば な ら な い と 解 さ れ る ( 最 判 昭 41 ・ 1・ 27 民 集 20 巻 1 号 111 頁 [百 選 15 ]) ・相手方の悪意・重過失の立証責任は、名板貸人が負う → 名 板 貸 人 は 、 相 手 方 の 悪 意 ・ 重 過 失 を 立 証 し て 14 条 の 責 任 を 免 れ る こ と が で き る ex.名板貸人と名板借人とで行っている営業の種類が全く異なっているような場合 3.効果 ・名板貸人は、名板借人と相手方との間の取引によって生じた債務について、 名 板 借 人 と 連 帯 し て 責 任 を 負 う( 民 法 の 無 権 代 理( 民 117)、表 見 代 理( 民 109・ 110・ 112) よりも相手方に有利) ・名板貸人は、許諾した営業の範囲内にある取引によって生じた債務についてのみ 責 任 を 負 う ( 最 判 昭 36・ 12・ 5 民 集 15 巻 11 号 2652 頁 ) た だ し 、商 号 使 用 を 許 諾 し た 範 囲 を 超 え る 取 引 に つ い て は 、民 法 の 表 見 代 理( 民 110) が成立する可能性はある ・ 14 条 に よ り 生 じ る 責 任 は 、 取 引 に よ っ て 生 じ た 債 務 取引から直接生じた債務のほか、債務不履行による損害賠償債務、契約解除による 原状回復義務、詐欺のような取引的不法行為による債務も含まれる これに対し、営業の範囲内であっても、取引によって生じたものではない事実的 不法行為に基づく債務については責任を負わない ・名板貸人は名板借人と不真正連帯債務の関係に立つので、相手方は、その選択によって ど ち ら に 対 し て も 請 求 で き る ( 民 432) ・名板貸人が名板借人に代わって債務を弁済したときは、名板貸人は名板借人に対して 求 償 す る こ と が で き る ( 民 442 類 推 ) 4 . 商 法 14条 の 適 用 領 域 の 拡 大 ・消費者XがスーパーマーケットYにテナントで入っていたペットショップAからインコ を購入したところ、インコの病気が伝染してXおよびその家族が病気になった事案に ついて、判例は、一般の買物客がAの経営するペットショップの営業主体はYであると 誤認するのもやむを得ないような外観が存在した場合、そのような外観を作出しまたは そ の 作 出 に 関 与 し た Y は 、 旧 商 法 23 条 ( 14、 会 23) の 類 推 適 用 に よ り 、 X と A と の 取引に関して名板貸人と同様の責任を負うとして、商号の使用の許諾ではなく、事実上 誤 認 し や す い 外 観 の 存 在 に 基 づ く 責 任 を 認 め た ( 最 判 平 7・ 11・ 30 民 集 49 巻 9 号 2972 頁 [百 選 17 ]) -7-
© Copyright 2024 ExpyDoc